緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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これでオリジナル章は終わりです


第135弾 緋刀

「……から……です」

 

「だと……しょ?」

 

なんだようるせえなぁ

うわ、まぶしい

 

「優先輩!」

 

「いっ!」

 

目を開けた瞬間、マリが飛び込んできた。

激痛で意識が一気に覚醒する。

喋るのに邪魔だから酸素を人工的に入れるマスクを外してから

 

「いだだ!マリ離れろ!」

 

「嫌です!本当に心配したんですよ……」

 

なんとか首だけを下に向けるとマリが泣きながらこちらを見ていた。

 

「マリ、駄目じゃないですかお兄さん死んじゃいますよ?」

 

ひょいとマリをつまみ上げるように引き剥がしたのは……

 

「アリスか、なんでお前がここに……てか、ここどこだ?」

 

「京都武偵病院ですよ~」

 

白衣のポケットに右手を突っ込み注射をくるくる回すアリス。

あ、危ねえ

 

「ちょっと学会で京都に来てたんですけどお兄さんが大怪我したってつかみましてお兄さんの主治医としては見過ごせないかなぁと」

 

アリス……お前は俺探知マシーンなのか?

 

「マリは何でいるんだ?」

 

今回はこなかったはずなのに……

 

「優先輩に置いていかれたのではっし………いえ、間違いました。アリスと一緒に学会に来たんです」

 

あらかさまな嘘だな……

アリスはにやにやしてやがる。

てか、発信器とか言いやがった後で服や持ち物調べとくか。

 

「アリス、マリみんなは?」

 

少し不安になる。

ローズマリーの前で気絶したんだ。

あの後どうなった?

 

「みんな無事ですよ。アリアさんは上のVIP病室で寝てますけど」

 

「なっ!怪我したのか?」

 

「いえいえ」

 

アリスは俺を指差しながら

 

「私が手術したんじゃないんですけどお兄さんの血は既に三分の一近く失われてました。ですけどお兄さんに一致する血液はこの病院にはなかったんです。そこで同じ血液のアリアさんの血液をお兄さんに移しました。結構限界近くまで血を絞ったので他の病院から血液が届くまでお兄さんとアリアさんは入院です」

 

まじか……輸血でアリアの血がねぇ……

なんとなく体をみてみるが血は見えないからな

 

「それでキンジ達はどうしたんだ?」

 

「遠山先輩達は東京で今回の報告してると思います。公安0の土方さんが……」

 

「土方さんが?てことは公安0が?」

 

「はい、詳しくは教えてもらってませんがこの病院にも公安の護衛を置いていくと言ってました」

 

マリの説明を聞きながら大体の流れを悟った。

ようは援軍が俺達を助けてくれたらしいな。

沖田刹那辺りが来てればなんとかなるだろうし

 

「ローズマリーはどうした?」

 

護衛と言うことはローズマリーか魔女連隊を取り逃がした可能性がある。

 

「ローズマリーは逃げたそうです。彼女のために護衛がいるみたいです」

 

まあ、今襲われたら確実に死ぬな……血がまだ、足りないのかぼーっとするし体もあちこちが痛い。

というか激痛が走るぞいてて……

にしてもみんないないのか……

咲夜辺りは近衛に家に戻されたか……

 

「あ、妹さんから伝言です。起きたら電話してだそうです」

 

ここ病院だから!体動かないよ!

 

「アリスかマリちょっと外出て電話してくれるか?」

 

「じゃあ私が」

 

といいながらアリスが俺に番号を聞いて出ていった。

ふぅ……なんかこれだけなのに疲れたな……

やはり、体力が落ちて血も足りないらしい。

ふと顔をあげると机の上に俺の装備一式と鞘に収まった紫電が置かれていた。

おいおい、後継者の象徴回収しなくていいのかよ……

まあ、実家はそれどころではないんだろうな……

 

「二人っきりですね」

 

ん?

椅子に座り何やらもしもじとしながら顔を赤くしたマリが俺を見てくる。

 

「あ、ああそうだな」

 

「ひどいじゃないですか優先輩。アミカの私を置いてくなんて」

 

「いやまあ……悪い……のかな?」

 

本来なら一人で帰る気だったんだが

 

「悪いです。本当に心配したんですよ」

 

「その点は悪かったな」

 

アミカの片割れが死んだら目覚め悪いだろうし。

あ、なんか眠くなってきたな……

体力戻ってないから……

 

「悪いマリ、ちょっと寝かせてくれ」

 

「はい!私は今日は病室に泊まっていきますから安心して眠ってください」

 

それはそれでなんか嫌な気がするが……やばいもう……

 

「……」

 

「優先輩寝たんですか?」

 

「……」

 

「寝ちゃった……フフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

周りが暗い。

今は消灯時間か……

暗闇に夜行塗料の針が光っている。

0時か……

丁度、1日が終わったところらしかった。

 

「マリ?」

 

横を見るが椅子が置かれてるだけでマリもアリスもいなかった。

トイレか?

まあ……ん?

その瞬間、俺は長年感じることが多い殺気を感じた。

まさか……

その時、廊下の方からドサリと何かが倒れる音がした。

俺は自由の聞かない体で紫電とガバメントを手に取った。

 

「フフフ、他愛ありませんの」

 

 

ぞっとした。

ローズマリー……あいつが扉の向こうに……いる。

 

「くっ……」

 

ベッドから降りようと体を捻った瞬間、扉が音もなく開いた。

ゴシックロリータの黒い服……

 

「くっ!」

 

ローズマリーの姿を見たしゅんかん俺は躊躇なくガバメントを発砲した。

 

「ぐっ……」

 

握力が弱まってるのかガバメントが発砲の衝撃で手から滑り落ちる。

ガシャンと床に落ちてしまう。

 

「……優希」

 

すっとこちらの向かい歩いてくるローズマリーに俺は恐怖した。

今、こいつに俺は何の抵抗もできない。

圧倒的な弱者の立場公安0の護衛は恐らくやられたんだろう

 

「くっ」

 

紫電を抜こうとしたがローズマリーがすっと俺に近より両手で俺の手首を掴み俺をベッドに押し倒した。

ローズマリーの香水の匂いが鼻を突く

見上げる形で俺は暗闇に赤く光るローズマリーの瞳と目を合わせ、枕元は彼女の銀髪が染め、俺の首にも髪が当たる。

 

体が……動かない。

 

「無抵抗ですのね」

 

にこりとローズマリーは微笑むとゆっくりと顔を近づけて唇を俺の唇に押し付けた。

 

「む……ぐ」

 

とろけるような甘く乱暴なキスだった。

むさぼるようにローズマリーは激しくキスをすると顔を離した。

 

「フフフ、これで上書きですの」

 

「上書きだと?」

 

なんとか逃げようとするが力がまったく入らない。

 

「ひどいですわ優希、アリアにキスするなんて。私怒ってますのよ?」

 

「知るかよ!」

 

睨み付けながら言うとローズマリーは再び微笑む

 

「優希。あなたには絶望してもらいますの」

 

そう言いながらローズマリーは口にカプセルを含むと再びキスしてきた。

 

「う……ぐ……」

 

カプセルがローズマリー口から俺の口に移る。

吐き出そうとするがローズマリーは口を話さずに舌でカプセルを強引に押し込んだ。

 

「んぐ……」

 

飲み込んだのを確認したローズマリーは口を離すと俺を解放する。

 

「ぐ……何飲ませやがった……」

 

「ヴァンパイアになる薬ですの。一時間しか猶予がありませんので私アリアを殺しにいきますわ優希。ここにアリアの首を持ってきますのでお待ちになって」

 

「ま、待て!ヴァンパイアになる薬だと?アリアを殺すのと関係ないだろ!」

 

「ありますわ」

 

にこりとローズマリーは笑う

 

「ヴァンパイアになる手順は簡単ですのその薬を飲み。心の底から絶望して一度死ぬこと。優希あなたにはヴァンパイアになって私と永遠に……」

 

 

「ふざけてんじゃねえよ」

 

ベッドから転がり落ちて紫電を杖がわりに立ち上がる。

 

「アリアは……殺させない」

 

「でも止められませんの」

 

ローズマリーはそう言いながらゆっくりと廊下に出ていく。

 

「ぐっ……」

 

体がよろめき床に叩きつけられる。

ちくしょう……体が……動かねえ

カツンカツンと廊下をローズマリーが歩く音が聞こえる。

俺に絶望を与えるため。

そう、今俺は絶望している。

誰でもいい……誰かアリアを助けてくれ……キンジ、理子、レキ、マリ、土方さん、沖田……姉さん……

 

アリアを……アリアを助けてくれ……アリア……アリア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンと心臓が跳ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけましてよアリア」

 

神崎・H・アリアと書かれた札を見てローズマリーは微笑む。

さあ、アリアの首を落として優希に見せて彼を殺そう。

そうすれば彼は自分と同じ寿命を得てくれる。

後は監禁して自分を好きになって貰えばいい。

だって、彼は私の……

 

「と、止まってください!」

 

ローズマリーは扉に手をかけてから声の方を見ると白衣を来たアリスが拳銃をローズマリーに向けていた。

 

「あら?人払いの鬼道術をかけてましたのに」

 

意外そうにローズマリーは言った。

 

「き、鬼道術ですか?」

 

本来アンビュラスである彼女は戦わない。

今だって震えていた。

 

「邪魔ですの」

 

ローズマリーが腕を振るったのとアリスが発砲したのはほぼ同時だった。

弾は外れ、熱風がアリアを吹き飛ばした。

 

「きゃああああ!」

 

悲鳴を上げて床に叩きつけられるアリス

ローズマリーはゴミを見るような視線でそれを見てから扉を開けた。

 

「あら?」

 

ローズマリーの目に飛び込んできたのはもぬけの殻のベッド

 

「?」

 

首を傾げて中に入る。

 

「やああ!」

 

はっとしてローズマリーが天井を見るとワイヤーで天井に張り付いていたアリアが小太刀で切りかかってきた。

狙いは両腕でだ。

重力を加えてアリアの小太刀はローズマリーの肩を深々と切り裂いたが浅い。

 

「フフフ、見つけましたのアリア」

 

「あ!」

 

ローズマリーはアリアの服を掴むと廊下に投げ飛ばした。

 

「う……」

 

壁に叩きつけられるアリア。

やはり、血が足りてないのか動きが悪い。

 

「私の接近を悟って逃げずに強襲したのは誉めてあげますの」

 

「あ、あんたしつこいのよ。ま、また優を……」

 

「いいえ、あたなを殺しますの。教授の許可はもらいましたわ」

 

「教授……?」

 

「あなたの人生はここでおしまい。サヨナラですのアリア」

 

ローズマリーは大剣を振りかぶと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を見ているものがいる。

16~18歳くらいの黒髪を肩まで伸ばした女性だ。

ビルの屋上で風を受けながら彼女は電話する。

 

「いいのかシャーロック?アリアが殺されてしまうぞ?」

 

「条件は全て揃えた。彼は目覚めてくれるさ。緋弾を守るものとしてね」

 

落ち着いた男性の言葉に少女は視線を戻す。

 

「さて、どうなるやら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がああああんとローズマリーの大剣が窓とコンクリートを破壊しアリアがいた場所を薙ぎ払った。

 

「うあ!」

 

アリアはごろごろと転がりながらガバメントをフルオート射撃で撃ち尽くすがローズマリーはゆっくりとアリアに向かって剣を振り上げる。

 

「っ!」

 

白銀のガバメントがローズマリーに向くがローズマリーはガバメントを蹴飛ばした。

 

「あ!」

 

短く悲鳴をあげて漆黒のガバメントをローズマリーに向けるが同じく蹴飛ばされる。

 

「フフフ、意識があるとめんどくさいですわ」

 

ローズマリーはアリスにしたように左手を薙ぎ払うと熱風がアリアを吹き飛ばした。

 

「きゃ!」

 

悲鳴をあげてアリアはなすすべなく床に沈んだ。

動く気配はない。

 

「フフフ」

 

首を落とそうとローズマリーが一歩踏み出した瞬間

 

轟音と共にローズマリーの手が千切れとんだ。

剣もドンと床に落ちる。

 

「また、介入ですの?」

 

ローズマリーはうっとおしそうに廊下を見て目を丸くした。

 

「……誰?いえ……優……希?」

 

ローズマリーが言うのも無理はなかった。

そこにいたのは先程の死にかけた少年ではない。

右手に紫電、左手にデザートイーグルを持つ少年の髪はアリアと同じピンク色に染まり、暗闇に浮かぶ目はカメリアの瞳をしていた。

まるで、アリアのような……

 

「……」

 

ローズマリーが目を丸くしているといきなり優希が動いた。

一瞬でローズマリーの前に移動する。

早いとローズマリーは思ったが拾った大剣で紫電を受け止めた。

ヴァンパイアのパワーは人間を凌駕する。

床に組伏せようと力を入れるが押されたのはローズマリーだった。

 

「なん……ですのこの力……」

 

まだ、条件は整っていない。

彼がヴァンパイアの力を使えるのは不可能なはずだ。

ならば、これは……

 

「……」

 

虚ろな目をした彼はローズマリーを蹴飛ばすと刀を鞘に戻す。

居合い風凪の構えだ。

 

「……風凪」

 

抜き放たれたカマイタチがローズマリーの腕を切り裂いた。

だが、ローズマリーはさらに驚愕した。

右足がカマイタチでさらに切り刻まれたのだ。

二重のカマイタチ……

だが、ローズマリーは焦らない。

これなら勝てる。

 

「優希」

 

いつもの余裕でローズマリーは言おうとした瞬間、異変に気付いた。

優希の紫電が緋色に輝いている。

あれはまずいとローズマリーは本能で悟り、窓から翼を広げ空に飛び出してた。

優希は刀を下段に構える

 

「……緋刀……」

 

空へ紫電を薙ぎ払った瞬間、猛烈な光が辺りを照らし、緋色の光はローズマリーを飲み込んだ。

 

「きゃあああああ!」

 

ローズマリー悲鳴が辺りに響き、光が収まった後には何も存在していなかった。

 

「……」

 

優希は虚ろな目でそれを見ていたがやがて、紫電の光は消え、髪と目の色も元の色に戻り、その場に崩れ落ちた。

 

ローズマリーが消えたことにより辺りが騒がしくなる。

病室から患者が、医師や看護士が悲鳴をあげながら駆け寄る。

アリスも上半身だけを起こしながら今、起こったことを理解出来ずにぼーぜんと見ていた。

彼女の前には跡形もなく消滅したえぐるような窓とそれを成した先輩の姿だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病室が騒がしくなっている。

彼女はビルの屋上から今、起こったことを電話で伝えた。

 

「もうひとつの緋弾……いや、緋刀とでも言うべきかな?」

「なんにせよ。会うのが楽しみだ優希」

そう言いながらかつて世界最強と呼ばれた女性はその場から消えた。


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