魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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お久しぶりです。失踪はしません。

遅れた言い訳は後書きにて。



48・宣戦布告は敵だけじゃない?

『鈴』

 

 

 地上本部襲撃という歴史に刻まれるであろう大事件からもうすぐ一週間が経つ。

 その間、スカリエッティは大きな動きを見せる事は無く、精々がガジェットでの細々とした偵察ぐらいで済んでいる。

 管理局の方もあれだけ派手にやられた上にガジェットによる小競り合いも上乗せされているので、全部は復旧されていないという芳しくない状況だ。

 管理局も全くのやられっぱなしという訳ではないのだが、現状どうしても分が悪い。

 

 そしてやられっぱなしで終わるはずがないのが機動六課メンバー一同である。

 

 崩壊した機動六課本部。その本部がなんとあの懐かしき巡航船『アースラ』へと移されることとなった。とはいえ、老朽化が激しく、とっくに限界を迎えている上で運用するアースラでは戦闘などは不可能。正に最後の大仕事である。

 

 そのアースラの稼動と同時、機動六課も本格的な反撃に出るようでメンバーのみんなは前準備に余念が無い。

 

 総部隊長のはやては常に忙しそうである。というか実際に忙しい。

 機動六課はどちらかというと本局所属寄りであるため、地上本部からの情報公開はかなり規制されている。だからこのままスカリエッティの逮捕に、と簡単にはいかない。

 

 そこではやては『機動六課はレリックの捜索。その捜査線上にスカリエッティや戦闘機人もいた為、ついでに逮捕』という結構な無茶に乗り出した。

 

 上からの認可、各方面への根回しなど、中々に危ない橋を渡っているようである。それでも最高評議会や聖王教会といった強力な後ろ盾やはやての高い能力を以ってすればそう問題は無いだろう。

 また、はやてだけではなくなのは達も忙しい毎日を送っている。機動六課内部での仕事もそうだが、外部での仕事も多く、必然的に俺と顔を合わせる事も少なくなってしまった。顔を合わせれば明らかに疲労を滲ませてたからその度に俺は彼女たちを精一杯労う。それで彼女たちはまた頑張れるのだそうだ。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 そうこう過ごしている内に、とうとうアースラの整備も完了。機動六課本部の移転作業も終わり、明日には機動六課再起という時である。

 

 その日、はやて達隊長陣、チームリーダーであるティアナも加え、明日に備えたミーティングが行われた。

 

「やっぱり戦闘機人がどうしてもネックになるなぁ」

 

 はやては作戦資料である戦闘機人の項目部分について頭を抱えていた。

 

「この戦闘機人が個々で動いたら人数的な意味でどうしてもこっちの対処が遅れる。かといってそっちにベテラン勢を廻せばガジェットの対処が難しくなる。アッチを立てればコッチが立たずとか…」

「かといって応援も難しい状況だしね」

「う~ん」

 

 頭を悩ませ、唸りながらもアレコレと作戦を立ててゆく。この辺り、はやての指揮能力の高さが窺える。

 だがやはり人手不足というのは深刻な状況だ。

 管理局の魔導師という意味ではなく、強者と渡り合える魔導師という意味での人手不足である。ましてや相手は戦闘機人。なのは達ほどの実力ならともかく、一般魔導師では届かないほどの実力を有す。

 

「なぁ」

「どしたん? ヴィータ」

「外部からなんだけど、その実力者に心当たりがあるんだ。この戦いに加えてもらってもいいか?」

「ホンマに!?」

「ただちょっとワケありで大っぴらにはできないんだけど大丈夫。その辺りはアタシが保障する」

「それは…う~ん」

 

 はやては考える。

 ヴィータのお墨付きというからには実力、人柄については問題ないだろうが、そのワケありという部分が二の足を踏ませる。

 けれども猫の手も借りたいこの深刻な状況。はやては超法規的措置と考えるようにした。

 

「わかった。ただし、真っ先に私に会わせるようにしといて。そこで本格的な採決を下すから」

「わかった」

 

 それでヴィータの話は終わる。

 それからもミーティングは続き、何とか作戦を形に治めてそろそろ終了を迎えるという頃である。

 

「はやて!」

 

 突如として開いた扉から一人の人物がツカツカと大股ではやてに詰め寄る。

 

 その人物、秋月鈴ははやてに口を開く。

 

「この前の話について来た」

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

『鈴』

 

 

「いい加減、認めてくれよ!!」

 

 机を叩く音が響く。

 だけどその音に机の主は臆する事も無い。周りにいる人たちも同様である。机の主であるはやては冷たく切って捨てた。

 

「却下。認められません」

 

 明日に向けて六課の重役たちによるミーティング。そこに俺は乗り込んだ。アポも何も無い。本当に突然だ。

 室内にははやての他、なのは、アリサ、すずか、フェイトにシグナム、さらにはリーダーという事でティアナまでいた。

 いきなりの予期せぬ来訪にみんなは驚いていたけど、俺はそれらを無視してはやてに向かって上記の台詞を吐いたのだ。そしてこの結果。

 

 実は俺は前々からはやてにある進言を申し出ていた。

 

 それは俺をスカリエッティ逮捕に参加させてもらえないかというもの。

 

 その進言は当初、はやてに眼を丸くされながらも却下された。

 だけど俺は簡単には諦められなかった。

 

「捜査協力者という名目でもいい」

 

「なんだったら俺は管理局員になってもいい」

 

 等々、あの手この手で進言するもはやては決して首を縦に振るわなかった。

 こうして日が過ぎる内に俺の中にも焦りが生じる。そして今日が俺にとってのタイムリミット。だから強硬手段に出た。

 

「前々から言ってるだろ! スカリエッティには、もしかしたら先生が絡んでるかも知れねぇんだ! だから俺はそれを確かめないといけねぇ!」

「それについても以前に行った通り。それはあなたの個人的感情に過ぎません。組織の隊長として、一般人であるあなたの介入は認められません。それに確かめるのでしたらスカリエッティ逮捕後でもできる筈です」

「だから捜査協力者でって事で!」

「この非常時にその様な手続きを行う暇などありません」

 

 はやては冷静に対応する。ここにいるのは俺のよく知る八神はやてではなく、隊員の命を預かる総部隊長八神はやてである。

 

 暫らく実りの無い押し問答が続いた。それでも俺としても退くわけにはいかないので粘り続けた。だからだろうか、自分でも気付かない内に冷静さを欠いていた――いや、元々冷静さなんて無かったんだろうな。

 

「鈴くん!」

「!?」

 

 突如としてはやては声を荒げた。

 

「いい加減……わかってや」

「な、何…」

「あの日、幼かった私は目の前で鈴くんを…そして蓮さんを失った」

「……」

「そしてなのはちゃん達に至っては二度も鈴くんを失ったんやで」

「っ!?」

「この件に鈴くんが思うところがあるのは聞いた。でも、だからといってこんな危険な件に鈴くんを関わらせれば…今度こそ鈴くんは死んでまうかもしれへん。蓮さんだけじゃなく、鈴くんまでいなくなってまう。私は…ううん、私たちはそれが怖いんや」

 

 その言葉を聞いた瞬間、頭に上っていた血が一気に冷めた。そのおかげか、はやてしか見えてなかった視界が広がった。それでいかに冷静さを失っていたのかがよくわかる。

 

 その誰もが顔に重い表情を浮かべている。

 すずかは物悲しそうに。

 いつも気丈なアリサさえも眉尻を下げている。

 なのはに至ってはもう泣く寸前である。

 

「ぁ…」

 

 本心では諦めきれていない。

 

 でも、俺はこれ以上、何も言えない――彼女らの想いを知った以上、言ってはいけないのだ。さらに言えば、早々にこの事に気付くべきだったのだ。

 

「…そう、だよな。うん、悪かった」

 

 入室の時とは打って変わって静かに退室する。勇んでいた足取りは重く、未だに振り切れていないのが丸わかり。我ながら女々しいと言わざるを得ない。

 

 

 

 ……なんかくやしいから意趣返し。

 

 扉を開け、退出の直前にはやてに物申す。

 

「当日、見送りの際に『鉄のララバイ』歌ってやる」

「地味やけど縁起でもない事すんな!!」

 

 投げつけられた卓上時計はとても痛かった。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

『ティアナ』

 

 

 もうこんな時間か。必要な事とはいえ、やっぱりああいう場は肩が凝ってしょうがないわ。

 

 ミーティングは終わったけど、なのはさん達は少し話があるとかであたしだけ先に抜けさせてもらった。とはいえ、もう結構な時間。外は一時間もしないうちに夜の帳が下りるでしょうね。

 

 あたしはある人を探しに未だ襲撃の傷跡残るが隊舎内を歩き回る。

 

 部屋…いない。

 

 玄関付近…いない。

 

 食堂付近…いない。

 

 屋上…いた。

 

 彼は屋上出入り口の物影で壁にもたれなが座り、夕日によって紅く染まった空を見上げていた。

 上を見上げてるせいか、あたしに気付いた様子もない。あたしはあえて足音を鳴らさず、ゆっくりと彼に近づく。

 近づくと彼のソレに気が付き、あたしはソレを奪い取る。

 

「こら!」

 

 ちょっと一喝すると、彼はビックリした顔で初めてあたしに気付いた。よっぽどボゥっとしてたみたい。

 

「…なんだ、ティアナか」

「なんだじゃないでしょ。煙草は体に毒よ、スズ兄」

「火はつけてねえ。ただ銜えてただけだ」

 

 それだけ言うとスズ兄はまた空を見上げる。今のところ予定もないあたしはスズ兄の隣に座る。横目で見るスズ兄は動く事の無い銜え煙草の姿。

 その姿を見てると、ムクムクとあたしの中で好奇心が首を擡げる。

 

「スズ兄」

「うん?」

「あたしにも一本、頂戴」

「……火はつけないからな」

 

 胸ポケットから取り出した煙草をもらい、人生初の煙草を体験(銜えるだけだけど)

 

「あ、銜えるだけなのに薬草の香りがすごい」

「いろんな薬草やら何やらを配合した特別製の煙草だ。心を落ち着かせる効能がある上に吸ったところで人体への影響も無い」

「へぇ~」

「先生が好きでな。よく吸ってたんだ」

 

 スズ兄とあたし。しばらくの間、二人並んで夕焼けの空を見上げる。

 

「何だからしくなかったわね、スズ兄?」

「そうか?」

「そうよ」

「そっか…そうかもな」

 

 スズ兄は変わらず空を見上げたまま。そのままお互いに何を話すという事も無く、長い沈黙が続いた。

 そしてスズ兄は今までに無い大きな溜め息を吐き出し、ポツリとその心情も吐き出した。

 

「俺な…みんなに嫉妬してるんだわ」

「…………はいぃ?」

 

 スズ兄が何を言っているのか一瞬理解できなかった。だってあたしの知るスズ兄はそういった感情を見せる事も無ければ、抱いている事さえも周りは疑わない。それ程に無縁の感情だと思っていたから。

 

「なのは、アリサにすずか。ヴィータにフェイトやはやてとにかくみんな」

「…うん」

「そしてティアナ、オマエにも…だ」

「そう、なんだ」

 

 いつも見ているはずにスズ兄が何だか小さく、弱々しく見えた。

 

 そしてあたしは、こんなスズ兄を見るのが――初めてだった。

 

「俺って記憶が無くなってただろ?」

「うん」

「で、記憶が戻った。その時は喜んでたんだけどさ、今度は記憶の中のみんなと今のみんなとの落差にちょっと戸惑った」

「落差?」

「昔は肩を並べて歩いてた筈のみんなが今では管理局では一目置かれる存在。なのははエースと呼ばれる程の戦技教導官。アリサは聖王教会最強の騎士。すずかはA級デバイスマイスター。ヴィータも三提督に覚えがある。みんながみんな随分と高い場所にいる」

「……」

「対して俺、記憶を失ってたとはいえ、一歩も前に踏み出せていない。そしてみんなとの差に気が付いたら急に劣等感が湧き出ちゃってさ。だからなのか、その差をちょっとでも埋めようと思って躍起になってしまったわけですよ」

 

 スズ兄の話を聞いている内、あたしの胸の奥でフツフツと得体の知れない感情が生まれる。

 

「スカリエッティには先生が関わっているかも…なんて言ったけどさ、本当のとこはこんなに情けない理由もあったんだよ。ハハッ、笑えるだろう?」

 

 あたしは答えなかった。どう言えばいいかわからなかったっていうのもあるけど、それよりも溢れそうになるこの感情を抑え込むのに精一杯だったから。

 

 だけど――

 

「俺、この十年間、何やってたんだろうな……」

 

 この一言で抑え込むのをやめた。

 

「スズ兄」

「ん? いでッ!」

 

 スズ兄の正面に回りこむ。顔を両手で挟み込んで強引にあたしの方へと向き直らせる。結構、思いっきり力を込めたから痛いんだろうけど、こんなにウジウジしたスズ兄に喝を入れるには丁度いい。

 

 あたしは今怒ってるんだから。

 

「な、何でしょう…?」

「スズ兄はこの十年が無駄だったとでも思ってるの?」

「え、えっ?」

「あたしや兄さんと一緒に過ごしてきた十年は全くの無駄だったっていうの?」

「そんなわけあるか!」

 

 怒ったように言ってるけど、怒ってるのはあたしだからね?

 だってそうでしょ? さっきのスズ兄の発言はそう捉えられても仕方ないような事だったんだから。

 

「スズ兄は覚えてる?」

「あん?」

「あたしが訓練校で大怪我したときの事」

「…あぁ」

 

 訓練校時代、あたしは実力が伸び悩み、過度な無茶の結果、結構な大怪我を負ったという苦い経験がある。当然、スズ兄も兄さんも大激怒。その時、あたしはスズ兄から色々と教えられた。

 それを反省した上で教訓を糧とし、今のあたしの実力があるわけで。

 

「その時、スズ兄は無茶はダメだって言ったのよ」

「そうだったな」

「けど、あの戦闘機人の事でスズ兄は相当な無茶をしてる」

「イ、イヤ、ゼンゼンソンナコトハアリマセン」

 

 自覚はあるのか、目線を逸らすスズ兄。

 どこか子供っぽいスズ兄にあたしは微笑ましく思う。そっと両手を顔から放し、正面からスズ兄の頭を優しく抱きしめる。

 スズ兄も突き放す事も無く、素直に受け入れてくれる。

 

「いい、スズ兄? 弱くて何も出来なかったあの頃のままじゃない。今のあたし…魔導師のティアナ・ランスターはスズ兄のおかげでここにいる。それはスズ兄と一緒に過ごした大切な日々があったからこそなの」

「あぁ」

「だからもう二度と、あたしと過ごした大切な過去を否定するような事を口にしないで」

「…誓いましょう」

「それともう一つ」

「ん?」

「さっきスズ兄は素直に引き下がったみたいだけど、絶対首を突っ込むだろうから言うわ」

「な、何をでしょう?」

「無茶をし過ぎない、そして死なないで」

「……」

「返事」

「……わかった」

「よろしい」

 

 答えに満足したあたしはスズ兄を強く抱きしめる。

 それっきり、静かになったスズ兄とあたしはしばらくこの静寂を受け入れる。

 

 今のあたしとスズ兄にはこの静寂は心地良かったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 結構な時間が経ったようで、もう空は薄暗くなっていた。そらに昇った星明りのおかげで意外と明るい。

 あたしから解放されたスズ兄は立ち上がり、大きく体を伸ばす。その姿にさっきまで弱々しさはもう感じられない。

 

「ん~っ! なんか吐き出したらスッキリした!」

「それは結構」

「悪かったな、ティアナ。こんな愚痴溢してしまって」

「気にしてないわよ。むしろあたしの前でぐらいもっと弱音を吐いて欲しいわ」

「いや、それは兄としての威厳が…ね」

「支える、支えられるより支えあう関係のほうが好きだわ、あたしは」

 

 もう昔の弱いだけのあたしじゃないんだし。スズ兄の後ろじゃなく、隣に立ちたいわね。

 

「ありがとな、ティアナ。今度、何かお礼をするよ」

「本当?」

「二言は無い。俺にできることなら何でも言ってくれ」

 

 ん? 今、何でも(ry

 

 ……だったら。

 

「何でもいいのね? だったら今、使うわ」

「……度が過ぎる無茶振りとかはノーで」

「そんなんじゃないわよ。スズ兄から勇気を貰うだけよ」

「勇気?」

「そ。もうすぐ本格的な作戦行動に入るじゃない? 今回の作戦は今までの物と違って苛烈を極める。勿論、命の危険度も今までの比じゃない。だから、ほら」

 

 スズ兄の手を取る。これであたしの変化に気付いてもらえるかな?

 

「震えてる?」

「ご名答。今までと違う、なのはさん達のフォローの無い、本当の戦場に行くって考えたら何だか怖くなっちゃって。情けないったらありゃしない」

「それが普通の反応だっての」

「フォワード陣のリーダーとしてそうは言ってられないの。で、この通りなもんだからスズ兄にこの震えを止めてもらうわけよ」

「どうやって?」

「こうやって」

 

 ちょっとつま先を伸ばして――

 

 

 あたしとスズ兄の唇を重ねた。

 

 

「っ!?」

 

 理解が追いつかなかったんだろう、眼を見開くスズ兄。

 あたしが唇を放すとあたしとスズ兄の間に小さく糸が引かれる。

 

「な、ななな、何を、しや…が、る?」

「ん、ヤル気出てきた」

「ティアナ」

「何でもって言ったでしょ?」

「だ、だがよ…」

「それに、まだ終わってないわよ」

 

 さぁ、ティアナ・ランスター。一世一代の大勝負、そして彼女たちへの宣戦布告。

 

 行くわよ。

 

「スズ兄」

「お、ぉぅ」

「あたしが無事に帰ってくるための理由になってもらうわ」

「ど、どういう…?」

 

 

「無事に帰ってきたら、あたしをスズ兄の恋人にしてね」

 

 

 あたしの本気を感じ取ったのか、さっきのキスの動揺が無くなって真剣な顔をするスズ兄。

 

「…本気、で言ってるみたいだな」

「えぇ、そうよ。作戦後のご褒美があればさらにやる気がでるでしょ?」

「まぁ、ご褒美が欲しいっていう気持ちがわからなくもない。けどな、ティアナ」

「なのはさんの事?」

「そう。公言こそしてねぇけど俺と彼女の関係、気付いてるだろ? だからティアナ、俺はオマエを受け入れるわけにはいかねぇんだ」

「まぁ、普通ならそうだね」

「だろ? だから…」

「 ふ つ う な ら ね 」

「うぇい?」

「スズ兄」

「は、はい?」

「なのはさんだけじゃなく、アリサさん、すずかさん、ヴィータさんとも関係があるでしょ」

 

 なのはさんはある日からニヤニヤしたり、何かを思い浮かべながら体をくねらせたりし始めた。スズ兄と関係を持ったんだなっていうのがすぐにわかった。

 だからこそ、スズ兄が他の人とも関係を持っているという事実に衝撃を受けたのは記憶に新しい。

 スズ兄はあたしの視線を正面から受け止めている――ように振る舞ってるけど微妙に眼が泳いでる。

 

「ナ、ナンノコトダ?」

「あ、これ疑問形じゃなくて断言だから。下手に隠さなくていいわよ」

「カクシテナンカ…」

「ぶっちゃけエッチシーンに遭遇しました」

「サーセンっしたあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 見事なまでの土下座。多分、この先何回も見れないまでの見事な形。

 

「…ちなみにそれはどこで?」

「ちょっと前にスズ兄の部屋を訪ねた時」

 

 あれは本当に参った。

 用事があったんで部屋を訪ねたら密かに声が漏れてた。で、こっそりと覗き見すれば本番真っ最中。しかも相手はなのはさんじゃなかったからビックリ。とりあえず行為を最後まで覗き見したあたしはバレないようコッソリと退散した。

 

「ちなみに夜、その光景を思い浮かべて自慰行為に浸りました」

「聞きたくないわ! 身内のそんな性事情なんて!」

「スズ兄が本気で好きだって言う証拠よ。言わせないでよ恥ずかしい」

「恥ずかしがるトコが違うわ!」

 

 土下座から一転、羞恥で地をゴロゴロと転がるスズ兄。その姿はとっても愉快でしょうがない。

 

「これでも結構、悩んだのよ? あたしは大人しく身を退くべきなんじゃないかって。そうしたら他の人とも関係を持ってるってわかった時、ピンときたの。あたしが加わっても問題ないんじゃない?って」

「問題あるわ!!」

「複数と関係をもってるスズ兄の方が問題あるんじゃない?」

「ごもっともです畜生!!」

 

 一夫多妻制は別の管理世界では珍しいものでもない。だからこのミッドでも理解されないというわけでもない。けれどもやはり人の心理とでもいうべきか、全く後ろ指をさされないという事も無い。

 

 なのはさん達に嫉妬心を抱いた時もあった。けどそれ以上にスズ兄とそういう関係になりたいっていう気持ちの方が強かった。

 幼い頃から抱いてた恋慕の情ってのは途轍もないって気づいたのはつい最近。

 

「ほら、そこはこちらこそお願いしますって言えばいいでしょ? こんな若い子を好きにできるのよ。キス以上の事だってOK。スズ兄だったら大体の事も許容できるわよ。お買い得じゃない」

「気持ちの問題なんだよ! さっきまで妹だと思ってたヤツ相手に『好きです。だからエッチしよう』って言われてもピンと来ねえよ!」

 

 それでもスズ兄の口から拒絶の言葉は出ない。という事は多少なりとも揺れ動いてるってところかしら?

 

 ならもう一押し。

 

「スズ兄、後ろめたさとかを感じてるっていうのなら捨ててよ。あたしにとってそんなものは邪魔でしかないわ。道徳も何も無い、あたしはそんな物を押し退けてでもスズ兄を求めるわ。あたしにライクはあってもラブは無いっていうんならそれでもいいわ。そんなもの、これからいくらでも育めるんだから」

 

 傍から聞けばあたしは歪んでると捉われかねない発言。でも知った事じゃない。今のあたしの愛は全てを超越してるから。

 

「だからもう一度言うわ。スズ兄…ううん、秋月鈴さん、あたしをあなたの恋人にして」

 

 この一言がスズ兄の動きを止めた。

 葛藤してるんだろうけど、スズ兄はイエス以外は認められない。だってスズ兄が言い出したことなんだから。出来る事なら何でも言う事を聞くって。律儀なスズ兄はそれを言えば頷くしかないでしょうね。

 葛藤が終わったのか、スズ兄はノロノロと身を起こして言葉を放った。

 

「言っておくぞ? 今のティアナへの気持ちは妹へのソレだ」

「でしょうね」

「異性のソレに変わるには時間がかかるかもしれないぞ?」

「すぐに変わる…ううん、変えてみせるわ」

「……なら無事に俺の元へ帰って来いよ」

 

 言質ゲット!

 

「じゃ、無事に戻ったらあたし達は彼氏彼女の関係ね」

「受け入れるよ、全部」

 

 内心、ガッツポーズ。柄にもなくはしゃいでしまった。

 

「明日から戦闘機人を倒して、スカリエッティをぶっ飛ばしてスバルを助ける。そして帰ったらスズ兄と過ごす。これはやりがいがあるわね。いつも以上に気合を入れて事に励まないと」

「コンディションは大事にな」

「わかってるわよ。そういう事だからあたしはそろそろ戻って休むわ。スズ兄は?」

「俺は…もう少しここにいる。色々と頭の中とか心とか整理つけるわ」

「うん、じゃあまた」

 

 あたしは屋上を後にする。胸の内に決意を秘めて。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「……そういうワケですので」

 

 誰にともなく呟くと階段を降りた先、廊下の影から四人が現れる。

 

「…本気?」

「皆さんが見てた通りですが?」

 

 そう、見てた通り。

 スズ兄は気付かなかったみたいだけど、あの場面はサーチャーによってこの人たちに全て見られていた。でもあたしはそれを知った上で告白に踏み切った。

 

 これがあたしにとって不退転の決意。

 

 四人――なのはさん、アリサさん、すずかさん、ヴィータさん――は不機嫌を通り越して、睨むような眼つきであたしと対峙してる。 

 だけどここで退けない。退いてはいけない。あたしのスズ兄に対する気持ちはこの人たちに負けないって自負してるから。

 

 永いとも思えた対峙はすぐに終えた。

 アリサさんは溜め息を吐くとヤレヤレとばかりに首を振り、合わせてすずかさん、ヴィータさんも肩の力を抜いたようだ。

 

「ま~たライバルの登場とはね…」

「鈴くんも罪作りだね」

「頭痛くなってきた」

 

 どうやらあたしはこの三人はあたしに対して否定的ってワケではないみたい。

 

 じゃあ、残りの一人は?

 

「却下」

「やめなさいって。なのは」

「却下! 反対! 絶対ダメ! そんなの私が許しません!!」

 

 駄々っ子ここに極まれり。

 普段は尊敬できる上司なのにスズ兄が絡むとこのポンコツっぷりである。

 

「なのはさん」

「何?」

「あたしは退きませんよ」

「ダメ!! これ以上、鈴くんとの時間を減らされるわけにはいかないの!!」

「とは言っても、さっきのを見てた通り、スズ兄には受け入れてもらえたわけですしねぇ」

 

 ちょっと精神的余裕が出てきたので、なのはさんには悪いけど不敵な笑みを以ってして返答させていただきます。

 対するなのはさん、ぐぬぬと唇噛み締めて、ちょっと涙目。ホントにスズ兄が絡むと残念である。

 

「うわぁぁん! ティアナのバカァァ!」

 

 なのはさんは捨て台詞を残して階段を駆け上って行った。

 

「明日から作戦に支障をきたさなければいいんだけど…」

「大丈夫だよ。なのはちゃん、あれでその辺りは弁えてるから」

 

 何だかんだで付き合いの長いみなさんは信用してるみたい。

 

「それからティアナ」

「はい?」

「これからも長い付き合いになるだろうから、よろしく……って言うのも変かしら? とにかくよろしくと言っておくわ」

「よろしくね、ティアナ」

「まぁ、よろしくな」

 

 何がよろしくなのかは言うまでもないでしょう。

 とにかく、あたしは受け入れてもらえた。本当はこんな関係、褒められたものじゃないのだけれどね。

 

 でも、あたしは――

 

「よろしくお願いします」

 

 ――受け入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? なのは? どうし――」

「鈴くんのばかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「な、何だ? マジで何?」

「うるさい! この変態! スケコマシ!」

「何で俺はいきなり罵倒されなくちゃならんのだ?」

「罰として私にも今すぐチューして!」

「いきなりアホな事を――むぅっ!?」

「ぷはぁ! 次はっ!」

「ちょっ!? 脱ぐな! 脱がすな! ここ外! さすがに野外ではダメ! 盛るな!」

「全部、全部ぜんぶぜんぶぜーーんぶ鈴くんが悪い!!」

「ホント、ホントに説明して!! 何事!?」

「覚悟!!」

 

「あっーーーーー!!」

 





今更ながらマジック:ザ・ギャザリングにハマリました。

人生で稀にみるハマリ具合。赤単でヒャッハー!!してます。

で、気が付けばこのザマです。

稲妻と火炎破、最高です。

そんな私はこの前、群れネズミ+十手という凶悪カードになすすべも無くやられた。

ガッデム。

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