鍍金の英雄王が逝く   作:匿名既望

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作業を優先するべく、感想への返答を中断しております。ご了承ください。

あと、ちょこちょこ書き直していますが、もともと『Fate/Apocrypha』を呼んでる最中に勢いで書きなぐった作品なので、間違っていたりミスってたりする部分が多々あります。が、そこは魔法の言葉、原作崩壊御都合主義独自設定ということでご容赦を。

よって、本作の時系列が1995~1996年頃ではなく、1992年なのもスルー推奨w ぶっちゃけ、1995年にするとPHSが世に出てくるので、それはちょっとなー、と思ったがゆえの変更だったりします。あしからず。


第03話 我のメディアがこんなに可愛いのは当然だ

>>SIDE ギルガメッシュ(偽)

 

 日付が変わる頃にキャスターを召喚した俺は、とりあえず応接間らしき隣室に彼女と共に向かい、埃よけのシーツを剥ぎ取ったソファーの上座に俺、俺から向かって右側にキャスターが腰掛ける形で、事の次第を包み隠さずうち明けるところから始めることにした。

 

 喉の乾きは【豊穣の神乳(アルル)】で対処する。

 

 もちろん、キャスターにも差し出した。かなり驚かれたが、一番最初に俺が“英雄王ギルガメッシュの身体に憑依した別世界の凡人”だと説明しておいたせいか、【豊穣の神乳】について根ほり葉ほり聞いてくることは無かった……聞きたそうな空気は醸し出していたが。

 

「……というわけだ」

 

 長々とした話を終え、俺は再び杯を傾けた。

 

「ふぅ……もっとも、よくもまあメディアを呼び出せたもんだと呆れている部分もあるにはあるんだが」

 

 ここにひとつの謎がある。

 

 ものは試しと英霊召喚の儀式を行ってみたが──常識的に考えると、これが成功する可能性は限りなくゼロに近かったはずだ。なにしろ聖杯戦争はマスターである七人の“魔術師”と七騎のサーヴァントが戦う決闘儀式だ。ゆえに魔術師ではない俺が、マスターとしてサーヴァントを呼び出せるというのは本来ありえない出来事でもある。

 

 実際、『Fate/stay night』でアサシンを召喚したキャスターは、それが裏技的なものだと作中で言及している。また、彼女は“魔術師”のサーヴァントだ。だからこそ、まだ辛うじてマスターとしての資格は満たしていると言えなくもない……

 

 ではなぜ俺は成功したのか?

 

「……三つ、指摘できることがあるわ」

 

 彼女は額を手で押さえながらこう告げてきた。

 

「まず、今のあなたがサーヴァントでありながらサーヴァントではないという可能性。英霊の人格だけが別のものになるなんて……それも、観測次元の凡人が? ありえないわ。もう、魔法とか奇跡とか、そういう段階すら跳び越えてる。だから、あなたが関る事柄は“ありえない”が“ありえる”、それこそ“なんでもありえる”と考えるほうが妥当よ」

 

 続けて彼女は周囲を見回した。

 

「第二に、この環境。【偉大なる神々の家(バビロン)】、ね。まさか、神殿を即興で構築できる宝具があるなんて……これだけの環境を用意できるなら、どんな儀式魔法だってそうそう失敗しないわ。そして──」

 

 最後に彼女は顔をしかめながら、俺の右手に視線を向けてきた。

 

「根本的な問題になるけど、あなたの言うように、聖杯戦争の基盤そのものが歪んでるとすれば、あなたと関わり合いの無い段階からして、すでに“ありえない”が“ありえる”ようになっている可能性が高いわ。だからこそ、聖杯伝承から遠く離れた地域の儀式召喚であるくせに、呼び出せる英霊の格がとんでもなく高いものになっている。そう考えられるのよ」

「英霊の格が高い、というのは?」

「今回だけでも騎士王、英雄王、征服王が召喚されている。次の第五次でもヘラクレス様──こほん、ヘラクレスという大英雄を始め、騎士王に光の御子、さらには本来神霊であるはずの女妖や未来の英霊まで召喚される。調べてみない限り、なんとも言えないところだけど、おそらく過去の聖杯戦争ではそこまでの英霊、召喚されていないはずよ」

 

 ふむ。原作知識だけではどうこうできない部分だな。

 いや、前提が違う。

 すでに原作知識は使えない。俺が遠坂陣営から離れている上に、キャスターはジル・ド・レェではなくメディアになっている。原作知識そのものが、ありえた可能性のひとつにすぎないと割り切るべき段階なのだ。

 

「あっ、ところで……」

 

 俺は今さらながらの話題を切り出してみた。

 

「どう呼べばいい?」

「えっ?」

「キャスター? メディア? メーデイア? メデイア?」

 

 『Fate』シリーズでの名前はメディアだが、神話上の名前としては小さい“ィ”ではなく大きな“イ”を使うメーデイアもしくはメデイアというのが一般的だ。

 

「俺のことは……あー、前世の名前は思い出せないから、ギルでいい」

「……真名が推測されるわ。それでもいいの?」

「ああ。そっちで隠すべきだと思った時にはマスターと呼んでもらってもかまわない」

「そうさせてもらうわ、マスター」

「で、そっちはどう呼べばいい?」

「キャスター。例え露呈して不利にならないとしても、真名は秘すべきよ。未知はそれだけで脅威になりえるもの」

「確かに。じゃあ、キャスター。次はこれを見てくれ」

 

 俺は【王の財宝】から、とある財宝を引き出した。

 

「……それは?」

「名は無いが、物語を映しだす影絵灯だ」

 

 見た目はただの照明。蝋燭の明かりを磨き上げた銅板の内壁で前方にのみ放つという懐中電灯の一種のようなもの。古代エジプトにも存在し、紀元前二百年頃にも宗教儀式の一種として存在していた影絵のための道具なのだが、限りなく宝具に近いこの影絵灯は、使用者が知る物語をフルカラー大音量で再現してくれる一種のプロジェクターのような機能を備えている。

 

「まずは俺が前世で見た『Fate/Zero』だ。朝になったら、今後もあるから服と生活用品を買いに出る。あー、その時は認識阻害の魔術をかけてくれ。俺の服、この甲冑しかないんだ。キャスターも普通の服、買い込んでくれ」

「……それは、命令かしら」

「ああ。命令ってことにしとく。俺の目標は“生き残ること”だが、その先にあるのは、俺にとっての“普通の生活”を満喫することなんでね。まっ、とりあえず『Fate/Zero』のアニメだ。ツッコミどころはいろいろあるだろうが、まずは第一期だけ見てくれ」

 

 斯くして始まったアニメ鑑賞会。

 

 いやぁ、ホントに英雄王はチートだよ。まさか自分でも細部を思い出せない『Fate/Zero』を、本物そのままにまたこうして再び視聴できるなんて……とりあえず、この世界には登場しない第四次キャスターの美声(?)を堪能させてもらうとするか。

 

>>SIDE END

 

 

 

 

>>SIDE キャスター

 

 厄介なことになった──と、最初は思った。

 

 聖杯戦争。私が万能の願望器に強く求めたのは……いや、それはどうでもいい。大事なことは、この私にも望むものがあった、という点だけだ。ただ、いざ召喚されてみると、マスターがサーヴァントだったのだから予想外にもほどがある。

 

 アーチャー。正体は古代バビロニアの半神半人の大冒険家でもある英雄王ギルガメッシュその人だった。と思ったら、人格は観測次元の凡人だという。なんでも輪廻転生の仕組みがある世界において、その仕組みが刷新のタイミングを迎えた最中に死んでしまい、観測先の次元に転生を強制されたのだとか。

 

 呆れた話だ。正直、今でも信じられない。

 

 それでも実際、神々しくも包容力のある神と王の気配を放ちながらも、その言動は気さくそのものであり、むしろ気疲れした苦労人の雰囲気を漂わせているのだから嘘を言われているようにも思えない。

 

 おまけに彼は、すごく俗っぽい。

 

「インターネットってものがあったんだよ。まぁ、ここはまだ一九九二年だから、いずれ出てくるってところなんだが……」

 

 購入したばかりの現代服──ミドルカットのトレッキングシューズにジーンズとトレーナー、黒いレザージャケットというもの──を身につけた彼は、ごそっと買い込んだ雑誌をパラパラとめくりながら溜息をついていた。

 

 小さなテーブルを挟んで座る私も現代服──店員の薦めで身につけた下着類に締め付けが心地よい黒のストッキング、蔓草をあしらったデザインが気に入ったロングブーツに質の良いロングワンピース、羽織るものはウール混のコクーンシルエットコート──で、始めて飲む“しぇいく”という飲み物を味わいながら、いろいろなことを考えていた。

 

 この時代は、とても豊かだ。

 

 私の故国コルキスは、“最果て”扱いを受けるほどの辺境でありながらも、神々の恵みを受けられたおかげで、それなりに豊かな国だった。だが、故国とは比べ物にならないくらい、この時代の日本という国は豊かで、平和で、物に溢れている。

 

 正直、順応するのは無理だと思う部分も大きい。

 

 およそ英霊であれば、誰もがそう思うだろう。いかに傑出した存在でも、英霊は古代の存在なのだ。物質的な繁栄を遂げている現代に適応できるのは、一部の枠に囚われない英霊に限られると思う。

 

 そうした意味でも、完全に現代と適応できている彼は、本当の意味で英霊ではないと言えるのかもしれない。

 

 観測次元からの転生者。

 

 理屈上、そうした存在が“ありえない”とは言えない。そもそも私たち英霊は神話伝承と化した“物語”の存在でもある。私にとっての私の生い立ちは間違いなく真実であると断言できるが、それがこの世界そのものにとっての事実である保障はどこにもない。

 

 元より神秘とは、事実すらも揺らがせる理屈を超えた不条理そのもの。現在から見て未来が不確定なように、現在から見た過去もまた不確定。つまり、彼が知る原作というものも、私にとってみれば“現代に残るギリシア神話文献”と同程度の意味合いしかない。だからこそ、彼の言うこともそれなりに理解できるのだが……

 

「ん~っ」

 

 またもや彼は唸りだした。

 

「今度はなに?」

「ケータイが無い。スマフォが無いのは覚悟してたが……PHSすら無いのか。店頭にポケベルしかなかったから、まさかとは思ってたんだが……」

 

 彼の顔には苦渋の想いが色濃く出ている。

 かと思うと、何か思いついたようにハッとした。

 そして無邪気な子供のように笑みを浮かべ始める。

 

 ……この半日程度で実感したが、彼はもともと寡黙な性分のようだ。尋ねれば答えてくれるが、尋ねなければ何も語ろうとしない。

 

 個人的には、好ましいと思える性分だ。少なくとも、その点だけで言えば、彼がマスターであったことは幸運だったのかもしれない。

 

「今度は?」

「んっ? あー、大したことじゃない。受肉したあとのことだ。これからIT業界でいろいろ起こることがわかりきってるからな。そこにつけこんで、企業でも興せば大儲けできるんじゃないかって……あー、ダメだ。却下。目立ちすぎる。ん~っ……」

 

 再び彼は考え込みながら新たな雑誌に手を伸ばした。

 

 ここは新都の駅前繁華街にあるファストフード店。認識阻害の魔術を展開しているため、私たちの存在も、会話も、他の者たちには気付かれていない。おまけに彼は、【王の財宝】から取り出した抑制の神秘が込められている宝石をあしらった首飾りにより、ステータスもスキルも大幅に下げている。おかげで【黄金律】や【カリスマ】もEランク以下にまで抑えられている状況だ。

 

 ……今の彼なら、私でも殺すことができる。

 

 それほどまで自分を弱体化しておきながらも、彼は私の叛逆などつゆほども考えていない。彼がマスターで、私がサーヴァントだからではない。彼は本当に、私に全幅の信頼をおいてくれているのだ。

 

「……傷、ね」

「んっ?」

「食べないのねって言ったの」

「あー、食べる」

 

 彼はフライドポテトに手を伸ばしたが、すぐに雑誌の確認作業に没頭してしまった。

 無性に、微笑ましくなった。

 一度でも身内と見なした相手を無条件で信じてしまう──おそらく前世の彼がそうだったのだろう。だからこそ、これは彼にとって、最大の“傷”となっている。

 

 自らマスターを見捨てたサーヴァントでありながら、私が彼を裏切るとは欠片も考えていない。矛盾も良いところだ。だが、そんなところを微笑ましく思えてしまう自分がいる。

 

「マスター、読書なら家でもできるわ。そろそろ帰りましょ」

「んっ? そっちはもういいのか?」

「ええ。もう食べ終えているわ」

「じゃ、帰るか」

「ええ」

 

 買った物はすべて彼が【王の財宝】の中に入れている。今まで彼が読んでいた雑誌も、同様に【王の財宝】の中に収納されていった。便利な宝具だと、改めて関心させられる。

 

「そうだ。帰りにコンビニ、寄るからな」

「……まだ何か買うの?」

「弁当。食わなくていいとは言っても、やっぱり何か食べたいだろ。習慣的な意味で」

 

 やはり彼は俗っぽい。

 

 でも、それを好ましく思えてしまう自分がいる。

 

 どうしよう。

 

──メディア。よく来てくれた。俺にはおまえが必要だ。手を貸してくれ。

 

 召喚直後の言葉が脳裏をよぎる。

 身体が熱くなる。

 鼓動が高鳴る。

 まさか……これって……………………

 

 いえ。私はキャスター。聖杯戦争に勝利するべく呼び出された七座の一騎。私の為すべきことはただひとつ。勝利を収める。そのために尽くす。そう、マスターに尽くせばいい。それが今の私に与えられている役目だ。だから今は、それ以上のことを考えなくてもいい。それ以上のことは……終わったあとに………………

 

>>SIDE END




次回予告
 メディアさんのヒロイン化がとまらない昨今、出番を奪われた青髭に救済の機会は訪れるのか(答:訪れない)。一方、青髭を呼ぶはずだった雨生龍之介が冬木市に姿を現す。はたして彼はこの先生キノコれるのか!?

次回 鍍金の英雄王が逝く 第四話「龍之介 死す」

 原作第三巻の神に関するくだりは今でもたまに読み直すほど大好きなのだが、君たちに罪はなくとも、キャスター組であることが罪なのだよ……

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というわけで、宝具ネタが少ないのでサーヴァントデータも少々。

【無銘の影絵灯】
ランク :─
種別  :魔術具
レンジ :─
最大捕捉:─
 思い描いた情景を壁に映し出す魔術版プロジェクター。紀元前二百年頃の古代エジプトに宗教儀式の一種として用いられていた影絵のための道具が財宝と化したもの。最初は民間伝承の“望んだものを見せる鏡”の原典にしようと考えていたが、どう捻っても魔術版プロジェクターにならないので幻灯機っぽいものにしてお茶を濁しただけとも言える。でも、原作の宝具も無理やりなものがいろいろあるので、あまり深く考えてはいけない。なお、音も出る。最初はギルが音源全部我様で上映する、というネタを思いついたが、あまりにもネタすぎるので却下したのは秘密。

【抑制の装身具】
ランク :─
種別  :魔術具
レンジ :─
最大捕捉:─
 ステータスやスキルを一時的に低下させる装身具。【自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)】の原典として、これの名前をつけようとギルガメッシュ叙事詩やバビロニア神話の本を読んでいるだけで執筆が長く止まったといういわくつきの品。よって、深いことは考えないことに決定。そういう宝もある。ということでOK? ……OK!(ズドン

■ステータス
【騎座】アーチャー/ゲイリー=ストゥ
【主師】なし
【真名】ギルガメッシュ
【性別】男性
【体躯】182cm・体重68kg
【属性】中立・中庸
【能力】筋力B 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運A 宝具EX
【クラス別スキル】
・対魔力 :C
・単独行動:A+
・特異点 :EX
【固有スキル】
・黄金律 :B
・カリスマ:A
・神性  :A
【付与スキル】
・勇猛  :B ※【大獅子の外套】
【補足】
 圧倒的神性を備える半神半人にして(概念としての)世界の全てを治めた英雄王ギルガメッシュと観測次元から憑依転生してきた凡人がかけ合わさった男版メアリー・スゥ。そのため属性が混沌寄りの中立、善よりの中庸に変わり、固有スキルが軒並み1段階ずつダウン、必ず“世界の騒動に巻き込まれる”という【特異点】という呪いまで備えている。性格は“石橋は叩くけどやると決めたら走って渡る”というタイプ。つまり、よくあるチート転生オリ主そのもの。ノリで我様主義もやるが、自分の【カリスマ】にひきづられて普通に王様していることも多いw
【宝具】
【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】
ランク:E~EX
種別:対人宝具
レンジ:―
最大捕捉:―
 黄金の都に繋がる鍵の神秘。空間を繋げ、宝物庫の中にある道具を自由に取り出せる。正確には王律鍵バヴ=イルによって個人的な宝物庫と“黄金の都”こと“(型月世界の古代バビロニア基準で)此の世全ての財”という概念にアクセスできる宝具。なお、顕現させた宝具も自在に回収できる(どれだけ離れていても思念一発で回収可)。形状は鍵剣だが、いちいち具現化しなくとも使用可能。……と、『Fate/EXTRA CCC』を知らない頃に妄想した設定をここにも残しておく。さもないと収拾がつきそうにないので。なんだよ、あの公式設定。まさか二次創作以上のチートって、どうすりゃいいんだよ(泣
【天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)】
ランク:EX
種別:対界宝具
レンジ:1~?
最大捕捉:1000人
 みんな大好き乖離剣のエアたん。原作設定上は宝具だが、どう考えても神霊の一種に近い別存在。生前のギルガメッシュが所持していたら、間違いなくイシュタルに向けてぶっぱなしていたはずなので、知らないうちに【王の財宝】の中で眠っていた可能性が微レ存。ちなみに『Fate/EXTRA CCC』での「固定ダメージ99999+即死」というエターナル・フォース・エヌマ・エリシュもまた、我様の何でもアリぶりを象徴するものだと思う。……あっ、本作では登場しません。そもそもまともに戦うこともないし(ぉぃ

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