あの人に会うのも久しぶりだな……
木でできたドアを俺は軽くノックする。
「入りなさい」
「失礼します」
部屋に入ると畳が広がっている。
靴を脱いで奥のすだれがかかった場所の前まで歩いていく。
回りは薄暗くほんのりとすだれの中から明かりが漏れている俺はすだれの前で正座する。
「お久しぶりです志野さん」
「ええ、直接会うのは5年ぶりですか優希」
すだれの中で体を動かす気配がする布がする音から布団から上半身を起こしたんだろう。
咲夜の話では志野さんは体が悪いらしい。
椎名 志野、現在の特例的な椎名の家の当主に当たる。
「ええ、それぐらいです」
「最初に言っておきます。今回あなたを呼び戻したのはあくまで、体面的な問題で私の後は鏡夜に継いでもらいます」
まあ、分かってたことだ……
「明後日には掟に従い、鏡夜と戦ってもらいます」
あれか……椎名の家には昔から、決まりがある。
もし、当主の候補である男が二人以上いた場合、剣の勝敗にて決着をつける。
「その、勝負であなたは負けなさい。できるだけ自然に」
「……」
きついな……別に家に未練がある訳じゃないがなんか悲しいんだ……
「分かりましたか?」
「はい……」
「もう1つ、あなたは鏡夜を支える必要はありません」
これは掟にあるが負けた方は勝者を補佐していけという話だ。
だが、志野さんはそれを必要とせずさっさと用がすんだら出ていけと言うことだ。
「話はそれだけです。部屋に戻りなさい優希」
冷たく凍りつくような言葉……すぐにでも帰りたくなるがこの人と直接話せるのはこれが最後になるかもしれない。
「俺の方からもいくつか話があります」
「……聞きましょう。これが最後になるかもしれません」
「まず、神崎かなえさんの不当裁判の調査の継続をお願いします」
「その件はあなたに最大の譲歩はしました。神崎・ホームズ・アリアに対し神崎かなえとの直接面会を叶えてあげました」
「ですが……」
アリアの話ではあれは一回限りで再び5分のアクリル版に戻ってしまったそうだ。
土方さんに聞いた所、上から圧力がかかったらしい
それを撤廃できるのが椎名の家ではないのか
「イ・ウーが神崎かなえの裁判に干渉しています。これ以上は私達でも関われません」
やはり、全ての元凶はイ・ウーか……
「では、今後俺がイ・ウーとやり合うと言えば?」
「椎名は協力しません。それでもいいなら止めはしません」
十分だ。
「後、旧邸に入る許可を頂きたいんです」
「なんのためにですか?」
「師匠の……お墓参りと所要のために」
「……」
志野さんは迷ってるようだった。
だが、それも一瞬で
「許可します」
「ありがとうございます」
「明後日の決闘は午前に行います。決して逃げないように」
「はい」
そういうと俺は立ち上がり、扉に向かう。
ああ、もう生涯会わないかもしれないしな……
扉をあけながら俺は振り返る
「長生してくれよ……母さん」
息を飲む声が聞こえた気がしたが声をかけられるより早く俺は扉を閉じた。