緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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ヒルダ編完です


第235弾 新しい未来

『サイドアズマリア』

 

武偵達とヒルダの戦いは武偵達の勝利で終わった。

見守っていたものは第4形態が現れた段階でほとんどのものは武偵達の敗北を予測したがその予想は見事に裏切られたのだ。

 

「へぇ」

 

負傷した仲間を病院に運ぶPADの影を遠くに見ながらアズマリアはビルの屋上でつぶやいた。

 

「ただの理想ばかり並べる口だけ男じゃないんだね。希ちゃんの弟は」

 

指を唇にあてながら私は彼に少し興味を覚えた。

椎名優希への興味は水月希の弟というただそれだけ、町で出会わなければあえて構う気もなかった。

会えば話をし、馬鹿な理想主義者の口先だけの男。

それがアズマリアの優希に対する評価だった。

だが、彼は仲間と共にそれを実現した。

だが、1つだけまだ彼の信念は貫けていない。

 

「峰理子は大丈夫かな?ヒルダを倒すの時間かかり過ぎてゲームオーバーじゃないといいね。優希君」

 

もし、峰理子が生きていれば優希の信念は貫けるだろう。

だが、死なせてしまえば彼の信念は曲がる。

 

「どうしようかな?峰理子が生きてたら遊んでみようかな?」

 

卷族で次に彼らに手を出すものがいなければ・・・

そう考えてアズマリアは考えるのをやめた。

 

「そろそろ帰ろうかな。夜中だし」

 

ふああと緊張感のないあくびをしたアズマリアはその場から立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

サイド優希

 

 

烈風で理子を運んでから30分が過ぎた。

アリスを始めヘリで合流したエル。アンビュラスの矢常呂イリン先生が手術室に入り理子の解毒に当たっているが俺に出来ることは祈ることしかない。

頼む。間にあってくれと祈りながら・・・

だが、それは手術室の手術中のランプが消え中から出てきたみんなの顔に心臓が跳ねる。

 

「どう・・・なんだよ」

 

矢常呂先生は目で後は任せると言うように立ち去ってしまうので近くにいたエルに詰め寄る。

エルは俺の視線から逃れるように顔を背け

 

「すまない・・・」

 

ただ、その一言・・・一番聞きたくない言葉を

 

「手の施しようがない。時間がかかりすぎた」

 

「!?」

 

手術室に飛び込み最初に目についたのは横になっている理子だ・・・

目を閉じてピクリとも動かない。

心電図はピーと横一直線で波は起こらない。

ドラマで見た事がある。

死んでる人間がこの状態・・・

 

「ざけんな・・・」

 

せっかくヒルダを倒したんだぞ・・・

あれだけ苦労して苦労してお前を助けようとしてこれはなんだ・・・

 

「ふざけるな!ふざけんな!」

 

手術室の壁を力任せに殴りつけるが理子は・・・

 

「毒が完全に回りきって手遅れでした・・・どんな名医でも理子先輩を救う事は・・・」

 

アリスが後ろで何かを言っている。

だが、俺にとって理子を救えなかったことに変わりない。

 

「ハハハ、またかよ・・・また・・・」

 

何が殺してでも仲間を守るだよ・・・全然だめじゃないか俺

なあ理子・・・お前最後だって分かってたのか?

だから、あんなこと言ったのか?

 

「・・・」

 

背後でエルが離れて行く気配がし手術室の扉が閉まる。

部屋には俺とアリスの2人だけになった。

 

「1つだけ・・・理子さんを助ける方法があります」

 

「っ!」

 

アリスの方を振り返りその肩を掴む。

 

「教えてくれ!どうしたらいい!どうしたら救える!」

 

「緋刀です。お兄さんはレキ先輩をどう助けましたか?」

 

「レキの時の・・・」

 

そうかあの方法なら理子を・・・

 

「あれから調べた所、お兄さんがレキ先輩を助けられたのはレキ先輩が撃たれた前の時間に戻したからです。理子先輩にもそれをすれば・・・」

 

緋刀は時間に干渉することができるってことか?

 

「ですが、今回の理子さんの場合。ヒルダに毒を撃ちこまれる前に戻すわけですからレキ先輩の時とは比べ物にならない代償が必要になると思います」

 

「・・・」

 

思わず左目を抑える。

カラコンで黒いままだが俺の左目はアリアと同じカメリアの色になっている。

今回、理子のために緋刀を使えば進行するのは免れないだろう。

完全に進行すればどうなるかは誰にもわからない。

だが・・・

 

「それでも俺は理子を救う。そこまで言うんだ。アリアの血を持ってるんだろ?」

 

「医者の卵の立場からお勧めはしません」

 

そう言いながらもアリスは白衣のポケットからアリアの血が入った瓶を出してくれる。

 

「すまねえな」

 

アリスから瓶を受け取り理子に向き直る。

体力はヒルダ戦のせいでぼろぼろだ。

緋刀状態になってぶっ倒れてもおかしくない。

だが・・・

 

「・・・」

 

瓶を開けて一気に口の中に流し込む。

吐き気のするような味の後急激に心臓が跳ねた気がした。

 

「うっぐ」

 

焼けるような熱が体の底から湧きあげる感覚。

そして視界が暗転する。

目を開けた時、前にいたのは俺の女装したような顔のスサノオ。

暗闇の空間でレキを救う時の前にように対峙する。

 

「もう一度あの力がいる。力を貸してくれ」

 

「君が望むなら私は力を貸そう。だが、この力を使うという事はどういうことになるのかもう分かるだろう?」

 

「この左目みたいな代償がいるんだろ?別に目が潰れるわけじゃないんだ」

 

「もし、やめろと言っても君は今は効かないだろう。なら、私は力を貸すことを選択する」

 

「ありがとうスサノオ」

 

「では、答えてもらおうか?君にとって峰理子はどんな存在だ?」

 

理子は・・・小さいことから知っていてようやく、ヒルダ達の呪縛から解き果てた。

俺にとって・・・

 

「大切な友達だ」

 

「また、60点だな。まあ、いいさ」

 

スサノオが右手をかざすとブラックアウトしていた視界が戻ってくる。

見ると両手が緋色に光ってるな。

いや、体全体が緋色に輝いているのか?

 

「・・・」

 

理子の体に手を置くと目を閉じる。

その技の名は今度は自然に出てきた。

 

「緋刀秘儀黄泉返し」

 

緋色の光が理子の体を包み込んでいくのを感じながら再び意識を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

サイド理子

 

花が咲き乱れるその場所を私は歩いていく。

空は白く前にあるのは川だ。

三途の川ってやつなのかな?

ああ、そうか・・・理子死んじゃったんだ

ヒルダの毒にやられて・・・

でも最後に優希に想いを伝えられた・・・

悔いがないといえば嘘になるけどお父様やお母様の所に行けるんだ・・・

ブラドにめちゃくちゃにされた時期もあったけど最後は理子は解放してもらえた・・・

あの川を渡れば昔みたいに暮らせるのかな・・家族で・・・

 

「そこに入るのはまだ、早いよ理子」

 

え?

顔を上げると川の向こうに2人の人影が見える。

 

「っ!?」

 

思わず泣き出しそうになった。

だって川の向こうにいたのは・・・

 

「お父様・・・お母様」

 

2度と会えないと思っていた理子の家族その2人が川を挟んだ向こうにいる。

 

「久しぶりね。大きく、そして、綺麗になったわ。理子」

 

 

「お父様!お母様!」

 

駆け寄りたい衝動に駆られるが足が動かない。

 

「ブラドの一族を倒したそうだね。ずっと見てたよ」

 

「うん、優希やみんなのおかげで勝てたよ。でも、理子死んじゃったんだ・・・」

 

「あなたはまだ、死んではいないわ」

 

「え?でもここは・・・」

 

「ここは、生と死の境目だ理子。今ならまだ、戻れる。それに聞こえないか?お前を呼ぶ声が」

 

何かが聞こえた気がした。

振り返ると花一面の向こうの方から声が聞こえてくる。

 

「理子!どこだ理子!」

 

あの人の・・・優希の声だ・・・

 

「帰りなさい理子。お前はまだ、こちらに来てはいけない」

 

「で、でも・・・」

 

死に別れた両親がそこにいる。

このまま、川を渡ればずっと一緒にいれるのだ。

 

「あなたのことはずっと見守っているわ」

 

ぐんと後ろに引っ張られる感覚。

緋色の光が背後から照らす

待って、まだ話したいことが山のようにある。

でもそれが言葉にならない。

涙が頬をつたって視界が歪む。

 

「大好きだから!お父様!お母様!見守ってて!」

 

やっと言えたのはそんな言葉。

2人の姿が霧のように消えていく中最後に見た2人は娘の成長を本当にうれしそうに見る姿だった。

その顔は理子が大好きだった父親と母親の笑顔だ。

そして、私の体は緋色の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

目を開けると見えたのは白い天井だ。

私は夢を見ていたのだろうか・・・

体を起こすと風がカーテンを揺らす。

横を見るとあの人が・・・隣のベッドで優希が眠っていた。

また、助けられたね。

ヒルダの毒で死ぬ寸前だった私を助けてくれたのはやっぱり優希だった。

いつだって、優希は私のヒーローだ。

 

「ありがとう」

 

誰もいないのでお礼を言う。

そして、次の瞬間自分がとんでもないことを言った事を思い出したがくすりと笑みが浮かんで唇に手を当てた。

彼はどう言う反応をするんだろう?

どう言う答えを返してくるんだろう?

知りたいな。

でも怖い。

そんなことを考えながら私はベッドから降りた。

体は驚くほど軽い。

まるで、戦いなんてなかったように快調だ。

優希の顔をもっとよく見ようとして近づこうとした瞬間、背後の扉が開いた。

 

「目が覚めたかい?」

 

白衣を着たエル・ワトソンだった。

 

「体に異常はないかい?一時的には危篤状態だったんだ」

 

「おかしな所はないよ」

 

「そうか。驚いたな。優希は何をしたんだ?」

 

2人してベッドに眠る優希を見るが彼は死んだように動かない。

呼吸をしているのは分かるから眠っているだけだろうが・・・

 

「優希は当分起きないだろうね。昨日はぶっ続けで強敵と戦い最後には相当無理をしたと優希の担当医から聞いている。ようはエネルギー切れだよ」

 

まったくとワトソンは友達の行動にあきれるように微笑みを浮かべた。

 

「そういう人だから」

 

自然と微笑みがこぼれてしまう。

彼は理子のために戦ってくれたのだ。

無茶して死にかけてそれでももがき続けて得た勝利。

アリアやキ―君にも感謝しているけどやっぱり、優希の行動が特別にうれしい。

 

「さて、話は変わるんだがヒルダのことだ。遠山達には話しているがヒルダは今、死にかけている。原因は彼女輸血する血液がないことだ。シンガポールにはあるが取り寄せるのに2日、そして、ヒルダはこの昼を越せないだろう」

 

放っておけばヒルダは死ぬ・・・

私たちをずっと苦しめてきたあの女が・・・

でも、なぜかざまあみろと思えなかった。

 

「ヒルダと理子の血液型は同じだよ。矢常呂先生に聞いた。命とは尊いものだ。僕は医師だからどんな悪党の命でも見殺しにはできない。だが、僕は君に献血を強制はしないよ。戦役に参加して敗北したものは死ぬか敵の配下になるのが暗黙のルールだがヒルダはそれに従わないかもしれないからね」

 

見殺しにはできる。

だが、ヒルダはイ・ウーにいた事もあるしアリアの裁判の結果には少なからず影響を与えられる人物だ。

それに・・・

優希を私のために再び人殺しにさせたくなかった。

だから

 

「いいよ。採れば?」

 

そう言って私は腕をワトソンに差しだす。

 

「ありがとう」

 

そう言ってワトソンは用意していたらしい道具を取りだした。

私が未来を手に入れた。

その道に進むのにいきなり人殺しになるのは救ってくれた優希に申し訳ない。

採決の準備をするワトソンから目を離し、眠る優希に私は自分がとんでもないことを言った事を思い出した。

顔が赤くなるがそれでも私は心の中で思う。

 

(ありがとう優希。私のヒーロー・・・大好きだよ)

 

 

ヒルダ編完

 




というわけでヒルダ編はこれでおしまいです!
次回事後処理のような話をしてから話の最期に次章のメインヒロイン登場にて新章突入です。
優が電話を切っちゃたあの子です(笑)

そして、理子との関係は変わるのか!電話切っちゃたあの子は大変だぞ優w

さあ!いよいよオリジナルですよ!

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