いつもと同じ時間に起きた朝。
顔を洗うために洗面所に行き鏡を見ると、どこか浮かない顔をしている私の顔が映っている――
最近私は、高町なのはは、ずっと同じ子のことを考えている……
『話し合うだけじゃ……言葉だけじゃきっと何も変わらない……伝わらない!』
『出来るなら、私達の前にもう現れないで。もし次があったら、今度は止められないかもしれない』
きっと、私と同い年くらいで、綺麗な瞳と綺麗な髪をしたあの子の事――フェイトちゃんの事を。
会えばまた、きっとぶつかり合う事になるんだと思う。
もしかしたら、前よりももっと痛い目に合うかもしれない…………そう、痛い目に――
『で、でばいんばひゃたー!!』
『へむっ!?』
『なのはちゃん、なんであなたはさっきから俺にボディーブローを連発しているのでしょうか?』
『む゛ううううぅぅぅぅぅっ!!』
『ハイ、なのはちゃんー? ボディブローストーップ』
『やー!』
『やーじゃないの。ちゃっちゃと帰りますヨー?』
『やああああっ!!』
『何だこのダメっ子……』
『やあだああああああっ!!』
――なんで
第12.5話「私は貴裕くんのことが――」
「あああああああああっ!! 恥ずかしい恥ずかしい思い出したくない思い出したくない忘れたい忘れた――いや、忘れちゃダメだもん!!」
都合の悪い事は忘れるとかホントに『ダメっ子』になっちゃうよ!?
ちゃんと認めなきゃ…………朝っぱらから大声出して何やってるんだろう私……うぅ……
アリサちゃんの方は意識がはっきりしてなかったとは言え、顔面パンチしちゃったんだよね……
運動音痴で良かった……もし強く殴ってたらアリサちゃん怪我したかもしれないし、あの程度のお仕置きじゃ済まなかったもん……
でも、もっと酷いことしちゃったのは貴裕くんの方……よりにもよって八つ当たりだよ八つ当たり!
バリアジャケット着てたから良いものの、制止の声も聞かずに長い間ボディブローだよ!?
クッションじゃないんだよ!? 人間だよ!? それも大切な幼馴染だよ!?
ああもう思い出すたびに恥ずかしいし、胸の中にモヤモヤが……
何かこれをぶつけられるものは――――だから八つ当たりしちゃダメなんだってば!!
「なのはー? こんな朝早くから何を大きな声出してるんだ?」
「何でもない!! お父さんはこっちに来ないで!!」
今来られたら、私が何し出すか分かんないもん!!
「え、あ、ああ…………心配して声掛けたら『お父さんはこっちに来ないで』って怒鳴られるって……反抗期には早いと思うんだけどな……ハハッ……」
うぅぅ、ホントに何であんなこと……いや、泣いて頭の中ゴチャゴチャになってたせいなんだろうけど……
モノに当たるなんて今までしなかった――と言うより、あんなに泣いたのも久しぶりだし……幼稚園の頃以来かな?
――そもそも、私は何で泣いたんだろう?
フェイトちゃんに自分が得意な魔法で負けて『悔しかった』っていう気持ちはあったし、自分だけジュエルシードを奪われて『申し訳ない気持ち』もあったけど、あの場には
ユーノ君の前で負けたから?
――ううん、流石にそれは無いかな?
ユーノ君はカッコ良い男の子だし、魔法のお師匠さんだし、ちょっとは良い所見せたいし、逆に情けない所は見せたくないって言う気持ちはあるけど……
むしろ、泣き顔見られたくないし、変な心配かけたくないから泣くのは我慢するかも。
貴裕くんの前で負けたから?
――ううん、それも無い。
そりゃ良い所見せたい、情けない所を見せたくないって気持ちは無くはないけど、それほどじゃないし。
泣き顔だって小さい頃から何度か見せちゃってるし、別に今更見られた所で…………ってあれ?
私、貴裕くんの前だったら別に泣いてもいいと思ってる……?
――ん? 待って待って待って?
えと、じゃあ仮にあの時、ユーノ君しかあそこにいなかったとしたら…………あれ、私
じゃあ逆に、貴裕くんしかあそこにいなかったとしたら…………私が泣きながら八つ当たりしている姿が簡単に想像できる……
つまり、私は貴裕くんがいたから、
えっと? 貴裕くんは私にとって一番付き合いの長い友達で、大切な幼馴染で、
『うん、好きだよ?』って言ったら二人とも凄いテンション上がったけど、『恋人になりたいとか、ちゅーしたいとかの方じゃないからね?』って言ったら、一気につまらなそうにしてたなぁ……
『いや、無いとは思ってたけど……それを先に言いなさいよ、無駄にテンション上げちゃったじゃない』
『うん、幼馴染との間の恋とか期待しちゃったよ……無いと思ってたからこそ、なのはちゃんが貴裕さんのこと好きだって言ったからテンション上がったのに……』
『友達の
『ア、アリサちゃん駄目だよそんな事言っちゃ。貴裕さんにだって良い所の一つや二つ…………えっと……』
――貴裕くん、アリサちゃんやすずかちゃんと仲悪くはないけど、評価が高いわけでもないんだよね……
うーん、私にとっては気を使わなくて良いし、長い間一緒にいて仲もいいから信頼も出来るんだけど……
『気になる男の子』には、多分これからもならないんじゃないかな?
なんか、『幼馴染の男の子』って言うよりも、もう『家族』みたいなもの――――――あ、だから……?
『家族』みたいなものだと思ってるから?
心から頼れるから、心配かけてもいい人がいたから、小さな子が親の前で泣くのを我慢しないのと同じ様に泣いたの?
甘えられるから、変な気なんて使う必要が無いないから、小さな子が駄々をこねるのと同じ様に八つ当たりをしたの?
貴裕くんを、『家族』みたいなものだと思ってたから……
――うわあ、何コレなんか恥ずかしいっ!!?
モヤモヤが! さっき感じたモヤモヤとは何か違うモヤモヤが!!
「もあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
「なのはおはよー。変な声出して何を――ってコラ、そんなに乱暴にタオルで顔拭かない。肌が傷付くよ?」
「こうしないとモヤモヤが! モヤモヤがとれないんだもん!! おはようお姉ちゃん!!」
「モヤモヤ? まだ寝ぼけてるの?」
完全に覚醒してるよ!? むしろ寝ぼけていた方が良かった!!
こんな深く考えこんでモヤモヤが出ることも無かったろうし!
「あうあうあうあうあうあうあう……」
「ホントに大丈夫なの……? えっと、私汗流したいからシャワー入ってるね?」
「うぅぅ、ごゆっくり……」
うん、貴裕くんの事について考えるのは止めよう! そうしよう!!
何か別の事を考え――そうだ、元々フェイトちゃんの事について考えてたんだ。
すごい脱線しちゃってるけど……
最近はあの子の事ばかり考えてボーっとしてることが多くて、アリサちゃんやすずかちゃんの話を聞いてなかったり、授業中も先生にあてられてるのに気付かなかったり……
ああ、貴裕くんやユーノ君との魔法の練習の時も失敗しちゃたっんだよなぁ……
『なのは、ボーっとしながら飛ばないで! そこから先は結界から出ちゃう――ホントに出ちゃった!? なのは戻って! 早朝だから人は少ないかもしれないけどマズイって!! なのはー!?』
『ぬおっ!? まだ、誘導弾4個は飛行魔法のみで対処するのはキツいか…………なのはちゃーん! 誘導弾の数3個に戻して欲しいんだけど…………あれ、聞いてない? あ、ヤダコレ、無理コレ、不味いよコレ、なのはちゃんストップ!! なのはちゃああああああああああッ、プロテクション゛ン゛ン゛ッ!!!』
う、うん、ちょっとボーっとし過ぎかも。気をつけないと……
――でも、あの子の事を知りたいっていう意思はやっぱり変わらない。
どんな目的があるのか……どうしてあんなに寂しい目をしてるのか……
それを知るために私はどうすればいいのか……
――いつまでも洗面所にいても仕方ないや。
もう顔は洗い終わったんだしリビングに行こうっと。
「ん、おはようなのは。洗面所は使い終わったか?」
「お兄ちゃんおはよー。今はお姉ちゃんがシャワー浴びてるよ」
「む、じゃあ洗面所使うのは後にするか。リビングで適当に時間でも…………いや、今は嫌だな……もう少し道場で動くか」
ん? 『リビングが嫌』って……どうしたんだろ?
「何かあったの?」
「何か『あった』と言うか、何か『いる』と言うか……まあ、見れば分かる。じゃあまた後でな」
「あ、うん……」
うーん? 『いる』って何のことだろう……
◇
居間に入ると、お母さんの作っている朝食の良い匂いがする。
外は天気も良く暖かい朝日が居間に入っていて、外からは小鳥の鳴き声も聞こえる。
こういうのを『清々しい朝』って言うんだろうけど――
「あら、おはようなのは。朝ご飯もうすぐだから待っててね?」
「お母さんおはよー。うん、それはいいんだけど――」
「おー、この頃のなのはは『お父さんお父さん』って駆け寄って来たんだっけなー。それが今は『こっち来ないで』だもんな……ハハッ、あと何年かすれば『お父さん臭い、洗濯物一緒にしないで』とか、そこにいるだけで『邪魔』とか言われるのかな……」
――お父さんがそんな清々しい朝を壊さんばかりのオーラを纏ってるのが気になります……
お兄ちゃんの言ってた事ってコレのことだったんだ。
居間の通路に座って何か小さな声でブツブツ言ってるし……あれ、昔のアルバム見てるのかな?
「お母さん、お父さんはどうしたのアレ……?」
「それが分からないのよ。さっき『シャワーで汗流してくる』って洗面所に行って、すぐ戻ってきたと思ったらああなって……事情聞こうとして話しかけても生返事で、ずっとアルバムに向かってブツブツ何か呟いてるのよ…………なのはは何か知らない? と言うより何とかできない?」
「うーん……」
お父さんは本当に何があったんだろ……さっき私の所に来た時は別におかしくなかったと思うし……
私を頼りにされて聞かれても分からないんだけど……ん?
――頼る? 聞く?
『頑張ったり我慢したりすることが全部悪い、とは言わないけど、もっと周りを頼りなさい。』
『俺一人だと無理だと思うの!!』
――ああ、そっか。そうだよ、何も悩みを自分一人で抱え込むことなんてないんだ。
自分じゃどうしても分からないことがあったなら、人に聞けばいいんだ。
自分だけじゃどうにもならないことがあったなら、人に頼れば良いんだ。
その方が一人でずっと悩んで、何も手につかないようになって迷惑をかけるよりもずっといい。
「ふふっ……」
「ん? なのはどうしたの?」
「ううん、何でもない。お父さんの方はちょっと分からないかも」
「あらそう……どうしましょうかねぇ……」
「ねえ、お母さん。私もちょっとお話があるんだけどいいかな?」
「え? いいわよ。何かしら?」
「あのね――」
私には大好きな人たちが、頼れる人たちがいっぱいいるんだから――
「あれかなー? やっぱりなのはが小さい頃に入院して散々心配と迷惑かけて構ってやれなかったのがダメだったのかなー? 食事時以外の会話なんてほとんど出来てないし…………どうしてこうなった……」
私は貴裕くんのことが――好き(家族愛とか友愛的な意味で)
泣いたのも、
今作の
◇
――なんでジュエルシードの樹木事件の時泣かなかったの?
本来はジュエルシードの樹木事件の時も、『大きな罪悪感+信頼できる人が傍にいた』の状態だったので泣くはずでしたが、泣く前に貴裕の両親が急襲(突然の出来事に呆然=罪悪感一時的にリセット)・貴裕回収されいなくなった(信頼できる人がいなくなった)為、泣かなかった――という
――ユーノだって信頼できる存在だろ、舐めてんじゃねえぞゴラァ!!
魔法使いの相棒としては全面的な信頼を持っていますが、共に困難を乗り越えたとはいえ接した期間も短いため、精神面での信頼はまだそこまでない(決して小さいわけでもない)――という
◇
今作における、なのはちゃんから見た順位表――
なのはちゃんが信頼している人 ※ユーノ君は接した期間が短いので除外
美智子おばさん・お母さん>貴裕くん・アリサちゃん・すずかちゃん・お兄ちゃん・お姉ちゃん>お父さん
なのはちゃんが好意(恋愛感情ではない)を持っている人 ※同上
美智子おばさん>>越えられない壁>>お母さん・アリサちゃん・すずかちゃん>貴裕くん・お兄ちゃん・お姉ちゃん>お父さん
なのはちゃんの気のおけない人 ※同上
貴裕くん>お母さん>美智子おばさん・アリサちゃん・すずかちゃん・お兄ちゃん・お姉ちゃん・お父さん