魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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油断していると誤字のまま書いちゃう今日、この頃。

再会・再開だったり


44・彼は非戦闘員?

 ミッドチルダ北部には、地球で言うところのヨーロッパのような雰囲気を感じさせる場所――ベルカ自治領がある。

 

 次元世界においても最大規模を誇る宗教『聖王教』の教えを説く宗教組織の本部、聖王教会がある場所だ。

 一部、快く思わない人間もいるが、時空管理局との関係は良好といってもいいだろう。

 

 そんな聖王教会において、カリム・グラシアという騎士がいる。

 

 彼女こそが機動六課の部隊長八神はやての直属の上司であり、機動六課設立の一つの原因ともなった人物である。

 

 

 

 カリム・グラシアは教会の一室で一人の男性と対談している。

 話している内容は業務に関することであるが、対する二人の浮かべる表情は柔らかい事から、互いの関係が慣れ親しんだモノである事が窺える。

 

 ある程度、話し込んだところでその部屋の扉がノックされ、一人の女性が入室する。

 女性の名はシャッハ・ヌエラ、聖王教会に属するシスターである。

 

「失礼します。騎士カリム、お客様が到着なさいました」

「ありがとう、シスター・シャッハ。お通ししてあげて」

「はい」

 

 シャッハは扉の方を促すと、管理局の制服に身を包んだ二人の女性が入室し、入れ替わりでシャッハは退室。残った両名は敬礼の姿勢をとる。

 

「機動六課、アリサ・バニングス到着いたしました」

「同じく、シグナム、到着しました」

「待ってたわ、アリサ、シグナム。さ、座って」

 

 促されたアリサとシグナムは素直に勧められた席に座る。

 

「やぁ、久しぶりだね」

「そちらもお元気そうね、クロノ提督」

「おいおい、久しぶりなんだし今は敬語はいいよ」

「そう? なら遠慮なく」

 

 男性――成長し、すっかり大人になったクロノ・ハラオウン提督。機動六課の後見人で監査役を務める。

 

 今回、アリサとシグナムがこの聖王教会に赴いたのは、ちょっとした現状報告のようなものである。ならば通信や報告書で済ませればよいのであろうが、こうして顔を合わせての口頭報告も必要となってくるのは組織故である。

 ともかく、アリサとシグナムは挨拶もそこそこに早速報告を済ませるのであった。

 

 

 

 

 

「そうだクロノ」

「ん?」

「鈴が友人なんだから顔を合わせたいってぼやいてたわよ。」

 

 記憶の戻った鈴は色々な人との再会を果たしてはいるが、忙しくて時間の作れないクロノとは顔を合わせていない。通信越しの顔合わせは果たしているが、やはり直接の顔合わせを果たしたいのは友人だからなのだろう。

 

「はははっ、すまない。けどこの時期、中々時間が取れなくってね」

 

 クロノの言うこの時期とは数ヵ月後に控える地上本部総司令官レジアス・ゲイズ中将の取り仕切る『地上本部公開意見陳述会』の事であるとアリサは察する。

 このレジアス中将は聖王教会や次元航行部隊を目の敵としており、それは当然クロノやカリムを快く思っていない。ならば自然と彼らが後見人として設立された機動六課も目の敵とされる。

 

 つまりクロノはこのレジアス中将に目の敵にされている以上、今は色々と気を遣わなければならないと言っているのだ。

 

「あの、よろしいですか?」

「なんだい、カリム?」

「その鈴という方ですがもしかして…」

「そうよ。カリムにも時々話したでしょ? あたしの幼馴染み。つい最近、遠くから帰ってきてね」

「やはりそうでしたか!」

 

 アリサ達は秋月鈴の存在を全て隠してきたわけではない。誰かと昔話などで華を咲かせる時などは言葉少なめに話している。話していはいるが魔導師である事を明かしていないし、ジュエルシード事件・闇の書事件にも関わっていないとされている。これはリンディ・ハラオウン元提督やギル・グレアムの尽力によるものである。

 こうやって全てを隠すのではなく、少しの情報を晒すことによってカリムに限らず周辺に秋月鈴を魔導師という括りではなく、アリサ達の幼馴染みの一般人という認識を植えつける事に成功している。

 

「私も一度、お目にかかってみたいわ。アリサがお熱のその人に」

「お熱って…いつの時代の言葉よ。それにそんな事、一言も言ってないわよ」

「アリサ、おまえは気付いていないようだったが話すたびに言葉の端々から匂わせてたぞ」

「えっ? マジ? シグナム」

「本当だ」

「…クロノ」

「若いって事さ」

「…ぅわぁ~」

 

 顔を赤くして机に突っ伏すアリサ。

 周囲に隠していたつもりの恋心は実は筒抜けでしたともなればこの反応も無理ないかもしれない。

 

「…おかげでシスター・シャッハは時折、暗黒騎士となってますが(ボソッ)」

「何か言った? カリム」

「いいえ」

 

 報告の終わった後のちょっとした談笑の醸し出す空気によって全員が自然と笑みを零す。

 

 しかしそれはすぐに緊迫した空気に切り替わることになる。

 

 機動六課によっての幼女の保護、ガジェットの襲来、アリサとシグナムに要請などの怒涛のイベントが報告されるのはこの後、すぐの話。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

『スバル』

 

 

「あ、あったよ!」

 

 下水道を進んだ先の広い空間、そこにレリックはあった。中身も無事だ。

 

「ようやく見つけたわね」

 

 ティアナも一安心といった風情だ。

 

 実際、ここに辿り着くまで相当の苦労を要した。もうガジェットの数が半端無いの。台所の黒いGのみたいに、一機見かけたら三十機は覚悟しろと言わんばかりだった。

 ギン姉とティーダ執務官も一緒だったけど、二人は足止めの役目を買って出たから既にずっと後方。けどあの二人に関しては大丈夫だと思う。二人の連携はあたしとティアナの上位互換もかくやといわんばかりの実力だから。

 …早く、くっついちゃえばいいのに。

 

 と、考えていると後方から物音と一緒に多数の熱光線が撃ち出された。

 

「全員、隠れて!」

 

 ティアの声に反応して大きくその場から飛び退く。

 

 そんなあたし目掛けて一振りのアームが襲い掛かる。

 

「うあぁっ!」

 

 レリックを抱えていたため、不覚にもその一撃をモロに喰らう羽目になった。さらには抱えていたレリックもあたしの手から離れ、遠くに弾かれる。

 起き上がったあたしが見たのは、この広い空間の半分を覆い尽くすほどのガジェットドローンⅠ型とⅢ型。

 

 そしてそれらを従えるように佇む、レリックを抱えた小さな女の子。

 

「ま、待っ…」

「スバル! 隠れなさい!」

「えっ? ワァッ!!」

 

 迫った大量の熱光線を間一髪で避け、地下を支える太い柱の陰に隠れる。隠れて尚も撃ち出される熱光線のおかげでまともに身動きも取れない。

 

「ティア、どうするの! このままじゃ持っていかれちゃうよ!」

「ティアさん! フリードの火力で一気に…」

「ダメよ! こんな場所で元に戻っての体のいい的よ!」

 

 実際こんな射撃の雨を掻い潜って攻めるのは難しい。ティアが遮蔽越しに撃ってるけどAMF相手じゃ決定打にはならない。

 

 そんな時だ。

 

『おまえら、全員頭上に気をつけろよ!』

 

 あたし達の頭に声が飛び込んできた。

 

『ヴィータさん! ナイスタイミングです!』

『状況はわかってる。ガジェットの隙を作る。後は任せたぞ!』

『了解です!』

 

 念話の通信が終わると同時に天井の一部が崩落して大量の瓦礫がガジェットを押し潰していった。

 

 いくら廃棄都市区域といってもやり過ぎのような気がするけど今は無視。あたしとティアはガジェット討伐に乗り出す。エリオとキャロはレリックの確保を。

 

 ようやく訪れた勝機を逃さない。

 

 

 

 あたし達はできる事を精一杯にやって反撃に挑んだ。

 

 

 

 結果、ティアの機転もあって任務は成功した。

 

 

 

 

 

 そしてあたしは失敗した。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

『鈴』

 

 

 人生って本当に難易度がハード通り越してルナティックとかナイトメア級。

 いやね、俺ってこの体になって人生やり直している身で、そりゃ波乱万丈もたくさん経験しているわけよ。

 

 だからって慣れているわけじゃないんで帰還中に通り魔も勘弁してください。

 

 

 

 

 

 走っている途中に起こったのは何も無い空間からナイフの出現。

 

 俺に向けられた刃先に一瞬、理解が追いつかなかったのだが、明確に込められていた殺意に反応した体が反射的に回避行動をとっていた。

 地を這うように転がってナイフを避け、そのまま身を隠すために近くの瓦礫に身を潜め、さらには念のために【鎧】を発動させておく。

 

(なん…だぁ?)

 

 あ、ありのまま(ry…のテンプレをリアルに体験した気分だった。バクバクと激しい音を鳴らす心臓を自覚しながら、建物に手を置きながら何とか頭を働かそうと試みる。

 

(空間からナイフ? 明らかに俺を狙ってた。誰が? どこから?)

 

 そんな風に思考を纏める間もなく、敵の次手が繰り出された。

 

 俺が背を預けていた瓦礫が突如として爆発したのだ。

 

「ぐぁっ!?」

 

 当然、俺の体は爆発を堪えられる程の体重じゃない。数メートルは吹っ飛ばされ、受身もまともにとれぬまま転がった。

 爆発の衝撃に熱風、さらに瓦礫の破片。普通の人間なら致命傷は免れないが【鎧】のおかげでダメージはかなり軽減されている。それでも痛いものは痛いけどな。

 

 けど痛みを気にしている暇は無い。この危機から逃れるために俺は即座に立ち上がりその場から逃げる――

 

 

 

 ――事はせず、ある建物に向けて腕を振る。

 

「【斬撃】!」

 

 振られた腕の軌跡をなぞって、建物が斜めに切断される。廃棄都市だから破壊とか無問題。

 自重によって建物は切断面から崩れ落ち、辺りに轟音と瓦礫と土煙を撒き散らす。

 

 けど俺の狙いはココ。建物が崩れ落ちる際にその屋上から他へ飛び移ろうとする人影を見る。

 

 さっき隠れていた時に手を瓦礫に貼り付けていたのは、手から魔力を発して即席のソナーに仕上げていたのだ。即席だから範囲も狭いし、敵の場所大まかにしかわからないが、この人気のない場所ではそれで十分であった。

 

 俺も跳躍し、その人影に向かって拳を突き出す。

 

「そりゃあっ!」

「!?」

 

 硬く握った拳をその人間に振り下ろし、人間を殴った特有の感触が拳に伝わる。

 殴られた人間は上空からそのまま地面に叩きつけられた――と思ったんだけど、うまいこと崩れた体勢を整えて着地しやがった。

 俺もいつまでも宙に留まっているわけにもいかないので相手と距離を挟んで地面に降りる。

 

「誰だか知らねぇが、随分……と…」

 

 突然、殺しにかかってきた相手を罵倒するつもりでいた。殴るつもりでいた。

 

 目の前に立っていたのはコートを纏った小柄な少女。パッと見は眼帯が特徴的だ。だが俺は少女の姿に動きを止める。

 

 

 流れる銀の髪に白を見た。

 

 

 殺意を秘めた瞳に意思の強さを見た。

 

 

 息が止まった。

 

 

 

 

 

「……先生?」

 

 

 

 

 

 …いや、違う。

 

 よく見ると先生とは違う。似ても似つかない。

 なのに何故俺はコイツに先生を重ねた?

 

「…気……ない」

 

 目の前の少女が何かを言ったような気がした――が、それを考える瞬間、少女は俺との距離を詰めていた。

 

「っ!? っとぉ!」

 

 その手に握られていたナイフが俺の首を狙おうと振るわれるのを紙一重で回避。続いて流れるように少女は脇腹を狙った蹴りを繰り出してきた。

 

「なめんな!」

「何っ!?」

 

 脇腹にあえて受け、そのままガッチリと少女の脚をホールド。少女とは思えないような蹴りの威力だったが、幸いにも骨に異常は無さそうだ。

 

「この動きにその格好…噂の戦闘機人ってやつか?」

「知ったことか…」

「なら明らかに俺に向けているその異様なまでの殺気。なぜ俺を狙う?」

「貴様の存在、それだけで私にとっては十分だ!」

 

 叫ぶ少女は握ったナイフを顔面に目掛けて投擲する。それを皮一枚で避け、俺はホールドした脚ごと彼女の小柄な体をぶん投げる。

 

「くっ!?」

 

 何とか着地したようだが俺は追撃の手を緩めない。

 

「【射撃】!」

 

 三発の魔力弾を放つが、当たったのは最初に一発だけで残りの二発は避けられてしまった。おまけにその一発でさえもあまり効いた様には見えない。

 さらには反撃として五本のスローイングナイフを投げられるが【盾】で弾く。

 

「んなモンで俺が倒せると…」

 

 

 衝撃。

 

 

(……あれ?)

 

 痛みは感じなかったが全身が焼けるような感覚だけはあった。キンキンと耳鳴りがして周囲の音も聞き取れない。視界も若干、赤く染まってる気がする。というより……

 

(何で俺、倒れてんの?)

 

 上体を起こそうとするも、体が錆び付いたように思うように動かない。

 そうこうしている内に少女は俺の方までに来る。そして胸元を踏みつける。

 

「がっ!」

 

 空気が強制的に吐き出される。

 見上げた視界に映る少女の俺を見下ろす瞳。それはとても冷たく冷酷で……

 

 

『チンクちゃ~ん』

 

 

 緊迫した空気を割って入ったのは妙に苛立たせる間延びした声と空間モニター。

 

『あら? 随分と楽しんでたみたいね』

「クアットロ…何だ?」

『ちょっとね、失敗しちゃったみたいなの~。管理局に人間に見つかっちゃった』

「何をやっている…」

『しかもよりにもよってあのアリサ・バニングスなの。だから私たちは戻るわね。でわでわ~』

「チッ」

 

 舌打ち一つ。少女は口惜しげに俺を見下ろし、その踵を返した。

 

「…ま…て」

 

 搾り出した声に、少女は歩みを止めた。

 

「もう一度…聞く。何……で俺を…狙った?」

 

 答えが得られるかどうかはわからない。しかし俺としては聞かなければならないような気がした。

 

「……貴様に非は無い」

 

 長い沈黙の後、少女は答えた。

 けどさっきまでの憎悪や憤怒に駆られた声色ではない――どこか寂しそうな声。

 

「恨むのなら……『魔女』を恨むんだな」

 

 それを最後に少女は今度こそ、この場を去ったのだった。

 

 

 

 

 

 結果としては運よく見逃された俺。後一歩で死亡という結果を前にしてのだ。

 

「痛ってぇ…」

 

 傷だらけの体に【治癒】を施す。癒えてゆく傷を眺めながら考える。

 

 裂傷に打撲、そして極みつけの大火傷。ドラドラ付いての満貫ってか。この傷、そして周囲の焦げた瓦礫などから考えて、俺は爆発にやられたと見て間違いないだろう。

 

 問題はこの爆発を巻き起こした爆弾の存在だ。

 

 魔法が発動したような――正確には魔力が動いたような感じはしなかった。AMFのような物が働いていたという前提があれば話は別だが。

 

 ならばあのチンクとかいう奴は何かしらの爆弾を物体として設置、起爆させた。もしくは大気の成分を弄って爆発という現象を任意に指定箇所に誘発させたか。

 前者なら簡単に対処できるが、後者となればちょっと面倒くさい。どちらにせよ、俺の魔法で対処は可能だ。個人的には前者を望むけどね。

 

 そしてもう一つ、俺としては最も重要なキーワードについて。

 

「…『魔女』……先生…か」

 

 首元の首飾りに触れる。闇の書の欠片で先生の情報を宿した『レン』

 つまり、チンクは先生に何らかの恨みを抱いていて、そのお鉢が俺に廻って来たと。そう考えるのが自然かな?

 

「チンクって奴じゃないけど…恨みますよ、先生」

 

 半ば愚痴のように漏れた俺の本音は空に溶けていった。

 

 




ウチの主人公は確率250億分の1のしぶとい生命体のような気がしてきた。

シスター・シャッハは生真面目で正義感の強いお人ですが、とある条件が満たされると暗黒面に堕ち、暗黒騎士ヌエラと化す。その条件にはアリサが関わっているようだが…?

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