始まりの運命に舞い降りる恐怖の根源   作:ゼクス

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スランプが中々抜け出せないので、にじファン時代に更新していたZeroの方を追加修正加えて投稿してみました。
更新速度は不明ですが、修正と追加が終わり次第に投稿していきます。


恐怖の根源降臨

「雁夜よ、お主には『バーサーカー』クラスのサーヴァントを呼んで貰うぞ」

 

 陰鬱な空気が立ち込める闇の中に立つ禿頭と手足がミイラと見間違えるほどに萎びている老人-『間桐臓硯』は、喜色満面に戸籍上では自身の息子となっている『間桐雁夜』に声を掛けた。

 声を掛けられた雁夜は臓硯の言葉に従うように頷く。臓硯と同じように雁夜もまた健康的とは思えないほどの容姿をしていた。頭髪は全て白髪に染まり、体の至る所には瘢痕が浮き上がり、それ以外の場所は全て血色を失って幽鬼のように土気色になっている。それだけではなく顔の左半分は死相で凝り固まっていた。

 もしも一年前の間桐雁夜を知っている人物が今の雁夜を目にすれば、余りに変わり果てた雁夜の姿に、言葉を失うだろう。それほどまでに雁夜は変わり果てていた。一般の常識ならば既に雁夜は死人と変わらない。だが、雁夜はまだ死ぬ訳には行かなかった。想い人の娘であり、自身が家から逃げ出してしまった為に犠牲となってしまった少女を目の前に立つ臓硯から救い出し、その少女を地獄に送る役目の一端を担った“男”を殺す為に。

 

 『聖杯戦争』と言う儀式が日本の冬木市で開催される。

 三つの魔術師の家系が築き上げた儀式。『英霊』と称されるあらゆる時代に、伝説や伝承にその名を残している英雄を七つのクラスに当て嵌めて開催される魔術儀式。『英霊』と言う一体だけでも大量殺戮兵器と呼べる存在を、七人の魔術師達が使役し、冬木と言う地で行なわれる魔術師達の戦争。

 剣使い:『セイバー』

 槍兵:『ランサー』

 弓兵:『アーチャー』

 騎兵:『ライダー』

 狂戦士:『バーサーカー』

 暗殺者:『アサシン』

 魔術師:『キャスター』

 それぞれ七つのクラスが存在し、七体の『英霊』達が七人の魔術師達のサーヴァントとして召喚される。過去に三度『聖杯戦争』は開催されたが、『聖杯』は降臨する事無く、今回四度目の『聖杯戦争』が開催されるのだ。

 

 『間桐』はその『聖杯戦争』を構築した御三家と称される魔術師の家系の一つ。

 しかし、他の二家と違い、『間桐』の家系は代を重ねる毎に衰えていた。現在の『間桐』の頭首となっている雁夜の兄である『間桐鶴野』の魔術師としての素質はサーヴァントを召喚出来るほどではなく、臓硯の傀儡でしかない。雁夜にしても魔術師としての素質は鶴野よりも僅かに高い程度。何よりも雁夜は『間桐』の家から出奔した身の上。本来ならば『間桐』の魔術師として『聖杯戦争』に参加することは無かった。だが、一年前のある出来事によって雁夜の運命は変わり、背を向けた『間桐』に戻る事になった。

 一年前に雁夜は幼馴染であり想い人でもある『遠坂葵』から、葵の実の娘である『遠坂桜』を『間桐』に養子に出した事を聞いた。葵の娘である『桜』は雁夜と違って魔術師としての素質が遥かに高く、一般人としては生きるのが難しかった。

 魔術師の家は一子相伝であり、『遠坂』の家督は桜の姉である『遠坂凛』が継ぐ事になっている。その結果、桜は『間桐』に養子に出された。葵、凛も桜の実の父親である『遠坂時臣』の説明に納得して『遠坂桜』は『間桐桜』になった。

 だが、『遠坂』の者は誰一人として知らなかった。『間桐』が『遠坂』と違い、数百年生きる『間桐臓硯』が支配する魔術師の家系であることを。『間桐』の魔術師とは臓硯の傀儡でしかない。雁夜が『間桐』から逃げ出したのも、臓硯が行なう魔術訓練と言う名の拷問から逃れる為だった。しかし、『間桐』の実状を知らない時臣は桜を魔術師としてちゃんと鍛えられると思い込んで、『間桐』の魔術鍛錬の実情を知らずに養子に出してしまった。

 葵から桜が養子に出されたことを知った雁夜は急いで『間桐』に向かったが、時既に遅く、桜は『間桐』が魔術で作り上げた蟲達によって蟲漬けにされていた。すぐさま雁夜は桜を連れて間桐家から救い出したかったが、魔術の鍛錬をまともに行なった事が無い雁夜では数百年生きている臓硯に勝てる筈が無い。

 桜を『間桐』から救い出す方法は臓硯との交渉しかなかった。『聖杯』を持ち帰れば桜を『間桐』から助け出せる。雁夜はその為に自らの体を臓硯に差し出した。その結果、余命一ヶ月程度だが雁夜はサーヴァントを何とか呼び出せる急造の魔術師となった。そして今夜『聖杯戦争』に参加する為に、サーヴァント召喚の儀式を執り行おうとしていた。

 

「これが御主が呼び出す為のサーヴァントの触媒じゃ」

 

 臓硯は喜色満面のままゆっくりと雁夜の右手に“黒い何らかのカケラ”のような物を乗せた。

 

「・・・一体何処の英雄に縁が在る代物だ?」

 

 渡された“黒い何らかのカケラ”を注意深く眺めながら、雁夜は臓硯に質問した。

 『聖杯戦争』で召喚されるサーヴァントは、呼び出したい『英霊』に縁がある品を使用して召喚の儀式に挑めば、その『英霊』を呼び出せる可能性が高くなる。無論縁の品を使用しても絶対にその『英霊』を呼び出せるとは限らないが、『聖杯』を必ず持ち帰る事を誓っている雁夜としては強力な『英霊』が呼べる事を望んでいた。

 だからこそ、渡された“黒いカケラ”に縁が在る『英霊』が強力な存在である事を雁夜は願うが、臓硯は更に笑みを深めて告げる。

 

「すまんな、雁夜。本来ならば『湖の騎士』縁の品を依頼したのじゃが、どう言う訳か依頼した物を見つけることが出来ず、代わりにとある遺跡に落ちていたソレを送って来たのじゃ。しかし、ワシも送られて来て驚いた。何せその“黒いカケラ”・・・・“生きておるの”だからのう」

 

「・・・何だって?この“黒いカケラ”が生きている?」

 

「そうじゃ・・・一見はただのカケラにしか見えぬが、そのカケラは途轍もなく硬い。魔術的処理も施しておらんのに、何らかの形態に戻ろうとしている。無論カケラ故に戻れぬようだが、この様な代物は長年生きているワシでも知らぬ。もしやコレは神代時代の代物かも知れん」

 

「・・・・だから、俺にコイツに縁がある奴を『バーサーカー』として呼び出せと言う事か、爺」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしながら雁夜は臓硯を睨みつけた。

 『聖杯戦争』に召喚されるサーヴァントの実力は、魔術師の技量と知名度の補正によって大きく左右される。有名な英雄で在ればあるほどに強力な存在として呼び出されるのだが、雁夜の魔術師としての技量はかなり低い。臓硯が用意した縁の品で召喚される『英霊』が有名な者とは限らない。

 しかし、狂戦士のクラスである『バーサーカー』には他のクラスのサーヴァントと違って、知名度補正や魔術師の技量に関係なくステータスが強くなる。その代わりに呼び出されるサーヴァントは『狂化』属性が付加され、獣のように暴れるだけではなく、魔力消費が他のクラスのサーヴァントよりも遥かに高く、自滅してしまう鬼門のクラスでも在る。そんなクラスのサーヴァントを呼び出せば急造の魔術師でしかない雁夜が死んでしまう可能性は高い。

 しかし、雁夜は臓硯に逆らうことが出来ない。例え破滅的な未来しか待ってないとしても、臓硯の指示に従って黒いカケラを触媒にしてサーヴァントを呼び出すしか無い。

 

「・・・爺・・・そろそろ時間のはずだ。召喚の儀式を始めるぞ」

 

 もはや自らでは選ぶ事さえも出来ないことを理解している雁夜は、臓硯から渡された黒いカケラを右手で握り締めながら告げた。

 その言葉に臓硯はニヤリと笑みを浮かべる。その笑みにはおよそ人間としての情緒は欠片も窺えなかった。人を自らの遊び道具としか認識していない怪物の笑み。臓硯は雁夜が『聖杯』を持ち帰ることなど僅かでも期待していない。ただどれだけ無様に悶え苦しみながら死ぬのか、それだけを臓硯は楽しみにしていた。

 “雁夜に渡した黒いカケラの縁で呼び出される者が『世界』さえも恐れ、自らに破滅を与える者だと知らずに”。

 

 

 

 

 

 世界から外れた場所に位置する空間。

 魔術師達が『英霊の座』と呼ぶ位置の更に奥深くに、まるで干渉さえも禁じられた空間だと言うように封じられた『英霊の座』が存在していた。その空間だけには触れてはならないと言うように、『英霊の座』は雁字搦めに封印され、その『英霊の座』の主も『座』の中で無数の鎖に封じられていた。

 その『英霊の座』の主も『座』の中で正体も知られては不味いと言うように、姿さえも覆い隠す程の鎖で雁字搦めに封じられ、ゆっくりと眠りについていた。

 だが、決して干渉してならない『座』に干渉するように悪しき邪念と一つの切実な想いが篭もった魔力、そして詠唱らしき声が届く。

 

ーーー告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うのならば応えよ。

    されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者ーーー

 

(・・・・・・ほう・・・・・よもやこの場所にまで声が届くほどの意思を持った奴が居るとは・・・・しかし、俺を手繰るだと?・・・・笑わせてくれる)

 

ーーー汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!!---

 

(・・・・・・・良いだろう!この場所に繋がれるのも飽きていたところだ!!!現世で暴れられるのならば、この声に応じてやろう!!!)

 

 何処からともなくと届いて来た詠唱に応じるように、『座』に縛られていた存在は自身を縛っていた鎖を全て粉砕し、その身を完全に現した。

 同時に悲鳴を上げるように空間が軋みを上げ、何としてもその存在を外に出さないと言うように無数の鎖が伸びるが、ソレを粉砕するように漆黒の大剣が振り抜かれ、封じられていた存在は現世へと降臨する。

 

 

 

 

 

 薄暗い地下室の中。

 多数の蟲が蠢いている蟲蔵と呼ぶに相応しい場所。

 しかし、今、その場所で召喚の儀式を行なった間桐雁夜は、全身を襲う激痛に床に倒れ伏して悶え苦しみ続けていた。だが、苦しんでいるのは彼だけではない。蟲蔵の中に存在している数え切れないほどの蟲と言う蟲が雁夜の前に立っている体長三メートルほどの大きさを持った漆黒の竜人に怯えていた。

 そして雁夜と共に蟲蔵の中にいる間桐臓硯は目の前に立っている漆黒の竜人-『聖杯戦争』に参加する為に雁夜が呼び出したサーヴァントの姿に歓喜に満ち溢れていた。

 如何見ても目の前に立っている漆黒の竜人は一級所の騒ぎではないほどのサーヴァント。

 ただ静かに立っているだけで凄まじい威圧感が溢れ続けているのだから。『聖杯戦争』に勝利して不老不死を得ようとしている臓硯にとっては、偶然にも自身の悲願が叶う最高の手札が巡って来た事実に歓喜する以外になかった。

 しかし、呼び出された筈の漆黒の竜人はつまらなそうに目を細め、自身の目の前で倒れ伏している雁夜に見つめる。

 

(コイツが俺を呼んだのか?死にかけているようだが・・・なるほど、死に瀕するほどだったから俺の下にまで声が届いたと言う訳か)

 

 召喚された漆黒の竜人は瞬時に雁夜の状態を察して、自身が立っている場所を改めて見回す。

 薄暗くジメジメとした空間。其処に存在するのは女性が一目みるだけで悲鳴を上げるような形をしている大量の蟲達。漂う空気は腐臭に満ち溢れ、怨念さえも漂っているような場所。

 とんでもない場所と死にかけの召喚者の姿に、漆黒の竜人は心の底から徐々に苛立ちが募って行く。更に漆黒の竜人の精神を逆なでするような笑い声が蟲蔵に響く。

 

「カカカカカカカッ!出来損ないの分際で良くやったぞ、雁夜!!コヤツは間違いなく一級品の『英霊』じゃ!!」

 

(何だコイツは?・・・・人間ではないようだが・・・・・そうか、コイツか。コイツがこの気に入らない場所の本当の主か)

 

 一目見ただけで臓硯がまともな存在ではない事を理解した漆黒の竜人は、ゆっくりとその身を霊体化させて臓硯の視界から消え去った。

 しかし、臓硯は慌てることは無かった。元々雁夜では『バーサーカー』クラスのサーヴァントを維持出来るだけの魔力供給を行なえるかもギリギリのところだった。故に霊体化したのは自らが消えることを恐れての本能的な行動だと臓硯は判断し、何時の間にか気絶していた雁夜の顔を手に持っていた杖で付く。

 

「カカカカカカカカカカカカッ!!外れの遺物と思っておったが、予想を遥かに超える当たりじゃった。しかし、貴様がマスターではあのサーヴァントとて満足には戦えまい。此処は『桜』を急いで仕上げて魔力の供給に役立てようではないか。無論雁夜よ。貴様にもあのサーヴァントの供給先として利用させて貰うぞ。その為に・・・貴様の『令呪』を奪わせて貰う」

 

 本来は臓硯にとって、今回の聖杯戦争は単なる余興であった。刻印虫の魔力生成により苦痛にのたうつ雁夜が、どこぞのマスターかサーヴァントに殺され、自らが全てを賭けて救いたいと思っている間桐桜を救えぬことに絶望する様を見物するだけの余興だった。しかし、雁夜が引き当てたサーヴァントは如何見ても凄まじいと言う言葉が相応しい力を秘めた漆黒の竜人。

 次の『聖杯戦争』でも同じサーヴァントが呼べる確証が無い。ならば、今回の『聖杯戦争』で自らの長年の悲願を叶えて見せると、臓硯は歓喜に満ち溢れながら雁夜の腕に宿っている『令呪』を奪おうと手を伸ばす。

 しかし、臓硯の手が雁夜の腕に届く直前に突如として臓硯を影が覆い、臓硯が疑問に思う前に影は一瞬にして臓硯の体を押し潰し、グチャリと湿った音が蟲蔵に鳴り響く。

 

「やはり、人間では無かったか。しかし、蟲の集合体とはな」

 

 自らの足元に広がる先ほどまで臓硯を模っていた蟲の集合体を、何時の間にか再び実体化していた漆黒の竜人は、嫌悪感と苛立ちに満ち溢れた視線で見下ろす。

 そのまま漆黒の竜人は蟲蔵に居る蟲達の中から何かを探すように見回し、蟲達は漆黒の竜人の視線から逃れようと慌てて這いずりながら逃げ出そうとするが、突如として蟲達が目指していた出口の全てを遮るように黒く輝く壁が発生する。

 

ーーーガシィィィーーン!!

 

『こ、コレは!?』

 

 蟲達の群れの中から、先ほど漆黒の竜人に踏み潰されたはずの臓硯の驚愕と困惑に満ち溢れた声が響いた。

 数百年という年月を生きる為に臓硯は人である事を捨てて蟲の体に自らの魂を移していた。漆黒の竜人が踏み潰したのは、本体の臓硯が老人の形にして操っていた傀儡に過ぎない。雁夜が召喚したサーヴァントの制御に失敗した時に自分だけは生き残る為の備えだったが、それを阻むように出現した黒い壁に一体如何言う事なのかと疑問と困惑に満ち溢れながら漆黒の竜人の方を向いてみると、何時の間にか銀髪に蒼い瞳をしたスタイルの良い美女が漆黒の竜人の肩に乗っているのを目にする。

 その美女の正体を一瞬で察した臓硯は思わず、蟲の体で叫んでしまう。

 

『サ、サーヴァントじゃと!?ど、どういうことじゃ!?雁夜が召喚したサーヴァントのクラスは『バーサーカー』の筈では!?』

 

「其処か」

 

 聞こえて来た臓硯の叫びに漆黒の竜人は、ゆっくりと臓硯の本体が居る蟲達の群れに目を向ける。

 自分の本体の居場所がばれた事に、臓硯は慌てて他の蟲達の中に紛れ込もうとするが、その前に漆黒の竜人の肩に乗っている女性が指をパチンッと鳴らすと、臓硯の体は黒い輪に拘束される。

 

ーーーガシッ!!

 

『ッ!!』

 

 自らの体を拘束した黒い輪-『バインド』から逃れようと臓硯はもがくが、体を縛り付けるバインドが破れる事は無かった。

 臓硯がもがいている間に漆黒の竜人は臓硯の前まで歩いて来て、ゆっくりと右手の三本の鉤爪が備わっている篭手を振り翳す。自分を殺す気なのだと悟った臓硯は、もがくのを止めて慌てて漆黒の竜人に向かって叫ぶ。

 

『ま、待て!?ワシを殺せば、貴様を召喚したマスターが死ぬぞ!?あやつの命はワシが握っておるのだ!?』

 

「それが如何した?」

 

『き、貴様は自分が召喚した主がどうなっても良いと言うのか!?あやつには絶対命令権の『令呪』があるのじゃぞ!?貴様を自害させる事も容易いのだ!』

 

「ほう・・・だが、気絶している奴が命令出来るのか?」

 

『ッ!?』

 

 漆黒の竜人の言葉に臓硯は、雁夜が気絶して意識を失っている事を思い出した。

 サーヴァントの絶対命令権である『令呪』を使用する為には何よりも強い意思が必要。気絶している雁夜が『令呪』の使用を行える筈が無い。ならば、蟲倉の中に居る蟲を操って雁夜の体を乗っ取ろうと臓硯は急ぐが、何時の間にか床に倒れ伏している雁夜の体を包むように黒い壁が半面上に出現して、雁夜を操作することが出来なくなっていた。

 その事実に臓硯が固まっていると、漆黒の竜人は更に絶望的な事を臓硯に告げる。

 

「どうやら召喚した男では俺を支え切れんようだ。ならば、少しの間でも現界を維持する為の“餌”が必要だ。そしてその“餌”は目の前に居る」

 

 その漆黒の竜人の言葉を理解した臓硯は、絶望感に満ち溢れた。

 マスターの魔力供給以外でサーヴァントの現界を維持出来る手段は一つ。『魂食い』と呼ばれる手段。本来ならば人間を襲って魔力を得る手段だが、漆黒の竜人は臓硯の魂を“喰う”気なのだ。

 『魂食い』によって命を失ったら最後、その命は吸収したサーヴァントの意志力の前に消滅して、二度とこの世に舞い戻る事は無い。完全な消滅の危機に臓硯の思考が一瞬止まった瞬間、漆黒の竜人は呟く。

 

「消えろ」

 

ーーーグッシャッ!!

 

 一切の慈悲も無く漆黒の竜人は篭手を臓硯の本体である蟲に振り下ろして潰した。

 数百年間生きて『間桐』家を支配し、多くの人々を襲って犠牲にして来た『間桐臓硯』。その最後は自らが行なって来た事と同じ様に、生きる為の糧となる事だった。

 漆黒の竜人は臓硯の魂を喰い終えると、心の底から不機嫌さに満ち溢れた顔をし、肩に乗っている女性が心配そうに声を掛ける。

 

「ブラック様?だ、大丈夫ですか?」

 

「・・・・外れも良い所の奴だった。人外のようだったから人間よりもマシな魂だと思っていたが、腐り切って怨念に満ち溢れている。僅かに足しになった程度でしかない。もっとマシな魂を喰わねばならん」

 

 『魂食い』と言う行為は一般の人間よりも、霊格が高い者ほどサーヴァントの栄養となる。

 一般人よりも外れた場所に居る魔術師然り、『死徒と呼ばれる吸血種』は霊格が高く栄養源となる。一般人を襲って『魂食い』を行なうよりも吸収出来る魔力は高い。裏の世界とは関係ない一般人を襲うなど漆黒の竜人はするつもりはないが、裏の世界に関係している人間は全く別だった。

 『間桐臓硯』は途轍も無く危険な存在を自らの遊戯で世に解き放ってしまった。『英霊』とした世界さえも恐れる存在を。

 

「クククククッ!聖杯戦争か。下らん世界の命令よりも楽しい戦いが出来そうだ!ハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 サーヴァント・クラス・バーサーカー、漆黒の竜人-『ブラックウォーグレイモン』は歓喜に満ち溢れた咆哮を、主を失って怯え尽くす蟲が溢れている蟲倉の中に響かせるのだった。

 

 此処にとある平行世界において最強の存在の一角にして、恐怖の代名詞とまで呼ばれた存在が七人の魔術師と七人のサーヴァントによって行われる戦争-『聖杯戦争』に参加する為に降り立った。

 漆黒の竜人が現れた事によって変わる未来は、果たして希望か絶望か。それはまだ誰にも分からないのだった。




質問ですけれど、キャスターこと『ジル・ド・レェ』を如何しましょう?

前作のようにアッサリ倒させるか、それとも生き延びさせて冬木市IN怪獣大決戦にしようか悩んでいます。
因みに既に裏の人間では犠牲者が多数出る事は決定済みです。『聖堂教会』のスタッフが特に。

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