魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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基本、書き方が安定しないのは未熟だからです。

どうか寛大な心で以って、見逃してやって下さい。


3・眠って夢見て?

『鈴』

 

 

 夢をみている。

 

 俺はある光景を見ている。

 どこか見覚えのある青年が夜の闇に包まれた林の中で一人眼を閉じて静かに佇んでいる。見たことあるなと思い、記憶を探るもすぐに答えが出た。

 

(あぁ。こいつ、俺だ)

 

 まだ俺が『秋月鈴』になる前。『   』の名前だった頃の……。

 あまり夢で見たい光景ではないが、懐かしいなぁとも思う。

 かつての自分は魔法という強大な力に魅入られた愚かな人間の1人であった。時間の許す限り先生の魔導書を読み漁り、自分の体を省みない自己鍛錬を繰り返し、魔法のひとつひとつをその体に覚えさせていった。

 

(ほんとに無茶ばっかりやってたよなぁ)

 

 見ていた青年にようやく動きがあった。

 ゆっくりと眼を開いたその顔に浮かぶのは覚悟の表情。そして青年は魔法を発動させる。

 

「【時逆】」

 

 瞬間、青年の足元から広範囲に白く光る六角形の幾何学的な紋様が描かれた陣が広がる。

 自分の知る限り、先生にしか行使できない時間操作系の魔法。それがこの時、習得しようとしていた魔法。

 ただ、この系統の魔法は自然の……世界の摂理に逆らう魔法であるため、行使するのは大変危険であった。よって大規模な時間操作系魔法は先生の魔法の中でも禁術の1つに数えられている。

 時間操作系は術式も遥かに複雑で使用する魔力も莫大、また生物に行使すれば何かしらの反動もあるという欠陥だらけの危険な魔法。先生は絶対に使おうとも伝授しようともしなかった魔法であった。

 しかしただひたすらに力を求めていたこの時の俺は禁術だろうがなんだろうが関係なかった。だから封印されていた魔導書を勝手に紐解いて、眼を盗んで魔法を試している。

 

(やめとけって俺。身の程をわきまえろよ)

 

 当然、夢なのだから声は届かない。過去に起きたことだからどうしようもない。ただ自分の愚かさを見ているしかない。

 力を持つということの意味を本当に理解できていないあの時の自分を。

 

 そして分不相応な力を求めた結果が青年に襲い掛かる。

 

 さっきまで正常な形を象っていた陣が突如グニャッと歪み、淡い白い光は荒れ狂う魔力の暴風と化す。制御していた魔力が暴走し、辺りを暴れまわる。

 青年はその光景に驚きながらもすぐに術式を安定させようと集中していたが全く状況は変わらない。そして、青年の体に異常が起きた。

 

 青年の足先からゆっくりと上体に向かうようにして体が光の粒子へと分解されていた。

 

(今ならわかる。これ俺の魂がバラバラになってるんだよなぁ……なんかエグい)

 

 かつての自分のことなのに妙に軽い気持ちで見ている自分に苦笑してしまう。やっぱり夢だからかな。

 

 やがて青年はどうしようもないと悟ったのかため息一つ吐き力を抜く。自業自得だと呟き、やがてくる『死』を静かに受け入れていた。

 あと数分ぐらいかなと青年が考えていたその時――

 

 一人の女性が林の木々の間から飛び出てくる。

 

 見慣れた白い髪に黒い瞳。林を突っ切ったのであろう体のあちこちに葉っぱや枝が絡みつき、その白い髪も所々ハネている。

 

「――■■!」

 

 女性――先生は何か言っているが青年には聞こえてないようだった。それはそうだ、この時の俺は消える寸前。もうほとんどの五感を失っていたんだから。

 

 そして先生の必死の呼び声も空しく――

 

 

 

 ――やがて青年は儚く消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチリと瞼が開いた。ベッドから身を起こしあくびを一つ。

 

「やっぱり見たくなかったなぁ~」

 

 別に初めて見る夢ではない。だから初めて見た時ほどショックもない。けどやっぱり見たいものでもない。

 

 

 

 自分の死んだ時の光景なんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なのは』

 

 

 夢を見てるの。

 

 見たことのない服装をした同い年ぐらいの男の子が林の中で黒いお化け?と戦ってました。襲い掛かってくるお化けから男の子は必死に応戦して、時には背を向けて逃げをしばらく繰り返してた。

 やがて男の子がポケットから小さなビー玉(?)を取り出し、宙から襲い掛かるお化けに向けて叫ぶ。

 

「――  シード―― 印!」

 

 何を叫んだのかはよくわかりません。

 すると、その手からゲームとかで見るような魔法陣が広がりそれにお化けがぶつかり…お化けは弾かれてそのままどこかに逃げていく。

 男の子はそれを悔しげな顔のまま見逃し、やがて糸が切れたかのようにその場に倒れて動かなくなりました。

 

 しばらく経つとその場に一人の女の人がやってきました。

 

 白いカッターシャツに黒のパンツ姿の、見た目は二十歳ぐらいでしょうか?

 でもなにより眼を引くのはその透き通るような白い髪の毛……というよりあれは――

 

(蓮さん?)

 

 蓮さんは男の子にゆっくりと近づく。

 

「あっちの人間…か。面倒な事にならなければいいが…」

 

 そう呟いていました。

 

(あっちの人間? どういうことなの?)

 

 と考えてたら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちゃらら~♪ ちゃららりりら~♪

 

 目覚ましの音楽を鳴らす携帯を手探り、掴み損ねてベッドの下に落とした事を若干億劫に思いながらも目覚ましを止める。

 

「ふわぁ~……ん~、何か変な夢を見ちゃったの……」

 

 しっかりと見てたはずなのに内容ははっきりとは思い出せません。

 

 思い出せないのはモヤモヤしちゃいますけど仕方ありません。それよりおきて学校の準備。このモヤモヤは鈴君に構ってもらって解消することにしようっと♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アリサ』

 

 

 夢を見ていたわ。

 

 見ている光景は覚えのある過去の出来事。今よりも幼いときにあたし自身も何が起こったのかよくわからない出来事。

 今のあたしよりもさらに幼い時のあたし。小学校に入る前の頃だったかしら? 真っ暗闇の林の中を走っていた。

 その格好は寝巻きのパジャマ、とてもこんな場所に似つかわしくない格好である。

 

(えーと、たしかこの時って……)

 

 たしかこの時は自分の部屋で寝ていて……夜中にふと眼が覚めて窓の外を見てみると家から少し離れた所の林から変な光景が見えたんだっけ?

 木に覆われた林の一角が白く光っててそこから蛍のような小さな光の粒が上空に昇って消えていくというよくわからない光景。

 遠目から見てもはっきりとわかる白い光。電気の光のようなものではなく、もっとこう……蝋燭の炎の光のように幻想的で暖かそうで――儚そうな光の粒だったわ。

 

(で、それを確かめに行こうって事になったのよね)

 

 好奇心に突き動かされた部分も多分にあったけど、それよりもこの時のあたしはあの光に強く惹きつけられたんだと思う。でなきゃこんな夜中にウチの人たちに内緒で出ていかなかったはずだ。

 歩幅は決して大きくないが着実に進んでいるあたし。

 

 この視線は常に前へ。

 

 

 

 

 

 ようやくたどり着いた場所は木々の開けた場所。決して広いとは言えないがこの時のあたしには十分に広いと感じられた場所。

 見えていた幻想的な光景は無かったがあの光はこの場所から発せられていたと確信した。

 

 なぜなら、小さな光が残滓として広場の中央に残っていたのだから。

 

 さっきまで見ていたものよりも小さく、輝きも弱弱しい。それでも見ているだけでも光は暖かそうだ。そして幻想的で……儚いとさえ思える。

 幼いあたしは全く臆することなくその光に近寄り、ゆっくりとそれに触れようと手を伸ばす。そして指先が光に触れた瞬間、一際強い光を放った。

 あたしはその輝きに一瞬驚いた様子を見せたけど、光をゆっくりと両の手で包み込み胸元に抱え込む。まるで何かから光を守るように……。

 

 そして自分でもわからないがこの時はこうしなければいけないような気がした。

 

 

 

 徐々に光が納まって、やがて消えるとあたしはその場でゆっくりと横たわっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピピピピピピピッ♪

 

 目覚ましの音で目覚め、身を起こし伸びをする。

 

「ん~~! ……それにしても懐かしい夢を見たわ」

 

 あの時あった出来事は結局なんだったのかよくわからない。夢だったのかと思いもしたけどパジャマ姿で外に……あの広場の真ん中で眼が覚めたのだから夢とは考えづらかった。それにあの光は消えたというより私の中に納まったといった感じがした。現に今もあたしの中にナニかがあるという感覚が残ってる。

 

 むしろその後が本当に大変だった。

 

 屋敷に帰ってみると何人かのお手伝いさんがあっちこっちを走り回っていて、その内の1人が呆然としているあたしを見て――

 

「見つけました! 奥様ー! 旦那様ー!」

 

 と叫び走り去ってゆく。少しするとパパとママがやって来ていきなり抱きしめられた。

 

 あたしを起こしに行ってみると部屋はもぬけのカラ。屋敷中を探しても見当たらない……とたくさん心配をかけてしまったらしい。

 そのことについて素直に謝った後、いっぱい怒られた。それはもう二度としたくないと思うくらいに……。

 ひとしきり怒られた後に何をやってたのか聞かれてあたしは正直に答えるも、非現実的すぎて信用してもらえなかった。遂には夢遊病の心配までされた。

 その後もいろいろと言われたけど、もうこんな心配をさせないということで一応の解決になった。

 

「っとそれよりいい加減起きなくちゃ」

 

 窓から入り込む朝日に眼を細めながらあたしはベッドから下り立つ。

 

「鈴だったら…この話、信じるかしらね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『すずか』

 

 

 夢を見てました。

 

 見ている光景は大体、一年ほど前の出来事。

 私と鈴君が夕方、放課後の教室で向かい合っている光景。けど私は鈴君と顔をあわせず、ただ物悲しい表情のまま俯いていて。

 

(飲んじゃったんだ。鈴君の……血…)

 

 そう。この時、飲んじゃったんです。

 

 鈴君の……血を。

 

 一年生の時の出来事で一緒にいるようになった私たち4人、だけど私はその輪の中には入りません。入れませんでした。

 

 私は普通の人間じゃなかったから。

 

 

 夜の一族。

 

 

 いわゆる吸血鬼と呼ばれる種族、それが私たち一族の正体。人間社会に溶け込んで生きているといってもやっぱり迫害による不安や恐怖といった感情もある。

 

 人間じゃない。それだけで排他されるには十分過ぎます。

 

 私は他の三人から常に一歩引いた場所に、そしてその先に踏み入れない。正体がばれる事をずっと怖がってたから。

 

 そんな気持ちで過ごしている内に、恐れていたことが起こったんです。

 

 放課後、教室に忘れ物を思い出した私は急いで来た道を戻り、教室に着いてみると鈴君が左手を押さえて蹲っていた。

 慌てて鈴君に駆けつけどうしたのか聞いてみるとカッターを使う作業で誤って手を切ってしまったのだという。傍の机にはいくつかの用紙に血液の付着したカッターが見えた。よほど深く切ったのか床にも少しだけ血痕が見受けられました。

 私は持っていたハンカチと絆創膏で治療を行おうをして鈴君の傷口を――血を眼にした瞬間、血の匂いを嗅いだ瞬間にとてつもなく強い衝動に駆られた。

 夜の一族がもつ吸血衝動という本能。私も別にそれを発するのは初めてではないがここまで強烈な衝動は今までになかった。

 

 

 理性が本能をオサエツケラレナイ……

 

 

「すずか? どうしt……」

 

「ウゴカナイデ」

 

 無意識の内に魔眼が発動しました。

 言葉通り動かなくなった鈴君を余所に、私は傷口に口を近づけその血をゆっくりと舐める。口にしたその血は今まで飲んだ血などとは比べ物にならないものだった。ゆっくりと舌を這わせ舐めていたがもっともっとと言う欲求に従い歯を立て音を立てて血を吸う。

 ひとしきり吸い終わり顔を上げた私の顔に浮かんでいる表情は間違いなく恍惚だと確信できます。

 

「……ハァ♪」

 

 マダタリナイ。モット……モットモットモットモットモットモットモット。

 

 

「【覚醒】」   

 

 

 パキンと何かが割れるような音が頭の中に響いた。

 

 急激に思考がクリアになる。視界に映るのは人差し指をこちらの額に当てている鈴君の姿。

 

 あれ? 鈴君、動けないはずなのに……?

 

 あれ? ということは今のは鈴君が……?

 

 あれ? 私はいままで……何…をっ!!!

 

 思い出した! 私、鈴君になんて事を!?

 

(どうしよう! な、なんて説明すればいいの!? なんとか誤魔化す? でもどうやって!? 正直に話す? でもそれだと本当に全てのことがばれちゃう!? そうなったら今までのことが…無くなる? お友達じゃなくなる? そんなの嫌!?)

 

 思考が堂々巡りをおこす。考えれば考えるほどにドツボに嵌まる中、不意に鈴君が口を開く。

 

「あぁ~…すずか? うん、別に話さなくていいよ。隠したかったことなんだろ?」

 

 ……えっ?

 

 一瞬、鈴君の言ったことが理解できなかった。なんで?あれだけのことされて話さなくていいって。

 

「で、でも私、鈴君にあんな事を…」

 

「いや、まぁたしかに驚いたけど。さっきからすずかの顔を見るに深い事情があるんだろ? それも話すことが難しいような。だったら別に深くは突っ込まないからさ。それに友人にだって隠し事の一つや二つぐらいあっても不思議じゃないぞ」

 

「……鈴君はあんなことをした私をお友達だと思ってくれてるんですか?」

 

「むしろ俺はあの程度で友人やめるつもりはさらさらないぞ?」

 

 そう断言する鈴君の顔は微笑んでいました。

 

 ……お人好し過ぎます。優しすぎます。そんなことを言われたら甘えたくなるじゃないですか。でも今はとてもありがたくて、うれしいです。少し涙が零れそうになりましたが、グッと我慢します。

鈴君が笑顔でいるのですからこっちも笑顔で返します。

 

「今は話す事はできません。でもいつか必ず私の全てを鈴君に……いえ、アリサちゃんやなのはちゃんにも打ち明けます。そして許されるのであればその時は改めてお友達になってもらえますか?」

 

 甘えてばかりじゃいけない。自分の血に嘆くばかりじゃなく、受け入れるように強くなります。お友達を諦めるんじゃなく、自分からつくるように求めるんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃぁ~♪」

 

 うっすらと瞼を開くとこちらの額に前足を乗せる猫の姿。のっそりと体を起こす。その拍子にコロンと転がる猫を抱き上げる。

 

「おはよう」

 

 時計を見ればいつもより少し早い時間。二度寝もする気は無いので素直に起きます。窓から差し込む朝日が今日も快晴だと伝えてきます。

 

 ……それにしてもあの夢。

 

 私にとって一つの転換期となったあの日。

 

 ちょっとでも強くなろうと思い、努力してきました。おかげで交友関係も昔に比べて広まった。自分の意見、主張も述べれるようになった。もちろん夜の一族の事はばれないように。

 お姉ちゃんはそのことを不思議そうにしてたけど私は「内緒♪」と言って大事な部分ははぐらかしています。

 

 ちなみに鈴君にあの時私に何をやったのか聞いてみると――

 

「禁則事項です♪」

 

 と返された。

 ……いいんですけどね。お友達にだって隠し事の一つや二つあっても。でもなんだかくやしいです。

 でも鈴君も私も近いうちに全てをみんなに話す。なぜかそんな予感がしました。

 

 




そしてかつての文章を細々と修正していくと窺える誤字脱字の多さ。

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