魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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ありきたりな展開と設定でいこう。


34・バイバイファミリー?

 

 初期化していく闇の書の中、消え行く自我を保ちながらジーンは必死に足掻く。

 

 彼女は己を侵食していく蒼天の筆のプログラム、それに抗う事はすでに放棄した。

 

 だからもう1つの可能性に賭けた。

 

 取り込んだ『魔女』の知識。彼女の知識から検索する。

 

 そしてその魔法を見つけた。

 

 人の身には余る魔法。人には知られてはいけない魔法。蓮が禁術と定めた魔法。

 

 ありとあらゆる『時間』を操る魔法を。

 

 

 

『鈴』

 

 

「早くどけ! ザフィーラ、シャマル!」

「落ち着けヴィータ。先生の事が気懸かりなのはわかるけど」

「クソッ! リンはどうも思わないのかよ! 大切な人だったんだろう!?」

「けど焦りすぎは良くない。ヴィータだってわかってるんだろう?」

「…フンッ!」

 

 口では冷静装ってる俺だけど内心は焦ってる。俺にとって誰よりも身近で大切な人である先生がやられたんだ。今すぐにでも駆け出したいさ。

 けどザフィーラとシャマルの双璧の前には冷静にならざるを得なかった。こいつらには一度、追い込まれたんだから同じ徹を踏まないようにしないとな。

 ヴィータだって百戦錬磨の騎士だ。焦ってるように見えて本心は俺と同じ事を思ってるに違いない。

 

「さて。時間も押してるし今回はちょっと強引に行こうか…行くぞ、ヴィータ!」

「まかせろ!」

 

 盾の守護騎士を名乗るだけあってザフィーラは並の攻撃は通用しない。だから今回は俺とヴィータの連携で一気に攻める。後方でバインド等を狙うシャマルへはある程度の妨害程度の攻撃に留めておく。要は速攻で仕留めるって事で。

 

 

 

「ズェア!」

「グッ!」

 

 速攻という選択肢は正解だったようだ。

 さすがのザフィーラも2人がかりの猛攻は凌ぎきれない。時折くるシャマルのバインドやら回復魔法も俺の【射撃】で妨害。その際に生まれる隙はヴィータがカバーしてくれる。

 組んでそんなに経っていない俺とヴィータは息が合った様な連携を繰り出す。これも使い魔の契約が成せるモノなんだろうか?

 ともかく終わらせるぞっと。

 

「【衝撃】!!」

「ラケーテンハンマァー!!」

 

 トドメの意を込めた1撃(2人だから2撃?)にザフィーラの防御魔法ももたなかった。障壁は崩れ、その身で俺達の魔法を受けたザフィーラは海へと落ちていく。残ったシャマルはヴィータのバインドで雁字搦めにして放置。

 元々戦闘に向いていないシャマルにはこれで十分だろうとヴィータの弁。漸く障害を取り除いた俺達はジーンの元へと向かう。

 

「描写短くね? ってツッコミは無しで」

「何言ってんだリン?」

 

 障害を乗り越え、いざジーンの元へ辿り着くと同時に違和感を感じた。

 あれほどもがいていたジーンは今はその動きを停め静かに頭を垂れ佇んでいる。表情も見えないその姿はさながら幽鬼の如く。周囲に漂う空気もどこかヒンヤリと冷たく感じる。

 ジーンのこの状態は先生が何かをやった結果なのは明らかなのだが、如何せん何をやったのかがわからない以上、迂闊な行動は控えるべきである。内心の警戒レベルをさらに上げておく。

 

「ジーン、漸く辿り着いたぞ。先生を返してもらおうか!」

「いい加減観念しやがれ!」

 

 俺とヴィータの勧告にも反応を示さない。そもそも聞こえているのだろうか?

 

「おい、聞こえて――」

「は…」

 

「アーーーーッハッハッハッハッハッハッハッハァァッ!!!」

 

 そしてこの狂った笑いである。

 

「な、なぁ…どうしたんだ?」

「ア…アタシに聞くなよ……」

 

 未だ狂ったように笑うジーン。

 さすがに敵とはいえ、こちらが戸惑ってしまう。とはいえ、いつまでも放ってはおけない。先生とはやての安否を確かめなければ。

 

「クックッ…いや失礼。ワシとした事が柄にもなくうれしくってね」

「うれしい?」

「どういう事だ?」

「そのままの意味だ。望んでやまなかった物を手にした瞬間の歓喜。それはどの人間もが持つ感情だ!」

 

 望んでやまなかった?

 ジーンの望み――ッ!?

 

「その顔を見るに察したようじゃな」

「どういう事だよリン!」 

「……ジーンの渇望する物は何だ?」

「それは不死の――そういう事かっ!?」

「正確には少々勝手が違うがな。何はともあれ、お主の師に感謝すべきじゃ」

「やっぱり…取り込んだ先生の知識から」

「そういう事じゃ」

 

 言うや否や魔力の砲撃をぶっぱなしてくるジーン。いきなり何をと思ったが、元よりコイツは俺達を殺そうとしてたんだから間違っちゃいないな。  

 特大の砲撃を回避。そのままどうするべきか思案している俺を放って我慢しきれずに動く人がいる。

 

「仕方ねぇ。はやての体だからちょっと心苦しいけど、痛めつけてやる!」

「えっ? ちょ、待て!」

「でやあぁぁぁっ!!」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 制止をかける間もなく、ヴィータがアイゼンを振りかぶりながらジーンへと突貫していく。ジーンもその姿を捉えている筈でありながら、何のアクションも起こさなかった。迫るヴィータをその冷たい眼差しで見下すだけ。

 

「何も考えずに突っ込んでくるだけとは……やはりオマエは粗悪品だったな」

「うるさい! アタシを舐めるなぁ!!」

 

 上段から一気にアイゼンを振り下ろす。

 憤慨するヴィータの一撃が間近に迫ろうとも、ジーンはやはり動かない。最早、回避不可能な一撃だった――筈なのだが。   

 

「えっ?」

 

 ヴィータの口から呆気に取られた声が漏れる。それはそうだ。ジーンは回避もしていなければ、防御魔法も展開していない。

 

 ――ただ立っているだけ。

 

 なのにアイゼンは届いていない。ジーンの目前で停まっているのだ。

 ヴィータはその手に感じた異様な手応えに違和感を抱いたまま、もう一撃を見舞う。だが結果は一緒で、寸前で停まってしまう。

 さすがにヴィータも困惑する。

 ヴィータの手にはかつてない手応えが残っている。バリア系統の魔法を殴ったような感触でもなく、空気の塊を殴ったような感触でもなく、衝撃も反発も感じない手応え。本当にアイゼンがジーンに当たる直前に停まったのだ。 

 この異常な事態に戸惑うヴィータ。そしてそんな隙だらけの敵をジーンは放っておかなかった。

 

「阿呆が」

  

 ジーンの掌がヴィータの腹部に据えられ、空気の爆ぜる様な轟音が響く。無様な格好で吹っ飛ぶヴィータを鈴がキャッチ。

 

「大丈夫か?」

「ゲホッ、ゲホッ! だ、大丈夫…だ…」

「【治癒】」

「すま…ねぇ…」

 

 ヴィータはバツの悪そうな顔で謝る。治療中に先の一撃で感じた違和感を鈴に伝えると、鈴は特に驚くでもなく、ただ頷くだけだった。

 

「あれは防御魔法じゃない。文字通り、停めたんだ」

「停めた?」

「そう。短時間だけどアイゼンの『時間』を停めたんだ」

「『時間』を停める? そんな事ができるのか?」

「先生はできたんだよ。その時間の停止を」

 

 鈴の睨む先、ジーンはただ嘲笑の笑みを浮かべるだけであった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 相も変わらず店内は静かな時が流れる。

 蓮は向かいに座る女性、美樹との会話に華を咲かせている。主に話題を振るのが美樹。蓮は聞き役に回る。

 これが2人の会話時の主なスタイルであった。美樹はその幼い風貌に見合うように話の1つ1つにコロコロと表情を変え、蓮はまるで幼い子の親のような心境を抱きながら聞き役に徹する。

 やがて話も一段落し、美樹は手元の残ったコーヒーを一気に飲み干しデザートの残りも口に収める。それを見届けた蓮は口火を切る。

 

「なぁ美樹。これは夢なんだろう?」

「うん。そうだよぉ~」

 

 至極あっさりと切り出した蓮に美樹もあっさりと返す。蓮にとっては確信を持った問いだったので特に気にする様子も無かった。

 

「ここは蓮ちゃんを基にして書が見せる夢。だから今ここに居る私も蓮ちゃんもただの夢」

「随分とあっさりタネ明かしをするんだな」

「言ったでしょ? 蓮ちゃんが基だって。蓮ちゃんが『これは夢』って確信をもったから私もそれを否定する事はしない」

「夢ねぇ。見る夢は願望っていう話もあるがおまえとの再会ってのが私の願望だったのか」

「叶ってうれしい?」

「いや、別に――イダダダダダダダダダッ! う、嘘だ! スマン!」

 

 凄く良い笑顔で蓮の頭部を鷲掴み、アイアンクロー。さすがの蓮もこれには堪らず降参の意を告げる。

 ひとしきり痛みを与えた美樹は漸く手を離す。未だ痛むのか、蓮は机に突っ伏しダメージの回復を待っている。

「おおげさだよ~蓮ちゃん」

「青竹にっ…手形を残すような握力の持ち主が言うな…」

 

 蓮は机に突っ伏したまま再び静寂が訪れる。そして静寂の空間にか細い蓮の言葉が流れる。

 

「なぁ…」

「なぁに?」

「私の記憶も基にしてるんだろう?」

「そうだよ~」

「という事は……その、『鈴』…あ~、『健司』の事も知ってるのか?」

「……うん、知ってるよ」

「……そうか」

 

 蓮は先程、美樹との再会を望んではいないと言っていたが、ソレは嘘でもある。美樹の実の息子である『東健司』――今の『秋月鈴』の事で言わなければいけない事があったからだ。

 

「……すまない」

「何が?」

「私はアイツを引き取るべきではなかった。そうすればアイツは魔法を知ることもなく、死を知ることもなく、もしかしたら今よりも幸せだったかもしれない」

「……」

「いや引き取るのはともかく、魔法そのものを教えるべきじゃなかった。魔法を知った当初、アイツは言ったんだ。私のような存在になりたいって。まぁ、さすがに今は考えも改めてると思うが…」

「……」

「ともかく、私はおまえの息子を不幸にしてしまった。誤った道を教えてしまった。その事をおまえに――」

「そこまで」

 

 自然と熱が入る蓮の独白を美樹はスッパリと止める。

 

「蓮ちゃん、それは違うよ?」

「えっ?」

「今、謝ろうとしたでしょ? それは違うよ。あの子はあの子で考え、自分で選んで、そして失敗した。言ってみれば自己責任。蓮ちゃんが謝る事じゃないよ」

「だがなっ!」

「魔法だって教えた事自体は悪い事じゃないって。使い道を誤ったあの子が悪いの」

「……」

「それに蓮ちゃんはあの子の魔法失敗の際に全力であの子を助けてくれたじゃない。それでおあいこでしょ? それに――」

「それに?」

「あの子が鈴ちゃんになってからの蓮ちゃんとの生活を見てるとどう見ても不幸には見えないんだもの。あの子は蓮ちゃんとの生活を楽しんでたみたいよ」

「そんな事、わかるのか?」

「わかるわよ。だってあの子の母親なんだから♪」

「そう…か…」

「そうよ。だから蓮ちゃんが負い目を感じる必要は無いの。なんだったらあの子と一度、話してみたらいいじゃない」

「それは…もう無理だろうな」

「あら?」

 

 今度は美樹が尋ねる番だった。

 この世界の美樹は蓮の記憶を基としているため、現実世界と違い、蓮が魔法を使えると知っているし『魔女』という実力者だとも知っている。

 だからこの世界から脱する方法も知っている筈とタカを括っていたから蓮の無理という言葉に疑問をもった。

 

「私はこのまま闇の書に残るつもりだ」

「それって?」

「闇の書は取り込んだ者の知識を扱う事ができる。私を取り込んだという事は恐らく禁術も扱えるようになる筈だ。それを使われるとアイツらに勝ち目は無い。だから私はここに残ってそれを阻害する。それにここで探さないといけない奴もいるしな」

「本気…なの?」

「本気だ」

「あの子は…悲しむよ」

「悪いとは思ってる。だが別れは鈴だって覚悟している筈だ」

「……」

「私は長く生き過ぎた。そろそろ幕を引いてもいい頃合いだろう。それにアイツらの手助けをして消えるんだ。ただ消えるよりはよっぽど建設的だ」

「考えは変わらないのね?」

「変わらない」

「そう…」

 

 渇いた音が響く。

 そこには平手を見舞った美樹と頬を紅くした蓮の姿。いきなりの平手だったにも関わらず蓮は怒ることもしなかった。

 

「あの子を悲しませるんだからこれぐらいはね」

「…アイツを愛してるんだな」

「当たり前でしょ?」

「その想いは羨ましい限りだ」

 

 両者、どちらからともなく笑い合う。

 親友と呼べる2人はこれから永遠の別れが訪れるというのに悲愴な感情は無い。スッキリとした清々しい――まるで新しい門出のような気持ちであった。

 

「それじゃ、私は行くぞ」

「うん。蓮ちゃん」

「ん?」

 

「バイバイ♪」

「ああ、じゃあな」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 女性は違和感を抱いた。

 懸命に耐え、未だ腕の中で眠る少女を消滅から護り、現状を打破すべき算段を打ち立てていたが、突如として周囲の闇を広げた空間が揺らめいたのだ。いや、元より周囲の空間は歪んでいたのだが、それがクリアになってゆく。

 

「…ん…ぅん…」

「っ!? 主!」

 

 腕の中で静かに眼を閉じていた少女に初めて動きがあった。その事実に女性は驚愕する。

 彼女の目算では、少女が自然に目覚める事は無いと踏んでいたからだ。そんな女性を余所に、少女はゆっくりとその目蓋を開く。

 

「んっ……誰?」

「えっ? あ…」

 

 女性は一瞬戸惑う。 

 

「どないしたん?」

「い、いえ。私に名はありませんが……書の管制人格と言えばわかるでしょうか?」

「書の………あ! 思い出したわ! いきなり本が光ったと思うたら知らない声が聞こえて、それで…」

 

 少女――はやては最後の記憶を一気に捲くし立てる。

 混乱しているように映るが、はやての話す内容はしっかりとした物で意外と余裕があるようにも窺える。

 とりあえず何時までも抱きかかえられているのもアレなのではやてはその場に座り込む。車椅子の時と違い、脚は動くが慣れない感覚に未だ立てないでいた。

 

「主はやて、落ち着いて聞いてください。今から全てを話します。決して取り乱したりしないよう」

「わ、わかった」

 

 

 

 

 

「以上があの亡霊が闇の書に施した改悪の全てです。私は主はやてを護ることが精一杯であの亡霊を止められませんでした」

「そっか……ありがとな、私を護ってくれて。でもそれやと何で私はこうして眼が覚めたん?」

 

 女性の話では表にジーンの人格が出てる内ははやてが目覚める事は無いという話だった。だが実際にはこうしてはやては目覚めている。

 

「今は外界の情報が伝わらないので詳しくは判りませんが、外側から何らかの要因が働いたのではないかと」

「何らかの……うん?」

 

 はやては服の内側に何らかの感触を感じた。触ってみると、ペンダントのような感触がしたので首元からそれを取り出す。

 それは羽根を模した銀細工のペンダントであった。はやては勿論、これに覚えは無い。何時の間にと頭を捻っているはやてを余所に、その銀細工を見た女性はさっきまでの薄い表情を一変、明らかに驚愕を顕にした。

 

「そ、それはっ!?」

「えっ? これが何かわかるん?」

「はい! それは『蒼天の筆』と呼ばれる書の書き換えを可能とする――いわゆるマスターキーと呼べる代物です! でも何故ここに…」

「あったらおかしいの?」

「はい。これは遥か昔に何者か(・・・)によって盗まれた物なのです。いくら探そうとも見つからず、やがて捜索も打ち切りとなりました」

「成程……ん? 書き換えが可能って事はこれを使えば?」

「はい! 主はやては戻ることが可能となります!」

「ホンマに!?」

 

 ジーンという存在は侵食率の高いウィルスのような存在である。

 女性ははやてを侵食から護っていただけであって、対抗手段を持ち合わせていなかった。だがここに蒼天の筆(ワクチン)という手段が手に入った。

 

「はい。では、早速ですが――」

「あ~、ちょい待ちなさい。今やっても無駄骨だぞ」

 

 実行に移そうとする女性に待ったの声がかかる。

 誰も居ないと思っていた2人は驚きながら声の方に振り返る。そこに居た人物を見てはやてはまた驚き、女性は警戒心を抱く。

 

「蓮さん!」

「誰ですか? それに無駄骨とはどういう事です?」

「私の事ははやてにでも聞け、管制人格さん。今のジーンはその筆の影響を受けているが侵攻を停めている状態だ。私がそれをキャンセルするまで待ってほしい」

「侵攻を停める? そのような手段が――」

「あるんだよ。筆の侵攻の『時間』を停めてるんだよ、今のジーンは」

「『時間』を…停める?」

 

 女性は珍しいぐらいに表情を変える。

 彼女を知る人物が居たらその様子に呆気に取られるだろうがそれも仕方が無い。立て続けに予想外な出来事が起こっているのだから。

 蓮の言う事を信じるのであれば、ジーンは筆によって初期化を受けたがそれを時間魔法によって侵攻を停めている状態だという。

 

「あなたは『時間』を操れるのですか?」

「燃費も効率もクソ悪いけどな。とにかく今のジーンは私を取り込んだことでその時間魔法の行使を可能としている。これを使われると普通の魔導師ではどうしようもない。だから今から私が奴の時間魔法行使の阻害をする。その後に筆ではやてとジーンを切り離してはやてを外に帰してやってくれ」

「……わかりました。あなたに協力しましょう」

「ついでだ。奴の改悪したプログラムも押し付けて切り離せ」

「元よりそのつもりです」

「それと――も頼む」

「……それは…よろしいのですか?」

「ああ、もう決めた事だ」

 

 それから2人は短い打ち合わせを行い、役割を果たすべく動く。

 ジーンの足元に大掛かりな六角形の魔法陣が展開され、蓮も集中した状態に入る。女性はそこから少し離れた位置で静かに見守る。

 と、そこで蚊帳の外だったはやてが女性に声をかける。

 

「なぁ、聞いてもええ?」

「何でしょう?」

「私を帰してくれるのはうれしいんやけどアンタと蓮さんはどないするん?」

「私は書の管制人格です。たとえ主はやてが戻ってもあなたと共に在ります」

「じゃあ、蓮さんは?」

 

「彼女は切り離した亡霊と共に逝くとの事です」

 

 はやては女性の言ってる事が唐突過ぎてすぐには理解できなかった。だが時間が経つにつれ、その内容を理解し怒りを顕にする。

 

「な、何でや! それやと蓮さんは助からないってことやない!」

「彼女の意向です。たとえ亡霊を切り離しても亡霊が得た魔法までも切り離すわけではないのです。時間魔法という力を持ったままの亡霊は脅威となります。ですからそれに対抗するにはこうするしかない。どうかわかってください」

「そんなの…蓮さん! 蓮さんはそれでええの!? みんなと――鈴君と別れてもええっていうの!?」

 

 はやての激昂は納まらない。

 人を思いやれる彼女からすれば、たとえ頭ではどうしようもないとわかっていても犠牲は良しとしなかった。彼女はまだ子供であるのだから。

 だが蓮は耳を貸さない。ただ静かに自身の魔法を起動してゆく。

 

「はやて嬢、鈴に伝えておいてくれ」

「嫌や! 蓮さんが自分から言って――」

 

「楽しかった。オマエとは――と」

 

 世界は光に包まれ、結局はやての言葉は届かなかった。

 

 





書く機会も無いだろうからここでネタバレ。



過去に盗まれた蒼天の筆、犯人は魔法で過去に遡った秋月蓮。

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