その後、一日たたないとPCに触れないという妙なサイクルをしてます。
つまり・・・作品に変なとこがあっても、修正できずに一日中晒し上げの状態(泣)
『すずか』
今日のお天気は雲一つ見当たらない快晴。頬を撫でる風は強い日差しの熱を和らげる程度の心地よい風。ちょっと強めに吹いた風がワンピースのスカート部分を揺らす。
私、月村すずかは臨海公園にて人を待っている。待ち合わせよりも少し早い時間にも関わらず、その人はやって来た。
「あれ? もしかして待たせてしまったか?」
「ふふっ、そんな事ないよ、鈴君」
私達を支える、大切な人。
事の始まりはお姉ちゃんがくれた映画のチケット。つい最近、公開されたばかりのラブロマンス映画。テレビとかでも告知が頻繁に行われたこの夏期待の新作と掲げられた映画。どんな経路で手に入れたのかは不明だけどこれを2枚、私にくれた。
『これでデートの口実ができるでしょ? そしてあわよくば…』
ヌフフと不埒に笑うお姉ちゃんを魔眼で無理矢理黙らせる。私の魔眼の力はお姉ちゃんでも簡単には抵抗できないほどに強くなってるから、こういうお仕置きの時にはすごく重宝する。
それはおいといて、お姉ちゃんの言おうとしてる事の先はわかります。
あの事件からひと月以上、経つけど……まだなんです。
私と鈴君、その、キ、キス…が……
中々、2人きりになる機会が無くて、そのまま日々が過ぎていって私もちょっとばかり焦ってしまう。そんな時にお姉ちゃんが与えてくれたこのチャンス。絶対に逃しません!
このデートを機に鈴君とのキスを! あの2人との遅れを取り戻すんだから!
えっ? 『夜の』計画はどうなったのかですか?
……ワタシノログニハナニモアリマセンヨ。
「で、見る映画ってどんなの?」
「これを…」
「何々、『恋する乙女は片手で竜をも殺す』? ああ、CMとかの…」
「はい。最近、話題のラブロマンスなんだって」
「そ、そうか。殺伐とした題名でラブロマンスって掲げる辺り、ある意味で初見殺しっぽいな」
「…もしかして苦手だった?」
「ぅえっ!? そ、そんな事ないぞ、うん。じゃ、じゃあ時間もアレだしそろそろ行こうか!」
「うん!」
何だか戸惑ってたみたいだけど、鈴君はすぐに行動を開始します。私も鈴君の隣に立って歩く。
まだ時間は午前。今日1日、この2人っきりの時間を存分に堪能させてもらおう。邪魔者も入らないように手は打ってあるし。
というわけで早速ステップその1として、手を繋いでもらう事にしよう。
◆ ◆ ◆
一方その頃、高町家付近の上空にて。
「3人とも、そこを退きなさい」
「そうだよ。私達の邪魔をしないで。ユーノ君、この結界を解いてよ」
「ごめん、なのは。それはできないんだ」
「すまないねぇ、2人とも。でもアタシの報酬の骨付き肉のため……ここを死守させてもらうよ」
「ごめんね。けど…私はすずかには逆らえないの。怖いから…」
互いに向かい合うのは、共に絆を育んでいる5人。しかし戦場のように漂う緊迫した空気はそんな絆など微塵も感じられない。
対峙している理由は簡単である。
すずかの抜け駆けを察知したなのはとアリサ。邪魔されないようにすずかが打った手はユーノ、フェイト、アルフという3人の抑止力。
「「「「「……」」」」」
各々がデバイスを、バリアジャケットを、騎士甲冑を展開する。
やがて――
「「往生しなさいっ!!」」
「「「返り討ちっ!!」」」
アホらしい戦いが始まった。当人達にとってはひどく真面目だが……
◆ ◆ ◆
海鳴市都心部に到着し、早速映画館に入る。
話題となっているだけあって既にたくさんの人たちで賑わってるみたい。下手をするとはぐれてしまいそうな人波だけど、私の右手に鈴君の温もりを感じている間ははぐれるなんて事はありえない。
係の人にチケットを渡して漸く入場できた。席はちょうど真ん中辺り。特に苦も無く映画を見られる絶好の場所。
暗くなる館内、隣に座る鈴君の手に私の手を重ねたまま、一緒に映画を堪能する。
えっ? 子供だけで入れたのかですか?
大丈夫、ちゃんと係の人の
『人の恋路を邪魔する奴はぁ! 馬に蹴られて地獄に堕ちろぉ!!』
『ねだるな、勝ち取れ! さすれば与えられん!』
『好きだぁー! サラ! 愛しているんだ! サラァー!』
(バトルがあってロボットが出て恥ずかしい告白……ラブロマンスとは一体、何だったのか…)
「……素敵」
(えっ!?)
映画を堪能した後は近くのファーストで少し遅めの昼食を。
「たまにはこういった物が食べたくなるから不思議だね」
「まぁな。けど俺は作るのが面倒な時とかに結構利用するぞ」
「家事を全て一手に引き受けてるからね」
「かと言って先生にまかせるとなぁ。ユーノが居るからマシになったけど…」
「小学生主夫ってところ?」
「何てうれしくない称号だ…」
立ち寄ったゲームセンターでクレーンキャッチャーに興じてみたり。
「人形2体、取ったどぉぉぉ!!」
「やったね♪ けどこの人形、何処かでみたような…」
「俺もだ。何処だったかなぁ?」
『シャンハーイ』
『ホラーイ』
「「…………えっ?」」
露天商のアクセサリーを見てみたり。
「見てみろよすずか。クロスがたくさん並んでるぞ」
《それは聞き捨てなりませんな。私は2~3千円の額で収まるほど安くはないぞ、若造》
「クロス…それってあなたは値がつく程度って事になるよ?」
《ああああぁぁぁぁっ!!》
「今度、クロスをヤフオクにでも出品してみるか? どのくらいの値がつくか」
《やめてくだされい! それで生半可な値で落札されると私は…私はぁぁぁっ!!》
「必死すぎる…」
鈴君との楽しい時間を満喫する。そしてどんなに楽しい時間も終わりは必ずやってくるんだね。
◆ ◆ ◆
一方その頃。
「敵の砲撃を確認!」
「防御魔法展開! 総員、対ショック、対閃光防御っ!!」
「駄目っ!! 間に合わないっ!!」
「ディバィィンバスタァァーーッ!!」
「ハルバードランチャー、セット!! ファイヤッ!!」
◆ ◆ ◆
「いや~、遊んだ、遊んだ」
「クスッ、そうだね」
夕日に照らされる臨海公園、ここに私達は再び戻ってきた。夕日を浴びながら体を伸ばす鈴君を見るに、今日は本当に楽めたみたい。私の方も心から楽しむが出来た。
楽しめたんだけど…内心はちょっぴり焦ってる。思い起こせばデートの最中も何度かいい雰囲気になっていたはずなんだけど、あまりの楽しさに当初の目的をキレイに忘れてたの。
そして気がつけばこんな時間。せっかくのこのチャンス、これを逃したら次はいつになるのかわからない。
そんな風にモヤモヤとした気持ちを抱えていると不意に頬に冷たい感触が。
「ひゃうっ!」
「難しい顔してどうしたんだ? ほれ」
鈴君はその手に持ったオレンジジュースを差し出す。さっきの冷たい感触はコレだった。そのまま素直にジュースを受け取る。
「あ、ありがとう…」
「ん。それで、どうした?」
「えっ? い、いや何でもないよ! 本当に、えぇ」
「そうか?」
言える筈がないよ。
「それにしても…」
「?」
「あれから一月以上が経つんだな。早いもんだ」
「そうですね…」
ベンチに座った私達はそれぞれの飲み物で喉を潤す。
あれというのはもちろんジュエルシード事件の事。私達の生活を大きく変え、私達の絆を新たに結んだ切欠。各々の『強さ』を新たに問いかけた日々。
「鈴君…」
「うん?」
「私は、強くなれたのかな…?」
◆ ◆ ◆
『鈴』
「なってる」
全くの躊躇いも無く、即座に返した俺の返答にすずかはポカンとした表情になっていた。
「戦闘力云々だけじゃない、人としてもすずかは強くなっている。それについては十分に自信を持ってもいい、断言しよう。つーか何? まだ自信を持てないのか? フェイトに勝っておいて」
「うぅん、そういうのじゃないんだけど…」
「んじゃ何?」
「あの事件の後のなのはちゃんとアリサちゃんは…何と言うのかな…」
「ああ、なるほど」
すずかは言葉にするのを難しそうにしているが言いたい事はわかる。あの2人は例の
そしてすずかはその場に居なかったため、それに対して自身と比べてしまうのだろう。俺から言えばみんなが強くなっているから比較するだけ無駄のような気がしないでもない。
生死をかけて戦い、生み出された絆。
よく王道的な漫画であるものだけど、あれはあながち嘘じゃないなと俺も感じたものだ。なのはとアリサの戦いは飽くまでケンカとしてすずか達には認識されている。命を賭けてた、何てのは知らなくていい事だと俺は思っている。
「さすがは鈴君を取り合っての喧嘩をした2人ね」
「……」
あらためて言葉にされるとすっごい恥ずかしい。俺はそこまで上等な人間じゃないというのに。しかもあの戦いの時に拾った会話では、すずかも俺を好いてくれているらしい。
「鈴君…」
「ぅん? うおっ!?」
気がつけばすずかの顔が物凄く近くにあった。こちらを見つめてくる表情は真剣そのもので、あまりの近さに顔が赤くなってしまうのが自覚できる。
すずかは誰から見てもかわいい子だ。すずかに限った事ではないが、以前は自覚しなかった彼女たちのかわいさを改めて再認識するようになって、こういう突発的な事に弱くなってしまっている。
この赤さを誤魔化してくれる夕日に今は感謝。
「鈴君はあの2人の事が好き?」
「…好きだぞ」
「では…私の事はどう?」
「当然、好きだぞ」
「それは友達として
気がつけば退路が塞がれている。
もちろんすずかの事は好きだ。それだけじゃない。なのはだって、アリサだって、フェイトだって、ユーノだって、アルフだって、先生だって。
その中から『恋』として好きなのは?と聞かれると答えられない。
ヘタレと言う無かれ。本当にそういう事に関してはわからないのだ。しかもなまじ真剣な問いかけだから中途半端な返答も出来ない。
若干、混乱した思考をフル活用しようと没頭し、俯いていた俺の顔をすずかは両手で上げて強引に視線を向き合わせる。
「すず…か?」
「私は鈴君が好き。もちろん友達としてだけじゃない、1人の女の子として好きです」
知っていた。
けど本人の口から改めて言葉にされた事で頭の中が真っ白になる。さっきまで思考していた事が全部吹き飛んだ。
何かを言わなければと口を動かすがうまく言葉が出ない。
「すずか、俺は…その…」
「ふふっ」
俺がヘタレていると、すずかはさっきの真剣な表情から一転して悪戯っ子のような小さな笑いと表情に浮かべる。
「鈴君はみんなが好きなのね」
「へっ?」
「みんなが同じくらい好きで誰かに絞る事ができない。思っていた通りね」
「あ~」
「私もそれを知ってるよ。だから、今は答えはいいよ。私は鈴君が好き、それだけを知ってもらえたなら」
正直助かった。問題の先送りというのは日本人特有の悪癖だが今の俺ではまともな返答ができそうにないからな。
ホッとしている俺だが、すずかには続きがあった。
「そして…」
「?」
「私の想いが本物だという証明を…受け取って」
眼を閉じてゆっくりとこちらに顔を近づけてくる。すずかに両手で顔を押さえられている俺にはそれから逃げられる術などない。
そして……俺とすずかの唇が重なる――
――寸前に、背後から爆音と衝撃。そしてわずかな地響きを感じた。
あまりにも突然な出来事にビックリして俺達は背後を振り返る。
まず見えたのは周囲の歪んだ空間。いつの間にか結界が張られていたようである。そして立ち込める土煙が晴れるとそこには――
「すぅぅぅずぅぅぅかぁぁぁ…」
「スコシ…アタマヒヤソウカ…」
――アリサとなのはだ。
ただ纏う気、というかオーラはもの凄く禍々しい。
バリアジャケット・騎士甲冑は強敵相手に戦闘でも繰り広げたのか、所々が擦り切れてボロボロだ。だがそれとは裏腹にランランと輝く殺気を帯びた瞳が恐怖を駆り立てる。
「なのはにアリサ、その格好は?」
「………チッ。しくじったんですか」
あっれ~?
今、隣から舌打ちが聞こえたような。
すずかが?
ないない。気のせい、気のせい。気のせい……だよ……な?
「すずか、抜け駆けだけじゃなくユーノ達を使ってまで足止めを目論むなんて……本気のようね?」
「オマケニイマリンクントイマナニヲシヨウトシテタノカナ? カナ?」
怒り心頭のアリサ。その怒気は周囲に嵐を呼びそうな程だ。
そしてなのはは笑顔。
ただし眼が笑っていない。しかも口元はニタァと三日月を描く。目元、口元が両方備わり最凶に見える。気弱な人が見ると頭がおかしくなって死ぬようなフェイスの完成である。
対するすずかは2人のプレッシャーなどどこ吹く風。
それどころか恐ろしい行動に移した。
「何って、こうしてたよ♪」
言うや否や、さっきと同じように俺の顔を両手で掴み――
――有無を言わさず、唇を重ねてきた。
「「ああぁぁぁーーーーーーーーー!!」」
2人は叫ぶが俺の耳には入らず。
何しろ脳内は理解が追いつかず真っ白。でも何処かでこのまま天に召されろというお告げが聞こえる。
やがてゆっくりと、それでいて名残惜しそうにすずかは唇を離す。
「…ふぅ。ふふっ、とうとうやっちゃった♪」
小さく悪戯っ子のように笑うすずか。しかし湧き出る羞恥心は隠せなかったのか、夕日を浴びながらでもわかるくらいに顔が赤い。ついでに俺も同様に顔が赤くなっているだろう。
「これが私の証明…」
「すずか…」
「そして、これからもよろしくね」
感じるのは気恥ずかしさとすずかの真剣な想いによるうれしさ。このまま俺とすずかの2人だけだったのなら、このまま流されて行くとこまで行ってしまいそうな雰囲気が漂う。
そう、俺達2人だけだったならな。
「「そこまでよっ!!」」
どこかで聞いたことのあるような紫でもやしな台詞の『待った』をかける2人。それによりおれはしょうきにもどった!
「あたし達を差し置いて何を2人の世界に浸ってんのよ! 鈴も鈴でデレデレするな!!」
「スズカチャンニハオハナシガヒツヨウダネ? あ、鈴君も後でOHANASHIしようね」
ざんねんおれのぼうけんはここでおわってしまった!
なのはの死の宣告で膝から崩れ落ちる。『約束されたOHANASHI』により目の前が真っ暗になる。
しかし捨てる神あれば拾う神あり。
そんな俺に守るように立ち塞がるのはすずか。その神々しくて頼もしい後ろ姿を見てすずかに対する好感度は急上昇!
女の子に庇われて情けないのはわかっているがマジで怖いんだよ!
「まぁまぁ、そもそも今日は私が鈴君を遊びに誘っただけだよ? 何処に怒る理由があるの?」
「抜け駆けって要素が無けりゃ、あたしだって此処まで怒らないわよ!」
「おまけにユーノ君達を使ってまでの徹底っぷり! そして鈴君にキスまでっ!」
「でも2人は鈴君とキスしてるよね?」
「あたしのは…その、人命救助的な…」
「私は…えっと、正気じゃなかったというか…」
途端に眼を逸らす2人。
俺のキスが奪われていたのは知っている。聞く限りではその時の俺は意識が無かったらしい(デバイスのみなさんが教えてくれた)
だから2人のやったキスというのは純粋な意味でのキスとは違う気がする。
「だったら問題ないよね?」
「「異議ありっ!! あたし(私)も純粋なキスがしたい!!」」
もうそこからは泥沼。お互いが主張・跳ね除けるの繰り返しでギャアギャアと。
3人寄れば姦しいとはいつ、何処で誰の言葉だっただろうか……なんて当事者であるはずの俺はハブられて蚊帳の外。
割って入るべきなんだろうけど神は言っている、ここで割って入るさだめでは無いと。
暫く放置していたが気がつけば辺りには不穏な空気が漂っていた。俺はこの空気を知っている。
これは……戦場の空気だ。
「ふふふ…すずか。あなたはいい友人だったけどあなたの抜け駆けがいけないのよ」
グローリーを構えるアリサ。アリサがアレを担いだら用心せい。
「すずかちゃん、覚悟はいい? 私はできてる」
レイジングハートを向けるなのは。吸血鬼を打ち倒すのはいつだって人間だ。
「クスッ、おふたりには山ほど説教があります。楽しみに待っててね」
クロスを突き立てるすずか。諸君、派手にいこう。
一触即発の空気に飲まれてた俺が我に返った時には遅い。
退避しようとしたが――間に合わなかった。
なのは達の衝突により起こった魔力の爆発に吹き飛ばされて海に吹っ飛ばされた。
そして着水、水没。
(浸水…だと。ばかな…これが俺の最後というのか…)
現実逃避に精を出す俺。
何でこんな目に合うんだよ。俺が何をしたって言うんだ。
…何もしなかったから問題があったのか。
(あぁ神様、助けてください…)
神(乙)<貴様には水底が似合いだ…
(誰だテメェ!)
かくして、楽しかった1日は情けない終局を迎えたのだった。
えっ?なのは達の決着はどうなったのかだって?
ボク、ヨクワカンナイ…
これは結構、難産だったような記憶があるなぁ。
だからどうだというワケでもないですが。