一番の問題作かもしれません。
もっとドロッとした内容だったんですけど、ソフトに修正している内に構成、台詞回し、心情などがおかしくなってしまった気がします。
月村すずかは機動六課においてデバイスメカニック担当に位置する。
魔導師としても超優秀で一線を張れる実力を有するが、本人の希望により現在の地位に落ち着いている。時空管理局からすれば宝の持ち腐れで上層部からの不満の声も少なくはない。
なのは達のような派手な出世はないが、それでも彼女も注目を集めるには十分の資質を持つ女性である。
「デバイスを弄るのは得意だし、どちらかというと私は裏方が合っていると思うしね」
すずかはメカニック班内では主任という事で、なのは達隊長陣ほど広いものではないが個室を与えられている。
「そういえばティアナさんのアンカーガン、あれって鈴くんが作ったって聞いたんだけど…」
「正確には俺とティアナとティーダとの合作だけどな」
「一度見せてもらったんだけど、中々よくできてるね」
「専門家のお墨付きとは自信がもてるな」
実際、鈴のデバイス知識は専門家に及ばないがメンテぐらいなら問題なくやれる程度である。でなければアンカーガン専用のカートリッジ【波動砲】の作成など不可能であっただろう。
「それにしても…」
「はい?」
「眼鏡かけるほど視力悪くなったのか?」
「えっ? あぁ、これ?」
すずかは笑いながら掛けていた眼鏡を鈴へと渡す。鈴はそれを訝しげに受け取ると、眼鏡のソレに気付く。
「これって……ダテ眼鏡?」
「正確には私の魔眼を抑制する道具。私の魔眼って一族の中でも異常なほどに強力で……この眼鏡とお姉ちゃんからのアドバイスでようやく抑えられるようになったんだよ」
鈴から返してもらった眼鏡を再び掛けるすずか。
「あ、忍さん、今は海外なんだって?」
「うん、恭也さんと一緒にね」
「海鳴市に居なかったからどうしたって思ったけどまさか結婚とはね」
「ふたり共、鈴くんがいない事を残念に言ってたよ。特にお姉ちゃんは改めてお礼が言いたかったって」
「あぁ~、その辺はすまないな」
「もういいよ、こうやって戻ってきたんだから」
「それにしても結婚か。仮にもお嬢様なんだから大層、立派な物だったんじゃない?」
「うん。お姉ちゃん、すごい綺麗で素敵だった」
当時の事を思い出しているのか、眼鏡の奥の瞳を輝かせるすずか。鈴はその映像を頭に想像しながらコーヒーを含む。
「いつか私に着せてね」
「ブウゥゥゥゥゥゥッ!!」
噴き出した。
「ふふっ、冗談です」
「ゲェフッ! ゴホッ!」
気管にでも入ったのか、必要以上にむせる鈴の背中を擦るすずか。ふと時計を見ると、結構な時間が過ぎていたことに気が付いた。
「もうこんな時間ですか……明日に差し支えないよう、そろそろ休みましょうか?」
「あ、あぁ…そうだな…」
そのままベッドに入るすずか。そして鈴の動きに気付く。
「鈴くん、何をしてるの?」
「何って……寝ようとしてるんだけど?」
「そこはソファーですよ?」
「そうだね」
「鈴くんはここ」
すずかは自分の横、つまりはベッドの上を叩く。
「……えっ? いやいや、ダメだって」
「何がダメなの?」
「何って……年頃の男女が同衾なんて…」
「私は鈴くんなら大丈夫だよ」
(何が大丈夫なんだあぁぁっ!)
すったもんだの挙句。
「……」
「……」
結局は同衾を許す鈴。しかしすずかはともかく、鈴は気が気でなかった。
幼馴染みとはいえ、思った以上に美しく成長したすずかに鈴も高鳴る鼓動を抑えきれず、星明りだけが注ぐ室内で鈴は眠ることができずにいた。
だが眠っていないのはすずかも同様だ。だから二人はどちらからともなく、ポツポツと話を交わす。
「俺がいなくなってなのはの奴、相当に落ち込んでた?」
「……はい。なのはちゃん、すごく荒れてた。すぐにアリサちゃんが立ち直らせてくれたんだけど…その時、私もなのはちゃんもアリサちゃんばかりには頼ってばかりじゃダメだと思って」
「……そっか」
「……実は私も最初は気が狂いそうだった」
「えっ?」
「大好きな人が死んだかもしれない。表面上は取り繕ったけど、自分の家で一人になった途端に……ふふ、孤独を恐れる吸血鬼っていうのも変な話だよね?」
「本当に……ごめんな」
「だからいいですよ。そのかわり……」
「?」
「もう……逃がしません♪」
「お手柔らかにな」
それを最後に鈴は瞼を閉じる。するとさっきまでの不眠が嘘のように睡魔が襲いかかり、あっという間に意識を沈ませる。
しばらくすると規則正しい寝息が聞こえる中、すずかは……
(そう……絶対に逃がしません)
鈴が眼を覚ましたのは首筋に痛みを感じたからだ。
ちょっとした痛みなら無視して再び眠ることもできたが、持続する痛みは無視できそうにもない。また、痛みだけではなく温もり、水気、そして快感という纏まりのない感覚。その感覚が続いたのは五秒とない。しかし鈴が眼を覚ますには十分の時間だ。
「起きました? 鈴くん」
瞼を開けた鈴の視界に映りこむのは、差し込む星光を背にして微笑むすずかの姿。
薄手のパジャマ姿のすずかではあるが、星明りをバックにしたすずかという瞳に映る光景は完成された一枚の絵画を思わせた。
暫しの間、その絵画に見蕩れていた鈴は我に返り、さっきまで感じていた首筋の違和感を確かめようと腕を動かそうとしたが――
(あれ? 腕がおもイ…)
腕だけではない。足、胴、さらには口、果ては思考能力までもが重くなっているような感覚に見舞われた。おまけに鈴が感じている違和感は重さだけでない。
体全体が暖かく……いや、熱いほどに火照っている。
「どうしたの?」
そんな鈴にすずかは優しく語り掛ける。
星光の明かりの中で真紅の双眸を輝かせながら。
鈴の違和感――異常はここでさらに増長する。
すずかの声を聞くたびに体の熱が上がっているようである。奥底からせりあがっているのは熱だけではなく何かしらの衝動。その衝動の正体に鈴は気付けない。ただ彼はその湧き上がる謎の衝動を抑え込もうと、重くなった理性を必死に働かせる。
そのおかげか、鈴はすずかに対しての違和感に気付いた。
彼女の浮かべる笑みが鈴の体に起きている変調に気付いているかのような含んだものだという事に気付く。
さらに彼女の口元、健康的で血色の通った桜色の唇にそれを超える色……赤が混じっているという事に。
彼女の真紅の瞳が殊更紅くなっているという事に。
重い思考能力を総動員して導き出した首筋の痛みの原因――すずかの吸血行為。
それを訊ねるよりも早くにすずかが言葉を紡ぐ。
「気付いたようだね……そう、私です」
彼女は浮かべていた笑みを一層深くして告白する。その笑みは普段の彼女が浮かべるような柔らかいものではなく、まるで捕食者のような鋭いもの。
鈴の体に起きている異常はすずかの吸血と魔眼によるものであったのだ。
鈴は考えるよりも早く思考能力を切り替え、重い腕を必死に動かして頭に持っていこうとする。幸いに彼はこういう洗脳や干渉に対しての魔法【覚醒】を有している。今回もそれを使っての打破を考えていたが……
「させません」
いち早く察したすずかが鈴の腕を掴んでそれを阻む。
「…んっ」
「!?」
それどころかすずかは鈴と唇を重ねる。
うまく力も入らず、思考能力もままならない鈴にこれを避ける術はない。情熱的で淫靡な重なり。唇だけでなく、すずかは舌で鈴の歯を抉じ開けて口内を弄る。
幼き頃のとは違う、熱の篭った唇による蹂躙。ひとしきり鈴の口内を犯したすずかは漸く舌を引っ込める。 すると今度はその歯で鈴の唇をプツリと噛み切る。ジワリと滲む鈴の血を丹念に舌で舐めとり吸い付く。
この一連の行為により、風前の灯であった鈴の理性は完全に消失する。
熱くなった体は煮えたぎる寸前であり湧き上がる感情はただ1つ――ジョウヨク――
鈴の意思で動かせなかった体は気が付けばすずかを組み伏せ彼女の衣類を引き裂く――ケモノノゴトク――
思考能力は奪われ単純化される――オカセ――
鈴に組み伏せられ、衣類を引き裂かれて豊満な胸を晒すすずか。
獣に喰われる寸前の獲物である筈の彼女であるが、その顔に浮かぶは恐れに満ちた表情ではなく……笑顔。
「いいんですよ……」
もう言葉すらも届くかどうかさえ怪しい程に思考を奪われた鈴をその真紅の瞳で見つめながらすずかは呟く。
「さあ、私を…」
――ケガシテ――
◆ ◆ ◆
『すずか』
意識が戻った時、私が寝ていたのはベッドの上。時計を見ると日が昇るまであと少しという時間帯。昨夜は閉めた覚えのないブラインドは降りており、余計に部屋内を薄暗くする。
「起きたか?」
声は鈴くんのもの。彼はベッドではなく、ズボンのみの格好でソファーに腰掛けていた。
私が身を起こすと体に掛かっていた毛布がハラリとずれ落ちる。そしてその下、つまり私の体は何も纏っていない事に気が付く。とりあえず鈴くんの視線から逃れるために体を隠そう。
そこから流れる無言の空気。
その空気の原因は私のせい。彼には何の非も無い。なのに彼はその顔を痛ましそうにしている。
「……なぜこんな事を?」
魔眼を使って鈴くんの理性を奪い、そして私を犯すよう仕向けた。
それが私の望んだ事。
記憶が鮮明に浮かび上がる、獣のように私を蹂躙する鈴くん。
何度も―
何度も――
何度も―――犯されつくす。
私が意識を失い、魔眼の効力がきれるまで――
「何でこんな事をしたんだ?」
黙っている私に業を煮やした鈴くんの声にも僅かに怒りを含んでいるように思える。
「……醜くて浅ましい私の望み」
「…何?」
「鈴くん、私ってみんなが思うほどの人間じゃない」
「えっ?」
「鈴くんは口では色々と言いながらもみんなを気にかけてくれる。私はその優しさにつけ込んだの。責任感の強い鈴くんなら、体の関係を持てば私だけを気にかけてくれるって」
「……」
「みんなと一緒でもいい。そう思ってたのに二人だけになった途端に独占欲が際限なく湧き出て…」
「その感情が爆発したと?」
彼の言葉に頷く。
「幻滅…しちゃったよね…」
あの夏のデートの時に自分の気持ちをぶつけられたと思ってた。吐き出せたと思ってた。
けど十年経った今、自覚した。
私の中で吐き出しきれなかった気持ちは澱んでたって。
そしてそれに抗う気も起きなかった事にはもっと驚いた。
けどこうして全て終わってみれば、私の中で新たに生まれたのは虚しさ。虚しさはやがて私の頬を伝う涙となった。
部屋の中は私の嗚咽の声だけが響く。
しばらくすると鈴くんが動く気配を感じたけど、私にそれをきにかける余裕はありません。
「すずか」
「えっ? むぅっ!?」
鈴くんはいきなり私を引き寄せてキスをしてきた。
手段は強引だけど昨夜のような荒々しいキスではない、もっとソフトで…それでいて濃厚なキス。驚いていた私だけど、しだいに脳が悦楽で満たされる。
「…ふぅ」
「…はぁ…あ、あの鈴くん、これは?」
「仕切りなおしだ」
「はい?」
「初めては荒々しかったからな、今度はもっと優しくする。言っとくけど先走ってネガティブ思考になっていたすずかに拒否権は無いぞ」
「え? えぇっ?」
「俺のすずかに対する気持ちを確かめもせずにあんな事をした罰だと言ってんだよ。言わせんな恥ずかしい」
俺のすずかに対する気持ち……ええっ!? そ、それってまさか…
「あの、あのっ!? それってまさかっ!? ひゃうっ! あっ…」
「まぁ、初めてがあんなのだとすずかも後味悪いだろう? だから前回と違う優しいやり方でいくから」
「ちょ、ちょっと待って鈴くん。心の準備が…」
「問答無用」
結局、朝日が昇っても鈴くんはやめてくれず何回致したのかわかりません。後で聞いたんだけど、鈴くんはやっぱりちょっとだけ怒ってたみたいで……
これまでの陰気な展開を壊して申し訳ないけど、臆病でネガティブになった私の取り越し苦労はこうして幕を閉じた。
ただ鈴くんに抱かれている最中、彼は意識してかそうでないのか……私の事を好きだと言ってくれた。
その一言だけで何もかもを許せてしまうように思った私はどうしようもなく、彼が好きなんだと改めて自覚できた。
すずかっぽくない、と思われる方もいると思います。
いい子だけど実は内面では…そんな風に思ってもらえれば。Fateの桜みたいに。