フォースの暗黒面に堕ちた黒鉄一輝の話   作:A4

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 アニメを見ながらふと思いついて書いてみただけのものです。原作未読なので設定におかしいところがあるかもしれませんが気にしないで頂けると何よりです

12/19修正 


プロローグ

魔力が無いという事は必ずしもハンデというわけではない、あれば儲けものというのが世間一般の認識である。しかし伐刀者の家系、それも日本は愚か世界的にも有名な黒鉄家においてそれは障害を背負って生まれたも同然であった。

 そしてその生涯を持ち産まれてきた黒鉄一輝の人生は名前に沿うようなものではなく侮蔑と嘲笑に溢れた物であった。

 

 

 

 「おい!さっさと立てよ、落ちこぼれ!」

 道着を着た分家の少年が一輝の腹を蹴り上げる。一輝は木刀を支えにのろのろと立ち上がる。周囲の少年もそれを見て囃し立てる。監督役でもある師範もそれを止めようともせず苦笑しているだけであった。

 一輝は木刀を正眼に構え直し少年と対峙する。少年はその様子を嗤い、構えるわけでもなく木刀を肩に担いだ。

 「ォオッ!」

 一輝が気迫と共に打ち込む。足運び、木刀の振り降ろし、それらの技術は8歳の少年としては破格であり構えもせず油断している少年の頭を打つはずであった。

 「遅っ」

 笑いを含んだ声が一輝の横から聞こえた。一輝の目は加速した少年を捉えていた、しかし体が追い付かない、追いつけない。

 後頭部に火花が散ったような感覚がすると同時に一輝の身体が地に倒れ伏す。

 (……加速の異能か)

 遅れてきた痛みが頭を叩く。相手が何をしたのかは十分にわかっていた。伐刀者の象徴とも言える異能を使ったのであろう。技術的には未熟と言える物であったがそれでも一輝程度には十分であった。

 「俺はもういいや、こいつマジで弱ぇ」

 そう言い今しがた加速の異能を使った少年は一輝の一個下であった。

 「んじゃ次は俺だな」

 そう言い大柄な少年が木刀を片手に子供の輪から出てくる。歳は一輝の一つ上、怪力の異能を持っていた。一輝はその少年を睨みながらも木刀を片手に再度ゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

 

「…………」

 一輝が目を覚ました時は空が赤く染まり始めていた。周りにいた子供や大人はもういない。いつの間にか気を失っていたらしい。

 口の中に異物を感じ、唾と一緒にそれを地面に吐き出す。血で真っ赤になった唾の中に小さな白い個体が混ざっていた。歯であった。

 一輝はそれを見て口内の重い痛みの原因を理解し乾いた笑いを漏らすと木刀を杖代わりに右足を前に出した瞬間そのまま崩れ落ちた。右足に体重を掛けた瞬間鋭い痛みが全身を駆け巡り立つことが叶わなかった。一輝は木刀を松葉杖のように扱うと館に向けゆっくりと歩き始めた。

 

 

 

 

 黒鉄一輝は『大英雄』黒鉄竜馬を始めとした強力な伐刀者を輩出してきた黒鉄家の嫡男である。伐刀者とは自分の魂を具現化した武器を携え異能、魔法を以て戦う者たちの総称であり現代においては警察や軍と深くかかわっている。日本においてその伐刀者の元締めと言える黒鉄家は警察や軍のみならず政財界にも大きな影響を持っている。その黒鉄家の嫡男であるこのような真似をしたら子供だからといっても許されるはずがない。

 しかし一輝は魔力を持たず黒鉄家に産まれてきた。それは人権を認められないという事と同義であり、黒鉄家において一輝はいない者とされていた。

 

 

 「お兄様!大丈夫ですか!?」

 館に入るなり一個下の妹である黒鉄珠雫が慌てた様子で駆け寄ってくる。それも当然であろう一輝の道着は血と泥で塗れ顔もひどく腫れ上がっていた。

 「今すぐに人を呼びます。ですからそのまま…」

 「いや、大丈夫だよ珠雫。少し休めば治る」

 笑顔を貼り付け使用人を呼ぼうとする珠雫を押し退け気力を振り絞り階段を上がる。一輝はこの家の中で唯一慕ってくれる珠雫が決して嫌いなわけではなかった、しかし妹が自分より高い魔力を持ち固有霊装、伐刀絶技を扱えるようになるにつれ以前のように接することが出来なかった。顔を合わせれば合わせるほど自分の内から黒いナニカが滲み出て来て珠雫に対し顔を合わすことが出来なかった。

 

 

 「お、お父様…」

 一輝が上階まで登りきると父親である黒鉄厳が部屋から出て来たところであった。

 「……も、申し訳ありません。次は…」

 上手く動かない口を動すも厳は何も存在しないが如く表情を変えず下に降りて行った。一輝はしばらくその姿をぽかんと見送っていたが気を取り直し自分の部屋まで足を動かす。

 

 

 

 「強くなれば……強くなりさえすれば父様も僕を認めてくれる」

 寝台に倒れこみ言葉を絞り出す。彼の人生が変わったのは3年前の5歳の時であった。魔力と呼ばれる精神エネルギーの総量は生まれつきの物ではあるが上限が確定するのは5,6歳の頃であると言われている。その為一輝は5歳の時に魔力量測定を受けた。その結果を見た両親は顔を歪ませた。黒鉄一輝は伐刀者でありながら魔力が計測されなかった、正確にはあったが無いに等しい量であった。

 それ以来伐刀者の名家の嫡男であり次期当主候補であった一輝の世界は変わった。厳しくも優しかった父は一輝をいない者として扱い常に柔和な笑み浮かべていた母は一輝を見るなり涙を流し崩れ落ちた。そして本家に対し強烈なコンプレックスをもつ分家筋の人間は一輝に私刑同然の稽古をつけるようになった。

 今の一輝の唯一の支えは強くなり、父らに認めてもらう事ただそれだけであった。

 

 

 

 

 

 

 一輝は松葉杖を手に取るとベットから降りゆっくり歩きドアに向かった。一輝が意識を失っている間に治療が施されていた。足の骨折を始めとして各部の骨には罅が入り歩くのも一苦労であった。

 「……」

 ふと廊下の大窓から外を見ると兄である王馬が父と歩いているのを見かけた。兄は自分とは違い魔力を十分持ち剣も同世代の子の中では最も優れていた。

珍しい事に普段鉄面皮の父が微かな笑みを浮かべている。既に一輝に向けられることのなくなった笑みを。

 それを見て腹の内に黒いモノが湧きあがるのを感じた。一輝は胸を抑え膝を着いた。立っていることが出来なかった。胸が苦しくどれだけ呼吸をしても酸素が取り入れられないような錯覚に陥った。

 

 

 

 

 

 

 

 一輝はあれからどうなったのか殆ど覚えていなかった。気づけば地下の書庫に一輝はいた。書庫と言えば聞こえはいいが物置同然の扱いを受けており人が近づくことはなかった。一輝にとってここは妹の珠雫にも見つからない数少ない場所であった。

 書庫に着くなり一輝は立ち尽くしたまま考えにふける。恐らく父は無才の自分に見切りを付け分家筋から養子を取ったのであろう。それを考えるとどうしようもないほど腹立たしく憎悪が彼の身体を駆け巡った。

 「うわっ!」

 体をを乱暴に椅子に身を預けた時古くなっていた椅子の脚の一本が折れ一輝が本棚に叩きつけられ本が一輝の上に降り注いだ。

 「……」

 折れた足や痛む体を抑えつつ降り注いだ本をどかす。

 「『フォースの導き』?」

 自分の顔の上に落ちてきた本のタイトルにどうも惹かれページを捲る。内容はアメリカのある学者が古代の文献などから世界中に満ちている魔力とは異なるエネルギーについての研究を和訳した物らしかった。

 ラテン語でpotestasと表現されるエネルギーをその学者はフォースと訳していた。そのフォースは銀河全体に存在し万象を包み満たしている物であると説いていた。そして素質がる者はそのエネルギーに指向性を持たせ自在に操ることが出来るとも。

 8歳の少年にとって難しい表現もあったが認められたいがために勉強に励んでいたおかげでどうにか理解することが出来た。

 この本によれば善意、慈悲、恐怖、怒り、憎しみといった感情を呼び水にフォースを制御することができると書いてあり、一輝はその一説を読み一笑に付した。

 (感情だけでエネルギーを操作できる?そんな馬鹿な事があるわけないだろう)

 8歳という年齢で努力だけでどうにもならないという現実を叩き込まれた一輝はその本を嗤いながらも無意識のうちに先程自分を満たしていた負の感情を引き出し集中し本の通りに机の上のスタンドに念を送った。『上がれ』と。

 「…………ウソだろう…」

 目の前の光景を前にして一輝はようやく言葉を捻り出した。照明スタンドがまるで見えない手に持ち上げられているかのように浮いているのである。誰かが自分をからかっているのではないかと疑い周囲を見回すが誰もいる様子がない。

 本当にスタンドが自分の意思に従って動いているのか疑い念を送るとスタンドはそれに従い上へ下へ横へと動き、最後は高速で射出され壁に激突し落ちた。

 一輝はただその壊れた照明スタンドを見つめていた。

 




 感想を頂けると嬉しいです。
 フォースの設定におかしいところがあるかもしれませんがスルーしてください。手元の小説を読んでもいまいちわからない…

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