A´s編の始まりです。
24・主人公に平穏は程遠い?
さてはて、様々な事を経ながらも掴み取った日常を過ごす海鳴市在住のご近所の魔法使いさん。
しかし主人公というのは大なり小なりトラブルに巻き込まれやすい者。
今回は”特”がつく程の”大なり”のトラブル。果たしてどのような事が起きるのか?
『鈴』
「やれやれ、本当に寒いなぁ」
呟きながらマフラーを巻きなおす。寒いのも当たり前。昼間のまだ陽が照る時間帯とはいえ、間もなく12月。季節ではとっくに冬に入ってるんだからな。
どうも。この海鳴市で魔法使い小学生をやっている秋月の鈴です。
あのジュエルシード事件から数ヶ月、戻った日常のありがたさを噛み締めながら過ごしてます。数ヶ月経ったといっても身の回りでは大した変化は起きておらず、まさに順風満帆といったところです。
学校ではフェイト、ユーノを新たに加えての日常。日常では魔法が加わるものの、やっぱり平和。日常とは良いものだという真理を改めて実感してます。
ただ今日はその穏やかとはちょっと違う1日になるかも。
目的地が見えてきた。目の前に建つ煌びやかな建物、ゲームセンターだ。
その入り口に立っているのは1人の少女。
長袖のシャツにジャケットを羽織ったハーフパンツ姿。変な形の首飾りをつけた赤毛の少女。その少女は俺の姿を確認すると、ニヤリと口唇を吊り上げて獰猛な笑みを浮かべる。
「逃げずに来たみたいだな。その度胸は褒めてやる!」
「お褒めに預かり恐悦至極で…」
少女の明らかな挑発を軽く受け流す。そんな俺の態度を少女は気にした様子も無く、店内に入って行き、続くように俺も少女の後を歩く。
これから赴くは戦場。俺達は敵同士。ならば互いに言葉など不要。戦いが言語なのだから。
それぞれ向かい合った筐体の前に座り、硬貨を投入する。ラウンドコール開始と共に、俺達は勝負に集中する。
そもそもこの状況は何?と思う方にザックリと説明しよう。
あれは2日前だったろうか。
学校が終わり、スーパーのタイムサービスまでの時間つぶしで立ち寄ったゲーセン。そこでこの少女がやっていた格闘ゲームに乱入、そして勝利を掴む。
すると間髪入れずに少女はさらに乱入。結果、返り討ち。それが何戦か続いたが、そろそろ時間だったので切り上げるため、適当に負けた。
すると少女は、俺が急に手を抜いた事に納得がいかなかったようで再戦を要求。俺は時間だったので拒否。少女はさらにゴネる。このままだと帰してくれそうになかったので、後日なら受けるという事で納得してもらった。
そして日取りを決め別れたのだった。
ちなみにそのせいでタイムセールに間に合わなかったため、赤毛少女には少しばかりの怒りを抱いた俺は決して悪くないはずである。
それが現在相手をしている、名も知らぬ赤毛少女との馴れ初め。
今日は休日だというのにそれを潰してまで――それもすっぽかしもせずにわざわざ相手をする俺は何てお人好しなんだろう。
ただ1つ、これとは別に懸念すべき事がある。
それは今日という休日、なのは達の誘いを断ってまでこの赤毛少女との対戦を優先してしまった事だ。
『私達の誘いを断ってまで優先する約束って何?』
あまりに理不尽な言葉に頭を痛めたものだ。赤毛少女の方が先約だったとはいえ、ここで女に会うと言うとロクでもない事になりかねなかったので適当にはぐらかした。
……ここだけ聞いてると俺って女誑しだな。
「見切ったぁ!!」
『うりゃぁ! クラークスパーク!』
K.O!
YOU WIN!
「ああぁぁーーーー!!」
「フッ、またつまらぬモノを投げてしまった」
向こう側の筐体から聞こえる悲鳴を肴に勝利の余韻に浸る。
この赤毛少女の戦い方は正に猪突猛進。攻めはかなり強いが守りが少々お留守である。ならば投げられぬ道理は無い。
普段デバイス相手に格ゲーをやる俺には人操作相手ではもの足りぬ。あいつらフレーム単位で読みきって、攻勢に出るからな。
だがそんな俺も先生には勝てない。本物のゲーマーは恐ろしいものよ。
「うがぁ! 何で勝てねぇんだ!」
勝負を切り上げ、こちらにやって来て射殺さんばかりに睨みつけてくる赤毛少女。つーかゲームでそんなマジになるなよ。
あれか? ゲームは遊びじゃねぇんだよって人種なのか? こいつは。
「次はあれで勝負だ!」
俺が黙ってるのをいい事に次の勝負内容としてエアホッケーの筐体を指差す赤毛少女。
そこまで付き合う気は無かったんだが……もしかして『やめられません。勝つまでは』ってパターンなのか、この状況?
◆ ◆ ◆
『赤毛少女』
ムカつく奴だった。
騎士にとって手を抜かれて得た勝利に何の価値も無い。
だからこうやって改めて再戦を申し込んだら結果は惨敗。男は勝ったっていうのに何の感慨も見せない。その態度がアタシをひどく腹立たせた。その後のエアホッケーではアタシの勝利に終わったから少しは溜飲も下がったけど。
その後もいくつかの勝負をやったら体を動かすものに関してはアタシの方が分があるみたいだった。代わりに頭を使うものは向こうの方が上だ。
「それで? まだ勝負すんの?」
「……いや、アタシもこれから用事がある」
これは本当だ。ついつい勝負に熱くなってしまったけど忘れてはいけない。
アタシ達の為さなければいけない事を。
「そっか。んじゃ、これで終了。解散だな」
男は早々に立ち去ろうとする。そのどこまでも淡白な反応にアタシはさらに苛立たしさを覚えてしまう。
これが言い掛かりだというのは分かっている。男はアタシの我侭に付き合ってくれてただけなんだから。
けど、このまま別れるのも癪だ。
「ヴィータだ!」
「んあ?」
「アタシの名前! オマエの名前は!?」
騎士にとって名乗りは重要。
これっきりのつもりだったから名前も別にいいかって思ってたけど気が変わった。アイツの名前は知っておかなくちゃいけない。
いきなりのアタシの声に立ち去ろうとする男は呆気にとられていたようだが、次には小さく笑ってアタシに返す。
「秋月鈴だ」
鈴…リン。うん、覚えやすい。ヘタに長い名前だったら覚える気も無くなるしな。
「また機会があれば…勝負だ! その時は負けないからな!」
「ハッ! 返り討ちにしてやんよ!」
アタシの宣戦布告に、さっきまでの淡白な反応とは違った挑発的な笑みを浮かべながら返事を返す鈴はそれを最後にこちらを振り返る事無く去って行った。
うん、やっぱりムカつく奴だ。けど……なんか憎めない変な奴。また会ったら勝負しよう。そしてアタシが勝つんだ。
それにしても……今回のではやてから貰ったアタシの小遣いはパーだ。どうしよう…
この男、秋月鈴がアタシの今後を大きく変える事を…今のアタシが知る由も無かった。
◆ ◆ ◆
『鈴』
「ただいま戻りました」
「あ、おかえり。鈴君」
「なのは、来てたのか」
「えへへ、お邪魔してます」
いつもの事なので特に気にする事もない。最近ではプレシアさんやフェイトも当たり前のようにウチに居る事もあるしね。それを俺や先生も特に咎めたりはしない。
「ん~♪」
急になのはが正面から抱きついてきた。なのは曰く、元気を補給という名目で抱きついてくる。これもいつもとは言わないが慣れるくらいされた事なのでされるがままにしておく。
と、いつもなら暫くしたら勝手に離れてくれるんだが、今日はどうした事か全然離れる気配が無い。
「どうしたんだ、なのは?」
「……する」
「へっ?」
「鈴君から…知らない
俺を抱くなのはの腕の力が強まって抱きつくというよりもはやサバ折りになっている。そしてこちらを見つめる瞳はハイライトが消えていた。
「へぇ~、鈴君は私達の誘いを断って他の人と会ってたんだ…」
ちょ、本当に…く、苦しい。
このままでは上半身と下半身が離婚してしまう。牙突された宇水さんになってしまう。ていうか匂いってアルフも真っ青の嗅覚じゃねーか!
「な、なのは…おち…ついてくれ。なのはが考えてるような事では…」
「うるさい」
何かが折れた音がした。
◆ ◆ ◆
『なのは』
と、鈴君にお仕置きをしたのが昨日。それだけでは治まらなかったから昨夜は一晩中、鈴君には抱き枕となってもらった。おかげで今の私は昨日とはうってかわって気分が良い。私が好きっていうのを知っていながら無碍にしたんだからこれくらいの役得があっても良いと思うの。
「なのはちゃん、行くよ?」
「あ、うん」
すずかちゃんの声に引き戻された私は魔法の訓練に集中する。すずかちゃんはもう魔法陣も展開していて準備万端みたいだから私も慌てて準備する。
私とすずかちゃん、アリサちゃんにフェイトちゃんはいつものように魔法の訓練をしてます。もうみんなは慣れたものだけど、知らない人からみたらどういう光景に見えるんだろう?
すずかちゃんが空に放り投げた空き缶を生成した魔力弾でこちらに向かって弾く。それに対して私も生成した魔力弾を操ってすずかちゃんに向かって弾き返す。
私達のやっている事は手の変わりに魔力弾を操ってのバレーボール。これがやってみると難しい。魔力弾の操作だけじゃなく、魔力弾で空き缶を破裂させないようにするために必要魔力の調節、的確な角度で打ち返すための臨機応変な判断力など単純なようで奥が深い。
暫くはお互い上手に打ち返してはいたけど、時間が経つにつれて制御が甘くなってきてしまい、最終的にはすずかちゃんが魔力量の調節に失敗して魔力弾で空き缶を破裂させてしまった。
「はぁ、失敗しちゃった。やっぱりなのはちゃんみたいに長時間は操作できないなぁ」
「そんなに気にする事ないよすずかちゃん。これからうまくなっていくって」
すずかちゃんのフォローをしながら、もう片方の訓練光景を眺める。
「ハァァッ!」
「ヤァァッ!」
掛け声と共に打ち合った互いの棒が乾いた音をたてる。
アリサちゃんとフェイトちゃんの2人は自分のデバイスと同じぐらいの長さに切り詰めた長物で組み手をしている。
長い間、打ち合っていたから2人の顔には玉の汗がびっしり。冬に入って気温も低い中で2人の周囲だけは暑そう。
持ち前の動きで翻弄しようとするフェイトちゃんだけどアリサちゃんは冷静にどっしりと構え、的確に迎え討つ。2人の戦績は接近戦に限って言えばアリサちゃんに分がある。出会った当初に比べれば凄い成長速度だと思う。
これが魔法を交えての中・遠距離戦になると途端に戦績が落ちるんだけどね。
「あっ…」
そうこうしている内にアリサちゃんが返した棒でフェイトちゃんの棒を弾いた事で勝負がついた。
「うぅ、今日も負けた…」
「なに言ってんのよ。魔法が無かったから勝てたのよ」
「それでも、私の方が経験は多いはずなのに…」
意気消沈のフェイトちゃん。最近、勝ち星を得られない事を結構気にしてるみたい。
そんなフェイトちゃんにアリサちゃんはさっきの私みたいに慰めと励ましの言葉をかける。私とすずかちゃんはそんな姿に自分たちを重ねて笑ってしまった。
「魔導師襲撃事件?」
「うん。昨日母さんから連絡があってね。最近たくさんの魔導師が襲われてるんだって」
フェイトちゃんのお母さん、プレシアさんは現在地球には居ません。蓮さんのお供としてミッドチルダに行ってるらしいです。蓮さんはプレシアさんを助手のように扱っているから、2人が居なくなるというのはもはや珍しくもない事。
そのたびに、フェイトちゃんは鈴君の家に泊まる事が多いから正直羨ましい。
……私達も大概お泊りが多いようなって無粋なツッコミは受け付けてないよ?
「だからなるべく魔法は使わないように、だって」
「襲われた人はどうなったの? もしかして…」
「あ、ううん。命に別状はないみたい。ただ魔力を奪われるって。犯人もまだ捕まってないみたい」
「それじゃあ、私達も狙われちゃうのかな?」
「ふふ、まさか」
それから私達は少しのお喋りを楽しんだ後、訓練を終わらせて早々に帰宅することにした。
この時、私達はみんな思い違いをしていた。
この事件はプレシアさんがミッドで起こった事件に危惧し、私達に注意を呼びかけたものだと思ってた。
だから知らなかった。この事件は地球でも起こっていたって。だからこその注意勧告だという事に。
そしてその勧告はもう遅かったって。
◆ ◆ ◆
『アリサ』
夜、あたしは自室で寛いでいたらそれは突然起こった。
《警告。アリサ様、魔力反応です》
「えっ?」
グローリーからの急な呼びかけに反応できずにいると、次の瞬間にはあたしもわかるくらいに強い魔力を感じた。窓から身を乗り出すと、外が異様な空気に包まれているのがわかる。そしてそれが結界によるものだとも。
ただその結界は普段あたしの見慣れたミッド式のものとはどこか違うようにも思えた。
「グローリー、これって…」
《はい。恐らくベルカ式によるものです》
ベルカ式。
あたしは結界のとかは苦手だから使う機会は無いけど、この結界の規模は異常だ。使い手でもよほど優れた術者でないと無理だと思う。
《アリサ様、どこか見渡せるような広い場所に出ることを推奨します》
「…そうね。わかったわ」
行儀が悪いのはわかってるけどあたしはそのまま窓から外に飛び出した。
家から離れた場所にある広めの平地に到着すると、待っていたかのように上空から1人の女性が軽やかに着地してきた。
見た目は二十歳ぐらい。長い髪をポニーテールに結んだ、整った顔立ちに鋭い眼光の女性。鎧と衣服を兼ねたような特徴的な格好。
そして一番眼をひくのはその手に握られた一振りの剣。間違いなくデバイスね。
彼女から感じる気配に警戒しながら言葉を投げかける。
「誰なの、アンタ?」
彼女はあたしの言葉に沈黙のままデバイスをこちらに突きつけ、凛とした声を発した。
「我が主のため、その魔力を貰い受ける」
◆ ◆ ◆
『女性』
「はぁ? いきなり言われてもわかんないんだけど…」
「わからないならそれでも良い。安心しろ、命までは奪わない」
以前からこの街からは時折高い魔力反応を感じてはいた。そして今日、漸くその原因を突き止めた。それが4人のまだ幼い少女だという事に疑問を抱いたが、我が主の件もあり大して驚くことも無かった。
少女はとぼけて一般人を装っているようだがこちらの方で調べがついている上に私の眼は欺けない。私の気迫を受けながら臆する事無くこちらを警戒し、いつでも動けるように身構えているその姿は明らかに一般人のソレではない。何らかの訓練を受けている者だ。
「いや、だから…」
「ハァッ!」
大きく跳躍するように踏み込んでの一閃。
少女の驚愕は一瞬だけだった。次の瞬間には私から離れるようにして後方へ大きくバックステップ。
この動き、やはり一般人ではなかったようだ。私も追う様に追撃の一閃を放つ。
「グローリー!!」
《了解》
だが私の一閃は少女の手に突如として現れた得物によって防がれた。
それは少女の細腕には余るような巨大なハルバード。それによって防がれた私の刃がギリギリと音を立ててせめぎ合う。
思った以上に力のある少女との鍔迫り合いに埒が明かないと判断し、そのまま後ろへ跳んで後退して再び構える。
「グローリー、お願い」
《了解。甲冑、装着》
少女の声と共に現れる魔法陣。それは私達と同じベルカ式のモノだ。それだけでも驚く事だったのに少女の姿を見てさらに驚かされた。
少女の額に巻かれた鉢金。動きを阻害しないよう最小限に覆われた上半身の胸当て。腰から足元を覆うように広がる衣。そして左手――いや、左腕を覆いそうなほどに大きな白銀の手甲がこれがまた眼を引く。
幼い身でありながら悠然とした姿。その姿形は、そう――
「騎士…」
「名乗った事も無けれりゃ思った事も無いけどね」
私の思わず漏れ出た呟きにも少女は律儀に答えてくれた。
手にした彼女のハルバード型のデバイスを大きく振り、小さな風を巻き起こしながら切っ先をこちらに向ける。
その巨大なデバイスに振り回されている様子は無い。その得物を扱い慣れている証拠だ。
構え直した少女の姿を見て私も改めて構え直す。緊迫した空気の流れる静かな空間の中、少女の言葉がよく聞こえる。
「…で、よければ名乗ってもらえないかしら? 辻斬りさん」
自分の失態を恥じた。
自分は騎士で彼女も騎士。
なればこれから行う
恐らく今の私の口元は小さく吊り上っているだろう。だが仕方あるまい。この溢れる高揚感、抑えきれないのだ!
「我が名は…『烈火の将』シグナム。オマエは?」
「アリサ・バニングス。ただのベルカ式を使う魔導師よ」
アリサ・バニングス。その名、覚えておこう。
なればこの
◆ ◆ ◆
『鈴』
「くそっ! この結界、どうなってやがる!」
「恐ろしくっ! 堅いねっ!」
「これは…ミッドチルダ式じゃないね」
眼の前に張られた結界に難儀しながら顔を顰める。事の起こりは少し前。
ユーノとアルフの帰りが遅いんでちょっと迎えに行ってたんだが、念話で確認してみたらこいつら思った以上に遠くにいたもんだから時間が掛かった。
漸く見つけて帰ろうと思ったら急に魔力の反応。急いで戻ってみればこの結界。結界内部に入れないのだ。
誰だか知らないがどう考えても魔法の所業。それもベルカ式という、アリサ以外の使い手の仕業。そんな知らない奴が結界を張る理由。少し考えればすぐに分かる。
俺達、魔法を扱う者に用事だ。それも現在、結界内部に居るだろうなのはとフェイトにだ。
そう考えると、思考は悪い方向に行ってしまう。2人の安否を確認したいが結界によるものか、内部と外部では念話が通じない。
ならば結界を破壊しようとするもうまくいかず。かなり優秀な奴が張った結界なのだろう。
「ユーノ、アルフ。結界全部を壊さなくてもいい。穴を空ける、もしくは内部に転送できないか?」
「転送は無理そうだけどアルフと協力すれば穴を空ける事はできそうだよ。けどすぐに閉じると思うよ」
「じゃあ、一瞬でもいい。空けてくれ。俺が中に入る。そして2人の安否を確認する」
「わかった。気をつけて」
「2人の事、頼んだよ」
「あぁ」
ユーノが結界の表面に魔法陣を展開させる。
それによって部分的に結界の強度を下げ、アルフの結界破壊の拳打による一撃によってガラスが割れるようにして小さな穴が空く。
すかさず穴に飛び込み、潜り終えると同時に結界の穴は閉じてしまった。それは退路が絶たれたという事だがどうでもいい。今は2人の安否が気になる。
人の気配が無いせいで余計に広く感じる街並みの道路を駆けぬけた。
感じる魔力を頼りに暫く走っていると轟音が耳に届き、粉塵が巻き起こっているのが遠目に見えた。俺は更に速度を上げて走り続ける。
目的地に近づくと漸くはっきりと視界に入った。
広い道路のほぼ中央に立っているのは見た目赤いの一言に尽きる人影。
ただし、後ろ姿なので顔も性別もはっきりとはしないが結っている長い髪の毛とスカートから女の子であると予想した。さらには手に持ったハンマーのような物から魔導師関係の奴だとも。
そしてその少女の向いている方向の先、そこには――
倒れ伏しているなのはとフェイトの姿。
共に纏っているバリアジャケットは損傷が激しく、それだけでダメージの大きさが窺える。傍らに転がるデバイスはそれよりもさらにダメージが大きいのが分かる。
レイハさんは大半に罅が入り、少しの衝撃で分解しそうな程。バルディッシュに至っては柄の部分から折れており、これまた罅だらけだ。
傷だらけの大切な人。ピクリとも動かない大切な人。その光景から2人の最悪な未来を想定してしまった。
だから瞬間的にこみ上げた怒りに身を任せてしまう。
「うぉおおああああああああッ!!!!!」
【強化】によって上昇した身体能力が爆発的な突進力を生み出す。少女は俺の雄叫びによって漸くこちらに気付いて振り向こうとするがもう遅い。
このまま少女を撃ち抜こうと拳を振りかぶる。
「しょうげ――き…?」
「えっ?」
振り抜こうとした拳が少女の眼前で止まる。否、止める。同時に構成していた術式も一瞬で霧散したので魔法も発動しなかった。
なぜなら討とうとした少女が見覚えのある奴だったからだ。
それもつい先日、勝負と称しながら遊んだ奴。
「おまえ、ヴィータ?」
「テメェは…リン…」
ご近所の魔法使い達の”特大なり”の一幕は再び始まります。
どこかに抜けがあるような文章。