この回は他に比べると短いです。
愛の差とかではなく、元々こういうアッサリ展開のプロットです。
『短すぎ』など不満の声があれば、また別の砂糖話を書くかも?
途中入隊のヴィータに割り当てられた部屋はキャロとの二人部屋。
元々旅をしていた二人の私物は少ない上に、倹約家と化していた二人は入隊後も私物の購入は最小限に留めておいたため、室内は思った以上に質素なものになっている。
だがそれは裏を返せば室内を広々とした物にしているという事でもあるのだ。
「こうしてアタシとキャロは二人で旅を始める事になったってわけだ」
「それは…なんとも……」
今、語られたのはヴィータの冒険譚の一角。それを聞いた鈴はひどく複雑な心情に駆られている。それはうれしさと申し訳なさ、呆れや敬意ととにかく一言では表せない心情だ。
「さてと、とりあえずアタシの話はここで一旦区切るぞ。今度はアタシから聞きたいことがある」
「なんだ?」
「守護騎士だった頃のアタシの体、知ってるだろう?」
「あぁ、プログラムの受肉っていう認識でいいんだっけ?」
「そうだ。だから本来、アタシの体には成長というものは存在しない。なのにアタシは見てのとおり、成長している」
ヴィータの体はかつての幼児体型から成長を遂げ、普通の人間の成長期ほどの体型へとなっている。大人には見られないが幼児にも見られないという辺り。
さらにいえばヴィータの体は魔力さえ満たせば単独で生存できるという事象まで起きている。
これはシグナム達、夜天の魔導書が大元の守護騎士システムには無い現象である。つまり魔力が必要という点を除けばただの人間の体と遜色ないのだ。
「アタシのこの体、何が起こってるんだ?」
当然ながらヴィータたち一同はこの現象について調べた。
原因として考えられるのはかつてヴィータを救うために行われた鈴とヴィータとの使い魔の契約。その線を洗ってみたが、蓮の魔法についてはほとんどの知識を持たない彼女たちは結局原因には辿り着かなかった。
否、一人だけおおよそ確信に近い見当をつけた人物がいる。
「プレシアさん辺りならわかってるんじゃないか?」
「あの人は確信が持てないとかいって閉口したままだ」
(だろうな…)
鈴とておぼろげではあるが、半ば確信めいた原因を思い浮かべていた。それはプレシアさんと消えた蓮しか知りえない鈴の体の秘密。プレシアはその秘密の言及を避けるためにヴィータ達に原因を暈したのだった。
「……原因は契約の際にラインを通して俺の体の因子がヴィータに流れたからだと思う」
「…それはおかしいだろ? その理由でいくと同じ使い魔のアルフも同じことが言える」
「それは俺の体の秘密が原因だ」
「体の秘密?」
「今から話すのは今ではプレシアさんしか知らない俺の体の秘密だ。なのは達には絶対に言うなよ」
強い口調で念を押す鈴の気迫に、ヴィータもその真剣さを感じ取り静かに頷く。その肯定を受け取った鈴は語り始める。
「オマエの体が…ね…」
「若かりし頃の過ちって事だ」
「今でも若いだろ」
「いやいや、内面はオッサン年齢ですぜ。とにかく、この事はなのは達には他言無用だぞ?」
「わかってるっての」
共に向かい合って笑いあう。
これでかつて一度は殺し合いを繰り広げたというのだから、人の関係ってのはどう流れるのかわかったものではない。
「さて、そろそろ遅いから俺はお暇するわ」
「はぁ?」
「さっき言ってた再契約の件だけど今夜はもう遅いから後日な。んじゃ、俺はこれで……」
「ちょ、ちょっと待て!」
立ち上がろうとする鈴の服を掴んで引き止めるヴィータ。
「どうした?」
「どうしたじゃねえ。オマエこそどこに行くんだ?」
「どこって……客室だけど?」
「何でだ?」
「何でって…もう休まなきゃいけないし、ここ二人部屋だろ? 積もる話もあるだろうからって同室のキャロちゃんをいつまでも出してはおけないだろ」
「……アイツは今夜は戻って来ねぇよ」
「えっ?」
「今夜、オマエは…その、こ、この部屋で寝るんだ!」
「…………ええっ!?」
◆ ◆ ◆
『ヴィータ』
部屋の灯りも消え、暗くなった部屋に鎮座する二段ベッド。寝巻きに着替えた鈴とアタシ。
「………なぁ、やっぱりせまいから一つのベッドで寝る必要ないだろ」
「うるせぇ、せっかくなんだからいいだろ…」
そりゃ広いベッドじゃないけどよ、いいじゃねぇか。
「大体、仮にもオマエは女で俺は男。間違いが起こったらどうするつもりだ?」
「……」
「ヴィータ?」
「…ま…」
「ま?」
「ま、間違えば…いいじゃねえか……」
知らず蚊の鳴くような小さな声になったアタシの言葉。
物音のしない静かな室内に消えていったアタシの声が届いたかどうかはわからない。鈴の奴も反応を示さないから尚更わからない。
しばらくすると静寂な室内に鈴の声がした。
「……そういう冗談はよせ。聞かなかった事にしておくからさっさと寝るぞ」
「~~っ!?」
一瞬で頭に血が上った。
自分でも制御しきれない感情に身を任せたアタシは飛び起きて寝ていた鈴に覆いかぶさる。
「ヴィータ?」
「ふざけんなよ…何で冗談だって決め付ける?」
「いや、俺たちってそう長い時間を過ごしたわけじゃないし…」
「時間? 好きになるのに、んなもの必要あるか!!」
アタシの覚悟を……この気持ちを冗談の一言で片付けられてたまるか!
だったら行動で示してやるよ!
「~~っ!」
「っ!?」
思いっきりキスしてやった。勢い余り過ぎて歯がぶつかったけど何事もなかったように振舞う。キスは鈴がアタシを力ずくで引き剥がすまで続いた。
「……どうだ? これでわかったか?」
「本気か?」
「まだ疑うのか? なら…」
アタシはそのまま鈴のズボンに手を掛け――
「まてまてまてまてまてっ!! それはさすがにシャレに…」
「黙ってろ!」
「わかったから! オマエの本気はわかったから!」
鈴がようやくアタシを認めたけどもう遅い。アタシは最後まで行くって決めたんだ。
アタシがやめないのを悟ってさっき以上に抵抗する鈴。けどアタシが覆いかぶさっているこの状態ではアタシの方が有利だ。途中でバインドも使って鈴を拘束する。
「本当に後戻りできないぞ!」
「それでいいって言ってるだろうが!」
「俺の気持ちは!?」
「後で確かめる! つ~かこれだけ固くしておいて今更逃げられるとおもうな!」
鈴の自己主張するソレに、アタシは狙いを定めてソコにあてがう。
長旅のせいか、キャロと一緒に割と図太くなった自覚のあるアタシはここまできても羞恥心はあまり湧かない……いや、覚悟を決めたからこそだろうかな?
ならオマエも覚悟しろ、鈴。オマエの使い魔であるアタシだって『女』だっていう事を。
「……後始末が大変だな」
「う、うるせぇ!! オマエだって途中からノってただろう!!」
「あ~あ…キャロちゃんとの二人部屋なのに…」
アタシのぎこちない行為も途中から逆転。鈴の手によって何度果てたか……
ともかく、ここまでヤったからにはもうアタシの気持ちを疑う余地も無いだろう。文字通り、体を張った甲斐があった。
あ、でもアタシ、肝心の事を聞いてない。
「…で?」
「あん?」
「アタシはここまで言ったんだ。オマエはどうなんだ? アタシの事…」
「…さあ?」
「………そっか」
「でも…」
「ん?」
「間違いなく、好きっていう気持ちはある」
「…そっか!」
アタシと鈴の好きって言う感情には程度の差があるだろうけど今はそれで許してやる。
この先、アタシはまた鈴の使い魔として生きるんだ。だったらその間になのは達には負けないぐらいに鈴を虜にしてやる。
なのは達も……まぁ今までの関係もあるし、許してやらない事もない。そもそもこいつ等の関係を壊そうなんて思っていない。
こうして関係を結んだわけだがあいつらは絶対に察して、後日鈴に迫るはずだ。そしてアタシ達は新しい関係を始める事になる。
だったら全てで繋がっているアタシは一番の座は絶対に譲らないからな!
作中でちょこっとありますが、この作品では守護騎士システムは生きています。
なのでシグナム達はやられても復元可能。一方、切り離されたヴィータに守護騎士システムはもう無い。