緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第154弾 お空の旅は冬服で

目覚めたキンジに事情を説明し、みんなでロジのドッグに降りると海水の臭いがした。

海に繋がってるらしいな……

 

「キンジ!」

 

第7ブリッジと書かれた所で、油まみれの武藤が顔を上げた。

武藤が整備してたのはなんだこりゃ?魚雷みたいな形だか

 

「これはオルクス。私が武偵高への潜入用に使った潜航艇だ。元は3人乗り立ったが今回の改造から部品が増えて二人乗りになった。武藤、何ノットまで出せそうだ?」

 

ジャンヌに聞かれた武藤は太い眉を寄せて頭で計算する。

 

「まあ……170ノットってとこだな」

 

「素晴らしい。たった一晩でそこまでできるなんてお前は天才だ、武藤」

 

「それは認めるがよ。オレ以上の天才だぞ、これを作った奴は。これ、元は、スーパーキャビンテーションだったんじゃないか?」

 

「スーパーなんだって?」

 

キンジが聞いてるが俺も分からん

 

「高速魚雷が蒸発させた海水の気泡を自分の周囲に張って水の抵抗をだな」

 

「詳しい説明をしている時間はない。要するに超スピードを出す魚雷から炸薬を降ろし、人間が乗れるようにしたものなのだ、オルクスとは」

 

武藤の説明を手で制しながらジャンヌが言った。

 

「……だがよ、2000km走らせるってたな。燃料は積めるだけ積んだが、それなら片道だぜ。何か調達してあとで迎えに行くけどな、自力では帰ってこれねぇぞ」

 

と、武藤がキンジを見る。

いくらかは裏事情を知ってるな武藤

 

「聞いたのか、武藤。俺達の……その」

 

「聞きゃあしねえよ。好奇心ネコを殺す。武偵が書いた本に載ってたんだろ?」

 

武藤は巫女装束の白雪をチラッと見た。

 

「お前も優もほんと、何に対しても鈍感なヤツだよ。俺たちが何も知らないとでも思ったか。目を見りゃわかんだよ。ここ数ヶ月お前達が、危ねぇ、橋を渡ってたってことぐらいよ」

 

「みんな薄々分かってたよ。武偵だもん。でも」

 

武藤の手伝いをしていたらしい不知火がオルクスから出てきた。

 

「危ない橋の1つや2つ、みんな渡ってるからね。この学校の生徒は。それに武偵憲章第4条武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用の事。だよね?だから……陰から心配してたんだよ。やっと手伝える時が来て、正直ちょっと嬉しい」

 

とニコといつもの人当たりのいい笑顔

 

「ありがとう……」

 

と俺達は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先に乗り込んだ白雪に続いてキンジがオルクスに乗り込もうとする

 

「キンジ」

 

 

乗り込もうとするキンジに声をかけるとキンジが振り替える。

 

「アリアを頼む……俺たちも手段を確保したら直ぐに援軍に行くからな」

 

「お前は怪我人だろ?無理するなよ」

 

「いーや、絶対に行くからな。死ぬんじゃないぞ。お前も白雪もな」

 

「当たり前だろ」

 

ゴツンと右手の拳を合わせてキンジがオルクスに乗り込んだ。

 

「ではハッチを閉めるぞ。武運を祈る。それとこれを持っていけ」

 

と言ってジャンヌは自分の松葉杖を左右2枚に開き……中に収められていた、抜き身の洋剣を差し出した。

デュランダルだなあれ

 

「ジャンヌいいの?船もらっちゃったのに……この剣もあなたの大事な……」

 

「パトラは私の敵でもある。敵の敵は味方と言うからな」

 

「ありがとうジャンヌ。本当は、いい人だったんだね」

 

と、まっすぐ白雪にお礼を言われたジャンヌは真っ赤になり

 

「な……っ……わ、私は魔女だっ。本当は怖いんだぞ。あ……ぶ、武運を祈る」

 

と真っ赤になってこちらに走ってくる

 

「ツンデレですね」

とアリスに言われてジャンヌは違うと怒鳴った。

そうしてる間にオルクスが出航していった。

 

「……」

 

時計を見ると午前7時15分

アリアの死、そのタイムリミットまで残り、10時間45分か……

待つしかないのかよ……

 

「武藤、俺達はいつ追えるんだ?」

 

「そんなに焦るなよ優、昼頃には船の準備は終わる」

 

昼か……多分、間に合わないだろうアリアの死までには……キンジ達に賭けるしかないのか?

一瞬、藤宮姉妹が思い出されたができれば、巻き込みたくないし、後1つのルートも多分、先手を打たれてるだろう……

 

「優君……」

 

秋葉が心配してくれたのか声をかけてくれる。

 

「ああ、大丈夫だ秋葉、ちょっと外の空気吸ってくる」

 

と言ってロジの建物を出て壁にもたれ掛かる。

 

「歯がゆいよな……こんな時、姉さんなら自分で飛んでいくなりできるのに……」

 

今は、土方さんや月詠達はいない。

ここにいても仕方ないというのが理由らしいがな……

 

「ん?」

 

ふと、人の気配を感じて横を見るとレキが体育座りしていた。

まったく気づかなかったぞ

 

「ぐる」

 

その横にはハイマキがお座りしてるな

 

「アリアさんが心配ですか?」

 

いきなり声をかけてきたレキに俺は頷く

 

「ああ、パトラ以外にも敵がいるかも知れないしキンジ達2人じゃきついかも知れないからな」

 

「……」

 

 

レキは黙って前を見ている。

 

「……」

 

「……」

 

続く沈黙

何故だろうな……前はこの沈黙はきつかったけど今はそうは思えない

 

「もしかして……心配してくれてるのか?」

 

「……」

 

レキは答えない。

だけど、動こうともしなかった。

 

「……」

 

なんか、眠くなってきたな……

カジノの戦いのダメージがまだ、抜けていないらしい……

あ、寝るならどっか……他の……

目を閉じると心地よい眠気に俺は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た……

幾人もの不思議な雰囲気の女性達に加え、子供が二人、姉さんが何か楽しそうに何か、中央の女性に話している。

相手の女性は無表情だが姉さんと意志疎通はできてるようだ。

 

「……はいいぞ?ウルスの血と椎名の……」

 

「……」

 

女性が何か言った。

 

「決まりだな。よかったな弟、お前は……」

 

「……」

 

俺の前に座っている子供は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レキ」

 

「はい」

 

はっとして目を覚ますと再びレキの顔が前にあった

 

「うわ!」

 

また、レキに膝枕されてたらしい。

というか、壁越しに俺がずり落ちただけか!

 

「ぐるおん」

 

「いて!噛むなハイマキ!」

 

「ハイマキやめなさい」

 

ちっと言う風にハイマキが離れる。

なんなんだ?

時計を見てみると午前13時30分、そろそろ準備が終わるはずだが難航してるのかもしれないな……

 

それにしても……

 

「?」

 

レキが俺を見てくる。

あの子供レキに似ていたような……まさかな……

 

「ここにいやがったか優希」

 

「土方さん」

 

土方さんはレキの方を見てから

 

「野暮だったら引き上げるぜ?」

 

「ち、違うって!それより何か用?」

 

「船の準備ができたそうだ。行ってこい。間に合わねえだろうがな……」

 

土方さんは舌打ちしながら言った時

 

「じゃあ、私が送り届けてやろう」

 

「何!っ!てめぇ!」

 

土方さんが振り返り目を見開いた。

 

「姉さん!」

 

水無月希が腕を組んで立っていたのだ。

というか、土方さんの驚き具合からして……

 

「てめぇが何で生きてやがる!希」

 

「そう驚くなよ歳、今は時間ないからな」

 

むんずと俺の襟首を掴む姉さん

へ?

 

「レキ、こいつ借りてくぞ」

 

こくりとレキが頷いた。

ちょ!やっぱりレキと姉さん!

ていうか槍を手にした秋葉を片手に掴んでるし!

 

「じゃな、歳また、会おう」

 

「てめ!待ちやがれ」

 

土方さんが姉さんに掴みかかった瞬間、景色が歪み次の瞬間には大空だった。

 

「えええ!」

 

「さあ、秋葉、風+風だ。3時間くらいか?」

 

「はい」

 

ま、まさか

 

「ね、姉さん、秋葉、参考までに聞きたいんだけど」

 

「はい?なんですか優君」

 

「何する気?」

 

「決まってるだろ」

 

姉さんはにっと笑い風を展開させた瞬間景色が変わった。

 

「空の旅だ!」

 

ぎゃあああああああ!

2000kmを三時間ぐらいということは時速666kmくらいの速度……なるほど、秋葉を連れてきたのはうっとうしい空気の制御を任せるためか……

てか……

 

「ね、姉さん一度降ろして!寒い!死ぬぅ!」

 

「ハハハハ、飛ばすぞ!」

 

そう、夏服で長時間空飛ぶ馬鹿はいないよね……

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア死亡まで後4時20分


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