『鈴』
はい、お馴染みの鈴です。
現在俺はなのはと夜の聖祥大附属とは別の学校に居ます。何故そんなところに居るかって?
なんとジュエルシードの反応があったんですのよ。
だがしかし反応があったということはジュエルシードは発動してしまっているという事。というわけは前回のようなジュエルシードの発動体が居るということ。俺となのはは学校の校内を探索していくうちにその発動体を発見したのであった。
発見したはいいが、全速力で逃げてます。
「にゃぁぁぁぁ! 怖いのぉぉぉ!」
「うおぉぉぉ!! 超怖ぇぇぇ!!」
『シャァァァァアァァァ!!!』
廊下、及び学校の設備を破壊しながら俺たちを追ってくるそれは紅く輝く複眼に廊下一杯に広がる巨体、八本の肢。
蜘蛛です。
よく漫画なんかで巨大な蜘蛛の妖怪が出たりして主人公は恐れず立ち向かう姿が描かれてますが俺にはそう簡単にできません。
考えてみてほしい。蜘蛛は大半の人間が嫌悪感を抱く虫だ。小さい蜘蛛ならビックリするぐらいだが大きいサイズ……手のひらサイズのモノだと現れてほしくないレベル。そして今俺たちを追いかけているのはそれを遥か上回る妖怪のような巨大サイズ。嫌悪感を抱かずにはいられない。
だから今は全力で逃げるのみ!
「はぁ、はぁ……こ、怖かったよ~」
「ぜぇぜぇ。あ、あのサイズだと……グロイな…」
なんとか逃げ切って俺たちは校庭で一休み。逃げちゃだめってのはわかるんだが本当にグロいんだよ。虫ってあんまり好きじゃないし、あのサイズだしな。
「ぐわんげを思い出してしまった」
「ぐわんげ?」
「後でググってくれ」
アレは猫の混じった妖怪だけどな。まぁそんなことよりも今はアレの退治&封印だ。
「なのは、俺はもう一度校舎の中に入ってアレをこの校庭に引っ張り出してくるからここで待ってろ」
「で、でも危ないよ。なのはも一緒に……」
「大丈夫だって。心配すんな」
「……わかったの。でも危なくなったら絶対呼んでね! 私だって戦えるんだから!」
「わかったわかった。じゃあ行ってくる」
薄暗い校内の中、神経を尖らせながら校舎の中を再び探索する。
あの巨体だ。すぐに見つかるだろうとタカを括って探してるんだが一向に見つからない。校舎内のあちこちに穴が空いていたり、壁が崩れてたりとアレが居た形跡はあるんだが肝心の姿が無い。それぞれの教室を覗き、たまに外に目を向けたりとしても見つからず遂には屋上に到達した。
「おっかしいな。何処に行きやがった?」
結局、校舎内では見つからず、この屋上はどうだとばかりに来てみればやっぱりいない。
「もしかして、もう学校から…ッ!?」
『シャアァァッ!!』
「しまっ! ぐぅっ!?」
意図してだかどうかはわからないが、見つからなかったことで気を抜いてしまった一瞬を狙われた。突然屋上の柵の下からアレが姿を現したのだ。しかもそれと同時に俺に向かって粘糸を吐き出してきやがった。
不意打ちで反応できなかった俺は【盾】を展開する間もなく、屋上の床に粘糸で貼り付けにされてしまう。
体を完全に貼り付けにされて身動きの取れない俺。蜘蛛はそんな俺を絶好の餌だと思っているのかゆっくりと近づいてきた。
傍から見たらピンチに見える構図なのだが俺にとってはチャンスだ!
一気に封印までのプランを練り上げた俺はなのはに念話を繋げる。
『なのは、聞こえるか?』
『鈴君! 大丈夫?』
『大丈夫だ。それより蜘蛛を屋上で見つけた。今から校庭側に吹っ飛ばすから蜘蛛が屋上から落下するまでを狙って砲撃魔法で撃ちぬけ。その後速やかにジュエルシードを封印を』
『そ、それより鈴君は…』
『俺のことは後だ。頼んだぞ』
『わ、わかったの』
念話を切り、こちらに近づいてくる蜘蛛を見遣る。こちらが動けないのをいいことに余裕そうに歩み寄ってきてその顔は笑ってるようにも感じる。
(よし、目の前まで来やがれ)
そしてとうとう蜘蛛が俺を喰らおうと見るに堪えない程におぞましい口を開け迫ってきた。グロイが我慢!
術式を構築。イメージはハッキリと。魔力を注ぎ込め!
手足が使えなくても魔法は使える!
「吹っ飛べ! 【衝撃】!!」
◆ ◆ ◆
『なのは』
「レイジングハート、お願い!」
《了解です。マスター》
私の声でレイジングハートがその姿を変える。私の得意分野の砲撃魔法を行使するに適した形に。
そしてレイジングハートを上に、屋上の方向に向けていつでも撃てるよう待機しておく。
「……ッ!? 来た!」
強烈な轟音が響いた直後に鈴君の宣言どおり、蜘蛛は屋上からフェンスをなぎ払って飛んだきた。威力が強すぎたせいなのか、蜘蛛の肢が何本かちぎれ、同じく宙を飛んでいる。
ううぅ…気持ち悪い光景。けど、今は我慢! 鈴君の作ってくれたこの機会。逃すわけにはいかないの!
魔力の充填は完了、受けてみて! 蓮さん直伝の砲撃魔法!
「ディバイィィンバスタァー!!」
◆ ◆ ◆
『鈴』
「で、砲撃がそのまま封印までやっちゃったと」
「う、うん」
「なのは……恐ろしい子!」
なのはに救出されてる最中での感想です。この粘糸、蜘蛛のものだから相当な粘着力があって俺だけではどうしようもなかったのでなのはに助けられてます。
それにしてもなのはの魔力が桁外れに高いのは知ってたけどあのジュエルシードを砲撃で強引に封印ってどんだけなんだよ。
先生がなのはを魔導師の申し子って言ってた意味が良くわかるわ。
「はい、終わったよ」
「ん。ありがとう、なのは。さて、やることもやったし帰るか」
「うん!」
帰り道にて。
「鈴君、明日は学校もお休みだしまたお泊りさせて♪」
「おまえ、自分の家はいいのか?」
「大丈夫。どうせ近所なんだし、お父さんもお母さんも蓮さんのとこならいいよって言ってくれてるよ?」
「いや、そうじゃなくて」
正確にはあなたのお兄さんがすごく怖いんだよ。
この前、翠屋に訪れたときなんかあの人包丁を片手に持ったまま厨房から殺気飛ばしてきやがったからな。会うたび会うたび殺気を飛ばして来るんだよ。
「…ダメかな?」
「…いいよ」
「やった♪ じゃあまた一緒に寝よ♪」
「それは勘弁して!」
この前のすずかのアレのせいで正直いっぱいいっぱいなんだよ。
「…すずかちゃんは良くって私はダメなの?」
「あれは不可抗力(?)だ!」
「ふ~ん…」
じぃーーー。
「……わかりましたからそんな眼で見ないで」
「やった♪」
結局は根負けしてしまう俺は押しの弱い典型的な日本人。あぁ、Noと言える日本人になりたい。 そうだ、すずかと言えば。
「なぁ、なのは」
「うん?」
「すずかの事、怖いと思ったりしなかったのか?」
以前のジュエルシード封印の後日、すずかはみんなに自分のことを全て打ち明けた。すずかの決断は結果的には良かったんだと個人的には思ったんだが、やはりなのは達がどう思ったのか、けしかけた本人としては気になってしょうがない。
「う~ん、怖いっていうのは無かったかな。それよりもうれしかったなぁ」
「友達として打ち明けてくれたことが?」
「うん。打ち明けてくれたけど、すずかちゃんにとってそれって怖かったんだと思う。それでも話してくれたって事は私たちを本当に信頼してくれたんだと思うよ。だから友達としてうれしいって気持ちの方が大きかったかな。アリサちゃんも同じだと思うよ」
「………」
「それに怖いって言ったら初めてのジュエルシード封印の時の方が怖かったし」
そう言って、にははと笑うなのはの姿に嘘や飾りなどは感じない。
……本当にこいつは眩しい奴だ。そんななのはに俺は思わず嬉しくなり、気がつけば頭を撫でていた。
「にゃ? どうしたの?」
「気にするな。なんとなくだ」
本当に友達というには俺にとって、もったいない奴らばかりだ。
※その夜…
少女同衾中…
「すぅすぅ……ぅん…」
(レイジングハート…)
《なんでしょう?》
(俺の前世って抱き枕だったと思うんだ)
《……あなたは何を言ってるんですか?》
(俺、来世も抱き枕になるんだ)
《……早くお休みなさい。疲れてるんですよ》
レイジングハートの気遣いと優しさに思わず胸がキュンとなった。
未だに『ぐわんげ』を置いてくれている近くのゲーセンはマジで偉大。
それでいて『エスプレイド』があったならもう抱いてって言えるレベルだったのに。
※ちょっと設定
レイジングハートが日本語表記になっているのは、アリサとすずかのデバイスが日本語表記でそれとお揃いにしたため。