時間もかかるってもんですよ。
『鈴』
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。せんせ……い?」
「お邪魔しま~す♪」
「こんばんわ、鈴君」
「お邪魔するわよ鈴」
「お、お邪魔します」
「……いったい何が始まるんです?」
「大惨事説教大戦だ」
なにそれこわい。
キッチンで全員分の紅茶を用意する。
こんな夜更け、先生が出かけて帰って来てみればいつもの三人娘+αを連れている状態。混乱のひとつもするっての。
ていうか何なんだ? あのフェレット。
もしかしてなのはの言ってたフェレットってあいつ?
軽く解析してみたけどどうやら人間だったみたいだ。
あの念話といいフェレットも魔法使いの関係者?
俺や先生以外に魔法使いっていたのか?
……ダメだ、考えることが多すぎる。
とりあえず一旦思考中断して今はお茶の用意に専念しよう。あのフェレットにはホットミルクでも持っていってやるか。
「お待たせっと」
テーブルの上にそれぞれ紅茶を配る。テーブルの上に座っている小さいフェレットの前にはホットミルクの入った小さな小皿を出す。
「ありがとうございます」
丁寧にお辞儀までするフェレット。
やっぱり喋ってやがる。おまけになんかこっちをじっと見てるし。
「あなたも魔導師なんですか?」
「何?」
「それまでだ」
先生の横槍が入り、フェレットの言葉が中断される。その言葉をきっかけにここにいる全員が真剣な顔で先生の方に向き直る。
先生はそんな視線を受けながらも新たなタバコに火をつける。ハーブや薬草を使った先生お手製のタバコは市販物のようなのタバコ臭さを感じさせず辺りに心地よい香りを広げる。
「俺は席を外したほうがいいですか?」
「いや、おまえも聞いとけ」
何故という疑問も抱くが、とりあえずは言うとおりに従って先生の隣に座りテーブルを挟んでみんなと向き合う形になる。
先生は大きく紫煙を吐き出してから話を始めた。
「今夜の出来事、悪いとは思ったがある程度は高みの見物をさせてもらった。しかし私もさすがにああなった事情がわからない」
その言葉にみんなが驚いているが、留守番役だった俺には何があったのかわからない。
「だから君の事やコトの経緯、その他諸々、君の口から今一度話してもらおうか、フェレット君」
拒否を許さないといった威圧感たっぷりの言葉はフェレットに向けて発せられているのに、他の3人まで気迫に中てられたのか身を縮こまらせている。
そしてフェレットは重々しく口を開く。
「軽率だな」
「うぅっ……」
フェレット――ユーノ君の話を聞いてタバコの火を消しながら放った先生の一言目だ。もう鮮やかにバッサリと切り捨てた。
「起きたことに対して責任を取るその心意気は買うがその後が軽率すぎだ。そもそも君は僕の責任と言うが輸送”事故”なんだろう? なぜ君の責任になる?」
「でも僕がジュエルシードを運ばなければ…」
「それが君たちスクライア一族の仕事なんだろう?」
「……」
「そもそもそのジュエルシード、遠目から軽く解析魔法をかけてみたがあれは相当にやばい代物だ。個人がどうこうしていい物ではないぞ。なぜ他の人の手を借りなかった? これははっきり言って時空管理局が動くレベルだ」
時空管理局?
「……やっぱりあなたはあちらの世界の人間なんですね?」
「質問してるのはこっちなんだが……まあいい。昔の話だ、わけあってこちらにいる」
あちらの世界の人間? どういう事だ?
はっきりいって長年、共にいる俺も先生の詳しい過去を知らない。先生自身も話さなかったし俺自身も訊ねることはなかった。正直言えばあまり気にならなかったからだ。どのような過去でも先生が俺の家族であることに変わりないという認識でいたからだ。
しかし、今の会話で少し興味が湧いてきた。いい機会だからそれとなく聞いてみるか?
「そんな顔するな鈴」
「えっ?」
「いつか私の全てを話す。だから今は堪えてくれ」
「ちなみにどんな顔してました?」
「好奇心剥き出しの子供の顔」
そう言って静かに微笑む先生。その表情に胸がドキリとしたのはここだけの話。
「あの~」
そんな中、なのはが小さく恐る恐るといった感じで手を上げる。
「なんだなのは?」
「蓮さんもその魔導師っていうのなんですか?」
「ああ、そうだ」
ぶっちゃけちゃったよこの人。魔法って秘匿しなけりゃならないんじゃなかったんですか?
「ちなみに鈴もそうだぞ。私の弟子だ」
「「「ええぇぇぇっ!!」」」
「やっぱり…」
3人娘、五月蝿い。夜なんだから静かに。まぁ防音効果の障壁魔法展開してるから近所迷惑にはならんけど。
「鈴君、何で黙ってたの!? 私との間に隠し事は無しって誓ったよね!?」
「あんたあたしたちに隠し事なんていい度胸してるじゃない」
「じゃあ、あの時の鈴君が私に使ったのは……」
すずか、あの時ってのは一年前のあの教室のか? うん正解。
アリサ、何で握り拳作ってんの? 人は一つや二つ隠し事があるもんなんだよ。だからその拳は解きなさい。怖いのよ。
そしてなのは、そんな誓いは断じてない。あと襟掴んで揺さぶるな。軽くキマってて苦しいのよ
救難要請の意味をこめた視線をユーノに向けるがなのはとアリサのオーラに中てられたのか頭抱えてブルブル震えてやがる。もうそのまま部屋の隅で命乞いの準備でもしてろ。
そして先生は……ああ、めっちゃ2828してやがる。そうですか、これは試練なんですね。OK、わかりました。もうこのまま激流に身を任せどうかなっちゃいましょう。
「で、これからどうするんだ?」
火種をおこしたのも先生なら沈静化させたのも先生だった。恨むべきなのか感謝すべきなのか、悩むべきところだが今は保留。
「さっきも言ったようにジュエルシードはお前たちの手に余るような代物だ。それでも自分たちの手でケリをつけるか、時空管理局にまかせるか。まぁ大人の観点からしたらおまえたちのような子供に危ないことはしてほしくはないが」
「……それでも自分の手でケリをつけたいです。形はどうあれジュエルシードの担当者は僕なんです。だからばら撒かれたのが事故であったとしても最後まで回収していきたいです」
「21個中、2個目で救助要請だしてた」
「茶化さないでください!」
俺の呟きが聞こえてたようだ。おお、こわいこわい。
「はい、蓮さん!」
「なんだね? 生徒なのは」
いつの間にか教師、生徒の立場になってた。
「私はユーノ君のお手伝いを続けます」
「なのは!?」
「なのは?」
「なのはちゃん」
「……」
「私はユーノ君の声に自分の意思で応え、手を貸しました。手を貸した以上、責任を持ってお手伝いを続けます」
「で、でもなのは」
「それにジュエルシードの封印は私しかできないんでしょ? だったらやるしかないよ。そうだよね、レイジングハート?」
《Yes my master》
なのはの言葉に赤い宝石(デバイスだったか?)が小さく答える。ユーノの話じゃ、もはやレイジングハートはなのはを主人と認識・登録してるみたいだしな。あれがなけりゃ封印できないってのなら確かになのはの力は必要だな。
「あたしも手伝うわ」
「私もです」
「アリサにすずかまで!?」
「あたしとすずかも今回の件に深く関わったわ。そしてまだ終わってないのに、はいそこまでってのは納得できないのよ」
「探すくらいなら手伝えますよ。それに私たちにもその魔力って備わってるんですよね? だったら簡単な魔法を覚えれば自衛ぐらいならできますし」
「探し物は1人より2人、2人より3人ってね」
「みなさん……」
ユーノがじっと3人を見つめる。俺は3人の眼を見て思ったが、こいつらは絶対に退かない。ユーノが手を借りますと言うまで食らいつくだろう。
この3人娘の共通点の一つ「妙なとこで頑固」が発揮された時だった。
「先生」
「ん?」
「このために俺を同席させたでしょう?」
「さあ? どうだかな」
ニヤニヤしながらこちらに視線を向ける先生。
ああ、そうですよ。こいつらはこのままだと絶対どこかで無茶をやる。そして下手をしたら取り返しがつかないことが起こるかもしれない。そうさせないためにも監督役が必要になる。
先生はその無茶をやって取り返しがつかないことをしでかした経験を知る俺をその役にする気なのだ。俺がこいつらを放っておけない性分なのを見越した上でだ。
わかりましたよ。乗ってあげましょう。どうせ確信犯なんだろ?
「あ~、チョイ待ち。俺も手伝うよ」
「「「「えっ!?」」」」
何だよその反応は。地味に傷つくぞ。
「おまえら手伝うって言ってるけど生活があるだろう? 家族もいるし、習い事だって。俺だったらそんなしがらみもあまりないから時間の融通はきくぞ。魔法だって使えるから自衛もできるし」
「そういうことだ、ユーノよ。みんなが力を貸すと言ってるんだ。断るのは逆効果になるぞ」
「……わかりました。みなさん、どうか力を貸して下さい」
ここにジュエルシード探索チームが結成。
さて、今日はもう遅いし泊まるということになった3人娘。みんなもここに来る前にお泊りの用意を済ませているし、先生がそれぞれの家に電話でその旨を伝えて、親御さん達の了承をもらった。
先生は何だかんだで、3人娘の親にも信用されてる。そのぐらいの付き合いはあるのだ。
入浴も済ませ、それぞれの寝床も用意して、あとは寝るだけというとこで問題が発生。
「鈴君、一緒に寝よ♪」
「悪いななのは。このベッド一人用なんだ」
「大丈夫。鈴君がなのはをギュッと抱いたまま寝ればいいよ」
「やだこの子、全然退かない」
どうしよう。