魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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ヴィータとキャロが逞しく育ったせいか、すごく書きやすい…というより勝手に動いてるような気がしてきました。


45・反省はお早めに!

『ティアナ』

 

 

「いい加減、立ち直れ!」

「うきゃぁ!」

 

 いつまでも体育座りで落ち込んでるスバルの背中を蹴る。

 

「何するの!?」

「終わった事を反省するならともかく、ウジウジしてるだけじゃ気が滅入るのよ! 非生産的なのよ!」

「みんなは上手くやったからいいけど、あたしは! あたしは…」

「…ったく」

 

 ガリガリとらしくもなく頭をかく。

 

 時刻はもうすぐ夕方を終えて、夜を迎える。

 レリック回収の任務も名目上は成功と言ってもいい。けれど、想定以上の敵戦力、戦闘機人との初の交戦など、終わった任務を鑑みると色々と課題が見える。だから素直に成功を喜べない。

 

 

 

 今回、確認された戦闘機人は五人。

 

 アリサ副隊長が取り逃がした二人。

 あたし達の所に二人(内、一人の姿は未確認)

 そして、何故かスズ兄と交戦した一人。

 

 ヴィータさんの応援もあって、ガジェット殲滅は滞りなく進み、エリオとキャロの働きもあって一度はレリックの確保に成功したんだけど、そこでとうとう戦闘機人との初邂逅。

 その戦闘機人がさらにガジェットを増援として引き連れてきたものだから場はさらに混沌としたものになったのよね。

 そんな有様だからか、再びレリックが戦闘機人に奪われた。それを取り戻そうとスバルが躍起になって戦闘機人に挑んだんだけど…結果は敗北。正直、実力に差がありすぎて横目で見ていたあたしも冷や汗をかいたものよ。

 で、戦闘機人はそのまま撤退。女の子もそれに付随する形でバイバイ。残ったあたし達はガジェットに足止めをくらって見逃してしまったってわけ。

 事が済んで任務失敗の沈痛な雰囲気の中、あたしが取り出したるは本物のレリック。

『すり替えておいたのさ!』を地でやってしまった。あいつらが持っていったのはあたしが幻術魔法で造った偽物。

 

 任務は成功なんだけど、みんなが善戦した中でスバルだけが相手に敗北、おまけにかなりの実力差で、さらには重大な場面で負けたものだからすっかり落ち込んじゃって今に至る。

 

 

 

「大体、任務の内容はレリックの回収。敵の殲滅でも勝利でもないのよ。それにこういう事態も想定してこそのチーム! あんただってホントはわかってるんでしょ?」

「…わかってるけどさ。それでも…」

 

 さっきからこの調子。互いの主張は平行線。スバルの心は理解出来ても納得できないっていう面倒くさい感情に塗りつぶされている。

 どうしたものかしらね…と内心、溜め息をついてるとスバルは急に立ち上がってジャージに着替え始めた。

 

「何やってるの?」

「走ってくる」

「はぁ?」

「ティアの言うとおり、このままだと腐っちゃいそうだから走って解消してくる! じゃ、行ってくるね!」

「ちょ、もうすぐ夕飯…」

 

 勢いよく飛び出し、窓から外を見ると土煙を巻き上げそうな勢いでスバルが走っていった。

 

「ったく、あのバカ…」

 

 突っ走って行ったバカは早々に置いておく。夕飯になれば戻ってくるでしょ。

 

「あ~、疲れた」

 

 ベッドに身を投げ、ボンヤリと今日を振り返ってみた。

 

 エリオ達の幼い女の子の保護から始まって、レリックの捜索。空と地下で大量のガジェットの襲来。それを従える召喚魔法使いの女の子。そして戦闘機人。

 

 そしてそれとは別に、帰還後に聞いた話。

 

「スズ兄…」

 

 スズ兄が襲われた。

 

 その話を聞いて、当人の下に真っ先に駆けつけた。医務室に入ると、既になのはさんやアリサさん、すずかさんも居た。

 肝心のスズ兄は【治癒】で治したといってピンピンしてたけど、部屋の隅に打ち捨ててあった血塗れの服からしてかなりの傷を負っていたのは間違いない。

 

 昔の…あの幼い頃の事件を思い出して少し涙ぐんでしまったのは不覚だったかも。なのはさんはワンワン泣いてたけど。 

 

 スズ兄が何で狙われたのかわからないけど、これからの訓練にも力を入れないといけないわね。チームとしての連携もだけど、一対一も考慮して個人の能力アップ。

 

 課題は多いけど、あの頃のような無力は自分は絶対に許せない。

 

 無意識に握った拳に力がこもった。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「頭痛い…」

 

 隊長室のデスクに座るはやては空間モニターに映し出された記録映像を見て頭を抱える。同じく隊長室にいるなのは、アリサ、フェイトも苦い顔だ。

 

「申し訳ありません…」

「あぁ! アリサちゃんに落ち度は無いんよ! あ、けど…」

 

 はやてが指差した映像には二人の戦闘機人が居た廃墟ビルを真っ二つにするアリサの姿。

 

「相変わらず豪快やね~。これで非殺傷設定は気休めって感じやな」

「うっ…」

 

 実際、豪快である。小学生の時のジュエルシード事件の際にやった大樹裂きの再現なのだ。ちなみにこの一撃に耐えられる人物は機動六課には極少数しか存在しない。

 

「でもこの戦闘機人の幻影技術、対人のみならず電子システムにも及ぶなんてかなり面倒やな。アリサ副隊長の追撃を逃れられたというのも納得や。これは手こずるで」

「はい」

「ほんでこっちの砲撃手。幸い不発に終わったけど、収束してたエネルギー量からしてSランクは固いやろな。これを向けられた場合、耐えられる人員がウチに何人いるか…」

 

 はやてはそこで区切り、次の記録映像に眼を移す。

 

「上空から大量のガジェットの襲来。これはやっぱり…」

「私とフェイト隊長、その足止めと見て間違いないでしょう」

「八神部隊長とすずかの援護が無ければさらに時間はかかってました」

 

 モニターの映像にははやてとすずかが広域攻撃魔法で粗方のガジェットを殲滅する映像が映し出される。

 

「限定解除してもうたし、少し風当たりがきつくなるやろな。でもそれを差し引いても、このガジェットの数は異常やね」

「恐らく、私たちが考えてる以上に敵は戦力を整えてるでしょう」

「せやね。こっちの戦力はこれ以上増やすのは難しいし、今の戦力で最善を尽くすしかない…か」

 

 そして最後の記録映像。

 

「ガジェットはともかく、この召喚魔法を使う女の子は初見やな」

「はい。しかしこのぐらいならフォワード陣でも十分に対応可能です」

「けど、キャロはちょっとやり過ぎかも」

「…私からキチンと叱っておきます。ヴィータが叱った方が効果はあるんだろうけど」

 

 はやての言葉に全員が引き攣った笑みを浮かべる。

 なぜなら映像には馬乗りになったキャロが女の子の顔の横スレスレに大型のナイフを突き立てて、召喚虫を脅しているからだ。効果的ではあるが、傍から見ればこちらが悪役だ。

 

「次にこの乱入してきた戦闘機人。前にヴィータの言ってた奴やね」

「はい。けどこの戦闘記録を見る限り、今のフォワードメンバーには荷が重いです」

「フェイト隊長が言うんやったら相当やな。うん、その辺りも再考慮して育成を任せるで」

「「了解!」」

「さらにはこの地面を潜る戦闘機人。何やこの初見殺し。ティアナの策が無かったら終わっとったで」

 

 それを最後に開かれていた映像を全て閉じるはやて。溜め息を吐くと、改めて顔を引き締める。

 

「そして最後に…」

「鈴くん…だね」

 

 突然襲われ、大怪我を負ったという。それを聞いた時はタチの悪い冗談だと一瞬、思ったほどここにいる全員にとって衝撃だった。勿論、すずかとヴィータもだ。

 

「鈴くんを襲った理由は何やろ?」

「たまたまそこにいた管理局側の人間だったから…というにはちょっと弱いかしらね」

「だったらどうして鈴くんが管理局の人間だとわかったかっていう話になるけど」

「直前までヴィータと一緒だったから、それを見られ、関係者と思われたとか?」

「その辺りの可能性やな」

 

 戦闘記録において、鈴はデバイスを持たない故、記録映像は残されていない。また鈴もチンクとの会話についてはまだ誰にも明かしてはいない。

 

「ただウチらの誰でもいいから狙ったっていうなら局員全員に注意勧告を促すで。そして…もし鈴くん個人を狙ったっていうなら…」

 

 そこではやては言葉を切り、静かに重く告げる。

 

「鈴くんに護衛をつけるなり、謹慎を言い渡すなり、どんな手段でもええ。とにかく身の危険が及ばんようにする」

 

 今回の襲撃、下手をすれば鈴がまた彼女らの眼の届かない場所で命を落とした可能性もある。それは彼女らのトラウマを刺激するには十分である。だからはやての告げる措置にも異を唱えなかった。

 はやても、蓮の死の一因が自分にあるという事実が鈴に負い目を感じさせる。鈴ははやてを決して責めたりせず、許してくれたが、だからといってはやてがそれを乗り越えるにはまだ時間が足りない。

 

 その負い目がある故に、はやては鈴を脅威から守ろうと躍起になる。

 

 たとえ鈴が望もうが望まないが関係なく…

 

 そこで室内にコール音が鳴り響く。重く、澱んだ空気がその音で霧散する。

 

「シャマル?」

『た、大変なんです! あの女の子が!』

「ウチで保護したあの子やね。どないしたん?」

 

 機動六課が保護した女の子は意識を失っていただけで命に別状は無かった。だがやはり精密検査するに越した事は無いという事で一旦は機動六課の預かりとなった。

 検査の結果、何かしらの異常が発覚したり、高度な治療が必要と判断されればもっと医療設備の充実した施設へと送られることとなるが。

 

『部屋を空けた隙にいなくなちゃったの!』

 

 時刻はもうすぐ夕方が終わり、夜が始まる頃。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 六課隊舎内、一部隊員たちは蜂を突いたような騒ぎとなった。

 仮にも子供といえど、レリックと共に発見された女の子。検査で一応は大丈夫と診断されて入るが、万が一の危険性を内包している可能性も否定できない。

 レリック関係者という事実による無用な混乱を避けるため、事情を知る一部隊員のみで捜索を開始する。

 

 

 

 ――幼女失踪騒動で騒ぎ出す少しだけ前。

 

「……」

「……」

(じ~~)

 

 場所は機動六課屋上。さらにちょっと死角になっている物陰。

 そこに居座るは三つの人間。

 

 一人は主人公(笑)の秋月鈴。一人はその使い魔のヴィータ。

 

 そして渦中の保護された金髪オッドアイという中二臭漂うロリっ子。

 

『おい、このロリっ子ってあの保護したって子だろ? なぜここにいる?』

『アタシが知るか!』

(じ~~)

 

 念話のやりとりを余所に、ロリは一点から全く視線を外さない。

 

 その視線の先には三人が囲む七輪。正確にはその網の上で香ばしい匂いを漂わせる海鮮類の数々。

 

 この海鮮類、昼間に鈴とヴィータが廃棄都市の面々に持っていった品の一部である。その品はみんなに分ける程も無く、内緒でコッソリと堪能しようと画策した結果がこの光景である。

 そこに突然、ロリが乱入。今に至る。

 

「え~と、君、誰かな?」

「?」

「名前だよ。お・な・ま・え」

「…ヴィヴィオ」

 

 ロリの名前、判明。

 

「こんな所で何してんだ?」

「ママをさがしてるの」

 

 ヴィヴィオの視線は未だに焼ける海鮮類から外れない。

 

「本当にママを探してるのかい?」

「うん」

 

 ヴィヴィオの視線、未だに外れず。どう考えても探していない。

 ヴィヴィオから聞こえる腹の虫と隠そうともしない涎から探しているのは餌だと判明する。

 

「……食べるか?」

「うん!」

 

 超いい返事。

 鈴は軍手で程よく醤油と酒で焼かれたサザエを手に取る。殻の隙間に爪楊枝を刺し、くりんと手際よく回し、身をくりぬく。途端に香る磯と醤油と酒の香りにヴィヴィオの涎は一層増す。

 

「ほら。熱いから気をつけてな」

「ありがとう!」

 

 熱いと注意したにも関わらず、一口で頬張る。猫舌ではなかったようで、問題なく噛み締めている――が、しばらくすると顔を顰めはじめた。

 

「…にが~い」

 

 それでも吐き出さずに飲み込んだ辺り、褒めるべきである。

 

「アホ、子供にはちょっと早いだろ。ほら、これならどうだ?」

 

 ヴィータは串に刺さった黄色いソレを渡す。

 恐る恐るとソレを齧ったヴィヴィオ。今度は華の咲いたような笑顔を見せる。

 

「あま~い! おいしい!」

「とうもろこしが最強だった」

「いい食べっぷりだな。ほら、こっちも喰えよ」

 

 イカやらハマグリ、比較的苦味が少ない物を甲斐甲斐しく与えるヴィータ。ヴィータは何だかんだで結構世話焼きだなと再認識する鈴であった。

 

「ヴィヴィオ、探してたお母さんってどんな人?」

「わかんない」

「お家はどこかな?」

「わかんない」

「ここに来る前は何してたのかな?」

「わかんない」

「ヴィータ、このロリっ子の難易度が高すぎるぞ」

『…シャマルが言ってたけどよ、どうもこのガキは人造生命体の可能性が高いってよ』

『マジ?』

『ギンガが昼間に見つけたって言う生体ポッド。多分、コイツだ』

『そっか』

 

 未だにモグモグとうれしそうに餌を喰い散らかすヴィヴィオを見ると、そういう設定特有の悲壮感などは微塵も感じられない。

 

「あ、そういえば名前を言ってなかったな。俺は秋月鈴」

「りん?」

「そ。すずと書いてりんと呼ぶ。すずって知ってるか? あのチリンチリンって鳴るやつ」

「ん~、じゃありんりんだね」

「幼女からパンダみたいな呼び名にされた件について。あとヴィータ、笑うんじゃねぇよ」

 

 後ろを向いて笑いを噛み殺しているヴィータを睨む鈴。

 

「クッ、あ~、おもしれぇ。あ、アタシはヴィータだからな」

「ヴィータおねえちゃん?」

「おねえちゃんはやめてくれ」

「おねえちゃん!」

「ガキのスルースキルが高い件について。あとリン、笑ってんじゃねぇよ!」

 

 後ろも向かずに堂々とゲラゲラ笑う鈴を睨むヴィータ。

 

 お腹いっぱいになったのか、割と警戒心も持たずにヴィヴィオは二人に懐くのであった。

 

「ここかぁぁっ!!」

「「あっ…」」

「?」

「見つけた! ほんで二人とも、何食べとるんや! ずるいで!!」

 

 コッソリと食べてるのがばれた二人は後日、みんなにも奢る事が確定されたとさ。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「彼と接触したようだね」

「…はい」

「ふむ、彼には手を出さないように言っておいたはずなんだが?」

「…申し訳ありません」

「次は破らないでくれたまえよ」

「失礼します」

 

 設置された機械によってボンヤリと薄暗い光に染まる洞窟内部。

 ここが次元犯罪者ジェイル・スカリエッティのアジトである。

 

 そこでのスカリエッティとチンクとの会話。

 去って行くチンクに対してスカリエッティの顔は何も映し出さず、またチンクの方も能面を貼り付けたような無表情でその場を去る。

 部屋を出たチンクと入れ替わるようにスカリエッティの元へとやって来たのはロングヘアーの女性。

 

 戦闘機人ウーノ。スカリエッティの秘書の役割をこなす女性である。

 

「あの子はまた繰り返しますよ」

「だろうね」

「放っておかれるのですか? 早いうちに処分をした方が…」

「処分?」

「はい。あの子は戦闘能力において他の姉妹に劣っています。それに今後、あの子が感情で動くことを考えるとドクターの計画に支障をきたす可能性は高いです。何より、ナンバーズに数えられてはいますがあの子はまだ――」

「処分などできるはずがないだろう!」

 

 ウーノは眼を大きく見開く。

 付き合いの長い彼女でも敬愛するスカリエッティの激昂など覚えが無かったからだ。

 

「たしかに彼女は私の求めた物と違って生まれた劣化品さ。だが彼女という存在が生まれた時点で私にとっては触れえざる者となってしまったのだ。彼女は私にとって唾棄すべき存在でもあるが、同時に愛していると言ってもいい」

 

 ウーノはスカリエッティとチンクとの確執を見てきた。一応の事情こそは知っていたが、改めてスカリエッティの口から吐き出される本音にさらに驚く。

 

「失望したかね?」

「いえ、そのような事は決して。私の方こそ失言でした」

「かまわないさ」

「最後に一つだけよろしいですか?」

「何かね?」

「ドクターはあの子をどうしたいのですか?」

 

 ウーノにとって今日という日は珍しいの一言に尽きるであろう。

 その問いに対してスカリエッティは苦虫を噛み潰したような歪んだ顔を浮かべて、長い沈黙の後に答えた。

 

「私にもわからないさ」

 

 それは無限の欲望とは程遠い答え。

 

 




キャロ
「いい? ヴィヴィオ。ヴィータお姉さまの妹的ポジションは私の物。この座は不動なの。おめぇの席、無ぇからお姉さまを姉呼ばわりするのはダメ。スールの称号は誰にも渡さない」

ヴィータ
「キャロ、ち~と頭、冷やそうぜ」

キャロ
「あの、お姉さま? カートリッジ全弾装填した一撃は私も流石に許してほしいな~なんて、てへっ♪ あ、ごめんなさい! 許して…うきゃぁぁぁぁぁぁ…ぁぁ……」

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