始まりの運命に舞い降りる恐怖の根源   作:ゼクス

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予想外

 セイバーは目の前に広がる光景を呆然と見つめるしか無かった。

 沢山の木々が生えていた筈の『アインツベルンの森』の一角は完全に焼け野原に変わり、炎の竜巻が引き起こした衝撃で木の破片が其処かしこに散らばっていた。その惨状を作り上げたと思わしき本来の姿に戻り、全身から殺意と怒りのオーラを放っているブラックは、全身に火傷を負いながら同じにように焼け爛れている複数の怪魔に護られているキャスターを射殺さんばかりに見つめていた。

 現状から考えれば、先ず間違いなくキャスターを追い詰め、先ほどセイバーが目にした天に届かんばかりの炎の竜巻を発生させた主はブラック。

 

(・・・港場でバーサーカーは自身が“万全”でないと宣言していましたが・・・どうやら偽りではなく事実だったようですね)

 

 セイバーが港場から考えていたブラックへの対抗策は一からやり直しになった。

 ただ戦いのやり方が巧みなだけだったならば、力と速さ、そして自らの技量で一時でも上回り、其処から切り崩すと言う手段が在った。だが、今のブラックには港場で足りなかった自らの技量を支える力と速さが加わっている。

 もしも何も知らずに挑んで居れば、手痛いダメージを負うだけでは済まなかったとセイバーは思いながら背後でブラックの姿に怯えている子供達に横目を向ける。まだ物事を良く理解していない子供だからこそ、ブラックの尋常でない怒りと殺意を肌で感じ取っていた。人間状態だった時のブラックは怒りと殺意を押し込めていたので子供達は指示に従ったが、本来の姿に戻ったブラックは抑えていた感情を解放して全身から発している。今はブラックの指示に従ってセイバーの傍に居るが、もしも指示が無ければこの場から即座に逃げ出していただろう。

 救ったはずの者に怯えられているブラックに、僅かにセイバーは憐れみを抱くが、そのセイバーの脳裏に自らを無視し続けた相手の声が届く。

 

(・・・セイバー)

 

(・・・切嗣?)

 

 一瞬セイバーは自身の脳裏に響いた切嗣の声が、幻聴ではないかと疑った。

 召喚から今の今まで切嗣がセイバーに声を掛けた事は殆ど無い。事実つい先ほど城の中で行なわれていたキャスターに対する方針に関してもセイバーの意見は一向に聞き入れてくれなかったどころか、完全に無視さえもしていた。

 その切嗣が一体何の用なのかとセイバーは切嗣の言葉を待っていると、到底セイバーが受け入れられない指示が告げられる。

 

(バーサーカーがキャスターに集中している隙をついて、『バーサーカーを討て』)

 

(なっ!?)

 

(意見は受け付けない。キャスターよりもバーサーカーだ。奴を必ずこの場で討て)

 

(ど、どう言う事です!?此処で討つべきなのは、幼子達を自らの欲望の為に殺そうとしたキャスターのはず!バーサーカーは寧ろ子供達を助けたのです!何故そんな事を!?)

 

 セイバーからすればこの場で討ち取るべきなのは、無辜の民を身勝手な理由で殺し続けているキャスターの方だった。

 ブラックも強敵だと理解し直したが、今は『聖杯戦争』のルール変更の事もあり、また子供達を殺そうとしたキャスターの方を優先すべきはず。何よりもセイバーの『直感』が、この場でキャスターを討たなければ後々に取り返しのつかない事態を引き起こすと感じていた。

 その胸をセイバーは切嗣に告げようとするが、先んじて切嗣がセイバーが絶対に看過出来ない事を告げて制する。

 

(『聖杯戦争』が継続出来なくなって良いって言うのかい?)

 

(ッ!?)

 

(バーサーカーはキャスター以上に『聖杯戦争』の継続を危険に・・・いや、崩壊を確実に招くサーヴァントだ。奴は何としてもこの場で討ち取らなければならない。アイリも認めている)

 

(・・・アイリスフィールまで)

 

 今度こそセイバーは言葉を失うしかなかった。

 セイバーが城から飛び出せた要因の一つには、アイリスフィールの許可が在った。アイリスフィールもまた子を持つ母親。故にキャスターの非道を見逃す事は出来ず、キャスターを倒すようにセイバーに命じたのだ。そのアイリスフィールまでキャスターではなくブラックを倒す事を優先している。一体どう言う事なのかとセイバーは疑問に思うが、同時に『聖杯戦争』を崩壊させる訳には行かないとも理解する。

 セイバーは『聖杯』を手に入れる為に召喚に応じたサーヴァント。自らの叶えたい願いの為にも『聖杯戦争』は継続させ、『聖杯』を手に入れなければならない。

 セイバー自身気がつかずに右手に握っている不可視の剣の柄を強く握り締める。その間にブラックは右手のドラモンキラーの爪先に赤いエネルギー球を作り上げながら一歩一歩恐怖に怯えているキャスターに近寄る。

 

「貴様の自慢の軍勢も、広範囲の攻撃には無意味だったな。血も蒸発し、黒焦げに焼けた肉片では召喚の媒介にも使えんだろう」

 

「アッ、アガ・・ガァ」

 

 全身にある火傷の痛みとブラックの殺意と怒りのオーラに、キャスターはハッキリとした言葉を放てず、呻きを上げるしかなかった。

 生き残った怪魔達も、キャスターが怯えに走った事で支配が僅かに緩まったのか、キャスターから離れてブラックから逃げようとズルズルと触手を動かして這い進んで行く。所詮怪魔達はキャスターに忠誠を誓っている訳ではない。

 『宝具』である『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』の力で支配されていたに過ぎない。支配が弱まれば、当然ながらキャスターに従う事は無い。自慢の軍勢と称した怪魔にさえも見放されたキャスターの残された左目は絶望感に満ち溢れる。だが、ブラックはキャスターに対して哀れみも抱くことは無くただ怒りと殺意だけを滾らせながら右手に出現させた赤いエネルギー球を振り被り、迷うことなくそのまま“後方へと振り返り自らに向かって殺気を向けて、子供達を逃がしたセイバーに向かって投げつける”。

 

「ムン!!」

 

「なっ!?クッ!!」

 

 奇襲を読んでいたかのようなブラックの行動にセイバーは驚きながらも、慌てて飛び去りエネルギー球を避けた。

 ブラックはその様子を不機嫌そうに眺めながら、苛立ちに満ちた視線で地面に着地して自らに不可視の剣を構えているセイバーを睨みつける。

 

「・・・やはり、そう来たか。これで確定したぞ。貴様のマスターは『衛宮切嗣』だな」

 

「なっ!?」

 

「大方俺の正体を知って慌てたと言ったところだろう・・・気に入らん。無関係な子供の命よりも、『聖杯戦争』の継続を優先か。キャスターへの行動とは違うか」

 

 不機嫌さに満ち溢れた目でブラックはセイバーを、その先に居る切嗣を射抜く。

 キャスターが『アインツベルンの森』に現れてからすぐにセイバーが動けば、犠牲となった子供の数は減っていただろう。だが、セイバーが動いたのはキャスターが凶行を開始してから。

 つまり、切嗣は『聖杯戦争』で生まれる犠牲には目を向けていない。何が何でも、どれほどの犠牲が冬木市で生まれようと『聖杯』を手に入れるという考えの持ち主だとブラックは理解した。

 

(そしてセイバーも『聖杯』を求めるか・・・・この姿で居られる時間も残り少ない。さっさとキャスターを抹殺してこの場から逃れ…)

 

「・・・・・ジャ・・ンヌ」

 

「ムッ!」

 

 僅かに背後から聞こえて来た声に、ブラックが背後を振り向いてみると、絶望しか宿っていなかったキャスターの左目に光が戻っているのを目にする。

 しかし、キャスターはブラックが振り向いた事も気がつかずに、忘我の恍惚とした表情を浮かべ、左目から涙を流しながらセイバーだけをジッと見つめる。

 

「・・オ、オォォ・・オォォォォォォォッ!!ジャンヌが私を救いに現れた!!!そうです!私は絶望して諦めている暇など無い!!未だに神によってその魂を束縛されているジャンヌを救わなければアァァァァァッ!!」

 

「貴様!」

 

 キャスターがこの場から逃れるつもりなのだと悟ったブラックは、セイバーに構わずにキャスターに向かって飛び掛かる。

 しかし、横合いからキャスターの意欲が蘇った事で支配が戻った怪魔達がブラックに飛び掛かり、その動きを僅かに遅れさせる。

 

「クッ!!」

 

「フフフッ!!そうです!まだ、私は諦める訳には行かない・・・ジャンヌを神の束縛から解放するまでは!」

 

「キャスター!貴様はまたこのような事を繰り返すつもりなのか!?」

 

「えぇ・・貴女が目覚めるまでは・・・しかし、今日のところは退散させて頂きます・・・リュウノスケェェェェェェ!!!!私を強く念じて呼ぶのです!!」

 

 キャスターは絶叫するように、この場には居ない自らのマスターである龍之介に向かって叫んだ。

 セイバーはその行動にキャスターにはただ一つだけこの場から、正確に言えばブラックから逃れる手段が在る事に気がつく。即ちサーヴァントへの絶対命令権である『令呪』。

 『令呪』はただサーヴァントを従えるだけの手段だけではなく、サーヴァントの一時的な強化、そして『魔法』に近しい『空間転移』まで引き起こす事が出来る。既に戦意を喪失している事と、ブラックが辺りを焼け野原に変えた事で隠れる逃げ隠れも出来ないと判断していた己の甘さをセイバーは後悔するが、時既に遅く、キャスターの体は光に包まれ出す。

 

「次こそは必ず、必ずや、貴女を解放して見せましょう・・ジャンヌゥ」

 

 その言葉を最後にキャスターの姿は『アインツベルンの森』から完全に消え去った。

 ブラックはそれを目にすると共に、自身の邪魔をしていた怪魔達を全力で引き裂き、怒りに満ちた叫びを上げる。

 

「ガアァァァァァァァァァァァァッ!!!おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 怪魔達の亡骸を踏みしめながら、ブラックはセイバーではなく、アインツベルンの城が在る方向を怒りと殺意に満ち溢れた目で睨みつける。

 

「赦さん!!貴様らも必ず殺してやる!!だが、今はキャスターだ!!セイバー!大方貴様は俺が『聖杯戦争』を崩壊させると聞いただろうが、先に言っておくぞ!崩壊させるのは俺じゃない!!俺は招くだけだ!崩壊させるのは、『魔術師』どもだと言う事を覚えておけ!」

 

「ど、どういう事だ!?」

 

「貴様のマスターにでも聞くんだな」

 

 ブラックはそう言い捨てると共に、セイバーが反応する前に瞬時にその身を霊体化させて『アインツベルンの森』から消え去った。

 残されたセイバーはブラックの言葉の意味を詳しく聞こうと、アインツベルンの城へと急いで戻るのだった。

 

 

 

 

 

 遠坂邸の地下室。

 その場所で遠坂時臣は、遠坂伝来の宝石通信機を通して裏で手を結んでいる言峰璃正から伝えられた情報に難しげな顔を浮かべていた。

 

「・・・事実なのですか?璃正神父?・・・アレが・・我が遠坂の大師父の功績の一つとして語られている『暴虐の竜人』が『聖杯戦争』にサーヴァントとして参加していると言う話は?」

 

『事実としか言えないよ、時臣君・・先ほど綺礼から伝えられたバーサーカーの容姿に分類される存在は・・・・『暴虐の竜人』以外に在りえない。私も信じたくない話なのだが』

 

「・・・何と言う事だ!?」

 

 勝手に『アインツベルンの森』に向かった綺礼の独断専行など時臣の頭の中から吹き飛んでいた。

 『暴虐の竜人』と呼ばれているブラックの過去の所業の数々を時臣は良く知っている。何せ自らの家の大師父の功績として語られている存在なのだから。

 だからこそ、ブラックがサーヴァントとして現界している情報が知れ渡った時には、『聖杯戦争』が崩壊する事も理解していた。

 

(今までの情報を総合すれば、先ず間違いなく『暴虐の竜人』を召喚した陣営は間桐に違いない!・・・間桐臓硯は『暴虐の竜人』に縁の在る遺物を見つけていたと言うのか!?・・いや、其処は問題ではない。『暴虐の竜人』に関する情報が漏れでもすれば、大事では済まなくなる)

 

 魔術師の最終目的である『根源』に辿り着く為に、ブラックと言う存在はこの上なく魅力的な存在として魔術師は見る。

 そのせいで生前のブラックと裏の世界の魔術師を含めた組織と戦いが勃発した。ブラックを利用する為に魔術師達は動き、聖堂教会はブラックと言う危険因子を排除する為に動いた。だが、結果は最悪だった。生前のブラックの力はこの世界から見れば異常としか評せなかった。どれほど強固に固めた魔術師の工房であろうと一撃の下に巨大な大穴に成り果て、当時の代行者達や騎士達の死骸が軒並み聖堂教会に関係する場所に叩きつけられて送り返される。

 流石にこれ以上ブラックを放逐出来ないと判断した魔術協会と聖堂教会の上層部は、最高戦力を送ろうとまで発展する事態になったが、ソレはブラックが発揮した在る力によって断念された。その力が発揮されればどちらの組織にとっても不利益しか呼ばず、特に教会側にとっては組織間のパワーバランスが崩れる事態にまで及ぶ危険性が在った。かと言ってブラックを放置して置く訳にも行かないとどちらの組織も悩んでいた所に動いたのが、宝石翁にして二十七祖の第四位に数えられている『キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ』。彼こそがブラックをこの世界から消失させた存在。

 その功績は称えられ、特に宝石翁の弟子達が中心となってブラックの存在を世に広めてしまった。魔術師ならば、特に魔術協会に属している者ならばブラックの存在を知らない者が無い。だからこそ、ブラックの存在は時臣にとっても璃正にとっても目ざわりとしか言えなかった。

 

『時臣君・・・・バーサーカーの存在はキャスター以上に放任しておくわけには出来ん』

 

「・・・無論です、璃正神父・・・『聖杯戦争』の崩壊だけは何としても避けなければならない」

 

 時臣も『根源』を目指している魔術師だが、ブラックよりも明確な『根源』へと至る手段が時臣には在る。

 即ち今冬木で行なわれている魔術儀式『聖杯戦争』。御三家の者だけが知っている『聖杯戦争』の本当の意味。“七体”の召喚されたサーヴァントを『聖杯』に与えた時に、世界の外側への入り口が開き、『根源』に辿り着く為の道が完成する。ブラックが出来るのは世界の外側への入り口を作るだけ。つまり、時臣からすればブラックよりも『聖杯戦争』の方が確実に『根源』へ辿り着ける手段だった。

 家の悲願も在るが、時臣自身『聖杯戦争』は今のところは磐石に進んでいると思っているのでブラックと言う存在の魅力は低い。だが、裏事情を知らない参加者達や他の魔術師達からすれば『聖杯戦争』よりもブラックの方が遥かに魅力的に見える。

 

(バーサーカーの存在が危険なのは事実・・・・キャスター同様に討伐対象に加えるという策もあるが・・・それは他の陣営に『暴虐の竜人』の存在を知らしめてしまう。三流魔術師のウェイバー・ベルベットはともかく、時計塔の魔術師であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトが知らぬ筈が無い。やはり、早急にバーサーカーは抹消したいが・・・・現状がソレを赦さない)

 

 時臣としては明確に『聖杯戦争』の崩壊を招くブラックを早急に排除したいところなのだが、ブラックはキャスターのように神秘の隠匿を軽んじる行動をしていないので明確に排除対象に指定出来ない。

 もしもサーヴァントに危険性が在るからという理由で排除に乗り出せば、召喚者である間桐側が抗議して来る可能性が高い。『聖杯戦争』に於いて強力なサーヴァントを召喚するのは当然の事。現に時臣はアーチャーと言う強力なサーヴァントを召喚し、アインツベルンは『騎士王アーサー』を召喚している。

 サーヴァントに問題が在るからと言って排除対象にするのは、流石に無理過ぎるのだ。

 

「(厄介なサーヴァントを間桐は召喚してくれた者だ・・・・・待て?間桐?・・・確か今回の間桐の『聖杯戦争』の参加者は・・・)・・・・璃正神父?確か今回の間桐の参加者は『間桐雁夜』でしたか?」

 

『その通りだよ、時臣君。綺礼が表では脱落扱いになった次の日に、間桐鶴野から教会に連絡が在った。それ以外にも『聖杯戦争』が本格的に始まる前に間桐臓硯から間桐雁夜が参加すると言う通達が教会に届けられていた』

 

「なるほど・・・ならば、問題は殆どなくなったと見て間違いないでしょう、璃正神父」

 

『どういう事かね?』

 

「簡単な話です。私が知る限り間桐雁夜は魔術師としての責務を放棄した落伍者です。『聖杯』に未練があって戻って来たのでしょうが、碌に魔術の鍛錬も受けていない男が『暴虐の竜人』などと言う強力なサーヴァントを従えられているとは思えません。ただでさえバーサーカークラスのサーヴァントは魔力消費が大きいのですから」

 

『・・・なるほど・・・私達はサーヴァントの方ばかりに目が向いていて、マスターの方を疎かにしていたと言う事か』

 

「そう言うことです。加えて言えば、綺礼の報告で倉庫街でバーサーカーは自らが万全でないと宣言していたようですから、魔力不足なのでしょう。此処からは私の推測ですが、間桐の老人は間桐雁夜を用いて次の『聖杯戦争』での実験を行なっているのかもしれません」

 

『実験?』

 

「えぇ、その実験は恐らく『バーサーカークラスのサーヴァントを理性を持ちながら召喚する』と言うものでしょう。これが事実だとすれば、バーサーカークラスのサーヴァントとして召喚された『暴虐の竜人』が理性を持っている事に納得出来ます。その成果は間桐が本格的に参戦しているならば危険極まりない成果ですが、参加者が間桐雁夜ならば脅威とは言い切れないと見て間違いない。勝手に魔力不足で途中退場する可能性の方が高い。そして魔力不足を補う為にバーサーカーに『魂食い』を実行させるのならば」

 

『それをキャスター同様に処罰対象にすると言う訳か・・・ならば、現状では教会側が行なうべきなのは『暴虐の竜人』に関する情報封鎖で構わないかね』

 

「えぇ、その点をお願いします。それと綺礼には戻り次第に間桐陣営への監視の強化を指示して下さい」

 

『了解した。では、その方向で事を進めるとしよう』

 

 そう璃正が宝石通信機を通して告げると共に話は終わり、時臣は椅子から立ち上がって紅茶を入れ出す。

 

「やれやれ、予想外に強力なサーヴァントの出現に慌ててしまうところだった。それは優雅でないな」

 

 危うく自らの家の家訓である『どんな時も余裕を持って優雅たれ』と言う家訓を破ってしまうところだったと、時臣は苦笑しながら紅茶が入ったカップを持ち上げる。

 

「『暴虐の竜人』・・・・我が遠坂の大師父の功績として語られる存在が参加しているか・・・・ならば、遠坂たる私が討ち破るのも一挙かも知れん。『根源』に私が至る為の試練ならば突破するまでだ」

 

 時臣はそう言いながら余裕に満ちた顔色で、暖かい紅茶を飲むのだった。

 

 

 

 

 

 『アインツベルンの森』から少し離れた国道。

 その道を途中で止まっている一台の乗用車が在った。乗っていたのは聖堂教会のスタッフ数名。『アインツベルンの森』の一角で轟音を発しながら発生した炎の竜巻の隠蔽の為に動いた彼らだったが、全員が衝撃にあってその命を奪われた。

 そして襲撃を行なったブラックは『魂食い』の後隠蔽処置を行ない、冬木市が在る方向を苛立たしげに見つめていた。

 

(予想通りに邪魔が入って来た。だが、これでアインツベルン側のマスターの正体が判明し、目的の為に手段を選ばん陣営だと判明した・・・・そしてセイバーも『聖杯』に固執している奴だと言う事も分かった。まぁ、この辺りは奴の逸話どおりだな)

 

 セイバーことアーサー王が『聖杯』を求めている事は、伝承を調べればすぐに分かる。

 キャスターを今夜逃した事はブラックからすれば腹立たしいでは済まない。これ以上キャスターを野放しにしておくのは危険だとブラックの『直感』が嫌と言うほどに警鐘を鳴らしていた。

 

(奴の『宝具』は危険だ。アレは今のところ子供にしか使用していないが、恐らくは大人も現界の材料として使用出来ると見て間違いない・・・そうなれば、冬木市中にあの怪魔どもが溢れ返るぞ)

 

 ブラックが最もキャスターの行動で気にしているのは其処だった。

 キャスターは常識と言う考えが完全に欠落した狂人。今のところは趣味なのか、或いは無垢な子供こそを生贄に捧げる事こそが意味在る行動だと思っているのか子供にしか手を出していない。だが、今夜ブラックに負わされた傷が原因でその考えも失われている可能性が在った。

 

(手負いの獣になった奴の危険性は更に上がった・・・・しかし、俺が元の姿に戻って戦闘出来るだけの魔力は無い・・・・・そろそろ静かに動くのは止めにするか。幸いにも“膨大な魔力”の当ては見つかっているからな。明日の朝にでも動くとす…)

 

(バーサーカーーー!!!!)

 

 突然ブラックの脳裏にマスターである雁夜の悲鳴のような声が響き、ブラックは不機嫌そうに顔を歪めながら答える。

 

(大声を出さなくても聞こえている・・・一体何があった?)

 

(すぐに冬木市に戻ってキャスターのアジトを発見してくれ!!凛ちゃんが!凛ちゃんが!)

 

(凛?)

 

 その名にブラックは聞き覚えが在った。

 今ブラック達の下に身を寄せている少女『間桐桜』の実の姉『遠坂凛』。現在は安全の為に冬木市から離れて母方の実家である禅城に身を寄せている筈。一体何故その少女の名がキャスターと共に出て来るのかと疑問と嫌な予感を抱きながら雁夜の言葉を待つ。

 そして案の定返って来たのはブラックの予感を肯定する言葉だった。

 

(凛ちゃんがキャスターの怪魔に攫われた!!!)


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