「ロキって……あの悪戯好きの?」
「そうそう、でも実は悪戯より美女と美少女が好きなんや……って、何でウチのこと知っとるん?」
驚きのあまり、考えが口に出てしまった。
ロキ、神話などに詳しくない自分でも知っているほど有名な神だ。
北欧神話における悪戯好きの神、それがロキである。
それはともかく、問いに問いを返された形だがその質問は当然だろう。
異世界の人間が自分のことを知っていたら、疑問を持つのは当たり前だ。
「いや、知っているというか、俺の世界の神話にロキって悪戯好きの神がいるんです。だからまさかその名前が出てくるとは思わなくて」
「確か君の世界では神は架空の存在……という話だったな。架空の存在が目の前にいる、と考えれば混乱するのも無理はないか」
「なるほど、そういうことがあるもんなんやなー。異世界の人間にも知られてると思うと変な気分や」
「そもそも神なのだからそうであっても不思議ではない、というより下界に降り立つことのほうがおかしいのだろうな。数多の神々が降り立つオラリオにいると忘れてしまいそうになるが、常識を遥かに超越した存在が神だ。世界が変わったところで神としての存在が揺らぎはしない、と考えれば納得できる」
数多の神々、と言うと他にもゼウスであったりと他の神々も存在するのかもしれない。
ロキが目の前にいるのだからそうであってもおかしくはないのだろうが、なんとも不思議な気分だ。
ただ疑問があるとすれば、目の前のロキからは神と言われても信じられないくらい普通の女性としか感じられないことである。
「あ、神なのに大したことなさそう、とか思ったやろ! そりゃ
「……もしかして、心が読めたり」
「今のは単純に表情から読んだだけや。嘘をついてるかついてないかくらいはわかるけど、流石にそこまではできんなー」
そんなに顔に出ていただろうか。
表情から考えを読む洞察力もすごいが、嘘を判別できるというのはやはりすごい。
下界に降りたことで神の力を完全に発揮できているというわけではなさそうだが、それでもやはり神ということなのだろう。
「さて、ここからは代わって私が説明しよう、ロキに任せると時間がかかりそうだからな。……さて、まず最初に説明しないといけないのは、ダンジョンとモンスターの存在についてだろう。ここ、迷宮都市オラリオはダンジョンというものが存在する。そしてこれがファミリアという存在にも関わってくるのだが、ダンジョンは凶悪なモンスターの坩堝でな、放置しておけば地上は無秩序にモンスターで溢れてしまう」
「ということは、ファミリアという組織の目的はそのモンスターを討伐し脅威を退けること?」
「ダンジョンに一切潜らないというファミリアもあるから一概にそうだとは言えないが、概ねその通り。……と言いたいところだが、それはほとんど建前のようなものだ。あらゆるモンスターが持つ魔石というものがある。これはモンスターの生命の核であり、討伐することで入手することができ、加工すれば資源として扱えるんだ。そういうわけでこの魔石は換金することができて、ダンジョンに潜る者達、冒険者と呼ばれる存在の主な収入源になっている」
「なるほど、お金目的でモンスターを討伐していけば、自ずとモンスターの脅威を退けることができる……」
「とは言え冒険者にも色々な目的がある。最も多いのは一攫千金を狙うもの達だろうが、名声を求めるもの、ただひたすらに強さを求めるもの、果てには――英雄を志す者」
英雄。
それは為した功績が伝説として語り継がれるほどの偉大な存在。
時に数多の人々を救い、時に凶悪な存在を討ち滅ぼし、時には世界を救う。
それは目指してなれるようなほど、甘い存在ではない。
だが、この世界には英雄を志すものがいるという。
この世界には、英雄を志すに足る、何かがあるというのだろうか。
英雄、その言葉に衝撃を受けた士郎の内心を知ってか知らずか、リヴェリアは話を続ける。
「それを現実にしてしまうのが
それは確かに文字通り、神の恩恵。
生身では考えられないほど、遥か高みに至るための権利、可能性。
ぞわりと、全身が粟立つ。
もし、その神の恩恵を得ることができれば――
「神の恩恵は主神によって眷属に与えられる。例えば君がロキ・ファミリアに入るのであれば、ロキから授けられる、というようにね。とは言っても神によって授けられる恩恵は全て等しく、そこに差はない。言ってしまえば恩恵が欲しいだけならどこのファミリアも変わらないんだ」
そしてリヴェリアは三本指を立てた。
「君が私達のファミリアに入るメリットは三つある。一つはロキ・ファミリアはオラリオの中でも最大規模の探索系ファミリアであるということ。冒険者を志すというのならこのファミリアは他の追随を許さないほど優れた環境だといえるだろう。二つめは君を厄介事から守れるかもしれない、ということ。君は
「と、全部リヴェリアが説明してくれたけど、できればエミヤにはウチらのファミリアに入って欲しいと考えとる。と言うのもこのオラリオには目を付けられると厄介な神がおるんや、しかもそれなりの数な。一部怪しいのがおるけど、それでもロキ・ファミリアってネームバリューはその大半の神を近寄らせないだけのもんや。ウチに入ってくれればいいけど、そうじゃなければ必ず厄介な騒ぎが起きる、しかも結構な規模で、や。ウチはそれを望まない」
悪い話ではない、どころかメリットしかない話だと言える。
怪我はしていなかったというが、それでも命の恩人と言っていい人達からここまで言ってもらえているのだ。
これ以上世話になるのは心苦しくあるが、それ以上にこの勧誘を蹴るとい選択肢はない。
「……願っても無い話です。こちらこそ、よろしくお願いします」
頭を下げ、感謝の意を述べる。
「……いやー、良かったわーそう言ってくれて。下手に遠慮されても困る場面やったしなー」
「君のその選択を私は嬉しく思う、これで君も今から私達の家族というわけだ。というわけで、家族なのだから当然私たちに敬語を使う必要はない。私のことはリヴェリア、ロキのことはロキと、気軽に呼んでくれて構わないよ」
「そう……か。わかった、よろしく、リヴェリア、ロキ。俺は衛宮士郎、衛宮が姓で士郎が名前だから、士郎でいい」
「なんや、シロウが名前だったんか。よろしゅうなーシロウ。それじゃサクッと契約してしまうで、上着脱いでくれるか? あ、別にいかがわしい意味とかはないで、背中にエンブレムを刻むためってだけや」
女性の前で上着を脱ぐことに抵抗がないわけではないが、そうまで言われて抵抗するのも申し訳ない。
羞恥心をなるべく意識しないようにしながら、上着を脱ぎ横になる。
「なんや、つまらんなー。まぁ女の子ならともかく男に変に抵抗されても面倒なだけやな」
ロキはサクッと、と宣言したとおりテキパキと契約を済ませる。
ステイタスに特におかしい点はない、オールI0の基本アビリティとまっさらなスキル欄、誰もが同じの共通のスタートラインだ。
「ほい、これで契約はお終いや。明日は皆に紹介するから今日はもうゆっくり休みやー。あ、部屋はこれからもここ使ってもらうでー」
「では私も戻ろう、他のものはともかくフィンには話を通しておく必要がある。明日時間になれば私が起こしに来るから、思う存分休むと良い」
そう言って二人は部屋から出て行った。
「……ふぅ」
ゆっくりと、そして長く息を吐く。
正直心の整理が付いているかと聞かれれば、そんなことはない。
死の記憶すら消化しきっていないうちに、これだ。
自分の知らない世界にいて、自分の知っている神がいて、話をして、そして家族になった。
きっと自分はこれからこの世界で終わったはずの人生の歩みを再開することになるのだろう。
目を閉じて、日本で生きた衛宮士郎という存在に別れを告げる。
過去の衛宮士郎は死に、今の衛宮士郎が生きている。
ならばこれからの人生はオラリオという迷宮都市で生きる衛宮士郎のものだ。
死の直前まで諦めきれない願い、想いがあった。
一度死に、失ってしまったその想いを再び手につかむことはできるだろうか。
いや、何としてでも掴んでみせよう、あの誓いをなかったことにするのは衛宮士郎という存在には許されない。
だから。
「なれる、かな。この世界なら――」
――――正義の味方に。
リメイクについて
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(ソードオラトリアを読んでから)書け
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(オリ設定のゴリ押しで)書け
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(いっそ全く関係ない新作を)書け
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書かなくていい