高二病抜け切らなかった人が中途半端な力で   作:mahiro

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 オリ主生まれる環境について要望したもの

 時・場所について
海鳴市で、主人公ズと同年代

 家庭について
借金をしていない、貧乏ではない家庭
仲がよく、両親とも良い人(例えば、多少の違和感は受け入れられる程度の人格者)の所に
美人・スタイル抜群ではない母親の所に
子供を産めなかったはずの家に

 自分について
前世の記憶を残すように
成長に連れて自分の意識が目覚めていくように、大体3歳ぐらいで完璧に
精神面は仕方ないとして、身体能力は年相応であるように
演技力up
DQN・痛いネームではないように
日本人男性で、容姿は並、少なくとも人に不快感をあたえるレベルのものではないように
魔法の才能・魔力量は、主人公達レベルまでは届かないが、そこそこのものを
デバイスは、ユーノがレイジングハートと一緒に持ってくるように


第1話 「正しい3歳児の日常、もしくはオリ主の限界」

 第1話 「正しい3歳児の日常、もしくはオリ主の限界」

 

 

 

 転生した先の家は、綺麗な海がよく見える場所だった。

 

 どうやら希望通りの環境に産まれたようだ。これからの人生がとても楽しみだ――――とは行かなかった。

 

 

 ――いや、ちゃんと希望は叶えられてはいるよ? 神様はミスも嫌がらせもなくやってくれた。

 

 海鳴市に生まれたのは確認できた。

 新聞の日付を見る限り、そんなに過去にも未来にも思えない。 

 何故か遥か昔か近未来時に産まれて、なんやかんやで凄い人になったり、なんやかんやで不老になるかタイムスリップして再び海鳴市に、なんてこともない。

 

 家庭環境も特別変なことはない。

 なぜか大豪邸だったなんてこともない。

 両親がこれでもかと言うぐらいベタベタのラブラブな上、子供に対して異常に過保護ってわけでもない。

 愚息は反応しなかろうと視線は変わらないだろうから、育ててくれる母親をエロい目で見たくなかったので、美人・特別スタイルが良いわけではないという条件にしたけど、どこにでもいそうな女の人で目をそむけたくるほどのブサイクでもない。

 

 『子供が産めなかったはずの家に』っていうのは、叶えられたのか判断できないけど……

 自分としては『俺はこの世界の両親の人生だけでなく、本来産まれてくるはずの命や人生を……』なんて、ウジウジ悩みたくなかったのである。

 ――自分がクズい考え方をしている自覚はあるけど、そこまでやってられん。

 

 自分自身についても問題はない。

 何故か前世の記憶に妙な欠陥があるわけでもない。

 意識がなんとなく覚醒し始めたのは1歳半ら辺だから、強制搾乳プレイも記憶にはない。

 3歳児にして、長文を問題なくすらすらと発言して気味悪がられたなんてこともない。

 所々演技にボロは出ているが、今のところ捨てられずに済んでいる。逆に行動一つ一つに感動される程の演技力がついてるわけでもない。

 名前に『牙』『刹那』と言った、アレな単語がついてる訳でもなく、『田中貴裕』というごく普通の名前をもらった。

 TSしてたり、男の娘だったり、ブサイクだったり、逆に超絶イケメン銀髪だったなんてこともない。

 

 

 じゃあ何が問題なのかと言うと――

 

 

 

「はーい、貴裕くーん。今日は雨が降っててお外で遊べないから、お母さんと絵本読みましょうねー?」

「ワーイ、エホンダイスキー!」

 

 ニコニコと擬音でもつきそうな笑顔をした母親と、若干やけくそ気味に両手を上げる3歳児()――

 

 

 

 ――親の3歳児()の扱い、3歳児()の日常そのものが問題なのである……

 

 

 

 

 

 こちらで出来た新しい両親は、うっとおしい程過保護では無いし、子供が何かに成功したら褒め、悪いことすれば叱れるし、どちらとも普通に子供を可愛がり愛情を持って育ててくれる――まさに理想の親であると言える存在だった。

 

 そうあくまで『普通に』だ。

 

 元20歳の、幼児と言うには無理がありすぎる人格を持った3歳児に対しても、おままごとや、絵本、お人形遊び、お絵かき、積み木、おうたの練習などを『普通に』誘うのである。

 リリなの世界に来てテンション上がりまくりの子供を、まだ知らないはずの色々な危険から守るために、『普通に』行動を制限するのである。

 愛情を注ぐために、色々な事を知ってもらうために、『普通に』常に子供の傍にいるのである。

 

 

 

 ――うん、正直甘く見てましたよホントに……

 

「3歳児になったらある程度の会話もできるらしいし、結構楽しめんじゃね?」

 

 そんな風に人生なめてた過去の自分を張り倒したい……!

 

 

 ◇

 

 まず、基本一人で行動できない、というよりさせてもらえない。

 本来、3歳児なんて何が危ないのか、やってはいけないのかなどを、まだまだ分かっていないお子様である。当り前の処置と言われてしまえばそれまでだ。

 当然、一人で海鳴市を散歩とか無理である……

 あの名場面が繰り広げられた場所にはいつ行くことが出来るのだろうか……ちくしょうめ。

 

 

 こっそり魔法の練習する事も出来ない。

 今はデバイスも持ってないので、まず魔力をどう出すのか、という所から始めないといけない段階だ。

 集中しないと出来ないだろうし、何かのきっかけで魔力弾とか出て、家に穴あけたりしたら洒落にならん。

 両親に見られたら何て説明すりゃいいんだ……

 

「俺魔法が使えるんだ! え?なんで魔法なんて知ってるかって? それは俺が20まで生きていた記憶を持った転生者だからさ! 今まで騙しててごめんね?」

「馬鹿ヤロー! どんなことがあろうとお前は俺の息子だー!」

「そうよ! 私たちが愛した子には変わりないのよ!」

「お父さん、お母さん……うわーん! ありがとー!」

 

 めでたしめでたし。オリ主は家族と真の絆を手に入れることが出来ましたってか?

 

 

 

 

 ――ある訳ねえだろこんなこと!! 俺が親の立場だったら最低でも施設には放り込む!

 

 むしろ受け入れられた方が恐ろしい……それはもう人が良いとかってレベルじゃない。

 個人的にはある種の狂人にも思えるわ。

 

 魔法バレだけならともかく、転生とか前世云々の話は墓まで持っていこう……

 

 

 他にもなにか魔法を練習する機会はないのかとは考えたものの、良い考えは思いつかない。 

 魔力を初めから制御出来て、周りに被害を出さないと仮定しても、やっぱり家の中でやるのは却下――専業主婦の目は、小さな子供が何をしているのかを横目でばっちりチェックしている。

 お風呂は「いつもお父さんと一緒」というタイトルがつきそうな状況だ。

 両親が寝静まった後で出かけるというのもやろうと思ったが、夜遅くまで起きていられない……布団に入ったらいつのまにかガチで寝てるのである。 

 山の中とか、人目の付かない所に単独で行くのも無理……必ずどっちかが監視のためについてくる。

 トイレの中なら大丈夫かもだけど……いや、初めて魔法使う場所がトイレとか絶対やだ。

 

 

 ――結局、俺の魔力光が何色なのかすら、未だにわかってないのよ……

 

 

 ◇

 

 ある日、父と一緒に本屋に行くことになった。

 漫画、小説、雑誌――色々遊びにも制限が掛かっている今の俺にとっては娯楽品の宝庫にも見える。

 

 店内を父に手をつながれて歩いていると、『店長オススメの漫画コーナー』と手書きのプレートで書かれてある場所で良さ気なものを見つけたので、父におねだりした。

 

「おとーさんこれ買ってー!」

「んー?」

 

 絵本、おままごと、積み木など、そういった家遊びは確かに幼児の情操教育には必要だろうよ。

 多少なら我慢だってするさ……

 

 

 だがしかし! こちとら中身は20を過ぎの成人男性! 

 テレビも目が悪くなるからと時間制限され、ずっとそんな遊びをつづけるなんて無理なん――

 

 

 

 

 

 

「ちょっとこれはまだタカには早い(・・)と思うなー」

 

 ――だでぃ? あなたは何を言ってるのかナー?

 

「これはもう少し大人(・・)になってからなー。あ、これなんて面白そうだぞ? 『よい子のための絵本 日本むかしばなしシリーズ1』とか。どうだ?」

「イヤーッ!」

「あ、こら! お店の売り物投げちゃ駄目だろ!」

 

 

 

 

 ――遊びどころか、本にも規制が……いや、理由は分かるよ?

 

 3歳児は字なんて読めない、漢字なんて論外だ。

 それに俺が持ってた本、表紙からすぐバトルものだって解るもんね。幼児の教育に悪いものなんてそりゃ止めるわ……

 

 うん、店の商品投げたりしてごめんなさいでした。

 ちょっと感情が高ぶりやすくなってるんだ、この体。ついカッとなってやった、今は反省している……

 

 

 その後「店長のおすすめ児童書コーナー」を通りかかったので、せめて文字数が多いものをと要請したが、またさっきの絵本を進められそうになったので、必殺『だだをこねる』を使いどうにか回避。

 

 ――プライド? 親子で学ぶトイレトレーニングやってる内に、トイレットペーパーと一緒に水に流されてほとんどなくなっちゃったんだ。

 ちなみに、買った本は児童書ってことを考えても全然面白くなかった……おすすめした店長ふぁっくゆー!

 

 

 ◇

 

 家族揃ってお出かけのある日のこと。

 ちょっと海鳴市を離れて、父の運転する車で遠くの公園を目指す事になった。

 

 何気にここまで遠出するの初めてなんじゃなかろうかと、周りの風景や両親との会話を楽しみながら……楽しみ……たのし……うっぷ――

 

 

 

 

 

「お……う……あ…………きもちわる……」

「タカー!? もう少しで道路広くなるからな!? そしたら直ぐに車止めるからな!? もうちょっとだけ待ってな!?」

「貴裕もうっちょとだって! ああ、なんで酔い止めとかエチケット袋忘れちゃったの私達!? いや、いざとなったら水筒に――」

 

 ――ただいまの車内は絶賛カオスである。

 うん、体が子供ってことは乗り物にも慣れていないんだ。長時間乗ってたら酔うわなそりゃ。

 不幸だったのは、今通っている山道は狭い2車線だった事、やたらと道が曲がりくねっている事、後続車も対向車も割と通っており簡単に止められない事、今日に限ってエチケット袋を忘れた事だ。

 

 父よ、焦るのは分かるけど運転が荒くなってんぞ。

 母よ、今背中さするのは逆効果だ。そこらにしないと車内にぶちまけるヨ?

 

 

 ――将来、空戦とかしても大丈夫なんだろか俺? 

 あれって高速移動で飛び回ったりするのに……誰もやったこと無い技繰り出しちゃうんじゃない?

 

「喰らえ! Rain of vomit(ゲ○の雨)!」

 

 みたいな? 

 ヴォルケンリッターも全力で逃げだす様な技繰り出すんじゃないかと……

 

 

 あ、バカなこと考えてる内に広い道に出たっぽい。そんじゃ遠慮なく――

 

 

 ◇

 

 スッキリしてから十数分後、公園に到着した。

 後ろに何やら疲れた顔の両親が居るけど気にしない方向で行こう、うん……

 

 

 ――子供遊びはあまり好きじゃないけど、外遊びは例外だ。

 ブランコや滑り台などの遊具で遊ぶのは意外と楽しいし、エネルギーの有り余っている幼児の体を動かすのは、日々のストレス発散にもなる。

 

 だから、平日なんかは母に外で遊びたいと言ってるんだけど、全部が全部通る訳でもない……

 まあ、家の方が目が届きやすいし色々楽なのかね……

 

 ちなみに、俺の公園デビューは1歳の終わり頃かららしい。

 そこら辺の記憶があいまいだけど、少なくとも最近はちゃんと同年代と遊んでいる。

 大体は体動かすグループと鬼ごっこやボール遊びなどをやっているが、一人になっていて、かつジーっとこっちを見ている子を見かけたら、声掛けて砂遊びとかもやる事も。

 そんな事やってる内に、『この子は一緒に遊びたがってるな』といった事ぐらいは判断できるようになったし、そういった視線にも気付きやすくなった。

 

 

 現に、今も知らない男の子が仲間になりたそうな目でこっちを見てるのが分かるし……他に公園にいる子はそれぞれグループ作ってるし、二人が回復するまでこの子と遊びますかね?

 

「ねえ、一緒に遊ぼっか?」

「ほんと!? なにしてあそぶ? なにしてあそぶ?」

「君が決めていいよー」

「えっとねー、えっとねー」

 

 微笑ましいのー。スコップとバケツ装備ってことは砂遊びかね?

 

 

 

 

 

 

「じゃあ忍者ごっこ! くらえ土とんのじゅつ!」

「痛ッ!? ってか目が! 目があああああああッ!」

 

 ただ、稀にこいつら予想できないこと仕掛けてくるのでやりづらい!!

 あ、向こうで両親に、この子のお母さんらしき人が慌てて頭下げてる……

 

 

 ◇

 

 3歳ももうすぐ終わる頃のとある休日。その日は皆で『海鳴市の駅前の商店街』に買い物に行こうという話になった。

 

 ついに、あの『翠屋』を拝むことが――あのキャラクター達を生で見ることが出来るかもしれないと、俺のテンションはもうダダ上がりである!

 

「いやったーーー!! おとーさんおかーさん! 早く行こ早く行こ!!」

(ってか、俺の年齢から考えればそろそろorもう高町父の怪我イベントじゃんうっひょい! もしかしたら傷心の主人公とか見つけられるかもね! 原作が近づいて来たぞーー!)

 

 他人の不幸を全力で飛び上がって喜ぶというクズいことをしつつ、とりあえずそのままの勢いで出発を急かせば――

 

 

「あらら、食べ物の話でそんなに……フフッ」

「年の割に大人ぶった行動が多いけど、やっぱり子供なのに変わりはないな」

 

 両親は微笑ましいものでも見たかの用にニコニコしていた……なんだろう、恥ずかしさの前に罪悪感が――

 

 

 

 

 そんなこんなで両親に手を引かれながら駅前商店街に到着した。

 

「お店いっぱいだねー! ぜんぶ見てみよ!」

 

 用意していた子供らしい?建前を使って、両親と共に商店街を歩いて翠屋を探しにかかるが――

 

 

 この店は違う……違う……違う……ここも違う……和菓子屋さんも違うけど、苺大福買っておかーさん。

 この店も違う……違う……違う……小腹空いたな……苺大福食べ――え、歩き食いは危ない? 帰るまでダメ?

 しゃあないね……泣かないよこのくらいでっ! 

 

 グスッ……涙腺が緩く……ちが、う……ちがう……違……あれ、最初の店に戻った?

 

 

 

 ――え、翠屋が見当たらない……?

 

 いや、前に町の地図見た限りでは、海鳴市で駅前にある商店街って此処だけのはず。

 翠屋って商店街の真ん中にあるんだったよな? なら結構目立つと思うんだけど……

 俺が何かの覚え違いでもしてるのかね…………ん?

 

 

 

 

 

「おとう、グスッ、さん。あのまんなかの店、な、ズッ、に?」

「鼻水かもうなー。はいチーン……良し。んー? テナント募集(・・・・・・)? あれ? あそっこて、中年の人が一人でやってた喫茶店じゃ無かったか?」

「ああ、ちょっと前にやめたらしいわよ? 真ん中にある店が空いてるって、イメージが悪いからどうにかしたい、って商店街の人言ってたけど?」

 

 ――まさか、まだ翠屋がないですと!?

 

 いや、もしかしたらと予想はしていたけど……やっぱり俺が『主人公ズと同年代』って願ったせいか?

 後になって気付いたけど、2・3歳の違いがあろうと、それは『同年代』には変わりないよなって…………いや、ポジティブに考えよう! 

 上でよかったと、お兄ちゃんポジションになれるかもしれないと! 年齢が2・3歳下だった場合はよりはマシだと!

 

 仮にそうなってたらホントにヤバいもの!

 

 

 ジュエルシード回収手伝う時とか――

 

「わたしにもお手伝いさせて!」

「なのは……ありがとう」

「俺もいっしょにがんばるよ!」

『それはダーメ。まだ6歳なんだから』

「えっ?」

 

 アースラを拠点として構えるために、しばらく帰らない・学校休むと両親説得する時とか――

 

「大切なことだからやりとげたいんだ(きりっ」

『それはダーメ。6歳児が何言ってるの?』

「えっ?」

 

 

 ――なんてことになりかねないし……

 そう考えみると、本当にハイリスクなギャンブルしてたのね俺……

 

 

 

 

 

 

 ――翠屋が無い事にショックは受けたものの、両親に不振がられる前にどうにか気を取り直した。 『ただ帰るのも何かなー』と思っていた所で、おもちゃ屋さんを発見したので暇つぶし用のジグソーパズルなんかをねだってみた。

 親に選んで貰い、帰ってからワクワクしながら開けてみると、明らかに幼児用(36ピース)なので呆然とした……

 

 即行で完成した瞬間投げ飛ばしたくなるのは不可抗力だと思う。

 だから苺大福没収とか辞めて下さい母上……

 

 

 

 

 

 

 ――結局、俺の希望どおりに願いは叶えられてはいる。

 叶えられているんだけど…………何かイメージしてたのと違う……

 

 いや、ホントにどうしてこうなったし……

 




田中家について

田中貴裕(3)
父の呼び方:おとーさん
母の呼び方:おかーさん
最近の悩み:まだ発音が上手く出来ないこと。小学校までには、お父さん、お母さんと、しっかりとした発音で呼びたいと思っている。

田中明裕(32)
息子の呼び方:タカ、貴裕
妻の呼び方:お母さん、母さん、美智子
最近の悩み:息子ができたら遠くまでドライブすることが一つの夢だったが、息子の乗り物酔いが予想以上に酷かったこと。年齢のせいでは無く、体質だったらどうしようと不安になっている。

田中美智子(31)
息子の呼び方:貴裕、貴裕君
夫の呼び方:あなた、お父さん、明裕
最近の悩み:子どもとの家遊びを楽しみにしていたが、肝心の息子は外遊びの方が好きなこと。パズルは比較的好きそうなので、そこからどうにか出来ないか考えている。

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