O-アウター-ガンダムのコックピット内で、タロは身が竦んでしまっていた。
全天周囲モニターが映し出した外の映像には、3体の巨人が一つ目をこちらに向けていた。
そのうちの一機がこちらに歩み寄ってくる。誘われるように乗りこんでしまったことを後悔し始めていると、目の前のそいつから通信回線が入り、若い男の声がした。
≪では向かいましょう、総帥!≫
「だれ・・・あんた・・・?」
≪・・・・・・誰が乗っている?≫
G・ザックのパイロットは聞き覚えのない声に敵意を剥き出しにすると、右アームに掴んでいたビーム・ホークを振りあげて丸腰のアウターに向かってきた。
『避けなきゃ』
タロは漠然とそう感じ、フットペダルを踏み込んでスラスターを噴かした。機体が後方へスライドし、G・ザックの攻撃は空振りに終わった。
G・ザックの口にも見えるラジエーターからシュウッっと息のように熱が噴き出し、モノアイがじろりとこちらを向く。
≪答えろ・・・誰が乗っているんだぁっ!!≫
その後を追うように、後方の2機のG・ザックもマシンガンを構えながらアウターの元へと迫ってきた。
『囲まれる』
タロがアウターに搭載されているであろう装備を探ると、モニター上の機体の両前腕部が点滅した。
そのまま手順を進めると両前腕部の手の甲側がカバーのように開き、そこからビームの粒子がサーベル状に形成された。カバーの内側にはビームサーベルの柄が収納されていたが、手に握らずにそのままクロスして防御の態勢を取った。
≪答えないのなら貴様ごと焼いてやる!≫
一機がビーム・ホークで斬りかかってくる中、後方の二機がマシンガンを放ちながら左右に分かれた。三方向からの攻撃態勢が出来上がり、アウターは囲まれた。
アウターの装甲であればマシンガンの弾は弾くことができるかもしれない。しかし、ビーム・ホークともなれば防げる保証はない。
下から抉るように来るビームの刃を後方へのステップで避ける、そうこうして躱している間に、両側からの二機もビーム・ホークに持ち替え迫ってきていた。
万事休す、かと思われたとき、またしても通信が入った。先とは違う声が叫ぶ。
≪コックピットをやれ!≫
振り上げてガラ空きになったG・ザックの胴体中央を狙い、右腕を正拳突きの如く突きだした。
ビームの粒子が、コックピットをパイロットごと焼いた。瞬間
『え・・・・・?』
虚無感がタロを撫でていった。
サーベルを引き抜くと、モノアイが事切れるように消灯し、G・ザックの全機能が停止した。
残った二機の内の一機が進撃を止め、引き上げる合図をした。もう一機がそれに従い、共にスラスターを噴かせてアウターが地下から開けた穴へ抜けていった。
タロは追いかけなかった。
港の方で小型艦が入港していた。
≠
コロニーに入港するや否や、ジョブ・ジョンはニロン機とグラン機に通信回線を入れて様子を伺っていた。「被害状況は?」
≪中破しましたが何とか無事です≫
≪同じく≫
「了解、救援を向かわせるから待機していてくれ」
小型艦と言えどそれなりの大きさはある戦艦だ。市街地の中に降り立てるような場所はない。
「クシナ、Z Mk-Ⅱで向かってくれ」
「了解」
艦唯一の女性パイロットであるクシナ・カーデンロイドに救助命令を下すと
「あーあ、最初っからゼータ出しときゃよかったなぁ」
独り言のようにオスカとマーカーに投げかけた。
クシナはノーマルスーツに褐色の肌を通し、黒いおかっぱにメットを被った。細身なのでするりと入るが、少し胸がきつい。
「ZガンダムMk-Ⅱ、クシナ、救助に向かいます!うわあぁぁっ!」
マイクロ・アーガマのカタパルトから勢いよく飛び立ったはいいが、早くも勝手の違う慣性に翻弄されていた。
≠
≪何で追わなかった!≫
≪なんで俺がやらなきゃいけないんだよ!≫
戦場跡地ではタロとグランが外部スピーカーで口げんかを繰り広げており、その声があたりにまで響き渡っていた。
≪てめぇなんかガンダムに乗ってなきゃなぁ≫
「お待たせしました!うわぁ・・・・」
グランがいくらでもぶん殴ってやると言いかけたところでZガンダムMk-Ⅱが到着し、有り様を見たクシナはぼーぜんとした。
「えぇっと・・・御二人を回収しに参りました!こっちは・・・・」両脚を切断されて立つこともできないジム・セークヴァにモニターがズームしていた。
≪ニロンだ≫
「ニロンさんは私が担ぎます、それと…」
クシナは右腕の無いグラン機と対面する白いモビルスーツを見た。
タロはZ Mk-Ⅱの視線が自分に向けられていることに気づき
「・・・えーっと、俺は降りるので誰か持ってっちゃってください」というとディスプレイに外部通信の表示がついた。それに応じると女性の顔があらわれた。
≪あ!降りなくて大丈夫≫
「え?」
≪いやーうち人手不足だから!≫
タロが状況を呑み込めないでいる中で彼女は陽気に笑った。
「そんなこと、もっといるでしょ?」
≪艦長とかオペレーターはパイロット出来ないからねぇ≫
「…こんな簡単なのに」タロは軽く舌打ちした。「そうだ!艦長って人が偉いんだろ?その人が許可しないと」
≪大丈夫だと思うよ?代理だし≫
「あ、そっすか・・・」タロは深くため息をついた。
≪とにかく持ってきてよ!今も人足りてないんだから≫
「わかったよ!持ってくだけですからね!!」
アウターがマイクロ・アーガマのデッキに収容され、渋々従ったタロがコックピットから降りると艦長のジョブ・ジョンが底抜けに明るく出迎えた。
「やぁ!俺がこの艦の臨時艦長をやっているジョブ・ジョンだ。普段は主にメカニックの仕事とかやってんだけど今回は恩師に頼まれてね、あはは!」
彼はあいさつを済ませた傍からしばらくアウターを眺め、子供のように「すごいなこれ!」とはしゃいでいた。
「じゃ、俺は帰ります」さっきまでの緊張感が一気になくなったせいで調子が狂いそうだ。タロは一刻も早くここから離れたかった。
「おっと待ってくれ!君にはいろいろ聞きたいことが」
「俺はこいつをここに届けるために来たんです!もうここにいる意味ないでしょ」
この少年に小細工は通じないとわかり、流石の彼も少し気を引き締めた。それまでの落ち着きのない態度をがらりと変え、ピリッと緊張感を走らせた。
「君がシャアと会って何を話したかを教えてくれるかい?」
まともに大人の相手をするのは何年ぶりだろう、シャアとは違うタイプの“普通の”大人にタロは怖気づいた。決して気圧されているわけではない。包み込むような、それでいて鋭い刃を向けられているような感覚だった。
しかし、タロが言葉を返せないのはそればかりではない。
シャアにニュータイプの魁になってくれと言われた
なんてことを話せばどうなるか?阿保らしいと離してくれるか?それならそれで結構だが十中八九拘束されるのがオチだ。
それに、シャアの話したことよりも、彼から感じ取った物が遥かに大きく重い。それを今のタロ自身にはうまく言葉にはできないし、とにかく話せることではない。
「・・・・・話すことなんて何もありません」
そう答えるタロの姿を見て誰が首を縦に振るだろうか。ところがジョブ・ジョンは「そうか」と残念そうに肩を落とした。
「ところで、よくこれを動かせたね?」沈んだ空気を一掃するかのように話題を変え、彼は親指でクイっとアウターを指した。「大変だったろ?」
「え?別にそんなことは」
途端、ジョブ・ジョンはニヤリと口をゆがめた。タロは墓穴を掘ってしまったことに気付いた。
「やはり君は・・・」その後は言わなかったがタロにはわかった。「まぁ、いきなり会って昔話はしたくはないけどね。ちょっと聞いてくれ」
と前置きしてジョブ・ジョンは続けた。
「僕はかつて、一年戦争の時ね、ホワイトベースという艦にいたんだ。ここのオペレーターのオスカとマーカーと一緒にね。
開戦してから連邦の戦力はあっという間にジオンに削られていった。なにせ連邦は技術力でジオンに劣っていたからね。
このまま負けてしまうんじゃないかと思いながら8ヶ月が過ぎたころ、ぼくらホワイトベース隊は一人の少年に会った。
軍人じゃなくて、本当にただの少年だった。
いや、ただの少年ではなかったな。
その少年はね、当時の最新兵器、ガンダムに乗って自分の手足のように動かして・・・
いきなり敵のザクを撃破したんだ。彼はそのまま僕らの隊に入って、ガンダムで戦況をひっくり返していった。今思い出しても化物だったよ、敵じゃなくてよかったと今でも思う」
タロは何も言い返さずただ聞いていた。
「名前をアムロ・レイっていってね、丁度君くらいの年だったよ。戦況が良くなるにつれて彼の噂は広まっていって、いつからかニュータイプではないかっていわれるようになったんだ。
彼はそれからもガンダムで敵機を墜としていって、気が付けば地球連邦は戦争に勝っていた。
そして、つい最近もそんなことがあったんだ。これは聞いた話だけど、再びニュータイプの少年がガンダムに乗って勝利を導いた。こういう言い方は大人がするべきじゃないんだけど・・・君が偶然にもガンダムに乗っていたということは」
「俺がニュータイプだからって協力はしませんよ」
ジョブ・ジョンの話がひと段落する直前、タロは彼の目を捉えて遮った。
彼の中には撃破した時の感触が残っている、人の死の感触など決して良いモノではない。それを幾度となく繰り返すことになれば、彼はいつか破綻してしまうだろう。
それに、ファナの存在もあった。
「えー、ここまで来たのに来ないのー?」クシナがつまらなそうに言った。
「まぁいいじゃねぇか、やりたくねぇっつってんだからよ。荷物に用はねぇや」
「・・・・あ?」耳を掻きながら言うグランの姿がタロの忌諱に触れた。「あんたさっきからなんだよ?一々突っかかってきてさ」
「うるせぇなぁ、糞ガキは家でしょんべんと鼻水垂らしてりゃいいんだよ」
「耳糞より鼻くそほじった方がいいんじゃないの?おっさん」
「あぁ?てめぇいい加減にしろよ!」
「おぉっと!はいそこまで!」今にも殴り合いが始まりそうな二人の間に艦長自らが止めに入った。「いいかい、とにかく君はニュータイプ!そしてシャアに会った!二つも揃った君が我々にとってどれだけ重要な人間かわかるかい?」
その時、唐突にシャアの言葉が脳裏をよぎった。
『一度、地球へ行ってみるといい』
『君なら重力に魂を引かれている人間を視る事ができるはずだ』
『このコロニーに連邦の舟が来ている・・・・・行け!』
「・・・・わかった、話すよ・・・」
タロはシャアに会ったこと、そこにハマーンの弟がいたこと、
そして、ニュータイプである自分が魁になるためにガンダムを託されたことを話した。
「なるほど、ジオンも一枚岩ではないな・・・」
タロの話から状況は想像以上に深刻であると窺うことが出来た。シャア・アズナブルだけでなく、今ネオ・ジオンを実質的に率いているハマーン・カーンの名前が出てきた。
しかも聞いたことのない弟の存在である。
「ハマーンの父親はかつてアクシズを率いていたマハラジャだったはず…彼に隠し子がいたのか?そういえば地球圏でも不可解なことが起きてるらしいし・・・」
「あの、重力に魂を引かれているって・・・なんだと思います?」
ジョブ・ジョンが真剣な面持ちでぶつぶつと考えに耽っているところにタロが口を開いた。
「は・・・・?なんだって?重力に?」彼が突然言ったことは遠く理解が及ばない表現だった。
「魂です。あの人が…シャアって人が俺に言ったんですよ。地球へ行けば重力に魂を引かれている人間を見ることが出来るはずだって」
「それは~・・・たぶん君にしかわからない事なんじゃないかな」ジョブ・ジョンはタロに、そして自分自身に納得がいくように言葉を選んだ。
「俺にしか・・・」
「そう、こういう言い方は嫌かもしれないけど、それはニュータイプである君に対しての言葉だよ。だから俺たちがわかることじゃないな」
僅かに嘘をついた。自分なりの見当はついているが、それが本来の意味合いとして正しいかは別である。だから僅かな嘘なのだ。
「ま、タロくんが地球へ行きたいってんなら連れてってやるぞ!」
タロの中で、戦争に対する憎悪、シャアに植え付けられた好奇心、そしてファナを守る使命感が渦巻いていた。
「えっと、あの…妹がいるんです。でも連れていくよりかはここにいた方がいいような気もするし・・・・・すこし、時間ください」
タロはクシナに居住スペースの個室へと案内されていった。
≠
その1時間ほど前に、コロニーから『Space Supplies Delivery』と書かれた高速補給艦が飛び立ち、小惑星アリエスへ向かっていた。
中にはシャアとカーン・Jr、彼の部下のウィノナ、G・ザックのパイロット2名、そしてもう一人の男が搭乗していた。
「さて…アウターの奪還に失敗した挙句貴重な兵を一人失ったわけだが」
沸々と業を煮やすカーン・Jr.にシャアは「すまなかった」とだけ言うと「・・・まだまだ私も若いな」と誰に言うわけでもなく呟いた。
「・・・・・それはさておき、今回はよく協力してくれたなジェノバ、感謝する」
カーン・Jrに礼を言われた男が「いえいえ、仕事ですから」と笑うとシャアは既にこの男を知っている様であった。
「私からも礼を言う。それにしても忙しい男だな、君も」
「彼を知っているのか?」
「なぁに、ある人を匿ってもらっただけさ。ところでアリエスまでどのくらいだ?」
「この艦じゃ2週間くらいだ」
「そうか」
それまでしばしの休息――――――――――
≠
ジョブ・ジョンはこの一件を恩師のブライトに伝えるか迷っていた。タロが嘘偽りなく言っていたとしてもシャアがいたという確証がない。
「どうしますか?」
オスカが様子を窺うと、深く鼻から息を吐き
「嘘は言っていないだろうしなぁ…ただ、彼が会ったというシャアが本物の確証もないし・・・どちらにしてもうかつに報告はできないなぁ」
『重力に魂を引かれる』なんて表現をすればほぼ間違いはないのだが、再びジオンの反乱がおきている中に新たな火種を放り込んで混乱させるのは得策ではない。
「それよりも気になるのはハマーン・カーンの弟だ。姉はいたらしいが弟は聞いたことがない
まったく気味の悪い話だなぁ」
「・・・もしかしたら“姿なき海賊団”の可能性もありますね」
「まさか!ただの噂だろ?」
ジョブ・ジョンは笑い飛ばしたが、内心はそうではなかった。ここ最近、連邦、アクシズに関係なく機体が自爆するなどの小さな事故が多発していた。それをまるで誰かの仕業のように皮肉ったのがその“姿なき海賊団”であった。
「・・・それこそいるかどうかすら怪しいやつじゃないか」
その時、タロが個室を抜け出しメインブリッジへ入ってきた。「あの・・・」
「おっ、決めたかい?」
「はい、俺を家に送ってください」
「・・・よしわかった。クシナ、送ってってやれ」
彼の決意を固めた青い瞳に従うしかない。無理に引き留める道理はこちらにはないのだから。
「よかったんですか?」とオスカが聞くと
「ま、仕方ないさ!」
ジョブ・ジョンの声はいつもの軽さに戻っていた。
≠
タロとファナの暮す部屋のある建物の前にZガンダムMk-Ⅱが着地し、砂塵を巻き上げた。ジム・セークヴァが中破していたので無傷のZ Mk-Ⅱがその役を担ったのだ。
「…じゃあね」
「あの・・・クシナさんも来てくれませんか?」
Z Mk-Ⅱの手のひらに乗せられると、タロは言った。
「えっ?」
「お願いします」
≠
ドアをたたく音がした。
勢いよく開けると兄、タロ・アサティの姿があった。その奥に、女性がいた。
「あの・・・」
彼女の事を尋ねようとした時、タロに強く抱きしめられた。「ごめん」
「えっ?!なに?」
「しばらく家を出ることにした」
「・・・・え?」
ファナの中にタロの思いが広がってゆく。それは、とても残酷な選択だった。
「今までゴメンな・・・兄ちゃん、ファナがもっといい暮らしができるようにするからさ、それまで待っていてくれ」
タロは一層強く抱きしめた。ファナは体と心が圧迫される中、何とか振り絞って「バカ」とだけ答えた。
そして、タロの腕が離れ
「行ってきます」という言葉と共にドアが閉まった。
≠
マイクロ・アーガマに戻るとジョブ・ジョンが歓喜の色を浮かべ迎え出たが、タロの表情で、それは消えた。
タロは再び居住スペースの個室に入り、ひとり泣いた。
マイクロ・アーガマは一先ずの任務を終え出港の手筈を整えていた、といってもほんの数時間の滞在かつ補給も出来ないのでこれといった手筈もないのだが。
「何か映らないか?」
ジョブ・ジョンはマイクロ・アーガマのレーダーをフルで機能させ、コロニー内をできる限り見張っていたが
「ダメですね・・・ミノフスキー粒子の濃度が高すぎます」
と、マーカーが応じた。
ミノフスキー粒子とは
宇宙世紀にミノフスキー博士によって発見された粒子であり、レーダーのかく乱や重力下での戦艦浮遊、さらにはビーム兵器としても活用出来るとても便利な代物である。
「ったく、こんなコロニーでもミノフスキー粒子はいっちょまえなんだから」
「それにしてもこの濃度は異常です。ここで戦闘があるとも思えません。隅々まで調べる必要がありますよ」オスカだ。
「出来ればそうしたいが…この状態じゃなぁ・・・」
二機のジム・セークヴァが中破した今、動かせるのはZ Mk-Ⅱとアウター・ガンダムだけだ。
もしコロニー内にジオンの勢力が集結していたら、いくらガンダム二機でも苦しいだろう。
「ニュータイプの扱いも難しいだろうし一旦引き上げよう、タロ君を呼んできてくれ」
「わかりました!」
クシナがタロを呼びに行った。
ノックをするも返事が一向に返ってこない。ためしに扉に手をかけるとロックはされておらず、ドアは開いていた。
「入りまーすよー・・・」
中は、ベッドの上でタロがうずくまっていた。こちらに反応する素振りすらない。基本的に誰とも仲良くなるクシナだが、彼に対してはそれが通じなさそうだ。
「あのー、艦長が呼んでます、そろそろ出港するからって」
「・・・・・・・・・」
「あのぉ!」
「大丈夫です、聞こえてます」
「俺の判断は…良かったんでしょうか・・・」
しばしの沈黙の後に、ぽつりと言った。
「え?え~っと・・・」
先ほど目の前で寸劇を見せられたクシナは何といえばいいかわからず、そのままぽろっと「よくわからないなぁ」と言った。
「そうですか・・・」
「えっ、えーっと!」声が裏返ってしまった。若干面倒くささを感じながら『何かいい言葉』をさがす。
「あ、そうだ」
クシナはポケットから音楽プレーヤーを取り出し、スピーカーをONにして一つの曲を流した。
「“Stay with you 星のように”っていう曲、いつも聴いてるんだ」
タロがクシナに連れられメインブリッジへ姿を現すと、ジョブ・ジョンは振り返った。
「準備は良いかい?」
「・・・・はい!!」
「よし、スラスター全開!!クシナとタロ君、ガンダムでコロニーのハッチを開けてくれ!」
タロは誰かに呼ばれたように外の景色をしばらく見て、自らの意志でアウターへ向かった。
正常に作動しない太陽光反射鏡が、コロニーの中に時間はずれの金色の斜陽をつくりだしていた。
Z Mk-Ⅱとアウターがマイクロ・アーガマから発進し、コロニー内部のハッチを開けた。
慎重に内側のハッチを通過すると、景色が人の住む空間から無機質な機械に変わってゆく。
太陽の暖かい光が影を潜め、温度の無い無表情な空間へ。
マイクロ・アーガマが無事通過し、内部ハッチを閉める。続いてZ Mk-Ⅱが外部接続ハッチを開く。
ゆっくりと宙域に出るマイクロ・アーガマの後を追いかけるように、アウターは無重力の海へ
コックピット内の全天周囲モニターが透明な黒に染まっていき、タロは悠久の時の中に溶けてしまいそうな感覚に包まれた。
「そっか・・・俺、この中にいたんだ」
長い刻を過ごした空間を外から見れば『こんなものか』という思いもこみ上げてくる。
「行ってきます・・・!」
マイクロ・アーガマへ着艦しようとスラスターを噴かした時
『ピピピピピッ』「!?」
コックピット内のアラートが鳴り、警告灯が点滅し
五つの機影が迫っていることを知らせた。
キャラクターの修正などをいたしました。