魔法少女リリカルなのは~ご近所の魔法使い~   作:イッツウ

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とにかく拷問だ! 拷問にかけろ!

今回はちょっとだけの説明がくどいかな?


16・知り合いとの境界ってどこ?

 

『鈴』

 

 

 アースラで割り当てられた自室にて魔法の鍛錬を行っていた俺は艦内に響いたアラートに突き動かされブリッジに走る。俺が到着とほぼ同時にみんなもなだれこんで来る。

 

「なんじゃこりゃぁ」

 

 思わず漏れてしまった言葉の意味を語る光景がモニターに映し出されている。

 場所は海鳴市の海上。だけどそこで起きてる現象はまさしく天変地異。海上から天に昇る竜巻がいくつも巻き起こり、モニター越しでも眼を潰すような光を放つほどの雷鳴のおかげで海面は激しくうなり、休まることが無い。

 そんな見るからに危険地帯の中、俺の眼が捉えた2つの影。ズームしてもらうと映し出されたのはフェイトとアルフの姿。

 

「もしかして?」

「君の想像通りだろうな。彼女は海底に沈んでる残りのジュエルシードを強制発動させたんだ」

「何やってんのよアイツ!?」

「検知されたジュエルシードっていくつ?」

「9つだ」

 

 それだけのジュエルシードを強制発動させる程だ。どれだけの魔力を使ったのかは想像に難くない。おまけにそれだけの魔力を消費しておきながら、9つも封印できるとは到底思えない。以前の考察どおり、フェイト達は半ば焦ってると見て間違いないようだ。

 けど、今はそれよりもすることができた。

 

「面倒なことになったな……ユーノ、転送を頼む」

「わかった」

「待て! 何処に行くつもりだ?」

「現場ですけど何か?」

「必要ない。あの少女は敵だ。あの様子だと勝手に自滅する。それに封印したとしても消耗してるだろうからそこを捕らえればいい」

 

 うん。その選択肢は組織として最善のモノだろうな。

 けど理解と納得は別物ということで。

 

「ユーノ」

「準備完了だよ」

「よし。みんな、行くか」

「「「うん!」」」

 

 俺は組織の人間じゃない。

 

「待て! 聞こえなかったのか? その必要は無い!」

「命令はしない。そういう契約内容」

「っ! 艦長!」

「…いいわ、行きなさい。そういう契約だったものね」

「母さん!?」

「ありがとうございますリンディさん。顔見知りの人間を見捨てるとどうにも寝覚めが悪くってね」

「フフッ、だと思ったわ」

 微笑んでるリンディさんの理解と寛容の良さに感謝。俺達がこの組織に身柄を完全に預けていたらこうは行かなかっただろう。艦長の権限を使って相手を見捨てることを選択させる事だって十分にある。

 

「んじゃユーノ、よろしく」

「転移開始!」

 

 

 

 

 

 転移が完了した俺達は海上の遥か上空に転移した。

 途端、重力に引かれ自由落下を始める。他の面々は慣れたものですぐにデバイスを起動、バリアジャケットを纏う。そのどちらも無い手持ち無沙汰な俺はとりあえず遊んでみる。

 

「アイ! キャン! フラァァァァイ!!」

 

 人生で一度は言ってみたい台詞の1つである。ついでに周りのみんなの視線が生暖かかった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『フェイト』

 

 

 この封印はさすがに無謀すぎたと自分でも思っている。だけど母さんの期待に応えたいという想いとあの子達より先にという想いが『焦り』を生み、『慎重』という選択肢を除外させた。

 9個のジュエルシードの強制発動。それは明らかに自分の限界近くの魔力を以って成し得た。けど、そこから起こった現象は想像以上の規模のものだった。

 そんな中を避けながら封印を施すのはもはや至難を通り越して不可能の域まで達してる。

 だけどここまでやってしまったからにはあの子達も必ずこの魔力を感知して来る。だからこちらが先にいただくしかない。ほとんど魔力は残ってないけれどやるしかなかった。

 

「無理だよフェイト! 一旦戻ろう!」

「それは…できな……い!?」

 

 アルフの言葉に気をとられた一瞬。その一瞬で私の生死は左右された。

 一条の雷が私の体を貫く。雷に対してある程度の耐性がある私でもジュエルシードの魔力を以って生まれた雷には耐え切れなかった。

 

「フェイト!? くっ!?」

 

 動きが一気に緩慢になり、それを見計らったかのように幾条もの雷が再び私を射抜こうとする。迎撃しようにも魔力はほとんど残っていない。アルフは間に合いそうに無い。

 明確に迫り来る『死』への一手。その一瞬で湧き上がったのは諦め。スローモーションのように迫ってくる雷を見ながら思う。

 

(母さんは私が居なくなってら悲しんでくれるのかな?)

(期待に応えられなくてごめんなさい)

(アルフ、ごめんね)

 

 そして色々とひどい事をしてしまったあの子達に対して。

 

(謝れなくてごめんなさい)

 

 それを最後に間もなく訪れる『死』を受け入れようとする。

 

 

 上空から降り注いだ幾条かの光の弾丸に助けられるまでは。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

『鈴』

 

 

 下降に見えてきた天変地異の如き危険地帯。そしてフェイトとアルフの姿。雷がフェイトを討とうとしてたのを【射撃】で撃ち落とす。討たれると思って身構えていたフェイトだったが、俺の魔法に気付いてこちらを振り向く。

 

「大丈夫かフェイト?」

「あなたは…鈴? どうして此処に?」

「知り合いを見捨てるのは忍びないからな。とりあえずこの状況を何とかするぞ」

「どうするのよ!?」

「すずか! ユーノ! バインドでこの竜巻を可能な限り拘束しておいてくれ。できるか!?」

「やってみる!」

「まかせて!」

「俺となのはとアリサはジュエルシードを無理矢理黙らせるぞ! 」

「わかったわ!」

「がんばるよ!」

「ちょ、ちょっと待って!?」

「どうした? 危ないからアルフと一緒に下がってろ、フェイト」

「そうじゃなくて、何で私を助けたの? 私たちは敵同士だよ」

「ラムネを飲み交わした仲じゃないか。そんな知り合いを見捨てるのは心苦しかったんだよ。単なる自己満足だよ。ジュエルシードの取り分とかは後でな」

 

 俺はさっさと打ち切って、この惨状をどうにかするべく行動を開始する。

 

「クロス、チェーンバインドを!」

《承知》

「チェーンバインド!」

 

 早速、すずかとユーノはバインドでこの荒れ狂う竜巻を拘束し始める。ユーノの結界魔導師としての能力の高さは知っているが、正直すずかの能力はそれ以上だ。潜在能力が高いためか、バインドの本数や強度はユーノ以上の物を展開している。

 ユーノもそんな素養の高い3人娘に触発されたのか魔法の鍛錬を行っているけど、如何せん才能の違いが出てきている。

 こりゃエイミィさんの言うとおり、本当にエースになれる素養があるのかもしれないな。

 

 そして視線を移した先ではなのはとアリサが魔力のチャージを行っている。なのはのデバイスには円環状の陣が取り巻き、アリサのデバイスは刃が薄く輝いていたりと着々と準備できているのが伺える。この様子ならあっちは大丈夫だろう。

 

「さてと、久しぶりに大技いきますか」

 

 右拳を握りこんで真っ直ぐ海面に向ける。銃身を支える土台のように左手で右腕を掴み支える。術式を展開した途端に、構えた拳の先に小さな六角形の魔法陣が展開される。

 

 俺の…先生の魔法には基本、詠唱もチャージも必要としない。起動する際のトリガーキーも本来なら口にする必要は無い。イメージや術式はあるが、それらの構築はほぼ一瞬で済むのでタイムラグは有って無いようなものだ。それだけでも高性能なのに、さらには魔力の燃費はミッド式やベルカ式と比べて超優秀ときている。

 ただ俺のこの体は生前の体とはちょっと違うので例外も存在する。これから放つのは俺の保有する攻撃魔法の中でもチャージを必要とする例外の中の1つ。

 超出力の砲撃魔法【波動砲】

 

「よし、チャージ完了。そっちはどうだ?」

「うん、OKだよ!」

「いつでもいいわよ!」

 

 さて、9つのジュエルシード。さすがにこれだけの魔力を叩きこんだら大人しくなるだろう。合図は必要なく、まるで互いの心が通じあってるかのように俺達は同時に溜め込んだ魔力を叩きつける。

 

「ディバィンバスタアァァ!!」

 

「スラァァッシュッ!!」

 

「ヲヤスミ、ケダモノ……【波動砲】!!」

 

 なのはと俺の砲撃が、アリサの斬撃が海面に叩きつけられる。

 爆音が響き、ほぼ同時に海面が盛り上がり爆ぜる。爆ぜた海面から打ち上げられた海水が雨のように降り注ぎ、この場の全員の体を濡らす。

 やがて海水の雨が治まるとあれだけ荒れ狂っていた気象は無く、穏やかに波打つ海面が見て取れた。そして俺達の(正確にはなのはとアリサの)魔法によって無理矢理封印処理の施されたジュエルシードが9つ。

 これだけの数のジュエルシードならこのぐらい叩き込んでも次元断層はそうそう起こらないだろうと踏んでたけど、よく考えたら相互干渉を起こしてもおかしくなかったんだよな?。

 ま、まぁ運が良かったと割り切っておこう。

 

「ふぅ……あ、やば…」

 

 安心しきってた俺に突如として襲ってきた眩暈と眠気。それによって一瞬体が崩れ落ちてしまう。俺の体の欠点が浮き出てきやがった。

 

 俺のこの体が抱える欠点。それはこの人造体の維持に魔力を必要とすること。

 俺の体は先生が昔造ったと言う『限りなく人間に近い人造体』の試作品。だが魔力を必要とする時点で『人間』には程遠い仕上がりになってしまっているから、一応は失敗作に分類される。

 先生が回収した俺の魂の欠片をこの体に移し変えた事で俺は新たに蘇ったが、体の維持に必要な魔力が摂取できなかった場合、俺はまた死を迎える事となる。

 そんな俺の体が魔力の維持を優先した場合、魔力回復のために強制的に体を休めようとする。それがこの眩暈と眠気の原因である『強制スリープモード』

 特に今回の【波動砲】は、久しぶりの大技で調子に乗って魔力を乗せ過ぎたからな。次回からはなるたけ自重するようにしよう。

 

 さてどうしようか?

 下手に察知されてあまりみんなに心配をかけたくないし……かと言ってこのまま眠りに落ちて海中に沈んで『貴様には水底が似合いだ』の水没少年にはなりたくないし。それにフェイトとも話をしなくちゃならない。

 眠気を堪えながらそうこう考えていたら誰かによって横から体を支えられた。閉じそうになる目蓋を我慢して振り向くとアリサの顔が写った。

 

「アリサ?」

「あたしが抱きかかえておくから寝てていいわよ」

「…何で?」

「蓮さんが教えてくれたのよ、あんたのその欠点。大丈夫、知ってるのはあたしだけだから」

 

 先生が? 何でアリサだけに…? 

 

「たまにはあたし達の事ばかりじゃなくて自分の体も省みなさいよ」

「アリサ…」

「ほら、早く休みなさい。他のみんなにはあたしがうまく誤魔化しておくから。フェイトとの事もあたし達が何とかしておくわ」

「…ああ、ありがとう。頼む…わ」

 

 正直もう限界だったのでアリサの好意に素直に甘えておく。そう決めた途端、一気に意識が落ちる。アリサから香る女の子特有の優しい匂いと潮の香りが妙に心地よかった。

 

「お休み、鈴……ああ、すずか? うん、大丈夫よ。こいつ夕べ夜更かしして寝不足だったみたい」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「……」

「お疲れさま、なのはちゃん」

「……」

「なのはちゃん?」

「……」

「? アリサちゃんがどうかした?」

「…ふぇ? え、すずかちゃん?」

「どうしたの? 怖い顔して」

「怖い顔? 私、そんな顔してた?」

「うん。こう……睨むような? アリサちゃんとまたケンカでもした?」

「してない! してないよ!」

「それならいいけど。それにしても……」

「?」

「アリサちゃんと鈴君の仲の良さ…ちょっと妬けちゃうね?」

「……違うよ」

「はい?」

「鈴君と一番仲がいいのは……私なの……あそこは私のモノなの…」

「なのはちゃん?」

「……」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「さてと、向こうはとりあえず置いといてそろそろ話をしようよ」

「……」

「そんなに警戒しないでよ。ジュエルシードをどうするか話し合いたいだけだから。それに僕もみんなと一緒で君達とはできれば戦いたくないかな」

「…わかった」

「フェイト!?」

「アルフ、わかって。向こうは大人数。比べてこっちは逃げきれるほどの魔力も残ってない。だったら戦うより話しあいに応じた方がまだいい」

「…わかったよ、フェイトがそう言うなら」

「ありがとう、アルフ」

「理解してくれてありがとう」

 

 





※ちょっと設定

鈴の魔力保有量は少ない。しかし魔法の燃費が良いせいで普段は気にならないが、大技、連続魔法行使などは弱点が顕著に表れる。


【波動砲】

長射程・超高威力の砲撃魔法。しかし魔力のチャージが必要、消費魔力も大。ここぞの切り札。
次元戦闘機? 鏃? なんのことです?(棒)


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