始まりの運命に舞い降りる恐怖の根源   作:ゼクス

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契約

 間桐雁夜は夢を見ていた。

 夢の中で繰り広げられる光景は魔術師として無理やり生きて来た雁夜から見ても、異常としか言えない光景だった。

 空を縦横無尽に飛び回る恐竜のような生物。

 大地を揺るがすほどの巨体を持った機械とも生き物とも言える生物。

 その生物達と歓喜に満ち溢れながら戦い続ける漆黒の竜人。漆黒の竜人は敵が巨体だろうと関係なく生物達を倒し続けていく。

 その姿は夢で在るにも関わらず雁夜に恐怖を植えつける。そして雁夜は悟った。アレは決して触れてはいけない。アレに不用意に触れれば待つのは絶望だけだと雁夜は悟りながら自身の意識が眠りから覚めようとしている事に気がつき、雁夜は目覚める。

 

「漸く起きたか。俺を呼び出した人間」

 

「ウオオォォォォ!?!?」

 

 目覚めた瞬間に夢の中で見た漆黒の竜人の姿を間近で見た雁夜は悲鳴を上げながら、ベットの上を後退り、そのまま壁に背中を押し付けた。

 その様子を見ていた漆黒の竜人-ブラックは不機嫌そうに顔を歪め、状況が分からずに壁に背をつけて恐怖に震えている雁夜を睨みつける。

 

「俺の姿を見ただけで恐怖に震えるとは・・・・こんな奴が俺を呼び出せたとは信じられん」

 

「よ、呼び出した!?・・・・ま、まさかお前が俺の!?」

 

「サーヴァント・バーサーカー、真名は『ブラックウォーグレイモン』だ、人間」

 

「バーサーカー!?ちょっと待て!バーサーカークラスは『狂化』が付加属性の筈じゃ無いのか!?どう見てもお前には理性が在るだろう!!」

 

「フン、俺は存在自体がバーサーカーそのものでな。因みに理性が在るのは俺の『宝具』のおかげだ」

 

「な、なるほど・・・(しかし、理性あるバーサーカーなど聞いた事が無いぞ・・・・それにブラックウォーグレイモン何て名前の英霊は聞いた事が無い・・・・もしかして俺はとんでもなくマイナーな英霊を呼び出してしまったのか?)」

 

 雁夜はブラックの説明に納得しながら、ブラックの存在について考えるものの全く覚えが無かった。

 『間桐』に戻る前はフリーライターの仕事をしていたので、それなりに雁夜は伝承や伝説について詳しいはずだが、『ブラックウォーグレイモン』と言う『英雄』の話を聞いたことは無い。元々臓硯が渡した遺物の出自さえも不明。

 完璧にマイナーな『英霊』を呼び出してしまったのだと思った雁夜は絶望感を抱きながら、改めてブラックを見てみると、視界にブラックのステータスが映る。

 

【クラス】バーサーカー

【マスター】間桐雁夜

【真名】ブラックウォーグレイモン

【性別】男性

【属性】混沌・悪

【ステータス】

 【筋力】  A  【魔力】  D

 【耐久】  B  【幸運】  B

 【敏捷】  B+  【宝具】  EX

【クラス別スキル】狂化:E

【保有スキル】気配遮断:A+

       心眼(真):EX

       戦闘続行:A+

       直感:A

 

「・・・・・・ハッ?」

 

 余りのステータスの高さに雁夜は呆然としながら、ブラックを見つめた。

 

(何だ!?こいつのステータスの高さは!?『宝具』に至ってはEX!?その上、【保有スキル】もA以上で『心眼(真)』もEX評価って!?・・・コ、コイツ!?一体何なんだ!?)

 

「何を呆然としている?」

 

「い、いや・・・・お前のステータスが異常なもんだから・・・だけど、これだけのステータスなのに『ブラックウォーグレイモン』なんて『英雄』に俺は覚えが無いんだが?」

 

「当然だ、俺はこの世界の『英霊』では無いからな。寧ろどうして俺がこの世界に呼び出されたのか全く分からんぐらいだ」

 

「ど、どう言う事だ?」

 

 ブラックの言葉の意味が分からなかった雁夜はうろたえながら質問すると、ブラックは自らの素性について話し出す。

 自身が今居る世界の『英霊』ではなく、別の平行世界と呼ばれる世界での『英霊』で在る事を。自らが居た平行世界の大まかな概要。本来ならば『英霊の座』で封じられているはずの存在である事を雁夜に説明した。

 聞き終えた雁夜は余りにも自分の世界と掛け離れたブラックの世界とその存在に、言葉を失って呆然とするしか無かった。次元世界と呼ばれる数え切れないほどの世界。其処で発展した科学を用いた『魔法』の存在。止めには『デジタルモンスター』、略して『デジモン』の存在。荒唐無稽としか思えない話の内容に雁夜は混乱しながら頭を右手で押さえる。

 その様子にブラックは構わずに、現世に召喚されてから気になっていた事を雁夜に質問する。

 

「貴様に聞くが、お前は何を使って召喚に挑んだ?別世界の俺を呼び出すには何らかの触媒が必要な筈だが?」

 

「・・・臓硯が渡した黒いカケラのような遺物だ・・・確か何処かの遺跡で発見した物だって聞いたが・・・そういえば確か、黒いカケラは“生きてる”とか言っていたような気がするんだが?」

 

「『黒いカケラ』?・・・遺跡で手に入れた?・・・(まさか・・・この世界はあの時に来た世界か?)」

 

 雁夜の説明に一致するものにブラックは一つだけ覚えが在った。

 生前に手を組んでいたマッドな研究者の実験に巻き込まれ、平行世界の一つに渡った事があった。そして渡った先の世界で研究者から連絡が届くまで暴れようとブラックは思い、その世界で暴れていたのだが、その途中明らかに人間とは違う気配を発している老人が現れたのだ。

 

(確か奴は『これ以上このまま此処で好き勝手に暴れられては『抑止の守護者』が現れる』とか言って襲い掛かって来たな。不意打ちだったせいで避け切れずに『ドラモンキラー』が砕かれ、態勢を整え直している隙を衝かれて“宝石のような剣”から発された光を浴び、俺は別の平行世界に飛ばされた・・・・あの時に砕けた『ドラモンキラー』の破片が触媒として使用された可能性が高いな・・・・あの爺・・・こんな形でこの世界に戻れたのならば、必ずあの時の借りを返してやるぞ)

 

 そうブラックは内心で『聖杯戦争』後にも現界する事が出来たら行なう事を内心で誓う。

 突然に発せられたブラックの殺気に近いオーラに、雁夜は恐怖を抱きながら改めて自分が居る場所を見回してみる。

 視界から判別出来る場所は、良い思い出が全く無い自身の生家である間桐家で宛がわれている一室。変わらない陰鬱な間桐家の気配に溜め息を吐きながら、雁夜は窓の外に目を向けてみる。

 窓の外から差し込んで来る日の光は夕暮れを示している。それを理解した雁夜は右目を見開いてブラックに向かって叫ぶ。

 

「バーサーカー!?俺はどれだけ眠っていた!?」

 

「今日で二日目だ。これ以上起きなかったら貴様を無理やりでも起こすつもりだったぞ。運が良かったな」

 

「二日だって!?そんなに眠っていたのか!?・・・・そうだ!?桜ちゃん!?」

 

 間桐家で最も大切な者である桜を思い出した雁夜は急いで立ち上がろうとする。

 二日も眠っていたとなれば、その間に自身を支配している臓硯が桜に魔術訓練だと言って拷問に近い虐待を行なっていたのは目に見えている。無力な自分では拷問の前に心を閉ざしている桜に何一つしてやれないが、せめて姿だけは確認しようと雁夜が立ち上がった瞬間、部屋の扉が開いて紙束を持った桜が入って来る。

 

「・・・カリヤおじさん・・・起きたの?」

 

「桜ちゃん!?」

 

 部屋の中に入って来た桜の姿を目にした雁夜は、慌てて駆け寄った。

 間桐家に雁夜が帰って来てから変わらない諦観に満ちた桜の表情。幽鬼のような青白い肌。その幸せだった頃の桜と変わり果てた今の桜の姿を見た雁夜の胸に自責の念が走るが、何とかそれを振り払い、桜の体を確認するが、怪我などは一切無く何かしらの暴行を加えられた形跡も無い。

 自分が眠っている間に酷い目には在っていなかった事に安堵の息を雁夜は吐くが、桜は雁夜の様子に構わず部屋の中に座っているブラックに近寄り、持っていた紙束を差し出す。

 

「はい・・・・鶴野養父さんが渡して来てくれって」

 

「そうか」

 

 桜が差し出して来た紙束をブラックは右手で受け取る。

 そのまま左手を桜に向かって差し出すと、桜はブラックの左腕の篭手の上に座る。その様子を見ていた雁夜は僅かにでも自己主張している桜の様子に驚く。

 雁夜が知る限り、間桐家に来てからの桜が何か自己主張したことは無い。そんな事をさせないほどに臓硯が徹底的に桜を“教育”していたのだから。一体自分が眠っている間に何があったのかと困惑しながら、雁夜は桜に質問する。

 

「さ、桜ちゃん?・・・怖くないのかい?」

 

「うん・・・・・だって、もういたいことが無くなったから・・・おじいさまが居なくなったから」

 

「・・・・・・何だって?・・・臓硯が居なくなった?」

 

 感情が感じられない声で桜が告げた事実に、雁夜は強烈な衝撃を感じながら右手で床に置いた何らかの資料を眺めているブラックに声を掛ける。

 

「ど、どう言う事だ、バーサーカー?・・・・お前は俺が気絶している間に何をした?」

 

「『聖杯戦争』の準備だ。その過程で貴様が臓硯とか呼んでいた“蟲”に対して『魂食い』を行なった。最も僅かにしか足しにならなかったがな・・・今は貴様から送られて来る微々たる魔力と、この家の地下に居た蟲どもから奪った魔力で現界している状態だ。おかげで満足に情報収集も出来んから、貴様の兄を脅して情報を集めている最中だ」

 

 そうブラックは一切雁夜に視線は向けず、鶴野が必死に集めた『聖杯戦争』に参加するであろうマスター候補の資料を読み進めながら、雁夜が眠っている間の出来事を説明し出す。

 

 

 

 

 

 時は二日前。

 臓硯を『魂食い』で完全に消滅させ、蟲倉の中に居た蟲達を潰して魔力を得た後、ブラックは自身を召喚して魔力も精根も尽き果てている雁夜を肩に担ぎ、自身の隣を歩く女性-ルインフォース-以降ルインと共に地下の蟲倉と地上を繋ぐ階段を上がりながら、これからの事について考え出す。

 

「ルイン。聖杯から送られて来る情報では、本来の『バーサーカー』のサーヴァントには理性が無いらしいな」

 

「そうですね。ブラック様は宝具のおかげで理性が在るようですけど、それが如何したんですか?」

 

「決まっている。『理性』のある『バーサーカー』などイレギュラーも良いところだ。他の参加者どもも、『バーサーカー』は『狂化』して『理性』が無いのが当然だと考えているだろう・・・それを利用する策を考えていた」

 

「・・・・・死んでも変わりませんね、ブラック様は」

 

 ブラックの言葉の意味に隠された真意を読み取ったルインは呆れたような声を出すが、すぐに口元を笑みで歪めた。

 既に自分達の戦いは始まっているとブラックとルインは理解している。『聖杯戦争』はその名の通り一つの街を舞台にした戦争。戦争にルールなど無い事を理解しているブラックとルインには、自分達がこの世界に現れた瞬間から呼び出した人間以外は全て敵だと思って判断した方がいいと経験から理解していた。

 ましてや戦争の勝利者に与えられるのは、どんな願いでも叶うと言われている『聖杯』。

 ブラックは『聖杯』には全く興味が無いが、『聖杯』を求めて参加して来る自身以外のサーヴァントには興味が湧き上がっていた。

 最有と称される最強の騎士-『セイバーのサーヴァント』。

 槍を扱う最速の槍兵-『ランサーのサーヴァント』。

 弓などの飛び道具を扱う-『アーチャーのサーヴァント』。

 乗り物などを縦横無尽に扱う-『ライダーのサーヴァント』。

 過去に功績の残した魔術師-『キャスターのサーヴァント』。

 暗殺者として闇に生きた-『アサシンのサーヴァント』。

 どのサーヴァントもブラックの興味を引くには充分な実力を持っている可能性が高い過去の英霊達。

 それらの者達と戦える歓喜にブラックは自然と喜びに満ち溢れた笑みを口元に浮かべるが、すぐさま冷静に立ち返り、今後の方針を考える。

 

(呼び出されるサーヴァントどもは別として、サーヴァントを呼び出した魔術師どもはどんな手を使っても『聖杯』を手に入れようとするだろう。直接の戦闘で負ける気は無いが、マスターが死ねば俺は其処までだ。それにサーヴァント同士を戦わせて数を減らすよりも、マスターを狙って数を減らした方が効率が良いと考える奴が居る筈だ・・・先ずは情報を集めて、今後の方針を決めるべきだな)

 

 ブラックの目的はあくまで聖杯を求めて召喚されたサーヴァント達。

 そのサーヴァント達の信念と自身の信念を賭けた戦いこそが、ブラックが雁夜の呼び出しに応じた第一理由。その邪魔をする者はいかなる方法を持ってしても排除する。

 そう考えながらブラックとルインが間桐家の中を歩いていると、自分達を見つめている視線に気がつく。視線の主は誰なのかと思いながら顔を向けてみると、廊下の隅から自分達を見つめている六歳ぐらいの少女-間桐桜を目にする。

 その桜の顔を見た瞬間、ブラックとルインは即座に目の前を歩いて来る桜が危険な状態に在る事を理解する。何が在ったのかはブラックとルインには分からない。だが、桜の諦観に満ちた表情。幽鬼のような青白い肌。普通の六歳の子供が味わう事がないほどの地獄を味わい、絶望に心を諦観させている。

 その事を理解したブラックは僅かに不機嫌そうに瞳を細め、自身とルインを見つめている桜に声を掛ける。

 

「小娘?・・・・俺達に何か用か?」

 

「・・・・カリヤおじさん・・・・・気絶しているの」

 

「この男の事か?・・・・俺を召喚して魔力を大量に失ったからな。疲弊しているのは事実だ」

 

「・・・・・そう・・・・・・じゃ、今日はカリヤおじさんは良かったね」

 

「何?どういう意味だ?」

 

「だって・・・・・気絶出来れば痛くないもの」

 

 その桜の言葉にルインは思わず口元に手をやり、ブラックは目を細めながら桜を見つめる。

 『気絶すれば痛みを感じない』。それは一つの逃避の手段。しかし、大人ならばともかく、六歳の子供がその手段に気がつくのは異常。予想以上にこの家は歪んでいると感じながら、ブラックは肩に担いでいた雁夜に視線を向け、すぐにルインに視線を向ける。

 その視線の意味を理解したルインは、すぐにバインドを応用して雁夜をブラックの肩から浮かせる。

 自身の肩から雁夜が居なくなると、ブラックはそのまま桜に視線を向けながらルインに指示を出す。

 

「ルイン。貴様はその男を部屋のベットに運んでおけ。序でにこの家の中にある『聖杯戦争』に関する資料も見つけておけ」

 

「了解です、ブラック様、さぁ、一緒に行きましょう」

 

 ルインはブラックの言葉に頷くと共に桜をゆっくりと抱き上げ、雁夜をバインドの応用で空中に浮かばせながら家の奥へと歩いて行く。

 見ず知らずのルインに抱えられても抵抗する様子を見せない桜を、ブラックは横目で確認すると即座に天井に顔を向けて、自分達以外にこの家の中で気配が感じられる場所を即座に発見する。

 その相手が移動する様子が無い事を確認すると迷わずに天井に向かって飛び出し、天井をぶち破って気配の下に辿り着く。

 

ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

「ヒィッ!!」

 

 突然床をぶち破りながら現れたブラックの姿に、名目上は間桐家の頭首にされている『間桐鶴野』は恐怖に引き攣った声を上げた。

 床から三メートルの大きさを持った竜人が現れたのだから、恐怖を覚えるのは当然なのだが、ブラックは全く気にせずに鶴野の背後の壁に、右腕の『ドラモンキラー』の爪先を突き刺す。

 

ーーードスン!!

 

「ヒィィィィィィッ!!助けて!助けてくれ!!」

 

「長生きしたければ俺の質問に答えろ。この家に居た小娘は貴様の実の娘なのか?」

 

「違う!!違います!!あの娘は他の魔術師の家から養子として貰った娘です!!」

 

「ほう、面白い話だ。詳しく話して貰うぞ。嘘をついてみろ。その瞬間に貴様の首と胴体は一生離れ離れになると思え」

 

 そうブラックが脅すように声を掛けると、ブラックの凄まじい殺意に心がへし折られた鶴野は涙と鼻水を流しながらブラックの質問に答えていく。

 桜は元々は間桐と同じように冬木市に住んでいる遠坂家の次女で、衰退する間桐を救う為に養子として間桐に貰った。しかし、その実態は桜を次世代の間桐を生み出す母体として利用する為に臓硯が考えた策略であり、ブラックが召喚された蟲蔵に居た蟲を使い、桜の心と体を犯し、体を作り変えていた。反抗しないように虐待も行い、今では諦観と絶望に満ち溢れて桜は人形のようになっていること。

 そんな桜を救う為に間桐家を出ていた雁夜が家に戻り、今回の『聖杯戦争』で勝利者となれば桜を自由にすると言う約定を臓硯と交わしていたと言う事らしい。

 そして全てを聞き終えたブラックはゆっくりと鶴野に背を向け、凄まじい殺意を体から放ち、間桐邸を睨みつける。

 

「クククククククッ!!なるほど、俺が気に入らん訳だ・・・・おい、あの小娘の本当の父親の名前を教えろ」

 

「遠坂、『遠坂時臣』だ!た、多分、今回の聖杯戦争に参加している筈だ!」

 

「そうか・・・参加しているのか。ならば会う機会はあるな・・・・おい、貴様」

 

「な、何だ!?まだ、俺に何か用があるのか!?」

 

「俺の指示に従え。そうすれば生かしておいてやる」

 

「じょ、冗談じゃない!?お、俺なんて三流以下の魔術師が参加出来る争いじゃ無いだろうが!?」

 

 ブラックの脅しに鶴野は今にも泣き出しそうな顔をしながら叫んだ。

 もしもブラックに手を貸せば、鶴野は『聖杯戦争』に参加すると言う事を意味する。目の前に居る規格外の存在と自身よりも遥かに優秀な魔術師達が参加する『聖杯戦争』への参加など、鶴野は心の底から御免だった。失敗すれば自分の命も危ないのだから。

 絶対に手は貸さないと鶴野は意思を示そうとするが、示す前にブラックが左手の『ドラモンキラー』を鶴野の背後の壁に叩きつけて大穴を開ける。

 

ーーードゴォン!!

 

「ヒィッ!?」

 

「良い事を教えてやる。今俺は魔力が足りない。サーヴァントが足りないモノを補う方法ぐらいは知っているだろう?」

 

「・・・・た、『魂食い』」

 

「そうだ。さっきも地下室にいた人外を食って来たところだ」

 

「・・・ま・・まさか・・・爺を」

 

 ブラックの言う相手を鶴野は一人しか思い浮かばなかった。

 この家の本当の支配者であり、鶴野の人生を支配して来た『間桐臓硯』。その相手をブラックは“食ったと言っている”。そして要求に従わなければブラックは鶴野も食う気で居る。

 自分には選択肢が無いのだと理解した鶴野は絶望感に満ち溢れながら、ブラックに従う事を誓うのだった。

 

 

 

 

 

 自身が眠っている間の話を聞き終えた雁夜は、自分が召喚したサーヴァントの行動に言葉を失うしか無かった。

 主である自身の指示に従う訳でもなく、ブラックは勝手に『聖杯戦争』の準備を進めている。臓硯が居なくなった今、雁夜が『聖杯戦争』に参加する理由は『時臣への怒り』。しかし、桜の無事を考えれば自分は参加すべきなのかと悩みながら、腕に宿っている『令呪』に目を向けると、先んじてブラックが告げる。

 

「ソイツを使って俺を自害させるなど止めておけ。貴様が使用する前に腕を斬り飛ばす事など簡単だ。何よりも貴様・・・俺を自害させるだけで『聖杯戦争』から逃れられると思っているのか?」

 

「ど、どういう意味だ?」

 

「フン・・・コイツを読んでみろ」

 

 雁夜に向かってブラックは先ほどまで読んでいた二枚の資料を放り投げた。

 自身の目の前に落ちて来た二枚の資料を雁夜は拾い上げ、内容を読んで行く。資料に書かれていたのは『聖杯戦争』に参加する二名の人物に関すること。

 『衛宮切嗣』。『言峰綺礼』。それが資料に書かれている人物の名前だった。そして渡された資料を読み進めて行く内に雁夜の顔は青くなって行く。特に『衛宮切嗣』に関する資料の内容が雁夜が青褪めた原因だった。

 狙撃や毒殺は序の口で、公衆の面前での爆殺、標敵が乗り合わせた旅客機ごとの撃墜。その他にも手段を選ばないやり口の数々が資料には記されていた。

 

「先に言っておくが、ソイツに関する情報は僅かな間で貴様の兄に金に糸目をつけずに調べさせた事だ。詳しく調べればそれ以上の内容が出て来るだろう。無論真偽のほどは分からんが、その資料だけでも充分にその男の危険性が分かっただろう?」

 

「・・・・・あぁ・・・つまり、この男が『聖杯戦争』に参加するなら手段を選ばずに勝ち抜く可能性が在る・・・もしかしたら葵さんや凛ちゃんも、時臣の奴を脅迫する為に利用するかも知れないと言う事か?」

 

「可能性だが、ソイツが心の底から『聖杯』を望んでいるならどんな手を使っても手に入れようとするだろう・・・そしてもう一人、こいつの魔術師の師と経歴を読んでみろ」

 

「・・・『言峰綺礼』・・・・聖堂教会所属で・・・・今回の監督役『言峰璃正』の息子・・それで魔術師の師は・・・・時臣ッ!?ちょっと待て!?聖堂教会は中立な場所の筈だろう?監督役を派遣している組織の人間が『聖杯戦争』に参加して、今の監督役の息子だって言うのか!?」

 

「マスターを選ぶのは『聖杯』らしいからな・・・聖堂教会と言う場所の人間が偶然にも『聖杯』に選ばれる事があるかも知れんが・・・・参加者の可能性が高い遠坂時臣の弟子だと言うのは偶然とは限らん。寧ろ『遠坂』と聖堂教会が手を組んで何か企んでいると考えたほうがいいだろう。此処まで言えば、『聖杯戦争』から離れる為に俺を自害させる危険性が分かっただろう」

 

「・・・・・た、確かにそうだな」

 

 偶然が重なる事は滅多に無い。それが雁夜の宿敵である時臣の周りでは起き過ぎている。

 もしも桜を連れて教会に飛び込んだとしても確実な安全は保障出来ない。いや、それだけではなく冷静に考えてみれば、今の状態の桜を連れて教会に向かうのも危険だと雁夜は気がつく。

 

(待てよ・・・・もしも時臣の奴が臓硯が死んだ事を知った場合、奴は桜ちゃんを別の魔術師の家系に養子に出すかもしれない・・・そうなったら今度こそ桜ちゃんの心が壊れるかもしれない)

 

 ゆっくりと雁夜は何時の間にかブラックに体を預けて眠っている桜に顔を向ける。

 どう言う訳か桜はブラックに懐いている。臓硯と言う恐怖の対象が死んだ事が原因か、或いは自らを傷つけない強大な存在が居る事への安堵なのか、ブラックから桜を引き離すのは桜の心の安定が無くなる危険性が高い。

 

「・・・・・良いだろう、バーサーカー・・暫らくはお前の行動に俺も付き合う・・・俺も時臣の奴がどういう考えで桜ちゃんを『間桐』に養子に出したのか聞きたいからな・・・・それと時臣はともかく、桜ちゃんの母親と姉には手を出すな。もしも手を出せば殺されるのも構わずにお前に『令呪』を使う」

 

「・・・・・ククククククッ、面白い。俺を相手に怯むことなく、逆に要求を衝きつけて来たか。自分の命を削っての行動といい・・・多少は見所が在りそうだ。気に入らん答えだったら殺すつもりだったが、暫らくは保留にしておく。しかし、今の貴様の力では聞きたい事を聞く前に殺される可能性が高い。だが、俺の考えている事が成功すれば、お前は力が手に入る。この世界の魔術師どもでは如何する事も出来ない力をな・・・それと一つのこの小娘を救う方法を教えてやる・・・・交換条件だ。その力とお前の望みを叶える代わりに、戦いの策や戦闘は俺に任せて貰う」

 

「・・・・構わない。戦いに俺は詳しくは無いからな。だけど、絶対に時臣とそのサーヴァントを俺達が倒す事が絶対の条件だ。それとその桜ちゃんを救える方法も聞かせて貰う」

 

「無論そのつもりだ。俺も時臣とか言う人間は気に入らんからな・・・・・さて、改めて名乗らせて貰う。俺はサーヴァント・バーサーカー、『ブラックウォーグレイモン』だ。ブラックと呼べ」

 

「雁夜だ。間桐の魔術師-間桐雁夜、それが俺の名前だ。宜しく頼むぞ、ブラック」

 

ーーーガシッ!

 

 雁夜とブラックは互いに名乗りを交わすと、どちらとも無く右腕を差し出し、力強く握手を交わした。

 此処に聖杯戦争に参加するマスターとそのサーヴァントが生まれた。そのマスターとサーヴァントが動く事によって変わる未来は、まだ誰にも分からない。

 しかし、戦いの渦はもうすぐ其処まで迫って来ているのだった。




前作とは流れが違いますが、間桐邸を壊さない方が後々役立つと分かったからです。
また、鶴野も逃げられない状態になりました。
桜へのオメガブレード使用もいきなりではなく、雁夜に悩んで貰って決めて貰う事にしました。前作は勢いのような形だったのも否めないので。

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