魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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お知らせってほどではないんですけど…

作中での数字表記は漢数字でなるべく表記しようと思っております。

読みにくいって方、どうかご勘弁を。



38・さ~てお仕事お仕事!

「こんにちわ」

「どうも、お久しぶりです~」

「いらっしゃい、久しぶりね二人とも。元気にしてた?」

「はい! お姉さまと私、共に健康です!」

『キュ~』

「あ、もちろんフリードもです」

「キャロ、少しおとなしくしてろ」

「ふふ、いいのよヴィータちゃん。私も会えてうれしいんだから。ヴィータちゃんももっと楽にしててもいいのよ?」

「ありがとうございます、お婆様」

「はぁ~、本当にすまねぇ。それで、話があるって聞いたんだが?」

「あらあら、せっかちね。まぁいいわ、今回は…」

 

「ある新部隊に力を貸してほしいの」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『スバル』

 

 

 あたしがこの機動六課に入って一ヶ月が過ぎた。

 まだひと月なのか、もうひと月なのか…それは各々が感じる事なんだろうけど、あたしにとってはもうひと月って感じだ。

 というのも、過ごした時間の大半は訓練に割り当てられているんだけど、その中身がもう本当にキツくてキツくて……一日が何時の間にか終わってたっていうのをひと月分過ごしたわけだからだ。さすがにそろそろ慣れてきたけどね。

 そんなこんなで、今日も訓練の日々だ。

 

 

 

「てやあぁぁぁぁぁっ!!」

「ほっ」 

 

 あたしの繰り出した拳は目の前の相手、アリサ副隊長の長物に防がれる。かなりいいタイミングで放った筈の一撃だったのに、アリサ副隊長は当たり前のようにいなす。

 

「それっ!」

「う…わわっ!」

 

 次の一手として蹴りを放つ前にアリサ副隊長は長物の柄であたしの軸足を絡めて転がす。受身もまともに取れず、転がったあたしの眼前にただの金属の棒が突きつけられる。つまり、残念ながらあたしの負けを意味してた。

 

「…参りました」

「さっきの一撃、スバルは絶好のタイミングだったかもしれないけど、あたしにとっては読みやすいタイミングだったわよ。素直すぎる一撃は少し控えた方がいいわね」

 

「はい!」

「よろしい。それじゃ、午前の訓練はここまで」 

 

 アリサ副隊長の手を借りて立ち上がり、体の土を払い落としながら目の前の人を見る。

 

 

 アリサ・バニングス副隊長。

 

 隊長であるなのはさんを補佐するスターズ分隊の副隊長。

 元は時空管理局の所属だったけど聖王教会からの強い意向で所属を移し、そこで戦技の教導官を務める。まぁ古代ベルカの守護騎士相手に勝てるほどの人材だから当たり前なのかもしれない。

 近接戦においては無類の強さを発揮し、恐ろしいことに相性が最悪のなのはさんにさえ勝てるほどの実力者。

 性格は勝気なものながら、人を思いやれる部分もあるという(なのはさん談)女性としては身長は高めでフェイトさんと同じように綺麗な金の髪をしてるけど、それを首の付け根辺りからバッサリと切っているので私としてはちょっと勿体無く思う。

 その在り方から男性のみならず、女性からの人気も高い。

 

 戦闘スタイルの関係からこの人に稽古をつけてもらえる機会も多い。

 内容は厳しいけど、その一つ一つがあたしの血肉となっているっていう実感が持てる。ひとえにこの人の教え方が上手だからだ。はじめの方なんてそれはもう無様な姿を晒したものだもん。

 

 ティアナにもあたしの領分な筈の格闘戦でたまに負けるし……もしかして私って才能ないのかなぁ~?

 いやいや、ネガティブになるなあたし。これからこれから! 絶対なのはさんみたいになるんだから。

 

「それじゃ、戻って昼食にしましょうか?」

「はい! ありがとうございました!」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『ティアナ』

 

 

 あたしの戦闘スタイルから教官となるのは必然的に高町なのは隊長となる。

 

 センターガード。

 中距離のラインを担当するあたしはスバル・エリオへの指揮も担当しなくちゃいけない。

 冷静かつ的確な判断力が要求される重要なポジション。その教えを担当するなのはさんも、普段の人柄とは一変して訓練ともなると容赦ない。それでもあたしの限界ギリギリのラインを見極めているようで無茶を要求される事はない……んだけど、それって裏を返せば限界までは追い詰めるよって事なのよね。

 

「うん。じゃあ、ここまでにしようか」

「ハァ…ハァ…ありがとう、ございますっ」

 

 なのはさんは空間モニターを弄ってさっきまでのあたしの訓練内容の確認している。荒い呼吸を整えながら、あたしはこの人を見遣る。

 

 

 高町なのは隊長

 

 アリサ副隊長、スバル、あたし、エリオで構成するスターズ分隊の隊長。

 管理局のエースと呼ばれるほどの魔導師。同じエースの称号を持つフェイトさんと並んでエースの双璧とも称される。

 温厚で毅然とした人でありながらこの訓練のように厳しさも兼ね備える。自惚れる訳じゃないけど、その厳しさもあたし達を思っての事だと自覚してる。

 それでいて容姿の方もまさに男性が放っておかないような美人だ。けどこの人はどの男性からのアプローチも丁重に断っているらしい。その中には出世街道まっしぐらのエリートもいたけどそれらも全てお断り。風の噂では既に想い人がいると聞いている。

 もしそれが本当なら、その人ってどんな人なんだろう?

 

 とまぁ、世間ではまさに絵に描いたような華々しい道を歩んでる人だという認識だ。

 ただ彼女が決して公には語らない右手の大きな傷、それをみれば彼女の歩んだ道も華々しいだけじゃないと伺える。

 

「う~ん。ティアナは思ったよりも前衛の適正もあるかな?」

「そうですか?」

「訓練校での記録を見せてもらったんだけど、スバルとの格闘訓練でも悪い戦績じゃなかったみたいだね」

 

 中~遠距離戦が主なあたしだけど格闘戦が苦手ってわけじゃない。これでもスバルに格闘戦で幾らかの勝率を収めてる。これが訓練校で習った技術だけだったらこうはならない。

 

 これはスズ兄のおかげだ。

 スズ兄の格闘スタイルはよくわからないけど我流のような感じで、小さい頃それを教えてもらった事があってその技は今も根付いてる。

 

「あ、ポジションを変えるわけじゃないから安心していいよ。気になっただけだから」

「そうですか」

 

 それを最後に、なのはさんはモニターを閉じて、こちらに向き直る。

 

「それじゃこの後は昼食をとって、その後はデバイスルームに集合」

「了解!」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『エリオ』

 

 

「大丈夫? エリオ」

「大…丈夫……ですっ!」

 

 息の荒い僕をフェイトさんは本気で心配してくれる。

 たしかにフェイトさんは心配性な人だけど、ここは家じゃないんだから公私との区別はしっかりとしておかないと。プレシアさんに知られたら大目玉を食らっちゃうよ?

 

 僕とフェイトさん、そしてフェイトさんのお母さん…プレシアさんとのの関係は少し複雑なものがある。

 僕は普通の生まれじゃない。ある家の子の複製体…いわゆるクローンという生命体だ。亡くなったある家の子の代わりとして生を受けるも、僕は最終的には代わりさえ許されなかった。

 

 研究所に戻り、非人道的な扱いを受けて人間不信になった僕はその後、管理外世界である「地球」に引き取られる事となった。

 僕を保護してくれたのはフェイトさん。さらに、その大元には僕の生まれに関する元凶だったプレシアさんの意思もあった。

 

 怒った。

 

 憎んだ

 

 呪った。

 

 出会った当初はプレシアさんを傷つけるために――いや、本気で殺すつもりで魔法も使った。

 それだけの事をされてもプレシアさんは抵抗もしない。ただひたすらに僕に謝って気遣ってくれて……

 

 その心に温もりを感じ始めた頃、僕は悪い夢を見た。

 ただ冷たい悪夢のさなかで手のひらに温もりを感じたんだ。

 涙で濡れた瞼を開けると、僕の手をプレシアさんの手が包んでくれてて。

 

 そこにある本当の温もりに「母」を感じた僕は何もかもを忘れて思いっきり泣いた。

 その日からかな?

 あれほど抱いてた憎いっていう感情が薄れていって、ぎこちないながらもフェイトさんやプレシアさんとの距離を埋めていったけど、やっぱり心の底の問題は根強いのか完全な問題解決は難しいみたいだ。

 それでも二人の注いでくれる愛情から、これも一つの家族としての『絆』だというのは感じられた。

 それから僕はフェイトさんの力になりたくて時空管理局に入った。この部隊だって僕から志願した。

 フェイトさんは最初は難色を示してたけど、僕が譲る気がないと察すると、渋々ながらも了承してくれた。余談ですけど、フェイトさんはプレシアさんから過保護すぎるって怒られてた。

 

 チームを組むことになったスバルさんもティアナさんもいい人ばかりで、フェイトさん繋がりで顔見知りになったなのはさんやアリサさん、すずかさんも親身に接してくれてます。課せられる訓練は厳しくて、辛い時もあるけど僕は負けません。

 そんな僕は今日も存分に励んでます。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『シャリオ』

 

 

 時計の針が午後を迎えた頃、私シャリオことシャーリーはデバイスルームでこれから来る子たちを今か今かと待ってます。時計をチラチラと気にしながら時折作業台の上のソレに目を向ける。

 

「シャリオさん、少し落ち着いたらどうです?」

「ひゃい!」

 

 いきなりで上擦った声を出してしまった事に、内心恥ずかしくなる。

 

「す、すみません。『この子』たちの事を思うとどうにも落ち着かなくて…」

「ふふ、それは仕方ないのかもね」

 

 ちょっぴり苦笑気味に笑うのはこの部隊で私を唯一『シャリオ』で呼ぶ人――月村すずかさん、その人だ。

 

「なにせ、『この子』たちがやっと陽の目を見るんですから」

 

 すずかさんの指す『この子』というのは、私とすずかさんが共同で手掛けた新人たちのデバイスの事だ。親が子へ愛情を注ぐような気持ちで造り上げたデバイスを早くお披露目したい気持ちが逸ってソワソワしてたワケです。

 未だに苦笑を浮かべたままのすずかさんは両手に持ったカップの片方を手渡してくる。

 これを飲んで少し落ち着くようにという心遣いを無碍にするわけもないので、お礼を述べてカップに口を付ける。

 カップの中を啜りながら、チラリとすずかさんを拝見。

 

 

 宝石と錯覚してしまいそうな見る者を惹きつける紅い瞳の上にはダテ眼鏡。長い艶やかな黒髪を靡かせ、抜群のプロポーションを六課の制服で包むすずかさん。

 どこかの絵画からそのまま抜け出したかのような姿は、まさに深窓の御令嬢といったもの。同性の私から見てもとても魅力的に感じる。

 当然ながら管理局内でも彼女に声をかける男性は多数いる。

 そんな幻想的な幻影とは裏腹に、機械弄りが得意というギャップも持ち合わせている。それが興じてA級デバイスマイスターを目指したそうだ。

 さらには魔導師としての資質もかなりのモノで、幼馴染であるなのはさんやアリサさんにも引けをとらない実力を有している。

 この六課ではデバイスメカニック担当になっているけど、いざという時は現場での仕事も受け持つみたい。

 

「さて、そろそろ落ち着きました?」

「え? あ、はい。それはもう…」

 

 考え事に夢中で、気が付いたらカップの中身は空でした。すずかさんの手を煩わすわけにもいかないから、カップはこっちで片付けておく。

 

「すみません。なんだか情けない姿をみせちゃったみたいで…」

「いえ、その気持ち、私もわかりますよ」

「そう言ってもらえるとありがたいです」

 

 すずかさんは卓上に並べられた新人たちのデバイスを慈しむように撫でる。

 

 スバルさんの『マッハキャリバー』

 

 ティアナさんの『クロスミラージュ』

 

 エリオくんの『ストラーダ』

 

「みなさんをお願いしますね」 

 

 すずかさんの言葉を了承と受け取ったのか、デバイスたちは小さく反応を返す。その姿は私のデバイスマイスターとしての心の琴線に触れてしまったようで思わず見惚れてしまった。

 

 みんながこの部屋に訪れたのはそれからすぐの事。

 

 

 そして、このデバイスを扱うことになるのもすぐだった。

 

 デバイスを受け取ったすぐに、新人たちは初めての出動要請がかかる。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『ティアナ』

 

 

「シュート!」

 

 構えたクロスミラージュの銃口から放たれた魔力弾は寸分違わず、ガジェットを撃ち抜く。

 

「うおおおおっ!!」

 

 貨物室内をマッハキャリバーで疾走しながら、前線のガジェットを拳で撃ち抜くスバル。

 

「はああっ!!」

 

 討ちもらしたガジェットを的確に仕留めるエリオ。

 

「…車内クリア。次、行くわよ」

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 山岳部の谷間を縫うように走るリニアレールの貨物列車。その最後尾の車両を辿って目的の貨物車両を目指す。

 

 あたし達に与えられた任務は輸送されているレリックいうロストロギアの確保。及び、この貨物列車のコントロールを奪っているガジェットという機械兵器の排除。

 ヴァイス陸曹の操るヘリで現場に向かったのはあたしとスバルとエリオ。そしてなのはさん、フェイトさんだ。

 なのはさんとフェイトさんは一足先にこの作戦領域の上空で確認された多数の航空型ガジェットの排除の方へとまわっている。俗に言う露払いっていうやつね。

 

 この初任務は現場に慣れさせるのと、実戦を通してあたし達の能力を改めて見直す意味合いも含まれてる。

 既に敵のガジェットに全車両・コントロールを制圧されている車両。だから最後尾の車両から乗り込み、一車両ずつガジェットを殲滅、安全を確保した後に進むというオーソドックスな作戦をとる。 本当は先頭車両と最後尾の車両から挟み撃ちの形で乗り込めれたら良かったんだけど、三人という人数である以上、二チームを作るのは無理。単独で動くなんて以ての外よ。

 

 そして現在の所、確認できているガジェットは航空型のⅡ型とカプセル状のⅠ型だけ。

 機械兵器だから動きもパターン化されていて対処そのものは難しくないけど、こいつらはAMFという魔力を無効化する装置を搭載している。魔導師がこいつらに手を焼く要因の一つだ。

 隊長陣のように火力で押し切れないあたしは小手先の技術でそれを凌いでいる。スバルやエリオと違って凡人のあたしだけど舐めるなっていうのよ。

 

 あらかたの車両の制圧も終えて、列車の心臓部となるコントロールルームへの扉を開けた先に見えたのは、相変わらずのⅠ型。

 だけどそれだけじゃなかった。

 さっきまでの車両よりも大量に配置されたⅠ型の向こうには、こちらを振り返る大きな球状のガジェットⅢ型の姿も見えた。

 

「厄介ね…」

 

 このⅢ型は先の二種と違って、ワンランク上の強さを持っている。砲門の数も増え、ベルトのような長いアームを搭載しており、なによりも防御性能が段違いだ。

 メンバーの中でコイツのAMFを抜けるのといえば……スバルくらいかしら?

 条件付きでエリオも出来そうね。

 

 あたしは……やっぱり条件付きになるわね。いや、AMFなんかメじゃない手段もあるにはあるけどそれをやったら間違いなく積み荷まで吹っ飛ぶから却下。

 

 頭の中で作戦を組み終えた頃に、向こうからのアクションが起きた。全機が砲門をこちらに向けての一斉射撃。

 

「各自、散開! まずはⅠ型の殲滅を優先!」

「「了解!」」

 

 スバルとエリオが持ち前の機動性で左右前方に駆けて注意を引く。それに掛からず、あたしに狙いを定めるⅠ型を真っ先に撃っていく。 

 

「っ!? スバル、跳んで!!」

「うわっ!?」

 

 あたしの声に反応したスバルが跳躍。その下をⅢ型の長いアームが振り抜かれる。

 その長さは貨物列車の壁を易々と引き裂き、車内には外からの風が流れ込んでくる。さらには二体ともが二人を叩き落とさんとばかりにアームを振り回し、その都度列車は引き裂かれる。

 

「すっかりと内装が様変わりしたわね」

 

 至る所にできた裂け目からは外の景色が。天井に至っては眩しい青空がこれでもかと主張している。

 なんという事でしょう、日が差し込む室内は見る者を明るい気分にする……わけないわね。

 

「アレのAMFを問題なく抜けるのは今のところスバルだけよ。エリオ、左のⅢ型の注意を惹きつけて。その間にあたしとスバルで右の対象を破壊するわ。スバル、長引かせたら長引かせただけエリオが危なくなるんだから、速攻で片付けるわよ」

「わかった!」

「はい!」

「それじゃ……Go!!」

 

 

 

 

 

 作戦司令部において幾人のスタッフが報告をあげる中で、はやては中央の椅子に座り厳しく眼を吊り上げる。

 同じ事を思っていたのであろう、彼女の傍に佇むはやての副官で補佐役のグリフィス・ロウランも眼鏡の奥で同じような眼差しをモニターに向ける。

 

(やっぱりツーマンセルがもう一組欲しいところやね)

 

 そうすればもっと戦略の幅も、当たれる担当地域も広がるとはやては内心で苦悩する。

 

(来る予定だった補充人員も間に合わんかったし…)

 

 そう……実はこの六課に今日、フォワードの人員が補充される予定だった。おまけにその人員は伝説の三提督のお墨付きという期待の人員。

 どのような人物なのかをはやては三提督の一人、ミゼット・クローベルに尋ねてみたが、彼女の極秘の私兵ということで詳細は秘匿されていた。外部からの協力者という曖昧さだが、はやては彼女の人柄を知っていたのでこれを疑わずに承諾したのだった。

 だがその人物がやってくる前に今回の出動要請がかかる。

 間に合わなかった事に文句をいうつもりはないはやてだったが、さすがに悪態をつきたくなったのである。

 そして実際に出動してみればやはり見えてくる問題点。その課題と改善点を脳裏に浮かべながら、はやてはモニターに映るフォワード陣の戦いの行く末を見守るのであった。

 

 だがやはりというべきか、戦いという不確定要素の塊には想定外は付き物である。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『エリオ』

 

 

 機動力には自信があった。Ⅲ型からの熱線、振り回されるアームを避けていってる内に自分は当たらないと錯覚していた。

 その時点で生まれた慢心。それは確実に僕から注意力を削いだ。

 

「クッ!?」

 

 跳躍しての回避行動だったけど、知らない内に込められた力は強くて思った以上の高さを跳んだ。 その結果、天井から強烈に流れ込んでくる風に体勢を大きく崩された僕はまともな行動さえもとれず――

 

 結果、振るわれたアームによって外に弾き飛ばされてしまった。

 

「「エリオっ!?」」

 

 スバルさんとティアナさんの声が聞こえたけど僕は既に外。山岳部を走る貨物列車だから、当然落ちる先は崖下。目下に広がる針葉樹の森、視界の隅には遠ざかっていく貨物列車。思いの他、体にダメージを受けたらしく、僕の体に痛みを感じた。

 

 内臓の浮かび上がる感覚を受けながら、すごい速さで落下する僕はやがて来る衝突の衝撃に耐えるべく眼を瞑り体を強張らせた―――んだけど。

 

「………あれ?」

 

 地面との衝突が早すぎる。痛くない……というより地面が硬くない?

 困惑しながら眼を開ける。

 

「大丈夫?」

「ゎ、わっ!?」

 

 吃驚して後ずさってしまった。だってしょうがないと思う。

 視界にドアップで同い年くらいのかわいい女の子が僕を覗き込んでたんだから。

 

 その子はキョトンとした顔で首を傾げている。

 あどけない瞳にふんわりとやわらかそうな髪の毛。簡素なシャツの上にベストを着て、丈の短そうなスカート。胴に走る何本かのバックルベルト。それらをくすんだ色の外套で身を包んでいる。

 服装こそ粗野なものだけど、やっぱりかわいいっていう印象しか浮かばない。

 

「キャロ、あまり驚かせんな」

「そんなつもりはないですよ、お姉さま」

 

 声につられて見るとその子とは別にもう一人の女の子が居た。

 見た感じでは僕よりも少し年上程度。吊り上った意志の強そうな瞳に肩辺りまで無造作に伸ばした紅い髪。黒のインナーに赤いジャケット、赤のズボンに黒のブーツ。ちょっと大き目の肩下げ鞄。さっきの子と同じように、くすんだ外套を纏っている。

 この人はこっちの方を向きもせず、ただ前を見ていて……あれ?

 

 改めて現状を把握してみると僕は空を飛んでいた。しかも自分で飛んでいるんじゃなくて、何か大きな生き物の背中に乗っているというのがわかった。これって……

 

「り、竜?」

「はい、フリードっていう私の友達です。森を歩いてたらあなたが列車から落ちてくるのが見えたのでこの子で受け止めたんです」

 

 ニッコリと笑顔を浮かべながら教えてくれたキャロと呼ばれた女の子。同年代くらいの女の子と接する経験の皆無な僕は彼女の笑顔に無意識のうちに心臓が高鳴る。

 

「あ、ありがとう…」

「どういたしまして」

「あの…あなた達はいったい?」

「私たちですか? 私たちは…」

「ただの旅人だ」

 

 キャロと呼ばれた子の言葉を遮るようにちょっとキツめに答えたのは赤毛の人だ。

 

「そういうおまえこそ何だ? あんな場所から投げ出されたりして…」

「あんな場所……あぁ!!」

 

 振り返ると貨物列車は既に遠くまで移動していた。

 あそこに取り残されたスバルさんとティアナさんのためにも早く戻らないと。でも……飛行魔法の使えない僕がどうやって?

 

 と、とりあえずなのはさんとフェイトさんに報告して助けてもら……っ!!

 

「すみません、この竜ってあの列車に追いつけますか?」

「えっ? えっと…フリード、どう?」

『ギュアアッ!!』

「できるみたい」

「お願いします! 僕をあの列車まで乗せていってもらえませんか!?」

「え、でも……」

「バカ言うんじゃねぇ。さっき見た感じではあの貨物列車は何かに襲われてたんだろ? なんでアタシらがそんな……」

「僕は時空管理局の古代遺物管理部機動六課所属、エリオ・モンディアルといいます! お礼は必ずします! ですからどうかお願いします」

 

 無茶な要求をしている。

 でも僕はこの時、気付いていない。なのはさんやフェイトさんだって戦っている以上、そう易々と助力を求めるわけにはいかない。

 そんな考えで優先順位を履き違えている事に。

 

「機動…」

「六課?」

 

 二人はなんだか呆然としていた。

 あ、機動六課って新設部隊だから一般の人には認知されてなかったか。だ、だったら別の……

 

「キャロ」

「はい! フリード!!」

『キュクルーッ!!』

「うわぁっ!?」

 

 突然の急旋回・急加速に振り落とされそうになって、図らずもキャロさんにしがみついてしまった。そんな僕に構わず、竜のフリードはさらに加速して遠く離された筈の貨物列車に追いついてしまった。

 

「あ、あのっ! なんで急に…!!」

「おいガキ! 下手に横付けすると、フリードまで巻き添えを食らっちまう。一気に通り抜けるからそこから飛び降りろ!」

「こ、この速さでですか!?」

「あの列車に見える二人、オマエの仲間だろ!? 見捨てる気か!!」

 

 赤毛さんの言葉にハッと我に返る。

 眼下を見下ろすと見えるスバルさんとティアナさんの戦っている姿。こちらを驚いた表情で見上げている。

 そんな二人と眼が合った僕は、さっきまでの怖気づいた気持ちは一掃され、何かが固まった。多分、これが覚悟なんだと思う。

 

「お二人とも、ご協力感謝します!」

 

 叩き付けるような風圧の中で立ち上がり、ストラーダを構える。向ける切っ先はガジェットⅢ型。カートリッジもロードし、魔力を一気に高める。

 

 そんな僕に合わせるかのようにフリードは反転、貨物列車を後ろから追い抜くように加速する。腰を落とし腕に力を…魔力を……

 

 そして覚悟を込める。

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 八神はやての様子がおかしい。

 それは傍らに立つグリフィス・ロウランのみならず司令部のスタッフも感じ取っていた。 

 エリオがあの民間人に協力を申し出た時、本来ならそれを止めなければならなかった場面。本来ならこのような任務に民間人を巻き込むなどあってはならない。すぐにでも通信を介してエリオ・モンディアルに警告を発しなければならなかった。

 

 だがそれはなされなかった。

 指令を下すべき八神はやての異変によって。空間モニターに映し出された民間人の少女を見てからだ。

 急に椅子から立ち上がり、ただ呆然とはやては赤毛の少女を見つめる。

 グリフィスは困惑しながらも呼びかけるが反応は返ってこない。やがてエリオが民間人の協力を得て戦線に復帰した後になって、漸くはやては我に返るのであった。

 

 グリフィスにとって、今のはやての失態は稀有な事態。

 そこからは彼女もさっきまでの失態を取り戻そうと指示をとばし、新人たちの尽力もあり無事にレリックを回収。ガジェットも殲滅し、貨物列車の暴走も食い止められた。

 結果だけをみれば上々であるが過程がよろしくなかった。

 グリフィスは副官としての立場から、はやてに苦言を申し、はやては素直にそれを受け取る。だからグリフィスの方もそれ以上は追及しなかった。

 

 帰還した隊員からの報告を受け、回収した品を厳重に保管。各後処理を済ませ、隊員に解散を言い渡す。その後、はやては一部の隊員たちに隊長室へ集まるように呼びかける。

 

 その面子はかつて『闇の書事件』に関わった者のみ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『はやて』

 

 

 この部屋に集まってもろたのは、なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、そしてシャマルを除く守護騎士のみんなとリインにツヴァイ。

 見知った……みんなにとっても気兼ねのない集まりなのに誰も何も言わへん。怖いくらいに静かな空間が出来上がっとる。

 

 まぁ仕方ないわ。私かて緊張しとるもん。

 

 ここに集まってもろうた理由は、先ほどの事件の際に協力してくれた民間人についてや。

 あの事件の後、民間人の方はちょっとした所用とかで私らとの同行を断る。それでも今日中には来れるいうんで、向こうの都合のいい時間を作ってもらって別れたんや。

 

 そして今この時間、六課にその人がやって来たと報告を受けてシャマルを迎えに行かせて、私らはこうやって集まってる。

 

「失礼します、お連れしました」

「どうぞ」

 

 入室を促すと入ってきたのはまずシャマル。そして件の『民間人』

 

 

 

 あの時よりも、ちょっとだけ大きくなった私の妹分の女の子、ヴィータ。

 

 バッサリと切った髪の毛も背も少し伸びたぁな。

 

 服も旅が長かったからか野暮ったいもんになってもうて。女の子なんやから気ぃつかわんと。

 

 ちゃんと食べてるん? 痩せた気がするで。

 

 最後に手紙を貰ったのはもういつになるんかな?

 

「久しぶり…やね、ヴィータ」

「うん……そうだな」

 

 もう私も一部隊の隊長っていう立場なんやから弁えんといけんのやけど、思ってた事とは違う言葉が出てしまう。

 

「元気にしとった?」

「それなりに……かな」

 

 あぁもう!

 頭ん中、纏まらん!

 もっと言う事あるやろ私!

 

「…はやて」

「う、うん?」

 

「あ~、その~……ひ、久しぶりに会えてアタシは嬉しいぞ」

 

「ッ!!」

 

 もう何もかもをかなぐり捨てた。ヴィータを全力でハグや!

 

「ぅぐ!? は、はやて…ちょっ…とっ!」

「あぁもう!! うん、久しぶりやな!! 私も嬉しいで! おかえりや!!」

「ヴィータちゃん!!」

「ヴィータ!」

 

 もう後はてんやわんや。緊張の糸の切れたみんなは揃ってヴィータをもみくちゃにする。

 何年ぶりかのマトモな再会になるんやから、これくらい――いや、まだ足らへん。もっともっと抱きしめたる!!

 

 

 

 

 

「…落ち着いたか?」

「ごめんなさい」×全員

 

 途中までは大人しかったヴィータも最終的にはキレた。あかん、やりすぎたかな?

 

「全く、隊長になったっていうんだったらもっと毅然としろよ。これでアタシの上司かよ…」

「ホンマにごめんなヴィータ。ついうれしくて……ん?」

 

 今、なにか聞き捨てならん言葉があったような……

 

「ねぇヴィータ。上司って……」

「ん」

 

 ヴィータが差し出したのは一枚の紙。

 受け取った私はスラスラと読んでいく。内容は補充人員についての事、そして最後の箇所には伝説の三提督直筆のサイン。

 

「えっ? ヴィータとさっきの女の子が提督からの補充人員!?」

「ええぇぇぇーーっ!!」

「厳密にはアタシは私兵扱いにされてるから正式な管理局所属じゃないけど……」

「何で!? あの人らとどういう関係なんや!?」

「あの人らには以前にプライベートな依頼を受けてな、それから贔屓にさせてもらってる」

 

 開いた口が塞がらない。あの三提督との繋がりをもつって……ヴィータ何気に凄い事しとるで。

 

「提督らも教えてくれたらええのに…」

「あの人たちは何気にイタズラ好きだからな、はやてのそういう反応も見越した上で黙ってったんだろうよ」

 

 ……あかん、頭痛くなってきおった。

 

「でも何でヴィータちゃんが寄越されたの?」

「レリック」

 

 その名は場の空気を一変させた。みんなは六課の一員としての顔に、ヴィータも鋭い顔つきで先を話す。

 

「アタシがアイツを助けるためのロストロギアを探してるのは知ってるだろ? その途中でアタシはそのレリックの存在も知った」

「………」

「で、そのレリックなんだけどアタシの他にそれを探してた奴もいたのさ。今、巷を騒がせているあの機械兵器、あれだってソイツの仕業さ。この辺りの情報や交戦経験をアタシが持っているってのがこの部隊に派遣された理由ってところだな」

「その人物は…誰なんや?」

 

「次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ――後日――

 

 

「本日よりこの機動六課に派遣されたヴィータだ、よろしく」

「召喚士のキャロ・ル・ルシエです。こっちがフリードです。みなさん、よろしくお願いします」

『キュクル~』

 

 六課の制服に身を包んだヴィータとキャロの両名がフォワード陣の前で挨拶をする。

 フォワード陣は以前から補充人員については聞かされていたのですんなりと受け入れることが出来たのである。ただそれが以前に自分たちを助けてくれた人物だとは思わなかったようであるが。

 

「さて、前にも言ったように人員の増加に伴い、フォワードのチームも変更します。スバルとティアナは今まで通り、私の『スターズ分隊』として。エリオとキャロについてはフェイトちゃんを隊長、シグナムさんを副隊長とした『ライトニング分隊』に配置を変更します。訓練内容も一部変わるけど、やること自体は本質的に変わりありません。ヴィータちゃんについては遊撃といったザフィーラさんと同じような役回りです。まだお互い不慣れでしょうが頑張ってくださいね」

「「「「はい!」」」」

「よろしい。では、今日の訓練は一部スケジュールを変更します。スバル、ティアナ、エリオ。三人でキャロに六課の隊舎、寮内といった施設を案内してあげて。正午には切り上げて、エントランスホールに集合で」

「「「了解っ!!」」」

「ありがとうございます! それじゃお姉さま、また後で」

 

 明るい笑顔を浮かべ手を振るキャロ。反面、ヴィータの方は苦い顔をしている。

 理由としてはニヤニヤとした顔をしているなのは、はやてのせいである。

 

「お姉さまやって。慕われてるんやな、ヴィータ♪」

「今度、しっかりと経緯を教えてねヴィータちゃん♪」

「ふ、二人とも、その辺で……」

「ダアァァァァッ!! うっせえっ!!」

 

 ガァァッ!と咆えるヴィータ。フェイトも仲裁しているようだが、その顔は興味津々の色を隠せないでいる。

 

「照れんでもええやん、かわいいでヴィータお・ね・え・さ・ま♪」

「…………」

 

 静かに…本当に静かに……それでいて『ドドドドッ!!』とJOJOのような擬音が背後に付きそうなヴィータの怒りを感じ取ったのか、なのはとフェイトはあわてて割ってはいる。そうしないとはやてが大変な目にあうのがビジョンとして浮かぶからだ。

 

「そ、それより、今後の動きについてはどうするの?」

「そうそう。教えてよはやてちゃん」

「う、うん。せやな~、しばらくしたら中央区画、クラナガン南東にあるホテル・アグスタでロストロギアのオークシュンが開催される予定や。私らはその警護に配備されると思うから、それまでにフォワード陣の連携等の重点的に頼むで」

「わかった」

「了解、はやて」

「ちなみにそのオークション、ユーノくんとアルフも来る予定や」

「本当に!?」

「二人に会うのも久しぶりだからね」

「アタシなんか本当に長い間、会ってねぇぞ」

 

 ユーノはヴィータと同じようにある人物を助けるべく遺跡やロストロギアに精を出すも、スクライアという一族に連ねる以上はヴィータのように身軽には動けないでいた。

 ヴィータもユーノとは次元世界間という気軽に会えるような距離にいたわけではないので、本当に長い間会っていないのだ。ちなみにアルフがユーノについて行ったのは二人が『そういう関係』だからである。

 

「なんだか機動六課ができてから懐かしい人と会う機会が多くなってきたね」

「このまますぐにでも『彼』と再会できそうな勢いやな」

「うん。時間はかかっちゃってるけど、絶対にまた会うんだから」

「当たり前だ」

 

 彼女らの脳裏に浮かぶ『彼』の姿。長き時が経っても、彼への願いは変わらないのであった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――とある場所にて――

 

 

「お疲れ様でした~」

 

 清掃員の服に身を包んだ彼は同僚への挨拶を済ませ去ろうとする。彼がかぶっていた帽子を脱ぐと、そこからは透明感の感じる白髪が流れた。

 

 ご存知、ランスター家のお手伝いさん、スズである。

 

 お手伝いさんであるスズだが彼なりに収入を得るためこうしてバイトをし、ランスター家に収めている。当初はティーダはこれを拒んだが、スズはティーダに大恩を感じているためこうして恩を返そうとしているのである。

 スズは荷物を纏め、社の外へ足を踏み出す。

 

「お~い、スズ!!」

 

 そんな彼を呼び止めるのは一人の男性。呼ばれたスズはその声に足を止める。

 

「先輩、何か用ですか?」

「あ~、そのな…」

 

 しばしの間、逡巡した彼はいきなり両手を合わせ、スズへ頭を下げる。

 

「頼む! 今度のバイトのシフト、変わってくれ!!」

「え~、またですか? これで三度目ですよ」

「そう言わずに、今度何か奢るからさ!」

「はぁ~、仕方ないですね」

「本当か!? いや、マジ助かる。ありがとう!」

 

 バンバンとスズの背中を叩く先輩にスズも苦笑いである。

 

「それで、俺はどこの担当になるんですか?」

「えっとだな…」

 

 男は胸ポケットから一枚の紙を取り出す。それはバイト生のシフト表である。

 

「お、ここだ」

 

 

 

「クラナガンのホテル・アグスタだな」

 

 




無茶な設定、ご都合展開が多々見受けられるようになると思いますが、それでも楽しく読んでいただければ幸いです。

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