魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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この人たちはこういう事もやってるよっていう話。

正直、あってもなくても変わらないお話ではある。


番外・大人って大変だよね

 

 

「ふぁぁ~…おはよう、母さん…」

 

 早朝、眠たい眼を擦りながら居間へとやって来るのはフェイト・テスタロッサ。

 寝起きだから髪は所々がハネて着ているパジャマもヨレヨレである。プレシアと和解する前の彼女はこの辺りをキッチリしていた筈だが、望んでいた母との暮らしに充実感を得て気が抜けたのか少し怠惰になってしまったようだ。

 

「…? 母さん?」

 

 いつもなら返ってくる返事が無い。

 代わりに狼形態のアルフが居た。口に何やら紙を銜えてフェイトに差し出してくる。その紙には見慣れた彼女の母の字で書かれていた。

 

 

 

『フェイトヘ。師匠から急な要請が入ったので2日ほど空けます。話は通してあるからその間は師匠の宅で過ごしなさい。あまり鈴に迷惑をかけないようにね』

 

 

 

「そっか、母さん居ないんだ…」

 

 少しの間といえど、会えないのはフェイトにとってはやはり寂しいのだろう。

 しかしその反面で大人の居ない鈴の家で過ごす2日間に――夏休みのお泊りというイベントにちょっぴりの期待に胸を膨らませている。何時の時代も子供にとって『お泊り』というイベントは楽しみなのだ。

 

「なら早速、準備しないとね」

 

 アルフも頷いて肯定の意を示す。返事に満足したフェイトは身支度を整え、再び自室に引き返すのだった。

 

 

 

 

 

「こんにちわ~、お邪魔します」

『邪魔するよ』

 

 フェイトがやって来たのはお昼の時間帯の少し前。玄関で出迎えたのはこの家の居候ユーノ。そのまま居間に通され、鈴にもあいさつをする。

 鈴は昼食の準備でサヤインゲンの筋取りをしていた。

 手つきは手馴れたもので、そこら辺の主夫にも負けない速度と正確さだ。フェイトはそんな主夫の姿に鈴は生まれてくる性別を間違えたのかなと偏見たっぷりの考えをもった。

 特にやることも無いからとフェイトは鈴の手伝いをする。一方でアルフはユーノとゲームに興じる。最近はこの2人、妙に仲が良い。お互い動物として過ごす事が多いから波長が合うのだろうか。

 どうでもいい話だが、この2人は動物形態の時に近所の野良犬や野良猫を統括していたりする。本当にどうでもいい話ですね。

 

「フェイトもアルフと一緒に遊んでて構わないんだぞ?」

「ううん。お邪魔になってるんだからこれくらいの事は手伝わないとね。鈴みたいにうまくできないけど」

「気にしなくていいのに」

「大丈夫だよ。それにしても蓮さんと母さん、どこに行ったのかな?」

「夜中に出てなんか国外に行ったみたいだぞ」

「蓮さんのお仕事?」

「さすがにそこまでは聞いてないな。あの人がフラッと居なくなるのはいつもの事だしな」

「母さん、危ない事をしてなければいいけど…」

「ま、大丈夫だろう。たとえ危ない事をしてても先生がついてるんだし、プレシアさんも修羅場を知ってるんだから」

「…うん。そうだよね」

 

 そんな穏やかで平和なひと時。

 そんな穏やかな一面とは裏腹に、件の大人2人は――

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「プレシア、もっとスピードを出せ! 追いつかれるぞ!!」

「これでも限度一杯まで踏んでます!!」

「■■■■(スラングな言葉)!!」 

 

 

 国外で田舎マフィア相手に銃撃戦&カーチェイスを繰り広げていた。

 

 

 

 

 

 場所は変わって、ここはとある街のとあるBAR。

 その店の隅のほうのテーブルで2人は晩酌をしている。

 たださっきまで追われていた2人であるが、蓮のほうは平然と注文した酒のグラスを傾け、プレシアのほうは机に突っ伏したまま傍らの酒に手をつけずピクリとも動かない。どうやら心身ともに憔悴しきっているようだ。

 

「どうしたプレシア、呑まないのか?」

「……何で師匠は平然としているんですか?」

「慣れているからな」

 

 どちらもそれなりの修羅場を潜ってはいるようだが、この辺に肝っ玉の違いが出たみたいだ。

 

「というかおまえが弟子だった時にも同じような経験をさせた事があるだろうが」

「あれは師匠がそう差し向けたんでしょうが!」

「うん? そうだったか?」

「白々しい…」

 

 プレシアも漸く顔を上げ、出された酒に口をつける。未だにその顔には疲労感が見受けられるが。

 

「それで、目的の物は得られたんですか?」

「ああ、これだ」

 

 そう言って蓮がポケットから出したのは、500円玉サイズの小さなコイン。ただ硬貨と違ってその表面に刻まれたのは幾何学な紋様。

 

「これは……機能は死んでいますがロストロギアですね?」

「正解。さすがだな」

  

 今回の蓮が国外までやってきた目的はコレ。

 蓮は骨董品収集コレクターである田舎マフィアを相手に、このロストロギアを手に入れようとしていた。

 金銭による正当な取引で手に入れようとしたが、その際持ち主のボスが蓮にセクハラを働いたために蓮の怒りを買って殴られる。当然ボス怒る。そして追走劇の幕開けである。

 地球は魔法文化も無く管理外世界に位置する世界だが、稀にこういった本物の物品が存在する。蓮は時折そういった本物を見つけだし、調べるという事が多い。それは彼女が長年、ずっとやってきた事でもある。

 

「しかしこれにはもう魔力も感じませんし使えませんよ?」

「使うつもりは無い。私が知りたいのはその中身、使われている技術だ」

「それを知ってどうするんですか?」

「……さぁな」

「……追求しても?」

「秘密だ」

 

 蓮はコインを再びポケットにしまいこんで酒を呑み始める。怪訝には思ったプレシアも蓮に倣って酒に口をつける。

 そしてふと思い返す。

 

(そうだった。師匠はこういう人だった)

 

 プレシアが思い返すのは、弟子入りした当初の記憶。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 まだプレシアが大魔導師と呼ばれるはるか前、彼女は魔導師としての成長の壁に当たっていた。

 周りからも優秀という評価を一手に受けていた彼女であるが、その頃は何をやってもうまくいかず、やがてその悪循環故に自信を喪失しかける。

 そんな時に偶然、一目だけだが蓮の魔法を見る機会があった。

 その魔法はミッドでも知れ渡っているごく一般的な魔法だったが、見る人が見ればその実とんでもないレベルで行使されているのがプレシアにはわかってしまった。

 

 そしてそれはプレシアを魅了するには十分であった。

 

 その後、プレシアが彼女を探す日々の始まりである。白髪に黒瞳の女性という特徴だけで探し始めるが、当然ながらそう簡単な話ではない。一般的に収集可能な情報を漁っても人の噂を頼りにしても見つからない。

 彼女はもてる力を尽くしてついには彼女の名前がカレンだとわかる。そして闇――いわゆる裏世界の住人だとも。

 ちなみにカレンというのは蓮の当時の名である。

 

 長い時間をかけ、ようやく出会えた時にプレシアは感無量と思ったほどだ。そしてプレシアの開口一番。

 

『わ、私を弟子にしてください!』

 

 カレンはこの時、ポカンとした顔だったがすぐに大爆笑。そしてすぐに弟子入りを承諾した。その呆気なさは逆にプレシアの方が戸惑ったぐらいだ。だから簡単に承諾した理由を聞いてみた。

 

『探そうと思って私を探した。私に辿り着いた事に敬意を表して、だな』 

 

 裏を返せば、カレンに辿り着くのは困難を極めるという事である。

 それはそれとして、プレシアは弟子入りの際にいくつかの条件を提示される。

 

 決してカレンの名を世に出さない事。

 

 カレンのヘタな詮索はしない事だった。

 

 他にも諸々があったが、それらを受け入れプレシアはカレンの弟子として過ごす日々が始まった。

 既存の魔法・技術の画期的な教え。

 高レベルの魔法の行使の仕方・心構え。

 今まで習ってきた事はなんだと思うほどのレベルではあったが、カレンは既存の魔法技術以上のものを教えることは決してなかった。

 プレシアはカレンが扱う彼女独自の魔法体系を教えてほしいと願い出た事もあったが、決して受理される事などなかった。

 それからのプレシアはスランプが嘘のように実力を伸ばす。師弟の過ごす日々は暖かく、たまに危険な出来事も経験するが概ね良好ではあった。

 

 そしてプレシアとカレンの出会いが唐突であったように、別れも唐突であった。

 

 いつものようにカレンの住居に訪ねると、そこはもぬけのカラになっていたのだ。昨日まであった生活臭は一夜で消え、残されていたのは一通の手紙。

 

『ワケあってこれ以上の師事は無理となった。元気でな  カレン』

 

 随分と簡素であっさりとした別れであったが、プレシアは心のどこかで納得もしていた。

 彼女が裏世界の人間だという事もあり、別れはこういうものになるだろうと予測していたからだ。

 

 こうしてカレンとプレシアの師弟としての日々は終わり、その教えはプレシアを大魔導師という称号へと押し上げたのであった。

 

 さらに後、プレシアは知る。

 

 カレンという存在が『魔女』と呼ばれ、禁忌ともいえる存在であることを。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「フフッ」

「何だ? 急に笑い出して」

「いえ、昔を思い出しまして…」

「あ~、懐かしいな。あの頃のおまえは弄くりがいがあったのになぁ」

「師匠には何度、泣かされたことか」

「私なりの愛情表現だ」

「わかってますよ」

 

 プレシアと蓮。互いに微笑み合い、今一度グラスを鳴らし、傾ける。

 

 かつて共に過ごした日々を肴に二人の夜は過ぎていく。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 さて、海鳴市の平和な夜はというと…

 

「「「はやくwはやくwはやくw」」」

「うっせぇ! 黙って待ってろ欠食児童共がぁ!!」

「アタシは肉!」

「僕は野菜たっぷりなもの!」

「私も!」

(こいつらっ!)

 

 鈴は夕食として、季節に合わない辛さを極限にまで上げたチゲ鍋を作り上げた。

 今回に限り、お残しを許さなかった鈴の所業によって秋月家は混沌の場と化した。

 

 今日も彼の家は平和である。

 

 




必要な話でもなかったので、パッと終わらせてます。

じゃあ書くなよって突っ込みはしないでもらえるとありがたいです。

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