sts編の始まりです。
37・次世代のご近所か?
『ティアナ』
指定の制服に身を包んだ自分の格好を姿見で確認する。同居人と初めて出会ったあの頃よりも成長した私。
髪、問題なし。
顔色、ぐっすり眠ったから血行も良い。
衣服の乱れ、真新しいからキレイな物。
「よしっ!」
足元の鞄を掴み、部屋を出る。
同居人のおかげでいつも小奇麗に整頓されている我が家。その居間にて一人の男性が静かに雑誌を読んでいる。
よほど集中しているのか、あたしが入ってきた事にも気付いていない。コッソリとその男性、我が家のお手伝いさん――スズ兄の背後に回りこんで覗き見る。
その雑誌はゴシップ記事を載せたよくある雑誌。そしてスズ兄の見ているページにはデカデカと――
『今回は時空管理局の美人局員を大特集!!』
と書かれている。
スズ兄はそのページに載っている人たちの辺りを一心不乱に読み進めていて、気になったあたしもそれに続いてみる。
『毎年、多くの募集が募り、様々な人が入局する時空管理局。今回は世の男性の気になる美人管理局員を紹介しよう!』
……そうよね。
スズ兄も男、こういうのが気になるのは仕方ないかもしれないんだけど……何だかおもしろくない。
とりあえず、ざっと読み進めてみようかしら。え~と…
管理局のエースオブエースと呼ばれる高町なのはさん。
同じくエースの称号に値するフェイトさん。
A級デバイスマイスターでありながら魔導師としても超優秀な月村すずかさん。
古代ベルカの魔導騎士である八神はやてさん。
聖王教会において最強と噂されているアリサ・バニングスさん、etc…
パッと見ただけでもそうそうたる顔ぶれ。何度かテレビの映像で見た事があるぐらいの有名人ね。 その上、この写ってる人たちって同じ世界出身で友達同士だっていうんだから驚きだわ。どんな偶然が重なったらこんな稀有な逸材が固まって現れるっていうのよ。
それはそれとして、何ていうか…あたしみたいな凡人から見ればこの連中は雲の上の人って感じね。
まぁ、そんな事よりも……
「いつまで見惚れてるの?」
「いへへ!!
ようやくあたしに気付いたスズ兄。ここで抓ってた頬を放してあげる。頬を擦りながらあたしに恨めしそうな目を向けるスズ兄の姿にちょっと意地悪したくなってくる。
「何すんだよ…」
「べ~つに。伸びた鼻の下を戻してあげただけよ」
「伸びたって…あぁ、この記事か? 別にやましい気持ちで見てたわけじゃないっての。ただこの人たちが何となく気になっただけだ」
「性的な意味で?」
「張っ倒すぞ!!」
意地悪もこれくらいでいいかな。
まったく…せっかく妹分の門出だっていうのに、他の女性に現を抜かすからよ。
「それより…どう?」
スズ兄の前でビシッと敬礼をしてみせる。さて、この兄はあたしの望む声をくれるのか?
「……ゴマにも衣装っていうんだっけ? 管理外世界の言葉で」
捻った拳を一撃。
「ゴォ…じょ、冗談だ。馬子にも……じゃなくて! よく似合ってるって。カワイイぞ、ティアナ」
「うん、よろしい」
前半が余計だしカワイイって感想もどうかと思うけど、一応の及第点としましょうか。
「それにしてもティアナが陸士の訓練生か。やっぱりティーダに憧れて?」
「えぇ、そうよ」
と返したけど実際はもう一つある。
それはあたしが誘拐されたあの日の事件だ。されるがままだったスズ兄から目を背け、逃げた自分が嫌だったから。スズ兄に守られたあたしはスズ兄を守ってあげられる強さが欲しかった。
だからあたしはこの道を選んだ。決して口には出さないけどね。
「お~い、ティアナ。そろそろ行くぞ~」
「あ、ティーダだ」
「あ、兄さんだ」
「俺で悪いかよ!!」
嘘よ。そういえばもうこんな時間なんだ。
「じゃあ、送迎を頼んだぞ。ティーダ
「ああ」
「それとティアナ。これ餞別だ」
「えっ?」
スズ兄が渡してくれたのは一つの銀の弾丸。それにチェーンを通して首飾りに仕立てた物。弾丸にはあたしの見た事の無い紋様が刻まれていて、意匠の一品を思わせてくれている。
普通の女の子に贈る物としては少々無骨かもしれないけどあたしは特に気にしない。
むしろスズ兄からの贈り物という珍しいイベントに気分は有頂天……気を緩めたら顔が綻びそうになるけど、あたしのキャラじゃないから我慢。
「あ…ありがとう、スズ兄」
「うん。けど無理はするなよ? オマエは一度それで怪我してるんだからな」
そういってスズ兄はあたしの頭を撫でてくれる。これは昔からの癖みたいであたしもされるがままでいる。嫌いじゃないしね。
スズ兄が手を離してくれたのを見計らって、再度敬礼。同じように返してくれるスズ兄に感謝。
「行ってきます」
ティアナ・ランスター、新しく始まります。
◆ ◆ ◆
「……まさかあたしが雲の上に関わるとは思わなかったわ」
「どうしたのティア?」
「別に。世の中、何が起こるのかわからないって話よ」
「?」
隣でわからないっていう顔を曝け出すのはあたしの同僚兼相棒であるスバル・ナカジマ。
訓練校時代からの付き合いで、それは数年経った今でも続いているようなまさしく腐れ縁のような仲ね。
共に訓練校を卒業し、同じ陸士部隊に配属されて日々を過ごしながらある日受けた昇進試験であたし達は新たに設立される部隊へスカウトされて今に至るってわけ。
そんなあたし達は支給された新品の制服に身を包んで大勢の隊員が綺麗に並んでいる中の一人となってる。隣のスバルも同様。さらにその隣には小さな男の子。ツンツン頭に強い意志を宿した瞳をしている少年、エリオ・モンディアル。
私を含めたこの三人でチームを組む。
勿論、これは今のところは仮組みだ。これからの訓練などで互いの能力を把握し、改善点などを浮き上がらせて対処する。だから新たにチームに人選が加わるかもしれないし、遊撃戦力になるかもしれない。まあ、これに関しては今考えてもしょうがないんだけどね。
とりあえず部隊発足の挨拶も無さそうだからと視線を巡らせて見る。
この部隊は若い世代で固められている。それでも各々が各分野において高い能力を保有しているのは知っている。それに加えて、前に立つ隊長陣らの面子だ。
エースの称号を有する魔導師、聖王教会最強の騎士、古代ベルカの守護騎士、etc……
ハッキリ言って、戦力が過剰なほどに集中している。
八神部隊長は実験部隊な意味での発足と言ってたけど、あたしはそうは思わない。何かしらの……それもかなりの思惑がない限り、こんな部隊が許可される筈がない。たぶん、あたしと同じような考えの人間はいる筈だ。
(チラッ)
「ん? 何、ティア?」
「何でもない…」
コイツは絶対に考えてない。断言してもいい。今更だけど部隊加入の決断は早まったかもしれないわね……
でもだからといって隊長陣の人間性まで否定するつもりは無い。思惑があってもそれは悪い意味でのものじゃないでしょうね。
「あ、ティア、始まるみたいだよ」
スバルの声に視線を前に向けてみれば、こちらに向かってくる三人の女性。
八神はやて部隊長に高町なのは教導官、フェイト教導官。
部隊制服を着こなし、少々柔らかい雰囲気を纏いながらも、その佇まいは毅然としたものある。自然とこの場の人間の背筋が改まる。やがて八神部隊長が壇上に立つ。
「皆さん、はじめまして。この古代遺物管理部機動六課、通称『機動六課』の部隊長を務める八神はやてです」
静かな間に響く、はっきりとした声。この人のスピーチが終わった時、この部隊は始まるのね。
◆ ◆ ◆
部隊長の発足会が終わり、あたし達は各設備の案内と紹介をされた。案内には高町教導官とデバイスメカニック担当の月村すずかさんを伴ってだ。
新設なだけあって、訓練所やデバイスルーム、どれもが最先端でお金もかかっている。スバルとエリオなんて巡るたびに目を輝かせて好奇心を剥き出しにしてる。その度にあたしは落ち着かせるのだけど、結局は諦めた。
やがて一通りの案内も済み、諸注意や伝達事項、諸々のスケージュール等の打ち合わせが終わった頃には外も暗くなっていた。終了・解散を言い渡された後は、早速食堂で腹ごしらえ。
「モグモグ」
「ガツガツ! おいしいね、ティア!」
「はいはい、わかったからもう少し落ち着いて食べなさい」
スバルは昔から大食いだったからわかってたけど、エリオの方も中々に健啖家のようで見てるだけでこっちのお腹が膨れそうだ。兄さんやスズ兄だってここまで食べなかったからね。
ちなみに味も中々だ。ただスズ兄の料理で舌が肥えたせいか、少々物足りなく感じる。
思い出したら久しぶりに食べたくなってきた。
「あ…ティア、お兄さんの事思い出してる」
「ブフゥゥゥーーッ!! ゲホッゲホッ!!」
スバルの思わぬ発言に吹き出してしまう。
「お兄さん?」
「そう。ティアね、二人のお兄さんがいるんだよ。でね、二人を思い出した時って、いつもよりちょっとだけ優しい顔をするんだ」
「へぇ~、お兄さんの事が大好きなんですね、ティアナさんって」
「んなっ!?」
「そうなんだよね~。ちなみに片方は本当のお兄さんで、もう片方はお手伝いさんなんだって。会った事は無いんだけど、私の勘ではティアナはそのお手伝いに――」
「いい加減に……しろおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「うきゃあぁぁぁっ!? 眼がぁっ! 眼があぁぁ!!」
「何で僕までぇぇぇぇっ!?」
◆ ◆ ◆
場所は変わってここは部隊長であるはやてが政務を行う隊長室。
この場に集うは機動六課においての主要メンバー、なのは、アリサ、すずか、フェイト、はやてといった今や時空管理局においてはそうそうたる顔ぶれ。
デスクに居座るはやて、それに向き合うように立つ彼女ら。集まったのは業務の報告、その他諸々である。
「あの様子だと、三人とも仲良くやっていけるとおもうよ」
「それではやて、フォワード陣はあの三人でやるの?」
「とりあえずはね。荷が重そうやったらもう一人増やして、コンビを二組でやっていくつもりや」
「わかったわ。じゃあ、訓練スケジュールをしっかりと立てとかないとね。なのは、フェイト?」
「うん、わかってるよ」
「了解だよ、アリサ」
「すずかちゃん、そっちの方はどないなってるん?」
「あの子たちのデバイスね? もうほとんどの構成はできてるから、後はシャーリーと協力して着手していくね」
「みんなさすがやね。さて、報告についてはこのぐらいでええかな」
空間モニターを閉じ、手元の書類を纏めて引き出しに収める。一連の動作を終えたはやては手を組み、改めて正面に立つ仲間に向き合う。
「みんな、ほんとにありがとな。こんな私に着いて来てくれて…」
古代遺物管理部機動六課。
それはロストロギアに関する全てに対するスペシャルチーム。
ロストロギアの恐ろしさを身を以って知っているはやてが年月をかけて設立・運営にまで漕ぎ着けたとされている。そこにはかつての事件に携わった元提督のリンディや聖王教会、果ては伝説の三提督と、とにかくお偉いさんの意向まで絡んでいる。
戦力においては言わずもがな、ロストロギアという専門の知識を要求する品を扱う以上、当然危険も伴うので外部からスクライア一族の協力も取り付ける事も可能である。
さらに夜天の書にはロストロギアについての記録も豊富に蓄積されていたため、その情報をしきる管制人格リインフォース、対の存在である蒼天の筆の管制人格ツヴァイの知識も見逃せない。
戦力・専門知識などが充実したこの部隊であるがその実、設立には上層部の思惑の含まれたはやてとアリサにしか知らされていない『ある理由』があるのだがそれについてはまた後日だ。
――と、以上が表向きの設立の理由。
心の奥底、決して関係者以外には知らされてはいけない、この部隊の本当の設立の理由。
それは『ある人』のため。
はやてに限らず、この部屋の人間はそれを知っている。だから、関係者以外には絶対に公言しない。
知られれば、処罰どころでは済まないだろう。
それでもはやては我を通した。それが彼女の贖罪の一つだから。
「こうやって部隊を立てても『彼』を救う手立てが見つかるとは限らへん。実績を積まんと解散っていう危うい部隊や。それでも私は『彼』を救うために力の限りを尽くすつもりや。だから……」
はやては座っていた椅子から立ち上がり、敬礼をとる。
「みんなの力を私に貸して下さい!」
それに対する、なのは、アリサ、すずか、フェイトははやての敬礼に敬礼で返す。
「「「「了解!」」」」
その佇まいにかつての幼さはもう無い。そこにいるのはもう立派な魔導師の少女たち。
時間の流れは人を変えるというが、それでも確かに変わらぬものを彼女らはもつ。
それは何物にも代えがたいのだから。
様々な時間が彼女らを大人へとやった
嘗てはそこに居た『彼』との邂逅を胸に秘めて
大人になった彼女らの魔法
始まります
「久しぶりだな」
「おっさんこそ」
「なぁなぁ、旦那。この女は誰なんだ?」
「かつての俺の命の恩人だ、アギト」
「へえ~」
「なんだよ、おっさん。同行者ができたのかよ」
「あぁ、とある違法研究施設でな。そっちはどうなんだ? 相変わらず一人旅か?」
「いや、今は別行動してるけど、アタシにも一人いるぜ」
「そうか…それはよかった」
「……で、おっさんは相変わらずか?」
「そうだ……それが助けられなかった部下たちに対する俺のケジメだ」
「背負い込みすぎると潰れるぞ?」
「そんなモノ、元より覚悟の上だ」
「だったらこれ以上はアタシは何も言わねぇよ」
「感謝する。それで、情報なんだが……」
「いくつかの遺跡にヤツの研究施設跡らしきもんが見つかってる。詳細な場所はここに纏めてるから後で読んでくれ」
「すまないな。次は俺の得たロストロギアの情報だな。ここに…」
「サンキュな……やっぱりアタシの望むモンは聖王関係のロストロギアになるのか…」
「引き続き、俺はヤツを追う。何かわかったら連絡を頼む」
「ギブアンドテイクだろ? わかってるよ、そっちこそ頼んだぜ」
「あぁ……ヴィータ」
「どうした?」
「近頃、ヤツの動向を含め、一部管理局上層部もキナくさくなってきた。気を付けろ」
「……あぁ、お互いな」
この辺りになると、原作の方の設定が一気に増えるので、この作品もどこかで矛盾が生じる可能性有りです。
どこかでわからない等ありましたら、感想欄にでもどうぞ。なるたけネタバレにならない程度にお答えいたします。