BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.32

 

 

 

 

 

「具合はどうだ? お前達 」

 

 

入室と共に声をかけるのはハリベル。

その部屋はいつかの白い部屋、寝台が三つ置かれた白い部屋でありその寝台にはやはりいつかと同じ面々、彼女ハリベルの従属官であるアパッチ、ミラ・ローズ、スンスンの姿があった。

 

 

「具合、と言われても別段悪いところはありませんわ。ハリベル様」

 

 

ハリベルの言葉に答えたのはスンスン、寝台に横たわっているといっても見れば確かに顔の血色は良く、病気という訳ではなさそうだがその左腕には指先から肩まで包帯が何重にも巻かれており、そしてそれは他の二人にも同様に言えるものだった。

 

 

「そうですね、アヨン(あいつ)を呼ぶと大概腕はこうなりますから…… まぁ今回は普段より少し長引きそうですけど……」

 

 

スンスンに続いて話すのはミラ・ローズ。

ハリベルにその包帯で巻かれた腕を軽く見せるようにしながら、心配する必要は無いと告げる。

その実彼女等の左腕は重症と言っていい状態だったが、主に心配を掛けまいとする彼女等がそれを口にする事は無い。

彼女等の左腕に巻かれている包帯、だがそれが巻かれている理由は怪我や負傷によるものではなく、彼女等の“切り札”を使用したための傷だった。

 

『混獣神 アヨン 』

 

彼女等ハリベルの従属官三人の左腕が混ざり合う事で産まれる超常の獣、左腕三本から異常に肥大した肉と霊圧が産み出され誕生するその獣は“切り札”という言葉に相応しい圧倒的な破壊力を持っていた。

だが大きな力はそれが大きければ大きいほど過酷な反動を生む。

彼女等がペットと呼称するアヨンの場合はリスクの一つとして、産みの親である彼女等の命令を必ずしも絶対遵守することは無いという点が上げられる。

産み出す事は出来ても彼女等三人にアヨンを完全に御する術が無い。

アヨンという獣に理性や思考があるかは判らないが、アヨンは自らの思うままに行動するのだ。

いくら強く強大であろうとも、御する事の出来ないものはそれだけで欠陥品であり、戦力としての不安点である。

だがそれでもアヨンが彼女等の“切り札”とされるのは、それすら補うほどアヨンが強力である、という事がその最たるところなのだろう。

 

そしてもう一つのリスクは産み出した後の反動、それが彼女等の腕に巻かれた包帯の理由だった。

アヨンを再び己の身体へと戻す、三本の腕へと戻すにあたり、戻したその腕は通常では考えられないほどの損傷を負っている。

筋繊維の断裂、腕各部の骨折、裂傷など、外部、内部に至るまで傷が腕を覆うようにしているのだ、それはアヨンという超常の獣の放つ霊圧と、肉体を省みぬ酷使によって刻まれた爪痕にほかならなかった。

だが見方によってはその程度で済んでいる、という見方すら出来る。

腕三本、反動も傷も三等分、アヨンという魔獣を呼び出したことに比べれば安いリスク。

だがそれでも当分の間彼女等の左腕は使い物にはならない。

 

 

そして、彼女等の腕が使い物にならなくなっている原因はもう一つ(・・・・)あった。

 

 

「てか何なんですかハリベル様! フェルナンドの“アレ”は!反則! あんなの反則だぜ! 」

 

 

ミラ・ローズに続くように最後の一人、アパッチが叫ぶ。

腕を振り上げ、寝台から飛び出さんばかりの勢いで叫ぶアパッチだが、その直後振り上げた左腕は重症という言葉通りの痛みを存分に発揮し、アパッチは顔を青ざめさせ寝台の上をのた打ち回っていた。

 

そうしてアパッチが腕の痛みも忘れて憤慨するもの、それが彼女等の腕が本来以上に使い物にならなくなっている理由だった。

アヨンによって酷使されたアヨン自身の身体、その酷使された状態を彼女等はその身に腕の形に戻して受け止める。

それはアヨン自身の酷使であると同時に、アヨンが負った傷(・・・・)まで彼女等が引き受けるということ。

 

アヨンが腕へと戻る際の身体状況がそのまま彼女等に引き継がれる。

そして、今回アヨンが彼女等によって腕へと戻された時、アヨンは全身を、それも外側に留まらず内側の臓腑に達するほどの熱傷が覆っていた。

所謂丸焦げ状態、その状態のアヨンを戻した彼女等の左腕は、アヨンによる爪痕と同時にその熱傷まで引き継いでいたのだ。

 

 

そしてそれは直前までアヨンが戦っていた相手、フェルナンド・アルディエンデによって成されたものだという事。。

 

 

「フッ。 アレの元々の姿を思えば当然と言えば当然、なのだがな…… それにしてもまったく 凄まじい男だよ、アイツは…… 」

 

 

アパッチの“反則”という言葉に苦笑を浮かべるハリベル。

そうして白い部屋にある窓の方へと歩くと、その窓から眼下に広がる砂漠を見る彼女。

そこに広がるのは白い砂漠と異様な光景。

広がる砂漠は普段のなだらかな姿とは打って変わって凹凸に富み、爆発か或いは強い衝撃によって抉られたように大きく陥没。

抉り取られた砂漠は白ではなくまるで焦げたように黒くなり、今も尚所々からは煙のようなものが立ちこめていた。

まるで焼夷弾によって焼き払われたような眼下の砂漠。

その凄まじさにしかしハリベルは隠された口元に笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

拳を振るう。

青年は拳を振るう。

ただ目の前の男を打倒する為に、青年は拳を振るう。

 

それを受けるは壮年の男。

男は独特の片足立ちの構えを取り、青年の強烈な攻撃を受け続ける。

それはその二人の男にとって既に日常と言っていい風景。

青年は強くなる為に、壮年の男は今よりも強くなった青年と戦う為に、ただそれだけの為に彼等は今も戦っていた。

その二人の間にあるのは他に混じるものの無い純然たる“渇望”だけ。

 

“戦い”というものへの渇望だけだった。

 

 

「フハハハハ! 今日は随分と拳が奔っているではないか青年(ホーベン)!いや、逸っている(・・・・・)、と言った方がいいかな?」

 

 

荒れ狂う拳の青年、グリムジョー・ジャガージャックの攻撃を捌きながら壮年の男、ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオはそう叫んだ。

逸っている、並々ならぬ勢いで繰り出されるグリムジョーの攻撃をドルドーニはそう評する。

攻撃の威力も然ることながら、繰り出される彼の拳はその一撃に込められた“熱”が違っていた。

ドルドーニの言葉にグリムジョーは言葉を返さない、逸っていると言われたその拳の“熱”を語る事も無い。

しかし、その“熱”の理由をドルドーニは知っていた。

 

「やはり彼の霊圧(・・・・)は、君を滾らせるのに充分足るものだったようだ……ね!」

 

 

叫ぶドルドーニ。

言葉の最後と共に放たれた前蹴りの一撃で、グリムジョーを吹き飛ばし距離をとる。

そう、グリムジョーの拳に宿る“熱”とは滾る彼の闘志の表れであり、それをドルドーニは先頃感じた一つの霊圧によるものであると結論付けていた。

 

広大な虚夜宮の片隅から放たれた霊圧、それを感じ取ったドルドーニは瞬時にそれが誰の霊圧であるかを悟った。

それは言葉で表すとすれば熱気であり炎のような霊圧、熱く猛るそれはドルドーニの知る一人の破面(アランカル)の霊圧。

霊圧の持ち主は彼が気にかけるもう一人の“強き若者”フェルナンド・アルディエンデであり、それはドルドーニが気にかけるのと同じか、それ以上にグリムジョーにとっては避けて通れぬ相手の名でもある。

 

 

「どうしたね? 青年。 先程からまったくしゃべる気配が無いが…… これではまるで吾輩が二人だけの沈黙に耐えられなくてとりあえず一人しゃべり続けているなにやら可哀相な人物だ、と思われてしまうからやめて欲しいのだがね…… 」

 

 

ドルドーニの蹴りによって距離をとらされたグリムジョー、そしてそんな彼に対するドルドーニの言葉にも彼は無言だった。

その拳から伝わる“熱”に似合わぬ口数の少なさ、さすがにドルドーニも不審に思ったのか気になる様子でグリムジョーに再び話しかける。

ワザとらしく肩を落とすドルドーニ、それが恐らく誇張した演技であろう事は誰が見ても明らかであり、構ってくださいと言っている様な出来ればふれたくもない手合いではあるが、そのふざけた態度にグリムジョーは漸く口を開く。

 

 

「あのクソガキは関係無ぇ…… 」

 

「おぉ漸く話す気になったかね。 これで吾輩の可哀相な紳士イメージは払拭された、というものだ。だが、 関係ない……か。どうにも納得しかねる回答ではある……ねぇ 」

 

 

顎に生やした髭をなぞる様に撫でながら、ドルドーニは値踏みするような眼でグリムジョーを見る。

関係ない。

グリムジョーはそう言いはしたが、ドルドーニからすればその言葉はあまり信に足るものではなかった。

他の、別の破面ならばいざ知らず、このグリムジョーという男がフェルナンドの霊圧を感じられない筈がないのだ。

そしてドルドーニが感じたフェルナンドの霊圧は想像以上に強力であり、おそらく帰刃(レスレクシオン)したと思われるその霊圧、その強力な霊圧を感じたであろうグリムジョーがそれに対し、何の興味も感想も持たないなどという事はドルドーニの中でいっそ嘘だと断じてもいいものだった。

 

そうして二人が沈黙する。

不機嫌な様子で睨みつけるグリムジョーと、何故か楽しそうに彼を見るドルドーニ。

この二人の間に語らいというものはそう多くない。

言葉を語り合う暇があるのならば、時はそれに費やすのではなく戦い、強くなる事に費やすのがこの二人の常。

語るとしてもそれは戦いの中で、その殆どはドルドーニの一方的なものではあったがそれも多くはないと言えるだろう。

 

傍から見れば少々変っている二人の関係。

ドルドーニはグリムジョーを“弟子”であるとしながらも、グリムジョーがドルドーニを”師”として認識しているかは謎。

彼は誰に問われようともドルドーニの事を語ることはしなかった。

 

それこそ彼に付き従うシャウロンをはじめとした、大虚時代からの配下にもそれを語る事はなく問われても「お前には関係無ぇ」の一言で済ませてしまう始末。

不審に思うグリムジョーの配下達であったが、日に日に着実に、そして明らかに強くなっていくグリムジョーの姿を間近で見ることでその不安感は消えていった。

彼等にとって理由など何でもいいのだ、彼等の“王”は日を追う毎に強くなっていく、彼等にとって重要なのはその一点でありそれが何故かという事はそれほど重要ではなかった。

 

 

そう重要ではないのだ。

重要なのは呼び名ではなく本質であり、言葉に出さずともそれはそこにあるのだから。

 

 

「チッ 」

 

 

沈黙を破ったのはグリムジョーの舌打ちだった。

舌打ちと共に顔をそっぽに向ける彼。

不機嫌、というよりは寧ろ面倒だといった様子の彼、そんな彼をドルドーニは依然楽しそうに見ている。

 

 

「確かに、あのクソガキの霊圧は感じた。 悪くない霊圧だ…… だがな…… 今の俺に必要なのはアイツじゃ無ぇ(・・・・・・・)

 

 

グリムジョーは静かに語る。

感じたフェルナンドの霊圧、それを悪くないとしながらもそれは今自分には必要ではないと、彼はそう言ったのだ。

彼にとって避けて通れぬ相手の霊圧、彼の気質から言えば悪くないというのはある意味賛辞とも取れる言葉ではある。

しかしそう言いながらも彼はその霊圧を放つ者を今必要ないと言うのだ、それは一体何故か、ドルドーニも楽しそうな顔は崩さずともどこか怪訝な雰囲気を漏らす。

 

 

「おいオッサン。」

 

「何だね青年? というよりオッサンではなく紳士(セニョール)、もしくは師匠(マエストゥロ)と呼び給えと吾輩何度も言っているだろう?」

 

 

グリムジョーはドルドーニへと逸らしていた視線を向ける。

ドルドーニはおどけた物言いをしながらも、その瞳は決してふざけている様子ではなかった。

 

 

「……いいか、俺がオッサンと手を抜いて(・・・・・)()り合うのは今日で最後だ…… 次は…… 次はあの場所(・・・・)でケリをつけてるぜ」

 

 

ドルドーニの瞳が僅かに見開かれる。

グリムジョーの発した言葉、それは何時かの強奪決闘(デュエロ・デスポハール)で叩きつけられた“挑戦”を明確に言葉にしたもの。

無言の挑戦と無言の承諾、言葉無くしかしそれにより交わされた“戦いの契り”、その後もこうして手合わせを続けていた二人にとってこのグリムジョーの言葉は“終わり”を告げるものだった。

 

 

「手を抜いて、か…… 互いに剣は抜けども解放はせず、霊圧を用いた技も使わず、肉体だけで戦うのは確かに限界ではある…… 言われてみればこんなものは“ママゴト”と同じ。いや、それにはどこかで気付いていた、と言うべきかな」

 

 

グリムジョーの言葉にドルドーニは静かに答えた。

 

手を抜いて戦う。

 

ドルドーニにとって位階では格下であるグリムジョーが放ったその言葉、ただそれだけを訊けば随分と傲慢なものに聞こえるそれ、しかしドルドーニにそれを咎める様子や、怒りを覚える様子は無かった。

ドルドーニ自身わかってたのだ、手を抜いて戦ってるという意味を。

 

二人は互いの肉体のみを持って戦い続けていた。

刀剣解放も、虚閃に代表される霊圧を用いた技も使わずに、霊圧による肉体強化のみで戦い続けた二人。

それは強くなる為の一つの方法論であるのと同時に、全力を出してしまわぬように(・・・・・・・・・・・・・)するというある種の制限。

 

片や虚夜宮十強の一角である第6十刃(セスタ・エスパーダ)、片やその十刃に最も近いとされる破面、その二人が全力で戦ってしまえばどうなるかなどは、想像する必要すらないほど明らかだった。

そもそも虚夜宮の天蓋の下での刀剣解放は慣例として禁止であり、その時点で全力を出すことなど出来はしない。

だがそんなものはあくまで慣例であり、第4十刃以上に課せられた厳守と比べ緩いものではある。

それでも十刃クラスの霊圧の衝突は虚夜宮に影響を齎すのは明白、それ故に解放や霊圧技の使用をドルドーニが禁止していた。

 

 

だが、それは結局のところ微温湯の中の戦いでしかない。

 

 

確かにグリムジョーとドルドーニの実力差があるうちならばいいだろう。

しかし日に日に強くなるグリムジョーの力、互いの差が埋まるにつれその戦いは熱さを、命を削るという熱さを無くして行くのもまた事実だった。

その無意味さ、それをドルドーニも、そしてグリムジョーも判っていたのだ。

互いが互いに求めるのは、互いの全てを賭けた戦い、互いにそれを望み、誓った二人にとってその前に微温湯に浸かるというのは、その後の熱を奪ってしまうかもしれない行為。

そんなことはドルドーニにもとうの昔に判っていた事、しかしドルドーニは終わりを無意識に先延ばしにしていたのだろう。

目の前で日に日に強くなっていく男、その成長をもう少しだけ、あと少しだけ見ていたいと思う気持ちが彼にそれを直視させなかったのだ。

 

あまりにも眩しい若さと野望とそして欲望に満ちたその青年を見ていたかったが故に。

 

 

「オッサン、アンタを倒して俺は上に行く。アンタがふんぞり返ってる(場所)を奪うぜ…… だがそんなもんじゃ終わらねぇ。 俺が目指すのは“王”だ、 ”戦いの王”だ、 その為に…… その為に俺は…… アンタを越えて行く(・・・・・)

 

 

それはグリムジョーの宣言。

ただ己の力を振り回す獣そのものだった彼はもうそこに居なかった。

それは己の中の獣を殺したと言うことではなく、己の内に獣を内包した戦士となった証。

 

静かに、だが紡がれた言葉には絶対の自信が漲っている、そしてその自信は彼の瞳からも伝わっていた。

それはただの虚勢ではなく、自身の実力を知りそれに裏打ちされた自信。

薄く細いそれではなく、撓まず、曲らず、折れない精神の柱によって支えられたものであった。

 

「言う様になったじゃないか…… だがそう易々と譲れるほど吾輩のいる場所は易くは無いよ、青年。だが…… こうして挑まれたならばそれに答えるのが紳士の務め。改めて十刃として(・・・・・)青年の挑戦を受けよう。そして吾輩の“全力”をもって青年と戦うと誓おうではないか!」

 

 

グリムジョーの宣言にドルドーニもまた宣言する。

全力をもって戦うと、微温湯ではなく、第6十刃に上り詰めた自身のもてる全てを持って戦うと、ドルドーニは高らかにそう宣言した。

ドルドーニの顔は愉悦に満ちる。

待ち望んだものはもう直ぐ彼の下に訪れると、愉悦を浮かべながらもその瞳には燃え盛る闘志が炎を灯している。

 

所詮彼等はどこまでいっても戦士なのだろう。

戦うことでしか己を証明出来ず、理解出来ず、他者と交わる事も出来ない不器用な存在。

言葉の語らいで表現出来ず、語るならば互いの拳を、刃を通して語らう事しか出来ない不器用な存在。

だがそれは、だがそれはどこか羨ましくもある在り方だった。

 

 

「なら今日は終いだ。 次ぎ合う時は殺し合い…… 簡単に死んでくれるなよ? オッサン 」

 

「ふん! 吾輩を一体誰だと思っているのだね?吾輩は第6十刃ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ!虚夜宮の嵐を呼ぶ男にして全女性(フェメニーノ)の永遠の従属官!女性が吾輩を待っていてくれる限り吾輩は死んでも蘇るのだよ!ハハハハ!!」

 

 

おどけたドルドーニの態度とそれを面倒そうに眺めるグリムジョー。

それは常通りの姿、そして恐らくは最後の日常の姿。

次に互いがまみえるのは、ただ奪い合う事だけしかない決闘の場であり、そしてどちらかが全てを奪われるのだ。

 

グリムジョーが踵を返す。

ドルドーニに背を向けその足を踏み出そうとした瞬間、ドルドーニがその背に声をかけた。

 

 

「おぉ、忘れるところだったよ青年。 少年(ニーニョ)の霊圧が君の拳を逸らせた原因ではないとするならば、一体何がそうさせたと言うのだい?」

 

 

それはドルドーニの些細な疑問だった。

彼はグリムジョーの逸る拳の原因は、フェルナンドが発した霊圧を感じた為だと思っていたのだ。

だがグリムジョーはそれを否定した。

では一体何が彼の拳を逸らせたのか、この場を逃せばこうして言葉を交わすことは無くなる、故に最後にドルドーニはそれが知りたかった。

 

 

「大した理由じゃ無ぇ……」

 

「ならば教えてくれてもいいではないか、青年」

 

 

ドルドーニの問にグリムジョーは背を向けたままで答える。

一瞬の間の後、己の拳の逸りは大した理由ではないと、それだけを答えた。

それに対してドルドーニもならば教えてもいいだろうと食い下がる。

沈黙、グリムジョーの答えを待つドルドーニと、何事か迷うグリムジョー。

そしてやはり舌打ちをすると、グリムジョーは答えた。

 

「本気でアンタと()りあったら…… そう考えたら俺の中の獣が表に(・・・・)出てきた…… それだけの話だ 」

 

 

それだけ答えるとグリムジョーは響転(ソニード)でその場を去る。

残されたドルドーニは目を丸くしたまま立ち尽くしていた。

 

フェルナンドの霊圧、それが彼の拳の逸りの原因だと思っていた。

だがそうではなかった。

自分が、自分との戦いが彼の拳の逸りの、“熱”の正体だったと知るドルドーニ。

 

 

「……クッ…… クククッ…… 」

 

 

声を漏らしながら俯く彼。

そうか、そうだったのかと。

彼の拳から感じた“熱”の来るところはフェルナンドではなく、自分だったのかと。

それ程までにあの青年は自分と戦う事を望んでいるのか、と。

ドルドーニの中にふつふつと湧き上がるものがある。

それは間違いなく、グリムジョーの拳から感じたものと同じ“熱”だった。

 

 

「クククッ…… フハハハハハハ!! いいだろう青年!吾輩はその“熱”に全力で応える!君の内にいる“獣”がその爪を!牙を!存分に振るい吾輩の内なる“嵐”と共に咆哮するような!そんな戦いを吾輩としようではないか!!!」

 

 

逸り猛るその拳、その拳とまみえることが今のドルドーニには待ち遠しかった。

互いの存在を喰らうために戦う事が待ち遠しかった。

その後にあるのは死かも知れない、だがそんなものは今考えることではないと。

今考えるべきはどうすれば彼の“熱”に応えられるか、という一点であり、それ以外は今はいらないのだ。

最早その約束の時に焦がれてるかのような自分が、ドルドーニには愉快で仕方が無かった。

 

 

嗤うドルドーニ、その声はただ歓喜に満ち満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暴悪

 

暴威

 

暴虐

 

暴慢

 

暴君の帰還

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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