緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第193弾 2つの命令

日本に生まれてよかったと俺は思う瞬間がある。

それは風呂に入っているときだ。

「ああ、気持ちいいな・・・」

レキに狙撃拘禁されてからゆっくりとする暇もなかったからな・・・

夜空を見上げ、遠くからふくろうの鳴き声も聞こえてくる。

「みんなどうしてるかな・・・」

俺には知り合いがたくさんいる。

ほとんどが、姉さんとの旅がきっかけで知り合った連中だが、今一番気になるのは

「アリアだよなやっぱ」

幸いおれはアリアに面と向かって好きだとは言ってないので俺がギクシャクしなければ恋愛面では大丈夫だろう。

だが、レキのせいで現在俺とアリアの仲は最悪といっていい状況にある。

「どうすっかな・・・」

肩までお湯に漬かったまま岩に頭を乗せる。

視界にデザートイーグルが入ってくるが視線は空に戻した。

状況を打開する第1条件はレキだ。

レキさえ何とかすれば突破口がある。

「それにはなぁ・・・」

レキとの過去を思い出さないといけない。

これが、最大のキーだろう。

俺は昔、姉さんに記憶を封印され、過去を忘れていた。

覚えているはずなのに思い出せない。

というより、姉さんの口調から記憶を封印した副作用で俺はレキとの過去を忘れてるんだ。

つまり、封印されているわけではないので自力で思い出すことは可能なはずだが・・・

「思い出せねえ・・・」

ぼんやりと、草原を姉さんと歩いていた記憶があるがあれが関係あるのかも不明だ。

「何を思い出せないの?」

「レキとのか・・・うお!」

ばしゃんと湯船から出ずにいつの間にか湯船に漬かっていた水から俺は慌てて離れた。

「なるほど、レキさんのこと考えてたんだ優希。うーん、ラブラブ?」

湯気でよく見えないのが幸いだが声が水だといっている。

「そんなんじゃねえよ! ただ、レキと俺は昔、子供の頃会ったことがあるんだよ」

「へー、ウルスの人間と?すごいすごいどこで?」

「多分ってなんでウルスのこと知ってる?」

そんなに有名なのか?

「まあ、いいじゃないそんなこと」

いやまぁ、武偵なら情報収集するからなんかのきっかけで知ったのかもしれないけど・・・

「というか水、お前出て行けよ」

「入ったばかりなんだけど・・・というかいいじゃない。混浴だし」

「そりゃそうだが・・・」

同じ歳の女子と同じ風呂に入るのは落ち着かないぞ・・・

キンジなら1発でヒスって大変なことになるところだ。

「・・・」

「・・・」

リーリーと鈴虫の声を聞きながら俺達は無言だった。

なんか言えよ水

「ねぇ」

俺の心の声が聞こえたわけじゃないだろうが水が口を開いた。

「優希は武偵高卒業したらどうするの?」

「ずいぶん先の話だな。 武偵大に行くと思うけどな」

表向き俺はそう答えている。

いつかは姉さんのように世界中を飛び回りながら犯罪者を捕らえて回るのが俺の漠然とした夢なんだが

漠然としすぎていて恥ずかしいからいえない。

「漠然としてるね。中国に留学してこない?」

「やだ。水には悪いが俺はあの国好きじゃない」

「アハハ、人の母国にそういうこという?」

「怒ったのか?」

「ううん。腐りきってることは私も自覚してるからね。じゃあ、腐った部分が改善できたら留学する?」

「というか俺が卒業するまでには無理だろそれは」

「うん、いつかは変えてみせる」

「政治家にもでなるのか?」

「がらじゃないなぁ。いっそのこと政府の要人皆殺しにしてみようか?優希も一緒にやろう」

冗談風に言う。

「やだ。めんどくさい」

それに、そうなりゃ犯罪者だしな・

「ちぇー、やっぱりなぁ・・・」

こいつは、どこまで本気なんだか・・・

いつもひょうひょうとしているが時折、真剣な目をする奴だ。

この水いって奴は。

そして、自分の母国に誇りを持てないといつも言っている。

自分の生まれた国が嫌いというのはどんな気持ちなんだろう・・・

俺にはわからない。

いろいろ問題もあるが俺は日本が好きだしな。

「ねぇ。優希」

「ん?」

「優希はさ。半殺しにされて虫の息の子供が道に倒れてたらどうする?」

「そんなの助けるに決まってるだろ?」

当たり前だ。

「そうだね」

水はどこか寂しげに言う。

「そういえば、村上はどうしたんだ?」

空気に耐えられなくなって俺が言うと

「ん?押入れに縛って入れてきた。なんか、レキ様と混浴と騒いでたから」

あいつは・・・

その時、がらがらとスライド扉が開く音がした。

ん?

かかり湯の音がし、誰かが湯船に足を入れ・・・

「わああああ!」

後ろが岩なのに思いっきり後ずさったから岩に背中をぶつけた。

痛い

「れ、れれれレキ!」

2回目の裸いただきましたって何ってるんだ俺は!

前も温泉でレキの裸は見たが・・・って誤解するな!わざとじゃないんだ!

と、とにかく

「・・・」

素っ裸のレキと目が合う。

熟れきらないりんごやスモモみたいな腰周りや胸。華奢なウェスト普段は陶器人形のように見える肌も湯水の膜でほんのり上気している。

口に目がいきあの時の湯船の中での・・・

「おー、レキさん混浴いただいてるよ」

とぼけた調子に戻った水が湯気の向こうから声をかけてくる。

「・・・」

レキは黙って湯船に入ると肩までつかる。

ふー、よかった。

一応は見えないぞ

「あー、無視しないよぉ。ひどいなぁ」

ぶーぶーと水が文句言ってるがこれは何の拷問だ?

右と左に裸の同じ年の女の子。

しかも、前の温泉の時とは違い2人とも混浴と認識した上で俺の存在を認めてやがる。

なんてカオス空間なんだ。

「何できたんだレキ!」

「危険を感じたので優さんを守りにきました」

「また、水のことを言うのか?」

こいつまた・・・

「はい、彼女もそうですがよくない風の流れを感じたのです。私から遠くに行かないでください」

また、それか・・・

「もういい」

なんとなくレキに怒りがわいて湯船から出るとそのまま、俺は外に向かった。

なんであいつは水を危険物扱いするんだ?

嫉妬?んあわけないか・・・

風とかいう洗脳の賜物なのだろう。

まいったなぁ・・・本当に

              †

こいつは参ったぞ・・・

俺は部屋に戻った瞬間、後悔した。

沙織さんが気を利かせたのか部屋の中央には大きめの布団が1組だけだ。

レキにいつもの寝方で寝ろといえばレキはそうするかもしれない。

それで俺が布団で寝る?

「・・・」

想像してみたが俺最低だ。

そんなクズは殴るぞ

じゃあ、一緒に寝るのか?

駄目だ駄目だ!俺の理性が崩壊してしまう。

同じ布団の中でレキの寝顔を至近距離で見てしまったらまともでいられる自信がない。

そして、理性が崩壊したら待つのはレキとの責任とっての結婚だ。

そうなれば完全アウト逃げることは出来なくなる。

つまりは、ゲームーオーバーだ。

どうすればいいんだ・・・

神様教えてくれ・・・

そうこうしていたら、レキも戻ってきた。

武偵高制服姿だ。

そういえば、素振りしてなかったな今日

「れ、レキ俺日課忘れてたから行ってくる!」

紫電を手に掴んで慌ててレキの横を通り過ぎた瞬間

「優さん」

とレキに呼び止められた。

「なに・・・うお!」

突然呼び止められてんぱっていたのもあり俺は脚を絡ませてレキの方へ倒れこんだ。

とっさで室内なのでワイヤーを使う暇もなく

「・・・」

と、とんでもないことになったぞ

レキは無言で倒れてきた俺に押されて布団に倒れこんで俺が覆いかぶさるようになる。

「ご、ごめ!」

慌ててどこうとしたが倒れたままのレキが布団の上で俺のネクタイを左手で掴んだ。

え?

「優さん。風は私に2つのことを命じてます。私はそのうちの1つを実行できてません」

「へ、へぇ、どんな命令なんですか?」

心臓が爆発しそうなほどどきどきしてるのが分かるぞ。

変な敬語使っちまった。

「風を守るウルスの子孫を作ることです」

「そ、それってまさか・・・」

「優さんと私の子供です」

ここでそれを言うのか!

レキは可愛い。

だけど・・・

ごとんという音がしたので目をそちらにやると部屋にある大きなつぼが倒れて中からハイマキが出てきた。

おい!お前そんなとこにいたのか!

器用にジャンプして照明を消した。

チェックメイト

そんな声が聞こえた気がした。

もうだめだ

「それともう一つ私は命じられています」

レキは急に声を小さくし、いきなり下から俺に抱きつくと足を俺の足に当て、俺のバランスが崩れレキに覆いかぶさる直前、ごろんと

俺とレキは布団から一回転する。

「優さんを守れと」

レキと上下が逆になったその時異変は起こった。

ビュン、ビシュン、ガシャン空気を切り裂く音と襖を貫通する音

これは狙撃か!?

戦闘という事態で頭が冷静になる。

だが、今は動けない。

狙撃でガラスが砕け俺とレキの携帯が砕け散る。

なんてことしやがる!携帯高いんだぞ!

そうだ、水達は?

一瞬、狙撃がやみ、違う部屋も狙撃されているようだ。

「うわあああ!」

村上の声が聞こえてきた。

どうやら、あいつも狙われているらしい

「狙撃です」

レキの言葉に俺は頷く。

よりによって狙撃手が相手かよ・・・

山の方からこだまする発砲音。

ああ、狙われる心当たり多すぎる。

ランパンの春欄か?

シン達の可能性を考えるが

「レミントンM700、距離は2180m、山岳方面から撃ってきました」

春欄じゃねえな・・・あいつのキリングレンジはレキ以下だったはず。というか

2180だと?レキの2051を上回ってるじゃねえかよ!

「ここは危険です。敵から私達の場所が分かりすぎている。外に出ましょう」

「ああ」

対狙撃戦はレキの方が上だ。

ドラグノフを手に闇に目を光らせているレキと部屋の外に出る。

「警察に電話している沙織さんの後ろを通ったとき

「レキ様!椎名!」

「村上!無事だったか」

「ああ、だがこれはどういうことだ?」

「悪いが説明してる時間はない。レキ、村上も連れて行っていいな?」

こくりとレキは頷いた。

「お、おお!レキ様!私なんかのためにありがとうございます!」

とこんな時でも村上は感動したように言った。

はぁ

沙織さんに電話貸してもらって援軍を・・・

姉さんは・・・ソマリアか・・・土方さんや沖田は多分東京だし実家に頼るかここは?

「沙織さん電話貸して下さい」

「それが通じないんです」

電波妨害か?電話線切られたのか?

やむ終えない。

レキと毛を逆立たせたハイマキの後に続いて外に出る。

狙撃なら銃弾切りも使えない。

雪村ならなんとか出来る場面なんだが本当に俺使えねえな

「椎名優希、レキ、おまけ、3人とも投降しやがれです」

人工音声のこの声・・・ボーカロイドの奴か?

確か、秋葉が聞いてたな

レキがドラグノフを空に向けタアアンと発砲すると火花が走りラジコンのへりのようなものが落下していった。

上空から更に銃弾が雨のように降り注ぐ

銃弾切りで3つ捌いて舌打ちする。

こういった手合いは大嫌いなんだよ。

「沙織さん出てきちゃ駄目だ!」

俺は携帯を手に出てきた沙織さんを押し戻しながら

「水!どこだ水!」

「優希! ごめんちょっと、怪我しちゃってそっちにいけない」

撃たれたのか?

建物の水の部屋らしい場所から声が聞こえてくる。

「大丈夫か! 助けに言ったほうが・・・」

「いい! 自分の身は自分で守れるから」

「分かった!沙織さんを頼む!」

「怪我したって言ってるのに鬼だよこの子」

と水に沙織さんを託している間に

「私は1発の銃弾」

レキが上空に3発撃ちラジコンヘリを撃墜する。

俺にはほとんど見えないのに頼りになるなレキ

「逃げたらそこと・・・沙織・水を破壊するです・・・あ、アハハハ」

墜落していくヘリから途切れ途切れに声が聞こえてくる。

1つの選択肢が消えたか・・・

まあ、スナイパーに背中を見せる自殺行為なんてしたくない。

ここはレキに守られよう。

敵が接近してくるなら俺の出番だが・・・

「ヘリはもうありません。旅館の影から森に入り、回り込んで反撃しましょう」

俺達はレキに続いて森の中に入る。

歩きながら俺はこの手口が理子の武偵殺しの事件ににていることを考え始めていた。

イ・ウーの線もあるが、これはおそらく・・・

あいつが使っていた戦法。

「シン・・・ランパンか・・・」

闇の中にあの、糸目の少年が微笑んでいる状況を想像してしまう。

まだ、確証はない。

だが、あいつが再び俺の前に現れる・・・

厄介だな・・・

長い夜が始まろうとしていた。

 

 


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