緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

77 / 261
第76弾 報い

「失敗しただと?」

 

その初老の男は呆然とした声で言った。

その場にいた十数人の男女も狼狽の声を上げる。

 

「どういうことだ。 藤宮の小娘が生きていれば我々の分の遺産はなくなるんだぞ!」

 

「聞いてないわよこんなこと!」

 

電話に出ていた男、藤宮 香西は悲鳴をあげるように電話に絡みつく。

 

「どうしてくれるんだ! こんなこと警察にばれたら我々は・・・」

 

「そうですね。 さっさと国外逃亡をおすすめします。 何かの縁です。 中国の土地を用意しましょう」

 

静かな男の声が電話の向こうから聞こえてくる。

 

「ふざけるなミスターC! お前が協力してくれるというからこの暗殺計画に加担したんだ! それがなんだ! 藤宮の小娘の妹の方は爆死させることに失敗。 せめて、姉の法だけでもなんとかしていれば・・・」

 

「予想外の戦力がいたのですよ。 私は椎名の後継とウルスの姫、そして、その仲間達を過小評価しすぎていたようです。 こちらの戦力も過大評価してしまいましたがね」

 

「くそ! お前らは疫病神だ! 何がビジネスだ! この劣等民族が!」

 

「物事には引き際が大事です。 あなたがたのビジネスはここで破綻といたしましょう。日本を手に入れられなくて残念です。 それでご武運を」

 

「まっ!」

 

電話が切れる。

 

「くそ!」

 

香西は携帯を床に叩きつけた。

 

「すぐに逃げましょう。 外国に知り合いがいるの」

 

でっぷりと太ったドレスの女が立ち上がった。

遺産にたかるハイエナどもめ・・・

それに呼応して次々とその場にいた人間が立ち上がっていく。

みんな、ミスターCに巨額を払うかわりに遺産相続の分配を確約された物たちだ。

とにかく、ここは逃げるんだ。

兵庫県で多発していた事件の資金援助をしていたなんてバレれば・・・

その瞬間、神戸市街から離れた場所にある屋敷は闇に包まれた。

 

「て、停電か!」

 

分かりきったことをそこにいた男が言う。

 

「ぎゃあああああ!」

 

「!?」

 

突然の悲鳴のその場にいた全員が扉を向く。

ボディーガードの男が銃を抜いて扉に向けて香西の前に立つ。

 

「な、何が・・・」

 

男の言葉に答えるようにぎいいいと木の扉が開いていく。

雲に隠れていた月明かりが部屋全体を照らす。

男が一人立っていた。

男は日本刀を手にバカにしたように微笑みながら

 

「君たちかな? 中国の連中に資金援助して日本を売り渡そうとしていたのは?」

 

「香西様下がって!」

 

ドンとボディガードが銃を撃った。

ギン

それを男は右手を一閃しただけで払った。

ボディガードは目を丸くしてさらに撃とうとするがそれは叶わなかった。

男が左手に持った大型拳銃がボディガードの肩、足、を撃ち抜いたからだ。

 

「ぎ! ぐあ!」

 

悲鳴をあげて地面に倒れる。

 

「まったく、土方さんの命令だから来たけど雑魚しかいないんじゃ殺しがいもないよね」

 

「な、何ものだ! 警察か!」

 

にっと男は戦闘狂の笑を浮かべながら手帳を取り出して見せた。

 

「公安0課 沖田 刹那」

 

「こ、公安0!」

 

悲鳴をあげながらその場の人間は後ずさる。

当然だろう。

公安0は殺しを容認された戦闘集団。

国内最強と言われている化け物集団だ。

この男がここにいるだけでもすでに実力は明白だ。

この屋敷には100人以上の警備員がいた。

それをこの男は無効かしてきたのだ。

 

「た、助けて・・・」

 

悲鳴をあげるようにデブの女性が沖田にすがった。

沖田はにこりとして

 

「ダメだよ。 君たちはやりすぎた」

 

ひゅんと風を切る音と共にデブの女性の首が舞った。

 

血が噴水のように床を濡らす。

「ひっ!」

 

その場にいた人々は逃げようとするが唯一の出口は沖田がふさいでいる。

 

「た、助けて! なんでもする! 金ならいくらでも払う! だから・・・」

 

ドオン

 

デザートイーグルが命乞いをした男の頭を貫いた。

みんなしりもちを付いている。

 

「ち、中国の情報はどうだ! 私は相手の電話番号を知ってるぞ! 私は役に立つ!」

 

メガネをかけた中年の男が言った。

沖田は日本刀を自分の肩に置きながら

 

「情報収集はもう、すんでるんだよ。 相手はランパン、諸葛静幻、イ・ウーも多少絡んでるけど今回はランパンが僕らに売った喧嘩だよ」

 

「ランパン? イ・ウー?」

 

訳の分からないというように中年の男が首をかしげる。

ドオン

男が崩れ落ちる。

 

「こ、こんなことが許されるはずがない! 弁護士を呼べ! 私を誰だと思ってるんだ!」

 

「裁判にかかっても金の力でなんとかする気だよね? 政治家の祖父を持つ君ならなおさらだ」

 

「そ、そうだ私の祖父を誰だと思っているんだ! みんし・・・」

 

「だからこその公安0なんだよ」

 

一閃。 誰かの名前を語ろうとした男の顔はまっぷたつに切り裂かれた。

その後、次々、命乞いをする男女を沖田は殺していく。

そして、血の海の中、香西は最後の一人となった。

 

「君で最後だね」

 

日本刀を額に突きつけられ香西は失禁した。

 

「た、助け・・・」

 

「駄目だよ」

 

香西の首が宙を飛んだ。

香西が見たのは血を剣を振るうことで払う美男子の姿であった。

 

 

 

 

 

 

ぱしゃりと、血の海を歩きながら沖田は携帯電話を取り出した。

 

「ああ、土方さん。 終わりましたよ?」

 

「そうか、ご苦労だった。 東京に戻ってくれ」

 

電話の向こうから男の声が聞こえてくる。

 

「藤宮の2人の娘は殺さなくていいんですか? なんなら僕が殺してきますよ」

 

「疑いはあったがあの2人は完全に白だ。 余計なことすんじゃねえ」

 

「はいはい、じゃあもどりますよひじか・・・」

 

ぴりりりりり

 

「ん?」

 

沖田が見ると血の海の中でなる携帯電話があった。

位置的に香西のものだろう。

 

着信はミスターC

 

「もしもし」

 

「今回はおめでとうございますと言っておきますよ公安0」

 

諸葛静幻、おそらくは奴だ。

 

「相変わらず、臆病だね君。 僕ら公安0とやりあうのが怖いのかな?」

 

「挑発は無駄ですよ。 沖田さん。 私は臆病でしてねあなたがたと戦う気はないんです」

 

「刹那代われ」

 

「はいはい」

 

沖田は土方の携帯とつながっている自分の携帯を香西の携帯に押し当てる。

 

「お前らが何を企もうとしったことじゃねえ。 だが、これ以上日本で好き勝手するんなら容赦しねえぞ」

 

「では、中国まで我々を狩りくればいいではないですか。 元新撰組副長、土方歳三4世」

 

「ちっ」

 

それが出来ていればとっくにやっている。

いくら、公安0が最強の戦闘集団とはいえ、外国でドンパチするのはやはり、まずいのだ。

 

「今回は椎名の家のものに邪魔されましたが次はうまくいきたいものです。 ああ、ご心配なく公安0と本気でやりあう気は私にはありません。 イ・ウーの存在もありますしね」

 

電話が切れる。

 

「土方さん。 僕を中国に送り込んでもいいですよ? 皆殺しにしてきてあげますから」

 

「馬鹿いってんじゃねえ。 イ・ウーの存在がある以上、国内以外では俺たちは動けねえんだよ」

 

「つまらないなぁ……あなたはいつもそうやって僕を抑える」

 

「そうでもしなきゃ刹那。お前はRランクの連中にも喧嘩を売るだろうが」

 

RランクはSランクを更に超えた存在でその戦闘力は小国の軍隊を壊滅させる力を持っている真正の化物なのだ。

 

「どうです土方さん?アメリカが躍起になって説得を試みてるRランク僕が殺してきましょうか?」

「馬鹿いってんじゃねえよ。アメリカが躍起になって暗殺しようとしてことごとく失敗してる相手だぞ?」

 

沖田はすっと目を細めた。

 

「だからこそ楽しいんじゃないですか。戦う機会があったら戦わせてくださいね土方さん」

 

「その話は帰ってからだ。お前に用事を頼みたい」

 

「なんです?」

 

それを聞いてから沖田は携帯を切った。

ぱしゃりぱしゃりと血の海を歩きながら沖田は思った。

殺したりないと

 

 

 

 

 

「俺は! 俺は!てめえなんかに負けねえ!」

 

 

 

ふと、昔半殺しにした少年の姿が思い起こされる。

 

「あれぐらい歯向かってくれたら面白いよね」

ごろりと転がる首を蹴飛ばしてから沖田は部屋を後にした。

この事件が表に出ることはない。

公安0がすべての情報を消去し、無かったことになるからだ。

だが、この事件の唯一の生き残り、香西のボディガードは語る。

公安0の沖田は鬼神であると・・・

そして、この男も表の世界から姿を消すことになる。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。