魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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警告!

黒王陛下、御親征!

ブラックなのは様、御誕生!

フザけんなバカヤロウ!って方は回れ右を推奨します。




20・譲れないならぶつかれ!

 

『アリサ』

 

 

「どうやらプレシアは既にジュエルシードを発動させているらしい」

「何ですって!?」

「艦の方では小規模ながら次元震の発生も確認している。今は母さ…艦長が現場に出て次元震を抑えているみたいだから大きな被害は出ていない。けど…」

「けど、何よ?」

「いくら艦長といえど、10個のジュエルシードを長時間完全に抑えるのは無理だ。僕達が思っている以上に時間は残されていない」

 

 鈴が動力炉を停めてからすぐにクロノにアースラに現在の進行状況を報告。応答したのがリンディさんではなくエイミィさんだったのはリンディさんが現場に出ているからみたいね。

 そしてさっきのクロノの話を聞くに本当に時間は残されていないみたい。

 

「とにかく急ごう」

「そうね」

 

 クロノの声を受け、駆け出そうとするみんな。あたしも走り出そうとする…が――

 

「っ!?」

 

 突然あたしに怒涛の如く押し寄せてきたよくわからない感覚に足を止めてしまう。

 

「アリサちゃん?」

 

 足を止めたあたしに真っ先に気付いたのはすずか。疑問の表情を浮かべ、声をかけてくるけど耳に入らない、それどころじゃない。

 他のみんなもあたしの突然の異常に足を止める。

 

「っ!? っあぅ!?」 

「アリサちゃん!? どうしたんですか!?」 

「ど、どうしたっていうんだ!?」

 

 わからない。けど…この感覚は…?

 

 焦燥感?

 

 動悸が激しい。呼吸がしづらい。立っていられない。無意識の内に膝をついて、両手で胸を押さえる。そしてあたしの頬を伝うこの水は…涙? 

 胸の奥底の『何か』が訴える。そしてその訴えは知らず知らずの内に口から洩れてた。

 

「…り…ん?」

「えっ? 鈴君?」

「りん、が……鈴!?」

 

 次の瞬間には駆け出していた。元来た道を。

 

「お、おい! 何処にいくんだ!?」

「アリサちゃん!?」

「私に構わず、先に行ってて!!」

 

 みんなの制止を振り切って走る。自分でもよくわからない。根拠も無く『鈴の身に異変が起きた』と確信したからだ。それもかなり重大な。

 この一大事の時に何をと思うかも知れないけど、あたしの中の『誰か(・・)』が警鐘を打ち鳴らしている。それに何となくだけどわかる。

 これに従わないと取り返しのつかない事になるって。

 

 そして戻ってきたのは通過した広間の内の1つ。鈴の居所は……ここから上階ね。

 

「グローリー、フルパワー!!」

《了解。コーティング開始》

 

 グローリーの先端部、槍の穂先部分から徐々に光り輝く魔力に覆われる。そしてコーティングが終わってそこにあったのは輝く魔力の刃を備えた1本の突撃槍(ランス)

 突撃槍の形態をとったグローリーを両手で構え、体を引き絞り溜める。目指す先には天井。

 

突進(チャージ)! いっけぇぇぇぇ!!」

 

 重い轟音が響き渡り、あたしの跳躍によって先程まで立っていた足元が深く陥没する。グローリーを突き出し、自身を弾丸と化する事で天井を一気に打ち抜いて行く。 

 階層を隔てる天井1枚分を貫いた程度では止まらない。そのまま1枚、もう1枚と階層をどんどん昇って行く。

 数階分を貫いたところでその辺の壁にワイヤーガンを打ち込んでブレーキをかける。それと同時にグローリーの魔力の刃を霧散させる。この技ってブレーキに難があるのよね。

 ともかく、さっきの感覚を頼りにすればここに鈴がいるはず。

 改めて部屋を見渡す。目の前にはとても巨大な炉のような物がある。多分これが駆動炉なんだろう。鈴が停めたおかげで今は光も灯さず、ただの冷たいオブジェになってる。その駆動炉の周辺をくまなく歩き回る。途中で巨大な傀儡兵を見つけてビックリしたけど、動かない様子に安堵の溜め息を吐く。 

 そして見つけた。無残に変わり果てた大切な人を。

 

「鈴!?」

 

 一目散に駆け寄る。傍から見ても鈴の状態はとてもひどいもの。血の気が通っていないためか顔色は驚くほど白く、体中の至るところに傷が走り血が滲んでいる。左腕は半ばから妙な方向に角度を変えている。投げ出した四肢はまるで死人。

 普通であればもう事切れていると判断されるだろうけど、あたしにはわかる。鈴はまだ生きていると。

 囁いているのよ。あたしの中の『誰か(・・)』が鈴はまだかろうじて現世に命を繋いでいるって。

 

「グローリー、鈴はどんな状態?」

《非常に危険な状態にあります。傷からの失血もそうですが何より魔力を感じません。これは以前に蓮様が言っていた魔力の枯渇による心肺機能停止かと》

「っ!? 本っ当にこのバカはっ!?」

 

 そんなに無茶をしてどうするのよ。素直に逃げるか、私達を頼ってもいいじゃない。あたし達をそんなに頼りなく思っているの?

 ううん、違うわね。こいつの事だからあたし達の手を煩わせないようにするってところかしら。この戦いが終わったら一度、殴らなきゃいけないわね。 

 

《とにかくまずは魔力の供給を。その後に治癒魔法を施す事で一旦、危機は乗り越えられるはずです》

「それしかないようね。治癒魔法は苦手なんだけど…」

 

 グローリーの言うとおり、今の鈴は魔力の枯渇が1番の問題。ここまで消費してしまった上に心肺機能の停止だから自己での魔力回復は機能していないでしょうね。となると外部からの魔力の供給で回復を試みるしかないのね。

 

 そう、これはいわば緊急事態による救命措置。だから何も疚しい事なんて無いんだから。

 蓮さんから教えてもらった鈴への魔力の供給方法がたまたま『ソレ』だったって話なんだから!  だからと言って決して嫌ってわけじゃないのよ。むしろ、うれしい……じゃなくて!

 

《アリサ様!》 

「わ、わかってるわよ!」

 グローリーの一喝で現実に引き戻される。そうだった。今は一刻を争う事態だった。 

 

「起きたら……絶対殴ってやるんだから」

 

 一度、大きく深呼吸をする。そしてあたしは覚悟を決めて――

 

 大切な愛おしい人の唇を自身の唇で塞ぐ。

 

 

 

『キ、キキキ、キスゥ!?』

『そうだ。キス。接吻。ベーゼ。呼び名は様々だがやる事は一緒だな』

『何でキスが魔力の供給方法になるんですか!?』

『魔法という定義のある世界においては結構、浸透している方法だぞ。童話とかでもキスで目覚めたり呪いを解いたりとあるだろう? あれも魔力の受け渡しによるものという説もある』

『ほ、他に方法は!?』

『ミッド、ベルカの魔法であるにはあるがお前は補助系統の魔法苦手だろう?』

『うっ! そ、それはそうですけど……だからってあたしが鈴と…ブツブツ…』

『ニヤニヤ』

『はっ!? な、何を笑ってるんですか蓮さん!!』

 

 

 

 あたしの中に宿る魔力が唇を通して、鈴の方へ流れていくのを自覚できる。それと同時にあたしの中の『誰か』が消えていってるようだった。

 ゆっくりと唇を離し、鈴の顔を見遣る。さっきまでの白い顔色はほんの少しだけど、赤みがかかっている。その事実に気が緩みそうになるけどまだ終わっていない。次は傷の治療だ。補助系統は本当に不得手だからこの治癒魔法も気休めな程度だけどやらないよりはマシね。

 

「よしっと。グローリー、鈴の様子はどう?」

《体内での魔力の循環を確認しました。傷の方は仕方ないとしてとりあえずは大丈夫でしょう》

「そう。よかったわ」

 

 グローリーの診察結果を聞いて気を緩める。本当に一時はどうなるかと思ったけど、結果無事で何よりだった。

 そうだ。さっきまであたしの中の『何か』をもう感じることがないけど。あれは何だったのかしら? 

 というより『誰』だったんだろう? あたしがもっていたのは鈴の魔力だったわけだし。 

 

 そんな風に考えていると、突然あたしの後方からとてつもない魔力の奔流を感じた。何事かと思ったけどこの感じは覚えがある。あたし達が幾度となく経験したジュエルシードが発動した際のあの独特の魔力。 

 まさか傀儡兵かと警戒してデバイスを構え振り向く。するとそこに居たのは――

 

「なのは?」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『なのは』

 

 

 来た道を戻って鈴君と別れた分岐路から上を目指した私は終着点と思われる扉(半壊していて、扉としては機能していないけど)の前に立った。さっきの念話で鈴君は戻ると言ってたけどすれ違っていないからまだここにいるんだと思う。

 中に入ると最初に目に入ったのは横たわった巨大な傀儡兵。これにはびっくりしたけど、動く様子がないから近づいてみたら機能が停止してた。  

 

 コツンとその拍子に何かを蹴った。何かと思ってソレを拾う。

 

「ジュエルシード?」

 

 何でこんな所に? 

 しかもこのナンバーはまだ私達が見つけていなかったのだ。

 とりあえず先に鈴君をと思ってそれを片手に部屋の中を探す。そして大きな炉を半周した。

 

「……えっ?」

 

 見つけた。けどそれと同時に見たくない光景があった。

 

 あれ? 

 

 鈴君とアリサちゃん? 

 

 何でアリサちゃんが鈴君にキスしてるの?

 

 途端に胸の奥から湧き立つ嫉妬の感情。どうしようもないほどに私を黒く塗りつぶす黒い負の感情。

 

「……あ…う…」

 

 見たくない。こんな光景は望んでいない。

 私は鈴君に会いに来ただけなのに何でこんなひどい光景を見せられなくちゃいけないの?

 しかもまたアリサちゃんが。

 

 ……またアリサちゃん?

 

 やっぱり…アリサちゃんは…いつも…いつも…

 

 どうして鈴君に纏わりつくの? 私のモノなんだよ? 

 

 

 

”みたくない?”

 

 みたくない…

 

”とられたくない?” 

 

 とられたくない…

 

”じゃあ、かんたんだね♪”

 

”とるひとがいなくなっちゃえばいいんだよ♪”

 

 でもそれって。

 

”きらいなこなんでしょ? だったらためらうことないよ”

 

 …そっか。そうだね。

 

”そうそう。わたしもちからをかすからいっしょにやろうよ”

 

 うん、ありがと。

 

 ねぇ、あなたはだれ?

 

”わたし? わたしは”

 

 

”たかまちなのは”

 

 

 

 私に変化が起きた。  

 手の中で熱を放つジュエルシードはいつの間にか右手の甲に埋め込まれ、バリアジャケットは真っ白だった色がくすんだ灰色に。その灰色はレイジングハートにも及んでいる。

 そして1番の変化は魔力だ。体の中を熱いぐらいの魔力が絶え間なく溢れるのを感じる。それと気持ちも高揚したものなる。

 

 そんな魔力にやっと気付いたアリサちゃんがこちらを振り向いた。デバイスを向けているのはとても不愉快に感じる。

 

「なのは?」

 

 私の顔を見るなり怪訝な顔を浮かべるアリサちゃんはとても失礼だと思うよ。そんなことよりも…

 

「鈴君から離れて」 

 

 フラッシュムーブを使ってアリサちゃんの目前まで一気に跳び、渾身の力を込めてレイジングハートを振るう。

 

「キャァ!!」

 

 日々の訓練の賜物か、アリサちゃんはうまくデバイスで受け止めたけど、衝撃までは殺しきれなかったようで向こうまで大きく弾き飛ばされて地面を転がる。

 そんなの知った事ではない私は傍に横たわっている鈴君を屈んで抱き起こす。ようやく愛おしい人に触れることができる喜びに身が震える。

 

 あぁ…やっと会えた。

 

 やっぱり私は鈴君に触れていないとダメみたい。

 

 もう離さない。彼を誰にも渡さない。私のモノなんだから…。 

 

 

「何すんのよ、なのは!!」

 

 私の感動に水を差す失礼なアリサちゃん。何を怒ってるんだろう? 私のモノを盗ろうとしたんだからアリサちゃんに怒る筋合いは無いのに。

 う~ん……あ、そうか。鈴君は私のモノっていう証明が無かったんだ。だからアリサちゃんは盗ろうとしてたんだ。失敗、失敗。

 じゃあアリサちゃんに鈴君は私のモノって証明しないとね。

 

「アリサちゃん」

「何よっ!!」

「鈴君は私のモノだから」

「はぁ? 何を言って…」

 

 アリサちゃんの言葉を無視して、私は鈴君の唇にキスをする。

 

「なっ! な…ななっ!!」  

「…んっ、はぁ♪」 

 

 存分に鈴君とのキスを堪能した。初めて鈴君としたけど、これはクセになりそう。アリサちゃんの後っていうのに嫌悪感を覚えるけどそれを上回るほどの甘美さ。いや…これはアリサちゃんの匂いを消す行為だと思えば。

 

「な、なな、なのはっ! あ、あんた何をしてっ! それにその格好は…!!」

「……うるさいよ。ディバインシューター」

 

 うるさく喚くアリサちゃんを黙らせるために魔法を放つ。4つの魔法弾は不規則にアリサちゃんに襲い掛かるも、少しこちらに警戒していたのか問題なく対処し全部グローリーで斬り払われた。

 

「……どういうつもりよ、なのは」

「どういうつもりって…アリサちゃんがいけないんだよ? 私の鈴君をとろうとしたんだから」

「とるって…」

「私ね……アリサちゃんが嫌い。いつも鈴君の隣に居て私の場所を奪うし、私に向けるはずだった鈴君の笑顔を奪うし。そして今度は鈴君そのものを奪おうとしてる。だから思ったんだ。奪う人がいなくなればいいんだって。そうしたらね、このジュエルシードが力をくれたの」

 

 右手の甲に埋め込まれたジュエルシードをアリサちゃんに見せる。 

 

「あんたソレ!」

「ジュエルシードがこんなに良い物だって知らなかった。これがあれば負ける気なんてしないね。だからアリサちゃん、私から鈴君を奪おうとする泥棒さん」

「……」

「覚悟してね♪」

 

 渾身の魔力を込めたディバインバスターをお見舞いしてあげた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『鈴』

 

 

 真っ黒な、よくわからない空間に俺は居た。右も左もわからない。上か下かも自分が立っているのかさえも疑わしい感覚が纏わりつく。

 

「ふむ」

 

 俺は何でここに居るんだ? ここに来る前の俺って何をしてたっけ? 

 

「……だめだ。全然、思い出せない」

 

 思い出そうとしても頭の中に霞がかかったかのようで思い出すことができない。思い出さなければいけないような気がするのに思い出せないこのジレンマ。もどかしい。

 

「とりあえず歩いてみるか」

 

 この真っ黒な空間だけど、よく見ればずっと向こうの方に僅かに光源が見える。行っていいのかわからないけど何もしないよりはマシだろう。

 

「というわけで、出発」

「こらこら、何処へ行く?」

「えっ? とりあえずあの光に向かって…」

「いやいやいやいや、ダメだから。あっちは黄泉とか冥界とかそういう類の世界だから」

「まじで!? っていうか誰!?」

「今更かい!?」 

 

 少しばかりの漫才を繰り広げ、声の主に向かって振り返る。 

 そこに居たのは一人の青年。黒い髪を適当な長さに刈り込んだような髪。少しだけ吊り上った目尻。怖いとかの印象ではなく凛々しい印象を受ける。

 その青年に俺は見覚えがあった。というか忘れる事のできない人物だ。なぜなら――

 

「俺?」

「そう、俺だ」

 

 俺が『秋月鈴』になる前の俺だった。

 

 

 

「つまりここは現世とあの世の境目のような場所。そういう認識でOK?」

「ああ、とりあえずはそれでいいぞ」

「そんな場所になんで俺が居るの?」

「おまえ死にかけてたんだぞ。覚えていないのか?」

「………………………少しずつ思い出してきた」

 

 そうだった。俺はあの傀儡兵との戦いで重症を負った上に魔力を使い果たしたんだった。

 

「思い出したか?」

「まあな。なら次の質問だ。アンタ…つまり生前の俺が何で今の俺の前に居る?」

「帰ってきたからだよ」

「帰ってきた?」

「お前は『秋月鈴』になる前の…あの魔法の失敗の時の出来事を覚えているか?」

「一応」

 

 時々夢で見るほどの――自分の死を感じた出来事だったんだ。忘れられるはずがない。

 

「あの時に消滅するはずだったおまえの魂の一部は消滅しきる前に先生が採取。それを先生が造った人造生命体に入れる。それが今のおまえ、『秋月鈴』だというのはわかるな?」

「そりゃね」

「俺はその採取し損ねた魂の一部だよ」

「えっ? 全部消えたんじゃないの?」

「お前はあの消滅の時、諦めていたみたいだけど本心では強い生存本能が働いていたんだよ。その結果、全て消滅せずに僅かながら残ったんだよ」

「なんとまぁ、生き汚いことで」

「そのまま放置されていたら自然消滅してたんだがそこにある人物が現れた。それがアリサ・バニングスだ」

「アリサが?」

「そう。あの森林はアリサの館の付近だったからな。偶然、アリサは消えゆく俺の魂の灯を見て、それに惹かれてあの場所へやってきた。強い魂の灯は何かを惹きつける輝きを放つからな。誘蛾灯みたいなもんだ。そこで残った魂は生存本能に従い、アリサを依り代とすることで消滅を免れる」

「寄生虫みたいだな」

「うるせえっ! 話を続けるぞ? 現在アリサが保持している魔力はその魂に中てられた彼女の体が新しく生成したリンカーコアから生み出されているモノだ。まあ、お前の魂からから生まれた副産物みたいなものだ。だからアリサはおまえと同じような魔力を持っているわけ」

「つまり、先天的に魔力を持たなかったアリサの体は俺の魂に順応するように自らリンカーコアを生成したって事か」

「で、俺がここに居るわけは傀儡兵との戦いで魔力の尽きたお前にアリサが魔力の供給を行ったからだ。その際に俺…つまり魂もお前の元に帰ってきたというわけだ」

「そっか、アリサに助けられたのか。礼を言っておかないとな」

「俺が散々訴えたからな。鈴が危ないって。俺にも感謝しろよ」

「へいへい、感謝します。ありがとうよ」

「なんか敬意が足りないけど、まぁいいか。それじゃ俺はそろそろ消えるからさっさと起きてお前の大切な友人を助けてやれ」

「消える?」

「俺は魂の欠片。大元の魂であるお前に帰るのが摂理なのさ」

「……そっか。ありがとうな、助けてくれて」

「気にすんな、じゃあな『秋月鈴』」

 

 そう言って背を向け、ヒラヒラと手を振りながら真っ黒な空間に溶け込むように消えていく、かつての俺。その姿を最後まで目を背けること無く見送る。 

 

「じゃあ、起きますか」 

 

 あいつが言っていた『助けてやれ』って言うのがどういった状況を差すのかもわからないが、助けてもらっておいて無碍にするほど俺は冷血ではない。

 ゆっくりと息を吐き、俺は魔法を行使する。

 

 

 

 一気に意識が戻る。最初から脳が活動していたかのように頭が冴えている。体は横たわっていたので上体を起こす。

 

「痛ってぇ!!」

 

 左腕から激痛が走った。痛覚を自覚すると体中のそこらから痛みを感じる。そうだった、俺は怪我人だった。

 

「【治癒】」

 

 治癒魔法で傷を癒す。掌から生まれた淡い光を当てると徐々に傷が塞がっていく。そのまま治癒を続けてようやく痛みが引いてきた。手を握ったり開いたりして状態を確認しておく。

 

 そこで大きく地面が揺れた。何事かと思い、すぐさま起き上がって震動の発生源と思われる場所に走る。

 動力炉のある部屋を抜け、大きな吹き抜けの螺旋階段がある場所に出た。手すりに寄りかかり、階下を見遣ると2人の人物が戦っている様子が見受けられる。その姿は俺のよく知る大切な友人。

 

「あいつの言ってた事ってこれかよ」

 

 事態は大変な方向に向かっているっぽい。 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『アリサ』

 

 

「ほらほら、ちゃんと避けないと危ないよアリサちゃん」

「くっ…このっ…」

 

 次々と襲ってくるなのはのディバインシューターをグローリーで切り捨て、時には左手の手甲で防ぐ。誘導弾だから避けようと思ってもうまくいかないのでこうやって防ぐしかない。

 状況は最悪。ジュエルシードの魔力に飲まれた今のなのははあたしをいたぶるようにして魔法を放っている。最初は何とか凌いでいたけど徐々に被弾。やせ我慢で持ち堪える。

 

「結構粘るなぁ…じゃあこれなら」

 

 次の手もなのはの生成した魔法弾。だけど数が尋常じゃない。10…いや、20はある。これだけの事ができるって…これがジュエルシードの恩恵?

 

「うまく凌いでね♪」

 

 その言葉を言い終わると同時、一斉に襲い掛かる数の暴力。

 

「あ…ぐぅっ…!!」

 

 ほとんど残ってない魔力を振り絞って展開した防御魔法も容易く貫かれた。全身を駆け巡る激痛。意識がとびそうになるけど歯を食いしばる。

 

「すごいアリサちゃん。さっきのはさすがにダメかなって思ったのに」

 

 なのはの何処か無邪気ささえ感じるような賞賛の声。それにまともに取り合える程、今のあたしには余裕が無い。

 これまでの傀儡兵との戦闘に鈴への魔力の譲渡。そして今のこの戦闘。もう魔力はほとんど残っていない。騎士甲冑ももはや纏っているだけで防御能力は期待できないし、こうやって飛行しているだけでも恩の字ね。なのはの攻撃に耐えているのだって意地よ。

 ここで負けたら楽になるんだろうけど――

 そんな気には絶対ならない。

 

「……んた…に…」

「ぅん?」

「あんた……みたいな…」

「どうしたの? アリサちゃん」

「あんたのようなバカにあたしの好きな人をとられてたまるもんですかっ!!」

 

 なのはに向かって叫んだ私の意地。それを聞いた途端に笑みの表情から一転、無表情になるなのは。その表情を見ただけでしてやったりという気分になるわ。ざまぁみろ。

 

「なのは。あんたが鈴を好きなのは知ってるわ。すずかも鈴が好きなのは知ってる。それを知っているから、仮に鈴がどちらかを好きになってもあたしは素直に譲るつもりでいたわ」

「……」

「でもあんただけは別。今のあんたみたいなバカが鈴を奪おうとするなんてとても許せない」

「……うるさい」

「あたしに鈴を奪われるかもしれないから私を叩きのめす? ハッ! 何て短絡的なの? そんなの自分に自信が無い証拠じゃない。すずかみたいに自信をつけてどうにかしようって思わなかったの?」

「……うるさい…うるさい」

「ああ、そっかっ! ジュエルシードに頼ってしまうような弱いばかなのはには無理ってものよね! ごめんごめん。考えが及ばなかったわ!」

「うるさいうるさいうるさーーいっ!!!」

 

 あたしの堰を切ったような罵倒についになのはがキレた。それと同時になのははデバイスをこちらに向けて魔力のチャージを図る。ここで怒るって事はそれなりに自覚があったと思っていいのだろうか?

 とはいえ、あたしもつい今のなのはの醜態に怒って色々とぶつけたけど早まったかしらね? すごい魔力が収束しているし。

 今までは非殺傷設定だから殺す気は無かったんだろうけど…最悪、障害が残る体になっちゃうかも。けど後悔はしていない。

 

「アリサちゃん。そこまで言ったからにはもう許さないよ」

「許しなんて求めていないわよ。事実を告げられたくらいで怒るなんて程度が知れるわよ?」

「……さよなら、アリサちゃん。ディバィィィン、バスタァァァーーー!!!」

 

 収束した魔力の砲撃。ジュエルシードの魔力も合わさったその砲撃はとてもじゃないけど避けたり、防げるようなものじゃないわ。

 意地でここまで持たせたけどダメだったみたいね。このバカはあたしが止めようと思ってたけど…さすがにこの砲撃は。

 

「鈴、ごめん。あたしじゃ止められなかった」

 

 もう砲撃を防ぐ手段を持っていないあたしはこのまま身を任せることにした。 

 

 

「【盾】!!」

 

 

 けど、次にやってきたのは聞き慣れた人の声と姿。あたしの前に割って入ってきたその人はその独特の魔法でなのはの砲撃を防ぎきった。

 見慣れた黒髪。さっきまで体中に傷を走らせていたけど、もうそのような痕は残っていない。でも上の白カッターシャツは血糊でベタベタだ。

 こいつはいつもそうだ。あたしが本当に必要な時には助けてくれる。だからこその好きな人なんだけどね。

 

「もう大丈夫なの?」

「ああ、ありがとうなアリサ。後は俺がやるよ」

「無理しないでね」

「善処する」

 

 その言葉だけじゃ少し不安だけど今は大人しく下がる。そして鈴を信じながら見守る事にする。

 

「さてと……なのは、いくら俺でも怒るぞ?」

「鈴君…」

 

 




完全に賛否両論な展開に読者の反応が怖いです。

一応、『ヤンデレ』タグはあるけど……大丈夫だろうか。

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