その日の夜も電話会議を行なった。
作戦結構は4日後、ここで働く最終日だ。
「理子、優、キンジマズいわ。掃除の時調べたんだけど……地下金庫のセキュリティが事前調査の時より強化されてるの、気持ち悪いぐらいに厳重。物理的な鍵に加えて、磁気カードキー、指紋キー、声紋キー、網膜キー。室内も事前調査では赤外線だけってことになってたけど、今は減圧床まであるのよ」
「な、なんだそりゃ」
キンジが言うのも無理はない。
こんな馬鹿みたいな警戒、米軍だってやらないぞ。
もう、俺だけなら手も足もでない。
小夜鳴をぶっとばして強奪するぐらいしか思い付かん。
もう、ブラド探してぶっ飛ばして返してもらうのがいいんじゃないか?
「よし、そんじゃプランC21で行くかぁ。キーくん、ユーユー、アリア何にも心配いらないよ。どんな厳重に隠そうと理子のものは理子のもの!絶対お持ち帰り!はう~!」
ま、俺一人には無理でも理子のサポートがあればいけるかな……
にしても夜中にハイテンションだな学生なのに
「んで、いま小夜鳴先生と仲良しランキング上位は誰かな?かなかな?」
「俺とアリアだな。」
「確かに、新種のバラにアリアとか命名されて喜んでたもんな」
とげのある言い方だなキンジ
「よ、喜んでないわよ!何言ってんの馬鹿なの?」
「おいアリア、気をつけろよ?小夜鳴には、女関係で悪いウワサがある」
「やめてくれキンジ!女装してんだから俺も気をつけねえと駄目じゃねえか」
まあ、万が一そんなことになったらボコボコにするけどな
「別に……悪い人には見えないけど」
意地を張ってるのかアリアが言う。
「いや。俺には怪しく見えるぞ。少なくても、あまり好きじゃない」
「だな、俺も気に入らない」
「おお?おおおー?痴話ゲンカってやつですか?」
嬉しそうに理子が割り込んできたので違うと三人の声がはもる。
「じゃあ、とりあえず先生を地下金庫から遠ざける役目はアリアとユーユーに決まりね!どう?できそう?」
「彼は研究熱心だわ。誘き出しても、すぐ研究室のある地下には戻りたがると思う」
「そこは俺もサポートする。古賀先輩にいろいろ教えてもらったからなんとかなるだろ」
「キーくん、ユーユー、アリアじゃあ時間でいえば何分くらい先生を地下から遠ざけられそう?」
「10~15分だな」
「うーん」
理子は少し考え込んでいるようだった。
さすがに厳しいか?
「なんとか15分頑張れないかな?例えばアリアが」
「たとえばあたしが?」
「ムネ……はないからオシリ触らせたりして。くふっ」
「ば、ばか!風穴!あんたじゃないんだから」
やれやれだな
「じゃあユーユーが熱烈に迫って……」
「断る!」
冗談じゃないぞ
「くふっ、まぁその辺は理子が方法考えとくよ!じゃ、また明日の夜中2時にね!りこりん、おちまーす」
ぷつんと理子との電話が切れてしまう。
「俺も落ちる。おやすみ」
まだ、回線が繋がってるはずのキンジとアリアの回線を切ってから携帯を枕元に投げて横になる。
さて、いよいよ大詰めだなこの作戦も……ブラドは帰ってくる気配を見せていない。
やはり、今回で理子を助けるのは無理か……この作戦が終わったら千鶴や実家に協力してもらってブラドを探してみるかな……
公安0も居場所ぐらいは掴んでるかもしれないし……
土方さんあたりに今度、ダメ元で聞いてみるかな……
そんなことを考えながら目を閉じていると眠気が襲ってくる。
ああ、寝るか……
「ゲゥゥウアババババハハハハハハハ。どうした椎名の天才とやらの力はそんなもんか?少しは期待した俺が馬鹿だったかぁ?」
「がっ……くそ……」
この記憶……
相手は闇がかかったような巨大な化物。
その正面には日本刀を地面に指してなんとかたっている。
少年の姿があった。
思い出した……これは……
「撒き餌は大人しく檻に戻れ。それとも4世と交配させるか?ゲゥゥウアババババハハハハハハハ!」
「お、お前は悪だ……僕は理子ちゃんを助けるんだ!ヒーローは絶対に負けない!」
「ゲゥゥウアババババハハハハハハハ!ヒーローだぁ?おい、餓鬼、笑わせてくれるよなぁ。そのヒーローさんはどうやってメス犬を助けるんだぁ?」
「くっ……」
ぽたぽたと落ちる血痕。
今、少年のもつ全ての剣を叩き込んでもブラドは倒せない。
だが、それでも少年は荒く息をはきながらも目を細めて構えを取る。
「まだ、やんのか?いい加減あきてきたな」
「うわああああ!」
その突進は少年の持つ最大の速度だった。
ブラドが右腕を震う。
刹那の瞬間、交わすと少年は一瞬、しゃがみこむと加速する。
「飛龍一式断風!」
「おっ!?」
ブラドの右腕が落ちる。
背後に回ってきた少年は追撃を緩めない。
石を蹴ると空に舞い上がる。
殺すつもりでやると少年は思った。
それぐらいやらなければ勝ち目はない。
「飛龍一式!雷落とし!」
「ぐぎゃあああああ」
ズンと手応えがありブラドが悲鳴をあげ、頭からまたまで真っ二つに切り裂かれる。
同時に、少年の剣が限界を迎えて折れる。
やったと少年は思った。
だが、それは絶望だった。
「やるじゃねえか」
「!?」
驚愕に目を見開いた少年の頭を闇からぬっと現れた手が掴む。
「ぐっ、なんで!」
「ゲゥゥウアババババハハハハハハハ!やったかと思ったか椎名?」
ぎりぎりと万力のようにブラドの手が握力を強める。
「ぎ、あああああああ!」
激痛に悲鳴をあげるとブラドは喜ぶように笑いながら
「どうしたヒーロー。もう終わりか?」
ぎりぎりと力が込められる。
何もできない自分が悔しい。
激痛と悲しみに少年は泣いた。
やがて、少年の手はだらりと下を向き持っていた折れた剣が地面に落ちた。
「ゲゥゥウアババババハハハハハハハ!悪にまけたヒーローか?こんなことするなんてお仕置きが必要だなぁ4世」
ブラドが言った時
シャン
「ああん?」
鈴の音だ。
ドドドドドド
6発の銃声が轟き、ブラドは握力を失ったことに気付いた。
少年が地面に落ちる。
「あ……」
目をあけ、闇から現れた人を見て少年は言った。
「師匠……」
シャンと髪につけた鈴の髪飾りをつけたその少女は炎の装飾が施されたガバメントを手に微笑んだ。
「随分、ぼろぼろだね優希」
目を開けると外は明るかった。
そうか……また、思い出した……
ブラドと戦った時、やっぱり師匠が助けてくれたんだ……
枕元においてある炎の装飾が施されたガバメントを手に取る。
「姉さん……」