Fate/editor's duty   作:焼き鳥帝国

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今回は少々急造。色々粗いかもしれませんが、会話パートとデータをお楽しみください。


宣誓

 月光も届かぬ地下工房、召喚陣を強化補強する魔術陣や魔術帯、魔術陣球が全天を規則正しく巡っている。その中心、中空に浮かぶ足場で、召喚された美貌の少女騎士は問う。

「問おう、貴方が私のマスターか?」

 少女は青いドレスに甲冑と言ったドレスアーマーを身に纏い、魔術陣のエーテル光に輝く金糸は三つ編みを巡らせるように後頭部で一纏めにしていた。厳粛な雰囲気にも拘らず、その少女としての清潔な魅力は少しも損なわれていない。場も相まってあらゆる人が見惚れるような幻想的な一幕。

「そうだ」

 八都が短く答えると、少女は胸を張って凛然とした態度で、宣誓をする。

「召喚に応じ参上いたしました。サーヴァントセイバーです。これよりあなたの剣となり盾となり敵を討ちましょう」

「衛宮八都だ。よろしく頼む、セイバー」

 セイバーは、衛宮と言う部分でピクリと眉を跳ねさせたが、すぐに真面目な表情で八都に問いかけてきた。

「マスター、上方にサーヴァント三体の反応があります」

「一人は味方だ。召喚の時間稼ぎをしてくれていると言う事になっている」

「……ということになっている、とは?」

 セイバーの表情が多少厳しくなった。聞きようによっては捨て駒にしているようにも思えるだろう。態々表情に表れるということは何か嫌な記憶でも思い出したのかもしれない。そんなセイバーを安心させるように八都は努めて明るい笑顔で言った。

「足止めだけで済ますような、可愛らしい性格の奴じゃないってことさ」

「はあ」

 セイバーは納得したような不可解なような様子で。それは一瞬であったが、気の抜けた普通の少女のような表情が、印象的だった。

 

Fate/editor's duty

第六話 宣誓

 

「いや~、可愛いわ~。ほんと八都には勿体ないわね」

「あの、その、リン、余り触られるとですね」

「いえ、セイバーは実に可愛らしい。食べてしまいたいくらいです」

「あのですねライダー? 聞くところによると貴方は今まで敵だったのでは、って近いです近いっ、あっ、どこを触っているのですかっ!」

 三人寄れば姦しい。場所はあっという間に修復された衛宮邸の居間。女子組三人は、仲良さ気にいじり弄られていた。主に一人が集中砲火を受けているが、平和と言えば平和だろう。

「なんでこんなことになってるんだ?」

「野暮なことを聞くなよ慎二、良い目の保養じゃないか」

 一方こちらは男子組、テーブルに肘をついてぼんやりしていたり、のんびりと茶を啜っていたり。つまりは現状が理解できないと頭を痛める常識人ポジションの慎二と、笑いながら目を楽しませている八都だ。アーチャーは霊体化して魔力の節約に努めるついでに、屋上で見張りをしていた。勤勉と取るかこの事態から逃げたと取るかで評価が分かれる。ちなみに、慎二を煽るだけ煽って凛に全てを押し付けた形になった八都は、地下シェルターから女性用の衣服を強制的に数着強奪されていた。無論今は必要ないはずの凛の分も含めてだ。納められていた中から高い順にコーディネートしただけあって女子組のうち二人は華麗な変身を遂げている。ちなみに、何故地下シェルターにそんな洒落たものがあるかは、変な所で凝り性な八都の趣味だ。

 九死に一生の状態だったとはいえ一戦手伝っただけのこちらに対し、二体もサーヴァントを相手どった対価としては破格に過ぎるか。

 そんなことを思いながら、八都は大変身を遂げたサーヴァント二人を見る。凛は貰うだけもらって家で着るそうだ。

 セイバーはフリルの付いたシャツに青色の紐タイ、紺のリボンハイウェストのスカートを履いた令嬢風。ライダーはブラウンに黒の刺繍が付いたのニットベルトミニワンピースを着ている。魔眼殺し代わりに使っていたバイザーは取り去られ、その代わりに強力な魔眼殺しの眼鏡が付けられていた。これも八都の作品である。何故こんなものがあるのかと言うと、当然知っていたからだ。二人とも黒いタイツを履いて暖を取っており、美しく着飾ったその姿は美貌も相まって場の空気を華やかなものにしてくれている。

「あの妖怪爺も電話一本で今日は帰ってこなくていい、だし」

 慎二はもやもやとした気持ちを表すかの様に不貞腐れている。

「世は全て事もなしじゃないか、慎二」

 八都としても、なんとなく凛に任せた方がうまくいくとは思っていたが、慎二が改心するとまでは思っていなかった。今の彼からは全く悪い気配がしないのだ。憑物が落ちたとでもいうのだろうか、熱に浮かされず聡明な様子を取り戻している。

 よほど遠坂の活躍が鮮烈だったらしいな。

 召喚の準備をしていた際、上方から感知した神秘のぶつかり合いは尋常ではなかった。片やA+ランク宝具の最上位、片や滅多な大儀式でもそうそうお目にかかれない神霊レベルの超魔術。一聖杯戦争の最終決着にもふさわしいレベルのぶつかり合いだ。かなり目立ったことだろうし、間近で見た時の衝撃は計り知れないだろう。人生観の一つや二つ変えてしまったのかもしれない。

「ヤツト、見てないで助けてくださいっ」

 セイバーが顔を赤らめながら救難要請を出してきた。弄繰り回されている所為で、チャームポイントのアホ毛がぴょんぴょん揺れる。無論、そんな惜しい真似をする八都ではない。寧ろ美貌全開の笑顔で畳みかける。隣で慎二が、「自分が言えた義理じゃないけど見境ねーなこいつ」、という顔をして茶をしばいていた。

「いや、可愛いぞセイバー、お姫様みたいだ」

「からかわないでくださいっ」

 セイバーの顔は赤い。本当にからかわれていると思っている様子だ。女の子扱いと言うものを長らく受けたことのない人間の反応である。故に八都は、事前に準備した仕込みを使う事にした。

「本当さ、今俺に出来るのはこれくらいだけど」

 八都が指を鳴らすと、パッと広がる柔らかな光とともに花の簪が現れる。可愛らしくも優美なデザインのそれは、見るものを見惚れさせるには十分な芸術品だった。八都がその手でそっと送り出すと、きらきらと光の尾を引いてセイバーの手元に辿り着く。

「プレゼントだ、使い方は分かるかな」

「えっと、ヤツト、私はサーヴァントで、こんなものを頂くわけには」

 そう言いつつも、その見事な工芸品はセイバーの心を揺さぶるには十分だったようだ。無理もない。それは見る者の心を不思議と癒してくれた。まるで本物の花が生命力一杯に朝露に濡れて輝いているようだ。否、感じられる生命力には百万の花束にも似たものがある。間違いなく礼装である。

「可愛い女の子にプレゼントを贈るのは男の務めだ。サーヴァントかどうかなんて関係ない」

 八都はイケメンメーターは臨界突破だ。漫画だったら周囲に花が咲いている。凛がげんなりし、慎二は我が身を振り返り、メドゥーサはライバルを見る目をしていた。

「まあ実用品でもある。よかったら着けて見せてくれないか?」

 なるべく親しみやすく、それでいて相手を慮った態度で提案すれば、セイバーは多少拙い手つきながら、凛の手を借りて髪を纏めてある後頭部にそれを刺す。涼やかな美少女のセイバーに、その簪はとても似合っていた。まるで簪の生命力がセイバーを包んでいるかのようだ。

「一番の実用性は可憐な女性を引き立てることだな。綺麗だ、似合っているよ」

「あ、ありがとうございます、ヤツト。ですか、私はサーヴァントであることを、その、忘れないでください」

 八都の掛け値なしの賛辞に、セイバーはそっと頬を染めてうつむき加減に礼を言った。こういう扱いに全く慣れていないようだ。今も、そこにちゃんとあるのか不安なように、横目で見ながら、そっと簪に触れている。八都の心からの気持ちは、その魅力とカリスマ性に裏付けされてセイバーの心にも届いたようだ。敵意無き相手に対する嘘偽りのない気持ちならば、スキルによって極めてダイレクトに伝わるのだ。

 故にビークール。紳士的であれ。

 八都の内心はともあれ、そんな様子を見て心動かされたのは男性陣のみではない。乙女乙女しているセイバーにたまらなくなった凛とライダーが、横合いからセイバーに抱きついた。

「んもう、可愛いっ! セイバー可愛いっ!」

「そんなに誘ってどうする積りですか? 食べてほしいんですか?」

「ちょっ、二人ともやめてくださいっ」

 再び姦しい様子が再開された。ただ、先程よりもセイバーの顔が赤いのは間違いないだろう。その他二人のテンションが上限知らずなのも間違いないので、ここらで止めなければならない。もはや修学旅行の女学生レベルのテンションだ。

「こんなにのんびりとしてていいのか?」

 慎二の疑問の声に、八都は丁度いいとばかりににこやかに答えた。

「実はよくない。遠坂、ステイ、カム」

 八都が凛を呼ぶと、彼女はセイバーをいじる手を止め、テーブル越しに八都に向き直った。ライダーはまだ弄ろうとしていたが、一対一になったセイバーの牙城を崩せずにいる。

 凛は、多少不満げに右側の髪を掻き上げてから。左側のツインテールをくるくると弄ぶ。私も何かほしいなーというかのようだ。しかし、素直じゃない凛はちょっと誤魔化して言った。

「何よ、追加報酬は随時受け付けよ、エーテル剣とか」

「ライダーの魔眼殺しで勘弁してくれよ、キスの雨ならプレゼントするさ」

「いらないわよっ」

 凛の要求は一見がめつい様に見えるが、実際の所超Aランク宝具級の宝石を消費したのはかなり痛いのだ。一つあれば戦況を変えるどころか覆すことも可能な一品。十二個揃えて儀式魔術をすれば、聖杯の存在意義も揺るがしかねない。尤も、主兵装を奪うのは可愛い誤魔化しというには過ぎた行為だが。

「まあ、今後の事を少し話しておこうと思ってな」

「今後? いつも通り八都と組んで戦いまくって、最後に二人で決着でいいんじゃないの?」

「それで良いと言えばいいんだが……」

 八都の所為で少々脳筋仕様の凛である。シンプルイズザベスト。力こそ全てなのは良いのだが、些か短絡的である。八都のいない世界で遠坂マネーイズパワーシステムが生まれるのも無理からぬ。

「桜が魔術師教育を受けているのは良いんだが、臓硯だぞ? まず間違いなく真っ当じゃない。放っておけないだろう」

「真っ先に潰せってことよね」

 凛があっけらかんと答えながらも、確かな怒りを乗せて言う。身に覚えのある慎二がビクリと震えたが、誰も敢えて気にしなかった。敗軍の将に対する情けであり、改心した彼に対する気配りだ。

「……そうだな、だが、桜の確保が先だ。サーヴァントがいる今だからとはいえ、人質にされるときつい。500年物の化け物だぞ、相手は」

 八都が額に手をやりながら嘆くように答える。しかし、凛はまたもあっけらかんと言ってのけた。

「悪い化け物にとらわれた少女を救出しつつ事態を解決するなんていつもの事じゃない」

「……いつもの事なのか?」

 自分の家の将来が勝手に決められているという事態を前に、慎二がひねり出せたのはそれだけだった。二人がどれだけ修羅場をくぐっているのか彼には想像できなかった。

 八都は、あえて慎二の問を曖昧な笑顔ではぐらかし、凛に真面目な顔を向ける。

「桜を確実に助け出せるのはサーヴァントを率いている今だ。そして、臓硯は誤解しているだろう。今まで気づいていながら放置したのだから、今更方針を変えはしないだろう、と。今なら俺と遠坂でもやってやれないことはないわけだからな」

「そう言う事、まあ、あんたを殴るなり抱きしめるなりするのは桜に任せるわ」

 そう言いながら八都の眼を隠すようにそっと手のひらを重ねる凛。

「でもね?」

 そして、徐々に徐々にその手が締まってゆく、頭と顔を巻き込みながら。

「痛い遠坂、痛い痛い……痛い痛い痛い痛い痛いぃっ!」

 最初は緩やかにじわりじわりと締め上げる恐怖の所業。見れば、漫画チックに指先がめり込み、座っている八都の腰も少々浮いている。

「姉としては命を捨てようがさっさと助けたいのよっ」

 凛のそこら辺の事情は、八都も本人から聞く形で把握している。

「遠坂ならそう言うから黙っていたんじゃないかっ」

 八都は叫ぶが、凛は関係なしだ。殴るなり抱きしめるなりは任せるが、握りつぶすのは私の領分だと言わんばかり。プレス機も真っ青だ。八都と社会経験を積んで擦れたかと思えば、まったく以て真っ直ぐな性根のままである。八都を片手で空中に吊り下げる凛を、慎二は恐ろしいものを見るようにちょっと遠巻きに見ていた。サーヴァント組にとってはサーヴァント二人組は片や呆れつつも安堵、片やうんうん頷き、両者とも凛の主張に賛意を示している。

 数十秒後、少々気が治まった凛が、それでもぷんすかしながら八都を解放した。八都は「いててて……」と両手で指のめり込んだ跡をさすりながら口を開いた。

「後、実を言うとちょっとややこしいことになっていてな」

「いつもの事じゃない」

「やっぱりいつもなのか」

 凛の断定と、慎二の妙な納得をよそに八都は続けた。

「実は生き別れた姉がアインツベルンの枠で聖杯戦争に参加している」

「あんたの家も大概ややこしいわね! 助ける! 決定!」

 凛の即断即決。頼もしさで言えば聖杯戦争中でも群を抜いているかもしれない。八都はそんな頼もしさに水を差す気分で続けた。

「多分大英雄をバーサーカー化している」

「えっ、アインツベルン馬鹿じゃないの?」

 凛が、英雄の技を態々殺すなんてと言う意味合いで言う。アーチャーを使役する凛には、既にその技量の重要性が良く分かっていた。

「多分その大英雄はヘラクレス」

「え゛っ、アインツベルン馬鹿じゃないの?」

 凛が、何その化け物怖いという意味合いで言う。凛は、ヘラクレスと言う英雄の恐ろしさを類推と直感で理解できてしまった。SANチェックだ。1D4/1d10。実質的にはバーサーカー化はマイナスであるのだが、そんなマイナスを吹き飛ばすほどヘラクレスと言うネームバリューは凄まじかった。

「そんな情報どこで手に入れたんだ?」

 常識枠の慎二が問いかけた。召喚したサーヴァントの正体などと言う致命的な情報、まず普通は手に入らない。しかし、八都は何でもないかの様に直答した。

「アインツベルンの持っている触媒はすべて把握している、その中でバーサーカーとして呼び出しそうなものをピックアップ、後は勘」

「勘なのか」

 慎二が理解しがたいという表情で言い。

「勘なのよこいつ」

 凛が「しょうがないやつでしょ?」とでも言いそうな態度で言い。

「勘頼りはお前もだろ、遠坂」

 八都が「逃がさんぞ、お前だけは」と言うように凛をジト眼で見る。すると凛は、頭の後ろで手を組んで口笛だ。可愛かったので許した。

「ヤツト、ヘラクレスとあらばそれは恐ろしい敵でしょうが、今の私ならば後れは取りません」

 セイバーが凛然とした態度で口をはさんできた。相変わらず凛に片手間で弄られ、ライダーに色々狙われたままなので少々格好がつかないが。ステータスに直感を持つ彼女としても話題の継続は避けたいところだった。実利を持った恐るべき王の知略である。

「バーサーカーの伝承からして十二回勝たなきゃ殺せないとか、ありそうだけど」

「ご安心を、それでも後れは取りません」

 セイバーは断言した。そして、彼女にはその断言をする資格がある。八都は、全員が分かるようにステータスを映像化した。無論、隠すべきところは隠して。

 

真名:???

クラス:セイバー

マスター:衛宮八都

属性:秩序・善

性別:女性

身長:154cm

体重:42kg

武装:鎧、剣

筋力A

耐久A

敏捷A

魔力A+

幸運A+

宝具A++

 

「ばっかじゃねーの」

 と思わず慎二が呟く。ライダーが隣で凄い勢いで首肯していた。あと少し遅かったらこれと相対してたのだ。

 規格外中の規格外と呼べるステータスである。尚、名称と効果は八都以外には隠してあるが、その他スキルもAランクが勢ぞろいしており、対魔力A、騎乗A、直感A、魔力放出A、カリスマB、と世の中の不公平を体現したような存在だった。仮に八都が戦場で見かければ、即行で転移して逃げるだろう。尤も、元々のステータスが高いことは間違いないが、八都による特殊な召喚と、彼がマスターである影響は間違いない。通常はもう少し常識的なステータスである。

 ちなみに、ライダーのステータスを表示すると。

 

真名:メデューサ

クラス:ライダー

マスター:遠坂凛

属性:混沌・善

性別:女性

身長:172cm

体重:57kg

武装:ダガー

筋力B

耐久D

敏捷A

魔力B

幸運C

宝具A+

 

 である。これでも今次聖杯戦争までに呼ばれたライダーの中では間違いなく最強クラス、或いは最強と断言しても良い存在である。スキルの方も対魔力B、騎乗A+、魔眼A+、単独行動C、怪力B、神性E-と、超一流どころに劣っていない。今のセイバーがおかしいのである。あと凛。A+ランク宝具のベルレフォーンも、ペガサスの速度だけは英霊の戦闘速度に対し遅い気がするが、防御力は他の追随を許さない。魔眼と組み合わせて使えば初見殺しだ。

 ちなみに、代理令呪による仮とは言え、凛がマスターであることにより慎二がマスターの時よりも宝具以外全体的にランクアップしている。その不幸な伝承からすると、幸運がCまで上昇していることは一種の奇跡だろう。

「さっきのあんたのステータスがこれだったら私死んでたかも」

「いえ、貴女の魔術の腕前その他は異常ですから」

 凛がぼそりと呟くと、ライダーは苦笑いで突っ込んだ。陣地などで強化した上で、一級呪物と長大な詠唱を要するほどの儀式魔術を宝石に刻印、封入しているのが凛である。数千キロトンのTNTを携行しているようなものだ。それゆえかかる手間で通常は大量には用意できないはずであるが、凛は八都との共同研究で高速作成と短縮作成スキルを英霊スキル基準Aランクで保持している上、宝具クラスの製造陣地を持ち、更には様々な魔術的行為を補助する補助礼装まで拵えている。その作成精度と速度は異常の一言。英霊級魔術師の看板に偽り無しである。

 ここで、ついでとばかりに八都と凛のデータを八都が独自の魔術でステータス化、空中映像に映す。ステータス化は彼の本質の一端に触れる魔術の一つであり、仮にマスター権限がなかったとしても、彼はあらゆる英霊の力量すらもこの魔術でステータス化できる。

 

真名:衛宮八都

クラス:-

マスター:-

属性:中立・善

性別:男性

身長:180cm

体重:75kg

武装:剣、鎧、銃、手袋型礼装

筋力D

耐久D

敏捷B++

魔力EX

幸運A

宝具?

 

真名:遠坂凛

クラス:-

マスター:-

属性:秩序・中庸

性別:女性

身長:159cm

体重:47kg

武装:宝石、手袋型礼装

筋力D

耐久D

敏捷A+

魔力A

幸運A

宝具A++

 

「魔力EXってなんだ……? てかなんで二人とも宝具ランクがあるわけ?」

  慎二が一番の突っ込みどころにまず触れた。人間ではありませんよ、という自己紹介に等しいステータス。特に魔力EXなど、イリヤなどのホムンクルスでもなければ持ちえない代物だ。流石に彼女クラスの魔力量ではないが、それでも凛の四倍相当である。何気に彼女の魔力表記もまたカンストであるし、エーテル剣装備の八都なら一方的に蹂躙出来るのでステータス表記のみで実力を表すことは出来ないのだが、両者とも怪物(英霊)の領域にあることは確か。それは燦然とある宝具ステータス表記が物語っている。

「なんで私の宝具ランクだけ開示されてんのよ」

 不機嫌そうに凛もぼやく。先の大魔術の内包神秘を宝具換算しているだけだが、自分だけ手の内曝したようで気に食わない様子。それもそうかと彼は納得し、八都の宝具記載がAになる。エーテル剣等を宝具換算すればこれくらいである。持てば達人になれるどころか、達人が大達人になれる装備だ。内包神秘的にはランク詐欺であるが、それをもってしても近接戦闘は分が悪いという辺りに英霊の凄まじさがある。また、生前なら更に強かった、等と言うものもざらにいる。クーフーリンしかりセイバーしかり、ヘラクレスなど最たるもの。

「一番の切り札に関しては勘弁してくれよ。遠坂もあるだろ」

「まーそーだけど……」

 二人とも、基本的にキャスタークラスに相当する技能とステータスだ。魔術的に強化すれば身体能力は1ランク程度アップするが、技量的には無理がある。素早さに関しても、この場合反応や認識速度を評価したものなので物理的に速いわけではない。だがデータ上、敵も魔術戦闘主体ならば並のサーヴァントどころか一部上級サーヴァントとさえ状況次第で互角に渡り合える。英霊クラスの魔術師に時間を与えてはいけない、という事実を明確に教えてくれていた。

「二人の魔術ランクってどれくらいなんだ?」

 スキル欄が表示されていないので、慎二が思わずと呟いた。

「Aだな、表記上は」

「あー現代基準で?」

 表記上と階梯の照応なんて知らねーよ、と慎二が促す。答えたのは凛だった。

「第十階梯」

「冠位クラスじゃねーか! 聖杯戦争なんてやってねぇで論文書いて昇梯申請出せよぉ! 遠坂も衛宮も聞いた(きぃーた)ことねーよっ!」

 何やってんだてめぇらと、呆れ混じりに突っ込みを入れる慎二。だから申請出してないのよと凛。幻の階位。そう呼び表されるほど冠位魔術師と言うものは数が少ない。現存している冠位魔術師ともなればいかほどか。時計塔の最高名誉称号『色』を進呈されるほどで、寧ろ数十年前に、数十年ぶりに蒼崎橙子がとったきり音沙汰がない。第十階梯は、冠位魔術師の前提とされる魔術師階梯だ。そも、一つ下の色位魔術師からして、魔術師の総本山とも呼べる時計塔で事実上最高峰の実力保持者達。二十代でここにいれば、現代では十二分に大天才の魔術師であり、傑物や麒麟児と呼び表される。つまり冠位とは、怪物の別称なのだ。件の蒼崎橙子に至っては、二十代で魔術基盤を二つほど蘇らせている。魔術師的には死人を二人ほど蘇らせたようなものだ。

「聖杯戦争で失われたら現代魔術界の損失ってレベルじゃねーか。ロード・エルメロイの二の舞踏む気かよ」

 慎二は「はあっ」と息を吐いて、呆れたように椅子に腰を下ろす。熱が入って、いつの間にやら立ち上がっていたようだ。言っていることは魔術師的に極めて正論なので、聖杯戦争や魔術への偏執が本当にどこかへ行っているのが伺える。

「彼は色位だったが――聞き及ぶに、冠位にも至ったろうな……」

 八都が、何かを思い出すように呟く。

「何それ自慢?」

 それを慎二が揶揄った。遠坂はニヤニヤと眺め、セイバーは話についていけておらず、ライダーは現代魔術師のレベルのほどに興味深げだ。そして、八都が珍しく苦虫をつぶしたような顔をしている。気が緩んでしまったようだ。イリヤに対してなど、ここ最近感情をあらわにすることの多いが、本来はそれらをそっとしまい込んで置きがちな男である。まるで発露することで目減りするとでもいう様に物惜しみ、緩衝材を挟んで誤魔化すのだ。つまり凛がニヤニヤと笑っているのは、久々に可愛げのあるところを見たと示す趣旨でもあるし、少し余裕が出てきたかと言う慈しみの意味でもあった。

「いや、彼は……ん……」

 八都は言うべき言葉が見つからないとでもいう様に口籠る。彼がロード・エルメロイに向ける感情は複雑だ。口惜しい、物悲しい、やるせない、尊敬、親愛。それに、彼を殺したのは八都の養父だ。申し訳なさと憐みだけは心内でも形にしたくはなかった。様々な感情が混然一体となり、結局は一側面に過ぎないやるせなさだけが体を成す。ロード・エルメロイⅡ世という、希代指導者が結果として生まれているという事実もまた複雑極まりない。生まれからして普通ではない彼にとって、若くして色位魔術師に至った先代エルメロイのような存在は、凛にも並び尊敬に値する存在であり、コンプレックスを刺激する要素でもあった。

「あー、うん。まあ、素直に冠位レベルの魔術師ってのは凄いんじゃない? 実際に取得すれば、魔術師にとって封印指定を超える栄誉じゃないか。うん、大したものだと思うよ」

 慎二が、場の空気を誤魔化すように量増しした賛辞を述べる。このような発言や気遣いはらしくはないが――少なくとも八都を感情の袋小路から救い出したようだ。彼は、長めの瞬きと共に、友人へと僅かに頭を下げる。慎二は多少居丈高気に顔を逸らし、照れ隠しに鼻息を漏らす。凛は、物珍し気に二人の様子を見る。そんな三人の様子にサーヴァント達は興味深げだ。つい先ほどまで殺しあっていた仲とは思えなかった。少なくとも健闘を称え合うような戦争ではないのだから。

 八都はそんな周囲の様子に気づきながらも、敢えてただ一口茶を飲み、切り替えてから説明を続けた。

「魔術階位、ないし魔術階梯は魔術的闘争状態においては武装レベルだ。正直、単に第十階梯であるだけなら非戦闘型のキャスターの中でも最弱の部類だよ」

「あー、キャスターの条件が魔術ランクAだっけ? ふーん、その最低基準が第十階梯なのか……」

 魔術に興味はあれど魔術に関わる事の出来なかった慎二としては、中々新鮮な知識だったようだ。魔術書籍は読めど、役に立つ知識(もの)など手に入らなかったのだから。意図してかせずか、補足するために凛が慎二の方を向いた。

「私たちは戦闘特化、というよりは戦闘行為から入って術式を発展させてるの。通常の冠位レベルの魔術師とはだいぶ毛色が違うわ。聖杯戦争向けよ」

 八都や凛の本領については、先に凛を例に述べたように豊富な作成スキル。道具作成と陣地作成、ともに英霊スキル基準でAランク。高速作成や短縮作成、大量生産や改造技術といったスキル群も全てAランクに揃え、鍛えに鍛えた詠唱技術すら作成時間削減のためという徹底ぶり。正確には、“最強のものを造る”というアトラス院的考え方ではなく、“最強の状態にする”、という安全性・確実性を基準にした効率重視がコンセプトなのだ。

「ジャンルが違うよね、君達だけRPGで敵倒してレベルアップしてる感じ」

 鋭い……。と八都と凛は曖昧な笑みを浮かべながら慎二の勘を賞賛した。取りあえず、二人のデータは見終わったと、次を表示することに。アーチャーのステータスだ。ここにはいないが、本人に凛が念話で許可を取ったうえで表示した。何やら嫌味を言われたようで凛が顔を顰めていたが、喧嘩するほど仲が良いというものだろう。尚、本人の意向でスキル欄は完全に開示されない。

 

真名:???

クラス:アーチャー

マスター:遠坂凛

属性:中立・中庸

性別:男性

身長:187cm

体重:78kg

武装:双剣、弓

筋力C

耐久B

敏捷B

魔力A

幸運E

宝具?

 

 規格外の凛が馬鹿みたいに宝石を使って召喚した所為か、史実よりもステータスがほぼワンランクアップ。また、あの大英雄クーフーリンの猛攻を退けること二度。その技量は既に証明されていると言っても過言ではあるまい。非表示になっている宝具も知らぬものには不気味だろう。ちなみにE~A++という、また見るものを困惑させる表示である。更には、アーチャーなのに近接戦闘が凄まじく達者。凛はまだ彼が弓を使っているところを見たことがない。クラス補正で剣を使った戦闘には多少のマイナスもかかるであろうに、それで上記の偉業である。

 仮にであるが、クーフーリンの当時の同郷の者に「クーフーリン? 二度ほど剣で退けましたわ、自分本業弓っすけど」等とどこの誰とも知れぬものが言えば、ほら吹き扱いしてくれるのは間違いないだろう。尚、ケルト英雄相手の場合喜び勇んで喧嘩吹っかけられる模様。スカサハだったら最悪だ。最も、件の彼はそんな事まず喧伝すまいし、スカサハ相手でも勝ち目はありそうである。

 結論として、接近しようが距離を取ろうが、最初の一撃で決められなければ八都も凛も相手にならない。尚、彼の知られざる本業は魔術使いである模様。この凛がマスターでも上がらない運はご愛嬌だが、敵対するマスターが苦虫潰しまくる事請け合いのサーヴァントだ。

 ここまで五人のステータスを確認し、自分を除く全てをほぼほぼ蹂躙出来る強化済みセイバーがどれだけ化け物か再認識した上で話を戻そう。正面切っては強化済みアーチャー位しか勝ち目がない。彼自身は、近接なら7:3で不利であるとこの会話を聞いて凛に念話。凛の返答はにべもないもので、「弓使え」だったという。

≪手札は出来る限り隠すものだよ、凛≫

≪あんたエリクサー最後まで使わないタイプでしょ≫

 文明の利器から絶交された凛が電子ゲーム知識を例に出してきたことに「すわ天変地異の前触れか」と驚愕を隠せぬアーチャーをよそに、話し合いは進む。尚、後に尋ねて曰く、「綾子から聞いた」であった。

「まあ、いかなヘラクレスと言えど、狂化している上この人数相手では一溜りもないでしょう」

 セイバーがもっともなことを述べた。戦いは数である。象と蟻ほどの戦力差がない限りは。

「ああ、それは無理だ」

 対し八都があっけらかんと。腕を組んでうんうんと一人納得していたセイバーは、キョトンとした後八都に対し首を傾げ、訝しげに問いかけた。

「何故ですか?」

「イリヤと約束したんだ。守れるだけの実力を見せるって」

 何とも自分勝手な言い分である。しかし、セイバーはそれとは違う部分に反応した。凛は、「またか」と八都の変な強情さを呆れていたが。

「イリヤ……イリヤ? その、姉君の名前ですか? よもやイリヤスフィールでは」

 本来、英霊は聖杯戦争中の記憶をオリジナルである座には持ち帰れない。しかし、セイバーはまるでイリヤに覚えがあるような反応を示した。来た、と八都の眼が自然細まる。

「そうだ、良く知っているな。いや、覚えている、か?」

「ちょっと待って、前回戦争に参加、しかも記憶があるっていうの!?」

 八都の問いと凛の驚愕、セイバーは観念したように頭垂れた。萎れるように後頭部の簪も面を下げる。

「ヤツト、ご存じなのですね」

「少なくとも、セイバーが前回戦争にも召喚されたことと、そのマスターはな」

「そうですか。言い訳するつもりはありません、いかな状況であれ、私は彼女の両親を助けられなかった。約束を守れなかったのです」

 悔恨の言葉が今の空気を重いものにする。セイバーは酷く沈んだ様子だ。彼女は前回戦争において、衛宮切嗣、八都の養父のサーヴァントをしていたのだ。切嗣の雇い主であるアインツベルンのバックアップがあり、出陣するは最恐の魔術師殺しと最優のサーヴァントのタッグ。負けるはずのない戦いであり、事実、彼らは最後まで勝ち残った。しかし、聖杯は手に入れられなかった。

「前回戦争の最後はご存知ですか?」

 概略を語り終えたセイバーが八都に尋ねる。

「切嗣からは聞かなかった」

 八都の言葉は嘘ではないが、実の所セイバーの問には答えていなかった。凛がピクリと片眉を上げたが、これもいつもの事だと視線をそらしながら茶を啜った。ライダーは、今は邪魔してはいけない時だ、とセイバーから一旦離れて傍観している。

「彼は、聖杯を手に入れる所まで来た。しかし、私に聖杯の破壊を命じたのです」

「それはまた、随分と奇妙なことだ」

 八都は、さも不思議だという表情を作った。普段のセイバーならばその直感で違和感に気づけただろうが、今の彼女は考え込んでいてそれどころではない。

「そうです、彼はなぜ聖杯を手に取らなかったのか」

 セイバーは底の無い沼にはまったかのような顔をしている。堂々巡りで答えが出ないのだろう。

「その答えはこの聖杯戦争中で出そう。爺さんも意味無く聖杯破壊を命じたとは思えない」

「それは確かです。正直、裏切られたという気持ちもないではないのですが、それ以上に不可解だ」

 セイバーは気落ちして心乱されていても極めて冷静かつ理性的であった。彼女の持つカリスマも含め、彼女が優れた統治者だっただろうことは容易に想像ができた。

「しかし、前回戦争の事を覚えているとは大分特殊な英霊らしいな、セイバーは」

「私の真名に直結することですのでこの場でお話することは出来ませんが、そういうものとお考え下さい」

 話がひと段落したところで、暗い空気も僅少払拭された。しかし、驚愕の後は傍観に努めていた凛は本題を忘れていなかった。

「で、八都とセイバーだけでバーサーカーに挑むって話は?」

 凛の言葉で、セイバーはハタと思い出す。

「ああ、忘れる所でした。八都、どうするおつもりですか?」

 周りの視線に対し、八都は自信ありげにうなずいた。

「まあ、先程セイバーが言ったように、単騎でもそうそう後れは取らないだろう。何より、俺もいる。実質二対一だ」

 八都の言葉に、セイバーは少々困ったような顔をする。

「実際にリンがライダーを下している以上、ヤツトの実力をそう疑うわけではないのですが……」

 セイバーは困ったように俯くと、ちらりと八都の方を見た。聞けば、八都の普段の役割は前衛だという。彼女の眼から見ても、若年ながらの八都の風格は感嘆するに足るものだったが、それでも魔術戦と接近戦ではハードルが違う。英霊相手に近接戦闘は自殺行為に他ならない。ステータスだけで乗り切れるほど英霊戦は甘くないのだ。

 見かねた凛は、少々口をはさむことにした。

「八都は既に一回ランサーと戦っているわ、かの有名なクーフーリンとね」

「かの光の神子ですかっ!」

 セイバーの顔に明確な驚愕が浮かぶ。そして、八都にそのまなざしを向けた。「人の身でよくぞそこまで」という感嘆の呟きが聞こえる。八都は、そんなセイバーの反応に軽く頬を掻いた。相手は弱体化していたし、危うく命を取られかけた。更に言えば、彼には強くなれる保証元々があったのだ、彼的には多少気まずくもなる。

「マスターと知名度でダブル逆補正を食らっている相手とほんの少し打ち合っただけだ。しかも、宝具を解放されたわけでもないのにかなりピンチに陥った」

 そんなふうに誤魔化す八都を横目で見ながら、しばらく黙っていた慎二が口を開いた。

「なあ、遠坂、それって普通なのか?」

 それに凛が少々けだるげに答える。

「そこら辺の中学生がセガール相手に生き残ったって位には普通」

「ああ、なるほど? 思春期に良くある病気の化身なわけか、こいつは」

 沈黙させんぞ。と八都は、自分の評価が不本意なものになっているのを感じ取りつつも、反論の余地がないのでシカトした。自身の事を棚上げしている凛には後で仕返しすると誓いつつ。

「強化魔術をフルで使えばバーサーカー戦でも足手まといにはならない。安心してくれセイバー」

「なるほど、あえて不利を受け入れるだけの土壌はあると言う事ですか」

 面の皮厚いわね、と無言の凛。説明に納得しつつのセイバー。セイバー自身にも負い目はあるのだろう。手を借りずに二対二で戦うことに最早不満は無いようだ。しかし、凛は会話の僅かな違和感を逃さなかった。

「ところで八都? マスター補正でランサーが弱体化食らってるってなんで知ってるの?」

 凛と八都以外の一同が、はっとしてから八都を振り向く。

「知名度補正だけにしては伝承に比して弱すぎるから、じゃ説明にならないか?」

 八都は至極自然に受け答えした。その様子から嘘か真かは判別出来ない。余裕の表情だ。(面の皮の)厚さが違いますよと言わんばかりである。

「なっちゃうわね、あんたなら。で、それホント?」

 凛が、それでもなお言い募ると、八都は照れて頭を掻く様子を装って答えた。

「嘘なんだなこれが」

「コイツぅ」

 笑顔で、こつん、と頭を叩く程度の調子で放った凛の拳は弧を描き、トップスピードは時速550km/hを超えていた。ペガサス越えである。暴力的な風切り音が室内に響き、暴風が周囲を蹂躙する。言うまでもなく全力であった。

「死ぬよなこれ」

 八都は、これまた軽い調子で避けつつも戦慄は隠せない。余波に頬を叩かれ、ぞっとしながら過行く凶器を目で追った。単純強化ではなくルーン術式の効果がメインとは言え、冒頭から出番の無い某執行者の拳は時速80km/hである。文字通り格が違った。人間のカテゴリーならミスゴリラどころかゴジラの名を冠しても良い。

「今のを避けられないのはあんたじゃないわ」

「どこの格闘漫画の理屈?」

 びっくりして思わず慎二が突っ込んだ。凛は首だけ慎二の方を向けゆっくりと微笑みだした。その笑みが深まるにつれ、加速度的に慎二の顔色が悪くなる。彼の脳裏に浮かぶのは拳で爆散させられる自身の姿だ。しかし、それは八都に止められた。

「ステイ、遠坂」

「わんっ、じゃないでしょ。さっさとランサーのマスター吐きなさいよ」

 八都のインターセプトに、凛が乗り突っ込み。しかし、追及の手は止めない。とんだ猛犬である。

「リン、如何に手を組む仲とは言え敵同士、その物言いはいかがなものでしょう?」

 そこを颯爽と救わんとするのはセイバーだ。彼女は八都と凛の間に入って、「おおっ」と驚く八都を守るように立ちはだかった。格好こそ令嬢然としているが、その姿はまさしく守護の騎士である。故に、八都はうんうんと頷いてから言った。

「言峰綺礼がマスターだ」

「ヤツト!?」

 まるでこの瞬間を待っていたと言わんばかりの八都の裏切り。セイバーは一転ちょっと情けない顔になった。そんなセイバーをニヤニヤと、ニコニコとではない、見つめているのはライダーだった。もはや性的な意味でロックオンされている。

「あんにゃろ!? 八都っ、本当でしょうねっ!」

 凛がバシンという擬音では頼りないほどの轟音で、拳で手のひらを強打。そして、八都を睨んで問いただした。言峰綺礼はまだ成年していない凛の後見人であり、八極拳の師匠だった。今でこそ一身上の都合でマジカル八極拳免許皆伝は送られているが、そのつながりは切れていない。誕生日には胸のサイズだけ変わらない服を送り送られるほど親密だ。凛はそれを毎回丁寧に畳んで、殺傷力抜群の宝石とともに封印している。次に見た日が奴の最後だと言わんばかりだ。

「ああ、間違いない。令呪を奪われた本人から聞いた」

「令呪を奪われたですって!?」

 凛が八都に詰め寄る。今度はセイバーも守らない。ちょっとむすっとした様子で腕組して八都の背後に控えている。

「何でも旧知の仲だったらしい。後ろからバッサリと」

 凛に詰め寄られている八都は、やや体をそらせながらハンズアップ、質問に素直に答える。

「その人は?」

「今も地下に、療養中だ」

「さっき言いなさいよ!?」

 服を取りに行ったときの事だ。別に八都は隠したつもりはなかった。ただ、会ったらその時に、会わなかったら後で言うつもりだったのだ。かなりいい性格をしていると言える。現状、一つ山場を乗り越えて気が緩んでいると言う所為もあるかもしれない。それを許すだけセイバーは心強い存在だった。その割に扱いが少々ぞんざいだが、少々マスターと言う立場に甘えているのかもしれない。この男、自分を超える戦力の味方と言うものには、凛を除き縁がなかった。

「全く、やることが多いわねっ」

 凛が腰に手を当てて憤慨する。ぷんすかと可愛らしいが、肺活量と骨の欠片だけで人を頭蓋に穴すら開けれるのを忘れてはならない。

「教会方面からは不吉な気配がする。行くなら覚悟した方が良い。実を言うと柳洞寺辺りも怪しくて心配だが……少なくとも、優先順位を間違えちゃいけないな」

「柳洞寺方面は私の方でも地脈に異常を感じているわ。元々あそこの地脈は枯れているはずなんだけど」

 二人は一緒にうなって考え込んだ。柳洞寺には一成がいる。前世からの知識で無事であるだろうとはわかっていても、心配でないはずはない。知識もどこまで当てになるかはわからないのだ。まだ考え込んでいる八都に、カッと目を見開いた凛は一喝する勢いで告げた。

「イリヤ、桜、教会の順でいくわよ、柳洞寺は悪いけど後!」

「その心は?」

「勘っ!」

「魔法の言葉だ。頼りになる」

 ちなみに、八都の勘も同じことを告げていた。簡単な理屈の上でも、ともすれば味方に出来るイリヤ、怪しまれないためには明日になる桜、動きが見えない教会では、イリヤ、桜、教会の順になる。キャスターに時間を与えるなと言っても、数日であり、事前準備も素材もないとなれば余裕はある。一日でできました、なんてやるのはここの二人くらいである。

「ではヤツト、今夜はバーサーカーを討つのですね」

 八都の背後から、セイバーが歩み出てくる。その左手は、高まる緊張を抑えるようにその小さな胸元に当てられていた。

「決着にはならないかもしれないけどな。話さえついてしまえば、最終的な順位は最後に決闘なりなんなりすればいい」

「ならば、異論はありません」

 セイバーの戦意が解放される。覇気に満ちたそれは、彼女の青い双眸に力強い輝きを与える。まるで、小柄であるはずの彼女そのものが巨大な竜(ドラゴン)であるかのようだ。

「頼もしいな、セイバー」

「任せてください、ヤツト。必ずや貴方に勝利を捧げます」

 宣誓はここに、七つの駒はついに揃った。聖杯戦争が始まる。戦争の行く末を憂うように、セイバーの結髪に花の簪が輝いていた。




いかがでしたでしょうか?
会話パートと言う事で、キャラクターの魅力を引き出せればと思ったのですが、少々キャラ崩れが激しいかも。
今後につながる重要なシーン。場合によっては大規模な改定も考えておりますが、楽しんでいただけるものには仕上げたつもりです。
また、今更ながらではありますがランクや階梯などに関してオリジナルの部分も多々ございます。原作では第十階梯が冠位の前提などという設定どころか、第~階梯という魔術師としての技量表記も知る限りございません。読む際は、平行世界として注意しつつお楽しみください。SNとプリヤ位には異なります。
長くなりましたが、評価、ご意見、ご感想をお待ちしております。

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