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『鈴』
「何とか撒けた…かな?」
俺とヴィータは連中からどうにか逃げおおせ、やっとこ腰を落ち着けたのは意外にもそう遠く離れていない廃ビルの中。逃げたと見せかけた灯台下暗しという算段だ。
これが功を為したようで、奴らにも異形共にも見つかっていない。
「さてと…ヴィータ、大丈夫か?」
「……」
声をかけたヴィータからの返答は無し。壁に背を預ける形で座ったまま俯いている。
実はここについてからずっとこの調子だ。逃げてる途中は気概もよかったのだが、ここについた途端コレ。どうしたっていうんだよ。
「ヴィータ? もしかしてどっかに怪我でも…」
「すまねぇ…」
ポツリと零れた声。
「アタシは…アタシ達はおまえに……いきなりあんな事を…」
さっきまでの事を気に病んでいるようだ。それが今のヴィータには堪えていたらしい。
「いいよ別に。そりゃあ、戸惑ったけど、お前らは何か事情があったんだろう?」
「それでもっ! アタシはおまえには迷惑ばかり…」
「以前も言ったけど俺はお前らが悪い奴だとは思っていないから」
その証拠に俺はあのジーンを責めはしたけど守護騎士の連中を責めた覚えは無い。
わかっているからだ。こいつらが根は良い奴だと。そんな連中が意味も無く俺に敵対するとは思えないからな。
「なっ?」
「……」
目線を合わせようと俺も屈むと、体に軽い衝撃を受けた。
その衝撃はヴィータが俺の胸に顔を
思いがけない行動に――そして女の子特有のやわらかい感触に少しドギマギした。普段は口の悪いコイツでも、やっぱり女の子なんだと自覚してしまう。
「ど、どうした?」
「悪い…こっちを見ないでくれ…」
ヴィータの肩が震えている。そして本人は抑えているんだろうが、それでも抑えられずに漏れている嗚咽の声。
こいつ……泣いているのか?
(やれやれ…)
娘を宥める父親のように俺も優しく受け止め、空いた手でヴィータの頭をゆっくりと撫でる。
普段は気丈に振舞うこの小さな少女が落ち着くまでゆっくりと。
「じゃあ、本当にアイツははやてじゃないんだな?」
「ああ。アイツが言った通り、かつて闇の書の主だった女だ」
漸く落ち着き、会話の出来る状態になったので色々と訊いてみる。今起こっている事件は、本当に唐突に訪れたものだから、何にも情報が無い。ちょっとでも情報を仕入れなければ、これからの方針も立てようがない。
「とにかく、今からアタシの知る限りを話す」
ヴィータの説明によるとこうだ。
ジーン・マクスウェル。
歴代、闇の書の持ち主の中でも、比較的初期の頃の人間。
優秀な魔導師だったらしいがその反面、優秀さ故に貪欲に知識を求める傾向にあったらしい。それこそあらゆる物を犠牲にしてでも。
その貪欲さは留まらず、終いには人間として禁忌とも言える知識である不死の法にまで及んだらしい。その知識を求める裏には、寿命による死によって自分の知識が失われるのを恐れていたのもあった。
だが不死の法など、それこそ夢物語に過ぎない。それでも奴は諦めきれなかった。
その結果、不死の法は叶わなかったが代わりに闇の書に転生機能を組み込む。
これにより自身の情報を闇の書に組み込み、後の闇の書の主の中で己に適合する者が現れると、その身を乗っ取るという最悪の『転生』がとられる。
無限再生機構も闇の書に組み込まれたジーンという存在の情報が欠けないようにするための処置だった。ちなみに適合率の低い者はそのままスルーされるらしい。
さらにはその乗っ取ったという事実を後の持ち主に知られないよう、その都度、守護騎士達に記憶の改善を行うといった徹底っぷり。ヴィータ達が今の今まで奴に関する記憶が無かったのもこのため。はやてを乗っ取った時に、記憶を弄くられたんだと。
「闇の書の機能は奴の私利私欲のために組み込まれたものだったのか」
「あぁ、そうなる」
「もしかして歴代の持ち主が行ったプログラムの改悪ってのは…」
「全てはアイツの仕業だ」
そうか。
歴代の何人かによる改悪と資料にはあったが、それは見た目は別人だが中身はジーンという、その実たった1人の手による改悪だったワケか。
そのあまりの身勝手さに、無意識の内に右手に力が入る。
「……はやてはどうなるんだ?」
「すまねぇ…そこまではわからない」
……ふざけんなよ?
はやてが何をしたって言うんだ? 奴の身勝手さに巻き込まれたってか?
ハラワタ煮えくり返るような怒りが湧き上がるのを感じるが、必死に押し止める。まだ全てを明かされていないから。怒りはその後だ。
「奴が言っていた俺を糧にって言うのは?」
「それはアイツがリンの――グッ!?」
「ヴィータ?」
話の途中でヴィータが突然蹲る。
どこかを痛めたのかと思い、ヴィータを診る。ヴィータは胸を押さえ、結構な脂汗を流している。その眼も焦点が定まっていない。
「お、おい、ヴィータ? だいじょ…」
「うああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
一際大きな絶叫。驚く俺を余所に、ヴィータの体には異変が起きていた。
まず纏っていた騎士甲冑が解除されていつもの私服姿に。そして彼女から発せられるぼんやりとした。
その光はやがて気泡のように空気に溶けていく。その結果は顕著に表れており、ヴィータの体が徐々に希薄になっていってるのだ。
「お、おい! どうしたんだ!?」
「クッ…デ、デリ…トかッ!?」
「
「ア…ゥアァ…」
もはやヴィータは俺の問いにも答えてくれない。それほどの状態にまで進行しているのだ。
少し考えればわかる事だった。
ヴィータは闇の書から生まれたプログラム生命体。ならば闇の書を以ってすれば、ヴィータの存在を弄ることも出来る。そして奴が主人に弓を引いたヴィータの存在を消去しようとしていると考えれば納得できる。
「クソッ!? どうすれば…」
消え行くヴィータを横抱きにして思考を休めず、必死に模索する。
ヴィータの体はプログラムのような物。俺の体と事情は違うが、本質的には似たような性質をもっている筈だ。俺の体を繋ぎとめる物は……魔力。ならヴィータに魔力の譲渡?
ダメだ。消え行くコイツに急場凌ぎで魔力を送っても、穴の空いたバケツに水を入れるようなものだ。穴を塞がない事にはどうしようもない。それに改善されたとはいえ、俺自身の魔力が多いわけじゃない。
穴を塞ごうにも、守護騎士システムを知らない俺にはどうしようもない。
俺の魔法でどうにかできるモノはあるか?
一瞬、頭に浮かんだ魔法があったがそれもダメ。『アレ』は俺には扱えない。先生からも禁術扱いされているし。
どうする?
どうする?
どうする?
……あった。
穴の空いたバケツじゃなくて、別の容器に移せば…
でも『ソレ』はやっていいのか?
確かに俺の中では知識としてはあるけど、実行に移した事はない。いわば使ったことのない魔法になる。
つまり失敗も考えられる。
それに『ソレ』するという事は、ヴィータという存在を変えてしまう事になる。彼女の生き方全てを知らない俺が勝手な判断と一存で決めて実行していいのか?
…な~んて葛藤してみたのもほんの数秒。
苦しそうな表情で今にも消えゆきそうなヴィータ。それを享受できるほど、俺は物分りのいい人間ではない。
もはや聞こえてはいないだろうが、それでもヴィータに語りかける。
「ヴィータ。俺はおまえに消えてほしくない。だから勝手におまえを助ける。
横抱きにしていたヴィータの体を再び地面に寝かせる。俺は自分を落ち着けるように深く深呼吸をする。そして術式を展開。
俺とヴィータを囲む、見慣れた六角形の魔法陣が淡く光を放つ。
◆ ◆ ◆
『アリサ』
「ハァッ!!」
上段から真っ二つに引き裂かれた黒いスライムのような怪物はそのまま崩れ去り消えていく。大型だったけど関係ない。こちらのデバイスもひとまわり巨大になっているからむしろ好都合だった。
気は抜けない。続いて背後からの一閃を屈んで回避。丁度、人型の怪物だったのでそのまま脚を払い、転んだその身にグローリーの刃を突き立てる。
『■■■■■■■!!!』
一般人なら身も竦むような断末魔。それにも堪えないのは慣れてしまったからだ。半年前の何も知らないあたしが今のあたしを見たらどう思うんだろうか?
……自分で言うのも何だけど、何だかんだで逞しいからすんなり受け入れそうね。
「かの者を刺し穿て! 」
あたしの背後から声が響く。
それはあたしの仲間で友達のすずかのもの。すずかの魔法によって生まれた幾重もの赤黒い針が黒い怪物を貫き、針山にしていく。
あたし達を取り囲む怪物達に隙を見せないようにすずかと背中合わせになる。
「ああもうっ! 数が多すぎるのよ!」
「一体、何が起きてのかな…」
こいつらが現れたのは約1時間前。
いきなりでこいつらに対して状況が掴めなかったけど、巨大な結界が張られた事やこいつらがあたしに敵意を向けた事であたしの中のスイッチが入った。すなわち魔導師――いや、騎士としての。
そこからの行動はひとまず近い場所に居る筈のすずかの家を目指した。
あまりに数が多くて中々進めなかったけど、すずかの方も同じようにあたしの所へ向かっていたから思ったより早く合流できた。それで今度はなのは達と合流しようと思ってたんだけど、やっぱり中々進まない。
それが今のあたしの置かれた状況。
「どうする? アリサちゃん」
「魔力は温存しておきたかったけど、こうなったらカートリッジを使って一気に…」
「「サンダアァァレイジッ!!」」
視界一杯に。辺り一面に稲妻が降り注ぐ。
それは轟音を鳴らしながら寸分違わず怪物にだけ降り注ぎ、奴らを消し炭にしていく。
やがて閃光と轟音が治まった頃にはあれだけ存在していた怪物は綺麗サッパリ消え去っていた。
「今のって…」
あたしとすずか、声のした方へと顔を向ける。
そこにはさっきの魔法の実行者2名、フェイトとその母親であるプレシアさんの姿があった。さすがは元大魔導師とその娘。規模が半端じゃないわ。
よく見ると後ろにはなのはにクロノ、ユーノ、アルフの姿が見える。
「アリサ! すずか! 大丈夫!?」
こちらに駆け寄ってくるフェイト。それに続いてなのはも一緒に駆け寄ってくる。お互いの無事を確認できた事に安堵する。
そうこうしていると、今度はクロノがこちらにやって来た。
「悪いけど再会を喜んでいる暇はない。僕達に力を貸してくれ」
回りくどいのはあたしだってあまり好きじゃないけど、だからって単刀直入すぎないかしら?
「ちょっと待って。事情を説明してもらおうかしら」
「私達はいきなり過ぎて何がなんだか…」
「説明は後でもできる。今は――」
「この異変は恐らく、闇の書の覚醒によってもたらされたものよ」
クロノの言葉を遮るようにして言葉を重ねたのはプレシアさんだった。
「プレシアッ…」
「落ち着きなさい、坊や」
「くっ!?」
「あなたが闇の書に対して何を思っているのかは知らないけど、ただ闇雲に焦っても良い結果にはならないわよ。執務官だっていうのならその辺りはもっと自覚しなさい」
淡々と諭すように語るプレシアさんには、たしかに大魔導師としての風格を感じた。そして皮肉にも、自分の実体験からくる発言名辺り、さらにここのみんなに信憑性を抱かせている。
その当事者だったクロノにプレシアさんの言葉に込められた意味に気付かない筈が無い。
「……あくまで観測された魔力に基づいての推論だ。だからこれから僕達は事実確認のために動く。そのために力を貸してくれ」
プレシアさんの言葉に頭を冷したようね。今度はちゃんと会話として成り立ってた。
「わかったわ」
「私でよければ」
拒む理由は無いわね。
闇の書も気懸かりだけど、あたしははやてにシグナム達の方が気になってしょうがない。以前に渡された資料の内容が本当の事だとしたら、闇の書が覚醒した場合その持ち主は……
頭を振って、その不吉な思考を振り払う。
何をネガティブになってるのよ、あたしは。
はやてやシグナム達の無事を確認しに行くんでしょうが。
しっかりしなさい、アリサ・バニングス!
「それともう1つ、彼の居場所も知らないか?」
クロノの言う彼っていうのはこの場合、1人しか該当しない。
「ううん、知らないわ。そっちに居なかったの?」
「家も訪ねてみたが居なかったし、なのはも…」
「みんな! アレ!」
突然、なのはの声が響く。
なのははある方角の空を指差してみんなに示す。その方向は市街地のほぼ中心部。そこから結界に覆われた天に向かって昇る青白い光。あれはあたしもなのはも見たことがある。
鈴の中でも最大級の破壊力を持つ砲撃魔法【波動砲】だ。
「あれって…」
「間違いないだろうね」
それを確認したみんなの行動は早く、すでに駆け出していた。
あいつの居るであろう場所へと。
◆ ◆ ◆
『鈴』
「やっぱり破れないよなぁ」
撃った【波動砲】は結界に当たってはいるが破れる様子が無い。破るつもりもなかったから威力も抑えて撃ったんだがな。
とりあえずヴィータに施した魔法は成功した。
その際、ヴィータの肉体の再構築のために俺の魔力が結構持っていかれたけど、そんなのは些細な事だ。今は無事だった事実に安堵した。そのままヴィータをあの場に寝かせてからここまで離れた。
とにかく、俺1人で守護騎士やジーンはどうにも出来ないからみんなの手が必要だ。
シャマルのせいで通信妨害のなされているこの状況において救援を求めるべく、俺は賭けに出た。
その方法が狼煙。そしてとった手段は信号弾代わりの【波動砲】だ。みんなが気付く保障は無いけど闇雲に探すよりはマシだ。
もう1つ、これには守護騎士の連中をこちらに引き付け、ヴィータに危険が迫らないようにする意味も兼ねている。
味方が先か?
敵が先か?
正に賭けだ。
「あぁ…やっぱり、今回もダメだったよ」
目の前に立ち塞がるのは黒の騎士甲冑に身を包んだ守護騎士達。
シグナムにシャマル、ザフィーラ。
賭けには 完 全 敗 北 !
「それはそうと、おまえらその格好はどうしたん――って、うおっ!?」
返答はシグナムの一閃だった。
気を抜いたつもりはなかったがあまりの速さに袖がスッパリと斬られた。シグナムの体勢が整っていない内にそのまま後方へ跳躍、距離をとろうとしたが――
「げっ!?」
シグナムの影からザフィーラが飛び出してきた。
その速さには【盾】も間に合わないので、豪腕から放たれる拳をそのまま腕でガードするも体重差からくるその威力に再び後方に吹っ飛ばされた。
コンクリの壁に打ち付けられ、肺の中の空気を強制的に吐き出される。
追撃をかけてきたザフィーラが眼に映る。拳を振り上げ、こちらに凄い勢いで跳んできた。
(チャンス!)
壁を背にした俺は腰を落として構える。
「【盾】!」
展開された六角形の盾とザフィーラの拳が衝突し、鬩ぎあう。拮抗により生じたスパークのような魔力の奔流が周囲を照らす。
そこで俺はわざと【盾】を消す。
「!?」
突如として撥ね返されていた力が無くなった事により、ザフィーラの体勢が大きく崩れる。
コレが俺の狙い。
間髪入れず、空いていた右手でザフィーラの頭部を鷲掴み。
「【覚醒】!」
ヴィータの時と同じ構図が出来上がっていた。弾ける光が治まり、ザフィーラの動きも止ま――
「グゥ!?」
――っていなかった。
ザフィーラの拳は俺の腹部を貫き、呼吸が止まる。堪えきれずその場に蹲ってしまう。
(な…んで…?)
意識が飛ばなかった事を幸いとみるべきか、気絶せずに苦しみ続ける事を不幸と呪うべきか。
いや、幸いと見ろ。こうして思考を休ませずにいられる。
ヴィータには効いた【覚醒】が効かなかったのは、間違いなく変貌した今のこいつらの姿に関係している。
【覚醒】はその特殊な術式で脳に直接働き掛け、呼び起こす魔法だ。混乱を治めたり洗脳を解いたりとした効果をもたらす。
それが効かないって事は魔力抵抗に優れているか、もしくは元から脳波に異常は無いか。
それとは別に気付いた事がある。
こいつら、間違いなく以前よりも強くなってやがる。
肌で感じる魔力もそうだが、力に速さと単純な身体能力だけでも向上してるのがわかる。というより身をもって体験してる。じゃなけりゃここまでダメージは通らない。
「ぐがっ!?」
蹲る俺を敵は知った事かとさらに追撃をしてきた。
頭部を踏みつけ、さらには腹を蹴飛ばし、最後にはバインドで拘束。さっきまでの思考が全部吹っ飛んだ。バリアジャケット代わりの【鎧】も効いてるのかどうか怪しくなってきた。
視界の定まらない眼を頭上に向けると、こちらを冷たく見下ろしながら拳を振り上げたザフィーラの姿が映った。横たわった俺にはあの拳が断頭台の刃のように思えて仕方ない。
「……寝ろ」
無機質な声が耳に届く。そして振り下ろされる拳。
「やめろ、ザフィーラ!!」
ピタッと
視界に映ったのはさっきまでの不調など、どこ吹く風の悠然とした紅の姿。
スカートを靡かせながらこちらへと歩く彼女。手に持ったデバイスのハンマー。揺れる長い赤毛。纏う騎士甲冑も以前の物とは変わりない。
彼女はたしかにヴィータである。
だが彼女の在り方は変わってしまっている。
「アタシの…アタシの
闇の書の『守護騎士』ではない。
秋月鈴の『使い魔』へと。
◆ ◆ ◆
『ヴィータ』
少し遡る。
「ぅ…ぅん…」
意識が浮上する。映る天井は見慣れないコンクリートの物。身を起こし、今の状況を確認する。
「アタシ…は……っ!?」
自分の体をあちこち見渡し、触れ、自分を確認する。
(消えてない?)
アタシは確かに、闇の書からのアクセスで自分という存在が消去されようとしていた。アイツからすればアタシは闇の書の一部でありながら反逆者であり、不要な存在となったんだから。
(そういや、リンはアタシを助けるって…)
薄れゆく意識の中でリンの声が聞こえた気がしたけど空耳じゃなかったワケだ。
でもどうやって?
その原因を探るべく、アタシはさらに自分の体に起きた変調を確かめようと魔力などを駆使して己の体へと意識を集中する。
(闇の書との魔力のラインを感じない。それにこれは…このラインは…)
ああ成程、そういう事かよ。
つまり、アタシはもう『守護騎士』じゃなくなったんだ…
『恨んでくれてもかまわない』
リンが言ってた事はコレか。
アタシはこれまでずっと『守護騎士』として生きてきた。その在り方を消した事に対しての言葉ってワケか。
「……バカ野郎」
暫くすると収束する魔力を感じた。
今のアタシなら間違えようもない程にわかる魔力、リンのものだ。そういえば何でアイツが居ないんだ?
「探すぞ、アイゼン」
甲冑を纏い、廃ビルから飛び出す。
自分の中に感じるリンとのラインを頼りに飛ぶとやがて見つかった。
そこに居たのは打ちのめされたリンの姿と黒い甲冑姿のシグナム達の姿。拳を振り下ろそうとしているザフィーラ。
「やめろ、ザフィーラ!!」
アタシの静止の声に応えてくれたザフィーラ。
応えたというよりは、アタシの声に虚を突かれたといったところか。とにかくこれ以上、リンをやらせるワケにはいかない。
何せ――
「アタシの…アタシの
アタシの恩人であり、主であり、大切な奴なんだから。
◆ ◆ ◆
そこが何処なのかはわからない。
果ての無い――そもそも果てなど認識できないような歪んだ空間にその人は居た。
1人の女性と1人の少女。
女性は少女を我が子を守るように抱きかかえ、少女はその眼を閉じ、眠っているのか……それとも生命を停めたのか。
恐ろしいほどに静かだった。
2人を包む水の膜のようなものを境にして周囲の歪んだ景色は消えている。
「……まだだ。これ以上、おまえの好きにはさせない。過去の亡霊が」
女性は周囲を睨みつけながら吐き捨てた。
ヴィータに苦情が殺到しそうな設定が追加されました。
生暖かくスルーしてくれるとありがたいです。