緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

164 / 261
第163弾 帰ってきた日常と逃避行

7月31日、イ・ウーの激戦から数日は大変だった。

まず、最初の3日は俺は眠っていたらしい。

疲労も極限だったのは分かるが人って寝溜めできるんだな……

何時ものように武偵病院でアリスに検査されてから退院したんだが、アリスは驚くことに

 

「私がお兄さんの緋刀の研究受け継ぎますよ」

 

と言ってきたのだ。

確かに、医者の手助けは欲しいがおかしいので問い詰めるとなんと、シャーロックからアリスに接触があったらしい。

ちなみに、アリアの護衛の報酬は毎月振り込まれるのは変わらないようだ。

一応、以来主もとい、シャーロックに電話をかけてみたが当然のごとく使用されてない番号だった。

サポート関連はアリスに引き継がせたらしいな……

莫大な報酬を貰ったらしいが俺にもよこせ!

まあ、シャーロックの最後のプレゼントなのか1000万が振り込まれていたので借金は大部返せたんだがな……

犯罪組織の金なので不安もあり土方さんに聞いたが使っとけ使っとけと特に問題にはならないらしい。

 

そう土方さんと言えば、1日俺は取り調べ室にぶちこまれ根掘りはイ・ウーのことを聞かれ、司法取引の紙を山ほど書かされてから解放された。

土方さんは姉さんを追っているがあの人はフリーダムな人だからまず、捕まるまい。

詳しく聞いたら土方さんと姉さんは昔、同じチームで戦ったら同級生らしかった。

姉さんがいるから最強無敵のチーム立ったらしいが姉さんの暴走を止めるのは土方さんの役目であり、当然苦労したんだろうなぁ……

 

それはそうと仲間達だがキンジは入院1ヶ月、アリアは検査を受けた後はかなえさんの裁判関連で東京を飛び回っているらしい。

理子やレキ達も取り調べの後は平穏な生活に戻り、秋葉は実家への報告のため、一時的に椎名の家に戻っている。

従って、ようやく!夏休みに突入した俺は部屋でごろごろしていた。

 

「ああ……平和なだなぁ……」

 

激戦が嘘のような平和を噛み締めながらテレビをつけようとしてお腹が減っているのに気づく。

なんか食うか……

アリスがバイトしている中華料理『炎』にするか悩んだがファミマでいいかと焼肉弁当を買って部屋に戻る階段を上がる。

今日も、アリアは帰ってこないのかね……

ちなみにもう一人の同居人の星伽白雪はキンジの看病で当然ながら、部屋に戻らない。

従って俺は一人なんだが……

 

「おかえりなさい優希」

 

と笑顔で制服と赤いエプロンをつけ、長い黒髪をポニーテールにしている信冬がいた。

いたのか!って

 

「の、信冬なんでお前がここにいるんだ!」

 

つかどうやって入った!

 

「これです」

 

ジャーンとばかりに信冬はニコニコしながら合鍵を取り出した。

ああ、もう突っ込まない。

武田の家は俺の家と同じくらい権力があるから多分、非合法で手に入れたんだろう。

 

「ああ、またこんなものを食べて、栄養が片寄りますよ」

 

優しく信冬は焼肉弁当の入った袋を俺から取ると冷蔵庫に入れた。

 

「一時間くらいでできますから待ってて下さいね」

 

テーブルを見るとスーパーで買ったらしい紙袋が大量に置かれていた。

作ってくれる白雪はキンジがいないからいないし、食い物はコンビニ弁当ですませる俺だからありがたいと言えばありがたいがな……

知り合いで、しかも無下にできない関係なので、ソファーに座りながら

 

「で?なんで来たんだ?」

 

「イ・ウーが壊滅して、山梨に戻る前に優希の顔を見に来たんです。元気そうでよかった」

 

料理を作りながら信冬は言う。

 

「そうか……」

 

まずいな、結構久しぶりに会うのに会話が続かないぞ。

信冬は才色兼備で名家のお嬢様。

料理も出来るし姉さんとも短時間なら渡りあえる凄腕の武偵だ。

ちなみに、同じ歳なんだが……

 

「……」

 

扉の方を見る。

まさか、アリアが帰ってくるとかいよな……この状況見たら確実にアリア怒るぞ。

風穴パーティーだ。

 

「……」

 

どうやら帰ってこないみたいだな

 

「優希は今日は何してたんですか?」

 

「部屋でごろごろしてた。午前中はトレーニングしてたけどな」

 

クエストブーストで単位は補填したから無理にクエストを受ける必要もない。

なら、強くなるための鍛錬に時間を裂いた方が有意義だ。

 

 

「夏休み、実家には帰らないのですか?」

 

「うーん」

 

俺はソファーに背をつけて腕を組んだ。

咲夜には会いたいが家に帰ると鏡夜もいるし、母さんもいるしな……

それに、勘当と直接言われたわけではないが勘当状態は変わってない。

 

「帰らない。ここで夏休みは過ごすよ」

 

まあ、何個かクエストを受けて見るのもいいかもしれない。

アリアの方の手伝いしてもいいな……

あるいは理子やレキと遊びにいくか……

 

「じゃあ、私の家に来てください歓迎しますよ」

 

フフ、と笑う信冬、こいつの実家は山梨県で椎名の家と同じく人里離れた場所にある。

昔、何回か行ったが随分長い間行ってないな。

 

「考えとくよ」

 

とりあえず、保留だ。

イ・ウーが壊滅したとはいえ俺達にはまだ、敵が多いので仲間達からあまり離れたくない。

ランパン、魔女連隊、そして……ローズマリーはどうしたんだろう……あれからまるで姿を見せなくなったがまさか、死んだのか……

 

「……ふぅ」

 

天井を見上げながらそれならなんか達成感がない気がするな……あいつは俺の敵(かたき)で……俺と秋葉を不幸にした張本人だ。

本当に死んだのか……

 

「出来ましたよ」

 

テーブルに料理を並べていく信冬にはっとする。

考えこんでたみたいだな。

料理食う前にトイレに行こうと思ってたんだった。

 

「ちょっとトイレに……のわ!」

 

ガッとテーブルに足を引っかけて俺は派手に転んだ。

 

「え?きゃ」

 

ドタアアンと倒れて痛みを感じながら目を開けると床に顔を赤くした信冬がいた。

しかも、エプロン越しに右手が胸を掴んでいる。

まるで、押し倒したみたいじゃねえか!

 

「あ、あの……こういうことは……」

 

「い、いやその」

 

「ただい……ま」

 

「優先輩ぁ……い」

正しく最悪の中の最悪だろう。

アリアとマリがリビングに入ってきたのだ。

どう見ても俺が信冬を連れ込んで襲ってるようにしか見えないだろ!

 

「ゆ、優あんた」

 

「フフフ……」

 

アリアは顔を真っ赤にし、マリは顔を伏せる。

 

「れ、れれ、冷静になれ!誤解だ!」

 

その瞬間、俺は逃げた。

 

「風穴デストロイ」

 

「浮気者は死んでください!」

 

「ぎゃあああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガバメントとCZ78で半殺しにあいそうになりながらも誤解と信冬が説明してくれてなんとか事なきを得たのだったが……

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

なんなんだこの空気は……信冬は普通に俺の隣に座り、突き刺すような視線を信冬に向けてるアリアとマリを微笑みながらいなしている。

 

「優の知り合いということはわかったわ」

 

アリアがコンビニで買ったらしいエスプレッソを手にしながら言った。

 

「だからって優しかいない部屋に上がり込んで料理まで……」

 

「? 当たり前だと思いますよ」

 

信冬はあくまで笑顔を崩さない。

 

 

「当たり前って優先輩の何なんですか……えっと……」

 

「武田 信冬です。山梨武偵高2年生です」

 

名前が分からないマリに信冬が説明してくれる。

 

「紅麻里菜です。東京武偵高1年で優先輩のアミカです。それで武田先輩は優先輩どんな関係なんですか?」

 

なぜか、アミカを強調してマリは言った。

しかし、信冬はそんなマリに微笑んだまま

 

「私は優希の婚約者です」

 

と爆弾発言をしやがった。

 

「こ、ここ……」

 

マリとアリアが目を見開いて口をパクパクしている。

ま、まずい

 

「の、信冬!あれは昔、家が勝手に決めたことで今は俺、勘当みたいなもんで無効だろ!」

 

このままでは我に帰ったアリア達に殺される。

しかし、信冬は首を横に降り、真剣な目で俺を見てくる。

真っ直ぐな黒い瞳とその大和撫子な風貌に少しだけドキッとした。

 

「いいえ、優希。私達の婚約はまだ、破棄されてません。まだ、有効です」

 

じ、実家の連中忘れてたのか!それとも血の繋がりを意識したのか……

 

「で、でも信冬俺は実家で……」

 

ローズマリーの事件で父親と秋葉の母親を殺している。

父親殺しの汚れた人間なんだ。

 

「確かに、武田家でも反対意見はあります。ですけどいつも言ってるじゃないですか。私は気にしていませんよ。優希は優希です」

 

頻繁に連絡はしてないが信冬とは少しだけメールのやり取りをしている。

事件の後もこうして俺のことも気にかけてくれていたがまさか、婚約がまだ、有効だったとは……

 

「それとも別に好きな人がいるのですか?」

 

信冬がアリアとマリを見ながら

 

「でしたらちょっと嫉妬してしまいますね」

 

白雪のようなヤンデレではない信冬だが、ちょっと嫉妬してるように見えた。

普段が男を立てる大和撫子なだけにギャップにくらりとするやつもいるだろう

だが、そんなギャップに萌えるような余裕は俺にはなかった。

 

「あ、あんたが誰と付き合おうが婚約してるとあたしには関係ない!で、でも人にあ、あんなことまでしておいて!か、風穴!風穴!風穴祭り!」

 

俺はマリが何か言う前に逃げた。

窓から外にダイブして落下しながらワイヤーを数回使いで地面まで移動して、駐輪場の隼のエンジンを入れると全速力で逃げた。

 

「待ちなさい!優!」

 

「アハハ、優先輩待ってくださいよ」

 

思わず振り替えると部屋の前の廊下からヤンデレ目のマリと顔を真っ赤にしたアリアが見えた。

誰が待つか!逃げるんだ!

学園島は危ない!都内に逃げようと進路を変えた時、トンと隼の後ろに誰かが降りたたった。

嫌な予感がして振り替えると信冬がストンと隼の後部座席に座りながら俺にしがみつく

ステルス使ったのか……

 

「緋弾のアリア、面白い子ですね」

 

そうか、俺を見に来たんじゃなくてアリアを見に来たのか信冬

 

「何てことしてくれたんだよ信冬……しばらく部屋に帰れないぞ」

 

「それなら私の所に来ますか?」

 

 

「アリアを残したままなるべく東京を離れたくないな」

 

山梨から東京だとちょっと距離があるからな

 

「いえ、私のホテルに来ませんか?」

 

ホテルか……信冬は金持ちだからさぞかし豪華なんだろうな……一瞬、他の面子が頭に浮かんだが駄目だ、学園島内に留まるのは自殺行為だ。

アリア達の頭が冷えるまで今晩は信冬の所に止めてもらおう。

信冬は迫ってくるタイプではないし、いくらなんでも俺から何てことはないしな

 

「なら行くか」

 

「はい、歓迎しますよ」

 

顔は見えないが微笑んだのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おいおい……ここって東京で一番高いホテルじゃなかったか?

超有名人や金持ちしか泊まれないこのホテルは回りも凄い。あ、あれアメリカで今、ヒットしてる歌手だ!

制服姿の俺達が激しく場違いだ……

 

「おかえりなさいませ武田様」

 

ホテルのボーイが信冬を見つけて駆け寄ってきて俺を見て眉をちょっとだけ寄せた。

 

「今晩、彼は私の部屋に止まります。問題ありませんね?」

 

「もちろんです」

 

とボーイは慌てて言った。

 

慣れないな……こんな、高級な場所……

それに信冬は年上のボーイにも堂々としている。

上に立つ人間はそれなりの資質と責任が生まれます。相手が年上だからと上に立つものがへりくだれば私についてきてくれる人を失望させてしまいますからと以前、信冬は言っていた。武田信玄は昔、家臣との絆を強固にして最強の軍団を組織した。

信冬もその血を次いでるだけはあるな

 

ポーンという音にはっとするとエレベーターが空いて、豪華な廊下が表れる最上階のロイヤルスイートルームかよ!

 

「では武田様、失礼致します」

 

「ご苦労様です」

 

エレベーターが閉じてボーイがいなくなると広い廊下に俺達だけになる。

 

「? どうかしましたか優希」

 

「いや、なんでもない」

 

ボーイの時とは違い、親しみを込めて信冬が話してくれるが次元が違うよな……

椎名の家はガチガチに掟やらなんやらあるが武田家は改革を繰り返して、今の強固な地盤を気づいている。

武田家にはカリスマがあるからなんだろうがな

 

「どうぞ」

 

信冬がカードキーとを通し、指紋認証を行うと扉が開き、信冬が先に入ってくださいとドアの横に立つ。

古くさいし、今は流行らないが大和撫子とは男を立てるものらしい。

まあ、今回は信冬の流儀に合わせよう

 

 

「うわ、すげえ…… 」

 

中に入ると飛び込んできたのは玄関だ。奥に進むと客間があり、更に、何室か個室があり、更に奥に進むと寝室があった。

何畳あるんだよこの部屋は……

ロイヤルスイートはどうやら最上階をまるまる部屋にしてるみたいだが金額聞くのが怖い……けど参考までに……

 

「なあ、信冬この部屋は……」

 

「曲者!」

 

その瞬間、いきなり飛び込んで来た影を向かい俺は紫電で迎撃した。

ギイインと火花が散り、後ろに飛んで、距離を取る。

 

「貴様、この部屋をどなたの部屋と心得る!おそれ多くも甲斐の武田信玄が子孫、武田信冬様のお部屋であるぞ」

 

「いや、知ってるし」

 

背は俺より低いな。

中学生くらいか?長い、黒髪をひとくくりに纏め、手には黒い柄の日本刀に制服だ。

 

「信冬様のお留守に部屋に侵入するとは不埒千万!だが、この風林火山が将、真田幸村がいたことが運の尽きだ賊め!」

 

信冬の知り合いかよ!てか、部下か!

 

「ま、待て俺は!」

 

紫電を右手に左手で慌てて手を降るが

 

「問答無用!真田流決戦奥義!」

尋常でない気が刀に練り込まれて俺も迎撃するか悩んだ瞬間

 

「幸村、声が聞こえましたがなんの騒ぎです?」

 

と信冬が入ってきて刀を抜いてる俺達を見回した。

 

「お館様!危険です!賊が!お下がりください私が今、追い払います」

 

「……」

 

信冬は無表情になり、すっと俺を一瞬見てから幸村を見る。

 

「さあ、お館様早くおさ……」

 

「刀を引きなさい幸村」

 

「はっ?しかし?」

 

「聞こえなかったのですか?引きなさい」

 

「お断りします!お館様を守ることこそ私の……」

 

「引きなさいといってるのです!」

 

「は、はいいい!」

 

一際、大きな声で信冬が言うと幸村は慌てて刀を投げ出す。

 

「正座」

 

「はい!」

 

「姿勢を正す」

 

「はい!」

 

「頭を冷やしなさい」

 

「はい!冷やしましたぁ!」

 

信冬の言うことを犬のように聞いていくのを俺は見ながら信冬が珍しく息をはいた。

 

「ふぅ、すみません。優希、幸村が迷惑をかけてしまいました」

 

「お、お館様。こいつは一体誰なんですか?」

 

正座しながら睨み付けてくる幸村

 

「彼は椎名優希です」

 

「椎名……とすると」

 

「はい、私の婚約者です」

 

とちょっと顔を赤めた信冬が言うと幸村は雷を撃たれたように口を開き絶叫した。

 

「嘘だぁあああ!」

 

 

 

 

 

 

 

何なんだよこいつ……なんかややこしくなりそうだよなぁ……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。