そして、ついに紅鳴館で働く、最終日がきた。
作戦決行は俺たちが館を去る1時間前―午後、5時。
アリアと相談した結果、最終日だから、庭で改良種のバラアリアの話を聞きたいという理由で小夜鳴をおびきだすこととなった。
その間にキンジは理子の宝物を取り戻す。
俺はキンジに頼んで余裕があればケースに入ってるという45ACP弾も回収してくれるように頼んだ。
そうなると陽動は重要だ。
俺は古賀先輩に頼んで花の知識等を電話で教えてもらい挑む。
「お待たせしました神崎さん月島さん」
研究室から出てきた小夜鳴。
さて、ラストミッションだ。
「いいえ、お忙しいところを無理にすみません」
アリアが言うがぼろがでないのを祈るだけだな
「構いませんよ。あまり、時間はとれませんがそれでよろしければ」
「フフフ、今日を私楽しみにしてました小夜鳴さん
あえて、先生とは言わずさんで呼ぶ。
古賀先輩いわく仲良くなるステップだ。先生→さん
「ハハハ、じゃあ行きましょうか神崎さん、月島さん」
スルーされたか……あるいは鈍感なのか……
とりあえず作戦開始だな。
「ユーユー、アリアキーくんが動いた」
理子の声が小型のイヤホンから聞こえてくる。
キンジは地上階から金庫の天井までもぐらのように穴を伝って到達し……そしてその天井から、コウモリのように逆さ吊りになったキンジがお宝を頂戴するのだ。
今、キンジは理子の支持を受けて作業を開始してるのだろう。
「……のように私は改良を施したのがこのバラ、アリアなんです」
「素晴らしいです。こんなに美しいバラを作ってしまわれるなんて小夜鳴さんはすごい方なんですね」
とにかく、誉められれば気分は悪くならない。
小夜鳴が調子に乗れば話を長引かせることも不可能ではないだろう。
後3分……余裕で引き延ばせる。
と思った時
嘘だろおい
雨粒が頬に当たる。
「おや?雨のようですね」
小夜鳴が空を見上げながら言った。
ま、まずいぞ。
「雨も降ってきましたしそろそろ戻りましょうか?楽しかったですよ神崎さん、月島さん」
屋敷に戻り始める小夜鳴先生を見て俺達は焦った。
小声でメイド服に仕込んだマイクで理子に状況を伝えてから
アリアが瞬き信号でなんとかしなさいよ言ってくる。
「アリア。ユーユー、まだ、キーくんは時間がかかる。なんとか会話ひっぱって。もたせて」
理子の指示を受けてからアリアが焦ったのか
「さ、小夜鳴先生」
「なんです?」
「あ、いえ、なんでめないんですけど。えっと」
「……はい?」
「いい天気ですね」
「えっ……?雨、降ってきてますけど……」
「え?あっ。えーっと、あ、雨好きなんですあたし!あははは」
駄目だ。
アリアには任せられんか……てんぱりすぎだ。
ハニートラップは嫌ならと古賀先輩に教えられた手段を使うしかないか……
俺はポケットから素早くカプセルを飲み込む。
その瞬間、理子との回線が切れた音がしたが……気にはしない。
全神経を使ってなりきるのだ。
「あっ……」
小夜鳴に聞こえるように言ってから額を押さえて庭に座り込む。
「月島さん?どうかしたんですか?」
よし、小夜鳴が戻ってきたぞ
「はぁ……はぁ……すみません……小夜鳴さん……アリア……私、黙ってたんですが病気なんです……今朝、飲まないといけない薬を飲み忘れて……」
「どうして黙ってたんですか?」
顔は真っ青になっているだろう。
実際、こいつは貧血を誘発する薬だからな。
「じ、小夜鳴先生に働けないと迷惑かくたくなくて……すみません……」
「辛いんでしょう?なんとか館まで戻れませんか?」
「はぁ……はぁ、あ、アリア」
「え? な、何?」
突然、名指しされたのでアリアが聞き返してくる
「く、薬を取ってきてください……私の部屋の机の中に……」
「わ、分かった。戻るまで頑張りなさい」
アリアまで本気にしたのか!急ぐなアリア!ゆっくりしろ!
「で、では私は傘を……」
「ま、待ってください!」
ここで戻られたらアウトだ
必死に小夜鳴の服を掴む
「つ、月島さん」
「て、手を握っていてください……この病気は精神的なものでもあるんです」
「わ、分かりました」
そっと、小夜鳴が俺の右手を握ってくる。
今、の奴には病弱な少女にしか見えていまい。
古賀先輩いわく、病弱な美少女は男心をくすぐるらしい
「ああ……最後まで迷惑かけてすみません小夜鳴さん」
「とんでもありません。すぐに、救急車を……」
携帯を取り出そうとした小夜鳴の手を俺はそっと上から押さえ、上目遣いに見上げる。
「救急車は嫌いなんです……薬があれば楽になりますから……」
「し、しかし……分かりました」
ザアアアと雨が降るなか時間は稼いだぞ。
案の定、アリアが高速で戻ってきて薬を差し出してきたので水がないと飲めませんとアリアを走ら、更に時間を稼ぎ薬を飲み終わると小夜鳴に肩を借りて、ソファーまで行き。
結果的に一時間以上という時間を俺は稼ぐことに成功したのだ。
もう、今後一切!二度と!絶対にやらないぞ!女装なんかな!
こうして、キンジと合流し、小夜鳴は何度かすみませんと謝りながら研究室に戻ってしまった。
やれやれと、私服に着替えキンジに肩を借りながら紅鳴館を後にした。
ちなみに、キンジとアリアは武偵高の制服だが俺は外で着替えた。
防弾私服でGパンとジャケットとシャツだな。
かつらだけはある理由からつけているから半女装状態ではあるが男ものの服を着る女性もいないわけではないので問題はないのだ。
「で?キンジ手に入ったか?」
タクシーを待ちながら俺が言う。
「ああ、優が言ってた分も手に入った。理子も嬉しそうにしてたな」
そういいながらキンジはポケットからケースに入った弾丸を俺に見せてくる。
「ちょっといいか?」
「ああ、優が持ってろよ」
俺はキンジからケースを受け取りまじまじと弾丸を見てみる。
なんのへんてつもない。
ただの45ACP弾だ。
だが、その瞬間頭痛がした。
「……っ!」
思い出した……こいつは……
横浜ランドマークタワーのエレベーターで上昇しながら俺は弾丸をポケットにしまった。