多分この話だけだろうし、程度もそこまでじゃないだろうからタグには入れてないけど大丈夫かな?
少女がある日出会った、1人の少年。
1人ぼっちだった少女は寂しさを忘れ、何時しか少女は恋心を抱く。
さらにある日、2人は新たに2人の少女を迎え、4人で過ごすようになる。
色々とありながらも、4人はかけがえのない大切な日々を過ごす。
しかし、ある日出会った『魔法』という力。
その力と出会った少女達は、様々な出来事を経て己の弱さと向き合う。
2人の少女は己の弱さを認め、負けないよう強く在ろうとした。
しかし1人は――
『鈴』
「私ね、鈴君を誰にも渡したくないの」
「なのは…」
「誰よりも大切な…他を切り捨ててでもいてほしい大切な存在。だから誰かにとられるなんてとても我慢できないの」
なのはの告白に内心、俺は複雑な胸中である。
誰しもそれぞれの人の心を占めるモノの割合が異なる。なのはの中では俺という存在の割合がそこまで大きなモノだとは思わなかったからだ。
なのはに好かれる事に不満があるわけではない。むしろ好意を寄せてくれる事自体はうれしい。
「だからってアリサを傷つけるような事をする必要があるのか?」
「必要だよ。だって3人の中で1番鈴君の心を占めてるのはアリサちゃんなんだもん。そういうのって、え~と…目の上のタンコブって言うんだっけ? そんな邪魔なものなら取り除かないと」
正直、なのはの言葉に否定する要素も浮かばない。
俺の中でアリサという存在は”居て当たり前”のような存在だ。今にして思えば、それはあいつが俺の魂が宿していたから惹かれあっていたという理由もあるんだが、それを抜きにしてもあいつとの付き合いは心地よかった。
優劣をつけた覚えはないが、傍から見たなのはにはそう感じたんだろう。
「友人同士にだってどこか気に食わない所もあるのは別に間違っちゃいないが…それにしたってやり過ぎだ!」
「もう友達じゃないよ。私から鈴君をとりあげようとする憎き”敵”だよ」
「っ!?」
「ああ、それで言ったらすずかちゃんも”敵”だね。あの子も鈴君をとろうとしてるんだから」
そう断言し、クスクスと無邪気に笑うなのはの姿に絶句する。
たしかになのはとアリサは互いに喧嘩をする仲ではあったが、ここまで強烈な敵意を向けることはなかった。
それが今ではどうだ?
アリサやすずか、友人であるはずの彼女達を憎き敵と断言し、あまつさえ傷つける事も厭わない。俺の記憶の中のなのはと目の前のなのはとの違いに薄ら寒いものを覚えてくる。
「それでね、鈴君をとられないようにするにはって思ってたらこの子が教えてくれたの。とる人がいなくなっちゃえばいいんだって。おまけに力も貸してくれるってさ」
そう言いながら右手の甲に埋め込まれているジュエルシードをうっとりとした表情で眺めるなのは。その顔は完全に魅せられた人の浮かべるソレ。
「というわけで鈴君、そこを退いてくれないかな?」
「退いてって…なのは、少し落ち着いて――」
瞬間、俺の手足がなのはの魔法、バインドで拘束される。拘束力は今のなのはの魔力が合わさり尋常ではない。
「っ!? おい、なのは!」
「大丈夫。すぐに終わるからちょっとだけ待っててね」
そう言って、なのはは視線を離れた場所で見守っていたアリサへと移す。そのまま俺の横を通り過ぎようとする。
「だから待て、なのは」
だが俺は改めてなのはの腕を掴んで阻止する。
「あれ? 鈴君、バインドは?」
「解除した」
「おかしいな~…鈴君でも解けないような魔力量で設定したのに…」
それは以前の俺を基準に考えて設定したんだろう。けど今の俺はあの魂の還元を経て、完全ではないが補完されている。つまり、現役時代には程遠いが『 』だった頃の魔力や知識が戻っているのだ。
レベルアップした俺にはあのぐらいのバインドだったら解除などワケもない。
「鈴君はそんなにアリサちゃんが大事?」
「ああ、大事だね」
「私よりも?」
「少なくとも、今のなのはよりも…な」
その言葉を聞いた途端、なのはの瞳から色が失われた。
酷な事を言った自覚はあるけどこれは俺の正直な気持ちだ。別になのはが嫌いなわけではない。今のなのはを見ていられなくなった俺はこの言葉を選んだのだ。
だがこの時の俺は浅はかだ。この回答は最悪の悪手だという事に気がついていない。
「……」
「?」
「しょうがないなぁ~」
小さく嘆息するなのは。
「鈴君はもっと素直になるようにお仕置きが必要だね♪」
途端に腹部に焼けるような痛みを感じた。
何が起こったのか理解できないままの俺は、ぐらつく景色を自覚しながら背中に強烈な衝撃を受けて一瞬呼吸が止まる。
さっきまでとは見える光景が違う。見上げる形となった俺の視界に吹き抜け螺旋階段の上階がそのまま見える。
さっきの背中の衝撃からして俺は墜落したと遅れて理解した。【強化】が無かったら床に叩きつけられてミンチになっていたぞ。
さっきの腹部の痛みの確認をしてみようと腹部に手を持っていく。ぬるっとした感触と、痛み、そして破れた皮膚の感触。痛みに顔を顰めながら手を顔の前まで持っていくと鉄臭く、赤い液体に濡れた自分の手が見えた。この出血量からすると結構深く傷が入っているかもしれない。
クソ、さっき治療したばかりなのにまた出血かよ。
「あれ? 力加減を間違えちゃったかな?」
声のする方を見るとこちらにゆっくりと歩いてくるなのはの姿。今の発言を聞くにこの傷はなのはがやったんだろうけど、まるで悪びれる様子も無い。俺を見下ろすようにしゃがみこむなのはの顔からは悪びれた様子を感じ取れない。表情を読み取れない無表情そのものだ。
「なの、は? 何を…」
「何って、鈴君が素直じゃないからお仕置きを」
「お、しお…き?」
「うん、そうだよ。鈴君、もう一度聞くね? 鈴君にとってなのはが1番だよね?」
さっきとは微妙にニュアンスが違う質問だ。だが今のなのはを俺は――
「今の…痛っ…ハァ…なのはは……肯定…でき、ない…」
「……」
俺の返答を聞いたなのはは無表情のまま、横たわっている俺に馬乗りになったなのはは信じられないような暴挙にでる。
「うん、しょっと…」
なのはの指が腹部の傷から体内に進入する。
「っ!! があ゛あ゛ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
腹部の傷を左手で弄び始めたのだ。
人差し指、次いで中指、薬指と全ての指を使い不規則に、しかし休める事無く丹念に俺の傷口に指を這わし、指を挿入して掻き回す。グチャッと生々しい音が自分の体を通して耳に入ってくる。
程度まではわからないが内臓を掻き回されているのだ。あまりの痛みに悲鳴が出るが、なのはは気にした様子もない。痛みから逃れたい一心から振りほどこうと思いっきり暴れるが馬乗りの状態なのでそれも叶わない。
「痛い? でも鈴君が悪いんだよ。ちゃんと素直に答えないんだから」
「~~っぁっ!?」
とてもじゃないが答えられるような状態ではない。まるで陸に打ち揚げられた魚のように暴れまわるだけの俺はさぞかしみっともない姿だろう。
暫くして、ようやくなのはは傷口を弄るのをやめる。突発的な痛みからは解放されたが、感覚が麻痺していくような痛みを感じる。
荒い息を吐く俺を気にした様子も見受けられないなのはは俺の血で真っ赤に染まった自身の左手を見つめる。
――そしてその血をおもむろに舐めあげる。
「ん、チュッ……はぁ♪ これが鈴君の♪」
そしてそのままゆっくりと指をしゃぶり血を舐めとっていく。血の1滴も無駄にしないとばかりに舐め、指1本を舐め終えるごとになのは愉悦に体を震わせ、恍惚とした表情を浮かべる。
やがて全てを舐め終えたなのは。その白い肌や口元は血化粧が塗られた様相になり、顔も子供のものでなく、まるで情事を終えた女のように愉悦と快感と恍惚とに満ちていた。
妖艶。
まだ幼い身であるが、今のなのはにこれほど当て嵌まる単語もないだろう。目の前の少女がまるで知らない女性のように思えた。
「さてと。鈴君、もう一度だよ? 鈴君は誰よりも……なのはの事が好きだよね?」
「…ぁ…ぁう…」
「うん?」
聞き取れなかったなのはがこちらに耳元を寄せてくる。俺はその耳元で気力を振り絞り、なのはに囁きかける。
「今のなのはは……好きに…なれない…」
「……」
「だから……以前のなのはに戻ってもらうぞっ!」
「えっ?」
体にあらん限りの力を込め、馬乗りの状態のなのはを諸手突きで突き飛ばし押し退ける。なのはの体重は年相応に軽い部類に入る。なのはの油断もあったんだろうが、力を振り絞った諸手突きでなのはは地面に弾かれる。
俺は体中を駆け巡る痛みを無視し、そこから飛び掛ってなのはの右手――ジュエルシードを両手で掴む。そこからやる事は単純の一言。
「魔力…注入、開始っ!!」
「何をっ!?」
俺の魔力をジュエルシードに直接流し込む。ただの魔力じゃない、ジュエルシードの内包する魔力とは反対の性質の魔力を流し込んでいるのだ。マイナスにプラスを叩きつけるといった感じだ。普通の魔法ならそうそうできる芸当ではないが、先生の魔法特性の1つである魔力変換がそれを可能にしている。
腹部の傷からの痛みで集中力が途切れそうになる。だがせっかくのチャンスをみすみす逃がす訳にはいかない。多少の無茶は承知の上だ。
ジュエルシードを封印する術を持たない俺だがその力を弱める事はできる。
そして肝心の封印はあいつに任せる。
「アリサっ!! 封印を!!」
「わかってるわよ!!」
上階から来たアリサは瞬時に俺の意図を汲んでくれた。
アリサは魔力もほとんど残っていないからこのまま封印しようとしても、ジュエルシードの魔力の方が大きすぎて封印は不可能だ。そこで俺が今のアリサでも封印が可能な所までジュエルシードを弱らせる。
この作戦、俺がなのはにいたぶられている途中、こちらを目指して螺旋階段を下りるアリサの姿を捉えた時に思いついた即席の作戦である。そんな作戦なのに念話も通さず俺の意図を汲んでくれたアリサは本当にありがたい。
…この以心伝心の仲の良さがなのは暴走の原因だと考えると、ありがたいかどうか一考の余地が出てくるがな。
「っ! アリサちゃん!?」
「グローリー、封印を!!」
《しかし今の状態では成功率は5割を切ります!》
「それだけあれば上等よ! ジュエルシード、封印!」
《…了解。封印開始》
なのはに埋め込まれたジュエルシードにアリサはグローリーを突き出す。グローリーの音声と共に、魔力が溢れ出し辺り一帯を満たす。
封印開始と同時にジュエルシードへの魔力注入を止め、今度は俺もグローリーを掴み魔力を流し込む。アリサの残り少ない魔力を少しでも補うためだ。
分の悪い勝負であったが、このまま封印が完了するかと思われた。
だが――
「レイジングハート!!」
なのはの呼びかけと共にジュエルシードが輝きだし、俺達のモノとは違う魔力が溢れ出した。その魔力を感じて、俺はなのはが何を目論んでいるのかすぐに察した。
さっき俺がやったようにジュエルシードに魔力を流し込んで活性化させようというのだろう。それをレイジングハートが制御といった流れだ。
けどそれはこの状況でやってはいけない。
「阿呆! ジュエルシードの内部で魔力が反発を起こして暴発するぞ!」
そんな俺の忠告も空しく、なのはの右手のジュエルシードが一際大きく輝く。
そして――
「くぅっ!?」
「キャアッ!?」
輝きは辺りを白で埋め尽くし、轟音を響かせてようやく治まっていく。
ゆっくりと眼を開けた先に見える光景はまず天井。そして視線を辺りに移すと近くにアリサが、少し離れた場所になのはが横たわっていた。どうやらさっきの暴発で各々が弾かれたようだ。
とりあえず起き上がって傍のアリサに近づく。
「アリサ、大丈夫か?」
「う、ん。な、何とか…」
痛いと呟きながら身を起こすアリサの手を引っ張り立たせる。アリサはそのまま体の各所を動かし、異常が無いかどうかの確認。
「ふぅ、大丈夫みたいね」
「それは良かった。さて、なのはは…」
次いでなのはの無事を確認しようと視線を向けると、なのはがゆっくりと起き上がるのが見えた。起き上がった事に安堵の溜め息を吐いたがその姿に息を呑んだ。
力無く立ち上がり、時折ふらっと倒れそうにもなっている。そして何よりも右手が酷い有様だ。
暴発の影響で右手から肘辺りまでバリアジャケットが千切れ跳んで、剥き出しになった肌も程度はハッキリと確認できないが、傷による流血によって赤く染まり、滴る血が床に血溜まりを造る。
そして肝心のジュエルシードだが、未だになのはの右手の甲に有る。
けどさっきの暴発――もしくは封印の影響なのか、さっきまでの強力な魔力を感じない。それでもなのはに寄生しているという事は、まだ魔力の供給機能は生きているようだ。
「ぅ…して…」
なのはの口から声が漏れた。最初は聞き取れなかったが、次の瞬間にはその呟きは叫びとなった。
「どうしてアリサちゃんばっかりなのっ!」
「!?」
「私はこんなにも鈴君が好きなのにどうして鈴君は私を否定するの! どうして私に振り向いてくれないの! どうしてっ! 私だけを…見て、くれないの…」
最後の方は嗚咽の混じった声。
一目でわかる。今のなのははさっきまでのジュエルシードに中てられたなのはじゃない。溜まった不安をぶつけるその姿は年相応の女の子のソレだ。
なのはの強い想いをぶつけられた俺は悔やんだ。
自分は年上でなのはは年下、それを言い訳になのはの想いを友愛のソレだと勝手に決めつけて、無意識に内にどこか軽く見て付き合ってきた節もあった。また幼い頃のなのはの環境を知っていた事もあり、庇護欲のようなモノも言い訳の1つとしてあったのかもしれない。
その結果、なのはの求める愛と俺がなのはに注ぐ愛に違いが生じ、なのはを苦しめる事となる。もっと考えろよと当時の俺を殴りたくなるが既に遅い。
「もういい…」
なのはは左手に持ったレイジングハートを片手でこちらに向ける。
するとレイジングハートがシーリングモードへと移行し、チャージを始める。ただその収束する魔力量はディバインバスターを行使する時以上のモノ。
なのはの砲撃魔法でも最強を誇る『スターライトブレイカー』だ。
「もうこんな酷い結末はいらない。こんな残酷な世界はいらない。全部…壊れちゃえ…」
どこか虚ろに吐いた言葉は最悪の結末を望むもの。もう彼女は見える世界さえも敵と認識するほどに現実から逃避している。
すでに収束する魔力は暴発寸前。間もなくあの魔法は放たれるだろう。
俺にできる事は何だ?
言葉はこの状況で届くとは思えない。
あれを【盾】で防げるとは思えない。
避ければ最悪、みんなのいるこの庭園が崩壊する。
なら……全魔力をぶつけて相殺か。
「アリサ」
「何よ?」
「なのはにお仕置きを頼む」
「……仕方ないわね。貸し1よ」
なのはの魔法に対してどうするのかとも聞かない。そしてアリサは俺がこの状況をどうにかするという事に疑いを持たない。
それだけ信じられているのに応えなきゃ男が廃るってもんでしょ。
なのはの砲撃を迎え撃つために、俺も拳を突き出し術式を。馴染みの魔法陣の展開と共にチャージを開始。
行使するのは以前も使った大魔法【波動砲】。魂の補完が成された今なら威力も向上されているはずだが、なのはの砲撃を迎え撃つには若干足りない。だから別の形でなのはの砲撃を相殺する。
「魔法術式【波動砲】、最大出力」
俺の【波動砲】にもバリエーションがある。今回撃つのはその1つ。
威力は通常の【波動砲】より若干劣るが、連射による集中砲撃を可能としている。短時間での総合的な火力ならこいつの方が上なので、この一点集中の連射でなのはの砲撃を迎え撃ち相殺する。
互いに収束する魔力により大気が震える。俺の背後に控えるアリサもこの濃密な魔力の空間に身を置きながら、その顔は俺の成功を信じて疑っていない。
そしてほぼ同時にチャージした魔力が解き放たれる。
「スターライトォォ、ブレイカアァァーーーー!!」
全てを飲み込む桜色の砲撃が…
「ヲヤスミ、ナノハ…【波動砲】!!」
全てを打ち砕く青白い砲弾が…
それぞれの想いを乗せ、激突する。
◆ ◆ ◆
『なのは』
辺り一面に立ち込める粉塵のせいでよくわからない。でもこの空間は恐ろしく静かだ。
ピキッとガラスの割れるような音が右手から聞こえた。見ると私の血で赤くなったジュエルシードに罅が入っててそのまま地面に落ちて割れた。途端にさっきまで私を満たしていたナニカが抜けて、体が醒める。
さっきの魔法の時に残りの魔力全部を使い果たして抜け殻になっちゃったみたい。
「はは、ははは…あはははははははははははっ!!」
私はとうとうやっちゃった。大っ嫌いだったアリサちゃんを消したのはいい。元々そのつもりだったんだから。最初は非殺傷設定でやっていたけど、アリサちゃんの言葉に腹が立って設定を変更したんだから。
けど、こんなつもりじゃなかった。鈴君にはお仕置きでちょっと怪我をさせたけど…殺すつもりなんてなかった。
けど結果は?
何もかもが憎くなって、その感情に身を任せたらこれ。
私は…自分の手で大切な人を……
「こんなつもりじゃなかったんだよ、レイジングハート?」
《…ザザッ…ィエ……タ…》
やっぱり聞こえない。
私がジュエルシードを取り込んでから、レイジングハートもおかしくなっちゃった。声のほとんどにノイズが奔ってまるで壊れたラジオみたいになってる。
鈴君。
アリサちゃん。
レイジングハート。
みんな、み~んな私が壊した。愛する人も、かつて友情を育んだ人も、パートナーも。
人を殺してしまった私はもう誰にも顔向けできない。もう、本当にどうでもいいや。笑いしかでてこないや。
「あーはっはっはははははははははっ!!」
「何がおかしいのよバカなのはぁ!!」
怒号と一緒に誰かが舞い上がる粉塵を突き破りながら飛び掛ってきた。そのタックルみたいな衝撃を受けて互いにもつれ合いながら地面を転がる。
誰がと確認する間もなく、胸倉を掴まれて上体を引っ張り上げられる。
「ようやく捕まえたわよ、なのは」
「ア、アリサちゃん? えっ? 何で生きて…」
「鈴のおかげよ」
「鈴…くん?」
アリサちゃんが後ろに目配せする。いつの間にか粉塵は晴れてて辺りが鮮明になっている。そこには――
「き、傷がイテェ…」
私が負わせた傷を押さえながら地面に蹲る鈴君の姿があった。
「あ、あぁっ…!」
その姿を見た途端、涙が自然と溢れてきた。死んだと思った大切な人が生きていた。この喜びはとても表現できるものじゃない。
けどそんな感傷に浸る間も無く、アリサちゃんは私に平手打ちをする。
「あうっ!?」
「感傷は後にしなさい。あたしの話の後にでも」
アリサちゃんの顔は今まで見た事ないほどに怒ってる。
「さてと、言いたいことはたくさんあるんだけどまずはコレね。いい加減にしなさい、バカなのはっ!」
「ヒッ!」
「癇癪を起こすってワリには度が過ぎてるわよ。ジュエルシードなんかに呑まれて……情けないわよ」
「も、元はと言えばアリサちゃんが鈴君とキスしたからじゃない! 呑まれた原因は間違いなくソレなんだから!」
「あれはっ!? と、とにかくもっと心を強く持ちなさい! あたしやすずかだったら逆に取り込んでたわよ」
「私は2人みたいに強くない!」
「強くなれって言ってんのよっ!」
ぎゃあぎゃあと姦しく言い争う二人の姿は先程の生死を賭けた者同士のソレではなく、普段の日常でよく見かける喧嘩のソレだった。そしてそのまま喧嘩は続く。
「なのははあいつの事が好きってのは理解できたわ。けどそれはあたしやすずかも一緒なのよ。あんたに邪魔される謂れは無いわよ!」
「あるよっ! 家では疎外感を感じてアリサちゃん達には嫉妬して、そんな取り得も無くて惨めな私を鈴君は受け入れてくれた。私には鈴君しかいないの!」
「甘えるなぁ!!」
「ひぅ!?」
「確かに鈴は優しいからなのはも受け入れるでしょうね。けどそうやってもたれかかるばかりだったらいつか鈴が潰れちゃうでしょうが!」
「それでもっ! 私は…」
「あたしはなのはと違って甘えたり頼ったりするばかりじゃないわ。鈴の隣に立ちたいとだって思ってる」
「っ!?」
「あんただって…さっき強くないって言ったけど、そんなはずは無いのよ」
「えっ?」
「あんたすずかの時の事、覚えてる? すずかの身の上を聞いても友達でいようってすずかに言ってたでしょ? 他にも1番最初に魔法であたしを守ってくれた」
「そ、それは…無我夢中で…」
「無我夢中になるほど助けなきゃいけないぐらいだった。その行動も強さの表れじゃないの?」
「あ…うぅ…」
「一緒に強くなるわよ」
「えっ?」
「鈴はあたし達を何だか年下みたいに見る時があるから強くなって、良い女になって振り向かせるのよ」
「えっと…できるかな?」
「やるのよ」
「拒否した場合は?」
「鈴をあたし達がいただくだけよ」
「そ、それは駄目っ!」
「じゃあオーケーよね♪」
「あうぅ…嵌められたの…」
「よし。ならこの
「え、喧嘩?」
「そう、あたし達は戦いじゃない。喧嘩をやったの。それなら管理局の人達も誤魔化せるでしょ?」
「誤魔化せる…かなぁ?」
「あぁもうっ! ウジウジと言わない! 返事はハイで!」
「は、はい!」
「そう、それでいいのよ。さて、時間がかかり過ぎたわ。行くわよ、他のみんなの様子も確かめなくちゃ」
「うん……アリサちゃん」
「ん?」
「……ごめんなさい!」
「…別にいいわよ」
「私、後日みんなに謝るね」
「そう」
(そういう会話は俺の居ない所でやってくれよ…)
少女達の暴露する自分への感情に顔を赤らめる鈴であった。
次回無印編エピローグ。