・なのはが「駄目! 止めて! 撃たないで!」と言って、フェイトを庇う
・ユーノが人間になった時の反応
・アルフとフェイトのやり取り
日も沈み始める午後の6時半頃。
デバイスごと上半身をバインドで縛られている少年は混乱していた――
「両者とも妙なマネはするなよ? 君は間違ってもバインドを解除しようとしないように。使い魔の君は主を呼ぶんだ」
「クッ……このタイミングで管理局が来るなんて……」
「あるぇ……?」
原作にあった『なのはとフェイトの衝突をクロノが止める形』ではなく、『自分とアルフの衝突をクロノが止める形』になっている今の状況に混乱していた――
「貴裕くんが縛られて……ユーノ君、管理局って?」
「管理局って言うのは……すっごい簡単に言えば、こっちの警察みたいなものかな?」
「そうなの? じゃあ、助けなくても大丈夫――――待って!? え、貴裕くん警察に捕まっちゃったの!?」
「それは……どうなんだろう?」
仲間の二人が話している『田中貴裕、現行犯逮捕説』に反応出来ないほど混乱していた――
「――よし、解けた! フォトンランサー!」
「ッ! 何を!?」
《Round Shield》
「撤退するよアルフ! 離れて!」
「あっ、フェイトちゃん!!」
「コイツに一発ぶちかましたいのに……クソッ!!」
「あるぇ……?」
原作の配役とは逆で、バインドを解いた少女が使い魔の逃走のサポートをしようとている事も、少年を混乱させる要因となった――
「待てッ!」
《Stinger Ray》
「ハッ、当たらないよ!」
「あるぇ……?」
執務官の少年の攻撃をなんなく避け、少女とその使い魔が逃げていく――――つまり、『なのはが撃たれたフェイトを庇う』という、個人的にお気に入りだったシーンが跡形もなくなったという事実を受けて、少年は更に混乱した――
「逃がしたか……仕方ない、君は大人しく…………おい、大丈夫か? なにかボーっとしているが……」
少年は混乱していた――
少年は酷く混乱していた――
混乱するあまり――
「ダメー、ヤメテー、撃タナイデー」
「は? あ、いや、今のは彼女たちがこちらに攻撃して逃げようとしたからやったのであって、君がこちらに危害を加えようとしない限りは心配ないぞ?」
第16話「事前の確認は大事にしましょう、周囲に気を配りましょう」
フェイト組への仕返し――その内容を思いついた時に、実際にやるかどうかはほんの少しだけ迷った。
意地の悪い仕返しなんてものをすれば、実際の流れが原作と違う事になるのは分かりきっていたし……
まあ、『そこまでおかしな変わり方はしないだろ』って考えと、やり返したいって気持ちが大きかったから、結局は実行に移した。
そう、実行に移した結果――
「まず、さっき君が回収したジュエルシードを出してもらえるか? その後、君に掛けたバインドを解くから、一度下に降りよう」
「貴裕ー! 説明は後でするからその人の言う通りにして! 変な抵抗とかしちゃダメだからね!」
「ん? 下にいるのは君の仲間か?」
「ア、ハイ、ソウデス……シンシアハート」
《All right. Put out》
「――ジュエルシードで間違いないな。では、バインドを……それと、出来れば下に降りたらデバイスとバリアジャケットを解除して貰えるか?」
「ア、ハイ……」
「よし、じゃあ降りようか」
アルフさんとは戦闘になりかけ、原作とは登場の仕方が変わったクロノ君にバインドで縛られ、フェイトちゃんは怪我することなく逃げおおせ、残された俺はやんわりと武装解除を促されています……
『そこまでおかしな変わり方はしないだろ』とか考えてたバカは誰でしょうネー?
俺がフェイト組に
そりゃあ、原作通りの『なのはちゃんvsフェイトちゃん』の形になる訳がないし、『アルフさんvs俺』なんて形になってもおかしくないですよ。
バインドの解けるタイミングによっては『フェイト
戦闘相手が変わるんだから、クロノ君が乱入して止める相手も変わるのは当たり前ですよネ。
それに加えて、ジュエルシードはクロノ君が来る前に俺が回収したんだもの。
ジュエルシードがないなら、フェイトちゃんが逃亡前にジュエルシード
攻撃を受けてないんだから、追撃からなのはちゃんがフェイトちゃんを庇うなんて事も起こらない……
少し考えれば、分かった事だろうに……
まあ、仕返しするまでは俺の精神状態がアレだったし、深く考え込むなんて無理だったけどさ……
――とりあえず、この場はクロノ君の指示に従わないと。
大人しく地面に降りてと……
「シンシアハート、デバイスとバリアジャケットの解除を」
《All right》
「素直に指示に従ってくれて助かるよ…………予想が外れたな……」
「はい?」
予想が外れたって……素直に指示に従った事が? 何故?
クロノ君とは初対面だし、とりわけ反抗的な態度取った覚えもないんだけど……
「あー……その、今回のジュエルシード封印前後の動きはモニターで確認していたんだが…………君とさっき逃げて行った彼女達とのやり取りも見ていたからな。どうにも想定していた人物像と違って……」
「ああ、さっきの貴裕の行動を……」
「貴裕くんの顔酷かったもんね……」
「オゥ……」
とても子供が浮かべる様な表情ではない、とびっきりのゲス顔がモニターに表示されたんですね、分かります。
うん、
あれか? 俺だけバインドで縛られたのは『俺がジュエルシード回収したから』かと思ってたけど、本当は『
クロノ君の予想ではフェイト組こそが大人しく指示に従って、俺の方が抵抗すると思ってたのかね……
『クロノ、お疲れ様』
「わっ!? これって……立体映像?」
「通信魔法の一種だね。この人は……」
「うちの艦長だよ。すみません、片方は逃がしてしまいました……」
『まぁ、大丈夫よ』
空中の魔法陣からリンディさんが通信を――って事は、そろそろアースラに移動するのね。
俺だけ手錠掛けられたりしない?
ジュエルシードも渡したし、武装解除もしたし、変な抵抗もしてないから大丈夫だとは思いたいけど……
『でね、ちょっとお話しを聞きたいから、そっちの子達をアースラに案内してあげてくれるかしら?』
「了解です。すぐに戻ります」
「え……あ、あの!」
――ん? なのはちゃんがストップ掛けた?
何で……俺がこれから
『あら、どうかしましたか? えーっと……』
「あ、高町なのはって言います」
『なのはさん? 何か問題でもありましたか?』
「その、アースラ? に行くのはいいんですけど……ちょっとだけ、10分も掛けないので待ってもらえませんか?」
『うーん……あんまり移動されたり、変な事をされると困るのだけど……』
「えと、大丈夫です。ここから離れたりはしませんし、お話をするだけですから」
『ああ、それなら構いませんよ。お話が済んだら、そこにいるクロノに教えてくださいね?』
「はい、ありがとうございます」
違ったっぽい。お話って……何かあったっけ?
『ちょっとアースラ来いよ』って言われてるのに、それを延ばしてする程のものって?
「なのは? 話って何を?」
「あ、ユーノ君は大丈夫だよ。ちょっと待っててね?」
「え? あ、うん」
あら、ユーノ君抜きで俺だけとお話するの?
三人で『管理局って何? 私達これからどうなるの?』的な話をするのでもなく?
「なのはちゃん、何かあった?」
「すぅー……はぁー……すぅー……」
何この子? 俺のすぐ目の前で深呼吸始めたんだけど、本当に何がしたい――
「貴裕くん!!! お説教です!!! そこで正座しなさい!!!」
「うるさっ!?」
至近距離で怒鳴らないで耳が痛いよ!?
あと、指さす要領でデバイスを人に向けないの!! 撃つ気がないと分かってても怖い!!
しかも、お説教って……そういえば『フェイトちゃんに仕返ししたら後で説教』的な事言ってたっけ?
「ほら、早く正座する!!」
「え、マジで説教するの? それに正座って……別に立ったままでも……」
「は、や、く!!」
「えぇぇ……地面にそのまま座ると汚れるし、小石転がってるアスファルトの上でやると足も痛いと思うんだけど」
「――そこのベンチで正座!!」
「あ、はい」
自分で言っておいて何だけど、
可愛いついでに、説教そのものをなくして貰いたいんだけど……流石にそれは無理かね?
ガチギレはしてないけど、それなりには怒ってるみたいだし。
――まあ、あれだけ散々止められておいて実行したのは少し悪いと思うし……大人しく説教受けようか。
10分も掛けないらしいし、正座だって別に苦手じゃないもの。
「よいせと。あ、ベンチが思ったより堅くて正座が少し辛い」
「その位は我慢する! お仕置きも兼ねてるんだから…………あのさ、私貴裕くんに『仕返しはいけない事だから、やっちゃ駄目だ』って何回も言ったよね? 何でやったの?」
「あー……我慢が効かず、ついカッとなって?」
「『カッとなって』じゃないでしょ!? 人の注意も無視してっ、このっ、このっ!」
「スイマセンでした謝るからデバイスで人の太ももを突つかないっ!? 銃剣みたいな使い方しないで!?」
レイハさんのシューティングモードは先端が尖ってるの!!
ほとんど力は籠めてないみたいだから我慢できない程ではないけど、先端が刺さって地味に痛いのよ!?
「仕返しの内容も内容だよ! どうしてあんな性質の悪い事するかな!?」
「いや、だから自分でも性質が悪いとは思ったけど、あれぐらいしか思いつかなかったんだって」
「だとしても! 少なくとも、ジュエルシードを取った後に嫌味ったらしく話をする必要はなかったでしょ!」
「嫌味ったらしく挑発してもいいやって思えた程度には、昨日の事を恨んでたんだもの……あの横取りの仕方だって相当性質が悪いって」
「それは……確かに昨日のフェイトちゃん達のやった事も性質が悪いよ? 私もフェイトちゃんに攻撃されたり、ジュエルシードを取られちゃった時は嫌な気持ちにもなったから、貴裕くんの気持ちも少しは理解できるけど…………でも、それで仕返しに走るっていうのは駄目でしょ」
「まあ、そうなんだけどさ……」
俺が我慢すれば全部丸く収まったんだろうってのは分かるよ?
ただ、原作の流れを知ってるこちらとしては、昨日のアレは『原作だと一人で封印出来てたよね!? 何で俺が封印するの待ってからボコってジュエルシード奪ったし!?』って考えちゃうのよ……
いや、俺がいたからこそ、あんな事になったのは分かってるんだけどね?
こう、余りにも予想外すぎたと言いますか、もっと他に方法あっただろうコノヤロウと言いますか……
とにかく、我慢するのは難しかったのよ。
「それに、あんな事したら話し合いで解決するのなんか無理になっちゃうよ……いや、元々無理っぽかったけど、解決以前に話し合いすること自体が難しくなっちゃうかも……」
「あー……それに関しても本当にゴメンナサイ。でもほら、事前に言ったでしょ? 『話するのが難しくなるかも』って」
「限度って言うものが有るでしょ!? それに、聞かされたからって納得できる話じゃないよ!!」
俺だって、会話シーンカット&庇うシーンカット状態になるとは思わなかったの。
今後のフェイトちゃんとなのはちゃんの間に変な影響は無いと思いたいなぁ……
ほら、フェイトちゃんがレイプ目から回復するシーンの独白によれば、なのはちゃんに好印象を持った所は『対等に向き合った事』『何度も名前を呼んで、ずっと話しかけようとしてくれた事』らしいからさ?
今回だってフェイト組が去っていく時に、『あっ、フェイトちゃん!!』ってなのはちゃんが
向こうに聞こえてたかどうか分からないけど……
だから、今回起こるはずだった会話なり、庇う事が無くなったところで大した影響は出ないかなーって……かなーって……
「今日もフェイトちゃんともお話できなかったし……本当にどうしろっていうのさ!?」
「――頑張れとしか言いようがないですネ」
「無責任すぎるよぉっ!! このっ、このぉっ!!」
「だからデバイスで人を突こうとしない! グリップ部分でやられても地味に――脇腹はらめっ!?」
俺を突いた所でどうにもならんぞ!?
100%俺のせいだから当たりたくなるのも仕方ないけど、どうにもできんぞ!!
――というか、怒り慣れてないからなのか、フェイトちゃんとお話しできないのが余程ショックだったのかは知らんけど、説教モドキから愚痴モドキになってませんかねコレ?
ガチギレしてる訳でもないし、ちっちゃい子が
いや、レイハさん乱れ突きは止めて欲しいんですけどネ。腕で防ぐにも限界があるし……
このグダグダ説教モドキはもうちょっと続く感じかしら……
まあ、悪いのはこっちだし、この程度でなのはちゃんの怒り発散になるならこのまま続けますか。
適当に反省した態度を見せて流して……
いや、ユーノ君や
――そういえば、そのお二人さん俺が説教受けてる間は何をやってるのかしら?
ユーノ君あたりは、途中で説教にストップ掛けて来るんじゃなかろうかと
他愛ない話でもしてるのか、
「――小さい女の子に怒られているな」
「ええ、怒られていますね……」
他愛ない話でもして――
「彼の方があの子より年上なんだよな? いつもあんな感じに怒られているのか?」
「いや、いつもって訳ではないと思うんですけど……僕が見る限りでは初めてです、はい」
今までの事について説明でもして――
「そこまで長い付き合いでは無いのか。変身魔法を使っているから年が分からないんだが……彼らの保護者、というかまとめ役は君か?」
「いえ、特に誰がまとめ役とかは決めてなくって……えと、僕の年は9歳です」
「ん? 女の子に怒られている彼は?」
「11歳だそうです」
「――彼が君らの中では一番年上なのか」
――何コレすっごい恥ずかしいよ!?
いや、『他愛のない話や、今までの事について説明してる』のに違いは無いけど、何か違うよねコレは!?
何でこっち注目してんの? 何で残念な物を見る目なの?
何で、年下の女の子が年上の男の子を叱っているっていう事実を強調して会話のネタにしてんの?
え? 何、お二人とも説教続いてる間ずっとこんな感じに見物してくる気!?
それは勘弁して頂きたいんですが!?
「なのはちゃん、そろそろお説教終わりにして頂けないですかね!? ほら、向こう待たせてるしさ! ね!?」
なのはちゃんも俺も、説教してる・されてる事に頭がいってたから気付かなかったよチクショウ!!
早く切り上げねば! 一度気付いちゃったら、この公開羞恥プレイは耐えられん!
「駄目です!! さっき、貴裕くんの家から出る時にもそう言って逃げたでしょう! 同じやり方で誤魔化されるほど、私馬鹿じゃないもん!!」
「違うの!! 今回のは違うのぉ!!!」
さっきのゴリ押しがモロ裏目に……どうしろと!?
頭下げればいいの!? ベンチの上でよければ土下座モドキだってするから許していただけますか!?
謝ればいいの!? 全力でそれっぽく謝罪すれば納得していただけますか!?
「注意を無視してホンットにスイマセンでした! 謝りますから、どうかお説教はこれで! これで終わりに!!」
「ど、土下座って…………本当に反省してるの?」
「ハイ、超してます! めっちゃ後悔してます!!」
こんな状況になるとは思わなかったからネ!
以後、自発的に原作の流れから外すような事はしたくないと思います!!
「むー…………でも、貴裕くんは人の注意に――
「えぇぇ……」
全力の土下座のおかげか、対応が若干軟化したかと思ったらコレだよ……
いや、確かに『仕返し・嫌がらせ、駄目、絶対』って言われた時は、『OK! そんな捻くれた事はやらないよ!』って約束する事も無く、有耶無耶にしたけど……
わざわざ『適当な返事』とか溜め入れてまで大声で強調せんでもええやないですか。
どこまで信用度が落ちているのか…………いや、待てよ?
『それ
それで、『適当な返事』って言葉を強調したのは――――あ、そう言う事?
「あー……私、田中貴裕はフェイトちゃん達に仕返し・嫌がらせの類を
「――はい、正解です。貴裕くん、さっきから『ごめんなさい』はしてるけど『もうしません』って事は何時まで経っても言わないんだもん。まあ、土下座までして謝ってるし、自分で気づいたみたいだからこれでお説教は終わりにするけど……約束したからね! 本当に駄目だよ!」
「あ、はい」
ヤダ、この子すっごい面倒くさい……いや、説教これで終わりにしてくれたのはありがたいけどさ?
こんな回りくどい事を……直接『もうしないね?』って確認するなりすれば良かったじゃん。
しかも、俺が自分から
あれか? 『土下座までしてるようだし、一応
「貴裕くんって、私に嘘ついたり、約束破ったりした事は無いから大丈夫だとは思うけど……いや、誤魔化したり、意地悪する事はあるけど……とにかく、約束したんだから破ったら承知しないからね!!」
「うぃ」
昨日の一件の仕返しは終わって気も晴れたし、
信用度が下がってるとは言え、ゼロになってる訳では無かったからこその処遇だったのか。
嘘ついたり約束破ったりはしない人だと思われてるのね…………なのはちゃんが気付いてないだけで、嘘ついた事は何回かあるんだけどネ。
「じゃあ、正座崩してしまってもよろしいでしょうか?」
「うん。あ、もしかして足が痺れ始めたから慌ててお教止めたの?」
「あー……ウン、ソウダヨ」
「へー、貴裕くんって正座苦手なんだ」
イイエ、嘘デス。正座なんて30分だろうと平気で続けられます。
本当の理由は、向こうにいる男の子達の視線&実況解説モドキに耐えられなかったからです。
――ああでも、どうにか早めに説教切り上げられたか……
公開羞恥プレイが長期化する事は防げて良かった……いや、土下座までしたかいがったよ、ホントに。
まあ、その土下座をしている最中に、どこからか『説教を終わらせるためとはいえ、あそこまで頭を下げるものか……』って引き気味の声や、『貴裕……』って哀愁の籠もった声が聞こえた気がしたんですけどネ……
幻聴が聞こえるなんて、昨日の疲れが残ってるのかなー?
◇
何とも言えない目でこちらを見て来るクロノ君に
転移先で武装局員のお兄様方が手錠を持って待ってやしないだろうかと心配していたが、特にそんな事も無く――
<ユーノ君、ここ何処だか分かる?>
<時空管理局の次元航行船の中だと思う。簡単に言うと、いくつものある次元世界を自由に移動するための船>
<あ、あんまり簡単じゃないかも……>
<先生、次元世界うんぬんが分かりません>
<えーっと……なのはや貴裕達が暮らしている世界の他にもいくつもの世界があるんだ。僕のいた世界もその一つ。そういった世界と世界の狭間を渡るのがこの船だね>
<じゃあ、時空管理局は……あ、警察みたいなものって言ってたっけ?>
<もう少し詳しく言うと、それぞれの世界に干渉しあうような出来事を管理しているところ……かな?)
<へー、そうなんだ>
今は、ユーノ君に念話で色々と説明して貰いながら、SFチックな館内をクロノ君の後に付いて歩いてる最中である。
ユーノ君はこういった船に乗った事があるのか、取り分けいつもと変わった様子もなく歩いている。
対して、なのはちゃんと俺の方はキョロキョロと辺りを見回して落ち着いていない――
――といっても、なのはちゃんは見知らぬ場所にいる事に緊張しているからで、俺の方は
だってアースラですよ? 次元航行船とかいうロマンの塊ですよ?
様々なドラマが繰り広げられる舞台、もしくはその中継地となる場所なんですよ? もう、興奮するしかないでしょ!
「あぁ、いつまでもその格好というのも窮屈だろう。バリアジャケットとデバイスは解除して平気だよ」
ほら、早速アースラでの最初のイベントですよ!
クロノ君がなのはちゃんに向けてこのセリフを言うって事は、アニメでしばらく続いたシリアスへの清涼剤となるシーン! この後、ユーノ君が人間だってことを初めて知ったなのはちゃんが混乱するというニマニマできるシーンになるはず――
――
でも、俺が余計なことしたせいで、ユーノ君が人間だって事は周知の事実&人間の姿にも何度も戻ってるから――
「あ……そうですね。それじゃあ――っと」
「君も元の姿に戻ったらどうだ?」
「あ、はい。わかりました――っと」
「じゃあ、艦長室はすぐそこだ。付いて来てくれ」
『はい』
「うわぁ、予想通りだけど何コレつまらない」
「貴裕? どうしたの?」
「ううん、何でもないヨ?」
この通り、ユーノ君が元に戻った所で、なのはちゃんらが特段面白いリアクションをするって事はありませんでしたネー……
さっきみたいな致命的におかしな展開になるのも困るんだけど、こうやって何も起こらなくなるっていうのもちょっと……
いや、最初にユーノ君が人間に戻った時のなのはちゃんのリアクションも面白かったんだけど、出来れば原作通りの物を見たかったというか……早まったよなー、ホント。
せめてもの救いは、そこまで重要なシーンでもなく、原作と違っても今後の流れには何ら影響無いって事かね。
「艦長、来てもらいました」
「――ほぁ?」
<貴裕くんコレ……なんで盆栽とか茶道具が? 『和』ってやつなのかな?>
<いや、コレを『和』って言いきったら、そっちのお偉い先生辺りは苦笑いすると思うよ?>
まあ、原作通りなのが問題な事もあるんだけど……ミスマッチ具合が酷い空間……
形の整えられた盆栽、水が流れ綺麗な音の鳴る鹿威し――――但し、周りに緑など無く、メタリックな壁に囲まれてる空間にある。
高そうな赤色の座敷、その上に並べられた本格的な茶道具の数々――――但し、畳のある和室ではなく、SFチックな艦隊の一室にある。
――なんだろうね? 外国人が頑張って『和』を再現してみましたみたいな、コレじゃ無い感。
いや、俺だって日本人のくせに侘び寂びも良く分かって無いけど、コレがどこかおかしいのは分かる。
「お疲れ様。まぁ三人ともどうぞどうぞ、楽にして」
そして、極めつけがこの違和感だらけの空間を作り上げたであろうリンディさん……
大きな子を持つ一児の母とは思えない程のしわの無い肌、美人さん、スタイルの良さ――――但し、髪色のミスマッチ具合が全てを台無しにしている様に感じるのは私だけでしょうか?
蛍光色染みたシアン色の髪って……海鳴市でも流石にそんな色は見た事が無かったよ。
「そちらに座ってくれ。今、お茶と菓子を用意しよう」
「あ、はい。失礼します……」
『失礼します』
「あらあら、皆さんそんなに硬くならないで。正座なんてしなくていいんですよ?」
「私は大丈夫です。正座苦手じゃありませんから」
「僕もです」
「艦長さんはしているのに、俺らがしないっていうのはちょっと……」
「あら、そう? 別に気にしなくてもいいのだけど……」
異世界人が正座を知っている理由とか、奥の方でクロノ君が用意しているお菓子が
な件についてとか、他にも色々突っ込みたい事はあるけど置いといて――
目上の人が正座してるのに、他の人は足崩すっていうのは無理な話ですよリンディさん。
ただでさえ、ユーノ君となのはちゃんは礼儀正しい子なんだから……
――あ、正座といえば、俺は正座が苦手だってなのはちゃんは思い込んでるんだっけ?
話終わって立ち上がる時はそれっぽく振る舞わないと……普通にしたら嘘だってバレるもんな。
バレたらまたお説教と言う名の公開羞恥プレイが始まるだろうしな。適当に痺れた振りでも――
「でも、
「あ、お気遣いありがとうございま――――ん?」
あれ? 何か、リンディさんおかしなこと言わなかった?
何か知ってるはずの無い事を口にした様な……
「あれ? 何で貴裕くんの名前――というか、正座が苦手な事を知ってるんですが?」
そうそう、なんで俺の事を知ってるの? 俺はなのはちゃんと違って自己紹介した覚えとか無いよ?
この部屋に来るまでモニター越しにさえ話した事もないし、正座が苦手って設定もさっき作ったばっかりなんだから知ってるはずが……あれ?
そういえばアースラって、何か色々と映像をモニターに映したりしてなかったっけ?
今回の暴走体との戦闘然り、何日か後に起こるであろう海上での強制発動然り、プレシアさんの衝撃告白然り……
どっかの一室で詳細なデータと共に眺めたり、ブリッジの大画面メインモニターで音声と共に視聴出来たはずだから――
「えーっと……その、実はブリッジのモニターにお二人の様子が流れていたんです。その、あんまりも大きな声を出されるから何事かと思って、確認せざるを得なかったというか……ね?」
「忘れて下さい!!」
――当然、年下の女の子にお説教され土下座する男の子の図を撮影する事も可能だったんですね恥ずかしいッ!?
クロノ君とユーノ君だけじゃなかったんかい!?
ブリッジにいた皆さんにもLIVE中継でご覧になっていたと!?
「あれ、もしかして……え? 私が貴裕くんにお説教していたのも全部ですか……?」
「ええ……その、ごめんなさい」
「ふぇぇぇ……」
「うわっ、なのは!?」
ああ、隣でなのはちゃんが顔面から床に沈み込んでる……お耳が真っ赤……
――いやね、そちらの対応は間違ってないですよ?
いくら素直に指示に従っている子供とはいえ、危険人物モドキとその仲間に出頭お願いしたら、『話がしたい』って離れようとするんですもの。監視は必要ですよね?
何か重要な話をするのかもしれないし、逃げる作戦でも立てられたら困りますもんね。
でも、それが違ったと分かれば即撮影止めて欲しかったかなーって。
それが出来なくとも、ちゃんと最後まで撮ってた事を隠し通して欲しかったかなーって……
いや、円滑に話を進めるために少しでも気を楽にしてもらおうとして、つい知らないはずの情報を漏らしちゃったのはわかるんだけどさ……
それとも、ワザとミスをして場の緊張を力技で壊そうとしたのかね……
まあ、どっちにしろ情けない姿を多人数に見せた事には変わりない訳で……いや、どうしてこうなったし……
ただ、お説教されるだけなら別に問題ない。
でも、人前でお説教されるのって、結構恥ずかしくないですかね?
◇
次話についてですが、アニメでのロストロギアについての長ったらしい説明は飛ばします。