緋弾のアリアー緋弾を守るもの   作:草薙

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第121弾 忌まわしき過去-出会い

「だめだな」

 

少年は後ろに飛びながら刀を抜き放った。

 

「風凪!」

 

カマイタチがショートの髪をした女性に襲いかかる。

 

「んー不合格」

 

つぶやきながら、少女といってもいい若い容姿の女性は体をひねって、見えないはずの鎌鼬かわしきる。

 

「終わりか? 優希?」

 

薄く笑いながら彼女は言う

 

「まだ・・・」

 

いけると俺は言うはずだったが直後に腹に受けた衝撃に吹き飛ばされた。

地面を滑りながら起き上がろうとするが体が動かない。

ちくしょう・・・

 

「そこまでです!」

 

縁側に座っていた少女が言う。

 

「まだ、いける・・・秋葉止めるな」

 

刀をなんとか杖がわりにして立つが膝が笑っている。

 

「いいえ、止めます。 優様の負けです」

 

駆け寄りながら秋葉は救急箱を開ける。

 

「全部×だな優希ぃ」

 

声の方を舌打ちしながら俺が見るとショートの女性、水月 望にやにやしながら立っていた。

体に装備された刀、銃は一切抜かれていない。

素手で俺を圧倒したのだ。

 

「やれやれ、数年間の世界巡りの修行も大した成果はなかったようだ」

 

「いえ、優様は強くなったと私は思います望様」

 

秋葉が援護してくれる。

 

「んー、お前の方が強いんじゃないか秋葉?」

 

目をつぶって面白そうに腕を組んで師匠が言う。

 

「そんなことは・・・」

 

「ま、どちらにせよ。 ハンデ付けても私には適わないってことだよ優希。 大人しく留守番してな」

 

「また、クエストですか?」

 

「ああ、なんか厄介な奴が入り込んだらしくてな。 こっちに直接依頼があったんだ」

 

「だから、俺も連れてけよ!」

 

「足でまといだからな。 いらん。 たまには、1人でやりたいし、お前一撃入れられなかったじゃないのか?」

 

そう、師匠に一撃でも当てられたらクエストに連れていくという約束だったが結果は今の通りだ。

 

「・・・」

 

「そう、ふくれることないさ。 お土産ぐらい気がむいたら買ってきてやるよ」

 

そういいながら、師匠は黒い防弾コートを揺らしながら門へ向かい歩いていった。

呼び止めようにも、無駄だとわかるからな・・・

ま、それならそれでいいか・・・

チャンスはまたあるさ

 

 

 

 

 

それから、数時間後

 

「・・・4999!・・・5000!」

 

すぶりが終わると息をはいて座り込む。

 

「タフですね。 優希様」

 

「ん? ああ、葉月さん」

 

160センチほどの身長近い槍を手にした長い黒髪の女性がすっと頭を下げて言った。

山洞 葉月、秋葉のお母さんで近衛である。

 

「課せられたノルマは3000回だと秋葉に聞きましたよ?」

 

その秋葉は木に背をあずけて寝息を立てている。

 

「俺は弱いからね。 人の数倍努力しないと駄目だから3000回と言われればそれ以上やるんだ。 師匠にも一発も当てられなかったし」

 

「望様を基準にしてはみんな弱くなってしまいますよ優希様。 あの方は規格外の化け物と言ってもいいでしょうから」

 

「ハハハ、まあ確かにそうなのかもしれないけどさ。 なんか、悔しいんだ」

 

刀を見ながら

 

「俺は師匠と旅した数年、強くなりたいと何回も思った。 救えなかった人もいたし、救えた人もいた。 でも、あと少し、力があればと思うこともあった」

 

「その経験はきっと、椎名の後継者として役に立つはずです。 私たちの上に立ち、私たちを指揮すれば優希様はもっと、大きな力を手に入れることができますよ?」

 

「うん、そうだな・・・」

 

個人で救える命には限りがある。

より多くの人を救うためには人の上に立ち、人を使えるようにならないといけないとイギリスであった知り合いに教えてもらった。

でも、それでも師匠のようになりたいと俺は思う。

圧倒的な強さでどんな、理不尽も粉砕する。

それは師匠にだけできることなのかもしれない。

だから、俺は椎名の家を継いで、自分も強くなり、複数の人と椎名の家を率いていこう。

そう、俺は旅の中で決めたんだ。

 

「雨が降りそうですよ優希様。 中に入りましょう」

 

「ん? そうだな。 あ、秋葉」

 

木陰で寝息を立てている秋葉を見ると葉月が近づくと背中におんぶした。

まだ、9歳の少女だが秋葉を背負う、葉月の目は優しかった。

 

「この子ったら・・・優希様の前で」

 

「いいよ。 寝かせておいてやってくれよ」

 

「すみません。 優希様」

 

家の中に入り、2人と別れると俺は自分の部屋に戻るため、長い木の廊下を歩いていくと、弟の鏡夜のばったりと出くわした。

 

「あ、兄さん。 修行終わったの?」

 

「ああ、ちょっと休んだらまた、やるけどな」

 

「すごいなぁ兄さんは」

 

「すごくねえよ。 鏡夜も一緒に修行しないか?汗流して体鍛えるのは悪いことじゃないぞ?」

 

「え? でも、僕刀怖いし・・・」

 

「まあ、無理には言わないけどな・・・」

 

「あ、それより、兄さん。 咲夜の熱が上がったんだ」

 

「咲夜の?」

 

「お医者さんには見てもらったけど兄さん時間あるなら咲夜のお見舞いに行かない?」

 

「行こう」

 

返事なんて決まっていた。

咲夜は俺の妹だ。

妹の心配をしない兄はあまりいないだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜の部屋に入ると少し息を乱しながら布団で寝ている咲夜が顔だけをこちらに向けてくる。

 

「あ、優兄・・・鏡兄」

 

「起きなくていいぞ咲夜」

 

俺はそう言いながら鏡夜と咲夜の横に座ると手を咲夜の額に当てる。

 

「熱いな・・・薬は飲んだのか?」

 

「うん、さっき飲んだよ」

 

「それならいいんだが・・・」

 

そう思いながら俺はあることを思い出していた。

そういや・・・

 

「ねえ。 優兄?」

 

「うん?」

 

「今回はいつまで家にいるの?」

 

不安そうな妹の布団をぽんぽんと叩きながら

 

「多分、半年ぐらいはいるんじゃないかな? 師匠しだいだけどな」

 

「望・・・は?」

 

「クエストで出ていった。 しばらく帰らないと思う」

 

「そっか・・・」

 

なんだか、残念そうだな・・・

 

「ごほ・・・ごほ」

 

「大丈夫?」

 

鏡夜が心配そうに言う。

 

「う、うん。 ごめん、優兄、鏡兄風邪が移ると行けないからもう、寝るね」

 

「ああ」

 

こうして、俺達2人は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてと・・・

部屋に戻った俺は汗に濡れた服を着替えてから玄関に向かう。

早くしないと遅くなっちまうからな

 

「優希どこに行く?」

 

げっ!

おそるおそる振り返ると

 

「と、父さん」

 

椎名 明人、現、椎名の当主であり、俺たちの父親だ。

 

「ちょっ、ちょっと師匠の用事で・・・」

 

「望か?」

 

仕方ないという風に父さんは息をはいてから

 

「あんまり、遅くなるなよ?」

 

「分かってるよ」

 

「返事は、はいだ!」

 

後ろからそんな声が聞こえたが無視して俺は飛び出した。

そんな、俺を見ていた父さんはため息を吐いて

 

「まったく・・・望に似てきたな優希も・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

門を抜けて、山を駆け下りながらとある地点で、獣道に入る。

しばらく、行ってから広い空間があり、その先には洞窟があった。

昔、熊か何かがいたのかもしれないがその、洞窟の前には多くの薬草が生えているのだ。

前に教えてもらった風邪によく聞く薬草を・・・

あ、あった!

丁度、洞窟の前に咲いているのでそれをむしり取るとカバンに入れる。

よし、後は戻るだけだな

 

「・・・・い・・・」

 

「ん?」

 

人の声が聞こえた気がするけど気のせいか?」

 

「・・・ぐす・・・痛い・・・」

 

いや、気のせいじゃないな。

声は洞窟の中から聞こえてくる。

 

「だ、誰かいるのか?」

 

声がぴたりとやんだ。

洞窟は暗闇に包まれており、周りも暗くなりかけている。

恐怖と戦いながら

 

「なあ! 誰かいるのか!」

 

「・・・」

 

俺は恐怖で凍りつきそうになった。

洞窟の中に2つの目が見えたからだ。

赤い、その瞳はまっすぐに俺を見ている。

こ、怖くねえ

一瞬、刀を抜きかけたがカバンから懐中電灯を取り出すとぱっと明かりを目の方に向けた。

 

「っ!」

 

明かりを嫌うように手を前に出したのは少女だった。

黒いフリルのついたドレスに綺麗な長い銀髪の髪

人間離れした可愛さだった。

 

「君は誰?」

 

顔を赤くなるのを感じながら聞くと少女は手で涙を拭いながら

 

「あなたは? 誰ですの?」

 

「俺? 椎名 優希」

 

「優希?」

 

「名乗ったんだからお前も名乗れよ」

 

「・・・リー」

 

「え?」

 

「ローズマリーですの」

 

そう、あいつは名乗った

 

 

 

 

 

 

 


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