緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第176弾 林

こ、これが鬼だって?

鬼の穴を降りた俺達が見たのは腐った死体のようなものと対峙する雪村達だった。

奥には

「あれが鬼か?」

「はい」

信冬が隣で言う。

一言で言えばそれは、泥人形のような存在だった。

一体どれほどの月日がたてばそのようになるのか・・・

その体はすでに腐って、悪臭を放っていた。

周りを囲むゾンビみたいなものはおそらくは奴の護衛の兵だ。

「悪趣味な・・・」

信冬にしては珍しく、顔をしかめる。

「信冬、あのゾンビみたいなものは?」

「封印で外に出られませんがおそらく、これまで鬼が食ってきた魂を媒介にした人形です」

「・・・」

なんというか、怨念のようなものを感じる・・・

痛い苦しい、開放してとあのゾンビたちは語りかけているような気がするのだ。

「くっ!こいつら!」

ざっと、幸村とジャンが後退する。

「うーむ、お館様これは切りがありませんぞ」

といいながらジャンはチェーンガンをゾンビの群れに発射した。

痛みを感じることなく人を死においやれるその弾は容赦なくゾンビの群れをなぎ払うが、奴らは次々と土の中から現れる。

「この鬼がどれだけの魂を食べたのかは知りませんが、おそらく、時間からしてものすごい数だと思われます」

「ふむ」

信冬はうなずくと

「幸村!ジャン、私は今から彼らをなぎ払います。私の護衛を!」

「おう!」

「心得ました!」

「優希」

信冬は俺を見ると「今から私は少しだけ無防備になります。少しだけ私を守ってください。紫電なら問題なく奴らと戦えるはずです」

「分かったけど、あのゾンビかまれたら感染してゾンビになるなんてことないよな?」

そんな展開は嫌だ。

「初期の段階なら治療できます。心配しなくていいですよ」

やっぱりか!

ああ、もうやけくそだ!

なんで、温泉村にまで来てゾンビと戦ってるんだ!

聞いてねえぞこんな超展開!

「はじめます!」

信冬の髪が黄金に輝きだし、ふわりと浮かび上がった。

ばらばらと信冬の体から御札が飛び出しそれが宙を舞い始め、形を作り出す。

それは、五芒星と形となりん信冬の周りを回り出す。

その姿は異質であり、幻想的で・・・美しかった。

「ううう・・・」

危険を感じ取ったのかゾンビたちが一斉に信冬に向けて進撃を開始する。

その数は地を受けつくすほどの数だ。

「ゆくぞ!」

ジャンがチェーンガンを発射すると同時に俺と幸村もゾンビに切りかかる。

相手は数の多い雑魚だ。

技は使わずただただ切り倒していく。

俺は銃をその中に織り交ぜながら後ろに行かせまいと戦い続ける。

どれほど戦ったのか・・・

今まで一対や複数の戦いはあったがこれはまるで古代の歩兵の戦争のようだと感じられる。

俺がそう思った瞬間

「青龍、白虎、朱雀、玄武、空陳、南寿、北斗、三体、玉女! 我は魔を断つ物!万魔滅服!」

ぱあああと信冬の周りの札が爆ぜた。

白い輝きは穴全体を覆いつくし、ゾンビの群れを一蹴する。

「す、すげえ」

状況的に人間には聞かないんだろう。

だが、人間以外のたとえば吸血鬼などが相手なら信冬は圧倒的優位に立つに違いない。

「む、少し残りましたか」

信冬の声にはっとすると一蹴されたゾンビだが1体だけ、不気味に沈黙している。

「ワハハ、最後の一体か!」

あれを倒せば腐った鬼を倒すだけだ。

「ぐうう」

鬼は怒りか不気味なうなりをあげながら沈黙している。

「さて、留めといいたいがもう、弾切れか・・・」

ジャンはチェーンガンを投げ捨てながら言った。

「俺が行きますお館様!」

信冬がうなずくと幸村がひときわ大きいゾンビに向けて駆け出す。

「・・・」

ゾンビは無言で手に持っていた大刀を振るった。

ブオンと音を立てて幸村を襲うが幸村はかろうじてそれを避ける。

すさまじい速さとパワーだ。

「っ!」

加勢するべきかと思案した瞬間信冬が言った。

「幸村!『林』を使いなさい」

「はっ!」

林?

「優希、なぜあの子が風林火山の一角、林を名乗っているか分かりますか?」

いや・・・

ジャンなどは苛烈な攻撃手段から火と理解できるが幸村の林の意味はまるで分からない。

「あれが、幸村の林です」

「・・・」

そこにいたのは、先ほどまでとは別人だった。

目を閉じ、ゾンビと対峙する幸村

「ううう・・・」

ゾンビが大刀を振るった。

危ねえ!

大刀は幸村を切り裂くかと思ったが

幸村は目を閉じたまま大刀に日本刀を振るい、ギイインと火花を散らしそれをそらした。

「ううう」

ゾンビは怒ったのかそのすさまじい速さで幸村に向かい攻撃を繰り返すがそのたびに幸村は攻撃をいなしている。

「あの子は受け流すことの天才。林のように静かに・・・」

そうか、あいつの本質は・・・

「ううう!」

ゾンビはしびれを切らしたのか攻撃が大降りになった。

「はっ!」

そこに幸村は飛び込みゾンビを切り裂いた。

「ううう・・・」

ゾンビはズウウンと崩れ落ち、その存在を灰に変えていった。

カウンターか・・・

ひたすら攻撃を受け流し相手のミスを誘い、相手がしびれを切らしたところにカウンターを叩き込む。

並みの相手だと幸村に勝つのは難しいだろう。

それこそ、カウンターが意味をなさない広範囲攻撃ができる姉さんや信冬、沖田やシャーロックといった面々ぐらい

しか勝機は見込めないだろう。

果たして、俺もあのカウンターを打ち破れるかどうか・・・

風林火山の林の幸村、なるほど、おもしろいな

馬鹿かと思っていたが評価を少し改めよう

「さて」

信冬は最後に残った腐った鬼に向き直る。

「あなたの兵隊は滅しました。大人しく、あなたも滅されない」

幸村とジャン、信冬が一歩前に出る。

なぜか、その時、違和感を感じた。

いや、本能による警告か?

何かがやばいと告げている。

「うう・・・ぐへへ・・・」

腐った口から漏れるような鬼の声

しゃべれたのか?

「それで・・・勝ったつもりか?

「何を?」

そう言った信冬の地面がしたから盛り上がった。

土から出てきた触手が信冬の体を巻き取り、上空に吊り下げる。

「あ!」

ぎりぎりと締め上げる触手に信冬の顔が一瞬、苦痛にゆがんだ。

「お館様!」

「信冬!」

俺達が動こうとした瞬間

「うう・・・動くな人間・・・この女を殺す・・・ぞ」

「あ!」

締め付けを強化したらしい。

信冬の体は小さく、締め付ければ折れてしまいそうなきしゃだ。

「武器を捨てて・・・殺されろ・・・」

「いいえ、死ぬのはあなたです」

その時、とんと鬼の背後を取ったものがあった。

「お、おまえどうし・・・」

「万魔滅服!」

後ろに現れた信冬が鬼に、お札を貼り付け、言葉を発した瞬間、鬼の体が解け始めた。

「ぎゃああああああ!」

断末魔の悲鳴をあげて、マグマに落とされたように鬼の体が溶けていく

「風林火山は変幻自在、テレポートもストックしてあるのです。油断しましたね」

「た、武田ぁあああああ!」

呪詛のような言葉を残し、鬼は完全に消滅した。

「・・・」

信冬はそれを黙ってみていたがやがて

「さあ、多恵さん」

多恵ちゃんが進み出る。

鬼が消えた後には、白骨化した骨がある。

あれが・・・

「あなたの体です。 鬼の呪縛は解けました」

多恵ちゃんは泣きそうな顔をしながらも信冬に頭を下げる。

「ありがとう・・・お姉ちゃん・・・みなさん」

スウと多恵ちゃんの体が薄くなっていく。

成仏というやつなのか?

「お兄ちゃん」

多恵ちゃんは俺を見ると微笑みながら

「信冬おねえちゃんと仲良くね」

「ああ」

おそらく、二度とこの子と会うことはできまいと思いながらおれはうなずいた。

ああ、そうだ

「多恵ちゃん」

「何?」

「天国に言ったら・・・もし、天国があって・・・いや、なんでもない」

やめよう。父さんや葉月さんに謝ってくれなんていえるわけない。

「さようなら」

今度こそ、姿を消した多恵ちゃん

信冬の持っていた骨もスゥと消えていった。

おそらく、骨はとっくに朽ち果てていたんだろう。

それをあの鬼が留めていた

「・・・」

全員が無言だった。

しかし、

「帰りましょう」

信冬の言葉で俺達は鬼の穴を後にした。

余談だが、2日後、アリア達が目覚めたとき、あの時の記憶はなかった。

原因不明の昏睡ということでごまかし、信冬の記憶そうさで都合いい記憶を埋め込んでもらい俺達は1週間、綴

の研修を受けた後、武偵校に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優希達と別れた後、信冬達は山梨に戻るため、部下の運転する車の中で

 

 

考え事をしていた。

「ふむ」

「どうかしましたかお館様?」

「幸村あなたは気づいていましたか?」

「はっ? 何をです?」

「分からないのならいいのです」

信冬は再び思案に戻る。

あの、鬼の穴の戦いではもう一つ気配があった。

監視するような自分に向けられた怒りを感じ視線。

あの気配はRランクに匹敵する。

思い当たる存在は1人だけだ。

(ローズマリー・・・あの最悪の吸血鬼が戻ってきた・・・)

あの、吸血鬼は優希に執着している。

遠からず、優希の婚約者である自分を殺しに現れるだろう、

ならば、少し優希を見ておこう

「車を東京の優希の寮へ」

「はい!」

車が東京方面に向いたとき信冬の携帯が鳴った。

「・・・」

メールだった。

内容はランパンの動きが活発化しつつありとのことだ。

表の世界でも中国は日本の侵略を明確化させつつある

ランパンとの戦いは裏の世界からの日本への侵略だ。

それを防ぐのが武田であり、椎名なのである

「のんびりとできるのはまだ、先のようですね」

窓の外を見ながら武田の当主である少女はつぶやいた。

 


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