魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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最近になって初めて運営からの報告を見ました(更新に全然気付かなかった)

すると、いつだったかの複数投稿がバグだったという報告を眼にしました。

今更ながら、報告やメッセージをされてくれた方々に改めて感謝を述べます。

ありがとうございました。


27・いいコト、わるい子と?

 

 

 光の無い部屋に鎮座する大きなベッドの上でヴィータは目を覚ます。

 

「ぅう~ん…むぅ~」

 

 落ちそうになる目蓋を擦りながら周囲を見渡す。

 そしてそこが見慣れたはやての部屋だと認識すると、ヴィータは未だに寝ている頭を徐々に覚醒させる。

 

(え~と…何で寝てたんだっけ? 確かいつものように過ごしてリンと会って……リン!!)

 

 その思考が功を為し、ヴィータの脳は一瞬で覚醒した。

 布団を跳ね除け、部屋を飛び出して階下の明かりの灯った居間へと突撃。バン!と、壊れるんじゃないかというぐらいに乱暴に開け放たれた扉に、部屋の中にいた人達は大層驚く。

 

「おい! あの後どうなっ…て…?」

 

 ヴィータの部屋内に入ってきた時の勢いは徐々に萎んでいき、終いにはその動きが止まる。

 彼女の眼に映ったのはシグナムにシャマルに狼形態のザフィーラ。ここまではいつも通りなので、ヴィータが動きを止める理由は無い。

 彼女が問題にしているのは、もう片方の組み合わせの男女。

 ヴィータの大切な主であり家族の八神はやてと、ついさっきまでヴィータと死闘を繰り広げていた秋月鈴だ。

 

 前回で鈴がはやての診察と言っていたのでここに居るのは別におかしくはない。だが気絶していたヴィータはその事を知る由もない。

 ヴィータにとってさらに問題なのは、今の2人の体勢である。

 はやては車椅子に座っていて、その前に跪いている鈴ははやての足を持ち上げて触診している途中だったのだ。

 だが事情を知らない人が見れば、はやての素足を撫で回しているかのように見えなくもない体勢である。

 そして全く状況を理解できない上に、はやてを大事に想っているヴィータがそう悪い方に捉えてしまったのも無理はない(かもしれない)

 

 そしてそんな家族愛とはまた別の感情がヴィータの胸の奥で鎌首をもたげる。

 この光景――はやてに触れている鈴の姿が、ヴィータの中の『何か』を何故か波立たせる。そのモヤモヤしてムカムカするヴィータにとって全く味わった事の無い初めての感情。

 訳の分からないその感情を晴らすべくとった彼女の行動とはっ!?

 

「何やってんだおまえはぁぁぁぁっ!!」

 

 シャイニングウィザード也。

 

 

 

 

 

 その夜、はやて一家の食卓は鈴を交えての和気藹々とした団欒のものになる――筈であった。

 今もって流れている空気は団欒とは程遠い不穏な空気。それは鈴とヴィータ、2人の発する険悪な空気のせいである。

 他のみんなも雰囲気に呑まれたのか決して喋らず、一家の主であるはやてさえもがどうしたものかと内心で頭を抱えている。

 そして結構な時間がたった頃、机を叩いて立ち上がったのはその空気に耐え切れなくなった張本人の内の1人であるヴィータだ。

 

「ああ、もうっ! いい加減にしろよリン! さっきのは悪かったって言ってるだろ! いつまでもウジウジと…女々しいぞ!」

「女々しい? 女々しいと申したか? ふざけんな! こっちはさっきの一撃で実は密かに自慢だった健康で白い歯が1本、犠牲になったんだぞ! しかも奥歯! 訴えるぞ! そして勝つぞ!」

「自分で治せたんだからいいじゃねぇか!」

「それで全ての遺恨がなくなるようだったら世界はもっと平和なんだよバカヤロウ!!」

 

 互いに額をぶつけ、グリグリと擦りながらメンチビーム。ヴィータはもっと殊勝に、鈴はもっと心を広くもてば事態は収束していたのだろうがもはや後の祭り。ここまでくれば意地の張り合いというのが、おそらく2人の認識であろう。実は波長の合うコンビなのかもしれない。

 暫くの睨み合いに傍らのヴォルケンリッター達も溜め息。そろそろ止めるべく、動こうとしたところで予測もしなかった方からアクションがあった。

 食卓を再び叩く者が現れた。

 それにより、卓上の食器が一瞬浮かび上がる。その音に肩を震わせた2人睨み合いを中断し、恐る恐ると音源の方へ首を向ける。

 

「二人とも……ええ加減にしいや♪」

 

 一家の主、はやてである。

 発した声色は重く、浮かべる表情は見事なまでの笑顔。笑顔とは本来攻撃的な意味を持つといった説もあるが、はやての笑顔はまさにソレ。

 そんなはやての笑顔に屈した2人の行動は早い。

 

「「hai! 調子にのってすみませんでしたぁぁぁ!!」」

 

 日本が誇る伝統文化奥義『DOGEZA』

 この2人、やっぱり仲が良いのかもしれない。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『鈴』

 

 

「う~ん…」

 

 激動の食事も終わり、みんなと茶を囲みながらはやての診察の結果を振り返る。

 結局、この診察で得た結果はヴォルケンリッターの知り得ているものと大差無かったりする。足の病の原因だったり、それを改善するための魔力蒐集だったりとか、進展は全く無し。

 

(これはユーノ達が無限書庫で得る情報に期待するしかないな)

「鈴君、どしたん?」

「いや、何でもない」

「でもなんか、眉間にごっつう皺寄ってるで?」

 

 はやてに気遣われる。そんなに寄っていただろうか?と眉間を揉み解しながらはやてに尋ねてみる。

 

「はやて、本当にこのままでいいのか? そりゃあ、魔力の蒐集行為はよろしくはないけど、それで苦しむのはおまえなんだぞ?」

「うん、ええよ。そんな事よりも私はみんなと一緒にいる事の方が大切やから」

「その結果、発作の度にみんなを心配させてしまうとしてもか?」

「……その質問はちょっと卑怯やわぁ」

「…すまん」

 

 確かに、はやての性格からしてその事に心を痛めないわけがなかった。 

 俺ははやてにシグナム達が蒐集をしていたという事を除いて全てを話した。

 自分も魔法使いである事。

 現時点での闇の書の事。

 さっきの診察の結果、進展が無かった事。

 それでも本人は嘆くことも無くみんなとの生を望む。その心がヴォルケンリッターの心を突き動かす。

 本当、こいつらは愛し、愛されているな。

 

「そや、鈴君の魔法を見せてや!」

「いいけど、急にどうしたんだ?」

「いや、単純に見てみたいんや。他の人の魔法ってどんなんやろかなぁって」

「それは私も興味があるな」

「そうですね。あなたの魔法は私たちも見た事が無いですし」

 

 はやての要求と共に、ヴォルケンリッターのみんなも興味を示してきた。

 シグナム、シャマル、ザフィーラは興味津々と。ヴィータは興味ない素振りをしながらも、視線をチラチラと飛ばしてくる。

 もっと素直になってもいいんでないかな?

 

「ん~。じゃあ、【火】」

 

 指先に小さな火を灯してみる。魔法というより、まるで手品のような手法にはやては小さく拍手をしてくれた。

 

「ほう、私と同じ変換資質か?」

「ところがどっこい、【凍結】」

 

 今度は湯呑みの中の茶を凍らせてみる。小さな見慣れた六角形の陣が展開されると共に凍りついてゆくお茶。

 

「……2種類の変換資質?」

「詠唱を必要としない?」

「まだあるぞ」

 

 その後も電池を抜いた卓上時計を【電撃】で動かしてみたり、【風】で空気の流れを起こしてみたりと手品のような魔法を選択し、披露する。

 その全てにはやてはわざわざ拍手を送ってくれて、他のみんなも目を丸くしながら見入ってくれている。興味なさそうにしていたヴィータもそのバリエーションの多さに途中からみんなと一緒に混ざっていた。

 

「デバイスも無しにこれだけ多種多様なものを操るとはな…」

「これだけの魔法をあなたはどこで習得したんですか?」

「ん~、内緒ってことで」

「……まぁ、いいだろう」

 

 あっさりと引き下がってくれたのでありがたかった。

 はやての病気を診たり、魔法の手の内を晒したりとなるべく誠意は見せて接しているけど、結局のところ今の俺は管理局所属。情報の提示は度が過ぎないようにしないとな。

 ある程度は手を明かして信用を得るってのはどこの世界でも通じるであろう共通的な手法だから。

 

 

 

 

 

「じゃ、今度こそ本当に帰るわ」

「あぁ…」

 

 本日2回目の見送り。ただ今回の見送りはヴィータだけ。2回目だから大勢はいらないってことではやて達には遠慮してもらった。

 

「なぁ、リン」

「うん、どうした?」

「おまえは何でそこまでしてくれるんだ?」

「そこまでって?」

「アタシはおまえとの勝負に負けた。だからアタシは色々と覚悟してたのに、おまえははやてを治そうとしてくれたり管理局にアタシ達の事を内緒にしてくれたりと…何でだ?」

「何だ、そんな事か…」

 

 思わず溜め息を吐いてしまう。

 

「はやての事もそうだけど、おまえらはなんだかんだで悪い奴じゃなかっただろ? だから何とかしたいって思うのが人情ってものさ。納得いかないんだったら簡潔に述べてやろうか?」

「?」

「つまり、お人好し」

 

 たったの4文字だけど、これ以上にないぐらい今の俺を表した説明だと思う。ヴィータもその単語に呆気にとられていたが、言葉の意味を解したのか小さく笑った。

 

「くっ、くくっ――た、確かに簡潔でわかりやすいな」

「だろ?」

 

 2人で笑う。これで互いに命を賭けた戦いを繰り広げた仲だと思う奴はいないんじゃなかろうかってくらいだ。

 

「さて、これ以上はさすがにマズイから帰るわ。またな、ヴィータ」

「またな、リン」

 

 共に無意識の内に発した、再会を望むひと時の別れの挨拶。

 浮かべる表情も柔らかく、本来は敵同士でありながら敵意も抱かない。

 その事実に俺たちはは気付いていない。俺たちにとって互いに許せない奴でありながら、心許せる奴だから。

 

 

 

 

 

「鈴君からまた他の(ひと)の匂いがする! しかも複数のっ!!」

「落ち着けなのは!! つうか何で服を脱がす!?」

「もうこうなったら私の匂いを直接肌に擦り込むの!! 他の(ひと)の匂いが消えるまで!!」

「わけのわからんことを――って、やめろ!? 服を脱ぐな!! パンツを脱がすな!!」

「■■■■!?」

 

 なのはの病み具合はナリを潜めただけで治ってないようです。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『ユーノ』

 

 

 最近は時間の流れが早い気がする。気が付いたら、あれからもう数日も経ってるんだからそう思うのも無理ないかな。

 

「――以上が無限書庫からの調べで得られた情報です」

 

 静かな室内で、僕の報告が終わる。

 

 ここは管理局のセーフハウス。つまりリンディさん達の部屋。

 以前から頼まれていた無限書庫での情報収集が終わったのでこうやってみんなに報告してるわけ。 ここに居る面子はリンディさん達管理局の人と僕らいつものメンバー。それぞれに行き渡った纏めた資料のコピーと真剣に睨めっこ。

 

「鈴、今のを聴いての感想を聞かせてくれ」

「厄介の一言」

 

 クロノの問いに鈴は簡潔に答える。厄介っていうのには僕も同意する。

 

 闇の書――本当の名は『夜天の魔導書』

 

 かつては技術や知識を研究のために収集して記録するデバイス。

 しかし過去の誰かがこれのプログラムを改変したために本来の機能が変質。それにより停止や封印が不可能となり、完成後はただ破壊の力を振るうだけの危険物と化す。

 しかも宿主の命はその場で終え、闇の書そのものは次の持ち主に転生と迷惑以外の何者でもない。

 

「ねぇユーノ、あのヴォルケンリッターの連中もその事実を知ってるの?」

「さすがにそこまでは…でも連中が本来の名前ではなく、闇の書って呼んでる事から知らないのかも」

「プログラムの改変の影響を受けたのはあの人達も同じってことでしょうか?」

「言ってみれば大元だからね、その可能性は高いと思うよ」

 

 ユーノのその言葉を最後に室内は再び沈黙に包まれる。そしてリンディさんが立ち上がり、今後の方針を一同に伝える。

 

「さてと…ユーノ君、アルフさん、ご苦労様です。私達の方針は今のところ変わりありません。連中の足取りを掴み、闇の書の主を見つける事。そして連中の逮捕です。最近は動きが無くなって足取りを掴むのが難しくなってますが、私達はできる事を精一杯やりましょう。では以上でミーティングを終了します」

 

 一気に空気が弛緩し、各々が動き出す。

 なのは達は女性同士で集まって何やら話し合っている。そして僕達、男連中も自然と集まる。

 

「それにしてもこれだけの資料をよく集められたな」

「中々に骨だったよ。クロノも時々手伝ってくれたし、アルフなんか途中で投げ出しそうになってたんだよ」

「やっぱりあいつはミスキャストだろう…」

「それに協力してくれた人もいたしね」

「誰?」

「僕の知り合いだよ。リーゼアリアとリーゼロッテ。僕の執務官研修の担当だった人、ギル・グレアム提督の双子の使い魔さ」

 

 ちょっぴり誇らしげに語るクロノだけど、僕は…ちょっと遠慮したい人たちだな。

 出会って早々にクロノで遊び、僕に至っては捕食者のような目で見られたりと出会いがしらのインパクトが強かった。

 その点、グレアム提督は普通に良い人そうでよかった。

 

「とにかく、俺にとってこの情報が得られたのは助かるな」

 

 また資料に目を通しだす鈴。

 

 鈴は何かを隠している。

 そう感じた時と連中が動きを見せなくなった時はほぼ同じ時期。管理局のみんなは気付いていないけど、付き合いの長い僕達にはわかる。

 多分、鈴は連中と何らかの関係性をもっている。

 なのは達はここぞとばかりに追求したけど、鈴は後でちゃん話すと言ったまま黙してる。鈴の事を信用している僕達はとりあえずそれで納得しておいた。

 彼だったら悪い考えは持たないだろうしね。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『シグナム』

 

 

 ここは小さな公園。そこに私と鈴は居る。

 

「ここに書かれている事は事実なのか?」

「恐らくね」

「だとしたら私達のしていた事は…」

「はやての寿命をさらに縮めるだけだな」

 

 その言葉にガツンと頭を殴られたような衝撃を受ける。

 彼とは以前にある約束を交わしている。それは管理局で調べた闇の書に関する情報を与えるから、それまでは魔力の蒐集を控えてくれという約束だ。

 決闘に負けた上に貸しのある私達はこれを承諾せざるをえなかった。そしてその結果が今のこれだ。

 何という…私達は道化もいいところではないか。

 

「それで、これからおまえらはどうするんだ?」

「……」

 

 答えない――答えられるはずがない。

 主を救う手立てと信じてやってきたこと全てが否定されてきたのだ。進むべきだったはずの一筋の道が消え、絶望の淵に立たされた私達には何ができるというのだ。

 

「で、提案があるんだが…素直に管理局の助けを借りないか?」

 

 鈴が何を言ってるのか理解できなかった。

 

「別にあんたらを売るってわけじゃないぞ。ぶっちゃけ俺たちに出来ることなんてたかが知れてる。だったら素直に助力を求めた方がはやてを助けられる可能性が高まる。さすがにあんたらは無罪放免ってわけにはいかないだろうけど、今の担当している管理局員は信用できる人だから悪いようにはしないはずだ。俺もちゃんと口利きするからさ」

「……」

「シグナム達は『夜天の魔導書』と共にプログラムの改変の影響を受けてるんだろ? だから『夜天の魔導書』の記憶が思い出せない。だからシグナム達だけでどうにかするのは難しいぞ?」

 

 その通りだ。

『夜天の魔導書』という言葉には懐かしさを感じる事はあるものの、肝心の記憶・記録が私達には無い。

 もし仮に残っていたのであれば私達だけでもどうにかなったのかもしれない。

 いや、ここで『もし』を語るには遅いか。

 

「どうする?」

 

 手元のコピー用紙を折り畳んで空を仰ぐ。

 頭では様々な思考が入り乱れ、混雑とした状態ではあるが、この胸中にはすでに答えを出している。

 落とし処は――はっきりとしておかねばな。

 

「私個人としてはその提案には乗りたいところだ。だがひとまず保留としよう。みんなに今回の事を相談した上で後日返答させてもらう。それでもいいか?」

「ああ、かまわないさ」

 

 快諾を受けた私に、鈴は続ける。

 

「はやての容態はどうだ?」

「今のところ、容体は安定している。突発的な発作も起こらずに調子も良さそうだ。ただ…」

「ただ?」

「最近、夢を見るそうだ」

「夢?」

「そうだ。深い――まるで生きているような深い闇に呑まれる夢だとか…」

「…えらく抽象的だな」

「どう思う?」

「……はやても何気に潜在魔力資質は高い。そういう人は総じて夢にも何らかの影響が現れる。例えば予知夢とか。だけどその内容だと判別がつかん」

「…そうか」

「まぁ夢は夢。そう悲観することもないさ。さて、これ以上は管理局にばれるかもしれないからこれで帰るわ。シグナムはどうする?」

「私は……もう暫くここにいるさ」

「そうか。んじゃ、また後日」

「あぁ…」

 

 ベンチから立ち上がり、公園を去っていく鈴。それを見届け、私は空を仰ぎながらこれからの行く末を思う。

 お優しい我が主は間違いなく怒るだろう。

 交わした約束を守れずに人を傷つけた。だが主が自身を犠牲に私達との生を望むように、私達は自身を犠牲にしてでも主には生きていてほしかった。

 これからどう転ぶのかはもうわからない。ただ私は主の無事を望むのみ。たとえこれまでの生活を犠牲にするようになるとしても。

 

「ここまで…なのだな…」

 

 この明るき空は今の私とは対照的だな。

 

 その夜、私はヴォルケンリッター達――そして主に全てを明かした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「…なのは、大人しく武装を解除し、直ちにお家に帰りなさい」

「ねぇ、誰と会ってるの? ねぇ、誰の匂いなの? ねぇ、私じゃダメなの? ブツブツ…」

「………………OK、俺も男だ。お詫びになのはの望みを一つ叶えよう。だから武装を解除せよ」

「私のモノになって(キリッ)」

「ハードル高すぎ! せめて現実的なものにして!」

「じゃあ明日一日、私に付き合ってね」

「まぁ、それくらいなら…」

「はい決定。言質は取ったからね。言い逃れをしたら――ワカッテルヨネ?」

「イエス、マム!!」

 

 明日は~どっちだ~♪

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 閑静な住宅街にその者はいた。

 上下のスーツを見事に着こなし、かぶった帽子の下に見える相貌は初老の顔。

 一見しただけではただの初老の人に見える。だがその眼はただ年老いただけの老人のソレではなく、相応以上に研ぎ澄まされている事からカタギの者とは思えないような雰囲気を漂わせている。

 

 その人物はとある住宅の玄関先に佇む。玄関横に付けられた表札には『秋月』の性。

 男はそれを確認すると、何かを覚悟するように一度大きく息を吐く。そして意を決して呼び鈴を鳴らした。

 

「はい、どちらさんだ?」

 

 その人物が出るまで数秒、だが男にはそれ以上の時間がかかったように感じた。

 それも仕方ないかもしれないと男は思う。用があるとはいえ、この訪問はまるで虎穴に飛び込むような行いなのだから。

 早鐘を打つ男の心臓を、その強靭な精神力を以ってして静める。そしてそれを表に出さないよう、全力で努める。

 最後に小さく咳払いをして己の動揺を全て消す。

 

 

「初めまして。私はギル・グレアムと申します。本日は『魔女』であるあなたに用があって参りました」

「……わかった。話を聞こう」

 

 

 男の名はギル・グレアム――時空管理局所属の提督。

 

 女の名は秋月蓮――かつて裏の世において『魔女』と呼ばれた禁忌の魔導師。

 

 





このA´s編ですが、作者が当時の設定に思っていた事――いわゆる独自解釈を盛り込んでおります。

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