緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第57弾 奴隷は正座してなさい!

ピンポーン

 

どこにでもありそうな住宅街の1角にその家はあった。

2階建ての1軒屋である。

 

「あれ?おっかしいな? 留守かな?」

 

理子が首をかしげながらピンポーンとインターホンを押した。

だが、沈黙した状態で返事はない。

 

「ここであってるのか?」

 

キンジが携帯のGPSで確認しながら言った。

 

「どうなのよ優?」

 

アリアが聞いてくる。

今回の依頼を受けたてまえリーダーは俺だからな

 

「間違いないはずなんだが・・・すみませーん! 藤宮さーん!」

 

「・・・」

 

レキがドラグノフを担いだまま雨戸のしまった家を見上げている。

返事はない。

 

「約束の時間は18時だよな? 一応、5分前だから18時まで待つか?」

 

「中に誰かいます」

 

「何?」

 

レキの言葉に俺は窓を見上げる。

すると、さっとストレンドグラスの小窓から人影が下がるのが見えた。

 

「対象は拳銃を所持しています。 狙撃しますか?」

 

おいおい、まさか・・・

護衛する前に襲撃者に制圧されたんじゃないだろうな?

出てこない理由もそれで、納得がいく。

 

「理子! 鍵頼む!」

 

「OK! ユーユー」

 

ガバメントを抜きながら理子がピッキングを開始する。

さすが、泥棒一族、1秒も掛からずピッキングを解除してドアを開けるが中から内鍵がかかっているらしい。

がちゃんと行く手を阻まれる。

この!

 

デザートイーグルを取り出すとその部分に発砲。

ドオオンと凄まじい轟音が住宅街に響きわたった。

 

「アリア! キンジ! お前らは1階頼む! 理子! レキは周囲の警戒してくれ!マリは理子についてろ」

 

目を開けると戦闘狂モードで突入する。

階段を駆け上がり先程の小窓があった部屋の前まで来ると中から人の気配がする。

2人以上はいるな・・・

 

「ふっ!」

 

ドアを蹴破ると中に転がり込んだ瞬間パンと銃声がする。

 

「いて!」

 

それを防弾制服の防御力で無理やり突破して、相手の銃を蹴りばす。

 

「きゃっ!」

 

相手が悲鳴を上げる。

ずいぶん、可愛らしい悲鳴だな。

 

「終わりだ!」

 

左手で相手の首を掴むと床に叩きつけてガバメントを額に押し当てる。

え?あれ?

今、分かったんだが押し倒したのは女の子だった。

中学生ぐらいの髪の長い女の子。銃を突きつけられてるのに気丈に俺をにらみ返してきている。

 

「こ、殺しなさいよ。 どうせ、私の命を狙いに来た殺し屋でしょ?」

 

え? あの、なんなんだ? 銃撃ったのこの子だよな?

 

「ひとつ聞きたいんだが・・・いいか?」

 

「・・・」

 

無言で睨んでくる女の子。

 

「えっと、間違ってたらすまん・・・藤宮 奏か?」

 

「そうだったらなによこの人殺し!」

 

なんてことだ!

俺は慌てて銃を離すとその場に土下座した。

 

「ごめんなさい!」

 

当然、戦闘狂モードなんてとっくに消えてたさ。

なんたって、この子は護衛の対象 藤宮 奏さんなんだからな・・・

 

 

 

 

 

 

数十分後、一同、一階にあるリビングで顔合わせをしていた。

アリア、キンジ、理子、レキ、マリ、そして、奏と隠れていた妹の千夏ちゃん。

みんなソファーに座っているが俺だけ地面に正座だ。

理子がくふふと笑っていやがる。

く、くそう自業自得だとはいえ悔しい・・・

 

「本当に信じられません!」

 

1人用のソファーで腕を組んで激怒しているのは俺に押し倒された奏ちゃんだ。

中学2年生らしい。

 

「いきなり、鍵を壊して突入してくるなんて本当に武偵なんですか?」

 

「理子達はちゃんと時間通りに来たよ。 でも、出てこなかったのにも原因があるんじゃないかな?」

 

理子が俺をちらりと見て援護してくれる。

 

「っ、そ、それは・・・本物かどうかわからなかったから・・・」

 

「それなら、せめてインターホンにでるぐらいはしてくれてもいいと思いますけど?」

 

マリも援護に加わってくれる。

 

「まあ、いきなり飛び込んだ優も優だが・・・」

 

キンジ・・・お前は敵なのか?

 

「わ、悪かったわよ! 私も悪かったからもう、この話は終わり!」

 

強引に奏が話を打ち切った。

じゃあ、そろそろ・・・

 

「あんたはそのままよ」

 

アリアが俺に下した正座命令を解いてはくれなかった。

クライアントを押し倒したと聞いたアリアは奴隷はそこで正座してなさいと命令してきたのである。

 

「・・・」

 

レキは無言で何も言わない。

助けてくれよレキ・・・

 

「まーまー、アリア、ユーユーだって反省してるんだからさ。 理子に免じてもどしてあげなよ」

 

「奴隷はそこにいなさい!」

 

奴隷と聞いて奏が俺をゴミを見るような目で見てくる。

最悪だ・・・徹底的にクライアントに嫌われたぞこれは・・・

 

「ち、違うんだ奏さん! これは!」

 

「その変にしておかないと護衛の人かわいそうだよお姉ちゃん」

 

声のした方を見るとさくらんぼの髪飾りでツインテールにしている奏の妹、千夏ちゃんだった。

お盆に人数分の紅茶をのせて足元がオボついていない。

 

「危ない!」

 

俺がさっおぼんを手に取ると千夏ちゃんはありがとうございますお兄さんと言ってきた。

なんか、アリスを思い出すなこの子・・・

 

その頃、中華料理屋『炎』

 

「ふぇくしゅん!」

 

「どしたいアリス? 風邪か!」

 

「いえいえ、どうも私のここと噂している人がいるみたいです店長。 おおかたお兄さん当たりでしょう」

 

「すみまーせん! 注文いいですか?」

 

「あ、はいはーい!」

 

いつも通りの炎だった。

 

 

 

 

 

 

 

その夜。2階の2部屋女性陣で使用し、下の階の客間を俺とキンジが使うことになった。

しかし、本日より護衛いう立場である

最近では一緒に寝ていることが多いという2人の部屋のなかにはレキがつくことになった。

もう1人は外の警戒だ。

言うまでもないが男性陣は絶対に外。

中に入ったら射殺してくださいと奏は特に俺を見てレキに言っていたんだがレキはこくりと頷いていた。

れ、レキさん・・・本当に撃たないでね・・・

レキは噂通り体育座りで眠り常に敵の襲撃にそなえているという噂は本当だったらしい。

キンジもびっくりしていたが俺も驚いた。

あんなかっこで俺は眠れんよ。

 

「おやすみなさいみなさん」

 

「おやすみ」

 

奏と千夏が眠ってしまうとドラグノフを抱えたまま部屋の中について行ったレキ以外の面子はリビングで打ち合わせだ。

 

「ああ・・・もう、クライアントに俺完全に嫌われちまった・・・」

 

「くふふ、ユーユーどんまいだよ」

 

「自業自得じゃない優のあれは・・・」

 

うう・・・確かに・・・初対面の女の子に暴力振るったんだから嫌われて当然だ・・・

 

「まあ、私は新しい女の人ができないのはいいですけどね」

 

マリがなにやら言っている。

なんのことなんだ?

 

「そんなことより、明日からの行動の説明をするね」

 

と、説明を始めたのは理子だ。

今回は理子はどうしてもやりたいとうから護衛をプランを任せたんだが・・・

 

「まず、護衛組と調査組に分かれるんだよ。 かなでんとちーは学校に行くからかなでんはユーユーとキー君とマリリンでちーはアリアが護衛担当だよ」

 

なんなんだ? かなでんとちーってあの2人のあだ名か・・・クライアントにまで付けてるなんて・・・

というのも理子はお得意のお馬鹿キャラであっという間に2人と親交を深めてしまっている。

こいつにはこのスキルでは絶対に勝てんな。

 

「それはいいんだが、あの2人学校に行くのか?」

 

ろくに口も聞いてくれなかったので理子から補足もかねて聞いておくか・・・

 

「うん、転校生として学校に潜入。 キー君やユーユーはやったことあるでしょ?」

 

「ああ、前にやったな・・・」

 

「俺もやったっけな・・・」

 

中学時代だがキンジはお金持ちの学校、俺は一般校に潜入調査をした経験がある。

 

「あたしはどうするのよ? 千夏の護衛は転向するわけにはいかないじゃない」

 

アリアの意見は最もだ。

千夏は小学4年生だ。アリアは高2・・・ってあれ? 理子まさか・・・

俺がまさかという目を理子に送ると理子はおもしろそうに笑うと

 

「そうでーす! アリアには小学4年生としてちーのクラスに転校してもらいまーす!」

 

「え?」

 

はじめは理解できなかったらしいアリアは俺たちと自分の体を見下ろしてから顔を真っ赤にして激怒した。

 

「あたしは高2だ! 理子! 何考えてるのよ! 」

 

「えー、アリアなら小学4年生でも十分通じるよ。 小さいし」

 

「あんたも小さいでしょ! あんたもやりなさいよ!」

 

「えーでも理子はこの胸が邪魔して小学生には見えないかなぁ」

 

大きな胸を理子は触りながらおもしろそうに言っている。

キンジはヒステリアモードを避けるためか顔をそらした。

アリアはぐぐぐと悔しそうにはぎしりしながらがるるとライオンのような唸り声をあげだした。

おいおい、理子よ。 アリアの怒りのはけ口を俺たちに向けるなよ。 いや、俺に

 

「ちなみに衣装は用意してまーす!」

 

どこからか取り出した理子の手には小学生の制服らしい服に名札。ご丁寧にアリアちゃんとまで書いてある。

 

「「「「プっ」」」」

 

アリアを除く全員が吹き出した。

想像したらあまりにハマりすぎて困る。

 

「く、あんたたちみんな風穴あけてやる・・・あけてやるんだから・・・」

 

がるるがどがるるるるとランクアップしそうだったので理子が話題を変えてくる。

 

「で、こっちがキー君達の制服ね」

 

ばさりと出された男子中学生の制服と女子制服2着?

 

「おい、理子間違ってるぞ男子制服が1着たりんし女性制服が1着多い」

 

「くふっ、間違ってないよ。 女子制服の1着はユーユーのだもん」

 

「・・・」

 

唖然としてから

 

「冗談だよな?」

 

「メイクは理子に任せろがおー! 男子でもメロメロになるようにしてやるぞぉ」

 

「椎名先輩の女装・・・」

 

マリが何か考えるようにしていいと言っている。

 

「待て待て待て! 俺も男子の制服でいいだろ!」

 

「駄目でーす! マリリンじゃ、女子しか入れない場所で襲われたらまずいからユーユーが適任なんだよ。 綺麗な顔してるんだから大丈夫大丈夫」

 

こ、この顔はコンプレックスなんだ! 怒るぞ理子!

 

「お前が護衛したらいいだろ理子! い、いやレキでもいい!」

 

この際逃げられるならなんでもいい。

 

「理子とレキュはやることがあるんだよ。 サポートはするからがんばるんだぞ」

 

まじか・・・神は俺は見放したのか・・・

アリアは優が女装と訝しげな顔をしているが理子は自信満々に

 

「明日の朝は早いよユーユー! りこりんにお任せ!」

 

と、ぱちりとウインクまでしてきやがった・・・

かわいいんだが・・・誰か助けてくれ・・・

このクエストを受けたことを俺は心底後悔するのだった。

 


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