魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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コロコロと視点が変わります。ご容赦ください。


18・突貫します!

『鈴』

 

 

 俺達の帰宅許可が出てから2日ほど経った。その間に先生やプレシアの関係性での事をなのはとアリサとすずかにも話した。その話を聞いた一同はそれはもう大層驚いていた。そしてさらに話し合った結果、俺達の方針は先生の『プレシアをどうにかする』の形で決まった。お人好しの俺達だとその形に落ち着くわな。

 後、盗み聞きしていた管理局のリンディさんとも話し合った。盗み聞きしていたんだからこちらの要望も検討しておいてくれと。

 

『はぁ~。あなたも彼女と一緒なのね…』

 

 リンディさんからの一言だ。聞いてみると、先生とも似たような遣り取りを行ったらしい。あのサーチャーに俺が気付いて先生が気付かない道理は無いもんな。

 そんなわけで逮捕は避けられないだろうけど、プレシアの可能な限りの弁護を頼みますと要望しておいた。ついでにプレシアの本音とかはあなたの胸の内にしまっておいてくれとも。フェイトについては悪いようにしないでとアルフ共々進言しておいた。

 そんな打ち合わせを終わらせた後の過ごした日常は短いながらも、色々と波乱万丈を過ごした俺達にとってはまさしく大切な物だと改めて実感した。さっさとジュエルシードを集め、全てを終わらせてこの平凡だけど大切な日常を再び謳歌したいものだと思った。

 

 そんな日常を過ごしていると、とうとうリンディさんから連絡が入った。明日、作戦を開始すると。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 朝、いつもより早い時間に目覚めた俺はいつも過ごす日常のように手っ取り早くやるべき事を終わらせる。そして作戦決行日である今日、着替えるのは学校に行くための制服ではなく、戦いに赴くための戦闘服。

 先生が好んで着る白のカッターに黒のパンツというシンプルな服装。机からフィンガーレスグローブを取り出し嵌める。

 鏡の前に立って気持ちを整える。それらの準備を終わらせて居間に行くとすでに準備を終わらせたユーノがいた。ユーノはいつも俺が貸す私服ではなく、初めて出会った時のあの服だ。その顔も決意を固めた男の顔。

 

「何かいつもより気合入ってるな」

「うん。僕のせいで始まった一件だからね。気を引き締めないと」

「それは言わない約束だろう」

「あいたっ!」

 

 気にするなと言ってるのに、未だ引き摺ってるような事を言うユーノに軽くデコピンをくらわせる。額を押さえ痛そうにしているが顔は笑ってるのでちょっとは力も抜けたのだろう。苦笑してしまう。

 

「「じゃあ、行きますか」」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『なのは』

 

 

 自分の部屋で手早く着替え、レイジングハートを首にかける。昨日、リンディさんから連絡があったとおり、今日が作戦の決行日。準備を終わらせて外の門で鈴君たちを待つ。

 少ししたらいつもの道路から鈴君とユーノ君がやってきた。挨拶も簡単に交えて鈴君の隣に立って、さも当然のように手を繋ぐ。

 鈴君は繋がれた手をいつもの事と思ってるんだろう、やれやれといった感じで苦笑しながらも受け入れている。

 まるで手のかかる妹に接する兄のように。

 今、考えてみると鈴君はいつもこうだった。なまじ昔からの付き合いがあるせいか、私を妹のように扱う傾向がある。以前は盲目的に甘えられたけど今の私はこれで満たされない。もっと私を意識してい。

 これがアリサちゃんやすずかちゃんだったら鈴君は違う反応を示す。あの2人には鈴君は対等の友人のように接してる。

 それが今の私にはすごく不愉快だ。まるで私は除け者のようで。

 

「なのは、痛い。もうちょっと手を緩めて」

 

 暗い気持ちに入ってしまったせいか、いつの間にか握力を強めてしまったみたい。だけど緩める気は無い。むしろ放す気はないぞとばかりに力を込める。

 暫くそうしてると、鈴君も諦めたようでそのままで行くようになった。

 うん。それでいいよ。鈴君を放す気は無いんだから。

 

 私のモノなんだから。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『アリサ』

 

 

 短い帰宅だったけどこの上なく充実した日常を謳歌したあたしは、鈴達との合流地である公園まで車で送ってもらう。

 その車の中で普通ならこれから赴く戦いを思って耽るんだろうけど、あたしはちょっと違った。思い返していたのは、以前に誰にも秘密で蓮さんと話したちょっとした会話。

 

 

 

『鈴のフォロー…ですか?』

『そうだ。あいつの体質はちょっと特殊でな。魔力の過度な消費は最悪命に関わる』

『えっ?』

『だから今回の戦い……もし仮にあいつがそんな最悪に直面した場合はおまえが助けてやってくれ。これは鈴と同じ魔力をもつおまえにしかできないんだ。何、魔力を供給するだけの簡単なお仕事だからそう難しい事じゃないさ』

『あたしが鈴の魔力を持っているからですか?』

『そう。おまえの幼少の時に体験したという不思議な出来事。その時に取り込んだんだろうな』

『それってすごい偶然ですよね? あの時の出来事が今になってこうやって結びつくんですから。鈴の魔法の失敗でしたっけ? 鈴はそんな幼い時から魔法使いだったんですね』

『まあ……な』

『でも魔力の供給ってどうやるんですか? あたしはまだ教わっていませんが…』

『ああ、それはだな』

 

 

 

 そこまで思い浮かべてあたしはハッと我に返る。次いで頭の中でいっぱいになった、蓮さんの教えてくれた『方法』を振り払う。頬に手を当ててみると体温が上がってるのがわかる。きっとあたしの顔も赤くなってることでしょうね。

 

《アリサ様? いかがなされました?》

『えっ? あっ! な、何でもないわよ』

《しかし心拍数、体温の上昇を感知しました。僅かに発汗もしてるようですが…》

『何でもない!』

 

 突然のグローリーからの念話を何とか凌ぐ。

 いけないいけない。これからあたしは戦場に赴くんだ。ジュエルシードやテスタロッサ親子の事もあるんだから、気持ちを切り替えないとね。

 

頑張るしかないわね。 

  

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『すずか』

 

 

 私は集合場所であるいつもの公園でみんなを待ってます。ちょっと来るのが早すぎたみたい。

 手近のベンチに腰掛けてこれから起こるであろう戦いに向けて、僅かに揺らいでいる心を落ち着かせる。

 リンディさんから作戦決行の旨を伝えられた時から覚悟していたとはいっても、命の遣り取り。いくら闇を知る夜の一族の私でも私がそれを経験するとなると、やっぱり怖いです。

 鈴君から伝えられた『テスタロッサ親子をどうにかする』という決定。話し合いで解決できたらそれに越した事はないんだけど、多分ダメでしょうね。以前のなのはちゃんではないけど、話し合いでどうにかなるほど甘くはありません。力に頼ることになります。

 だからこそ、固めた”覚悟”。

 そうこう考えているうちに、心もいつの間にか落ち着いてきた。そしてこちらにやって来たみんなの姿も見えてきた。

 腰掛けていたベンチから立ち上がって、手を振ります。それに応えるのは鈴君。

 まるでいつもの日常のようだけど、今から赴くのは戦い。それぞれの想いや思惑が交差する場所。どのような結末になるのかわかりません。けど私たちは全力で事に当たるのみです。

 

 それはそれとして、鈴君と手を繋ぐなのはちゃんにちょっぴり妬いて心が揺らぎそうでした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『鈴』

 

 

 みんなと合流して、リンディさんと連絡をとり、一同アースラへ。管理局が身柄を引き受けているアルフと対面、合流した後にリンディさんやクロノとも対面。挨拶もそこそこに早速作戦内容の確認。

 最初に先発隊の武装局員が乗り込んで可能ならプレシアの逮捕。そして後発で俺達といった具合だ。先発隊でどうにかなったらそれに越した事はないんだけど、正直な話無理だと思う。

 そしてリンディさんの激励の言葉を最後に作戦会議は終了し、いよいよ作戦決行である。

 

 

 

 

 

 予想通り、先発隊はやられました。それも本拠地の『時の庭園』の建物内部に入ることなく。抵抗はあると予想していましたが、その規模が想定外だった。

 武装局員が庭園の入り口に転送された途端、そこらから魔力反応を感知。同時に地面から様々な姿形をした鎧甲冑が出てきて武装局員をなぎ払ったのだ。

 数体程度ならどうにかなったのだろうけどそれがパッと見、3桁の数ならもはや数の暴力。しかもまだ増えているようだ。おまけにその鎧甲冑(傀儡兵というらしい)の力は1体でもAランク相当だってさ。

 対して、武装局員はBランク程度。隊長格でAランク。ということはこの結果は当然の帰結だったのかもね。その後、武装局員は転送で撤退させられる。

 つーわけでリンディさんから俺達に出動要請がかかった。

 

「いやはや、やっぱり俺達も出向くしかないのね」

「…君達にはすまないと思っている。本当は僕達で解決しなければならないことなのに」

「気にすんなって。元々俺達も出向くつもりだったし」

「そうそう、あんまり気にしすぎると若いうちからハゲるわよ」

「クロノさん、ストレスは溜め込んではダメですよ」

「胃に穴が開くよ?」

「…なんだろう。気を使われるのにありがたみを感じない」

 

 軽い遣り取りの後、エイミィさんから転送準備が終わったと伝えられた。その一言でみんなの表情はこれから戦場に赴く魔導師のソレになった。かつてはただの一般人だったみんなもこんな表情ができるようになったことには頼もしさと同時に寂しさを感じる。 

 なぜならそれは”非日常”を知ったという証だから。

 

 

 

 先発隊と同様、入り口跳ばされた俺達はさっきの傀儡兵とご対面。そのまますぐさま交戦状態に移行。先発隊と違ってこちらの面子は俺、なのは、アリサ、すずか、ユーノ、アルフ、クロノの7人。どいつもこいつもランクなら上位の面子ばかり。傀儡兵を問題なく駆逐していく。 

 そしてあらかた殲滅して建物内部に乗り込んだのだが問題が発生した。

 

「庭園の内部構造が……変わってる」 

 

 この庭園の事情を知るアルフに先導を任せる手筈になっていたのだが、この台詞の通り構造が変わっているらしく、アルフの先導は無理と判断された。

 

「ごめん。さすがにアタシもこんな仕掛けがあったのは知らなかったよ……ていうのは言い訳だね」

「気にしないでよ、アルフ。僕達はこんな事では動じないから」

「ユーノ……」

「クロノ、サーチャーや探索魔法はどうだ?」

「……ダメだ。何か仕掛けがあるせいか悉く妨害されている。念話や通信の類もだ」

「という事は?」

「しらみつぶしに探すしかないってことさ。とりあえずここから二手に分かれて進もう。やることは2つ。プレシアの逮捕とこの庭園の駆動炉の停止だ。こんな大掛かりな妨害だ。恐らくエネルギーは駆動炉から供給されているはず。駆動炉を停めれば仕掛けも停止して念話等の機能も使えるようになるはずだ」

「了解っと。で、どう分ける?」 

「それなら考えてる。僕となのはとすずかとアルフ。そして君とアリサ、ユーノのチームだ」 

「前衛、後衛、はっきりしてるな。なら――」

「ダメッ!!」

「……なのは?」

「ダメ! それはダメ! 鈴君は私とっ!?」

「ちょ、おい! 落ち着け、なのは!?」

 

 焦った。本当に焦った。急になのはがこんな癇癪を起こすとは思わなかった。おかげでこっちも少々混乱してしまった。 

 俺はどうにかなのはを宥めすかし、落ち着かせてどうしたのかと聞いてみる。すると返ってきた答えは私と一緒にいろとの事だ。

 最近のなのははどうも不安定だ。この場面でこんな我侭を言う子ではなかったと思ったんだけど。この年頃の子ってこんなに難しいのか?

 その後、クロノがいろいろと叱咤してきたけど、何とか頼み倒して編成の変更を承認してもらった。そしてなのはにもちょっとばかし、妥協してもらった。   

 

 なのは・アリサ・すずか・クロノのチーム。

 

 俺・ユーノ・アルフのチームとなった。

 

 終始なのはは不満げにしていたが、この重要な場面では何時までも構ってはいられなかった。なのはには悪いけど、時間も押しているので我慢してもらおう。

 

「じゃあ、どちらかが駆動炉を停めたら念話で連絡を入れてくれ」

「了解だ。ヘマすんなよ」

「君達もな」

 

 互いに激励を交わし、俺達は再び庭園内に突入する。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『なのは』

 

 

「ディバィィンバスタァァー!」

  

 私たちの前に現れる傀儡兵を文字通りなぎ払う。クロノ君からは魔力を温存しろと言われたけど、正直知った事じゃない。私は今、非常に不機嫌。正直に言うとこのままフェイトちゃんと戦う事になってしまったら、私は自分を抑えられないかもしれない。だから傀儡兵で少しでもこのイライラを発散しておきたかった。

 

「ハァァッ!!」

 

 私の前ではアリサちゃんがグローリーを振るって傀儡兵を1体、また1体と確実に両断していく。その動きはもう最初の頃の素人さを感じさせない、クロノ君お墨付きの『騎士』だった。鈴君もそんなアリサちゃんをすごいなと褒め称えていたのを覚えている。

 

 そして、そんなアリサちゃんに嫉妬したのも鮮烈に覚えている。

 

 うん、もう『イイコ』はやめよう。私、高町なのははアリサちゃんがすごく嫌いだ。

 

 当たり前のように私の定位置である鈴君の隣に居座るアリサちゃんが嫌いだ。

 

 当たり前のように鈴君と笑いあうアリサちゃんが嫌いだ。

 

 そして鈴君が全面的に信頼を寄せているアリサちゃんが嫌いだ。 

 

 もういっその事、アリサちゃんなんて『      』しまえばいい……。

 

 

 

「なのはちゃん…」

 

 傀儡兵もあらかた片付いてクロノ君とアリサちゃんが残りを討伐している時、自身の醜い思考に埋もれていた私を呼び戻したのはすずかちゃんだった。

 黒いバリアジャケットのせいかすずかちゃん一族の特性か、全体的に黒の雰囲気を纏うすずかちゃん。そして、その中でもひと際眼を惹く紅い瞳はこちらの全てを見透かしてるかのよう。

 

「……そんなに嫌いですか? 鈴君に程近いアリサちゃんが」

 

 見透かされてたけど、大した驚きも無かった。自分の暗い部分を認めてしまったからか妙に肝が据わったような気がする。

 

「…ちょっとひどい事をいうね、なのはちゃん。鈴君はみんなを大切に想ってるの。そしてそんな鈴君は誰のモノでもない。アリサちゃんのモノでも、私のモノでも……そしてなのはちゃんのモノでも」

「ッ!?」

 

 次の瞬間、衝動的に私はすずかちゃんにデバイスを向けてた。けどすずかちゃんは全く動じることなくこっちを真剣に見据えている。

 今の言葉には聞きたくない事があった。鈴君が私のモノではないという事と……すずかちゃんのモノではない?

 認めたくはなかったけど、すずかちゃんには改めて聞かなくちゃ。

 

「すずかちゃんは…鈴君の事…」

「好きです」

 

 何の迷いも躊躇いも無くハッキリと告げた。私の聞きたくない言葉を告げた。

 

「私、月村すずかは秋月鈴が好きです」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『鈴』

 

 

「【衝撃】! 【射撃】!」

「チェーンバインド!」

「ガアァァ!」

 

 三者三様の攻撃で数多の傀儡兵を蹴散らしていく。クロノ達と別れてからかなり奥に進んだ。魔力を温存するため可能な限り戦闘を避けているが如何せん数が多い。どうしても戦闘の頻度が上がってしまう。

 

「いい加減何かしらの変化が欲しいよね」

「本当にね。同じ部屋ばかり通り抜けた気がするよ」

「結構上まで来たような感じはするけどな…」

 

 どうも俺達のルートは上の方に行ってるみたいで階段やエレベーターを使うことが多かった。その途中の部屋は尽くハズレ。いい加減ダレてくる。

 とか言ってた矢先、扉を抜けた先に現れたのは長い長い廊下。そしてその先には一際大きな扉。

 

「如何にもって感じだな」

「うん」

「ならさっさと行くよ!」

 

 アルフに急かされて一直線に走り出……そうとしたが俺は突然、妙な魔力を感じた。アルフとユーノは感じないのか気にせず先を走っている。

 

「ちょっと待て! 何か――」

 

 2人を止めようと声をかけるが遅かった。前方を走っていた2人の足元に突然、魔法陣が出現したのだ。驚いている二人を他所に魔法陣の輝きは強くなり、ひと際強く輝くと2人の姿は消えていた。

 

「…畜生、やられた」

 

 罠だ。転移系の。設置して対象を捕捉。そのままどこかに跳ばすという典型的な物だ。

 

「しかもガーディアンのおまけ付きですか…」

 

 扉の前には1体の傀儡兵が現れていた。

 まず目を引くのはその巨大さ。今までの傀儡兵も確かに大きかったが、この傀儡兵は正に巨人と呼ぶに相応しい。手にしている得物も破壊力ありそうな大鎚。更にその背中には2門の砲身。まんま砲身を背負ったロボットの風貌。

 次いでこれが重要なんだが……感じる威圧感と魔力が半端ない。今までの傀儡兵とは明らかにランクが違う。額から冷や汗が出てるのを自覚できる。

 一瞬、頭の中に逃げるの選択肢が出たがすぐに除外。これだけ傀儡兵が動いているという事は、プレシアに俺達の存在がばれたも同然。ならば向こうが何らかのアクションを起こすまでに到達しなければならない。

 ユーノとアルフの安否も気になるが、あいつらも素人ではないから自分で何とかするだろう。  

 そして目の前のこいつが門番である以上、ここで選ぶ選択肢は――

 

「撃破だな」

 

 腰を落とし構える。向こうも俺の気概を感じたのか臨戦態勢に入っていた。

 上等だ。ならば――

 

「レッツ、パァァァァリイィィィィッ!!」

 

 最強の大統領や奥州筆頭の真似して自身を鼓舞してみる。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『クロノ』

 

 

 もうどのくらい進んだのだろうか。僕達は傀儡兵の妨害を退けながらも突き進んでいた。だけど決して順調ではない。数の多すぎる傀儡兵を捌くのに、魔力を消耗してしまう。他のみんなも魔力量は高いとはいえ無限じゃない。現に今も息を切らせている。

 さらには――

 

「なのは大丈夫なのかしら?」

「酷な事を言うけど今は一刻を争う。戦えない魔導師を連れて行ってもかえって危険だ」

 

 彼女、高町なのはが離脱してしまった事が痛手だ。

 

 先程の広間で僕とアリサは傀儡兵をあらかた片付けた後、さっきまでいたはずの高町なのはの姿が見えなかった。事情を知っているであろう月村すずかに聞いてみると、1人にしてあげてほしいと言ってきたのだ。

 普通なら執務官としての立場上、すぐに呼び戻す所なのだが僕はそうしなかった。

 高町なのははここ最近どこか不安定な状態だった。出会った当初はこの事件に対してまだ積極的な動きを見せていたが、あの海上で封印の一件以来変化が訪れる。

 以前の積極性は消え、彼――鈴の事を気にかけすぎていた。それはこの事件をそっちのけにしてしまう程に。

 僕としては雑念を捨てて事件に集中してほしい所だったが、お互いの契約上の立場、それを抜きにして彼女の持ちうる実力を考慮して何も言わずにいたのだ。

 

 つまり僕は彼女のここ最近の不安定さを見越した上で、この作戦に戦力として数えていなかったのだ。

 

 冷たいと思うなかれ。この作戦は決して失敗できない。不確定要素を戦力と見据える程の余裕はないのだ。

 だから最初、彼女は一先ず置いて先を急ごうと言ったら、アリサ・バニングスにひどく責められた。だがこの作戦の重要性と一刻を争うという事を諭すと彼女は渋々と頷いてくれた。月村すずかはその事については何も言わなかった。

 そして進むうちに、今までよりも大きな扉の前にでた。今までの物と違うことから気を引き締め、扉を開く。その先は少々薄暗く、一際広いホールだった。そしてその広いホールの中央。

 

 フェイト・テスタロッサの姿があった。

 

 彼女はこちらが来るとわかっていたのだろう、バリアジャケットを纏い、その手にはすでにデバイスが握られている。最初から僕たちを迎え撃つつもりの様子で、聞きわけてくれるとは思えないが、一応問いかけてみる。

 

「管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。フェイト・テスタロッサ、重要参考人としてご同行願えますか?」

「私は命じられた事をただ実行するだけ。同行はできない」

 

 結果は失敗。彼女は手に持ったデバイスを構える。そして更には彼女の両隣に2体の大型傀儡兵が現れた。

 

「待ちなさいよ! 私達はアンタとその母親を助けに来たのよ! 少しは話を聞いたっていいんじゃない!?」 

「私達はアルフさんに頼まれたんです。あなたを助けてほしいと。だから…」

「必要ない」

 

 アリサやすずかの言葉は無碍に切り捨てられる。

 

「言っておくね。私はテスタロッサじゃない。ただのフェイト。私は……あの人の生み出した人形だから。人形はただあの人の命令に従うだけ」

「…あんた、まさか自分の?」

「それでもどうにかしたいなら……力づくで来て。私達はいつもそうだったでしょ?」

「でも…」

「無駄だ2人とも。彼女の言うとおり、力づくでどうにかするしかない」

 

 僕もキッパリと告げる。あそこまで言うんだ、これ以上の言葉が通じるとは思えない。それに彼女はどこか意固地になっているような印象を受ける。だからちょっと頭を冷やしてもらう方がいい。

 こちらの2人も躊躇したのはほんの少し。すぐに思い直して、デバイスを構える。それらを見届けた上で改めて向こうの戦力を確認する。

 AAAランクが1人。両隣の大型傀儡兵は不明だが今までの奴とは違うというのはわかる。それに比べてこちらは消耗した魔導師2人。騎士1人。しかも2人は成長しているとはいえ、経験は浅め。正直分は悪い。

 それでもやるしかない。そのために僕達はここまで来たんだ。

 

「それじゃあ行くよ!」

「「了解!」」

 

 




何でこんなに長く書いてしまったんだろうか?

当時の自分は。

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