始まりの運命に舞い降りる恐怖の根源   作:ゼクス

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更新遅れてすいません。

スランプに続き職場が変わってしまったので、慣れるまでは更新が遅くなるかも知れません。
申し訳ありません。


偽りの開戦

 草木も眠る丑三つ時の時間帯。

 冬木のセカンドオーナーを務めている遠坂時臣の屋敷である遠坂邸に忍び寄る、闇夜に溶け込むほど姿を視認する事さえも出来ない者が存在していた。油断無く一部の隙も見えない足取りで進んで行く者の正体は、『聖杯戦争』に招かれた『暗殺者(アサシン)』のサーヴァント-『ハサン・サッバーハ』。

 御三家の一角である遠坂を強襲し、其処にいる『聖杯戦争』に参加している『遠坂時臣』を討つのが、アサシンの目的だった。本来ならばアサシンのマスターである人物は、時臣とは他のマスター達を欺いて水面下で手を結んでいたが、一時間ほど前にアサシンのマスターから『時臣を殺せ』と言う指示が出された。

 

『最後のサーヴァントである『キャスター』の召喚が確認された。頃合いだ・・・お前はすぐに遠坂邸を襲撃し、遠坂時臣を抹殺しろ。徒に慎重になる必要は無い。お前の『気配遮断』スキルならば『アーチャー』に気づかれること無く、遠坂邸へ侵入することは容易いだろうからな。恐れる必要は無い』

 

(三騎士クラスのサーヴァントを相手に恐れる必要は無いとは・・・・どうやら余程外れのサーヴァントを遠坂時臣は引いたらしい)

 

 元々アサシンは時臣との同盟は内心では否定的だった。

 アサシンもまた『聖杯』を求めて召喚に応じたサーヴァント。最終的にアサシンの主と時臣の二組になった場合、主が時臣を気遣って『聖杯』の権利を譲る可能性がある。実際にアサシンの主は時臣の意見に従っている面が多い。その件からアサシンは不信感を抱いていたが、一時間前に与えられた命令を考えれば、協力関係とは偽りで実際のところは闇討ちの機会を狙っていたのかもしれないとアサシンは自身の主の用意周到さに関心さえも覚えた。

 何せアサシンは遠坂邸の警護任務も務めていた。本来ならば探知や防衛の結界が十重二十重に張られている遠坂邸に忍び込むのはアサシンでも短時間では難しかったが、警護任務を務めていたおかげで結界の配置や密度も確認済みな上に、盲点さえもアサシンは見抜いていた。

 故に内心でアサシンは時臣に対して嗤い、数多の警報結界を苦もなく回避しながら進み、庭の半ばまでアッサリと侵入を果たす。

 此処からは霊体化したまま結界を潜り抜けられないことを理解しているアサシンは、髑髏の仮面を被った長身痩躯の体を屈み込んだ姿勢で実体化させると共に、最初の防衛結界の要石が置かれている台座に向かって歩き出す。同時に自身に複数の視線が集まるのをアサシンは感じるが、気にする事は無かった。

 視線の主達を既にアサシンは把握している。『聖杯戦争』に参加している他のマスター達。競争相手である時臣を助ける理由は彼らには無く、その事を知っているアサシンは声も無くほくそ笑みながら台座の上に置かれている結界の要石を動かす為に慎重に手を伸ばす。

 だが、次の瞬間に稲妻のように光り輝きながら膨大な魔力を発する槍にアサシンの手の甲が要石ごと刺し貫かれてしまう。

 

「ッ!?」

 

 突然走った激痛にアサシンは驚愕し、予想だにしてもいなかった眩く輝く槍の投手を探そうと顔を上げる。

 その相手を探す必要は無かった。何時の間にか遠坂邸の頂に、全身から神々しくも燦然と輝き、その身を壮麗なる黄金の鎧で身を包んだ男が立っていた。星空や月光の光さえもその男を飾り切れないと思わせるほどの威圧感を全身から発している姿に、アサシンは痛みも忘れるほどの恐怖を感じて凝り固まってしまう。

 

「地を這う虫けら風情が、誰の許しを得て面を上げる?」

 

 全身から発されている圧倒的な威圧感に相応しい声と燃えるような真紅の双眸から侮蔑以上の無関心さが宿った視線が固まってしまっているアサシンに放たれた。

 

「貴様は(オレ)を見るに能わぬ。虫けらは虫らしく、地だけを眺めながら死ね」

 

 一切の慈悲も容赦も無い宣言が黄金の男から放たれると共に、男の周囲に無数の光が出現する。

 忽然と空中に出現したソレらの正体は、剣や矛などの武器の類。しかも、一つとして同じものは存在せず、その全てが絢爛たる装飾が施されていた。

 アサシンがその武器の類の正体を理解した瞬間、轟音と共に全ての武器が一斉に輝く刃を先にして降り注がれた。

 

(アレを恐れる必要が無いだと!?馬鹿なアレはッ!?)

 

 自らの主の言葉が偽りだった事実にアサシンは逆上するが、その思考を遮るように頭部を始めとして体中に刃が深々と突き刺さり、最後には轟音と共にアサシンは完全に消滅した。

 それと共に遠坂邸の頂に立っていた男の姿が音も無く消え去り、後には庭の一角に広がる大穴と、アサシンの消滅を目の当たりにした使い魔達だけが残されたのだった。

 

 

 

 

 

「アサシンがやられた!?」

 

 とある民家の中で遠坂邸に起きていた出来事を自らの使い魔である『視蟲』を通して監視していた間桐雁夜は、思わず叫んでしまった。

 二、三日前に偶然にも『キャスター』のサーヴァントの召喚を目撃した雁夜は、毎晩遠坂邸の監視を行なうようにしていた。冬木で『間桐』、『遠坂』以外に『聖杯戦争』に必ず参加する家系は『アインツベルン』。郊外の森にその拠点が在ることを雁夜は知っているが、その森に張られている結界は雁夜の魔術師としての技量では破る事が出来ないので監視は控えている。その他のマスターの所在地が不明であり、必然的に『遠坂』を見張るしか無かった。

 雁夜本人としても時臣の動向は気になった為、使い魔を使用して監視を行なっていたところで、アーチャーと思われるアサシンの蹂躙劇を目撃したのである。

 

(一体あのサーヴァントは何者だ!?幾ら直接戦うクラスのサーヴァントじゃないにしても、アサシンだって英霊の一角の筈だ!?何よりも『宝具』をあんなに持っているなんて異常だぞ!?・・・攻撃方法から考えて『アーチャー』クラスの可能性が高いが・・・あんな『宝具』を爆撃みたいな攻撃に使用する『英雄』なんて聞いたことが無い!!)

 

 アーチャーがアサシンを蹂躙する時に使用された武器は、『視蟲』を通して見ても分かる位に全て膨大な魔力を発していた。

 『英霊』に取っての最大の武器である『宝具』を多数に所持しているとなれば、『聖杯戦争』で最大のアドバンテージをアーチャーは得ていることになる。どんなに強力な『英霊』とて、伝承や伝説にあるような弱点は存在している。自らのサーヴァントに取っての天敵は見るだけで分かってしまう。

 その事に気がついた雁夜は『聖杯戦争』で勝ち残る事の難しさを痛感し、右手で頭を押さえながら考え込む。

 

(アレだけの力を持つ『英霊』ならかなりの逸話を持っているのは間違いない・・・・だけど、『宝具』を多数に所持していて、更にアーチャークラスの適正を持つ奴なんて・・・・・・待て?考えるところを俺は間違っていないか?そもそも『視蟲』から見えたアーチャーと思われるサーヴァントは、背後に『宝具』を出現させて浮かせていた・・・その時に確か・・・・)

 

 雁夜は先ほど目撃した光景をよく吟味する。

 アーチャーと思われるサーヴァントは、多数の『宝具』と思われる武器を所持している。其処は間違いないと雁夜は確信しながら更に考え込んでいると、雁夜が居た部屋の扉が開く。

 同時に長身で全身を黒尽くめの服を纏っている男性-人間体のブラックが室内に入り込む。

 

「・・・戻ったのか、バーサーカー?」

 

「先ほどな」

 

「・・・それで?『キャスター』の奴は見つかったのか?」

 

「いや・・・どうやら使い魔どもを使用して街の人間どもを攫っているようだ。本人とそのマスターは何処かに潜んでいると見て間違い無いが、居所は不明なままだ」

 

「クソッ!」

 

 ブラックの報告に雁夜は悔しげに顔を歪めて、両手を血がでそうになるまで強く握り締めた。

 他の『聖杯戦争』の参加者達はいまだ知らないが、『キャスター』とそのマスターは『聖杯戦争』と関係ない凶行を繰り広げている。正直言えば雁夜はマスター権を放棄しなくて良かったと、『キャスター』とそのマスターの行動を知った時に心の底から思ったほどである。

 その件を教会に伝えたところで率先して動くことはないと雁夜もブラックも考えている。寧ろその件を利用して自分達の有利になるように動く可能性が高いと雁夜は考えている。

 『魔術師』は大抵の場合は自分達に利益が出るように行動する。『根源』に至るためならば平然と非道を行なえる者が『魔術師』の中には居る。その相手が自身の父親となっていた人物なだけあって、雁夜は『魔術師』の論理間には全く信用も期待もしていない。ならば、自らのサーヴァントに頼るしかないと思って、魔力消費を最小限にする為に人間体になったブラックが夜の冬木を駆け回って『キャスター』の行動の邪魔をしているが、万全な状態ならばともかく、今の状態のブラックでは『キャスター』の凶行を止め切れずに犠牲者は出ていた。

 

「何か手段は無いのか?」

 

「無理だな。腐り切っている奴だが、キャスターはサーヴァントだ。サーヴァントに対抗出来るのは基本的にサーヴァントだけだ。今の状態の俺では一度の戦闘で、かなりの魔力を消費する。昼間に遠方に出向き、『魂食い』を行なっているとはいえ、連戦出来るだけの魔力は無い」

 

 今のブラックの状態はかなり不味い状態だった。

 嫌いな人間体に成っていなければ戦闘は難しく、『宝具』として分類されているルインも満足に呼ぶことが出来ず、本来の姿に戻って戦えば雁夜は激痛にのた打ち回るばかりか、寿命は確実に縮む。気にせずに戦うと言う選択肢もあるが、見極めの最中なのでブラックとしてはソレは控えたい。

 他には雁夜とは別の魔力を持つ者を供給源にすると言う手段も在るが、鶴野の方は雁夜と同程度であてには出来ず、もう一人の魔力量だけは豊富な桜にしても雁夜が本格的に『聖杯戦争』に巻き込む事を許すはずが無く、ブラックとしても桜を巻き込むと言う選択肢は省いている。

 現状では満足な戦闘などブラック達は不可能であり、キャスターの使い魔をブラックが街中を駆け回って倒すと言う行動しか出来なかった。他に出来た事といえば、ルインを呼び出して『道具召喚』のスキルで取り寄せたサーチャーを冬木市中に多数放つと言う事と、間桐邸と今いる民家との間に転送用の魔法陣を設置したぐらいである。

 後は昼間にルインを呼び出してブラックが遠方に赴き、鶴野が裏の情報屋を駆使して集めた『死徒』がいる場所を強襲して『魂食い』を行なっているが、雁夜にダメージが伝わらなくなるほどの魔力は今のところ確保出来ていなかった。魔術師の家系も調べさせているが、元々秘匿が第一の魔術師なので、中々所在地は掴めずにいる。

 

(予想以上に俺の状態は不味いか・・・・これでは『オメガブレード』は愚か、切り札の『X進化』も使えん・・・・・使用した瞬間にコイツは確実に死ぬだろうな)

 

 ブラックはそう考えながら考え込むような顔をしている雁夜を見つめる。

 現状では魔力消費を抑えながら活動するしかない事に、ブラックは不満に満ち溢れていた。このままでは自らの目的である『他の英霊達との全力戦闘』と、『キャスターを抹殺する』ことも出来ない。何とか魔力を得る手段はないかと考えながら、自分がいない間の出来事を記録させていたサーチャーの映像が見れる部屋の中に置いてある機械の方に近寄る。

 それを見た雁夜はブラックがいない間に起きた出来事を思い出して説明する。

 

「そうだ!時臣の屋敷でアサシンとアーチャーと思われるサーヴァントが交戦して、アサシンが倒されたんだ!」

 

「何?・・・アサシンが倒されただと?」

 

 雁夜の報告にブラックは僅かに目を細めて、すぐさま遠坂邸を見張るように配置してあったサーチャーが撮った映像を確認する。

 空間に投影されるのは雁夜が目撃したアーチャーによるアサシンの一方的な蹂躙劇。ブラックはその光景を何度も見直し、アサシンの前後の光景とアーチャーが現れてからの行動を確認し続ける。

 その真剣さに満ち溢れているブラックの様子に雁夜は思わず息を呑むが、ブラックは何か納得したように頷くと共に呟く。

 

「アサシンは生きている可能性が高いな。つまらん芝居だ」

 

「何だって?・・・・ちょっと待ってくれ?如何見てもアサシンはアーチャーに倒されているぞ?」

 

「確かに“このアサシンが死んだ”のは間違いないだろうが、余りにも前後の行動で不審な点が多すぎる。暗殺者とは思えない大胆な行動を行なったアサシンに、待ち構えていたように家の頂に立っていたアーチャー・・・偶然にも窓からアーチャーがアサシンが居る事を目撃して、間髪いれずに目撃した窓から攻撃したのならば納得は行くが、態々家の頂に移動する必要は無い。サーヴァントが『霊体化』している時に攻撃しても無意味なのだから、移動している最中にアサシンに霊体化されたらそれまでだ」

 

 サーヴァントを倒せるのはあくまで実体化している時だけ。

 霊体化している時のサーヴァントに攻撃しても無意味でしかない。その点を踏まえて考えてみると、遠坂邸でのアサシンの行動には不可解な点が多い事に冷静になった雁夜は気がつく。

 

「(・・・・確かにバーサーカーの言うとおりだ。アサシンが実体化したのは時臣の屋敷に張られている結界の基点と思える場所だ。その前までは姿も確認出来なかった・・・しかも現れた時には大胆に行動していた。暗殺者と呼ばれるクラスのサーヴァントなんだから、目立つような行動は普通なら控えるはずだ・・・・アーチャーにしても対応が早過ぎる)・・・・確かにこう考えてみれば不審な点が多すぎるな」

 

「そういう事だ。アサシンが分身系か身代わり系の『宝具』を所有しているとすれば、今回の自作自演の芝居での損害は無い。寧ろ死んだと思わせて背後から闇討ちを狙った策略も考えられる・・・・教会を見張らせているサーチャーの映像を確認するぞ。もしもアサシンのマスターが俺が考えている奴でなければ、教会に保護を求めまい。逆に俺が推測している奴だとすれば・・・・教会と遠坂が繋がっている確証が得られる・・・(そうなればもはや遠方に赴く必要は無い・・・近場に『聖杯戦争』に参加している組織の連中が居るのだからな)」

 

 そうブラックは考えながら、教会を見張らせているサーチャーが撮っている映像を空間ディスプレイに映し出し、雁夜も確認する為に空間ディスプレイに映りだした映像を覗くのだった。

 

 

 

 

 

 冬木市新都の郊外にある小高い丘の上に建っている冬木教会。

 『聖杯戦争』中に於いて中立地帯と呼ばれる場所であり、サーヴァントを失ったマスターが保護される場所。その場所に夜も遅い時間帯に尋ねて来た来訪者が居た。

 カソック服に身を包んでいるその青年の名前は『言峰綺礼』。先ほど遠坂邸でアーチャーに敗退したアサシンのマスター。それを出迎える壮年の男は綺礼の実の父親である『言峰璃正』。

 二人は門前で顔を見合わせると共に打ち合わせどおりに茶番を開始する。

 

「聖杯戦争の約定に従い、言峰綺礼は聖堂教会による身柄の保護を要求します」

 

「受諾する。監督役の責務に則って、言峰璃正があなたの身柄の安全を保障する。さぁ、奥へ」

 

 璃正は厳しい面持ちのまま公正な監督役を装って、敗退したと思われる自らの息子を教会の中に招き入れた。

 二人はそのまま壮麗な構えを見せている教会の中を歩いて行き、奥の司祭室に足を踏み入れると共に訳知り顔で綺礼に顔を向ける。

 

「万事、抜かりなく事は運んだようだな」

 

「はい・・・・しかし、地下室で無くて大丈夫なのですか、父上?誰かこの教会を見張っている者が居るのでは?」

 

「それは在るまい。此処は中立地帯として不可侵が保障されている場所だ。余計な干渉をしたマスターには教会から諫言があるからな。そんな面倒を承知の上で敗残者に関心を払う者など、いる道理はあるまい」

 

「では、安泰と言う事ですね」

 

 自らの父の言葉を聞きながら綺礼は薦められた椅子に深く腰掛ける。

 ソレと共に深い溜め息を吐きながら、ゆっくりと自らの横に目を向けると、冷ややかな声で誰も居ないはずの空間に命令口調で語りかける。

 

「念のために、警戒は怠るな。常に最低でも一人は此処に配置するように」

 

 その綺礼の命令に応じるように物陰から湧き出たかのように、小柄で柔らかい体格を包むように漆黒のローブを纏い、その顔に象徴的な髑髏の仮面を嵌めた女性が片膝を床につかせながら姿を現した。

 その身から漂う気配は明らかにサーヴァント。遠坂邸で倒されたアサシンとは違うが、彼女もまた『ハサン・サッバーハ』。そして彼女は現れると共に自らのマスターである綺礼に報告を行なう。

 

「現場に居合わせた使い魔は、異なる気配が四つありました・・・ですが、その四つ以外に異質な視線が十近く存在しておりました」

 

「何だと?・・・その視線の正体は分かるか?」

 

「残念ながら分かりません・・・互いが互いを見張れる形が組まれ、更に邸内の様子を監視出来る配置でした。力尽くの手段を行なえば我らの存在が露見する恐れがあるので放置しましたが」

 

「・・・・いや、お前達の行動は間違っていない。万が一にでもお前達の姿が見られれば、折角の段取りが無駄になってしまうのだから」

 

 アサシンの報告には頷きながら、真剣な面持ちで璃正と顔を見合わせる。

 本来ならば脱落していないマスターを保護しているなど、『聖杯戦争』に於いて重大な規約違反。この事実が明らかになるのだけは、何としても控えなければならない。明るみになったら最後、監督役だけではなく『聖堂教会』と言う組織にまで類が及んでしまう。その危険性を考えれば、脱落したと思われているアサシンの生存が明らかになるのだけは璃正と綺礼は避けたかった。

 そもそも今回のような重大な規約違反を『聖堂教会』が行なったのは、全て『遠坂時臣に冬木の聖杯を得て貰う』為だった。冬木の『聖杯』は『聖堂教会』が長年追い求めている代物とは全く別物。かと言って偽物と断じて破壊に及んでしまえば、『魔術師』達が騒ぎ出すので都合が悪い。ならば、さっさと『聖杯』を降臨させて使用して貰う為に裏で『遠坂時臣』と教会は手を結んでいる。

 他の参加者の願いは分からないが、璃正の伝手で時臣の願いを聖堂教会は把握している。だからこそ中立と言う立場を掲げている裏で、教会と時臣は手を組んでいた。本当は脱落していない綺礼を教会内で護っているのもその一環だった。その他にも冬木市中に配置されている教会のスタッフにも他のマスターの情報を怪しまれない程度に集めるように指示を出している。

 深く調べる事に関しては綺礼が召喚したアサシンに任せればいい。偵察に於いては綺礼が召喚したアサシンはこの上ないほどに最適であり、父親である璃正が、『時臣が聖杯を得る』条件が揃って行くと豪語するほどのサーヴァントだった。

 そのアサシンが告げた報告に、綺礼は吟味するように顎に手をやりながら黙考する。

 

「(無機質な視線・・・・・アサシンは魔道に精通していないとはいえ、気配ぐらいは判別出来る・・・・そのアサシンが無機質と感じたのならば・・・もしや)・・・・聞くがアサシン?その無機質な視線は使い魔のように動きを見せたか?」

 

「いえ・・終始一貫して同じ方角だけを見つめていました。動きらしい動きは無かったと思われます」

 

「そうか」

 

「何か心当たりでもあるのか、綺礼?」

 

 僅かに視線が歪んだ自分の息子の姿に璃正は質問した。

 質問された綺礼は僅かに沈黙するが、考えがまとまったかのように璃正に真剣な顔を向ける。

 

「師から見せて頂いた、他の魔術師陣営のマスターの情報の中に、魔術師らしくなく現代技術を用いた魔術師の情報がありました。名は『衛宮切嗣』」

 

「フム・・・・その名には聞き覚えがある。『魔術師殺し』とまで呼ばれる危険人物だったな・・・・なるほど、そやつならば使い魔よりも小型のビデオカメラなどを時臣君の屋敷の周りに設置していても可笑しくは無い」

 

「はい・・・現代技術を軽視する魔術師の中で衛宮切嗣は、平然と現代技術を用います。本人が入国したという情報はありませんが、恐らくは部下あたりが冬木に入り込んでいるのでしょう・・・父上、アサシンの何名かをその部下の捜索に当てても宜しいでしょうか?」

 

「・・・・確かに聖堂教会でも危険視されている男だ・・・アサシンの死に疑問を抱く可能性は充分に考えられる・・・良かろう、綺礼。衛宮切嗣の部下と思われる人物の捜索をアサシンに行なわせるのだ。無論目立つような行動は控えるべきだが、もしも今夜の出来事が録画でもされていた場合は速やかに排除しても構わん」

 

「アーチャーの行動は目立ちすぎましたから、衛宮切嗣ならば其処からアーチャーの真名に辿り着いても可笑しくはないと言うことですね、父上?」

 

「さよう。アーチャーならば真名がばれたとは言え敗北する可能性は低いが・・・僅かでも敗北の危険性は取り除かねばならん」

 

「では、捜索には追跡や探索に秀でている者を当たらせましょう」

 

 黙って二人のやり取りを聞いていた女アサシンは、方針が決まると共に姿を消した。

 綺礼はその様子に内心で僅かに喜びを覚えていた。聖堂教会の指示で『聖杯戦争』に参加しているが、綺礼自身は余り教会の意向に興味は無かった。だが、時臣から得た情報から衛宮切嗣には興味を覚えていた。その経歴内容から綺礼は、長年求めている己の答えに繋がる人物ではないのかと考えていた。その興味を覚えた相手に繋がる者が居る。

 

(まさか、これほど早く奴に繋がる鍵らしき者が見つかるとは・・・・必ずや見つけて、貴様に辿り着いて見せるぞ、衛宮切嗣よ)

 

 綺礼は内心で衛宮切嗣に対する執着心を募らせながら僅かに口元を笑みに歪め、その様子を見ていた璃正は満足そうに頷く。

 

(全ては順調に進んでいる。アサシン()による偵察網に、我が聖堂教会のスタッフ達の監視。此度こそ『聖杯』は必ず降臨し・・・・そして友よ・・・君の息子の手に『聖杯』は必ず渡してみせよう)

 

 璃正はそう内心で亡き先代の遠坂の当主だった朋友に向かって誓うのだった。

 だが、彼は理解していなかった。聖堂教会と言う組織が中立を破り、『聖杯戦争』に関して参戦の意思を示す事の代償を。満足に動けないほどに飢えた暴竜に、自身の行動が餌となっても構わない者達を差し出してしまった事を璃正は気がつけなかったのだった。




今作だとブラックの状態は前作よりも格段に悪化しています。

第一に魔力消費に関しては原作のランスロットよりも格段に上です。
雁夜の魔力生成量では戦闘したら即座に現界にまで悪影響を及ぼします。人間状態での戦闘は可能ですが、本来の姿や『X進化』での戦闘は現状では不可能です。
此れに関しては『世界』がブラックを『英霊の座』に戻したいのが原因です。

また、明らかになっていませんが、他の英霊達の幸運値が例外なく原作よりも1ランク上がっています。
あの青髭も当然ながら幸運が上がります。

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