魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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この話の投稿にあたっては自分の中でかなりの葛藤がありました。出来もさることながら内容の方の意味でもです。

賛否両論…否、批判しか集まりそうにない内容ですが、思い切って踏み出してみました。もともと最初期のプロットの内でしたし。

R-15程度に納めたつもりですが、もしこれがR-18だろうと思われたならご一報ください。そちらに移しますので。



閑話の一・高町なのは

 

 機動六課において、二人一部屋の一般隊員と違い隊長陣のような重要ポストの人間には少々広めの部屋を与えられる。不公平と思うなかれ、軍のような組織において上に立つ者が下士官への示しとしての処置の一つなのだ。

 機動六課のスターズ分隊隊長である高町なのはも一室を所有する一人だ。しかし、悠々と過ごせる広めの部屋は彼女にとってあまりありがたいものではなかった。

 一人部屋の静けさにかつて幼少の頃の孤独な時間を思い出し、無意識の内に鈴の温もりを求めてしまうのだった。十年経ち、周りのみんなのおかげで改善されたとはいえ、彼女にとって孤独というのは払拭しきれないトラウマなのだ。

 

 そういった事情により、なるたけ一人を部屋で過ごす事を避けてきたなのはだったが、今夜は初めてこの一人部屋を好きになれた。勿論、その理由は語るまでも無い。

 

 

 

「ほう、草食獣ユーノと肉食獣アルフがねぇ~」

「何だかんだでうまくやってるみたいだよ」

「あの頃から仲いいなぁと思ってたけど……まぁ、収まるとこに収まったというべきか?」

 

 その部屋のソファーに並んで座るは鈴となのは。

 鈴は白カッターに黒ズボンという寝巻きに。なのはは薄手の淡い色合いのパジャマ。魔法により室温調節のなされているからこそ、このような薄い格好でも十分なのだ。

 二人が語るは十年間の軌跡。互いに歩んだ道のりをただ取り留めなく話すだけ。一つのソファーに肩寄せあいながら座り、そしてさりげに繋がれた二人の手と手(実際にはなのはが掴んで放さないといったところだが……)

 なのはにとって今この空間は寂しいを連想させるかつての部屋ではなく、鈴の存在によって温かな場所へと変貌している。

 

「――と語ったところで、この手をそろそろ放して下さいな」

「絶対ヤダ♪」

「Oh…」

 

 さりげない会話の中に澱みなく差し入れたささいな懇願であったが、なのははにべもなく切り捨てる。

 

「今の鈴くんには拒否権はないよ」

「ちくせう…;」

 

 それを言われるとさすがの鈴も強くは言い返せないでいる。

 十年間自分のために頑張ってくれた彼女らへの恩をこれ以上無いほどに感じている鈴もできる限りの要望は応えてあげたいが、照れるものは照れるのだ。

 

「はい、じゃあ次は鈴くんの番だよ」

「はぁ~、わかったよ。それじゃあ次は何を話そうかな…」

 

 

 

 

 

「ほらなのは、そろそろ寝ないと仕事に差し支えるぞ?」

「ぅ、ん…大丈、夫だよ…寝てな…い…zz」

「んなわけあるか…」

 

 鈴は時計を見ると、とっくの昔に日付が変わっていた事に初めて気付いた。

 互いの積もる話を続けていく内になのはは眠気に襲われ、とうとうリタイヤ状態に陥った。本人はちょっとでも鈴と長く過ごしたいと眠気に逆らい、躍起になっていたがそれも無駄な事だ。

 

「ほら、ベッドに行くぞ」

「ぅうん…やぁ……」

 

 膝と頭に手を回し、いわゆるお姫様抱っこでベッドへと運ぶ鈴。

 寝たくないなのはは僅かに身を捩ったりとちょっとばかりの抵抗もしたが、結局はおとなしく運ばれベッドに寝かされた。管理局の誇るエースとは到底思えないような、まるで子供のような姿に到底部下には見せられないなと鈴は苦笑する。

 

「…すぅ…すぅ」

「やれやれ…」

 

 穏やかな顔で眠るなのはの横で鈴はその寝顔を眺める。

 

「随分と大きくなりやがって」

 

 さらりとなのはの髪を撫でる鈴。だがその顔は優しげではなく、少々複雑なものだ。

 

 記憶を失くしていた鈴の中では未だに幼き頃のなのはの姿が色濃く残っていた。だが記憶を取り戻してみればなのははもう大人。かつての妹分がいきなり魅力溢れる大人の女性にという、ちょっとした浦島現象を味わった鈴は未だにその成長によるギャップに違和感を拭いきれないでいる。

 

「仕方ないか。んじゃ俺も―」

 

 寝ようか…と言うところで、鈴はシャツを引っ張られる。

 

「んだぁ?」

 

 見てみるとなのはは眠りながら鈴のシャツを掴んでいた。鈴はため息をつきながら、その手を外そうと――

 

「ん?」

 

 その手を外そうと――

 

「…おい」

 

 外そうと――

 

「外れねぇ……」

 

 なのはの眠りを妨げないようにしているため本気の力で剥がすことのできない鈴。ソファーで寝ようと思っていた鈴はこのままでは動けない。となれば?

 

「……お邪魔します」

 

 なのはと同じベッドで眠る事にした。

 他にも選択肢はあるが、鈴は色々と面倒くさくなったのでこの選択肢を選ぶ。幸いベッドはキングサイズ。二人が眠るにしてもスペースに余裕がある。

 なので鈴は可能な限りなのはとの距離を離し、眠る事にした。

 魔法で部屋の明かりを消し、ブラインドの隙間から入り込む月の光を浴びながら鈴は瞼を閉じて意識を沈めていった。

 

「おやすみ、なのは」

 

 

 

 

 

『―っ――ぅん――』

 

 

 まどろむ意識の中で聞こえるナニカ。

 

 

『ぁ―ん――』

 

 

 そのナニカ…声は鈴の意識を僅かに浮上させる。

 

 

『――ぁ―りん―』

 

 

 その声が呼ぶ自分の名に鈴はその意識を覚醒させる。

 

 

 

 まず最初に感じたのは重み。

 寝起きで意識が万全ではないが、重みを肌に感じたのは両手足に胴の五ヵ所。ただ両手足の方は重みというより締め付けのような圧迫感を感じる。

 

 次に感じたのは摩擦と熱。

 これは鈴の胴に感じる重みの動きによって生じる摩擦だ。だがそれと同時に水音と僅かな熱も感じた。

 

 そして感じる――ぶっちゃけ面倒くさくなった鈴は眼を開いて確認する事にした。

 

 そこに広がる光景は鈴の思惑を遥かに超えるものだった。

 

 

「…ぁ、鈴くん……んっ…」

 

 鈴の体に跨って彼の肌着を開き、その晒された素肌の胸板に身を沈め、一心不乱に唇を落とすなのはの姿。 

「えっ? なのは?」

「ふぁ…? 鈴くん、起きたの?」

 

 鈴の声に気付いたなのはは胸板に寄せていた体を起こし、鈴を見下ろす。そしてその姿を見た鈴は激しく狼狽する。

 

「ちょ、おまっ!? その格好はどうした!?」

「ん? 暑いから脱いじゃった♪」

 

 そう、なのはは寝る前に着ていたパジャマを脱ぎ捨て、上下共に下着一枚という格好だ。 

 

「い、いいから服を着なさい! えっちなのはいけないと思います! お兄さん、許しませんよ!」

「あは♪ 鈴くん、照れてるんだ? うれしいなぁ」

「は、はれんちであらせられるぞ~!」

「うるさい」

「ムグッ!?」

 

 なのはの下で喚く鈴をなのはは自身の唇で塞ぐ。

 突然のキスが予想外だった鈴は驚愕に染まるが、なのははそれだけに留まらなかった。

 

「…んっ」

「ゥム、むぅぅっ!?」

 

 鈴の唇を蹂躙していたなのははその舌を伸ばし、今度は鈴の口内を蹂躙する。

 舌を絡め、歯茎をなぞり、その唇に吸い付く。一連の動作に鈴は驚愕を通り越して思考の麻痺に陥りそうになるが、理性を総動員してなのはを突き放そうとするができなかった。

 

(っ!? バインド!?)

 

 両手足に感じていた圧迫感の正体はバインドであった。

 桜色の拘束、それを仕掛けた人物については言及する必要はないだろう。ともかく、このバインドによって鈴は抵抗も許されずされるがままの状態である。

 鈴もいっそ魔法で切り抜けようと考えたが、この状態では術式を構築できるほどの集中力を確保できないでいる。

 

「ぷはぁっ。はぁ~、鈴くんの…また貰っちゃった♪」

「なのは…?」

 

 鈴を見下ろすなのはの瞳は情欲により熱く潤み、理性とはかけ離れた色に染まっている。吐く息にも艶かしさを感じられ、もはやここにいるのは鈴という存在を求めてやまない一人の女性である。

 

「どう? 気持ちよかった、鈴くん?」

「……んなわけあるか」

「……ふ~ん」

 

 鈴の返答が気に入らなかったなのははおもむろにその手を鈴の下腹部に伸ばし、ズボンの上からその箇所に触れる。

 

「ぅあっ!?」 

「嘘ばっかり、今は見栄を張らなくていいよ」

 

 ズボンの上から確認するように鈴のソレを擦るなのは。鈴は堪えがたい快楽を感じながらも内心で舌打ちする。

 鈴の体は限りなく人間に近いよう精巧に造られているので性欲も存在するし快楽もある。だからこのような行動をとられると、男性体である彼も否応なしに反応してしまうのである。

 快楽に果てないよう理性を総動員し、一旦なのはを止めようと試みる。

 

「何のつもりだ、なのは…」

「何って……この状況でする事って…わかるでしょ?」

「まさか…」

「……シよ、鈴くん」

「ちょ、やめろ、なのはっ!」

「ふふ、やめないよ」

「何だってこんな事するんだ!?」

「………」

 

 突如としてなのは擦る手を止める。それに対し、制止に成功したかと期待した鈴だったが……

 

「痛ぅっ!?」

 

 突如として胸を引っ掻かれる鈴。

 思いっきり鈴の肌に爪を立てたなのはは躊躇する事無くその腕を引き、鈴の胸板に五本の傷を刻む。胸に感じる痛覚、じわりと滲み出る熱さ、引っ掻かれた箇所からの出血を自覚した鈴は思わずなのはを睨んでしまう。

 

「っ!?」

 

 ――が、さっきまでの情欲に魘された瞳ではなく、無感情に――いっそ冷徹とも思える程に冷たく鈴を見下ろすなのはの瞳に、激情は一瞬にして冷め、悟ってしまう。

 

 ここにいるのはかつてジュエルシードに侵され、鈴を蹂躙した時と同じなのはだと。

 

 二人が無言のまま、暫しの時が流れる――と、なのはは徐にさっきと同じように鈴の胸板へと身を沈め、自身がたった今刻んだ五本の傷へと口を這わす。流れる赤い血を舌で舐めとり、さらに血を求めるように傷口へと唇を寄せる。

 

「んぅっ…あむ……」

「――っ!?」

 

 鈴に押し寄せる痛みと快楽、表裏一体の感覚の波。先程から残った理性で果てまいと堪える鈴にもう言葉を発する余裕など無い。彼にできる事はくい縛ることだけだった。

 

 ひとしきり、鈴を嬲ったなのははこれまた唐突に動きを止める。鈴と重なるように身を沈め、顔も窺うことができない。

 

「…ハァハァ…なの…は? 何でこんな……」

 

 理性を限界まで削られた鈴は息も絶え絶えになのはに呼びかける。

 

「なの――」

「……き…から」

「えっ?」

「好きだからだよっ!!」

 

 体を勢いよく起こすと共に半ば怒号として吐き出されたなのはの告白。

 

「ずっとずっと鈴くんが好きだった! 小さい頃に出会ったあの時から…そして今も! 好きな人といられる未来を楽しみにしてた! なのに鈴くんは私の前からいなくなって…」

 

「鈴くんのいない十年間、みんなに支えられてここまできた。鈴くんのいない寂しさを紛らわせながら今日まで生きてきた。だから生きてるってわかった時は嬉しかった。私たちの事を思い出したって知った時はすごく嬉しかったんだよ」

 

「そしたらね……十年分の想いが抑えきれなくなってた。言葉だけでもダメ。キスだけでもダメ。もう鈴くんの全部が欲しいって思ったの」

 

「私も鈴くんももう大人なんだよ!? だからはぐらかさないで!! 鈴くん…ううん、アナタの目の前にいるのはアナタを想う一人の女なの!! ”昔の私”だけでなく”今の私”も見てよ!!」

 

 そこから先の言葉は無かった。なのははは癇癪をおこした子供のように涙を流し、嗚咽を漏らす。

 

 鈴の脳裏に再び、あのジュエルシード事件の際のなのはが浮かび上がる。

 

 なのはの狂おしいまでの想いをぶつけられ、そしてなのはは涙を流し……

 

(ははっ……俺ってホント進歩ねぇ……)

 

 彼はあの時に悔やんだ筈だった。なのはの想いについてもっと考えると。それがこの様では救いようがない。

 

(俺も……正直に言おうかねぇ)

 

 そう腹を括ると鈴の行動は早かった。取り戻した集中力で四肢を縛っているバインドを解除。

 バインドの消失を確認する間もなく、鈴はなのはを引き寄せ、彼女に優しくキスをする。

 

「――っ!?」

 

 泣きじゃくっていたなのはもこれには驚愕を露わにするがそれもすぐに治まる。瞳を閉じ、静かにそれを受け入れ、鈴の温もりを存分に堪能する。

 やがてどちらからともなく離れ、見詰め合う。

 

「鈴くん…」

「なのはの想いを十分に受け取った。それも踏まえて言うぞ?」

「う、うん…」

「なのはの事、俺も好きだぞ」

「え? じゃ、じゃあ―」

 

「でも同じくらい、アリサやすずかも好きだ。フェイトやヴィータだって同じように大事にしたいと思ってる。軽蔑されるのはわかってるけどこういうのに優先順位ってつけられないんだ。でもなのはが俺の事を好いてくれてるのは本当にうれしい」

 

「もうこうなったからには今まで通りの関係ってのは無理だと思う。俺は今まで以上になのはやみんなにもこういう想いについて悩んで考えて接して行く。みんながそんなどうしようもない俺でよかったら……その…どうかよろしく」

 

 結局、なのはを受け入れ、その上でみんなも大切と明言する鈴。ヘタレ思考ではあるがこれは鈴にとって間違いなく本心だ。

 

 先程のキスも彼がなのはへの想いをありったけ込めてのキスだ。そして何気に彼からなのはへのアプローチとしては初めてのキスである。

 何はともあれ、鈴の嘘偽りなき言の葉をなのははどういう受け止め方をするのだろうか?

 

「……鈴くんはそう言うだろうなぁって思ってた」

「すまないな」

「それでも……私は鈴くんが好きです」

「ありがとうな」

「そして鈴くんの気持ち、確かに受け取ったよ」

「そうか。それはよかった」

「だから……私に鈴くんの証を刻んでください」

「…本当にいいんだな?」

「アナタじゃないと嫌です」

「わかった」

 

 もうここまできて察せないほど鈴も愚かではない。故にこれ以上の言葉は不要。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『なのは』

 

 

 ブラインドの隙間から漏れる陽の光で眼が覚めた。

 

「うぅ…ん…」

 

 体を起こすと外気に晒された体がほんの少し肌寒く感じた。ずれ落ちたシーツを手繰り寄せようとして手を伸ばすとシーツじゃなくて、別の手触りを感じた。

 見てみると、そこには私と同じように何も纏わずに眠っている鈴くんの姿が。

 

「…………ぅ…うわっ!?」

 

 寝ぼけてた脳が一気に醒めて、思わずシーツに潜り込んでしまう。

 

(そうだった。私、昨夜鈴くんと……)

 

 顔が紅潮してるのがわかる。昨夜、アレだけ大胆な事をしたのに今になって恥ずかしくなってきた。けど――

 

(えへへ♪)

 

 あぁ、ダメ。どうしても顔が緩んじゃう。だって……ねぇ? 

 

 私は眠ってる鈴くんに身を寄せ、存分に肌を密着させて堪能する。

 

(ふわぁ~、あったかい…)

 

 鈴くんはこれだけ抱きつかれても身じろぎもせずに寝息を立てるだけ。

 その無邪気な寝顔を見ていると、どうしても彼を独占したい……私だけの鈴くんにしたいという欲求が鎌首をもたげるけどそれだけは我慢しておく。

 

 私が鈴くんへ想いを寄せるように、みんなも鈴くんを想っている。その事実が彼の独占を妨げる。小さかった頃の私だったら迷う事無く鈴くんを自分だけのものにしてただろう。だからアリサちゃん達が鈴くんを求めるんだったら、私は止めたりはしない。

 

「でもヤキモチは妬いちゃうけどね」

 

 成長してその辺りについて許容できるくらいには大人になったけど私の嫉妬深さは変わらない。

 アリサちゃんとかが鈴くんを求めて、そのたびに私も鈴くんを求めちゃうだろうけど……鈴くんには愛情の裏返しということで付き合ってもらおう。

 

「だから鈴くん、覚悟しておいてね」

 

 私の……私たちのこれからに思いを馳せながら眠る鈴くんの唇にそっとキスをする。

 

 よろしくね――と。

 

 

 

 

 

 余談だけどそのキスでまた私の体が火照ってしまって自分で慰めている内に鈴くんを起こしちゃって、朝からもう一戦ヤッちゃった。

 

「すけべ」

「うわぁぁぁん! 言わないでえぇぇ!」

 





自分の作品は多くの中に埋没するような物だろうと思ってたのですが、いざここまで来るとかなりの方々に見てもらえているという事態。

だからこういう話の投稿には勇気が必要になってきます。いや、それは自分が腰抜けなだけでしょうけどね。

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