「う・・・」
ずきずきする頭を押えながら目を開けるとそこは車の中だった。
「ここは・・・」
「目が覚めましたか?」
シンさん?
助手席からこちらを振り返っているのは私の護衛を担当していたシンさんだ。
「シンさんここは・・・」
「申し訳ありませんがあなたには中国にきてもらいますよ」
「え?」
あまりに唐突すぎるシンの言うことが理解できなかった。
一体何を・・・
「まだ、わかんないのあんた?」
運転しながらミンはにたりと笑う。
「あんたはこれから中国に拉致されてランパンで奴隷になるか北朝鮮あたりに売られるかもねぇ。 キャハハ、ご愁傷さま」
現実味のない言葉だが私はぞっとした。
北朝鮮、中国・・・どちらの国も私から見たらろくな印象がない。
「そんな、嫌です! 家に返して!」
「遺産相続の意思がないなら放置の予定だったんですけどね」
糸目で微笑みながらシンが振り返る。
「奏さんは遺産相続を迷っているといいましたよね。 あれが拉致の決定打です」
「そんな、あれは・・・」
「僕たちのクライアントはあなたが邪魔なんです。 殺されないだけありがたく思ってくださいね」
「嫌!」
逃げようとするが手錠で固定されている。
逃げられない。
「ああ、逃げようとしないでくださいね。 逃げるなら殺していいと依頼主には言われてますから」
ずっとする言葉。
シンは本気だ。
ああ、なんで変態と一緒にトイレにいかなかったんだ・・・
護衛期間中くらいはそれぐらい許容すべきだった。
「言っておきますが救援は期待しないほうがいい。 イ・ウーの事件では警察はうかつに手を出せませんからね」
「?」
その組織名らしい言葉の意味はわからない。
だけど、私が期待したいのは・・・
「ああ、優希君達の助けを求めるのは無駄ですよ。 あの防弾車は120キロしか出ない。 僕らの車は130キロ今、出しています。 つまり・・・」
変態たちは追いつけない。
「最も、どのルートを通っているかなどの割り出しには数時間かかかるはずです。 大人しくしてるなら諸葛に口添えをしてあげてもいいですよ」
次々絶望的なことを言い。
希望を奪っていく。
私はもう、妹に二度と会えずに異国の地で死んでいくのか・・・
ぽろぽと大粒の涙が溢れてくる。
「・・・て・・・い」
「ん?」
「助けて・・・優・・・」
「・・・」
「どうかしましたか春蘭」
シンの言葉を無視して春蘭はM700狙撃銃を手に車の天窓を開ける。
「追っ手がきた」
「公安0が動くのは早すぎますね」
「違う。椎名優希とウルスの姫」
シンの目が見開かれる。
「オートバイ、ハヤブサ。 改造なしで333キロでる化け物・・・追いつけれるこのままでは」
ライフルを構えながら春蘭が言う。
「ミン、最高速度をお願いします。 日本の警察は気にしないでいいですよ」
「了解! カーレースって久しぶりだわ」
日本の大衆車のプリウスに偽装してあるがこの車は500キロまで出せる。
そして、春蘭はそれを維持できる実力者だった。
「春蘭、万が一の時は頼みますよ」
「ん」
まだ、互いのキリングレンジに入っていない目標を見ながら春蘭が言葉を返す。
変態が来てくれた・・・
「希望を持つのは早いですよ。 奏さん」
「え?」
「合流地点まで付ければ僕らの勝ちです。 それに、対峙するようなことがあっても優希君は僕より弱い。 つまり、殺してしまえばいいだけですよ」
「ウルスの姫は私が仕留める。 諸葛も喜んで報酬も出るかな?」
「油断はしないように」
「キャハハ、私の相手がいないじゃん。 ねえ、椎名の後継の殺害私に譲りなさいよ」
「できませんよ」
ゾクリとするような殺気を放ちながらシンは目を開け、戦闘狂のような笑を浮かべて言った。
「優希を殺すのは僕ですから・・・」