魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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この辺りから話や何やらに粗さが目立つようになった気がする。


19・情ケ無用 戦闘開始!

『プレシア』

 

 

 薄暗い部屋の中、目の前の生体ポッドに漂う私のかわいいアリシアはただ眠っているだけのように綺麗なもの。とても命が宿っていないとは思えない。

 いや……必ず命を宿らせる。そしてあの優しかった日々をもう一度手にする。

 侵入者などに邪魔はさせない。そのために万全を期したのだ。その上、実力だけは本物のあの人形も――

 

 ――本当に人形?私を慕うもう一人の娘じゃないのか? 

 

「……違う。あれはアリシアじゃない。私の娘なんかじゃない」

 

 ――本当にそう思ってるのか?

 

「違う…違う……違う!」

 

 ――私は本当はフェイトを…

 

 

『不器用な愛情ばかり向けるなってことだ。生まれはどうあれ、親なんだろ?』

 

 

「違う!!」

 

 自身の叫びが木霊した。

 そう……違う。あの人形は娘じゃない。そのために決別の意を込めて出生の真実を語ったのだ。 

 しかしあの日、カレン師匠に再会した日、彼女から言われたその時から私の中でハッキリと形になり渦巻く想いはまだ燻っている。だがそれを必死で否定して今の自分を保つ。

 

 狂ったままの私で在れと…

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『鈴』

 

 

「あぁ…うん、まずいな…」

 

 門番っぽい青の傀儡兵と戦闘に入って結構経った。向こうはその巨体に似合わず結構な速さで動くし力も半端じゃない。砲撃は最早ビームだし装甲も半端じゃない。

 こっちも【衝撃】や【射撃】等、高威力の魔法を駆使して応戦していたのだが、如何せん効いているのかどうかがわかりづらい。

 で、途中で思っちゃったわけですよ。

 

 いくらなんでもこいつ強すぎじゃね?って。 

 

 何だか嫌な予感がしたので動力のような物がないかサーチしてみるとビンゴ。胸部の装甲の奥に高魔力反応を検知。【衝撃】を連発して胸部の装甲を一部何とか剥がすことに成功。そして露出したそのコアは――

 所存のわからなかった最後のジュエルシードでした。

 最悪な状況に片足突っ込んだと思ったね。どおりで他の奴より抜きん出た性能を持ってるワケだよ。見つからないと思っていたら向こうが既に回収していたとか…泣けてくる。 

 

「っと、【盾】!」

 

 傀儡兵は知った事かと言わんばかりに再び攻撃を仕掛けてくるが【盾】で凌ぐ。

 いけない、いけない。戦闘中に考え事とか命取り過ぎる。とりあえず今この場をどう乗り切るか?

 跳ばされたユーノ達は場所がわからない以上、期待できない。他のみんなにしてもそうだ。て事はやっぱり俺1人で切り抜けるしかないのか。実は俺も結構なダメージを受けている上に、魔力も消費しているんだけど。

 おまけにこのジュエルシード。今までの暴走体のようなのではなく、プレシアの手が加えられている以上、効率良く運用できるように調節されているはずだ。

 泣き言もそろそろやめよう。どの道、時間も押してるだろうし後退は無い。前進あるのみ。今からは魔法も考えて撃たなければ。でないと魔力切れを起こしてそのままTHE・ENDを迎えてしまう。

 

「それにあいつらもがんばってるのに……俺だけみっともない事できないでしょうが!!」

 

 目の前の傀儡兵に再び突貫を仕掛ける。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『アリサ』

 

 

「だからっ、話をっ、聞きなさいって!」

 

 フェイトの連撃を捌きながら言葉を投げかける。あたしも成長したもので、以前は追いつけなかったこの猛攻を凌いでみせている。

 でも話しながらだと正直きついけど、うまくすれば戦わずに済むかもしれないと淡い期待感もある。

 

「あんたは優しい母親に戻ってほしいんでしょ? プレシアだって本心からあんたを嫌ってるわけじゃない。だから――」

「その言葉の何処に信じられる要素があるの?」

 

 その一言に言葉を詰まらせてしまう。それはそう。証拠も何もないのにそのような事を言われても、敵対しているフェイトからすれば自分を惑わそうとするただの虚言にしか聞こえないだろうから。でもだからと言って……

 

「あんたはそれでいいの? ただ従うだけの『人形』のような生き方で!」

「……かまわない。『人形』だと知った今の自分にはそれが存在意義だから」

 

 その言葉を聞いた瞬間、あたしの胸の内から怒りが湧いてきた。

 

「っ!? あんたねえ、いい加減に――」 

 

 言葉は続かなかった。

 突如として、室内に耳をつんざくような轟音が響く。あまりにも突然だったので、戦闘中であるにも関わらず、各々がその轟音の出処に目を向ける。そして次にはあの戦い慣れしたクロノやフェイトでさえも驚きの表情を浮かべる。

 なんと轟音の出処はすずかの方から。すずかはデバイスを突き出すように構えたままの姿勢。

 そしてその矛先には無数の光剣にその巨体を貫かれた傀儡兵の姿。

 その姿は悲惨なもので、巨体である事も合わさり御伽噺などで聞く地獄の針山のような様相と化していた。一目でわかる。この傀儡兵はもう行動不能であると。  

 そんな前衛的なオブジェを作り上げた当の本人は構えを解いてこちらを――正確にはフェイトへと顔を向けていた。 

 背筋が寒くなるようなとてもキレイな笑顔で。

 戦闘中であるはずなのに誰しもが動けないでいる。無意識の内に気圧されてしまう。それほどまでに良い笑顔なの。その笑顔のままこちらに歩み寄ってきたすずかは言った。

 

「アリサちゃん。クロノさんが苦戦してるみたいだからフェイトちゃんは私にまかせてクロノさんの援護に行ってもらえないかな?」

「えっ!? 僕?」

「わ、わかりました…」

「お願いね。後、絶対に手出しは無用だからね」

 

 思わず敬語で返事を返してしまった。逆らってはいけないような雰囲気ね。いそいそと大人しく、向こうにいたクロノの元へ移動する。 

 クロノは唖然とした姿で立ち尽くしてた。

 

「彼女はどうしたんだい?」

「あれは…多分怒ってるんだと思う」

「怒る?」

 

 もしかしたらあたしと同じ理由で怒ってるのかも。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『フェイト』

 

 

 目の前の少女(すずかって言ったかな?)に己のデバイスを振るうも悉く受け止められ、弾かれてしまう。その動き自体は洗練されたようなものは無いけど、反応速度が異常だ。信じられないことにこの子は自身の身体能力で私の連撃を捌いている。

 

「バルディッシュ!」

《Blitz Action》

 

 超高速移動魔法を駆使して背後に回り込むけど、それさえも届いてない。

 

(っ! また防がれた!?)

 

 今ので確信した。この子は間違いなくこの速度に反応した。それは並の魔導師……いや、人間には不可能に近い。これを防がれたとあっては魔法で主導権を握るしかない。 

 

(できるの? 私に…)

 

 さっきの魔法を見るに、この子は魔法もかなりのものだ。それに今まで戦ってきた時を見ても、この子の魔法はどれも強力であり備えた魔力量もあのなのはに引けを取らない程だ。

 想定外だった。この子は後方支援タイプの魔導師だと思ってたけど、いざ蓋を開けてみれば高い身体能力を備え、魔法も近接戦もできる超万能タイプ。

 そんな子から勝ちを奪えるのか?

 もし勝てなかったらどうなる?

 そんな考えたくもない事が浮かんでくる。今の自分は侵入者を退けるだけの『人形』。だけどそれさえも果たせなかったら私の存在意義は……

 

 嫌だ。

 

 嫌だ嫌だ。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「っ!?」

 

 自分の中で何かが弾けて、その感情のまま動いてた。

 

「私はっ! 負けるわけにはいかない! あの人にとっての私は…戦うしかないの!」

「……フェイトちゃん」

「ここで負けたら私は…本当に不要な存在になってしまう…」

「……」

「くっ! だから…」

「いい加減にしてっ!!」

「あっ! っつぅ!?」 

 

 私の攻撃も結局は全て凌がれて、逆に大きく弾かれてしまった。

 

「フェイトちゃん、はっきり言いますね?」

「何…をっ!?」

「フェイトちゃんがどんなに今の(・・)プレシアさんのために頑張ったところで振り向いてもらう事なんてありえません」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『すずか』

 

 

 私は自分でも珍しい怒りの感情を抱いてた。それは本来は優しい子であるはずのフェイトちゃんをこんな風にしたプレシアさんにではなく、フェイトちゃん本人に。  

 

「フェイトちゃんはプレシアさんに対して何をしましたか?」

「何を、言ってるの?」

「プレシアさんの言う事を聞くだけで聞く。そうすればプレシアさんはいつか自分を褒めてくれる。そう思っていたみたいですけど、そんなの、プレシアさんからすれば本当に都合のいい人形でしかありません」

「っ!?」

「それでもフェイトちゃんはいつかは…いつかはと自分から動こうとせずに受身の姿勢。それではいつまで経っても振り向いてもらえません」

「……ま…れ」

「なんでプレシアさんに本音でぶつからないんですか? 自分の居場所を自分で作ろうとしなかったんですか? フェイトちゃんは本来、そういう強さを持っているでしょう」

 

 私がフェイトちゃんに対して怒っていたのはコレ。プレシアさんに本音でぶつかることでまた違った結果を……居場所を得られたかもしれないのに彼女はそれをしなかった。本来はそのぐらいの強さを持っているはずなのに。

 かつての私もそうだった。

 同族嫌悪…とは違うけど似たようなものかもしれない。本心は繋がりを求めているのに自分から動こうともせずに求めてばかりいる。

 でも私はあの日、鈴君に打ち明けた日以来、強くあろうとしてみんなに、果てはお姉ちゃんにも自分の想いの丈をぶつけた。それは見事に受け入れてもらって、私はかつて嫌っていた自身の血を嘆く事も無くなった。

 フェイトちゃんは決して自分で生き方を決めず、今の『人形』としての生き方に逃げている。

 

「それにその生き方の先にはあなたやプレシアさんにも救いなんて無いです」

「だまれぇぇぇぇ!!」

「っ!?」

 

 突然の叫びと共にこちらに飛び掛ってきたフェイトちゃん。その速度はさっきまでのものと違って、一段と速かった。防ぐことができたのは夜の一族の反射神経による賜物。

 そこからはもう無茶苦茶。フェイトちゃんの連撃は癇癪を起こした人のソレで構えも型もあったものじゃない。ただ爆発した感情をぶつけているのみ。

 

「私だって…私だって本当は母さんと笑っていたかった! でも…私はあの人の娘じゃない! だから…」

「血の繋がりだけが家族の繋がりじゃないです! それに何度も言ってますがプレシアさんだって本心ではあなたを慕ってます!」

「あれだけの事をされてるのに信じられるわけない!」

「だから私たちはフェイトちゃんだけじゃなく、プレシアさんも助けにきたんです!」

「あなた達に何ができるっていうの!」

「少なくともウジウジとして何もしないフェイトちゃんよりは何かができます!」

「っ!? もういい!!」

 

 大振りの一撃を防いで後方に大きく弾かれた。再び距離を詰めようとしたけど、急に手足が動かなくなる。それは金色に輝くバインドで拘束されたせい。

 

「すずか!」

「くっ!? 今助けに…」

「来ないで!! これは…私とフェイトちゃんとの勝負。手を出しちゃダメ!」

 

 声の方を見ると、どちらも傷つきながらこちらに駆けつけようとする二人の姿。奥の残骸を見るに、傀儡兵を倒せたみたいですね。

 だったら次は私の番だね。

 

 

 

「…見守りましょう。ああなったらすずかは頑固なのよ」

「君はっ!? 彼女が心配じゃないのか!」

「心配してるわよ。でもそれ以上に信じてるのよ」

「っ!? だったら僕も信じてみるよ」

「…ありがとう」

「ふんっ!」

 

 

 

「アルカス・クルタス・エイギアス…」

 

 フェイトちゃんは大掛かりな魔法を行使するみたい。バインドはそのための布石。バインドを解除しようにも、込められている魔力が強いのか術式が緻密なのかうまくできない。

 まな板の上の鯉のような状態なのに不思議と取り乱さない自分は慣れてしまったという事なのでしょうか?

 逃げられないのなら、真っ向から受け止めます。

 

「来て! フェイト・テスタロッサ!!」

 

「フォトンランサー・ファランクスシフト…撃ち砕け、ファイアー!!」

 

 金色の光と轟音が室内を染め上げた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『フェイト』

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 やってしまった。

 持ちうる魔法の中でも最高のモノを撃ち込んだ。もはや侵入者撃退の任を半ば忘れて、彼女の言葉に対して八つ当たり気味に攻撃してしまった。彼女の発した言葉の1つ1つが私の胸に突き刺ささっていた。彼女の言葉を冷静に、そして素直に受け止めていれば私はまた違う道を選んでいたのだろうか。

 けどもう遅い。それにまだ戦いは終わっていない。残り後2人、残っている魔力はほとんど無いけど、この命を刺し違えてでも…

 

 

「ケホッ、ケホッ。さ、さすがに効きました…」

 

 

 ……嘘。

 信じられない。あれだけの魔法を受けたのに、なんでまだ立っていられるの?

 暫く咳き込んでいた彼女は落ち着きを取り戻しこちらを見る。バリアジャケットはボロボロ。破けたバリアジャケットから見える素肌には多少なりとも裂傷ができている。けどこちらを見据える紅い瞳は微塵も揺らいでいない。

 

「次は私の番ですね?」

 

 彼女はデバイスを構える。

 マズイ。こちらにはもう魔力もほとんど残っていない。ならば撃たせる前にと考え、前に出ようとするのだが何故だか体が動かなかった。

 思考は問題なく働いている。けど体が脳の命令を受け付けない。

 

 何故? 

 どうして?

 彼女の紅い瞳を見ただけ(・・・・・・・・)なのに?

 

「In cer dornic voce…」

 

 彼女の呪文と共に高まる魔力。それは下手をすれば私をも超えるほど濃密なモノ。そして私の遥か頭上には広大な魔法陣。その陣の中央からは紅く輝く巨大な光剣の刃が覗いていた。

 

「Hai sa mergi!! ブラッディィティアァァズ!! 」

 

 避ける術のない私は紅の剣に貫かれる。  

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『クロノ』

 

 

 僕は目の前の惨状に戦慄している。

 この広大な大広間のほぼ中央にできたクレーター。その真ん中でフェイト・テスタロッサは仰向けでその身を投げ出している。かなりのダメージを受けたのか、その姿は弱々しいがちゃんと生きている。

 そして彼女にその結果を与えた張本人、月村すずかはそんな彼女の傍に歩み寄る。

 

「私の勝ちですね」

「…うん。私の負け……ねぇ?」

「どうしました?」

「何で……負けたんだろ?」

「前を向いて歩いているかいないかの違いですよ」

「前を向いて?」

「フェイトちゃん。私は純粋な人間じゃありません」

「人間じゃ、ない?」

「私はそんな自分が大嫌いでした。強くなろうともしないのにただ自分の血を嘆いてばかり」

「……」

「そんな時、鈴君に出会いました。そして彼は言ったんです。強く在ろうとするんだったら周りを頼れと」

「……」

「フェイトちゃん。私たちを頼ってみませんか?」

「えっ?」

「一緒にプレシアさんに会って彼女の本心を聞きましょう。あなたはまだ…フェイト・テスタロッサは始まってすらいません」

「…できるかな?」

「やるんです」

「……ダメだったら?」

「だからこそ周りを、私たちを頼ってください」

「でも…」

「そこまでです。フェイトちゃんはどうしたいんですか? 正直に答えてください。ちなみに敗者に拒否権なんてありませんよ」

「……あなた達を…一度、信じてみる…私は…母さんに問いただしたい。本当は私を…どう思っているのか」

「なら決まりですね」

 

 話が終わったみたいだ。そしてすずかはフェイト・テスタロッサに治癒魔法をかけ始める。どうやら魔力も分け与えているようだけど、彼女はどれだけの魔力量を秘めているんだろう?

 本当は執務官として今すぐにフェイト・テスタロッサの身柄を拘束するべきなんだろうけど、それをするのは何故か躊躇われた。彼女達のお人好しが感染ったんだろうか?

 

「おつかれ、すずか」

「あ、アリサちゃん。クロノさん。お疲れ様」

「さて、かなり時間がかかった。早く奥に進もう。フェイト・テスタロッサ、君には同行、案内してもらうよ」

「うん。わかった」

 

 どうやらすずかの治癒も終わったようだ。そして先を急ごうとすると、突然、僕達が入ってきた入り口が開いた。

 

「フェイト! 大丈夫かい!?」

「みんな、無事?」

 

 入ってきたのはユーノとアルフの2人だった。2人の姿はかなりボロボロでダメージを負っているようだったが、この様子をみるにまだ大丈夫そうだ。

 アルフはフェイトの姿を確認した途端、目尻に涙を浮かべながら彼女に抱きつく。久々の再会でお互いの無事を喜んでいるそうだ。

 その姿を横目に僕はユーノに疑問をぶつける。

 

「ユーノ。彼は…鈴はどうしたんだ?」

「それが僕達だけが罠に掛かって分断されたんだ。その後は手当たり次第に進んでここに辿り着いたというわけさ」

「なんだって!? じゃあ彼は1人、孤立してしまったのか!?」

「ごめん。僕達の思慮が足りなかった」

「いや、謝る必要は無い。彼だって素人じゃないから恐らく無事だろう。それともう1つ、来る途中で高町なのはを見なかったかい?」

「いや、見てないけど何かあったの?」

「それは…」

 

 この出来事を話そうかどうか悩んでいると、突然念話が飛び込んできた。

 

『あ~あ~、聞こえるか? みんな?』

 

 それは今しがた、安否が問われた彼の声。

 

『鈴、君は大丈夫なのか!?』

『その声はクロノか? ああ、大丈夫だ。念話が通じるって事はうまく停止できたみたいだな』

『よくやってくれた。これでアースラとも連絡が繋がる。それとこれからなんだけど…』

 

 僕は鈴に現在の状況を簡潔に説明する。周りの連中は彼の無事を素直に喜んでいるようだった。

 

『そんなワケで僕達はこれから最奥部に突入する。君はどうする? 救助は必要かい?』

『あぁ……必要ない。こっちは行き止まりみたいだから、一旦、戻ってから追いかける。だから先に行っててくれ』

『わかった。なら先に行く。そっちは1人なんだから無茶はするなよ』

『大丈夫だって。それじゃあ頑張ってくれ』

『お互いにね』

 

 激励の言葉と共に念話が途絶える。話を聞いていたみんなも表情を再び引き締め、これからに向けての決意を新たにしたようだった。

 

「よし。行こう」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『なのは』

 

 

(みんな鈴君が好き…)

 

 思い出すのはすずかちゃんの告白。その堂々とした姿と言葉に私は居た堪れなくなってその場から逃げた。

 私は逃げた。追ってこられたら私はすずかちゃんにどう接すればいいのかわからなかったから、1人にしてくれてよかった。

 そこから私はこの胸の内から際限なく湧き上がる黒い感情を撒き散らかすかのように傀儡兵を蹂躙していった。現に今居るこの部屋は足の踏み場が無いくらいに傀儡兵の残骸が転がっている。

 けどこれだけ鬱憤を撒き散らしても私の黒い感情は消えない。放っておくとこのまま飲まれてしまいそうだった。自分が自分でなくなっちゃいそうだ。

 

「助けてよぉ鈴君。怖いよ…」

 

 こんな時でも鈴君に頼ろうとする私はもうダメなんだろう。ダメだとわかっていても鈴君の温もりを手放したくない。誰にも渡したくない。私だけのモノにしたい。

 いつだったか、そこまで依存していないと思っていたが現実は違ったみたい。

 暫く、塞ぎこんでいたら念話が響いた。それは私が望んでいた彼の声。

 

(鈴君!)

 

 顔を上げる。彼の声を聞いただけでさっきまでの黒い感情を忘れる事ができた。なんて現金なんだろう。

 彼の話を聞くと一旦戻るとの事。私は鈴君に会うために即座に来た道を引き返し、鈴君の元に走る。

 事実から逃げている事は自覚している。

 それでも私は鈴君を求めて走る。

 

 

 そして私はこの行動を激しく後悔することになる。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『鈴』

 

 

「後から追いかける…ね」

 

 呟いてさっきまで稼動していた駆動炉にもたれかかる。その際、駆動炉に血がベッタリとついてしまうが知ったことじゃない。

 ふと霞む視界にさっきまで戦っていた傀儡兵が映りこむ。

 今までの雑魚のように破壊されているわけではない。まるで事切れた人形のようにキレイな状態で倒れこんでいる。そして少し遠くに転がっているのはジュエルシード。

 結局、俺はこいつを破壊することは不可能だった。ならばと考えた結果は動力、つまりジュエルシードの除去だった。念入りにサーチした結果、こいつの動力がそれだとわかったからこその作戦だ。

 で、結果は成功したのだが、払った代償が大きすぎた。

 体はもうほとんどボロボロでぶっちゃけ全身血まみれだ。左腕も折れてるな。目も霞んできている。

 けど一番の問題は魔力がもう尽きた事だ。

 体が訴える強制スリープを無視して戦ったんだから当然の結果か。あぁだるい。そんな状態でも駆動炉を停めたんだから自分を褒めてやりたいね。

 

「…っと、さすがに限界か?」

 

 もう目もほとんど見えない、なんか寒い。これは失血とかじゃないな。魔力が無くなったんで体がゆっくりと死んでいってるんだ。

 最後に思い浮かんだのはみんなの事。

 作戦の成功を疑っていないけど念のために心配かけないよう虚勢を張って念話もしたんだから大丈夫だろう。あ、でも絶対みんな怒るな。無茶しすぎって。後が怖いなぁ。

    

「まぁ…頑張ったんだから……許して…くれ……よ…」 

 

 

 そこから俺の意識は途絶えた。

 

 




すずかはフェイトにこの段階ではまだ敬語方式。

※ちょっと設定

『ブラッディ・ティアーズ』

すずかの所有する魔法の中でも最上級の威力を誇る。対象の空より巨大な紅の剣を落とす(一応)範囲攻撃の魔法。当然、バインド等で対象を拘束しておかないと容易く避けられる
「第666拘束機関解放 次元干渉虚数方陣展開 我が魂の帰する場所にて根源に生まれいでし剣よ」

尚、作中の詠唱はパチスロ悪魔城ドラキュラのとある歌の歌詞から。
マジで名曲なのでオススメ。



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