緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第134弾 手を引く少女

Said アリア

 

「優!優!」

 

倒れた優はピクリとも動かなかった。

その回りには血が広がっていく。

すぐに病院に連れていかないと優は死ぬ。

動かしたらいけないのはわかるがここでは100%助からない。螺旋階段を絶望的に見上げながら紫電を手にとる。

 

「神崎・ホームズ・アリア」

 

ぞっとする声に振り向くとローズマリーは微笑んでいた。

 

「どこに行くんですの?」

 

「優を病院に連れていくのよ!あんただって優が死んだら困るんでしょ!」

 

ニコリとローズマリーは微笑んでいた。

 

「確かに、今の状態じゃ条件は揃いませんの。残念ですわ。アリアに刺された時に気絶してくれれば条件は揃いましたのに」

 

「あたしが……刺した?」

 

ローズマリーの言葉にあたしはぞっとする。

 

「はい、ぶすりといきましたの」

 

「そ、それはあんたが……」

 

暗示をかけたからと言いかけてやめる。

どうしようあたしのせいで……

 

「でも……」

 

「っ!?」

 

微笑みながら冷たい殺気があたしを包む。

 

「私、怒ってますの。教授には特定条件以外で殺すなと言われてますが私、あなたを今殺しますの」

 

そう言いながらローズマリーは大剣を手に取った。

 

「う……」

 

絶望的な状況でガバメントをローズマリーに向ける。

しかし、ローズマリーはにこりとして

 

「私はヴァンパイアですの。2丁拳銃で魔臓は破壊できませんわ」

 

ひたりとローズマリーが踏み出すゆっくりと

 

「くっ」

 

ダンダン

 

ローズマリーの足肩に命中するが弾が弾き出される。

魔臓の位置も分からない。

こうしてる間にも優は……

ぎゅっと優を抱く。

ローズマリーはにこりとしながら

 

「首を落として優希を治療して見せてあげますの楽しみですわ」

 

「あ……」

 

その時だった。

 

「アリア!優!」

 

振り替えると蒼い炎の壁を突き破るようにキンジが飛び出してきた。

あたしはキンジが一瞬で指信号したのを見逃さなかった。

 

「遠山キンジ」

 

ローズマリーが手をキンジに向ける。

同時にキンジが発砲した瞬間、辺りが閃光に包まれた。

 

「キンジ!」

 

あたしが光の中で叫ぶ。

 

「逃げるぞ!」

 

キンジはそう言うと優を抱えると階段を走り出した。

あたしもそれに続く。

 

「ま、待ちなさい」

 

背後からローズマリーの声が聞こえるが無論振り返らない。

消えてない炎の壁を紫電で薙ぎ払うと蒼い炎が消滅した。

ステルス殺しの刀。

他人が使っても効力はあるようだった。

 

「キンジ!」

 

「今は、逃げるぞ!上に行けば理子達と合流できる」

地上までは長い。

螺旋階段が永劫に続くように見えた。

 

バサリと言う音が聞こえぞっとして吹き抜けの部分を見るとローズマリーが翼を広げて迫っていた。

 

「逃がしませんの」

 

「ちっ!」

 

キンジがあたしにまばたき信号してからガバメントを取り出した。

優のガバメントだ。

 

ドン

 

「また、閃光弾ですの?」

 

ローズマリーが目を閉じた瞬間、すさまじい音が炸裂と同時に地下を揺らした。

武偵弾音響弾だ。

優は保険のためキンジに武偵弾を渡していたらしい。

ローズマリーはバランスを失ったのか近くの階段に墜落していった。

 

「今ので武偵弾は打ち止めだ走れアリア!」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

少し階段を登り後少しで地下二階というところでバサリと羽の音がした。

ローズマリーが前方の階段に降り立った。

 

「フフフ、鬼ごっこは終わりでしてよ?」

 

「く……」

 

キンジがあたしをかばいながら後退するが下は行き止まりの階段だ。

一か八か紫電でローズマリーに挑むか……だが、魔臓は……

 

「焼死体にしますの」

 

ローズマリーは言いながら右手をあたしに向ける。

手には蒼い火球が現れた。

階段に逃げ場はない。

 

 

「優希を背負ってる遠山キンジは後で焼きますの」

 

火球が放出される。

「アリア!」

 

キンジの悲鳴のような声が聞こえた。

 

(ママ……優……)

 

避けられない。

目を閉じて体が焼きつくされる感覚に耐えようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てられないな」

「え?」

 

キンジや優の声ではない。

その人影はスタっとあたしの前に降り立つと右手を前に出すと火球を受け止めた。

ジュウウウという音が聞こえるがそれは肉が焼ける音ではない。

何かで火球を止めているのだ。

 

「あなたが!なぜですの」

 

ローズマリーも驚いてるようだった。

フードとマフラーで顔をすっぽり隠したその人は

 

「私は監視役だよ。条件の整わないアリア殺害は許さないと教授に言われたろ?」

 

ジュウウ

火球は水蒸気となって霧散し、辺りに霧が発生する。

 

「ツインウォーターカッター」

 

「あう……」

 

ローズマリーの声が消えた。

霧のせいで何も見えない。

 

「ローズマリーは私が抑えておく。優希を病院に」

 

「あ、あの!あなたは?」

 

僅かに見える人影は振り返ったようだった。

 

「通りすがりの正義の味方さ」

 

そう言うと人影は螺旋階段の吹き抜けからおそらくは翼を切られたであろうローズマリーを追って飛び降りた。

今の人……どこかで……

 

「アリア、行くぞ!時間がない!」

 

「う、うん」

 

あたしは今はそれ以上考えないことにした。

地下二階の扉を開けた。

理子が戦っているはずのそこは……

 

 

 

 

 

 

 

 

それより少し前

 

「オラぁ!」

 

「ぎゃん!」

 

荒城源也の一撃がとうとう、ハイマキの体を捉えた。

ハイマキはぶっ飛ばされるがなんとか立ち上がる。

 

「粘るねぇ嬢ちゃん」

 

開けた空間での戦闘、ハイマキとレキの驚異的な狙撃があるからこそ荒城源也と戦えていたがいかせん場所が悪い。

すでに、レキもハイマキもボロボロの状態だった。

 

「……」

 

レキは黙って弾装を確認する。

ドラグノフに残されたのは後、一発だけだ。

 

最後の銃弾……

 

「ここが森林なら俺が負けてたろうな。だが、悪いが俺の勝ちだ」

 

荒城源也はそう言いながらぐっと腰を屈めた。

最後の攻撃にでるつもりだ。

 

「私は……一発の銃弾」

 

レキは荒城源也の動きを予想し、最後の銃弾を荒城源也に向ける。

 

「っと!」

 

突然、荒城源也の動きが止まる。

 

「あらあらウフフ」

 

「……」

 

レキが振り替えると和服に薙刀を持った女性が立っていた。

グルルとハイマキが警戒するがその女性はふわりと微笑んでいた。

 

「椎名近衛筆頭月詠、レキ様ここは私が」

 

「……」

 

椎名といった。

ということは彼女は味方だろう。

レキが下がると荒城源也が舌打ちした。

 

「もう、戻ってきやがったか……潮時だな」

 

「戦わないんですか?」

 

微笑みながら月詠が聞くと荒城源也はさらに舌打ちする。

 

「Rランクに喧嘩売るほど馬鹿じゃねえよ。それに報酬はもらったしな。リスクに会わねえ戦いはやらねえんだ。それともイ・ウーと戦うか?」

 

「私も無益な戦いはしたくありません。消えなさい」

 

「はいはいと、ありがとさん」

 

荒城源也はそう言いながら出口から出ていった。

あっけない幕切れだった。

 

「……」

 

レキは無言で歩き出す。

 

「どちらに?」

 

「優さん達を助けに」

 

「大丈夫です。今頃、あちらには……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月詠が言ったように地下二階は既に決着がつきつつあった。

 

「くっ……化け物」

 

ドリスが舌打ちする。

峰・理子も強敵だがこの相手はそれを凌駕している。

 

「もう終わり?」

 

とんとんと肩を日本刀で叩きながら沖田刹那は言った。

 

「公安0のRランク……理不尽な化け物」

 

「お前は俺達公安0に喧嘩を売ったんだ」

 

そう言いながら土方歳三はドリスを睨み付ける。

彼の後ろには理子の治療をしている公安の人間がいる。

 

「殺しゃしねえよ。てめえには魔女連隊の情報を吐いてもらう」

 

「くっ……」

 

ドリスの人形は全て破壊されてしまった。

刀だけで沖田一人に殲滅させられたのだ。

日本はRランクを2人も要している。

一人は椎名の家の月詠、そしつ、もう一人は公安0の沖田刹那昔は水無月希も加わり3人もRランクが日本にはいたのだ。

今、日本のRランクが一人現れた。

冗談じゃない

 

「土方さん!」

 

そんな時に、アリア達が地下2階に着いたのだ。

 

「アリア……っ!優はどうした!」

 

理子がアリア達に駆け寄ってキンジにおぶられ動かない優の様子に絶句する。

 

「直ぐに病院に連れていかないと手遅れになるわ!」

 

「これは……応急処置じゃ間に合わねぇな……行くぞ」

 

土方はそう言いながら携帯でヘリを呼ぶ。

 

「刹那、そいつは任せるぞ」

 

「はいはい、ちゃんと殺しときますよ」

 

沖田は優を見ながら言った。

「殺すな刹那!」

 

「はいはい」

 

沖田は鋭い視線をドリスに向けた。

 

「ま、腕の一本や日本いいよね」

 

「や、やめろ!降参する!」

 

沖田が本気だとドリスは悟り慌てて降参する。

だが……

 

「刹那、降参するなら……」

 

その時、ヒュっと音がし沖田の首があった部分を何かが抜けた。

沖田は交わしたが、その物体はドリスの心臓に深く突き刺さった。

 

「う……が……」

 

「何!」

 

全員がナイフが飛んで来た方を見ると誰かいる。

 

「クフ、フフフ、駄目だよドリス。魔女連隊が降参なんかしちゃ」

 

「あ……が……」

 

口から血を吐きながらドリスは手をその人物に向ける。

 

「てめえ魔女連隊の一員か?」

 

土方が刀を相手に向ける。

ひどく小柄な相手だった。

黒いローブで顔を多い、口元だけが露出している。

 

「公安0今回は私達の負け。クフフ楽しかった?」

 

「なめたこと言いやがる」

 

ローブはアリア達の方を見る。

 

「緋弾を持つもの……いずれまた……」

ぞっとする声だった。

ドオオオオン

デザートイーグルの発砲とともにローブの相手の頭が吹き飛んだ。

霞のように消えていきながら

 

「クフフフフフ、バイバイ」

 

全てが幻のように消えた。

土方は舌打ちしてからドリスを見たが心臓に突き刺さったナイフで助けるのを諦めた。

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

キンジ達と地下を脱出し、ヘリを待つ。地面に優希を寝かせて応急処置を始める。

 

「お前ら、病院につくまで優希の名前を呼んでやれ」

 

土方はそう言うと離れた。

 

「優!優!」

 

「優さん…」

 

「おい、優!死ぬな!」

 

「優!」

 

「優君…」

 

「優兄!」

 

みんなが必死に名前を呼ぶが血の気がない彼はピクリとも動かなかった。

バリバリと音が聞こえ、ヘリが降りてくる。

 

「一番近い病院まで10分か…」

 

土方は呟くと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分後、アリア達に医師が告げた言葉は残酷だった。

 

「手術はできません」

 

「な、なんでですか!早く手術しないと優が!」

 

アリアが泣きそうな顔で言うと医師は首を横に降った。

 

「彼は血を失いすぎてる。彼に適合する輸血用の血液が今、うちにはないんだ……東京から取り寄せるなら2時間はかかる。だが、彼はそこまで……」

 

「理子の……私の血を優に!」

 

理子が必死の表情で言うが医師は首を横に降る。

 

「君達の血液は多分、一致しない……彼の血液は……

なんだ」

 

聞いたこともない血液型だ。

おそらくは、数万に一人と言われるような特殊な血液型なのだろう。

皆が絶望的になるがアリアだけが顔を輝かせる。

 

「先生!私その血液型です!」

 

医師の目が丸く見開かれた。

 

「本当ですか」

 

「はい!」

 

「だが……」

 

医師は再び顔を曇らせた。

 

「患者はもう血液をかなり失ってる。あなたの体は失礼だが小さい……限界ギリギリまで輸血することになるが……」

 

「大丈夫です!早くしてください!」

 

「分かった」

 

時間がないのだろう。

看護士や医師がばたばたと動き出す。

手術室に運ばれ横に並べられた優を見ながらアリアは思う。

 

「優、あんたはあたしのチームメイトよ……死なせないわ……」

 

 

 

 

 

 

 

SiDe優希

 

「ここは……」

 

目が覚めるとそこは一面花畑だった。

先には川が見える。

 

「そうか……俺死んだのか……」

 

あの川は多分……

 

「覚悟はしてたんだがな……」

 

後悔はある……無念でもある。

ローズマリーと決着をつけられず丸投げしてしまった。

 

「姉さん……父さんもみんないるんだろうな……」

 

川に向かい歩き出す。

勝手に足が動いているようだった。

 

「確か川を渡ると戻れないんだよな……」

 

アリアは無事だったろうか?

ローズマリーから逃げ切れたのか……

まあ……もう俺には……

川に足を踏み入れようとした瞬間、誰かに後ろから手を捕まれた。

優しく、だが乱暴に俺は川から引きずり戻されていく。

振り替えるとちょっと怒った顔をした少女がいた。

俺は安堵しながらその少女の名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリア……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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