魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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眠ってたゲーマー魂が再燃。スルーしてたタイトルを買い漁り、集中する日々。

気が付けばコチラが疎かに。

誠に申し訳ありません。


46・因縁って面倒?

 燃える。

 

 

 

 世界が燃える。

 

 

 

「ガアァッ!!」

 

 振るわれたザフィーラの爪がまた一体のガジェットを残骸へと変える。

 

「クラールヴィント!」

 

 シャマルの展開した防御魔法が数多のガジェットからの攻撃を防ぐ。太陽の光などとうに失せ、陽のない世界を映す光は慈悲なく燃える炎の灯火のみ。

 

 その灯火の照らす光景には崩れ落ち、炎に吞まれる六課の隊舎。

 

 散らばり、数えるのも億劫になるガジェットの残骸。

 

 未だに残る大量のガジェットを相手に、傷を負いながらも懸命に戦うザフィーラとシャマルの姿。

 

 そして――

 

「【砲撃】!!」

 

 秋月鈴。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 地上本部公開意見陳述会。

 

 一、二年に行われる運用方針についての会議がその日行われる。事前から準備しているだけの事はあって、海上の警備体制も万全。

 

 機動六課からもスターズ、ライトニング、そして八神はやて部隊長と主要人物は出向している。必然的に機動六課を預かるのは非戦闘員や一般スタッフ、ロングアーチの面々。

 

 陳述会も中盤までは問題なく、執り行われた。

 

 

 しかしその半ばで、とうとうジェイル・スカリエッティが本腰を上げる。

 

 

 地上本部の電子システムをクラッキング。密かに進入した戦闘機人による警備システムの破壊。外から数え切れないほどのガジェットの襲来。管理局より一歩上を行ったその手腕により、地上本部内部の人間は建物に閉じ込められ、外の人間もガジェットの迎撃により、手が回らない。

 

 そんな中で、ジェイル・スカリエッティ相手を常に想定してきた機動六課の動きは早かった。はやて、シグナムは上層部への対応。スターズ、ライトニングのフォワード陣は隊長陣と合流。一足早く、進入した戦闘機人への対応を試みる。

 

 地上本部へ赴いた六課のメンバーの戦いとは別に、留守を預かった六課隊舎のメンバーにまで戦火は広がる。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『鈴』

 

 

「【斬撃】!」

 

 振るった腕の軌跡どおりに眼前のガジェットを真っ二つにする。

 

「ハァ、ハァ…何体出てくれば気が済むんだよ…」

 

 屠ったガジェエットの数なんかとうにわからなくなってる。多分、ザフィーラも同様だと思う。

 

 実際きつい。体力的にもそうだが、魔力の残量も気にかけなければいけなくなってきている。

 成長やら、魂の補完やら、その他諸々で昔より多少は魔力の総量が増えたとはいえ、俺の弱点が無くなった訳ではない。このまま魔力が切れれば行き着く先は身体機能停止による死のみ。

 

「援軍は…頼めないよなぁ」

 

 見上げた上空では数多の爆発が起こっている。

 地上よりも空からの襲来が多く、そちらはヴィータとすずかに任せている。屠った数でいえば、間違いなく俺たちよりも多い。

 だがそれは裏を返せばこちらに手がまわらないほどの数が上空からやって来ているというわけで。

 

「秋月くん!!」

「!? うぉっと!」

 

 シャマルの声と同時、彼女が展開した魔法防御壁がガジェットからの熱線を防ぐ。

 

「ありがとう、シャマルさん! 【落雷】!!」

 

 鈴を中心地とし、空に広がった六角形魔法陣から雷が数多のガジェットに降り注ぐ。

 

「にしても…」

 

 さっきのガジェットの攻撃。シャマルさんが防いではくれたけど…

 

 あれは俺を狙っていなかった。

 

 どちらかというと牽制のような攻撃。

 それだけじゃない。襲撃から今まで、俺はシャマルさんやザフィーラと違ってまともなダメージを負っていない。無傷ってワケでもないが、これは攻撃の余波によるものがほとんどだ。

 

(俺を狙っていない? そんな都合のいい…)

 

「なんだ…まだ堕ちてなかったんだ」

 

 頭上からの声に顔を上げる。

 ソイツは航空型のガジェットに乗った短髪の少年とも少女ともとれるヤツ。加えて表情というものを削いで、能面を貼り付けたような顔。

 もう一人いた。茶髪にカチューシャの少女。こちらは短髪小僧よりもマシではあるが、やはり表情が薄いように感じる。

 

 そしてどちらにも共通している事は、こちらへ向ける視線に友好的なものを含んでいない事。そして確信に近い憶測、こいつらは戦闘機人だという事。

 

「どこの誰だか知らないが、見ての通り今は立て込んでんだ! 悪いが帰ってくれ!!」

 

 一応、通達はしてみる。明らかに無駄だとわかっているけど。

 

「…つまらない事を言うね」

 

 短髪小僧はその声に侮蔑を含めて吐き捨てる。

 そしてその手を俺の方へと向け――

 

「ダメ」

「ディード…」

 

 ――られなかった。

 

「ドクターの命令。私たちはあの男には手を出さない」

「…うん」

「あの男の相手はアレがする」

 

 ディードというヤツの指差す方向を見ると、こいつらが俺を狙わなかった理由がわかる。

 

「シャマルさん、ザフィーラ」

「…何だ?」

「二人はあの短髪小僧とカチューシャを頼みます。俺は…アイツの相手をしなくちゃならないんで」

 

 そうこう言っている内に、アイツが降りてきた。シャマルさんとザフィーラが何か言っているけど、俺はそれに取り合う事も無く、ソイツの元へと歩く。

 

 ソイツは相も変わらず、殺気を滲ませながら俺を射殺すように睨むのみ。対する俺は飄々とそれを流す。余裕があるわけではないが、それを悟られまいという俺なりの意地だ。

 

「よう、チンク…で合ってるよな? テメェら、随分ととんでもない事、やらかしてるじゃねぇか。何が目的だ?」

「話すつもりは無い。それにドクターにどんな目的があろうと、私にはどうでもよい。貴様さえ殺せるのなら!!」

 

 チンクが構える。以前の邂逅よりも一層の殺意を滲ませながら。

 

「俺を狙う理由……とっちめて聞き出すしかないよな!!」

 

 脚に力を込め、構えた拳を振りぬいた。

 

 

 

 

 

 

 幾許かの時間が流れ、それに伴い血も流れた。俺とチンク、流した血の量はそう変わらない。

 

 ほぼオールレンジで対応できる俺がとった戦法、それは【強化】のみ使用した格闘戦。

 

 俺が有する情報としてチンクの攻撃手段は徒手空拳と自在に操るナイフ、そして何かしらの爆破手段。特に爆破の威力は簡単に戦闘不能へと追い込むほどの威力である。

 それを警戒した手段として格闘戦に持ち込んだ。ほぼ密着の距離で迂闊に爆破をしようものならチンク自身も巻き込む。故にその手を潰す戦法をとる。

 実際、チンクは幾度かその爆破を狙おうとしてたが、俺が悉く潰している。とった戦法として、ハズレではなかったのだろう。

 

「シッ!」

 

 崩拳のように小振りで拳を突き刺す。【衝撃】などを使って距離を空けてしまわないよう、素の格闘だ。【強化】で身体能力を最大限に引き上げているので威力は問題なし。

 

「ッ!」

 

 ガードされるも、流れるようにハイキックを浴びせる。

 

「グッ!?」

 

 いい感じに入った。

 

 

 

 そう思ってたんだが――

 

 

 

「捕まえた…」

 

 頭部を捉えた蹴り足はダメージを与えはしたものの、向こうのタフさが上回り、逆に蹴り足を掴まれ、小さな体型に似合わぬ怪力で俺を振り回し、そのまま俺を地面へと叩きつけた。

 

「ガァッ!!」

 

 前回、俺がやった手法をいざやられてみると半端無い。激痛が駆け巡り、肺の空気は強制的に吐き出され、脳が一時停止したかと錯覚するように意識が朦朧とする。

 

 視線が定まるのと、俺の周囲にナイフが突き刺さるのはほぼ同時。

 

「ランブルデトネイター」

 

 視界に炎で埋め尽くされた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『チンク』

 

 

 前方に黒煙が上げる。あれだけのランブルデトネイターに耐えられるとは思えない。

 

 つまり、私は目的を果たしたのだ。

 

「ハッ、ハハハッ…」

 

 だが達成感など微塵も感じない。 

 恨みつらみを重ねたあの女は既にこの世にはいない。ならば『魔女』を継承するヤツを殺せば――ヤツを超えれば私の中の何かが変わるだろうと思ってた。

 

 だが何も変わらない。

 

 変わらず”劣化品”の人形がここにあるだけ。

 

「もういい…」

 

 ならドクターの生み出した人形らしく何も持たず、何も考えず、いずれそのまま朽ちるか?

 

 それとも、やはり私がドクターを殺すか?

 

 …今は考えても仕方がない。

 

 妹たちの方もそろそろカタがつきそうだ。懸念事項であった六課の月村すずか、及びヴィータは変わらずガジェットどもが足止めに成功している。このままなら恐らくドクターの目的も果たせるだろう。

 

「終わりか…」

「終わってねぇよ、このクソガキ…」

 

 背後からの声に体が硬直する。

 ありえない、ありえない、と思考が埋め尽くされるまま振り向くと、私の頬にヤツの拳が突き刺さった。

 

 小柄な私はそのまま吹き飛ばされ、倒れ伏した私の頭上では既にヤツが拳を振り上げていた。

 

「手加減は一切無しだ…【衝撃】!!」

 

 ヤツの放った魔法は私のハードシェルを容易く貫通し、体にありえないほどのダメージを負わせる。

 たった一撃ながら、それに込められた威力に人間(・・)である私の体が耐えられるはずがない。体は動かず、魔法の発動(・・・・・)もままならない。

 既に意識も堕ちる寸前である。霞む視界にヤツの顔が見えた。

 

 その瞳は私とは違い、しっかりと意思を持つ人間のソレであった。

 

「私の…負け、か」

「俺の、勝ちだ…」

 

 私にとって、すべてが決した瞬間だった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『鈴』

 

 

 紙一重だった。

 

 あの爆発の起きる寸前に発動した魔法が成功するとは思わなかった。

 

 

【時留】

 

 

 字の如く、時間を留める魔法。生前、俺が死ぬ原因となった時間操作系魔法の内の一つだ。

 

 このまま死ぬのだったらと破れかぶれが成功した。もう一度やれって言われてもできる気がしない。

 一秒も留められなかったが、脱出には成功し、そしてチンクの撃破に繋がった。

 

 ただ、勿論代償はある。

 

「あ、あかん…」

 

 急速に抗いようのない眠気が襲い掛かってくる。

 ただでさえ魔力の残り少なかった状態。そこに魔力を一気に喰う【時留】の発動である。最後に【衝撃】を放てるほどの魔力が残ってたのも奇跡かもしれん。

 

「もう…ダメぽ…」

 

 まだ戦いが終わってないのはわかっているが、もう俺ではどうしようもない。

 

 言う事を聞かない体は、気絶しているチンクに覆いかぶさる様に倒れこんだ。それさえどうでもよくなった

俺はそのまま意識を落とす。

 

(あ、コイツって意外と柔らかいのな…)

 

 そんな場違いな思考をもたらしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……知らない顔だ」

「よし、目覚めの開口一番は永眠への遺言と受け取ったぞ」

「あ、嘘です。すみません、許して。何でもはしないけど」

 

 しょうがないじゃん、目覚めたらありえない顔が見えたんだから。

 

「何でティーダがいんの?」

「わざわざ時間を作って見舞いに来た人間に言う事か?」

「いや、普通にうれしいっす。ありがと」

 

 体を起こしてみると病室みたいな場所で、ここは聖王教会の病室だと教えてくれた。とりあえず治療で巻かれた包帯が邪魔に感じたので、【治癒】で治しながら外す。

 

「で、何で俺がココに?」

「どこまで覚えてるんだ?」

「六課襲撃。戦闘機人と交戦。撃破したとこまで」

「わかった」

 

 六課への――管理局への襲撃から一夜あけた今日。

 時空管理局地上本部は言うに及ばず、ミッドチルダに残された爪痕は相当なものになったそうだ。

 

 地上本部公開意見陳述会は当然中止。そしてその場にはティーダもいて、襲撃の時は六課の面々と協力しあってたそうだ。各々が対処の際に戦闘機人と交戦。フォワード陣も必死に応戦はしたものの、戦闘機人の逮捕には至らなかった。

 

 さらには――

 

「ギンガとスバルが攫われた?」

「あぁ、今でこそ持ち直してはいるが、当初はすごい落ち込んでてな。オマエもそれとなく気にかけてやっててくれ」

「いいけど…向こうは何で二人を攫ったんだ?」

「それは…」

 

 言いにくそうなティーダだったけど、意を決して告げた。

 なんと二人は戦闘機人(プロトタイプ)なのだそうな。さらには現行の戦闘機人と張り合えた事からスカリエッティは何かしらの利用価値を見出したのではないか――というのがコチラの予想。

 

「でもいつまでも嘆いてはいられないからな。隊長クラスは現場検証やら後処理やらで今も方々を走り回ってるよ。ティアナの仲間はオマエと同じように療養中。けどすぐに出られるってさ」

「そっか。なら…」

「ん?」

「機動六課に残ってた人たちは?」

「…それは」

 

 六課の留守番組は相当の被害を受けた。

 シャマルさんの結構な傷を、ザフィーラに至っては危険な状態だったが峠は越えたみたいだ。だがあの時、建物内で防衛に徹していたヴァイスはそれ以上の負傷を負い、現在も昏睡状態が続いている。

 幸いにもそのヴァイスの頑張りのおかげで非戦闘員の人々は避難に成功したみたいだ。

 

 一部を除いて。

 

「ヴィヴィオも……攫われた?」

「そうだ」

「…見当は?」

 

 ヴィヴィオの入っていたと思われる生体ポッド(そういや現場検証にティーダが行ったんだっけ)その周辺に散らばっていたガジェットの残骸。現場に無かったヴィヴィオとレリック。

 

「スカリエッティはレリックだけじゃなく、ヴィヴィオも目的だった?」

「むしろヴィヴィオが本命だったのかもな」

 

 可能性として無くは無い。しかし飽くまで可能性。結局のところ、俺たちが推察をするには色々と足りてなさ過ぎる。

 

 一晩で色々と事態が動いたようだが、俺が何よりも気にしている事を聞く。

 

 

「ほんじゃ最後に……俺が倒したチンク――戦闘機人はどうなった?」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 聖王教会の――その中でもひと際人通りの少ない通路を歩く二人の人物。

 

 秋月鈴とティーダ執務官。

 

 互いに無言で歩いた先にはいくつかの堅牢な扉が並ぶ区域。その区域を管理しているであろう教会の人間に、ティーダは言葉を告げ先へと進む。

 

 そして一つの扉の前に並び、重い扉を開いて入る。

 

 その部屋には一人の少女が椅子に座っていた。

 

 白い貫頭衣を纏い、その両腕・両足は鈍色の錠で拘束されている。

 

 少女は二人の入室に俯いていた無表情の顔を上げる。

 ティーダへの視線は無関心。しかし鈴へと視線を向けると、その瞳に感情を蘇らせる。

 

 そんな彼女へ鈴は言葉を投げかける。

 

 

「よう。数時間ぶりだな、クソガキ」

 

 




いい加減、ティアナをヒロイン舞台にあげたい。

あと、わかってるとは思いますが、ここのチンクは色々と原作と違ってます。

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